魔剣物語異聞録~フラグメンツ・オブ・ラウム~   作:朝陽祭

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(スレを見て)
はぁん、これまた面白いネタが出てきた。ならば書くしかないだろうという勢いで書きました。
一部、大元の非公式二次創作からネタを引っ張ってます。


『咎人』である少女のお話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『赤羽根』という男は商人である。

 

正確に言うとするならば、大いなる黎明(シェオール)の財務卿から巡り巡った、楽園の東(イーストエデン)からの嗜好品を秘密裏に輸出することも兼ねた、『商人』として潜入している密偵である。

 

もちろん、名前もこの楽園の東(イーストエデン)で暮らす為の偽名だ。

 

時には、黄金の夢に浸る人々と同じように笑いあい。時には、他の国からの密航者をブローカーから預かり、仕事の斡旋をし。

 

外の地獄(せかい)と中の幻想(セカイ)の温度差に心をすり減らしながらも、それをおくびにも出さずに『赤羽根』は命をかけて任務を行っていた。

 

なぜ、彼がそこまで任務を熱心に行っていたのかは、定かではない。

 

だが、それでも彼は笑顔の『仮面』を被りながら、この楽園の東(イーストエデン)で商人として暮らしていた。

 

 

 

だが、そんな彼にも転機は否応なしに訪れる。

 

一つは、パイプとして確保していたブローカーの一人が突如として『消えた』こと。

 

別口からの情報で、何やら大いなる黎明(シェオール)で動きがあったという話を確認しており、それに『巻き込まれた』のだろう、と推測した。

 

 

 

問題はここからだ。

 

 

 

よりにもよってそのブローカーが、もし自らの身に何かあったのならば『赤羽根』が仕事を引き継がざるをえないよう、置き土産をしていたということだ。

 

確かに、『赤羽根』が楽園の東(イーストエデン)大いなる黎明(シェオール)で築き上げた人脈を駆使すれば、ブローカーの仕事を肩代わりすることはできる。

 

しかし、それは危険度も大きい。

 

『赤羽根』が密偵だということを知るのは、本国側でもほんの一握りしか居ない。大多数から見れば、彼もまた『人類の裏切り者』なのだ。

 

ブローカーの仕事を引き継ぐと言うことは、楽園の東(イーストエデン)大いなる黎明(シェオール)を行き来する必要がある、ということだ。

 

捕らえられ牢獄に入れられるのならば、まだ助かる目はある。だが、密航者から度々話を聞く『密出国者狩り』と遭遇した場合は、恐らく命はないだろう。

 

それでも、それでもだ。

 

『赤羽根』は、その仕事を引き継ぐことを選んだ。いつもどおりの『笑顔』を浮かべ、その内心を覆い隠して。

 

 

 

 

「あなたが、『赤羽根』さんですか?実は、お友達からちょっとお話を聞いたんですけど……」

 

 

 

――そして、もう一つの転機。

 

『赤羽根』が構えている店に、その『少女』が現れたあの日。

 

 

 

 

「……君は?」

 

「あ、そうですね。『咎人(ネフィリム)』とか『斬月』とか言ういかつい名前もあるんですが、可愛らしくないので――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――春香、と名乗っています。よろしくお願いしますね、『仕立屋(プロデューサー)』さん?」

 

 

 

 

 

 

それが、どこかで歯車が狂ったきっかけだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ!あのガキどこへ隠れたっ!?」

 

「まぁまぁいいじゃねぇかよ。楽しみは増える方がいいじゃねぇか?」

 

 

 

――『密出国者狩り』の荒々しい声が、森に響く。そんな怒号に怯えながら、『少女』は茂みの奥でガタガタと震えていた。

 

何故、どうして。『少女』が国を逃げ出そうかと思ったのは、ここでは深く語らない。

 

それは、今のこの地獄(せかい)では例え『赤薔薇』の庇護下であろうと、小さくともありふれた出来事なのだから。

 

そんな境遇の子達が集まり、せっせとお金を稼いで、国に居るブローカーとの連絡を取り。後はさぁ脱出するだけだとなったその日。

 

『別件』によりしばらく沈静化していた『密出国者狩り』が再び活発になったのと重なったのは、果たして不運だったのだろうか。

 

こうして、散り散りになった子供達は一人、また一人と捕まっていき。残すのは、『少女』のみとなったのだった。

 

 

 

「おっ、いたいたみーつけたっ!」

 

「ひぃっ!?」

 

「おいおい、何ビビってんだよ。こういうのも承知の上で、お前は逃げ出すことを決めたんだろ?あの裏切り者達の国へよ!」

 

 

 

『密出国者狩り』から身を隠しつつ逃げようとした『少女』だったが、警戒していた箇所とは別の箇所から現れた『密出国者狩り』に見つかってしまい、たちまち囲まれてしまう。

 

そのギラギラとした目つきに『少女』は腰を抜かし震えるしかなかったが、それすらも『密出国者狩り』達には娯楽にしかならないようだった。

 

 

 

「さーて、他の奴はいい値になりそうだったから捕まえるだけだったが、もう我慢の限界だな。」

 

「お、じゃあこいつはぶっ壊しちまってもいいな!」

 

「恨むなら馬鹿な決断をした自分を恨めよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁ、こういうのを見るとなんだかやる気が失せるなぁ。まぁ、お仕事だし仕方ないか。」

 

「……あん?がっ!?」

 

 

 

『密出国者狩り』達が、下衆な笑い声をあげて算段をつけようとしていたその時だった。

 

突如として頭上から急降下してきた『影』が『密出国者狩り』の一人に踵落としを浴びせ、地面へと叩きつける。

 

一瞬反応が遅れた『密出国者狩り』達だったが、とっさにその場から飛び退くと、武器を構えだした。

 

 

 

そして、腰を抜かして怯えていた『少女』はというと。自らを守るようにして『密出国者狩り』に立ちふさがる、その白い『影』を唖然として見つめていた。

 

月光で照らされ白く輝く鎧に、右肩を覆う橙色の肩鎧と、肩鎧と同じ輝きを放つ橙色の仮面。

 

赤く輝く弓に刃を取り付けたかのような武器を構えるその『戦士』は、『少女』へ軽く視線を向けるとなんでもないかのように語りかけた。

 

 

 

「あ、ちょっとだけ待っててね。すぐ終わらせてお友達に会わせてあげるから。」

 

「な、何を言って――」

 

 

『戦士』の言葉に『密出国者狩り』が戸惑いをみせ、それでも――邪龍との闘いで生き残った、その実力と連携によって襲いかかろうとする。

 

英雄とまではいかないまでも、『密出国者狩り』もまた熟練の戦士だ。そんな彼らが連携を取って戦うのであれば、並大抵の相手では叶うはずもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう、『並大抵』の相手では。

 

 

至近距離から放たれる呪装弾(ガンド)を軽々と避け、大の大人が吹き飛ばされるほどの蹴りを、拳を『戦士』は叩き込む。

 

その弓は矢を構えることもなく、備えられた刃はせいぜい『密出国者狩り』達の斬撃を受け流す程度にしか使わず。

 

文字通りに遊ばれている状態で、『密出国者狩り』達は一人、また一人と地面に沈められていった。

 

 

そして、『少女』が唖然としている間にその場に居た『密出国者狩り』達を叩き潰した『戦士』は。

 

 

 

「――さ、大丈夫?お友達もちゃんと助けているから、心配しないでね?」

 

 

 

優しく語りかけながら、『少女』へと手を差し伸べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、まさか全員連れてくるとは驚いたよ。今までの経験から考えて、『密出国者狩り』に遭遇して無事に来れるのはせいぜい一人か二人かと思ってたんだけどな。」

 

「心配いりませんよ!私強いですから!」

 

「どうやら、そうみたいだな。あの子達も嘘を言ってる様子はなかったし。」

 

「あー、信じてないかったんですね『仕立屋(プロデューサー)』さんは!?もう、怒っちゃいますよ私!?」

 

「それは悪いと思ってるよ。だけど、いくら腕が立つからって言っても、実績も持たないし見た目がか弱い女の子なんだ。信じきれるはずもないだろう?」

 

「やだ、かわいいだなんて……ひょっとして、ナンパしてます?」

 

「してないしてない。」

 

 

――大いなる黎明(シェオール)から離れ、楽園の東(イーストエデン)へと向かう馬車の中。

 

疲れて眠る子供達を荷台に載せ、手綱を握りながら『赤羽根』は隣に座る春香と他愛もない会話を行っていた。

 

 

 

(……冗談じゃない、なんだってこんな奴が楽園の東(イーストエデン)に居るんだ。今までそんな情報はなかったんだぞ?)

 

 

 

そんな言葉とは裏腹に『赤羽根』は思考を回転させ、なんでもいいから彼女の身元に繋がる情報を引き出そうとしていた。

 

ブローカーの仕事と並行して『赤羽根』は春香の調査を行ったが、彼女は『ある日突然』、楽園の東(イーストエデン)に現れたとしかいいようがなかったのだ。

 

密航者も多い楽園の東(イーストエデン)では、新たな住人が増えることなど珍しくはない。だからこそ、楽園の東(イーストエデン)の住人は快く彼女を迎え入れていた。

 

それだけなら『赤羽根』も自分が把握できていないルートがあるのだ、と思うことができた。だが、今回の仕事の成果がそれを覆す。

 

質が悪いとはいえ、『密出国者狩り』達は最前線で戦い続けてきた兵士達だ。

 

それを『自らは無傷で、かつ兵士達を重症に留めておく』程度に一蹴できる存在など、『英雄』級の人材が枯渇している楽園の東(イーストエデン)で噂にならぬはずがない。

 

 

 

(場合によっちゃ、直通(ホットライン)でラスタル軍務卿に報告する必要があるかもな。)

 

 

 

春香には何かある。そう結論づけた『赤羽根』は、本来の上司にどう報告すべきかを思案する。

 

――それが、春香の狙いだとも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それで?だからわざわざ邪龍を使わずに行動したってこと?」

 

「はい。だって、姫様(プリンセス)のお母様はそれで失敗したじゃないですか。同じ轍を踏まないようにするのは当然のことですよ。」

 

 

 

――『赤羽根』と春香が楽園の東(イーストエデン)に子供達を送り届けた数日後、王宮の一室。

 

大魔王たる『復讐の魔女』、ジャンヌが楽園の東(イーストエデン)を訪れた際にあてがわれる部屋で、春香は(プリンセス)と呼ばれる半邪竜の少女をあやしながら、ジャンヌと会話を行っていた。

 

 

 

「『邪竜を自由自在に操れる個体が存在する』という事実と『英雄級の人材がこの国に与している』という事実。あちらの視点に立って危険度が高いとするなら、前者ですよ。後者は可能性は低くとも、ありえないとは言い切れないですし。」

 

「それには納得するとしましょう。で、あなたはそれで何がしたいのかしら?」

 

「ただの心理戦ごっこですよ?どうせ『咎人(ネフィリム)』の存在を明かすなら、もっと大きな契機(タイミング)の方がいいじゃないですか。例えば、人類がなんか大魔王様へ反撃だー!って大一番を迎える時とか!」

 

 

 

あどけない笑顔を浮かべながらそんな話をしていく春香に、ジャンヌは笑みを浮かべながら紅茶へと口をつける。

 

 

 

「まぁいいわ。あなた達『咎人(ネフィリム)』を操るのは、その子だもの。好きにするといいわ。」

 

「はい!早くお仲間が増えるといいなー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そうして、咎人(ネフィリム)の少女と『復讐の魔女』は、来たるべき人類の絶望へと思いを馳せて、笑い合ったのだった。

 

 

 

続く?




キャラ解説

『赤羽根』/『仕立屋』
【素質:【1D10:8】】
【武勇:【1D100:40】】 【魔力:【1D100:39】】 【統率:【1D100:74】】
【政治:【1D100:23】+20】 【財力:【1D100:26】+20】 【天運:【1D100:96】】

AAイメージはアニメアイマスの赤羽根P。
非公式二次創作の方を読んだ結果、現地で色々動く人間が必要だろうしあの面子だと密偵放っててもおかしくないよなぁと思ったので咎人予定のキャラを能力値が平たくなるように調整。
統率が素で高くなったので、人を使うのがうまいんだろうなということで『仕立屋(プロデューサー)』とも呼ばれているということに=イメージが決まった形です


春香/『斬月』
【素質:【1D10:4】】
【武勇:【1D100:98】+20】 【魔力:【1D100:37】】 【統率:【1D100:61】+20】
【政治:【1D100:97】】 【財力:【1D100:25】】 【天運:【1D100:61】】

AAイメージはアイマスの天海春香/仮面ライダー鎧武の仮面ライダー斬月・真
咎人(ネフィリム)の初期ロットというイメージ。なんで美少女かって?油断させる為ですよ油断。
政治が高いのでなんかこう暗躍してる感じにしたかったけどうまく描写できているのかはわからぬ……

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