METAL GEAR ONLINE. 作:ことこと茶碗蒸し。
───2016年 11月 06日
<ノーマッド 機内 / AM9:12>
『愛国者達』のAI、『J.D』『G.W』を3人の科学者が創り上げたコンピューターウィルス『FOX ALIVE』で破壊し尽くし、
任務を遂行し終えて2週間ほど経ったが、つい最近までは不自由──とまで言わなくとも多少無理が効いていても動かせた身体も今では力を入れただけで激痛が全身を蝕む程劇的に衰弱している。
今は亡きナオミが言っていた、二週間前まではスネークの気力と強靭な精神力だけで保たせていた身体が、今では気力等では補えなくなる程身体的な意味でボロボロになっているのは明白だった。加えて生涯の宿敵との決着を着けた反動からなのか、常日頃から張っていた気が一瞬で解けたような感覚が何時まで経ってもスネークから抜ける事は無かった。
最近物忘れも酷い、頭もボーっとする事が日に日に増えていっている やはりこれも自分の身体に潜伏している新型『FOX DIE』の影響か、或いはただ腑抜けているだけなのか。
とは言え、己は既に為すべき事を為した。後は老いさらえばるこの身体が人の寄り付かぬ何処かで朽ち果てるのを待つだけ。
途端にスネークは以前ならこんな時こそ煙草を吸っていたんだろうなと思った。
しかし、生憎と自分は煙草やめたのだ。如何なる時で共に居た"戦友"の存在が感じられないズボンの後ろポケットに、なんだか無性に寂しくなったスネークはより一層ノスタルジックな気分になって天井を眺め続ける。
そこでふと視界の端に居た影、中年に差し掛かったのであろうが如何せん、童顔のせいで見た目よりも若く見える男がこちらに近付くのに気が付き、スネークがあからさまに苦い顔をするーーハル・エメリッヒ博士、通称オタコンだ。
「スネーク、ちょっと良いかい?」
「なんだオタコン、言っておくが煙草なら吸ってないぞ」
ちょっとした皮肉を込めてそう言うと彼は苦笑を浮かべて、煙草なら二日前に君が纏めて全部捨てたじゃないか、と返した。
その返答になんだか少し悔しくなり、微かに鼻を鳴らす。彼からそう言われて思い出すのは二日前、決意に決意を重ねたスネークはダンボールと同じくらい戦場で生を共にしてきた
当然ながらレールガンを使用して煙草を消滅させたのはスネーク本人の意思ではなく、この機内に住むスネークとオタコン以外のもう一人、ここの所尋常ならざる速度で料理の腕が上達し二人の胃袋を掴む他、こうした生活での発言力も尋常ならざるスピードで成長する小さな銀の少女の意思によって煙草と決別させられたのである。
あの時のレールガン特有の甲高い発射音がまるで、有害物質を撒き散らすことなく、一瞬で分子の塵に還る煙草達の悲鳴の様に聴こえ、スネークの中でレールガンが軽いトラウマと化した。
──閑話休題。
嫌な事を思い出したスネークは瞬時にその記憶を封印し、そんなスネークの薄らと青くなった顔を見たオタコンは少しばかり焦った様子で脱線した話を戻すように、違うよ、煙草の話じゃないんだと言う。
「じゃあ、何なんだ」
「あぁ、今本題に入ってもいいんだけど。 その前にスネーク、君最近物忘れが日に日に増えていっているよね?」
思わず溜め息をついてしまう、同時に苦々しく顔を歪め、天井に向けていた視線をチラリと彼に向ける。訊ねた当の本人は先程よりも一層苦笑の表情を濃くしていた。気に入らんヤツめ。しかし物忘れが増えているのは事実であり、幾ら嘆こうが紛れもない現状なのである。
この記憶力の著しい低下に関しては任務中の二週間前、日毎に少しずつ海に沈んでいくシャドー・モセス島に行った際、かつての基地のエレベーターの電源が落ちていた為、電力を基地内部の研究室のコンピューターから供給しないといけない事態になり、しかもコンピューターの再起動用のパスワードも正しく入力しなければまず起動することすら出来ないという、非常に手間の掛かる上に面倒くさい作業から自覚した。つまるところスネークはパスワードを間違って入力したという事である。
その後オタコンがパスワードをメモしていたのを思い出し、事なきを得たが二人の間では一瞬気まずい空気が流れた。
──何故か
数週間前の記憶に傾いていた意識を浮上させ、彼に軽く顔を向けて是と頷く。
「···あぁ」
「聞く所によると物忘れが増えるのは脳の衰えにも関係があるらしいからね、そこで丁度スネークに渡したい物があるんだ」
ちょっと待っていてくれ、と顔に喜色を滲ませながら足早に彼は部屋の奥に行ってしまった。
彼が言う渡したい物、とは何だろうか?今迄の話の流れからすると必然的に物忘れの予防をする為の物が思考に導き出されるが、正直に言うとあまり良い予感はしなかった。 部屋に向かう際の彼の足取りの軽さから、なんとなく不安が過ぎるが、そこは長く付き合っている親友を信用するしかないだろう。
それから2分程経つと、彼が少し大き目の『何か』を抱えて部屋の奥から戻ってきた。
その『何か』を抱えてスネークの前まで持ってきた彼は抱えているソレをテーブルの上に乱雑に、しかし壊さないように丁重に置くと、スネークに振り向いた。
「おいオタコン、なんだソレ」
「分かってる、今説明するよ」
テーブルの上に置かれた『何か』は二本の黒いコンセントが付いている機械的なヘットギアの形をしていた、形状からしても頭に装着する物なのだろうが、これが渡したい物とはどういう事なのだろうか。
「これは『ナーヴギア』、装着して起動すると仮想現実に
「仮想現実...VR訓練の様なものか」
「ざっくり言ってしまえばそんな感じ、まぁこっちはVR訓練の様な軍人が使用する仮想訓練装置では無いけどね」
あくまで
「俺にその『ナーヴギア』を使えと言う事だな?」
「話が早くて助かるよ。そう、君にはこの機械を使って
そういった話なら自分よりも目の前にいる日本のオタク文化が大好きな彼の方が余っ程適任だろうとスネークは思った。
「君が仮想現実の世界に居る間は『ナーヴギア』が君の脳を活性化、常に働かせてくれるから君の物忘れを防止出来る」
「ふむ···」
どうだい?そろそろ退屈していた頃なんだろ?と彼は何気なしに言う。
言われてみればそう悪い話、ではない。
為すべき事を終えて、特にする事も無いまま寝たきりの生活も退屈だった。 ほんの数年前までは世界中の紛争地域を飛び回り、メタルギアの調査や破壊をしたりと多忙だったが、いざやる事が無くなると言い知れぬ充足感を失い、虚無感を感じる事が時にあった。
故にそれならば彼が持ってきた『ナーヴギア』で
数年前なら考えられない事だが、ゲームに触れてみようなんて考えたのもこれが初めだ、と思った。奇妙に感じたが、不快ではなかった。
しかしその前に気になる点が一つあった。
「しかし、その『ナーヴギア』なんて何処から入手したんだ」
「あぁ、実はコレ。 貰い物なんだ」
「なに?」
少し驚く、彼は基本的にこういったものは自分で現地に赴き入手する人間だった。それこそ、
「スネーク、ドレビンを覚えているかい?」
「···あぁ、
「そう、しかしその正体は『愛国者達』の下部組織の一員」
──ドレビン、最後の任務を遂行する際に出会った武器洗浄屋を名乗る妙な男。
正規米軍の兵士が使うID管理された銃のID認証チップを偽造チップに取り替えるなどしてID銃をノンID銃と言う正規兵以外の民兵にも使える様に細工し、その分だけ利益を得る
最後には『愛国者』の下部組織の一員だった彼がAI崩壊後にどうなったのかはメリル達の結婚式以来不明だった。しかしオタコンが彼と先週に再会したらしい、心配は杞憂だったと呆れ混じりの笑顔でその時の様子を語る。
「彼の方は相変わらずだったよ、『愛国者達』のAIが破壊されて大きな紛争は徐々に少なくなっていったけど、彼の戦争経済のスタイルに支障は無いらしい」
「だが『愛国者達』のAIが崩壊したからには武器洗浄屋の存在も意味を成さなくなるんじゃないのか」
「そうだね、だから今は小さな紛争をメインに武器商人として銃を販売して回ってるらしいよ」
全く彼らしい、オタコンは肩を竦めながら話を続ける。
「それで実は彼、二週間前のあの事件が終わった後、何か新しい趣味を求めてたんだ」
「新しい趣味?」
「うん、『G.W』が破壊されたからね。『愛国者達』の組織を抜けた後の彼と再開してその事を聴いたんだ」
あいつが新しい趣味を求めるか、しかしそれも変わり者の彼らしいと言えばそう言える。
「最初は僕も驚いたけど彼も彼なりに新しい趣味を探していたし、恩もあるからね。それならって事で彼に日本のアニメを見せてみたんだ」
「あいつにか?」
「そう、そしたら彼どハマりしちゃってね」
「あいつが···?」
オタコンは嬉しそうな、しかしちょっと複雑そうな笑みを浮かべる。
あまり日本文化とは縁が無さそうなあのドレビンが日本のオタク文化の沼に嵌るとは誰が想像出来ようか、まさかオタコンと
──しかしスネークは気付かない。
「新しい趣味を見つける手助けをしてくれた見返りとしてこの『ナーヴギア』をくれた訳だ」
「なるほどな、経緯は分かった」
「それでスネーク、やってくれるかい?」
「···」
───私達の事は忘れて、自分の為に生きろ。
───そして、新しい余命を探せ。
「──はぁ、分かった」
「!そうかっ、なら早速準備に取り掛かろう!」
まだあまり気乗りはしないが、この朽ちゆくだけの身体に残された余命を
水が飲みたくなったスネークはソファーから重い身体を起こす、鋭い痛みが身体を走るが無視して軽くストレッチをする。ふと、親友が居る方に顔を向けてみる。嬉しそうにナーヴギアを弄るオタコンの姿を見て溜め息をつく。
楽しそうなのはどっちだ。
2016年 11月 06日
<ノーマッド 機内 / AM10:6>
機材やらコンセントやらを接続したりするのに10分程度の時間を掛け、一通りの準備を終えたオタコンは片手に持ったナーヴギアをソファーにかけているスネークに渡す。
「よしスネーク、その『ナーヴギア』を頭に装着してくれ」
「分かった」
言われた通りに『ナーヴギア』を頭に装着する、付けてみた感じは窮屈過ぎる訳でもなく大き過ぎる訳でもない丁度良いフィット感だった。
「装着したね、じゃあそのまま目を閉じて僕が合図したら『リンクスタート』と言うんだ、それでゲームは開始される」
「『リンクスタート』だな?了解だ」
スネークは『ナーヴギア』を付けた状態でソファーに寝転がり目を閉じ、オタコンの合図を待つ。
これから
そんな事を考えている内に、彼から声をかけられる。
「スネーク、僕が3数えるから君は0になったらーーー」
「分かってる、それはさっきも聞いた。 まだそこまでボケてない」
「はは、それはすまない。 じゃあカウントを開始するよ、3─」
─その身体も、その心も、お前のものだ
「2」
─蛇はもういらない。
「1」
─いいものだな。
「0」
「『
続かない