魔剣物語外伝 英雄ではない者の話   作:凡人エルフ

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今回はほぼ会話劇になっています。




 

 魔剣と英雄と多種多様の人によってどうしようもなく翻弄され、千五百年もの戦争の月日ばかりが流れるこの大陸にも娯楽は存在する。

 歌、本、ギャンブル、決闘、などなどと例を上げれば山のように出てくる。

 そういった娯楽の中の物語から通して歴史や英雄を知る、というのも良くある話である。そしてどんな年齢層であれ、物語に触れることは自由であると乱は考えている。ただし、それは自身の興味がある時限定だと、意気揚々と今日見てきたばかりの演劇を語る弟に付き合いながら心底思った。

 

「――という感じで、三代目魔王ブーディカを題材にした演劇はとんでもない悲劇しかありませんでした!」

「眠らずに最後まで見たのに感心するよ……」

 

 重苦しく悲哀に満ちていて、尚且つ誰が正義で誰が悪なのか分からない心底暗くて救いの無い絶滅戦争を題材にした演劇の感想を笑顔で告げる弟に兄は顔を引きつらせる。

 前田は素直で真面目でしっかり者と幼いながらとても良い子と乱にとっても自慢の弟なのだが、如何せん娯楽に触れる機会が少なかった事と幼い英雄と言われ続けて来たせいでか、かつての英雄や魔王に関わる話になると年相応の子供かそれ以上の知りたがりとなる。

 熱中できる趣味があるのは悪い事じゃないと思うのだが、如何せん自分達兄弟は国の諜報員として働いているのでお金があり、幼い弟一人でも大人向けの演劇に入れるぐらいの余裕はある。そのせいでこうして乱にとって興味のない話題に付き合わされるのは正直きつい。

 乱のうんざりした様子を見た前田は不思議そうに尋ねる。

 

「兄さんは興味がありませんか?」

「うーん、恋愛系ならともかくバッドエンド確定で重すぎて胃が乱れちゃう魔王系歴史の話はちょっと……前田は何で平気なの?」

「今となっては昔の話ですし、時代背景を知れたならそこから新しい知識の発展に繋がりますから。それにお話と割り切って見れば、どれもこれも深いものばかりですよ?」

「前田、ボクより年下だよね? それならさ、ふなっしーとかに興味持たない? 時々玉座でふんぞり返ってるアレの謎を解明しようと思わない?」

 

 子供にあるまじき研究者のような視点を持ち出した弟を危惧して、乱は他のものにとたまに城の中で見かける謎の物体を例に挙げる。

 しかし前田は難しい顔を浮かべて首を横に振る。

 

「いえ、魔法で分析をやってるのですが……ただ着ぐるみだけがあるパターンと中身を解読しようにも何かに妨害されて見えないパターンのどっちかにしかならないのです……」

「前田の魔法を妨害できる人って一人しか思い浮かばないんだけど」

「あの方の尊敬を自分の手で崩したくないので、そこは思考停止してます」

「それ、答え言ってるようなものだよ」

 

 そもそも玉座に置いてある時点で、中の人が誰なのかお察しというものである。

 かの人の趣味なのかどうかは知らないが、きっとこれは知らない方がいいものだろうと前田の思考停止を見習って乱も深く考えない事にした。

 それよりも、と前田が乱の好みを反映してか別の話題を取り出した。

 

「ところで兄さん、コイバナが好きだと仰いましたがそれならガトリング斎とディアーチェのお話はどうでしょうか」

「あ、その二人知ってる。千年前にいた十二英傑で同盟国のトップ同士でしょ? え、何、恋人同士だったの!?」

「そうなる前に初代魔王に殺されてますが、奇跡的に残された資料と歴代の学者の研究成果によると平和だった場合、そうなる可能性は大いにあったと言われています。主にディアーチェサイドからの激しいアプローチによって」

「前半部分はいらなかったよ! でも詳しく!!」

 

 どうあがいても絶望な結末を冒頭に告げられたのに凹みながらも、過去の英雄同士の恋は気になるので乱は食いつく。

 しかし直後に告げられたのは甘酸っぱいものではなく、プライバシーも何も無いある意味残酷な現実であった。

 

「ディアーチェ及びにその姉達が知恵を出し合って書いただろうラブレターの山が見つかって、試行錯誤を凄いしていた形跡や、年齢とは不相応の行動を考えていたような肉食系の文章が確認できたんですよ!」

「見なかった事にしてあげようよ、それ!? どう考えてもそのラブレター、未来人が見ていいものじゃないよ!? 歴史的価値あっても話題にしちゃダメじゃないかなぁ!?」

「大丈夫です。本人たちはとっくの昔に死んでますし、赤薔薇王もアルタイルさんも千年前の当事者とはいえどもこのお二人との関係は薄かったと聞いております! それにこういうものほど演劇とか歌とか本にされやすいですし……」

「いたたまれなくなってきたから他の人! 他の人を教えて!!」

「他ですか……。それなら初代魔王の父が残した日記で判明したものがあります」

「あ、その人知ってる。戦争泥沼化させた原因作っちゃった大英雄の片割れのアーサー・ペンドラゴンだよね? え、何。禁断の恋でもあったの……?」

「いえ、家族仲は極めて全員良好。寧ろモードレッドに好意を向けているハザマという人があまりにヘタレだと何度も日記に書いていました。そして魔王化する前のモードレッドとハザマは資料が共に足りない為、初代魔王関係の物語の格好の餌食になってます」

「さっきも思ったけど現代人、無節操すぎるよ!? 餌食ってどんな感じなの!?」

「凄いですよー、白馬の王子様パターン、ロリコンパターン、逆プロポーズパターン、と種類が実に豊富。演劇マニアの冒険者から聞いたところ、あの二人に関しては脚本の人の性格がもっとも出る人物だと仰ってました」

「……性格が出るって例えば?」

「歴史に忠実になってるものもあれば、片や切なさいっぱい悲恋物語になってたり、片やハザマがアーサー・ペンドラゴンの策でモードレッドの婿にされてたり、と多いですよ。学者の方々からは賛否両論ですけど、ファンの方々からは色んな視点があって楽しいと……」

「とりあえず三つ目のはあまりにハザマ情けなくない? もうちょっとこう男っぽくしてあげよう?」

「偶々同じ演劇を見た学者さんに聞いたところハザマのヘタレっぷりのところと手段選ばないアーサーのところは史実に近かったそうです」

「それで史実に近いって鬼なの、アーサー。……ちなみに史実ではどうだったの?」

「ハザマ、初代魔王の復讐騎モードレッドに殺されたのが最有力説です」

「分かってた! 初代魔王関係の時点でロマンなんて無いの分かってた!! 他に救いのあるカップルは無いの!?」

「あ、なら救いというか今でも続いているお方関係が一つあります。カリオストロとアインズ・ウール・ゴウンについて乱兄さんは知っていますか?」

「どっちも十二英傑でほぼ不老不死である凄い人達というのは知ってる。え、でもアインズって骸骨じゃなかったっけ……?」

「あぁ、この二人は子孫と先祖……要するにおじいちゃんと孫の関係なんです。孫側であるカリオストロにはエドワード・エルリックというお相手がきちんといました。それを踏まえた上で、アインズ・ウール・ゴウンの名前を出したんです」

「え、何。わしの孫が欲しかったらわしの屍を乗り越えていけ、ってやったの?」

「違います。寧ろ逆で、お孫さんに恋人が出来た事にすっごいウキウキだったそうですよ。その記録がバッチリ残っているんです、それもとっても具体的に」

「あぁ、やっとまともな恋愛話がきたー! 具体的に残すなんてその二人ってそんなにラブラブだったの?」

「アインズ・ウール・ゴウンがエドワードとカリオストロの様子をこっそり覗き見していた記録なんです」

「…………は?」

「今の乱兄さんのように孫のコイバナにウキウキになったアインズは頻繁にデバガメしてたそうで発見された複数の日誌の大半は二人の恋模様でビッシリだったようですよ。カリオストロ側も見られるのは嫌がってましたけど完全に拒絶したわけではないのも当時の弟子が残した記録で裏づけされてます。流石に細かい部分は覚えてませんけど、この辺の概要は調べれば結構出てきやすいですよ」

「おじいちゃん、孫のプライベート優先してあげようよ。孫ももっと頑張って拒否してよかったと思うよ」

「ちなみにこの日誌、発見当時は凄く厳重封印されてたもので当時の赤薔薇王と学者達は魔剣に纏わる記録があるんじゃないかと封印解除に二十年以上の長い月日をかけたそうです。その努力は無事に実ったのですが、肝心の中身が孫カップル観察日記と知った時の王のなんともいえない顔は表現できない、と当時の学者さんの記録にありました」

「おじいちゃん、もっとちゃんと封印するものあったよねー!?」

「でも恋愛の記録がある事と当時の学者さんはエドワード・エルリックの子孫だそうなので、先に出した二組に比べれば救いがありますよ!」

「赤薔薇王のあまりの不憫さにロマンスどっか行っちゃったよ!!」

 

 ロマンスの欠片も見当たらない、どちらかというと歴史家や脚本家の視点から見た裏話に乱のツッコミは止まらなかった。

 前田は歴史そのものを知るのが楽しい為か生き生きと語ってくれてるが、乱からすれば赤裸々なプライベート話の嵐にかつての英雄達に同情を覚えるばかりであった。昔の英雄のロマンスを望んでいたはずなのに蓋を開けてみれば、斜め下の話ばっかりが未来人に知れ渡ってるってどんな拷問なんだろう。

 とりあえず人類の為にと魔剣研究に頑張ってたのに空振りさせられた不運な赤薔薇王には今度何か送ろうと硬く心に決めた乱であった。

 




かつての英雄を題材にした物語について
割と後世の人達によって好き勝手にフィクションの題材にされているのが多い。
もちろん歴史方面できちんと解析する学者もそれなりにいるのだが、如何せん中途半端な資料のが多い事と物語のような劇的な人生を送った英雄が多い為、ネタにされやすい。
また今回前田が語ったように本人達の資料が幾つか残っている為、そこから分析した結果を形にしているものもそれなりにある。

前田藤四郎
英雄や魔王などの歴史を調べたり、それを題材にした物語を見るのが趣味。
幼い年頃の割に難解なストーリーを把握できているのは元々の才能と好奇心からによるもの。
本人はあくまで昔の英雄の話を知れたらいいタイプなので、エピソードに関しては冷静に受け入れてる。

乱藤四郎
歴史よりコイバナの方が好きであるが、分からないわけではないので弟に付き合ってあげてる。
あくまで一般常識レベルでしか知らない為、前田から聞かされるマニアック話にはツッコミを入れるばかりであった。
ネタにされてる過去の英雄達に同情を覚える中、ひとまず赤薔薇王が不憫過ぎた為に何か送りたいと考えてる。

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