ノーゲーム・ノーライフ ゲーマー兄妹と獣耳少女が神経衰弱をするようです 作:星ほたる
【一つ】この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる
【二つ】争いは全てゲームによる勝敗で解決するものとする
あらゆるゲームの頂点に君臨し続け、都市伝説にまでなった天才的ゲーマー『
その正体である兄妹、
【
知性ありしと自称する【
——ゲームによる世界征服
有り体に言えば、暇だった。
「……ステフ、クッキーの味付け変えたのか?」
時間があれば、先代国王の娘、つまり元王女であるステファニー・ドーラにお菓子を作らせ、自分たちは城内の書庫から持ち出した書物を読みふける。
城の一室で、いつものようにお茶とお菓子を食べながら、空は尋ねた。
「ええ。東部連合から良質のお塩を頂けましたので、いつも使っていたものから変えてみましたの。あとは少々シナモンを。ほとんど今までと同じように作りましたのに、よく気付きましたわね」
連邦制を採用してから、種族間の交流は増え、種族ごとに国家が分かれていた頃とは比べ物にならないほどに物流は活発になっていた。
寝ころびながら本を読む白を横目に、ステフは続ける。
「それにしても、こんなことをしていて大丈夫なんですの? 確かにソラ達はエルキアの危機を救い、それだけではなく他の種族を飲み込んだ一大国家へと成長させてくださいましたわ。それでも今は他国家に対して
三カ国を併合し、巨大な連邦国家を作り上げたとはいえ、宣戦布告をしている以上、当然世界にはまだ敵対する国家は残っている。
特に世界最大の国家『エルヴン・ガルド』は、序列七位で魔法の扱いに長けている
盟約に縛られ、魔法による直接的な攻撃はできなくなったとはいえ、相手が魔法を使えるというだけで序列
【盟約】その八。ゲーム中の不正発覚は敗北とみなす。
言い換えるなら、発覚さえしなければ不正を行ってもよい。
魔法を扱うどころか、発現を認識することすらできない人類には、魔法によるイカサマを証明することは不可能だ。
圧倒的不利な相手を敵にしながら、それでも人類代表、空は笑う。
「ステフ、他国の貴族どもの目に俺たちの国がどう映っていると思う?」
「? エルキア連邦が、ですの?」
ステフの問いには、
空は、その問いを無言で肯定し、続きを促す。
「エルキアは
エルキア連邦は危険。エルヴン・ガルドは確かにそう考えているはずだ。
故にステフの考えは全くもって正しい。
しかし、空はその答えだけではまだ満足しない。
「じゃあステフ。『連邦制』についてはどう思う?」
「そうですわね……画期的、ですわ。今までこの世界にはなかった制度ですもの。
「だからステフは俺たちに勝てないんだよ」
「ッ———どういうことですの?」
ステフの回答に間髪入れず返された空の言葉。思わずキレそうになるステフだったが、不本意なことに空に不必要に
何とか言葉を飲み込み、空に説明を要求する。
「相手とゲームで対戦するときに重要なことは二つある。一つは最善手を模索すること。これは白がやっているな? もう一つは、相手の思考を読み切り上回ることだ」
つまり、空が言おうとしていることは端的に言えばこうなる。
『相手の立場になって考えろ』
……どうということはない、駆け引きにおいては当たり前のことだ。
ステフの回答は確かに事実だろう。ただし、エルキアから見た場合の意見としては正しいだけ。
エルヴン・ガルドがそう考えているとは、空は考えない。
「まず、連邦制はこの世界に存在しなかった制度だ。普通に考えれば複数の国家が一つになろうとしても、主導権の奪い合いでギクシャクするだけだよなあ」
「ええ、実際そうなっていますわよね?」
エルキア連邦に加わっているのは、東部連合、オーシェンド、アヴァント・ヘイムの三国。
その三国が三国とも曲者が統治している国家である。
虎視眈々とエルキアの様子を伺い、隙あらばゲームで打ち負かそうとしてくる。
……空と白はその全てを返り討ちにしているわけだが。
ともかく、エルキア連邦が一枚岩ではないことは事実である。
「ステフ…………エルヴン・ガルドは、どうやって、それを知る……?」
ずっと口を挟まないでいた白が答えの一部を口にした。
連邦制は空と白が打ち立てた、この世界には存在しなかった制度。当然文献などがあるわけもなく、情報を集めるには現地調査しかない。
「いいかステフ。魔法は万能じゃない。魔法による情報収集は、隠匿や偽装を得意とする
序列ワースト2である
「となると、一番安全かつ確実にこちらの情報を得る方法は、魔法なしでの町への潜入と聞き込みをすることだな」
魔法を使えば
「……その場合、種族間の仲の良さ、目立つ……」
白はエルキアの町中での異種族交流の様子を指摘する。
連邦制が始まってまだそれほど期間が経っていないにも関わらず、人々は、特に子供たちは相手種族のことを受け入れ始めていた。
長命の種族とは違って、短い期間で世代交代が行われる
「だから、さっきの問いの、
そうなると、エルキア連邦は様々な脅威を内包した一大国家となってくる。特に、エルヴン・ガルドが一度も勝てていない東部連合や上位種族の都市アヴァント・ヘイムは、簡単に手を出せるような存在ではない。
「今頃エルヴン・ガルドの貴族どもは大慌てで会議に明け暮れているころだろうな」
「会議、ですの?」
「ああ———いかにエルキアを攻略するか、のな」
それはつまり。
エルキア滅亡の危機を再び迎えるということでもある。
「———駄目じゃないですのっ‼」
空の言葉を理解したステフが絶叫する。
そんなステフを見ながら、現状を一番理解している空は余裕の表情を絶やさない。
「大丈夫だって。
だから今はサボっても問題ない。言外に空がそう言っているようにステフには感じられたようだった。
「あなたたちがそう言うのなら、実際そうなのかもしれませんけれど、それでも国王としての通常の業務まで
「おっ、珍しく冴えてるなステフ。でもそういうことは適材適所だ。うまく効率良くできるやつに任せておけばいいんだよ」
現在のエルキアの内政をもっぱら
その空の物言いを聞いてステフが何も思わないわけがない。溜まっていたストレスを一気に吐き出すように空に言った。
「国王が自ら舵を取ったほうが国民へのアピールに繋がるだとかそんな建前はもういいですわ本音をいいます面倒事を全てこちらへ投げられるのはもう嫌ですわうんざりですわたまには自分で働いてくださいまし!」
エルキア連邦設立から数か月。
とは言っても現在の規模に膨らんだのはつい先日のことだ。
当然すぐに滞りなく国家間連携が取れるわけもなく、行政面の調整は全てステフが行っていた。
連邦制などそもそも存在せず、貴族の派閥争いが横行していたこの世界である。行政面の調整といっても、国家間で取り決めを交わすだけでは、全くもって不十分だ。様々な方面への政策を、立法から貴族の派閥切り崩しまで、ステフは一手に引き受けさせられていた。
「いつもいつも
さらりと真実を突きながらも、すでに同じような内容の繰り返しになっているステフの愚痴は止まる気配を見せない。
相手にするのが煩わしくなってきていたところで、部屋の扉が強く開かれた。
「空、白、しょーぶしやがれ、です!」