ノーゲーム・ノーライフ ゲーマー兄妹と獣耳少女が神経衰弱をするようです 作:星ほたる
ステフが机の上に五十三枚のカードをバラバラに並べ、ゲームがスタートした。
ステフによるコイントスで、先攻は空たちに決まる。
「まあ、最初は適当に、とっ」
白を膝の上に座らせて、空は宣言通りに適当に二枚のカードを
空白 『♡8』→『♣3』
何の法則を見出すことのできない組み合わせ。普通の神経衰弱通りの始まりだった。
「まあ、揃うわけがねえわな。いづなの番だぜ?」
カードを伏せて手番を渡す。
いづなは迷うことなく二枚のすぐに捲った。
いづな『♣9』→『♡8』
「え……?」
いづなの捲ったカードを見て、ステフが声を漏らす。
いづなは一枚目を通常通りに未公開札から選び、二枚目は空が捲ったカード、つまり揃うことがないと分かっているカードを選んだ。
そんないづなの行動を、空と白は全く気に留めず、むしろステフの反応に驚きの色を示した。
「何を驚いているんだ? 俺はともかく白に挑むんだ。このくらい当たり前だろ」
「ステフ……神経衰弱の、基本……」
いづなが二枚目を捲るときに、未公開札を選んだ場合、カードが揃う、つまり9のカードが出る確率は50分の3である。それに対して、空と白に有利なカードが出る確率は、3か8のカードが出れば良いため25分の3である。
ジョーカーを捲る確率を除き、4分の1の確率で何事もなく手番を譲れるとはいえ、自分よりも相手に有利に働く確率が2倍もある行動は、正しいとは言えない。
いづなはその考えの上で、二枚目をあえて公開済みのカードから選んだのである。
ただし、その程度の小細工——―いや、小細工ですらない。
その程度の立ち回りなど、最強のゲーマーである『
だから、空たちは当然だと言って気に
二ターン目先手、空と白の手番。
当然のように一枚だけ新札を公開し、手番を譲る。
空白 『♠7』→『♣9』
後手いづなも続いてカードを捲ると『♢3』。空がすでに公開していた『♣3』と合わせて先制点を獲得する。
「先に点、取った、ですっ」
「たかだか一組合わせただけじゃ、ゲームは決まらねえよ。神経衰弱は最終的にカードが多い方が勝ちだからな!」
「………負け惜しみにしか、聞こえない……」
嬉しそうに話すいづなに、悔しそうな声を上げる空。
和気藹々といった雰囲気すら感じ取れる会話だが、ゲームであれば一切手を抜かない三人である。会話をしている間にも、勝利への道筋をひたすらに模索している。
カードを揃えたため、再びいづなの手番。
一枚目は『♠K』。
「なんじゃあこりゃあぁぁあぁぁあ#&¥ッ‼」
空が突然吠える。
「……にぃ、うるさい……」
「空、静かにしやがれ、です」
そんな非難の声を無視して、空はステフに詰め寄る。
「おいステフ、これはどういうことだ!」
空は、いづなが捲った『♠K』を指して言う。
「どういうことも何も、普通のトランプですわよ?」
確かにエルキア国内の市場でも出回っている、至って普通のトランプである。
その変哲もないたった一枚のトランプのカードに、空は怒りを
さて、ここで問題です。
①この世界にはもともとジョーカー入りのトランプが存在しなかった。
②国王に対し、一定の敬意を示すことは大切だと考えられている。
③『十の盟約』で害意ある権利侵害は不可能になったが、そもそもこの世界では、プライバシーという概念がまだ発達していない。
④ステフの祖父の顔。
以上四点から導き出される答えは一体、何でしょうか?
それでは答え合わせといこう。
「違ぇだろ! この絵柄はどういうことだ!」
トランプのKのカードに描かれるのは国王の絵柄である。
ただし、エルキアには独自の習慣があった。
「勝手に俺の顔をカードにしてんじゃねえっ!」
そう、そこに描かれていた国王は、現国王。
つまり、二〇五代エルキア国王である空の顔が、そこにははっきりと描かれていた。
「どういうことか、説明してもらおうかぁステフくぅん?」
「えっと、空が前に新しいトランプを作らせたではありませんの。ワイルドカード入りのを」
この世界にはもともとジョーカー入りのトランプというものは存在しなかった。
ゲームの種類を豊富にするため、空は新しくジョーカー入りのトランプを作るよう、ステフに指示していた。
「だから、ジョーカー入りのは新しいものしかありませんでしたのよ」
「それと、この絵がどう関係あるんだよ!」
「にぃ、エルキアの王様、今はにぃ……」
「トランプのキングの絵柄には、現国王の肖像画を使う習慣があるんですのよ。だから、新しいトランプにはソラが描かれていますわ」
「このトランプ、
ステフたちの言葉は、空の似顔絵が指名手配犯の如く、国内外に出回っていることを指していた。
それを今の今まで認識していなかった空にとって、自分の大してイケてもいない顔が無制限に拡散されていたという事実は、耐え難い苦痛であった。
「よし、即刻全部回収処分しよう」
「にぃ………それだと、自分の絵……集める、ナルシルトに……なる………」
「
それでも、なお天才ゲーマーの片割れとして、対策を諦めるわけにはいかない。
「クールになれ、クールになるんだ空! 全てを処分出来なくても、流通を抑える方法はあるはずだ——ッ! そうだ白‼ 回収はしないが生産ラインを止めてしまおう! 新たにトランプを作るときは前国王の肖像画を使わせりゃいい!」
「……だが、断る………!」
「ほわいっ⁉」
にべにもなく白に撃沈されてしまう空。そこにステフが追い打ちをかける。
「そんなことをしたら、苦情が殺到しますわよ。トランプを買う目的は人それぞれですけど、結構多くの人が国王を拝顔するために入手してますのよ?」
「………………くぅ……!」
それはすなわち、自分の肖像画が多くの人に凝視されているということであり、社交性皆無のヒキニートであった空のHPをゼロにするには十分すぎる威力であった。
生気の失われた表情をする空を放っておいて、いづながゲームを再開させる。
いづな『♠K』→『♡8』
それを虚ろな目で眺め、『
空白 『♡Q』
そのカードを見て、空の顔に生気が戻る。
「やっぱり白は女神さまだな。相変わらずの
キングが空なら、女王である白は当然クイーンである。Qのカードに描かれていたのは空の妹である白だった。
「しかし、エルキアの絵師さんもなかなか捨てたもんじゃねえな。白を完璧じゃないがきっちり美少女として描けているじゃねえか」
確かに白は美少女である。ただしそれは薄幸の美少女といった儚さを備えた美しさであり、トランプの絵柄ではその美しさを敢えて描いていなかった。
本来の白とは真逆の、気迫に満ちた、凛々しい姿がそこには描かれていた。
「にぃ……こっちのしろの、ほうが、いい……?」
「そーんなことないぞ妹よッ!
空の元気が回復するついでに、空の言葉で白も気力を蓄える。
そんな茶番劇を繰り広げながら、白が二枚目のカードを捲る。
空白 『♡Q』→『♡8』
さらに続けていづなも二枚カードを捲る。
いづな『♣4』→『♠7』
三ターン目後手終了時点での獲得枚数。
いづな二枚
空白 ○枚