Outsider of Wizard 作:joker BISHOP
今日は久しぶりに魔法の実践訓練が出来て、何だか気分が良くなってきた感じがする。
このところ嫌な感じの夢が頻繁に自分を苦しめていたせいで、負の感情が頭を覆い尽くそうとしていたのだ。そんな時に何を考えても良い事は思いつかないだろう・・・・
だが、今日は少し無理してでも特訓をして正解だった・・・・
マックスは公園のベンチに座ってそんなことを思いながら、また次にやる特訓を考えていたところだった。
「皆、来てくれ!」
マックスはすぐさま声に反応し、目線を空から声の方向に移した。
そこで戦闘訓練をしていたジェイリーズとレイチェルも同時に後ろを振り返る。
そこには地下から出てきたジャックの姿があった。
マックスは彼の表情から、ただ事ではないことは容易にわかった。
「ディルが相当興味深い記述を発見した。」
「すぐ行こう。」
マックスは立ち上がり、期待の高まりと共に駆け出した。
ジェイリーズとレイチェルも杖を下げ、マックス達に続いた。
彼らが地下隠れ家の階段を駆け下りて来ると、ディルが待ってましたとばかりにこっちを向いて立っていた。
その自慢気な顔は今まであまり見たことがない。
「どうした?何やら見つけたそうだが。」
マックスが一番に彼の元へ駆け寄った。
「皆、絶対に驚くぞ。ああ、レイチェルにはわからない事だけど。これで謎が一つは解けるはずだ。」
「もったいぶらずに本を見せろ。」
マックスがディルの手から『魔法全史』を取り上げて、開かれたそのページを見た。
「ここだよ。この名前。」
ディルが指で文字を指し示す・・・・
その人名を読んだとき、確かにその驚きは隠しきれなかった。
「レイヴ・カッシュ!!・・・発明家だと・・・」
マックスは一気に心が騒いだ。
まさか呪文のワードを歴史書で見ることになるとは・・・
内容を詳しく読んでいくと・・・・
「イギリス魔法界での謎の事件・・・・19世紀後半、イギリス魔法界の小さな町で、発明家として公式に活動を始めたばかりのレイヴ・カッシュが行方不明となる。以前から少数の人間からは評価されていたものの、彼の活動が目立つことは無かった。故に、長い年月をかけて支持を得た末の彼の消失は不可解な事件となった・・・・」
マックスはゆっくり本を置いて、顔を上げる。
「これを読む限り、間違いなくレイヴ・カッシュという名の人物がいたようだ。そして行方不明になった。」
「でも、そんな発明家の名前がなんで呪文に使われている?フィニート・レイヴ・カッシュ・・・どういうことかな?」
ディルが言った。
「残念ながら、それについてはまだ解決出来なそうだな。そして肝心の消失事件の結果が書かれてない。結局そのレイヴ・カッシュとかいう発明家が見つかったのかもわからない。」
ジャックの言う通り、本に書かれた内容だけではあまりに事件の詳細が少ない。
「彼の活動は目立つことは無かったと書かれているから、あまり有名ではなかったのだろう。そしてやっと名が知られてきた時に行方不明だ。それまではレイヴ・カッシュの存在自体多くの人には知られてなかったとなれば、彼の身に何が起きたのか知る人も居なかったんだろうな。歴史書にはこの程度しか書かれないぐらいだから。」
「レイヴ・カッシュというのが人の名前だったというのは大した発見ね。でも、それ以上の事は結局わからないのかしら・・・」
だがマックスは早速、ひとつの推測が思い浮かんでいた。
「だが俺達には、少なくとも一つはわかることがあるはずだ。」
マックスはそう言い、皆を見た。
「その名の知れ渡ってない発明家が魔光力源に関係している可能性がある。ってことだな。」
ジャックがすぐに応えた。
「そうだよ。あの隠し扉をくぐる為の呪文にレイヴ・カッシュの名が使われているということは、その発明家があれと何らかの関わりがあるのは、ほぼ確定と言っていいと思う。魔光力源を発明した可能性も有り得るかもな。」
「そうなると、その呪文をつくった奴がますます気になるなぁ。もしかして自分でつくったとか?」
ディルが言った。
「それは何とも言えないな。でも、もしそうだとしたら引っ掛かる事がある。」
マックスは続けた。
「これは19世紀の話だ。セントロールスはまだ学校じゃなく、完全に城として機能していたはず。そんな時代にあの部屋と魔光力源を造り上げて封印したのなら、今現在ではボロボロのはずだ。でも思い出してみろ、あの部屋の感じを。」
いまだ話についていけてないレイチェルを除き、皆は地下の円形の部屋を想像するなりすぐに違和感に気づくのだった。
「なるほど。確かに引っ掛かる。」
「そんなに古くは見えない部屋だったな。て言うか、むしろあの部屋は新しく見える。」
ジャック、ディルが言った。
「それだ。セントロールスは学校として至る部分が改築されている。まさにあの部屋も後で整備されたようにしか見えないだろ。」
マックスはこれまでに数回訪れた時の、第一魔光力源保管所の光景と、そこの壁に触れた感触を確かに覚えている。
その時から、城の他の部分より新しい感覚がしたことに多少の違和感はあったのだ。
「となると、レイヴ・カッシュがあの部屋に直接関わっていない。もしくは、後から誰かがあの部屋に手をつけたと考えることが出来る。今はまだこれだけしか考えられないが。」
「でも、レイヴ・カッシュという人は魔法の発明家でしょ?魔光力源を造った可能性は高いわ。」
ジェイリーズが言った。
「この事は一応、サイレントに報告しよう。何かわかるかもしれない。それにしてもよくやったなディル。これは確かに大きな発見だ。」
「たまには役に立つさ。」
その後、ジェイリーズとレイチェルと入れ替わるようにして、ディルとジャックが公園にて戦闘訓練を始めた。
しかしマックスは自分の特訓を再開せず、ますます『魔法全史』に興味を持ち、地下隠れ家で本を読み進めることに専念していたのだった。
読んでいくと、魔法界がいかに未知の領域かを思い知らされる。
そしてそう感じている自分も、他ならぬ魔法使いだというのは、まったくおかしな話だ。
魔法使いなのに魔法界についてはほぼ無知だ。というのはこれから先、自分達にとってかなり不利になってくると思わざるを得ない。
魔法使いの知り合いも居ないのでは、現在の魔法界の情報を知る手段も無いということだ。
それは今後グロリアと戦っていく中で、どれだけの影響を与えることか・・・・
今自分達に課せられた課題は、魔法を研き、ただ強くなることだけではない。魔法界そのものについて、"知る"ことも重要な課題であることがよくわかった。
ならば早速知りたい事は山のように出てくるものだ。だがすぐに知る手段はない。
今はここにある本と、サイレントの存在だけが頼みの綱だった。
「サイレントが与えてくれた本だ。とりあえず必要な知識は得られるはずだ。」
部屋の片隅ではジェイリーズがレイチェルと話をしている。
学校の地下の事について説明しているのだ。
今日の特訓でこの二人の親しみはずっと深まったようだ。これでチームは更に強くなる。
マックスは本から、ジェイリーズと話すレイチェルに視線を移した。
レイチェルを自分達の、ナイトフィストとグロリアの戦いに参加させるわけにはいかない・・・
もし彼女を失ったらと思えば、自分の中の大切な何かまで消えてしまうような、よくわからない恐れを感じる・・・
マックスにわずかな不安や焦りが生まれれば黙ってはいられないもので、また魔力の強化に力を入れたくなってくる。
そしてまた一人で、何かしらの実践訓練を開始するのだった。
この日のチームの活動はこんな感じで続けられた・・・
昨日と同様各自バラバラで帰る予定だったが、今日は皆ずっとここにいた。
地上で二人一組になって特訓したり、休憩しながら話したり読書したりして、また誰かと特訓する。
マグルの世界で人目を気にせず、こんな事を堂々と出来るのはここだけで、皆思う存分集中出来るのだ。
そして何より、今日もまたこのチームのメンバーと活動出来るのが嬉しいのだ。
そして皆が帰った後も、マックスは密かに地下隠れ家に残って少しの間本を読んでいたのだった。
驚いたのは、帰ろうとして地上に上がった時だった。
「あれ・・・レイチェル。」
公園のベンチで横たわるレイチェルの姿が視界に入った。
急いで駆けつけてみると、どうやら本を開いたまま寝ているようだった。
今起こそうと肩に触れようとしたが、しばらくそのままそっとしておきたい思いがよぎる。
それはとても心地よさそうな彼女の寝顔が見えたからだろう。
こんな廃公園には似合わない純粋な心を持った子が、ベンチで横になっているその姿はとても綺麗で、美しかった・・・
マックスには彼女が天使のように見えて、気付けば彼の心はとても穏やかに、そして暖かくなっているのだった・・・
しかしずっとそのままにしておくわけにはいかない。
しばらくしてマックスは肩を揺すって、レイチェルの目を覚まさせた。
「・・・あれ、マックス?」
彼女はまだ状況がわかっていないようだった。
「そんなことではいつ襲われるかわからないぞ。」
寝ぼけたような顔のレイチェルを見て言った。
「ここで寝ていたんだよ。誰もいなかったらどうするんだ。」
「ああ、そうだった。勉強してたんだ。いつの間にか寝てたのね。」
彼女は慌てて起きあがって目をこすった。
「誰も起こさなかったら、そのまま夜まで寝ていたかもしれないな。」
「・・・気をつけます。」
「そうかしこまらなくて良いよ。チームのメンバーとは気楽にしてくれ。そうだ、皆とは馴染んできたか?」
「うん。快く迎えてもらって、良い人達だと思う。」
レイチェルは、初めて出会った時とはまるで違う明るい表情で言った。
「良い人達かぁ・・・皆学校では問題児だぞ。」
マックスは笑った。
「それは、そうかもしれないけど・・・・」
「これまた素直な発言だな。」
マックスは思った。こんな純粋そのものの彼女をわずかでも敵の仲間だと疑ったことが、どれだけ間違いだったか。
「あの時は、本当にすまなかったな。」
「えっ?」
突然謝るマックスを見て、レイチェルには何の事だかわからなかった。
「最初は皆、君を敵としか思ってなかっただろ。そして君をチームに迎え入れてもわずかに疑っていた。俺達をスパイするために捕まったんじゃないかと・・・・」
これを聞いて、レイチェルは優しい表情で言った。
「あの状況では誰だってそう思って当然だから。だから全然気にしてないよ。」
彼女の言葉がどれほど心の救いになることか・・・マックスは素直に嬉しかった。
「そうか。ならば良かった・・・もう完全に仲間だ。誰もがそう思ってる。」
その日の夜は、落ち着いて寝ることができたのだった・・・・
それから一週間の時が過ぎた。
今日も相変わらずの朝だ。
毎日各自で公園に行っては魔法に関する勉強を続けた。
特に変わった事がないというのは決して悪いことではない。今が平和な証だ。
だがそれに慣れれば退屈と感じてくるものだが、今の彼らはこの平穏な時間がとてもありがたく感じた。
ニュースも度々見ているが、セントロールス関連の事件はあれから起こっていないようだ。
そしてここ一週間、マックスも悪夢を見ていない。
たまには息抜きにジャックの家にでも顔を見せたいところだが、結局廃公園に皆集まるのだ。
マックス以外の皆も、あの場所が居心地よくなってきているのだろう。だがジェイリーズだけは、せめて綺麗な光景がいいと言っているようだ・・・
「さて、今日は今から何をしようか・・・」
マックスは自分の部屋のベッドに座り、今日一日のやる事を考える。
そして思いつくことは今日も同じ。まずは公園に行くことだ。
そしてそれまでの時間は、『学校内全システム書記』を眺める。という習慣が出来ているのだ。
朝食の後、今日も本を開いて地図のページを何気なく眺めていたが、その時に珍しい展開になった。
突如、机の上の携帯電話が揺れだした。久しぶりに電話がかかってきたのだ。
マックスは本を置いて立ち上がった。
「ジェイリーズか・・・」
マックスは携帯電話を取った。
「ああ、俺だ。どうしたんだ?」
「ねぇ、今日暇?」
聞こえたのは確かにジェイリーズの声だった。
「いつも暇だが、何かあるのか?」
「ちょっと気になる事があるのよ。あなた次第では学校に行くことになるかもしれない。」
マックスは早速話の続きが気になった。
「何だ、気になるってのは?」
「家の近くに警察署があるんだけど、そこの警官達がセントロールスの警備に関わる事になったらしいの。」
「それがどうしたんだ?」
「まぁ最後まで聞いて。問題はそこの偉い警察官の一人が、学校の"ある所"だけは避けて警備と事件の調査に協力するように・・・って指示してるみたいなのよ。」
これはまた凄く興味深い話だった。
「ある所って、まさか・・・」
「地下よ。」
「いったいどこでその情報を手に入れた?」
マックスは聞いた。
「親がそこの警察署の人間と知り合いだから、昨日久しぶりに飲みに行った時にその話を聞いたそうよ。」
「なるほどな。良い情報を提供してくれた。」
「これって考えられることとしては、地下の秘密を知られたくない生徒が、指示を出してる警官を操っている。そう思わない?」
ジェイリーズが言った。
「確かにまずその可能性が浮かぶ。でも、あまりにも大胆だな。生徒が一人で警察の動きを操ることが出来るかな・・・」
「大胆って言われると、確かにね・・・・」
「その話が事実ならかなり気になるな。行こうじゃないか、学校へ。」
「そうなると思ったわ。じゃあ、レイチェルは来させないほうがいいわね。どんな危険が待ってるかわからないから。」
「当然だ。じゃあ昼に、バース中央広場で会おう。二人には連絡しておく。」
「了解。じゃあ、後で。」
そして電話は切れた。
「何か・・・事が動く予感がするな・・・・」
彼はすぐさまディルとジャックに今日の活動についてのメールを送った。
それから数時間後、昼食を軽く済ませたマックスはバース中央広場に向けて自転車を走らせていた。
中央広場に集合するのは学校に乗り込んだ日以来だ。
あの時サイレントと再会し、その後で事件は起こったのだった。
あの時の記憶がよみがえってくる・・・・今日も何かが起こるのか・・・・
今は何もわからない。だが少なくとも悪い予感は感じていない。
全ての結果は学校に行けばわかることだ。そう思いながらひたすらペダルを漕ぐ・・・・
徐々にバースシティーの中心部に近づき、人も車も多くなってきた所で、前方に大きく目立つ噴水が視界に入ってきた。
マックスが中央広場の入口に自転車を停めて噴水の方に歩いていると、噴水横のベンチから立ち上がって彼女はやって来た。
「早かったわね。」
「そっちこそ、一番早いじゃないか。」
そこにはモノクロの花柄ワンピースを着たジェイリーズの姿あった。相変わらず大人びた格好だ。
「あとは二人の到着を待つだけだ。それから色々と決めよう。」
すると、二人の後ろから別の二人が並んで歩いて来て・・・
「待たせたか?」
「全然だディル、それにジャック。一緒に来たのか?」
マックスは振り返って、近づいてくる彼らに言った。
「ディルが俺の家に来たんだよ。どうせ待ちきれなくて仕方なかったんだろうな。」
ジャックが言った。
「どうせとは余計なワードだな。それより、今日の服も良いなジェイリーズ。」
「毎度ありがと。」
マックスの予想通り、すぐに四人はそろったのだった。
「今から何をするかはメールでも簡単に伝えた通り、警官の話が本当かどうか確かめに学校へ乗り込む。もし出来れば、地下を避けるよう指示を出してる奴を見つけて行動を観察したいな。」
マックスが今回の主な行動目的を話し始める。
「警察の人間が地下の秘密を知るわけがない。そしてその秘密に誰も近づかせたくない奴といえば、俺達の宿敵しか思い当たらない。その生徒が今回は警察を操っているとなれば、何やら事を起こそうと企んでいる可能性がある。今回も気が抜けないぞ。」
「だがこっちの実力も上がってる。もし敵を見つけたら、今こそ特訓の成果を見せる良い機会だ。」
ジャックが言った。
「そうだな。今の俺達はまた一段と強くなったはずだ。敵とは積極的に戦おうじゃないか。相手だって同じ生徒だ。」
「敵の黒幕と操られた警官かぁ。面白くなってきたぜ。」
それから四人は自転車でセントロールス高校へと急いだ・・・
厄介なことに、校門が見えてくるはずの所までたどり着くと、最初に視界に入ったのはガードマンだった。
四人は自転車をその場で停止させる。
「ガードマンか。完全に誰も学校の周囲に入れさせない気だな。ここからは自転車を置いて、姿を消して突破するしかない。」
近くのマンションの駐輪場に自転車を置いて、四人は建物の影に隠れて杖を取り出した。
「集合場所は裏庭の訓練場。警備はより堅くなっているはずだから十分注意するんだ。じゃあ、行動開始といくか。」
マックスの合図で皆一斉に目くらまし呪文をかけて動きだした。
周りの誰にも彼らの姿をとらえることは出来ない。もちろん、ガードマンも何も気づかず立ったままだ。
透明になったマックスは二人のガードマンの間をスルリと通り抜け、あっさり校門へ近づくことが出来た。
校門には黄色い立入禁止のテープが貼ってあり、
それをまたいで越えた時に、早速敷地内の状況は見てとれた。
ニュースで見た通り、警備体制は上がっている。
そして更に調査班も動いているようだ。
マックスは歩きまわる警官達をかわし、なるべく遠ざけながらグラウンドに回り込む。
そこから校舎の表側が一望出来るが、相変わらず校舎全域に黄色いテープが張り巡らされている光景には違和感しか感じない。
誰にも気づかれることなく裏庭に入り、そこから先はこっちのものだった。
誰もいない草の生い茂った領域を豪快に歩き、やがて立ち止まると、術への気の集中を切った。
そこで徐々に姿が現れるマックスを見た三人も、立ち止まって術を解いたのだった。
「揃ったな。これ以上奥に隠れる必要もないようだ。まず侵入成功だ。」
「当然だな。でも警察の数には驚いたな。」
最後に姿を現したディルが言った。
「よし、まずは地下に向かう。警官が本当に地下を避けているか、周辺確認だ。」
揃ったチームは再び動き出す。
「今回は、ここから近い旧校舎の入口から入るか。」
彼らはここから近くの、今はほとんど使われない旧校舎にある入口から本校舎に移るルートを選んで歩いた。
幸い、ここには誰もいなかった。
「アロホモーラ。」
マックスがロックを解除し、スムーズに旧校舎に忍び込むことができた。
校内は本当に静かだった。歩きながら、その静けさが緊張感を呼ぶ。
そして旧校舎は、たとえ昼でも相変わらずの不気味さが漂う。
「入っていきなり警察と出会わなくて良かったな。」
廊下を歩きながらジャックが静かに言う。
「まったくだな。近くから足音も聞こえないし、今は旧校舎に警官は居ないかもしれない。少なくとも多くはないだろう。」
隣を歩くマックスはそう言うと、バッグから『学校内全システム書記』を取り出して地図を見た。
「ここから地下へは・・・・そう面倒なルートではないな。」
マックスが地図上のルートを確認していたその時だった・・・
「おい!」
突然のジャックの声に慌てて前を向く。
「あっ!誰だ今の?」
マックスは、前方の階段を誰かが駆け上がって行ったのを目にした。
「女だったな。こっちの存在に気づいたっぽかったぞ。」
ジャックが言った。
「もしや今のが俺達の敵か?」
後ろからディルが言う。
「かもしれないが・・・ただひとつ言える事は、あの女子はここの生徒じゃない。」
マックスは、一瞬こちらを振り返りって急いで駆け出して行った女子生徒を見たときに、明らかにセントロールスの制服ではないと確認できたのだった。
「とにかく急いで後を追ってみよう。」
彼らはすぐさま階段に駆け寄り、足音に気をつけて二階へと上がり始めた。
するとその時を待っていたかのように・・・
「エクスペリアームス!」
「伏せろっ・・・」
とっさにマックスはジャックをかばい、しゃがんだ彼の頭上を何者かが放った術の光線が通りすぎた。
すぐに顔を上げたマックスは、二階の廊下へ走り去って行く一人の女子の姿を見たのだった。
「あいつは魔女だ。あの女が黒幕だ!」
皆は杖を構え、二階廊下に足を踏み入れた。
さびた壁にドア無しの教室が並ぶだけだ。
「どこかに隠れているぞ。」
「ああ。三階には行かなかったから確実だな。二階にいる。」
マックスとジャックがゆっくりと歩きだし、後方を注意しながらディルとジェイリーズが後に続いた。
まずは最初の教室をあたる・・・
ぱっと杖を前に向けて入った。そこは少しヒビが入った黒板に、ボロボロの木の机がすみに置かれているだけだった。
次は隣だ。
しかし、入ったと同時にここも同じような光景だとわかった。
そしてまた隣も恐る恐る確認する。
だがここにも居ない。
「ジェイリーズ、何か感じないか?」
廊下に出てマックスが言うと、彼女は術を発動させた。
「ホメナムレベリオ」
空気が振動し、二階の廊下の先へと広がっていく・・・
「よくわからないわ。誰か居る気配はしないけど。」
「そうか・・・足音もしない。姿を消して逃げたわけでもないようだ。」
「マフリアートを使ったのか?」
ディルが言った。
「ならばそのゾーンに触れたら感覚でわかることだ。どんどん調べるぞ。追いつめろ。」
マックスは先を急いだ。
そして二階の端へと迫っていくが、まださっきの女子とは遭遇しない。
そして残る教室はあと二つとなった・・・・
「俺は右を見る。」
マックスが言った。
「じゃあ俺が左だ。」
続けてジャックが言う。
二人は杖を構えて左右の教室の入口に身を潜める。
その後ろにディルとジェイリーズがつく・・・
マックスとジャックは目で合図を送り、同時に両方の教室に突入した。
しかし、その結果はどちらも同じだった。
「いない。」
「こっちもだ。そんな・・・」
そこにディルとジェイリーズも来た。
「いないのか?」
「ああ、でも確かに・・・・いや待て、しまった!まさか姿くらましか!」
マックスの言葉で、今皆も姿くらましの可能性を思い出した。
「あの生徒が姿くらましが出来るとしたら、とっくにここにはいないぞ!」
ジャックが言った。
「でも高難易度の魔法だ。校内の構造は複雑だし、場所をちゃんと把握できていないと移動は出来ない。遠くへは行ってないかもしれない。とりあえず上へ行こう。」
マックスは走って廊下を戻った。皆も彼に続く。
階段を駆け上がって三階の廊下に立つ。
「いないな。また上だ。」
すぐさま階段に向き直って上を目指した。
そして四階に到着した時、マックスの勘は見事に当たった。
「いたぞ!」
廊下の先に、その者はいた。
「何っ!魔法使い・・・」
四人の杖が向けられた先に立つのは、長髪でブロンドの女子生徒だった。
制服は確かにセントロールスのものではない。
マックスは近づきながら話した。
「お前は誰なんだ?」
「お前達が知る必要はない。」
彼女は強気な口調で言った。
「言わせてやる。ステューピファイ!」
しかし彼女は杖を上げ、それを無言で跳ね返した。
それをマックスは避け、再度杖を向ける。
「待て!!」
マックスは走っていく彼女を追った。
それに続いて三人も走る。
マックスは走りながら呪文で攻撃を仕掛けた。
「エクスペリアームス!」
しかしまたもや防がれ、更に無言呪文の光線が放たれた。
マックスは必死で避け、その度に体勢を立て直して走り続ける。
「インペディメンタ!」
「ペトリフィカストタルス!」
皆も続けて攻撃した。
しかしその度に無言呪文で対応し、彼女は逃げ続ける。
だが角を曲がった先に逃げ道はなかった。
「追い詰めたぞ。」
マックスは何とか追いつき、行き止まりの壁に手をついて息を切らす彼女に迫った。
「姿くらましをしようとした瞬間、俺達はお前を狙う。だがどこまで逃げようと追い続ける。言うんだ、お前がどこから来て何を企んでいるのか。」
ジャックに続いてディル、ジェイリーズも追いつき、きつさをこらえながら杖を構えて立ち並んだ。
特にジェイリーズは疲れたようだ。
立ちはだかる四人を目の前にして、女子生徒は少し経ってから杖を下げて、口を開いた。
「あたしはW.M.C.から来た。」
「W.M.C.?何だそれは。」
マックスには全く聞き覚えがなかった。
「魔法学校を知らないの?一体今まで何してきたんだ。」
「それはこっちの台詞だ。魔法学校の生徒がなぜここに用がある。そしてなぜ俺達を襲った。」
マックスは一直線ににらんだ。
それから少し黙った後に再び話し始めた。
「それが・・・・あたし達の大事な役目だから・・・」
マックスは、その言葉を聞いてから頭に浮かんだ事を言うのだった。
「だろうな。グロリアからの大事な指令というわけだな。」
それを聞いた彼女が驚いたのがわかった。
「なぜ、それを・・・!」
「色々と話は聞いてるんだよ。お前も知ってるはずの、ナイトフィストからな。俺達を襲う魔女がここにいるとなれば、グロリアの新入りとしか考えられない。」
「ナイトフィスト・・・まさかお前達が!」
彼女は更に驚いた。
「そういうことだ。それで、そっちの詳しい話を聞かせてもらおうか。地下の事やゴルト・ストレッドの事もな。」
「何の事だ・・・何を言ってる。」
「ここでとぼけても無駄だ。お前がやった事は全てわかってるんだぞ!」
マックスは杖に力を込めた。
「マグルの町にいるお前達に、あたし達の何を知ってるって言うんだ?これ以上話している暇はない!」
瞬時に彼女は杖を振った。
何らかの術が発動し、マックスは即座に対応した。
「プロテゴ!」
間一髪、呪文を弾くことが出来た。それと同時にジャックが呪文を放っていた。
「コンファンダス!」
術はブロンドの魔女に命中し、ふらつきながら床に倒れたのだった。
「よくやった。」
マックスは彼女に近づいた。
「インカーセラス」
マックスは床で横になる彼女に杖を向けて言うと、杖先からロープが出現して体にきつく巻きついた。
「もう逆らうことは出来ない。さあ、グロリアから何を言われたのか。全てを話せ!」
ジャックの錯乱の呪文の効果が切れると、彼女は喋りだした。
「それは言えないわ!学校の仲間の為にも。」
「ならば喋らせてやろう・・・」
「出来るかな・・・」
マックスは杖に力を入れて、あの呪文を口にしようとした。
「クルーシ・・・」
「エクスペリアームス!」
その時、何者かが放った呪文でマックスの杖は手から離れ、廊下に転がった。
「誰だ・・・」
今の呪文は明らかに自分達の後ろから放たれたものだった。
「お前達か、噂の魔法使いは。」
マックス達は後ろを振り向く。
そこには、知らない男子生徒が杖を向けて立っていたのだった。
「また同じ制服・・・お前もW.M.C.とかいう魔法学校の生徒のようだな。」
マックスは、床に倒れる魔女と似た制服を見て確信した。
「そうさ。そしてお前達は俺達の敵のようだ。フィニート!」
男は床に転がる魔女に杖を向け、拘束の呪文を解除した。
「リザラ、しっかりしろ。こいつらを捕らえるぞ。」
体に巻きつくロープが消失し、彼女は急いで立ち上がる。
今ここに、六人の魔法使い達が杖を構えて向かい合った・・・・