Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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新章-第六幕 二人

寂れた公園に二人・・・・

 

まだ警戒心は解いてはいけない。

しかし自身の心ににそう言い聞かせながらも、同時に懐かしさと何だかよくわからない感情も若干感じていることは、正直なところ認めざるを得ない。

 

それは二人ともがそうであった。

 

マックスはベンチの片隅に腰を落としている。

そのすぐ隣にはレイチェルが静かに立っている。

 

「お前をチームの新しい仲間にしたとき、俺は正直少し不安だった。それは、お前が仲間になったことで今までのチームらしさが崩れないだろうかという事と、俺のチームにうまく馴染めるだろうかという二点だ。」

 

レイチェルはまだそのまま立って聞く。

 

「でもそんな不安感はすぐに消し飛んだ。話を聞き、一緒にいる時が増えるほど、いろんな点で君は俺達とかなり似ているんだとわかった。そして俺は、君にこの上ない親密感も感じだした。これは・・・今まで生きてきて初めての感覚だったかもしれない・・・」

 

マックスは少し前の過去を振り返りながら話しているうちに、先程からの警戒心がどんどんと解けていくのを感じた。

 

「今正直に言う。俺はジャック達への友情とは別に、初めて人に特別な感情を抱いたんだ。それが君だった。だからだ・・・だから、そんな君が宿敵だったとわかった瞬間、俺はたまらなく絶望した・・・・」

 

この時に、レイチェルが何か言いたそうな表情を浮かべてマックスを見下ろした。

だが彼の視線はレイチェルを向かず、そのまま話を続ける。

 

「これは俺の勝手な想像かもしれないけど、過去が原因で君がどんな思いを抱いて、どんな気持ちで今まで生きてきたのかが俺にはよくわかった。少なくともわかったつもりだった。だって俺もほぼ同じような過去を生きていたんだからなぁ・・・」

 

レイチェルは同じ表情でマックスを見つめ続けた。

 

「改めて冷静に思い返してみれば・・・ああ、確かに色んな場面で辛い思いを味わったかなぁ。何せ、周りの人間のほとんどが俺とは違う生活をしているのが嫌でも見えるからなぁ。人には大勢の仲間がいて、同じ感覚を共有できる場所があって、元気で、そして何より・・・平和そうに見えるんだ・・・」

 

マックスは今まで心の深い部分にしまっていた全ての感情を引き出した。

 

「良いことなんて何もなかった。考えたこともなかったな。そうすると辛いことしかないさ。だから、自分の居場所を確保するためにも自分を正当化する必要があったんだろうなぁ。俺は自分以外を全て否定的に考えるようになったんだ。だがやがてジャックと出会い、高校で更に似た者同士を見つけると少しは心が落ち着いた。わずかながら仲間ができ、同じものを共有できる場所が手に入ったからだ。」

 

彼がそう言った直後、レイチェルが急いで口を開いた。

「あたしもあなた達と関わるまでは全く一緒だった。あたしには14年前から親の代わりに育ててくれたバスクしか仲間はいなかったから、彼の考え、彼の言うことが全てだった・・・」

 

彼女もマックスの隣に座り、話しを続ける。

 

「あたしには何もなかったわ。だから唯一の仲間のバスクが言うことを信じ、バスクが与える役割を真っ当することがあたしの全てだった。」

 

「ナイトフィストをさぞかし憎んだことだろう・・・無理もない。」

マックスが静かに言った。

 

「今でも、過去を考えるとナイトフィストさえいなければって思うわ。でも、それはあなたからしてみれば逆なのよね・・・」

レイチェルも静かに言う。

 

「だな。結局同じなんだよ。ただ違うのは一つだけだ。」

「立場が逆なだけ・・・それだけの違いで敵対しなければいけない。だから・・・」

 

「そこで言いたい事がある。」

今度はマックスが急に口を挟む。

「話の続きにもなるが、俺は仲間を得て、一緒に話したり行動したりするうちにどんどん前の自分とは変わってくるのを確かに感じた。それが仲間の力だ。仲間がいて、自分の生活に良い影響を与えてくれる・・・これがどれだけ自分の助けになるか、今の君にはわかるはずだ。」

 

レイチェルはマックスを向いて静かに聞いた。

 

「だからとは言わないが、これはあくまで俺の勝手な願いだと思ってもかまわない。だが正直な気持ちを言う。レイチェル、もう終わりにしないか?そしてまた戻ってきて欲しい・・・」

マックスは言葉に強い願いを込めて言ったのだった。

それは初めて人にする真剣な告白でもあった。

 

レイチェルは目を閉じて、何かを考えているような様子で黙っていた。

 

「君の本心は何だ?君がここで喋ったことは嘘だとは思えない。ならば、今君がいる道を進んでも良いことなんか何も無いぞ!」

 

すると彼女は目を閉じたまま、囁くような小声で言った。

「もう戻れないわよ。ここまできて・・・それにバスクを裏切ったりなんかしたら・・・今度こそ本当に居場所が無くなる。もう後には戻れないのよ・・・」

 

この時、マックスは彼女が今まで抱き続けてきた心理を察したのだった。

 

レイチェルは恐れている。

彼女は自分の身を取り巻く全てを恐れてきた。だから導いてくれる強い誰かを必要とした。指示を出してくれる強い誰かを必要とした。自分の居場所を守れる強い力を必要としたのだ。

故に、今まで本当に自分のやりたい事を考えて動いた事が無いのだろう。そんなこと、考える余裕も無かっただろう・・・・

 

そうだ。やはり以前の俺と同じだ。

 

しかし今の彼女は昔とは違うはず。俺達チームに関わったことで彼女の死んでいた心が息を吹き返したに違いない。

だから自分自身の気持ちと葛藤しているんだ・・・・

 

マックスはこれから自分がするべきであろう事を考え、そしてちゃんと素直な気持ちをふまえて言葉を選んだ。

 

「俺は許す。」

「・・・え?」

レイチェルはポカンとした表情で言った。

 

「君はオーメットを裏切りたくなかった。だから指示に従って俺達をスパイしたんだ。お俺達を騙している間、本心では辛かったのだろう。君は悪人には見えない。君も犠牲者なんだ。14年前の惨劇のせいで悪人に仕立てあげられてしまった犠牲者だ。だから、俺は君を許す。」

 

マックスはレイチェルを一直線に見て力強く言う。

 

「そして君を悪人のままにはしておかない。誰が何と言おうと、俺は君を見放さない。」

 

彼女は何も言わず、自然と涙した。

 

「だからもう終わりにしよう。悲しい過去に囚われるな。これからの幸せを考えよう。今の君には仲間になってくれる人間がいる。俺と、俺のチームの皆。それに今やナイトフィストの味方になったデイヴィック達もいるじゃないか。」

 

マックスはレイチェルの小さな肩に手を当てた。

「もう怖いものはない。俺達仲間が力を合わせて君を守る。君の居場所も。だからもう一度聞く・・・戻って来ないか?」

 

するとレイチェルは、手で涙を拭きながら口を開いた。

「・・・ありがとう。本当に嬉しい。こんな気持ちは初めてだから・・・ちょっと待って・・・・」

 

彼女は涙が止まらなくなり、声をつまらせるのだった。

 

少し息を整えると、彼女は続ける。

「あなたの本心はよくわかった・・・だけど・・・あたしはあなたが考えてるほど心が綺麗な人じゃない。」

 

「いや違うな。君は自分の過去のせいで、そして君の周りの人間のせいでそう思えているだけだ。本来は純粋で優しい人間なんだよ!」

 

今なら言える。レイチェルは本当は純粋な心の持ち主なんだと。だから迷い、辛さを感じる。決して根っからの悪人なんかじゃない。

全てはオーメットの・・・いや、グロリアのせいなのだ!!

 

マックスは強く心に言い聞かせたのだった。

 

 

 

二人が廃公園のベンチに腰を落とす光景が続いている最中、新たな行動を起こそうと考える者がいるのだった。

 

「まだ来ないか・・・予定通りならばそろそろ連れてきても良い頃だ。」

 

薄暗く広い部屋に、重低音な男の声が響いた。

 

縦長の部屋の片側だけ、派手な四角い縁取りのガラス窓がずらりと並び、それらから日の光が斜めに差し込み床を照らす。

 

反対側の壁には大小様々の絵画が複数枚、壁の一番端まで貼り付いている。

しかし絵が飾られた位置には光は当たらず、どんな絵なのかはっきりとはわからない。

 

そしてそんな細長い部屋の床に並んだいくつかの長テーブルの先、部屋の一番奥にバスク・オーメットは立っているのだった。

 

「この所、彼女の様子がおかしかったが・・・まさか・・・今になって情が変わったとでも・・・・」

 

すると彼はスーツの内側に手を入れて、ブロンズに煌めく手鏡を取り出した。

 

「私だ。ひとつ頼まれてくれんかな?」

彼は鏡で誰かと話し始めた。

 

「何でしょうかマスター?」

「セントロールス旧校舎六階にレイチェルとマックスの姿があるか確認してもらいたい。もしいなければ二人が行きそうな場所を徹底して捜索しろ。見つけ次第報告だ。」

「了解です。では直ちに部隊を整えます。」

「頼んだぞ。」

 

その言葉を最後に彼は鏡をテーブルに置いた。

 

「さて・・・もう、あっちの準備も始めていいか。」

 

バスク・オーメットは次のプランに移る・・・・

 

 

 

その頃、今日夏休みを迎えたデイヴィック達は、アカデミーのエレナとロザーナの二人と合流してロンドンに来ていた。

 

四人は通りを行き交う人目を気にしながら、とある路地裏に入り込み、更に奥へ進んだ。

 

「よし。ここまで来たら安心だな。マグルは入ってこれない。」

デイヴィックが歩きながら言った。

 

「密かにここに来るのももう何度目になるかな?」

後をついて来るエレナが言った。

 

「さぁなぁ。まぁ、ナイトフィストのこそこそ行動も馴染んできたってことで何よりじゃねえか。」

するとデイヴィックがその場から姿をくらました。

彼に続いて他の皆も瞬間に姿を消す。

 

直後、彼らが現れたのは暗くて狭い、埃っぽい屋内だった。

 

目の前に伸びる一直線の通路の先にはドアがあり、その奥の方からは歯車が噛み合って動く音が聞こえている。

 

「俺はこの秘密基地みたいな雰囲気が気に入った。」

デイヴィックが歩きだした。

 

そして彼がドアを開けた先、最初に目に入ったものは正面に構える裏返った巨大な時計の文字版と、その針を動かしている大きな装置だった。

 

見たところ誰もいない。

 

四人は時計塔裏隠れ家に入ると、すぐにリザラが言った。

「あたし達が早かったようだね。」

 

「だなぁ。あっちはまだ準備が整ってなかったのか?」

デイヴィックが椅子に腰掛けながら言った。

 

「じゃあザッカスが来るまでは俺達で考えられる事を考えておくか。」

 

皆が椅子に座り、落ち着いた所でデイヴィックが話を進めた。

 

「俺はずっと気になってるんだよ。あのセントロールスの警官殺人事件がなぁ。」

 

それは、ゴルト・ストレッドの死によって急きょ早まった夏休み開始から、そう日にちが経たずして起こったセントロールスでの第二の殺人事件の事だ。

 

争いに巻き込まれたであろう警官二人が行方不明で一人が転落死している。

更にはこの三人とも、同じ警察の人間から誰一人として顔を知られていないという不可解な事件・・・

これに関してはマックス達だけではなく、デイヴィックにも関心があったようだ。

 

「事件の詳細はマックス達に聞いてみないとわからないけど、少なくとも魔法使いが犯人だということは確かだ。俺はてっきりグロリアとナイトフィストの人間が戦った結果だとしか思っていなかったけど、今になってバスク・オーメット、そして奴と行動を共にしていたレイチェル・アリスタは犯人ではなさそうだとわかった。

そうなると犯人と動機がよくわからない。ただ、あの頃警官の格好をしてセントロールスをうろうろしていた人間はちょうど三人いるんだよなぁ・・・」

 

彼もマックスと同じく、犠牲になった三人が、警官の服装でセントロールスを監視していたザッカス、マルス、ライマンの三人と重ね合わせた。

 

そしてそんな時に、彼らは突然現れた。

目の前に、風圧で床のほこりを巻き上げながら二人の人物が姿を現したのだった。

 

デイヴィック、リザラ、エレナ、ロザーナは瞬間に二人の男に振り向いた。

 

「すまんな、ちょっと遅れた。三人で来るはずだったんだが、突然マルスが別の仕事でどうしても来れないと言うからなぁ。だから今日は俺とライマンで作戦会議だ。よろしくたのむ。」

「ああ。それはいいけどさ・・・その登場の仕方は毎回ちょっとびっくりするんだよなぁ。」

デイヴィックは思わず立ち上がり、そこに現れたザッカスとライマンに向かって言った。

 

「これからグロリアと戦う者がこの程度で驚いてもらっちゃ困るな。」

「て言うか、そもそも全ての隠れ家には姿現し防止魔法がかけられてるんじゃなかったのか?」

 

「そうだが、私達は特別というわけだ。」

ライマンが言った。

 

「俺達はサイレントと一緒に隠れ家の管理をしているから特別に出来るようになってる。さぁて、そんなことより、早速俺達が思い付いた考えがあるんだ。それについて話をしようじゃないか。」

ザッカスはそう言って、デイヴィック達と向かい合う椅子に腰かけた。

 

デイヴィック達も改めて椅子に座り、落ち着いた。

 

「これは君達が夏休み期間に入ったから出来る作戦だ。学校内に人がいなくなるのは、探りを入れるには好都合だからな。」

「探りだって?」

 

ザッカスは今回の作戦の説明を始めた。

「内容は単純だ。俺達が休校中の学校に乗り込んで、魔光力源やグロリア関連の事が記された書物がないか探索するんだよ。」

 

「それって、まさか禁書が収められた部屋へ入るってこと?」

リザラがいち早く反応した。

 

「その通りだ。当然、可能性があるのは禁書の棚ゾーンだろう。だからこそ誰もいない今忍び込むのが一番だ。」

「それはわかった。でも忍び込むって言ったって、まずどうやって閉めきられた校内に入ればいいんだよ。門の魔法のツタはどうやっても破れないし、姿現しはおろか、空から箒で近づこうとしても警報魔術に引っ掛かってしまうだろ?静かに忍び込むのは無理だ。」

 

ここでライマンが口を挟んだ。

「その方法がひとつだけあるのだよ。」

彼は説明を続けるのだった・・・

 

 

 

 

そしてその頃、この二人はまだ同じ場所にいる・・・

 

「・・・これからどうする気だ?」

マックスが唐突に言った。

 

「それは考えてなかった。だって、ここに来る事は急に決めたことだから・・・彼は不信に思ってるでしょうね・・・・」

レイチェルは落ち着きを取り戻し、ボーッと地面を見つめたまま言った。

その瞳にはもう涙のあとは無く、虚ろな目をしている。

 

「それに・・・正直、バスクを裏切るのは心苦しい・・・・彼は親を失った幼いあたしをこれまで育ててくれた人でもあるから。」

 

「でも、あの男は・・・」

マックスは途中で言葉がつまった。

 

考えてみれば、レイチェル視点では奴は親の代りだ。

すなわち、自分にとってのテイル・レマスと同じ存在なわけだから、そんな人間を14年後の今に裏切るのは、気が進まないのが当然と言えるだろう・・・

 

「ああ。まぁ・・・そうだろうな。辛い立場だ。本当に・・・」

 

「それはあなたもでしょう。あたしと同じなんだから・・・」

そして彼女は顔を上げて、マックスの方を見た。

 

「ねぇ。あなたこそ、あたしと手を組まない?あたしとグロリアに属すれば、バスクが悪いようにはしないわ。」

今度はレイチェルがマックスを説得にかかった。

 

「さっきの話の答えを出すわ。あたしはあなたとは争いたくない。仲間でいて欲しい・・・だからあたしとグロリアの仲間になってもらいたいわ。」

「何だって・・・俺に、今のチームを裏切れと言うのか!」

「そうじゃないわ!チームの皆も歓迎する。あなたの言うことは何でも従うと約束する!」

 

この時、マックスはがっかりすると同時に、彼女の心境を否定することも出来ない事への苛立ちも感じた。

 

「そうか・・・それが答えというわけだ。あくまでグロリアを離れはしないと・・・」

「あなたこそ。あなたがナイトフィストに固執する理由はあたしと同じでしょ?何も意外ではないはずよ。」

「ああ、わかってるさ。やっぱり俺達はどこまでも一緒だなぁ。なのに何で敵なんだ・・・・」

「本当に・・・同じ側の人間であれば・・・」

 

二人は少しの間何も喋らなかった。

 

マックスは考えた。

今、自分達が立っているこの地面の下にはサイレントがいる。

ここでレイチェルを差し出して捕らえることが出来るんだ。

 

自分がナイトフィストの為にすべき事はそうすることだ。

そんなことはわかっている・・・しかしすぐに決断することが出来ない・・・

 

結局まだレイチェルのことを引きずっているんだ。過去に囚われるのは自分も同じじゃないか・・・・!

 

同時に、同じくレイチェルも考えていた・・・

 

マックスはどうしてもグロリアには来ない。

やっぱり素直にバスクに差し出すべきだったのか・・・

 

でも・・・それであたし達の目的のために彼が人質になるのは嫌だった。今でも・・・・

 

敵なのに・・・バスクの指令なのに・・・でもマックスは助けたい・・・・

 

その時、公園付近へ近づく数人の人影が二人の悩みを強制的に終わらせた。

 

「なんだ?ここに来れるってことは・・・」

「マグルではないわね。」

 

人の話し声とともに数人の人影が公園の敷地の外に揺らめくのがわかった。

 

マグル避け呪文がかけられたここへ近寄れるということは、魔法使いということは間違いない。

 

そしてこの場所に用がある魔法使いと言えば、どんな人間かは限られてくる・・・

 

二人はとっさにそう考え、ずぐにレイチェルがマックスの腕をしっかりと掴んだ。

 

「姿をくらますわ。踏ん張ってて。」

 

そう言った直後、二人はベンチから消え、代りに風圧が瞬間的に辺りへ解き放たれた。

 

姿くらましの音を聞き取ったのか、何者か達は急いで公園の敷地内に入ってきたのだった。

 

「今、何か聞こえなかったか?」

「ああ、そんな気はしたが・・・」

男達は、つい今までマックスとレイチェルがいた付近に集まり、周りを見渡している。

 

そしてこの光景を、二人はすぐ近くの家の屋根の上から見下ろしていた。

 

「ん?あの顔は確か・・・サイレントの指示でセントロールスを監視していた、警察に紛れたナイトフィストの一人じゃないか。」

マックスが小声で言った。

 

「てことは、彼らはナイトフィストなのね。どうりでここへ。」

「でも隠れ家には入る気配がない。一体何をしている・・・?」

 

二人はそのまま待機する。

 

公園に来た男達は少しの間うろうろすると、また集まって話を始めた。

「まあ見たところ誰もいないし、問題ないだろう。」

「ああ、だといいがな。何せ、マックス・レボットが裏切った可能性もある事だからなぁ。」

「一応地下も見てみるぞ。女をかくまっているかもしれん。」

 

そして彼らは地面を探り、地下隠れ家への扉を開いて階段を降りていったのだった。

 

それを見ていたマックスとレイチェルは訳がわからなくなっていた。

 

「何だって、俺が裏切っただと?!どういう事だ。」

「それに女をかくまってるかもって・・・それって、もしかしてあたしの事?」

「だとしたら、何で彼らが俺達が一緒にいる事を知ってるんだ?」

 

すると、彼らはすぐに地上へ戻ってきたのだった。

 

「ここには来てないようだ。他をあたろう。」

そして彼らはそのまま姿をくらまし、消え去ったのだった。

 

マックスは急いでサイレントの手鏡を取り出し、連絡しようとした。

しかし様子がおかしい。

 

「あれっ?出ないぞ。地下にいないのか?」

マックスは今の状況がますますわからなくなった。

 

 

 

 

そして、サイレントは今・・・・

 

「テンペスト。やはりお前がいたな。」

サイレントは扉を開き、広く縦長の部屋に足を踏み入れた。

 

「ほう。やっとあの二人が来たかと思えば、驚いた。そっちから来てもらえるとは手間が省ける。それも一人でな。」

そう言い、腰掛けていた椅子からゆっくり立ち上がるのはバスク・オーメットだ。

 

「サイレント・・・沈黙・・・この呼び名にはどんな意味が込められているやらなぁ。」

「そのままの意味さ。」

「そうか?まぁ今はどうでもいい。」

そしてバスクはソファーから離れ、ゆっくり歩いた。

 

「単刀直入に言おう。私はお前と話す必要があった。そしてお前もまた私と話したかった。だから現れた・・・そうだな?」

彼は静かに部屋を歩き回った。

 

「話が早くて助かるな。お前には聞きたいことがいくつか浮かんだもんでな。」

サイレントはその場に立ったまま相手の動きを見続ける。

 

「同じくだ・・・」

 

二人は共に警戒し、腹を探り合う。

 

「まあ立ち話もなんだ・・・座るか?」

バスクがひとつの椅子の前で立ち止まって言う。

 

「必要ないさ。」

「好きにするといい。」

 

バスクは椅子から離れて、その後ろの窓際へ歩いた。

 

「せっかくの客人だ。そっちから話を聞こうか。」

「ではそうさせてもらおう。」

サイレントは変わらず同じ場所に立っている。

 

「私からは、お前がどうも組織とは違った動きをしているように見えてならない。魔光力源に関しての事実も、組織全体と共有していないんじゃないのか?」

 

サイレントはバスクの背中をじっと見つめたまま言った。

 

「ほう。やはりお前は鋭い男だな。」

バスクは窓の外を向いたまま言った。

 

「確かに、私には個人的な計画がある。それは認めよう。だが、お前がそれを知っても何の足しにもならんだろうなぁ。」

 

「そう言いきれるかな?まあ、直接お前の過去に興味があるわけではないが。テンペスト・・・いや、バスク・オーメットだったな。」

 

「私の名を知っていたか。わりと興味がありそうではないか?サイレント。私はお前の過去には興味がある。」

そう言い、バスクはこっちを振り返った。

 

「私が知りたい事実にたどり着くためにお前の過去も知る必要があるみたいだからな。ちなみに私の過去を知ってお前がどう得する?」

サイレントは一歩も動かず、一時も彼から目を離さない。

 

「ずばり、私の14年前からの計画を完了させるための鍵となるのではと考えているからだよ。お前が知る事全てが、私の為になるのだとなぁ。」

「だから教えろと・・・私の過去を。」

「そうだ・・・だがまずはお前の番だったな。言ってみろ。私の何が知りたい?」

バスクは後ろで腕を組んだ。

 

「聞くところによると、ずいぶん魔光力源に関して熱心だそうじゃないか。そもそもなぜそんなに詳しい?私も魔光力源については調べてまわったが、大した書物も無くてなぁ。いつ、どこから情報を得た?」

 

バスクは、だいたい想定内の質問だったと言わんばかりに余裕そうな表情で言った。

「そんな事だろうとは思っていた。せっかくだから少しは答えてやる。我々グロリアは遥か昔から魔光力源には関心があった。そして我々が魔光力源にぐんと近づいたのが14年前の事だ・・・」

 

彼は一旦話しを区切り、その場から動き出した。

 

「さて、お前のターンはひとまずここまでだ。次は私の番だ。」

別の窓際に移ると、立ち止まって話を続けた。

 

「実は、私が知りたいのはお前の過去だけではなくてな。別の男についても知る必要がある。ギルマーシス・レボットについてな。」

 

「どうしてそれを私に聞く?」

サイレントは強い眼差しのままで言った。

 

「君の事は彼から少し聞いていてな。コンビを組んでいた時期があったそうじゃないか。」

「ああ、そうか。お前はギルマーシスのグループにいたんだったな。スパイとして。」

「ほう・・・それを知ってるとは素晴らしい。その通りだ。だからこそわかることだが、お前はギルマーシスのグループにはいなかった。それどころか、あのサウスコールドリバーでお前の姿を一度も見たことがない。だが確実にお前はギルマーシス・レボットと面識があった。」

 

バスクも鋭い目つきで言った。

「では、まずはお前の過去についてだサイレント・・・14年前、お前はどこで何をしていた?お前は何者なんだ・・・?」

 

サイレントは少し間を空けてから、言葉を選んだ。

「それは、私の質問にもう少し答えてもらってから語るとしよう。また私のターンだ。」

 

「いいや、そうはいかん。」

そう言うと、バスクはスーツの裏から手鏡を出すのだった。

 

「言ってなかったが、実は今、とある場所がかなりピンチの状態でな。今から私の連絡ひとつでそれを回避することも出来るのだが・・・それはお前の態度次第と言ったところだ。」

 

「ならば尚更もったいぶらずに言え。」

 

「でははっきりと言おう。私のゴーサインですぐさまW.M.C.とウィルクス・ウィッチクラフトアカデミーの二校が、グロリアの強襲部隊によって同時に陥落する。」

 

「何だと!」

サイレントはたまらず焦りを見せた。

 

「だが、お前が素直に言うことを聞けば、これを防ぐことが出来る。賢い判断をしろ。」

バスクは勝ち誇ったように言った。

 

 

 

マックスとレイチェル、サイレントとバスク・・・

 

彼ら敵対する者達が同時に対面し、会話を交わすことで事態は大きく変わっていくことになる・・・・

 

 

 

 

 

 


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