Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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最終章ー第三幕 Magical Crisis

感覚を研ぎ澄ます…………嫌でも研ぎ澄まされる………

 

どこかで何かと何かがぶつかる衝突音…………

 

爆風で砂煙が舞い、視界が霞む…………

 

空で光が瞬き、地面が割れる爆発音…………

 

そして交ざり合う大勢の人間の声…………

 

この場に身を投じ、目で見て臭いを嗅いで、肌で感じてようやくわかる事だ。これが戦場というものだと。

そしてその戦場で身体を動かして実感できる。自分はまだ生きているという事。

そして生きたい明確な理由ができた今、絶対に生き残らなければならないという強い想いを…………

 

始まった事から逃げることは出来ないし、逃げる気は端からない。

決して怖くないという意味ではない。この道以外に選択肢は無いからだ。

これは、自分の大切な者を守るための戦いだ…………

 

周囲には、壁が穴ぼこになっていたり既に半壊している小さな建物が点在している。

そして黒い服の少女は今、建物と建物の壁の間に身を潜め、付近の状況をうかがっていた。

 

現在、地上では至って普通の服装をした者達とローブをまとった黒衣の者達との攻防が続き、上空では箒と黒い煙が飛び交っている光景が続いている。

ここはイギリス魔法界のブレント地方の片隅、ナイトフィストの拠点の一ヶ所である。

 

グロリアが攻撃し、ナイトフィストが護る。

陸空共に呪文が交錯して至る所で光が瞬いている。

そして今、頭上を三本の黒煙が通過して、近くで戦うナイトフィストの集団の方に向かっていくのが見えた。

 

黒煙は彼らの上を通ると同時に術を放ち、空中から黄色く光る光弾が次々と降り注いで地面が爆発した。

 

爆風で何人かは吹き飛ばされて、建物の壁に思い切り叩きつけられた。

 

その場に残ったナイトフィスト達は慌てて上を見上げ、頭上を飛び回る三本の黒煙に杖を向ける。

 

黒煙は旋回しながら高度を変え、再び爆撃を開始した。

 

上空から飛来する光弾が次々と地面をえぐり、付近の建物の屋根を突き破る。

爆風で舞う砂煙がこっちの方まで吹き流れて一気に視界が悪くなった。

だが状況を把握しにくくなったのは敵も同じだ。

 

引き続き建物の間から様子を見ていると、爆音を聞きつけた者達がこの付近へと近づいて来るのがわかった。

視界が悪い中でもグロリアの格好なら分かりやすい。近づく彼らがナイトフィストなのはすぐに判別できた。

 

早速、彼らは上空を舞いながら爆撃を繰り返す黒煙に意識を向ける。

そして今、目前に迫った一人もそうだ。こっちの存在には気づいていない。

今がチャンスだ。

 

彼女は杖を目の前の男に向けて振った。

杖先が一瞬光り、直後、男は数メール吹き飛んで地面に転がった。

 

彼女はすかさず建物の影から飛び出して男の元に近づく。

 

そしてしゃがみながら、左の太ももにくくりつけたホルスターからナイフを抜き取って男の首筋に突き立てた。

 

彼女は一瞬のためらいの後、ナイフを握った左手に力を入れて男の首をかき切ったのだった。

 

彼女は立ち上がり、首から血を吹き出しながら声にならない声を上げる男から目を反らした。

 

暴れること数秒、彼はすぐに動かなくなった。

 

横たわる男の血が地面に流れ、立ち尽くす彼女の黒いブーツを赤く染めていく。

 

彼女は自分が持つ血濡れたナイフを見つめた。

 

「殺した。あたしの手で…………もう戻れない…………」

このままじっとはしていられない。声を聞いた近くの敵がすぐに駆けつけるだろう。

 

「もう決めたことでしょ。戦うって……」

自分に言い聞かせ、震える足に力を込めてその場から走り出した。

 

全身が黒で統一された衣装に身を包む彼女はレイチェル。

そのバラの花飾りが丁寧にあしらわれた漆黒のワンピースは、この戦場に舞い上がる砂煙で既に汚れていた。

 

しかしそんな事はお構い無し。

何せこれはオシャレなんかではない。熱や寒さから身体を守り、ちょっとやそっとの衝撃では傷ひとつつかない。見た目の薄い生地からは想像できない立派な魔法の戦闘服なのだ。

 

死角になる建物の壁に素早く移動して再びしゃがむ。右手には杖を、左手にはナイフを握りしめたままだ。

 

頭上には箒に乗ったナイトフィスト集団が襲来して、黒煙とその場で空中戦が始まった。

爆撃が止まったことで、残った複数人のナイトフィスト集団は下での防御から上への攻撃に一斉に転じる。

 

彼らが上に集中している今が攻撃のチャンスだ。

心を決めて、レイチェルはその場から再び走り出した。

 

まず一番近くの男の背後に迫る。

走りながらブーツのかかとを男の片足に引っかけて、体勢を崩させる。

そして、そのまま後ろへと倒れる男の首の位置にナイフを構えた。

 

ナイフを持つ手に一瞬振動が伝わり、左腕に血が降りかかる。

男は喉から血を噴射しながら地面にバタンと倒れるのだった。

 

瞬時に近くの敵が異変に気づき、振り向く。

レイチェルはこれを見逃さない。

 

同時に姿をくらまし、一秒たたずして奴の背後に現れる。

出現する風圧で砂煙をまといながらナイフの切っ先が首を狙う。

 

ナイフが空を切って赤い血が飛んだ。

瞬間、血渋きが黒いグローブを赤に塗り替える。

あっという間にまた一人殺したのだ。

 

戦闘で興奮状態の今、血流は激しく、喉をかき切れば普段より出血の勢いも激しく簡単に死に至る。

更に、体力も魔力量もまだ少ない子供のレイチェルが、使い慣れない死の呪文で大量の魔力と体力を消費して戦うことはあらゆる意味で効率が悪く、長期戦を想定して魔力を温存するという意味でもこの戦い方を訓練されてきたのだ。

そしてこれが初めての実戦だ。

 

レイチェルは周囲を素早く観察し、またすぐに姿をくらまして、対角線上の半壊した建物の壁裏に現れた。

再び身を潜めてタイミングを見る。

 

「おいっ!周りを警戒しろ!」

横たわって地面の砂を赤く染める死体に気づいた仲間が叫んだ。

 

上空の戦いに加勢していたナイトフィスト達は、一斉に声の方を向いて駆けつける。

全員が状況に気づいて周囲を警戒し始めた。

 

さすがに一人で全員を出し抜くのは無理だ。ここは一旦離れるべきか……

そう思った時だった。

 

突然、四方から砂で汚れた黒いローブが次々と姿を現して、ナイトフィストの集団を囲ったのだった。

一気に閃光が飛び交い、一人、また一人とナイトフィストは倒されていく。

 

レイチェルもすかさず動いた。

飛び交う術の間を駆け抜け、目に見えた敵から無作為に襲う。

 

上空では箒の集団が撃墜されて、地面に向かって墜落していく。

 

「こちら拠点C-4!ここは持ちそうにない!残った者で撤退する!」

戦いの中、一人の男が手鏡を片手に叫んだ。

 

状況はあっという間に覆ったのだった。

 

何人ものナイトフィストがこの場に転がり、また何人かは諦めて姿をくらました。

 

急に辺りは静まり返り、吹き荒れていた砂煙が徐々に消える。

 

戦っていたグロリアの者達は皆、この場に集合した。

 

「やるな、お嬢ちゃん。これまでの特訓の成果かな。」

一人の男がレイチェルに言った。

そしてまた別の仲間が。

「ああ、初戦闘で立派だった。まさにアサシンのコードネームに相応しい戦い方だ。」

 

レイチェルは、砂と血が混ざって汚れた自分の服と、左手に握ったナイフを交互に見ると実感した。与えられたコードネームに相応しい事をしたのだと。

「あたしは、アサシン……」

 

 

一方、難を逃れたナイトフィストからの報告を受けて、ここブレント地方を統括するブレント支部では緊急の対応を強いられていた。

 

「たった今拠点C-4を失ったとの報告です。現状、敵は同時にC-2、C-3にも強襲を仕掛けています。」

「近場のBエリアからCエリア全般に向けて増援を送らせたい。特にB-4にはザッカス率いるロンドンからの強力な助っ人もいるからな。」

「了解しました。至急拠点B-4に繋ぎます。」

「頼んだ。こっちの計画の準備が整うまでは、何としてでも時間稼ぎをしたい。」

支部長が連絡員の男と会話している。

 

「ロンドンからの助っ人と言えば、あとはサイレントが早く到着してくれれば……」

 

時を同じくして…………

 

 

 

ロンドンの某所…………

 

大通り沿いの歩道を行き交うマグル達に紛れて歩くのは、いつもと同じスーツ姿のサイレント。

 

先を歩く通行人を一人また一人と追い抜き、足早に目的地へと急ぐ。

しばらく歩くと、前方に曲がり角が見えてきた。

彼はその角から狭い道に入った。

 

この路地に入ってからは、急に人の数が減っているようだった。

しかし建物やこの場の雰囲気は他のロンドンの町中と何ら変わりは無い。

 

変わらないペースで歩き続けるサイレントは、そのまま迷い無く一件の建物へと向かっていく。

 

彼は建物に近づくと、設置されたいくつかのドアのひとつから中へと入った。

 

すると驚くことに、三回建てほどの建物の壁の内側は、外見からは予測できないほどの奥行きがあり、そして清楚な病院内になっていたのだ。

 

サイレントは受付カウンターに一直線に向かう。

「今朝、505号室の面会を予約したケビンだ。急ぎたい。」

「承知しております。どうぞ。」

手短に会話を済ませて先を急ぐ。もちろん、このケビンという名は適当な偽名だ。

 

受付からすぐ近いエレベーターの前に来てボタンを押すと、すぐに扉が開かれた。

待たずしてエレベーターに乗れたのはありがたい。

 

今こうしている時にもナイトフィストが作戦を実行している。

そう思うと、もたもたしてはいられない。

ゴトゴトと揺れ動く床に立ちながら、仲間達が今どうしているか想像する。

そして彼が、リビングストンが重要な記憶を思い出してくれた事に期待する………

 

そうして少し待っていると目の前の扉が開かれ、廊下の明かりが一気に差し込んだ。

サイレントは五階の廊下に出て先を急ぐ。

目的地はこの先、505の病室だ。

 

行き交う人間は少ない。人混みに邪魔させれる事もないのはついている。

そう思いながら早歩きで向かっている最中、三番目の部屋の前を通過したあたりだった……

 

人が少ないからこそ余計に気づきやすい。どこかから視線を感じる気がする。

根拠の無い違和感を突然感じる。これは今までの経験が直感で教えているのだろうか。何かを警戒しろと。

 

感覚が無意識に足を遅くする。右手をスーツの内に持っていく……

 

サイレントは一度後ろを振り返り、この廊下にいる人間の位置を瞬間に把握した。

すると無言の合図かのように、彼らも同時に反応した。

前方に五人、後方に三人。その内こっちを意識しているように見えるのは後ろの二人の男か。

 

何者なのか?自分を狙っているとしたら、"奴等"か?だとしたらなぜここがわかった……?

 

彼は警戒しつつ歩き続ける。

しばらく進んだ所でまた後ろをちらりと確認する。

するとどういう訳か、さっきの二人の姿が無い。

改めてしっかり振り向いて見るも、やはりここから居なくなっていた。

 

考えすぎだったのかもしれない。神経が過敏になっているのは間違いない事だ。

一旦考えを振り切り、彼は目の前の事に再度集中した。

更に二部屋通りすぎた。その間に行き交う人に違和感は感じない。

そして目の前に505号室のプレートが迫った。

 

病室のドアの前で足を止めて一息つく。

 

だがドアの方を向いてノックしようとした時、その手はとっさにスーツの裏側に伸び、杖を握りしめて自分が歩いて来た方向を差した。

 

瞬間、横目で気づけた。エレベーターの前辺りから三本の杖がこっちを狙っている事に。

 

間違いなくさっきの男二人と、新たにもう一人の男がそこに加わっている。

そしてその顔は嫌でもわかる。バスク・オーメットに他ならない。

 

サイレントは驚くより先に術を放ち、一筋の閃光が行き交う人の合間を通過して三人の元へ走った。

それをバスクが片手で軽く払って打ち消す。

 

そんな彼もまた、予想外の人物を目の当たりにしたような表情でこっちを見ていた。

周囲の人々は叫びながら一斉に走りだし、一人が壁に設置された警報スイッチを押した。

静かな廊下にサイレン音が鳴り渡る。

突如として院内は混乱状態となった。

 

サイレントは向き直り、病室のドアを思いきり開けて中に駆け込む。

 

「ウェンド!何があった?!」

一番奥のベッドから、一人の男が起き上がりながら言った。

「奴等だ。すぐそこまで来ている。」

サイレントは走りながら早口で言う。

 

ドアの外からは廊下を走る足音が近づいているのがわかる。

「話は後だ。まずここから出なければ。」

「まさかグロリア!ついにここが……」

そう言って事態を察した彼は、机の引き出しから何かを取り出した。

 

「今のうちにこれを渡しておかないと。」

そしてそれをサイレントに差し出す。

「思い出した記憶の欠片だ。これが君達に役立つ事を祈る。」

「ありがたい。大事に守るさ。」

サイレントはその小さな小瓶を受けとるとすぐにポケットにしまった。

 

そして彼らはすぐに現れた。

 

「お前は、リビングストン……生きていたのか。」

病室の入り口から一歩入ったバスクが、サイレントの隣の男の顔を見て出た言葉がそれだった。

 

「君は、確かバスク・オーメットだったな。」

リビングストンが言った。

 

「それにサイレント、まさかここでお前とも会うことになろうとは。つくづく縁があるようだな。」

バスクがサイレントに目を合わせる。

「全く、こっちの台詞だ。嬉しくもないがな。」

サイレントが言った。

 

「お前が何故その男と一緒にいるのか気にはなるが、今日はお前には用は無い。患者を探していただけなのだ。」

そしてバスクは再びリビングストンに目線を移す。

 

「ありがたいことに、サイレントの存在が決定付ける。お前がなにがしか重要な人物であろうことを。」

 

サイレントはリビングストンの前に出る。

「お前には何も喋らせないさ。」

「喋る必要など何もない。私の目的は殺すことだけだ。」

その言葉を最後に、バスクはリビングストンの上の天井に向けて杖を振った。

瞬間に閃光が天井に広まり、爆発音と共にがらがらと崩れる。

 

サイレントはとっさに杖を上に振り上げ、二人の頭上に降り注ぐ天井の破片が透明の幕によって弾かれた。

 

一時の危機は防いだが、間髪入れずにあとの二人が呪文を連発する。

 

サイレントは頭上に向けている杖を前方に一振りした。

一撃二撃と、迫る光線を瞬時に弾いていく。

弾き飛ばされた光線が病室の至る所にぶつかり、白い壁が壊れていく。

 

尚も飛んでくる閃光の隙を見て、サイレントはバリアを解いて自分の周囲に散らばる天井の残骸に杖先を向けた。

 

流れるような動きで杖を動かす。

 

するとたちまち床に転がる瓦礫の山が持ち上がり、奴等へと吹き飛んでいくのだった。

飛んでくる閃光に当たって破損しながらも、天井の残骸は負けないスピードで容赦なく三人の男達へと飛んでいく。

 

相手も受けに回らざるを得なくなり、攻撃に隙が生まれた。

その瞬間をサイレントは見逃さず、飛来する瓦礫を防御する一人の男の杖に向けてその呪文を口にした。

「エクスペリアームス」

 

敵のバリアに瓦礫が当たって砕ける音に混ざり、パシッという音と共に一人の杖が勢いよく手元から弾き飛んで床に転がる。

続けて、一瞬の焦りを見せた隣の男も同じく杖を奪われた。

 

そして次が自分の番だとわかりきったバスクは、サイレントの杖先がわずかに彼に向けられたタイミングを見逃さず、

「エクスペリアームス」

「エクスペリアームス」

 

サイレントの放った術はバスクの杖に命中し、手元から飛んでいく。

 

同時にバスクの放った術がサイレントの杖に命中し、彼の手元から離れて宙を回転した。

 

二本の杖は同時に宙を舞って互いから離れていく。

 

バスクは杖を失った手をそのまま伸ばし、もう片方の手を、飛んでいく自分の杖に向けて振りかざした。

 

するとサイレントの方へ飛んでいくバスクの杖が軌道を変え、風に煽られるように部屋の奥の方へ吹き飛んだ。

バスクはそのままサイレントの杖をキャッチし、杖先をくるりと回すと本来の持ち主へと構えるのだった。

 

はっとしたサイレントの前には、奪った自分の杖をこちらに向ける勝ち誇った表情のバスクが立ちはだかっている。

そしてその呪文を口にしたのだった。

 

「アバダケダブラ」

瞬間、部屋中が緑色の光に包まれた。

ドサリと、鈍い音と共に体が床に倒れる。

それはもう動くことはなかった。

 

「焦ったな。」

バスクは目線の先で立ち尽くす男に向けて言った。

「私の杖がどこを向いているか、把握するべきだったな、サイレント。」

 

ベッド近くの床に倒れ、びくともしない。

それはリビングストンだった。

 

サイレントは後ろを振り返る。

そこには、きっき弾き飛んだバスクの杖が宙に浮き、リビングストンの方を向いている光景があった。

呪文はこの杖から発動されたものだった。

 

「貴様……よくも…」

サイレントはバスクを一直線に睨む。

しかし感情的になっている暇はない。

 

廊下のサイレン音に混じり、遠くの方から複数の声と足音が聞こえてくる。

警備員が来ているのだろう。

 

互いに状況を把握した二人は無言で顔を見合わせる……

 

バスクはサイレントに向けている杖を振り、同時に反対の手を手招きするように振る。

サイレントは目先のベッドまで走り、スライディングと同時にベッド脇に身を隠す。

 

閃光が頭すれすれをかすめて通過し、爆音をたてて後ろの壁が割れた。

同時にリビングストンを殺した杖がバスクの元に帰っていく。

 

それを見逃さないサイレントはベッド裏から片腕を出し、持ち主の元へ飛んでいく杖を掴み取ると同時にバスクの方向に一振りしたのだった。

 

閃光は入り口付近に当たり、壁の一部が剥がれ落ちる音がした。

 

ベッドから顔を出すと、もう奴等の姿はそこには無い。

サイレントはバスクの杖を手にしたまま病室を駆け出した。

 

廊下に出るとすぐに、エレベーターの方へ走る三人の姿が確認できた。

 

サイレントは奴等の後ろを走りながら杖を連続で振り続けた。

廊下中に光が瞬いて閃光が走る。

 

二連撃の術は逃げる男二人に命中して、その場で倒れて硬直した。

 

状況を察し、走りながらバスクが杖を一振りすると、背中に透明の幕が展開する。

三撃目の術は彼の背中のバリア当たって散った。

 

バスクは背中にバリアを張ったまま尚も走り続ける。

そのスピードは通常の人間の速度を明らかに上回っていた。

以前戦った時にわかった事だ。奴は魔力を使って身体を強化する日本の魔法格闘術を使いこなす。

強化したキック力を応用して走っているという事なのだろう。

 

サイレントは遅れを取りながらも呪文攻撃を止めない。

次々と閃光がバスクの背中のバリアに当たり、その透明の幕が徐々にひび割れていく。

魔力の消耗が激しいのだろう。強力なバリアは張れそうにないようだ。

 

サイレントはまだ諦めない。

だがバスクはどんどん距離を離す。

 

負けずと走りながら集中放火を食らわせたバリアはあっという間に穴だらけになり、みるみる溶けていくのがわかった。

サイレントはわずかな勝機を感じた。

 

ここで事態は動いた。

バタバタという足音と共に、バスクの前方の階段から複数人の警備員が駆け上がってきたのだ。

 

「全員動くな!」

先頭の警備員が杖を構えて叫んだ。

他の者は後ろで列を組んで廊下を塞ぐ。

 

だがバスクは足を止めることはない。

右足で床を蹴って天井すれすれまでジャンプすると、側面の壁を左足で蹴り、警備員達の頭上を通過。

彼はわずかツーステップで警備員の集団を後にした。

 

「殺人だ!そいつを捕らえろ!」

サイレントも足を止めずに叫ぶ。

 

バスクは隙を見せず、床に着地するとすぐに警備員達の方に杖を向けて、一人に呪文をかけた。

「インペリオ」

直後、その警備員は仲間の方をくるりと振り返ると杖を上げ、ためらいなく呪文を連発し始めた。

 

突然の事態に、警備員達はどんどんと仲間の手によってその場に倒されていく。

残りの数人が、錯乱状態で襲う仲間の対応を余儀なくされた。

そしてバスクは彼らにも容赦なく術をかけて、その場から再び逃走したのだった。

 

その場はあっという間に互いを攻撃し合う警備員達の戦場と化してしまった。

 

サイレントはその場に追い付くと、彼には目もくれず術の攻防を続ける警備員達の合間から、階段を駆け下りるバスクの姿が見えた。

 

院内で姿くらましは出来ない。如何に高速で動く奴でも瞬間にこの場から消えることはできない。一階の出口までたどり着き、そこからしか出られない事実は確定している。

それまでに何とか取り押さえることが出来れば……

 

サイレントは警備員達の手元に向けて素早く杖を振る。

「ブラキアビンド」

警備員達は、見えない何かに両腕を拘束されてもがいた。

 

そのままサイレントは走り抜けて先を急ぐ。

 

階段を駆け下りて二階の廊下が見えてくる。更にそのまま一階への階段に差し掛かる。

 

しかし、ここでまたしても問題が発生した。

階段を下りる途中、一階から駆け上がってくる新たな警備員と鉢合わせになったのだ。

問題は、警備員が出会い頭にすぐさま術を放ってきたことだ。

 

ギリギリで反応し、警備員の攻撃を打ち返した。

男は反射した閃光を食らって階段を転げていく。

そしてその先から更に二人、三人と警備員がぞろぞろ駆け上がってきた。

 

彼らは階段を転げ落ちる仲間を見ようともせずスルーして、その先のサイレントに目線を合わせて反らさない。

そんな彼らの顔を見ると、まるで探していた獲物を見つけたかの如く鋭い目つきだ。

 

様子が明らかにおかしい。また奴に操られているとしか思えない。

そして彼らもまた迷いなく、一斉にサイレントを攻撃するのだった。

 

サイレントは一発ずつ確実に防ぎながら後退する。

このまま突っ切るのは無理だ。道を変える必要がある。

 

そのまま二階に上がり、目の前に横切る直線の廊下に走り出た。

サイレントは全速力で走りながら次の手を考える。

 

廊下の側面は、端までガラス張りになっている。

後ろからは大勢の警備員がすぐに追い付く。

そして既に最悪の状況が予測できている。廊下の先の方からも足音が聞こえるのだ……

 

院内至る所でサイレン音が鳴り渡り、前後からは警備員が迫る。

これでは自分が殺人犯みたいな状況ではないか。

 

息をつく暇はない。後ろから呪文を撃つ音が聞こえた。

サイレントは走りながら後ろに杖を振り、背後で閃光が散る音がした。

間近で術が弾ける反動が杖に伝わる。

そして途絶えることなく次の攻撃が迫り来る。

 

絶え間無い閃光が彼の背後を襲い、左右に避けながらも走る足を止めない。

バスクと立場が一気に入れ替わった。もはや警備員は奴の操り人形だ。

 

そしていよいよ前方の角から数人の警備員達が現れた。

彼らもサイレントを見るなり、声もなく一斉に杖を上げる。

 

サイレントはここで立ち止まった。

何の罪もない警備員相手に本気で戦う訳にもいかない。この状況を打破するには、この廊下から一瞬にして離脱するしかない……

 

わずか一瞬の考えで答えを決めたサイレントは、側面のガラス張りの壁に杖を向けて呪文を言った。

「ボンバーダ・マキシマ」

 

直後、瞬きと共に爆風が発生、そのままガラス張りの一部が砕けて大きな穴が空いた。

 

サイレントは穴に飛び込むかのように、外へとダイブしたのだった。

 

同時に杖をもう一振りする。

すると落下する彼の体の真下に箒が出現、そのまま股がり地面すれすれで上昇した。

 

加速して高度をぐんぐん上げると、この空間全体を視界に捉えることができた。

 

病院の外は、あらゆる種類の薬草や樹木が生い茂るひとつの自然環境になっていた。

 

遠くは霧がかかりよく見えないため、どれ程の広さがあるのかわからない。

それは頭上まで包み込むように続いていて、天辺からは魔法の光が太陽光のようにギラギラと輝き、この空間全体を照らしている。

 

この空間は、言うなれば巨大なビニールハウスの中に病院が建っているようなものだった。

 

サイレントは上空に舞い上がり、病院から距離を離す。

下を覗くと、箒に乗った警備員達が飛び交っているのが見えた。

思った通り、彼らはまだ追うことを止めない。

 

サイレントは高度を下げて森林地帯へと突入する。

木々の合間を高速で掻い潜り、警備員達の視界から外れる。

飛びながらも同時に警備員達の位置を把握する。

 

病院から新たに出てくる箒は無し。全員がこの空間に出てきているということだ。

 

サイレントはUターンして、森林地帯から真っ直ぐ病院の方向へスピードを上げた。 

 

草木が高速で左右を通りすぎ、風を切って森から姿を現した。

 

早速、遠くの方から一本の箒が向かってくるのがわかった。

あとは速さの勝負だ。

 

病院の壁がみるみる迫り、ガラス張りに空いた穴の中へとそのまま突っ込んだ。

入り込むと同時に思い切り箒の先端を上に引き上げ、急ブレーキをかける。

 

サイレントは箒に股がったまま廊下の反対側の壁をキックし、その反動で方向転換する。

足に衝撃が伝わり、痺れをこらえながら再び箒のスピードを上げる。

 

そのまま箒で廊下を突き進み、階段の近くで飛び降りた。

まだ足の痛みが消えない。

しかしぐずぐすしている暇はない。

痛みを感じながらも階段を駆け下り、なんとか一階へたどり着く。

見ると、もう誰も院内には居ないようだった。

すなわち、バスクには逃げられたということだ。

 

サイレントは息を切らしながら走しり続け、ようやく一階フロントまで到着した。

「インビジビリアス」

最後まで気を抜かず、自身に術を唱えると身体は透明になり、その場はただサイレンが鳴り続ける誰もいない受付となったのだった…………

 

その頃…………

 

 

ウィンターベール海域・グロリア砦、とある広間にて

 

彼は一人、ある物の前にたたずんでいた。

「エンブレムが消えていない。ということは彼は違った。」

彼は首に掛けたネックレスに繋がれたグロリアの紋章を触りながら言う。

 

「あの男は確かにリビングストン。グロリアを裏切ったと思われていた男だ。そして何らかの理由で記憶を失っていた。しかし予想が外れた。エンブレムが消えていないということは首領後継者はまだ生きている。彼は確かに死んだ。彼ではなかったということだ……」

 

戻ったばかりのバスクは、ついさっきまでの自分の読みが外れていた事を自覚していた。

 

「それに、サイレントが彼に接触していたのは何故だ。今日、記憶喪失の患者を探して偶然リビングストンにたどり着いた。彼の現状を、我々の誰もが知らなかったというのに……」

 

そして彼は首元から目の前の物へと目線を移した。

「ここに再び光が戻るのはいつになるか……どうすればいいのか……最後のピースが今だわからん。」

 

そこには、広間を埋め尽くさんばかりの巨大な円形の造形物があった。

円は層になっていて、上にいくにつれてどんどん小さくなっていく。

そして、一番上の中央には透明のドームが設置され、中には無色のクリスタルが入っているのが見えた。

 

「だが私の計画に変更はない。必ず私が起動する。この魔光力源を。」

彼は確かに、目の前の物を見つめてそう言ったのだった…………

 

 

 




次話 最終章-第四幕 報復の音 予告

病院から脱け出したサイレントとバスクは、戦う互いの陣営に加わるためにブレント地方へと急行。

そしてブレント地方でのグロリアの本当の計画が実行される時、ナイトフィストも水面下の計画を実行に移す。

互いの隠された計画がぶつかり、最後に倒れるのは誰だ…………

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