――――"聖杯"。
それは、あらゆる"奇跡"を叶える力を持つ、万能の杯。
――――"聖杯戦争"。
それは、七人の
過去、三度に渡り繰り広げられた聖戦だが、四度目を迎えた時、その戦いは破綻した。勝者に捧げられる無色の聖杯が、その権能を濁らせ、悪意に染まっていたのだ。
最初に気が付いたのは、此度の聖戦に招かれた一人の男だった。英雄たちの頂点に君臨する、
だからこそ、男はこの戦いに背を向けることを決めた。臣下の礼を取りながら、その実、彼を出し抜こうという愚かな思いを抱く男に実情のみを伝え、自らの首を落としてみせた。
それが始まりだ。
男に見捨てられた魔術師は、男の言葉を切り捨てた。
故に、第4次聖杯戦争は、男を召喚した者ではなく。己の力だけで汚染された聖杯に辿り着いた一人の
汚れは大本である大聖杯にまで及んでいた。これでは闘う意味などないと、魔術師殺しと騎士王は嘆き、怒り、他の
時計塔の天才は、苦渋の表情で説得に応じた。
迷える教会の使徒は、無感動な顔で頷いた。
未熟な青年は、不満げではあったが理解を示した。
ある少女の為に出戻った男は、絶望を隠しきれずに嘆いた。
快楽殺人者は、そんなことは関係ないと笑った。
この聖戦に勝者はいない。ただ、敗者がいるとすれば。それは、
最初に
――――王よ、貴方の言葉は決して間違ってはいなかったのだな。
後悔と自責の念に駆られながら、誰よりも聖杯の汚染を取り除くことに魔術師は全霊を注いだ。他の者と手を取り合い、無色の願望器に戻れよと祈りながら。
2年が経った。
聖杯の汚染は見事取り除かれ、それを見届けた英霊たちはそれぞれの思いを胸に、その地を去っていく。
最初に
次に
続いて
さらに
最後は
曰く、此度の現界は無念しかないと。
曰く、貴方と言葉を交わし、互いを理解できなかったことが残念だと。
曰く、次があるのならば、今度こそ貴方を理解したいと。
曰く、次こそは必ず、"願い"を叶えてみせると。
そうか、と。切嗣は表情もなく頷いて背を向ける。そしてセイバーもまた、そんな彼に背を向けて消えていった。その様子を、アイリスフィール・フォン・アインツベルンが、少しだけ寂しげに見守っていた。
そして、すべてのサーヴァントが消え、立会人たる遠坂時臣は小さく嘆息する。これで、終わったのだ。勝者のいない、聖杯戦争が。
そのさらに2年後。彼を見限った王が、数奇な運命のもと、一人の少年に招かれる。
― ― ― ― ―
玉座に深く腰を下ろした男は、傍らに現れた者に言う。
「
「なんだい、
「
口許を歪め、心底愉快だと言いたげな口調に、
「ふふふ……そうだね、そうだとも。お互いがお互いに相応しい。僕も、会ってみたいものだ」
そうだろうと返し、男はだだ広い蒼穹を見上げる。
「―――■■よ」
その名を口にした瞬間、遥か彼方から鐘の音が聞こえてくる。それは誰かの死を告げるものではない。しかし、誰かの生を祝うものでもない。ただ、喚んでいるのだ。
「思ったよりも早かったね」
その言葉に頷き、男は玉座から立ち上がる。
「行ってらっしゃい。君の――――
「ああ」
そうして、男は座から消えた。
――――