俺、クラフトなんて使えません   作:大小判

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 公式サイトのロングヘア―のフィーの後ろ姿にときめいた同志たちよ、集まれ!


執拗なまでの鼻責めを受けました

 

 

 

 

 

 現状とそれに至るまでの経緯を整理しよう。

 

 ジャック・ロランドがエレボニア帝国トリスタに建つ伝統のある軍学校、トールズ士官学院に入学した初日の事だった。

 将来の就職に有利そうという割と浅いようでありふれた動機から試験に臨み、見事合格を果たしたジャックはこの春から士官学院の1年生となったわけだが、合格通知が届いた時点で疑問にとどまらず警戒もしておくべきだった。

 

 エレボニア帝国には強固な身分制度が存在する。その体制を崩そうとする鉄血宰相率いる《革新派》と取得権益を守らんとする《貴族派》の争いが工程でも止められない現状を示すように、学院の生徒の制服は貴族なら白、平民なら緑と区別されているほど。平民であるジャックが合格通知と共に受け取るべき制服の色は緑であるはずなのだが、どういう訳か届いたのは赤い制服だった。

 

 まぁ、学院に行けば分かるだろうと赤い制服を着て初通学。途中、赤や緑の制服を着る生徒の中でほんの数える程度、赤い制服を着ている生徒を見かけた。その中でも、特に印象深い銀髪の少女がいた。

 手足を折り曲げベンチの上で眠る、何処か猫を思わせる小柄な少女。端正な容姿を気にも留めてなさそうな適当に切ったと思われる短髪は春の陽光とライノの花が舞う風に晒され、光を反射しながら柔らかく揺らいでいた。

 それだけなら、思わず見惚れてしまっていただけで済むだろう。どちらかが悪いという訳ではないのだが、入学式の時間が迫っているにも拘わらず眠り続ける少女を揺り起こそうとした時のこと。

 今回の出来事を機に美少女とお近づきになろうとした邪な気配を察したのか、勢いよく上体を起こした少女の頭がジャックの顔面に直撃。鼻がグリィッ! と嫌な音を立てたのは気のせいだと思いたい。

 

「鼻がっ!? 鼻がぁぁっ!?」

「……痛い」

 

 それぞれ鼻と頭を押さえながら悶絶する。それがジャックと少女――――フィー・クラウゼルの出会いだった。

 ひと悶着あったものの、5割は親切心(残りは邪な気持ち)で起こしてやろうとしたことと、同じ赤い制服を着ていたことから喋りながら学院まで歩くことになったジャックとフィー。もっとも、フィーの口数は少ないので大したことは喋れていないのだが、覚醒しても何処か眠たげな眼をしている彼女は、冷たい雰囲気に反して割りと話しやすかったのでジャックの中の評価は上方修正。

 

「なぜ幼女が士官学院の制服を?」

「よっ!? 幼女まで言う事ないんじゃないかなっ!? うぅ……気にしてるのに……」

 

 これは幸先が良いんじゃないかと期待に胸を膨らませながら学院の門に着くと、先輩を自称(事実そうなのだが)する栗色の髪の少女と恰幅の良いツナギの青年が待ち構えていた。何でも、赤い制服を着た生徒から持ってきた武器を一旦預かるとのことらしい。フィーが荷物を預ける時、何やら冷や汗をダラダラ掻きながら顔を蒼くするジャックを訝しんで、何かあったのか聞いてみると――――

 

「あの……武器なんて要るの? 俺聞いてないよ?」

「………何しに軍学校に入学したの?」

「いやいやいや、最近のトールズは普通科もあるっていうから……大体俺、武器らしい武器なんて入学の時に貰った戦術オーブメント位しか持ってないし」

 

 予想外の事態がありつつも、その後滞りなく入学式を済ませたジャック。その後彼を含めた赤い制服の生徒10人は何処に行けばいいのかと戸惑っていると、ワインレッドの髪が特徴的な巨乳の美人教官が担任だと言って現れ、ジャックのテンションはうなぎ登り。

 

 サラ・バレスタインと名乗った教官に旧校舎まで誘導され、彼らが身に着けている赤い制服についての説明が行われた。トールズ士官学院は貴族生徒を集めたⅠ組とⅡ組、平民生徒を集めたⅢ~Ⅴ組の、5つのクラスが学年ごとに設けられているが、ジャックたち10名はそんなトールズ士官学院に新たに設けられた身分を問わない特科クラス、《Ⅶ組》だという。

 途中でいかにも貴族が嫌いそうなメガネ男子と偏屈そうな四大名門の息子の嫌味の応酬があったが、それらをサラが軽く窘め、壁のボタンを押した途端、文字通り床が傾いた。

 

 その角度、およそ70度以上。壁といっても差し支えの無い急斜面を前に転がり落ちていく生徒の中で無事だったのは、事前にトラップの気配を察知し、天井の梁にワイヤーを括り付けてぶら下がるフィー。そして昔から嫌な予感だけは無駄に当たるジャックが穴の縁に脂汗を浮かべながらぶら下がっていた。

 

 そして今に至る。

 

 一体どこで間違えたのか、ジャックから見れば底の見えない穴に落とされかかって九死に一生を得た気分だ。

 

「フィーはともかく、あんたが残ったのは意外ね」

「こ、こここここここ殺す気かぁっ!?」

 

 まさか入学初日のオリエンテーリングと称して転落死させられそうになって(少なくともジャックはそう思っている)、思わず生徒と教官という関係すら忘れて吠える。

 

「殺すだなんて、そんな物騒なことしないわよ。ほら見てみなさい、ちゃんと斜面になってるでしょ? 無駄な抵抗をしなければ普通に転がり落ちていけたわよ」

「あ、間違っても滑り落ちるとは言わないんですね」

 

 転がり落ちると滑り落ちるとでは結構大きな違いがあると、ジャックは考えている。

 

「フィーもサボろうとするんじゃないの。オリエンテーリングにならないでしょうがっ」

「はぁ……メンドクサイな」

 

 サラが投擲したナイフがワイヤーを切断。フィーは軽くスカートを抑えながら穴へと落ちていった。

 

「し、死んだぁああああああああああっ!!?」

「大丈夫よ、この位ならあの子は怪我一つしないから。ほら、あんたも早く行った。なんなら私がその腕を外してあげましょうか?」

「ちょっ!? あんた何つーことを!?」

 

 どこかSっ気を滲ませながらジャックの元へ歩み寄るサラ。掴まる場所が悪かったのか、ジャックが今この腕を外せば2アージュほど下の斜面に落とされ、そのまま転がり落ちる羽目になるのは必至だ。

 

「せめて、せめて俺を斜面の所まで――――」

 

 連れて行ってくださいと言おうとして、ジャックは気が付いた。

 この美人教官は丈の短い服を着ている。床に頭がある状態のジャックにサラが近づけばどうなるか。一瞬だけ悩み、彼は恐怖を振り払う。

 

「俺は絶対にここを離れませんからね!」

「言ってくれるじゃない。そこまで言うなら抗ってみなさい」

 

 ジャックの目論見通り、ニヤリと何処か好戦的な笑みを浮かべて近づいてくるサラ。距離を詰めるたびにゆっくりと露わになる透き通るような肌にジャックのテンションは上がっていく。

 

(後の事なんて考えるな。全てだっ! 俺の全てを腕に集中させろっ!)

 

 血走った眼でサラのスカート部分を凝視。思わずニヤつく顔を腕で隠し、今、魅惑の領域が目の前に広がろうとして――――

 

「タダ見しようとしてんじゃないわよ」

「教官のおパンツ様を拝もうとしたら一瞬でバレたっ!」

 

 ハイヒールでまたしても鼻をグリィッ! と抉られ、思わず腕を離してしまうジャック。

 

「どぅっ!? ごっ!? がっ!? ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?」

 

 斜面に叩き付けられ、全身をくまなく打ち付けながら転がり落ち、最終的には顔面……特に鼻を擦りつけながら急斜面を下っていく。割と長い鼻責めを受け、ようやく斜面が終わったかと思いきや、斜面と床は断層で区切られており、勢いよく顔面……というか鼻から床に着地。

 

「ぐごっ!!? あっ!? …………きゅぅ」

 

 そこから更に体は跳ね、後頭部を床にぶつけてようやく止まり、ジャックの意識は闇へと沈んだ。

 

 

 

 

 

 

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