まぁ、最新作発売したということで、全国のフィー萌えの読者様にお尋ねしたい。
……ファルコムのシナリオライター、本編意識しすぎて旧Ⅶ組との前作の絆イベントって言うか、個別ルートを考慮してない手抜き状態っていう噂、マジですか? 僕的にはてっきり、リィンがルトガーに「フィーを俺にください!」っていうイベントを期待してたんですけど、前作の学生寮や後夜祭的なイベントも無し?
「うわぁ……」
橙色の髪の少年は思わず呻いた。落とし穴から落ちてきた、同じ赤い制服で身を包んだ茶髪の同級生は顔を強かに打ち付けた後、後頭部を強打して鼻血を出しながら気絶している。歯や骨が折れずに、鼻血と打撲で済んでいるのは不幸中の幸いだろう。
『あ~、その子大丈夫?』
「完全に気絶してる……無理っぽいね。上で何があったの?」
『ん? いや、ちょっとね。あははは』
その場に居ないサラの何処か後ろめたそうな声がフィーが耳に当てる導力器から響く。最新型戦術オーブメント《ARCUS》の機能の一つ、遠隔通信だ。
「だがどうする? 奥には魔獣の気配もある。このまま寝かせて置くのは危険だぞ」
褐色肌の青年の言葉に一同頭を捻る。この先に生息する魔獣を鑑みれば置いて行くことも、背負って連れていく事も危険なのは子供でも分かる。ならジャックが起きるのを待つべきだと、黒髪の青年が進言しようとした。
「大丈夫。今起こすから」
しかしその前に行動に移したのがフィー。倒れ伏すジャックの上に跨り、自身の手とジャックの顔の残像を残すほどの速さで往復ビンタするフィー。偏屈そうな金髪の青年ですら「もう止めたげてよぉっ!」と言い出しそうな、今日会ったばかりとは思えない暴挙。後に彼女はこの時の事をこう語る。
『ん。なんか初めて会った時からどんな悪ノリも許される、そんなオーラが出てた』
スパパパパパパパンッ! と、何十発か頬を打った後、ジャックはようやく意識を取り戻した。
「はっ!? 俺は一体……?」
「おはよう、ジャック」
「フィー? そういえば、俺はあの時サラ教官に落とされて……」
「ん。気絶した所を、わたしが介抱した」
いけしゃあしゃあと宣うフィーの言葉に他の全員がざわつく。幸か不幸か、ジャックはそれに気付かなかった。
「そうなのか? ありがとう、フィー。ところで俺の顔なんか腫れてないか?」
「気のせい」
気のせいではない。実際顔が2倍くらいに腫れ上がっていた。何となく周囲に顔を向けると、皆何か言いたげだが、何も言いたくない。そんな微妙な顔をして顔を背ける。
(女子まで顔を背ける……さては俺に惚れたな?)
しかし脳内お花畑な彼はそんな妄想に囚われていた。
(でもごめんな。俺皆のこと名前も知らないから、返事のしようが無いんだ)
フッとニヒル(のつもり)な笑みを浮かべる。勝手に妄想した上に勝手に振るときた。彼女たち全員が理由に心当たりのない殺意を覚えたのも無理は無いだろう。
『さ、さぁて! ジャックも起きたみたいだし、そろそろオリエンテーリングについて簡単に説明しましょうか!』
どこか焦ったようなサラの一声でこの一見は一旦水に流される。
その後、地下のダンジョン区画から旧校舎一回を目指すように指示された特科クラス《Ⅶ組》は、続けざまの指示通り《ARCUS》に各々の武器と共に置いてあったマスタークォーツをセット。これにより《ARCUS》で
「ちょいちょいちょーい。どこ行くのさ?」
「どこって……先に行こうかなって」
「待って待って! 俺も行くってば!」
《Ⅶ組》全員、今日会ったばかりとはいえ、よく知らない相手よりも名前を知っている者と共に行動したいが為にフィーに同行したジャック。彼女個人としては面倒事をさっさと済ませたいので、ジャックを突き放さず、それでいてペースを合わせる事無くダンジョンを疾走するが、意外なことにジャックはフィーのペースにピッタリ合わせてきた。
小柄で歩幅も短いフィーだが、その移動速度は一般人のそれを遥かに逸脱し、並の軍人や武人をも凌駕している。しなやかな足が躍動するたびに風のように進む自身の隣を事も何気に走るジャックを訝し気に横目で見ていると、彼は急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「……あの突き当りの曲がり角、なんかスゲー嫌な予感がする」
指し示した曲がり角は、100アージュを優に超えた先にある。フィーは特に何も感じられない距離から、ジャックは何らかの脅威を感じ取ったらしい。
「ていうか、さっきから言おうと思ってたんだけど、ここ何? 上手く言えないけど、なんかあちこちからすっごい嫌な感じがするんだけど」「それ、多分魔獣の気配」
「………ゑ?」
裏返った声を出した後、遠くから聞こえた物音にビクリと全身を震わせ「そういう事は先に言えよー!」と叫ぶジャックを華麗にスルーし、フィーは銃と一体となった二振りの短剣、双銃剣を抜いて曲がり角の先の様子を窺う。
物陰から見た通路、タマゴほどの大きさに見えるほど遠く離れた場所を一匹の飛び猫が気持ちよさそうに浮遊している。あんなに離れた場所に居る魔獣を、自分よりも先に察知したなら只者ではない。フィーは訝し気にジャックを見ると――――
「いやああああああ!! 誰か助けてヘルプミー!!」
飛び猫三匹に追いかけられていた。逃げる速度は尋常ではないが、魔獣に襲われるその姿は何処をどう見ても一般人のそれだ。
(ないない。あり得ない)
実力を隠しているのでは? そう思ったが雑魚と言っても過言ではない魔獣を相手に逃げ回るジャックを見てその可能性を即座に否定する。実際、演技でも隠している訳でもなくジャックは本気で雑魚相手に逃げまくっているのだ。
「やっ」
双銃剣が三度、火を噴く。早く、正確に撃ち落された飛び猫とフィーを見比べたジャックは、媚びへつらいながら近づいてくる。
「いやぁ、助かったぜフィー。足が速いだけじゃなくて強いなんて、ホント頼りになるぅ! この先も、期待してますよ先生。えへ、えへへ」
魔獣という危機を全てフィーに排除してもらう為に下手に出始めた。ここまでくると、いっそのこと清々しい小物感だ。
「それはいいけど、戦術オーブメントがあるならアーツで追い払えばいいのに」
「いや、だって俺こんなハイテクなの使ったことねぇよ。俺ん家にもオーブメントあるけど、第一世代のデカい、駆動が遅い、燃費が悪いの三重苦のやつだし」
「それはある意味凄いと思う」
今時の十代の若者が第一世代の戦術オーブメントしか使ったことが無いとか珍しい。
「まぁ、確かに怪我しないためには必要だな。つーわけでフィー、使い方教えて」
「めんどい」
「即拒否、だと!?」
そのまま先へ進もうとする彼女の脚にジャックはしがみ付く。
「頼むよぉ! こんな閉鎖された場所で足だけを頼りに魔獣から絶対に逃げきれるとは言えないんだよぉ!」
自分の身の危険が関わってくるだけに、ジャックも必死だ。そんな情けない姿にフィーは溜息を一つ零し、その場に立ち止まって操作指南に時間を割くのだった。
主人公は別に武術を嗜んでいたとかそんな設定は全くありません。ただ、危険を見分ける才能に溢れているだけです。