カメンライダー   作:ホシボシ

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第8話 真実の扉

 

 

エグゼイドはピンク色に染まったドレミファビートを装備し、爆炎の中を歩いていく。

腕にあるターンテーブルを回すと、肩にあるスピーカーから音楽が鳴り響き、爆炎を吹き飛ばしていった。

 

 

「な、なんだこの音は――ッ!」

 

「エグゼイドのOPだ。勉強しておけと言っただろう」

 

 

ため息をつき、立ち上がる本条。余裕が消えたようだ、薄ら笑いを消してエグゼイドを睨みつけている。

エグゼイドはまたターンテーブルを回して曲を選択。奏でられるのは『PEOPL EGAME』、今のエグゼイドにとって、これは仮面ライダークロニクルのOPではない。

かつて、ポッピーのために永夢が作った曲だった。

 

そういう思い出があった。

虚像だと思われていた時間に、確かに思い出があったのだ。

観測はできなくても、しているものがいても、されなくても良い。

全てはこの胸の中にある。エグゼイドは確かに立ち、そして本条とパラゼイドに対峙していく。

 

 

「彼女の苦しみを……、誰が理解してあげられるんだ。世界はこんなに広いのに」

 

 

ポッピーの決意を、察したように呟く。

 

 

「理解できないし、下らない。寒いだけだよエグゼイド」

 

 

優しい笑みを浮かべ、本条は警告してあげる。

ディケイドはアタックライド・ユナイトベントを使用し、消えたばかりのポッピーの残りカスを全てドレミファビートのガシャットに埋め込んだ。

 

 

「面はこんなに広いのに、その中の点を人は誰も見つけられない。ボクたちはちっぽけだ。そんなのあまりにも、あまりにも……!」

 

 

エグゼイドは拳を握り締めている。焦燥感ばかりが胸を渦巻く。

 

 

「なら理解できるだろ!!」

 

 

唐突に、本条が声を荒げた。

 

 

「生きていくことは、失っていく事だ! それを他の人間にも味あわせるのか?」

 

 

本条は理解している。永夢はもはや覚悟を固めたのだと。

前に進むつもりなのだ。扉を開くつもりなのだ。たとえそれが茨の道であろうとも構わない。

ポッピーがあれだけ苦しみ、戦ったのならば、次は自分が苦しんでもいいから真相にたどり着こうという決意。

だからその前に、本条は声を荒げた。エグゼイドがバカな道を歩まぬように。

 

 

「お前の気持ちは分かってる! そんなものはただの強がりでしかない! お前は結局、傷ついた心を強固な仮面で覆い隠そうとしているだけだ!」

 

「かもッ、しれない!」

 

「その心引きかされるほどの苦痛を、これから皆に味合わせるのか!? この先に進むという事はそういう事だ!」

 

「ポッピーは――ッ!!」

 

 

エグゼイドも理解できる。

告知をする事で自暴自棄になってしまう患者がいると言うのは、誰だって分かるだろう。

しかしそれを望む人間だっている。人はいつ死ぬかなんて分からない。病気じゃない人間だってある日事故で一瞬で命を落とすかもしれない。だから分からない。

だが、それでも――、どう生きるかくらいは。

 

 

「ポッピーは……、それを望んだ!」

 

「馬鹿が! もういい! 言っても分からないならパラゼイド! 分からせてやれ!」

 

前に出るパラゼイド。

エグゼイドもまた、前に出る。

 

 

「パラゼイド、お前を攻略する!」

 

「エグゼイド! お前を攻略してやる!」

 

 

エグゼイドは指を伸ばし、広げる。

パラゼイドはエグゼイドを指差す。

二人の天才ゲーマーの対決。賭けるのは、その存在。

 

 

「さあ、ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!!」

 

「さあ、ノーダメージでクリアしてやるぜ!!」

 

 

ターンテーブルを回すエグゼイド。

すると、曲が変わった。そして景色も変わる。

荒野だ、周りにはなにもなく、誰もいない。ただエグゼイドとパラゼイドが立っている。

空は青空だった。雲ひとつない快晴。青一色の空。曲名は『エイリアンゲーム』。音楽が鳴り響くなかで、エグゼイド達は咆哮をあげてぶつかり合う。

そしてただひたすらに拳を打ち付けあった。

 

 

「ぬうゥウァアア!!」

 

「ウガアアアアアア!!」

 

 

武器は使わず、ただひたすらに殴りあう。

避けない。面倒だからだ。話が早くて済む。

 

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

交差する拳。二つの手がお互いの頬を抉った。

 

 

「―――」

 

 

エグゼイドの口から血が霧の様に吹き出た。

まだレベルの差は大きいらしい。地面を倒れ、転がるエグゼイド。

そして別の場所では、喫茶店のマスターがカップを落とした。

 

 

復活、変身、東京、疾走、距離。

青龍、傷心、射手、兄妹、熾烈。

約束、恩師、不審、前兆、装甲。

信条、臨戦、喪失、霊石、笑顔。

暗躍、遊戯、不安、強化、彷徨。

 

 

「――え?」

 

 

音楽は、記憶を定着させる効果があると言われている。

 

自分、波紋、解明、岐路、運命。

応戦、障害、連携、戦慄、愛憎。

錯綜、接近、変転、強魔、衝動。

抑制、戦場、現実、危機、強敵。

不屈、初夢、決意、空我。雄介。

 

何か感情が揺さぶられる事が起こったときに聞いた音楽には、その映像が張り付く。

そして時間が経ったあとに、その音楽を聴くと、その時の事が思い出されるというものだ。

エグゼイドが奏でる音楽は世界に響いた。空間を越えて、場所を越えて、たしかに耳に届いたのだ。

心に届いた音楽は、記憶を蘇らせていく。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

発光するエグゼイド。『一人』が、記憶を取り戻した証拠だった。

立ち上がると、ガシャコンブレイカーを手にして地面を蹴る。同時に変わる音楽と景色。『ロストメモリー』、大雨が降るフェリーボートの甲板で、斧と剣がぶつかり合った。

 

 

『レベルアーップ!』

 

「ハァアア!」

 

「ウッ! ブッッ!!」

 

 

甲板に倒れる二人。窒息しそうになるくらいの大雨の中、エグゼイドの体が光る。

すると先程までは防戦一方だった動きに少し変化がでてきた。エグゼイドが徐々にパラゼイドの斧を回避しはじめ、カウンターの一撃が入るようになってきたのだ。

 

 

「クソッ! 何がどうなって!!」

 

 

パラゼイドが困惑するなか、音楽と景色が変わる。

曲名、『ミラーラビリンス』。虹色の空、金色の砂丘の上で、二人は殺しあう。

 

 

『ゲキトツ! ルォボッツ!』

 

 

エグゼイドはガシャットを起動させてスロットホルダーに差し込んだ。

パラゼイドの背後に広がるゲキトツロボッツのタイトル画面。そこからロボットゲーマが飛び出し、パラゼイドに突進しかける。

 

 

「ウゼェな! 邪魔だ!!」

 

 

パラゼイドは斧を振るい、ロボットを弾き返すが、それは囮。

エグゼイドはパラゼイドが動きを止めている間に、ドラゴナイトハンターZを起動させてハンターゲーマを召喚させる。

竜は咆哮をあげると、火球を次々に口から発射してパラゼイドに浴びせていった。

 

 

「ウガァアァアアア!!」

 

 

爆発が次々に巻き起こり、砂が巻き上がる。

砂煙で何も見えない――、が、その中で発光するエグゼイドのシルエットは確認できた。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

パラゼイドが爆炎と鉄塊に怯んでいる間に、エグゼイドはレベルアップを果たす。

ターンテーブルを操作し、曲とステージを変更。タイトル、『GO! GO! GO!』。ステージはスーパーアリーナ。

 

 

「……!」

 

 

エグゼイド達が戦っている所とは別の場所。

一人の男はアイロンをシャツに押し付けたまま固まる。

焦げ付く臭いが鼻をさすが、男は動かない、動けない。

こみ上げる吐き気に顔を真っ青にして、男は腰を抜かす。

 

息が荒い。

肩を大きく揺らした男は、なんとかアイロンをシャツから放した。

耳に張り付く狼の鳴き声は、幻聴なのか。それとも――。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

一方でエグゼイドはさらなる強化を果たした。

曲名は『スペードのエース』。場所は崩壊する施設の近く。桜の花びらのようにトランプがヒラヒラと舞い落ちている。

向こうの方にコチラを見てくる者がいるような気がするが――、気がするだけ。

 

 

『キメワザ!』

 

『ロボッツ!』『ハンター!』『クリティカルフィニッシュ!』

 

 

叫び、走るエグゼイド。

ロボットゲーマが腕で刃を擦り、研ぎ始める。さらにハンターゲーマが炎を発射し、キースラッシャーの刃に炎を纏わせた。

 

 

「クソォオ! ウォァアアア!!」『キメワザ!』

 

『ノックアウト!』『クリティカルフィニッシュ!』

 

 

発光する斧と、燃える剣がぶつかり合い、二人はただひたすらに武器を交わらせる。

ガキンガキンッ! と、ぶつかり合う音、舞い散る火花。ギリギリと競り合いながら停止する二人。

 

 

「ウゥウウッゥアアア!!」

 

 

唸るパラゼイド。するとエグゼイドが少し押され始める。

 

 

「グッ!!」『レベルアーップ!』

 

 

だがそこで発光。そして強化。

すると押され始めていたのがウソのように盛り返し、逆に刃を弾き返す。

 

 

「!」「!」

 

 

後退する両者。エグゼイドは素早くターンテーブルを回し、曲を変化させた。

それは『義心暗鬼』と言う和風の音楽。すると周りの景色もまた木々に囲まれた自然溢れる山の中に変更されていく。

 

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

草を掻き分ける音が聞こえた。

エグゼイド達は全速力ですぐに距離をつめ、エネルギー溢れる刃を思い切り打ち付けあう。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

激しい力と力のぶつかり合いで、エネルギーが拡散。

木々に触れたカラフルなエネルギーは熱を生み出し、瞬く間に炎が広がっていく。

山火事だ。炎が溢れる中で、エグゼイド達は踏みとどまり、にらみ合う。

 

 

「エグゼイド! お前は自分がなんのために生まれてきたか! 考えたことはあるか!!」

 

 

倒れる木々。

その中でパラゼイドが吼えた。

 

 

「役割だよ役割! おれ達は所詮アクターでしかない! 神を楽しませるための玩具だ!」

 

「………」

 

「アンタは負けた! 負けただろ! だったら負けままいやがれェエ!!」

 

 

エグゼイドは無言で音楽を変える。『豆腐音頭・おばあちゃんの味』。景色は東京タワーが見える公園。

 

 

『高速化!』『高速化!』

 

 

残像を残しながら二人は斬りつけあう。

キースラッシャーとガシャコンブレイカーを二刀流にして、エグゼイドはパラゼイドの懐に飛び込んだ。

 

 

「しま――ッ」

 

 

理解したときには、パラゼイドの肉体にいくつもの斬撃が刻み込まれていた。

焼け付くような痛みが全身に走る。怒り、同時に焦り。

パラゼイドが聴いたのは、耳障りな電子音。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

時計ばかりの広場に変わる。『Climax high』を聞きながら、エグゼイドはマキシマムゲーマを召喚した。

空中に浮遊するパワードアーマー。エグゼイドは飛び上がると、それを思い切り蹴り飛ばしてパラゼイドへ向かわせる。

スピードは速いが、今はパラゼイドも高速化を発動中。真っ直ぐに迫るパワードアーマーは、さして脅威でもなかった。後ろに跳べばなんの事はない。

 

 

『レベルアーップ!』

 

「!?」

 

 

だが景色が変わる。『ヴァンパイアメロディ』が響くのは、狭い教会だった。

背後に壁を感じる。見上げると、ステンドグラスが輝いていた。

 

後ろはダメだ。横に逃げなければ。

そう思ったとき、パラゼイドの視界が赤と黄色に染まる。

パワードアーマーに気を取られ、ローラーブレードで一気に距離を詰めてきたバーガーゲーマに気づくのが遅れたのだ。ケチャップとマスタードによる目潰し。

思考が停止する。直後衝撃。降って来たパワードアーマーがパラゼイドに直撃していた。

 

 

「ぐあぁああああ!」

 

 

悲鳴と共にまた景色と音楽が変わる。『Destroy the world』、様々な色の光線が飛び交う平地。

地面を転がるパラゼイドを、丘の上で渡と剣崎が確認している。

 

 

「愚かな……」

 

 

渡はため息をついた。これから先の未来を想像してうんざりしているようだ。

隣にいる剣崎も腕を組んで険しい顔をしている。

 

 

「止めるか?」

 

「いえ。ここまで来たら知ってもらったほうがいいでしょう。そのほうが、我々も動きやすくなる筈です」

 

 

頷く剣崎。

白と黒は無言でエグゼイドを観察していた

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

風車が見える。『風と謎と半熟卵』

エグゼイドはその中で強く叫んだ。先程の問いかけ。その答えを。

 

 

「なんのために生まれたか? それは、自分で見つけることだ! そのために人間は生きてる!!」

 

「くだらねぇ! 分かってねぇよお前は本当に!!」

 

 

モードをチェンジし、銃弾を連射するパラゼイド。

しかしエグゼイドは迫る銃弾を切り伏せながら前進していく。

曲を変えるごとにレベルアップしていくのだ、どうやら既に均衡を超えたらしい。

そう、『PAN-2'000』が流れたとき、またエグゼイドはレベルアップした。

奏でる音楽は、確かに、人の耳に届いている。

 

 

「お?」

 

 

ポケモンを探していた映司は立ち止まり、耳に入ってくる音楽に気づく。

良い曲だ。体を動かして踊り始める。

するとフラッシュバックしていく光景。赤い腕が、瞼の裏に。

 

 

「………」

 

 

記憶が溢れる。

映司は一瞬だけ真顔になる。しかし渦巻くように心がザワつきはじめる。

そして目の色が紫に、赤に、青に、様々な色に変化していった。

 

 

「ま、いいか」

 

 

映司は首を振ると、壊れた携帯を片手にポケモンを探し始めた。

もはやどれがポケモンかも分かっていないのに。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

宇宙。

エグゼイドとパラゼイドは月の上に立っていた。曲は『私の彼は宇宙飛行士』。

銀河の空。パラゼイドは斧を振り下ろす。エグゼイドはキースラッシャーでそれを受け止めると、腰を低くしてガシャコンブレイカーでパラゼイドの胴体を切裂く。

相手が怯んだところでキースラッシャーを胴体へ突き入れた。さらに引き金を引いてゼロ距離で銃弾を発射。

パラゼイドは火花をあげて後ろへ下がっていく。

焦り、怒り、恐怖。パラゼイドにはもはや余裕など欠片も無い。

 

 

「うッ! アァア……!」

 

 

さらにダメージからか、パラゼイドは地面に膝をついて息を荒げる。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

ブランコが見える。『マジックプリンス』を聞きながら、パラゼイドは理解した。

エグゼイドは既に、自分のレベルを超越していると。

故に、吼える。直接戦っていては絶対に勝てない。

 

 

「いいのか!? エグゼイド!!」

 

「………」

 

「本当はもうお前は分かってるんだろ! 思い出したんだろ!!」

 

 

パラゼイドは銃弾を撃つ。

エグゼイドはそれを弾き、前進する。

 

 

『レベルアーップ!』

 

 

禍々しい蔦や果実が見える。『極ノ将軍』が奏でるメロディ。

 

 

「その先に進む事になんの意味がある! お前たちは過去! それを聞いて負けたんだ! 分かってんのかよテメェは!!」

 

「………」『レベルアーップ!』

 

 

警察署の中、『ドライビングハート』。

メドレーは終わろうとしている。終われば幕が下りる。

 

 

「椅子にこだわるのはプライドか!? あぁッ、下らねぇわお前ェ!!」

 

「………」

 

 

キースラッシャーの弾丸がパラゼイドのガシャコンパラブレイガンを手から弾き飛ばした。

敵の武器が地面に落ちた。それを確認して、エグゼイドは自分が持っていた武器も投げ捨てる。

 

 

「ポッピーが、ボクに言ってくれた!」

 

「アホがァ! また繰り返すぞッッ!」

 

『レベルアーップ!』

 

 

エグゼイドは『ゴーストダンサー』を聞きながらガシャットをキメワザスロットホルダーに入れる。

一方、タケルが叫んでいた。頭を抑え、次々に流れていくる情報に呑まれていく。地面を左右に転がり、ひたすらに叫ぶ。

フラッシュバックする光景。アイコン、父、死。アカリ、御成。

 

それだけじゃない。知らない顔があった。

アラン、マコト、しかしそれは知らないが、知っている。

これは、どういう事だ?

 

ゴースト。仙人。ユルセン。

フレイ、フレイヤ。グレートアイ。アデル。あとは、そう――、クロエ。

さらに音楽が記憶を呼び起こしていく。

 

 

「グッ! がぁあぁあッッ! ズッッ!」

 

 

交わる世界。仮面ライダー。ディケイド。そして、青い鳥。

あれは、そう、いつか、見た。深淵。そして世界は、真理を見せてくれた。

ダメだ、違う。それは、あれは、神々の娯楽。だから、人は、苦しんで。

おれは――、逃げられない。

 

 

『キメワザ!』

 

 

銀色のボタンを押すエグゼイド。

 

 

『マイティ! クリティカルストライク!!』

【MIGHTY・CRITICAL STRIKE!!】

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」『ウラワザ!』

 

『パーフェクト! クリティカルコンボ!!』

 

 

全てのパワーを注ぎ込み、パラゼイドは両手からパズルピース型のエネルギーを連続で発射していく。

 

 

「椅子から離れろ! しがみ付くな! エグゼイドをッ、おれに寄越せェエエエエエエエエ!!」

 

 

迫る、無数の光弾。

エグゼイドは対抗するべく、肩のスピーカーから音の衝撃波を発生させる。

気のせいだろうか? いや、気のせいではない筈だ。エグゼイドとパラゼイドが同時に気づいた。音の衝撃波が形を一瞬、ほんの一瞬だけ姿を変えたのだ。

ポッピーピポパポのシルエットは、両腕を広げて、エグゼイドを守る様に飛んでいった。

そして光弾群に触れると、相殺していく。

 

 

「―――」

 

 

曲名、『恋のピポパポ』。エグゼイドはその中で飛び上がり、足を突き出す。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ヒッ! ヒィィイ!!」

 

 

まずは右足が胴体に直撃。

パラゼイドの呼吸が止まり、全身にエネルギーが迸る。

 

 

「グッ! ゴォオ……ッ!」【HIT!】

 

 

まだ終わらない。乱舞が始まった。

左足もパラゼイドに打ち当て、その反動で右へ旋回するエグゼイド。

 

 

「とッ、扉を開けば!」【HIT!】

 

 

再び左に旋回する事で右脚での回し蹴りを命中させる。

 

 

「お前はただじゃ済まな――ッ! ぎッッ!!」【HIT!】

 

 

黙れと言わんばかりに、エグゼイドは縦方向に足を振るう。

右足の踵をパラゼイドの脳天に叩き込んだ後、今度は踏みつけるようにして右足でパラゼイドの胴体を蹴りつける。

その反動でバク宙、さらに振り上げた足がサマーソルトキックとなりパラゼイドの顎を打つ。

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

華麗に一回転を決めると左足でパラゼイドを蹴り、動きを止めたところで、思い切り右足でパラゼイドを蹴り飛ばした。

 

 

「ガハアァアアアッ!」【GREAT!】

 

 

パラゼイドはエネルギーに塗れ、火花を上げながら後ろに滑る。

 

 

「ガッ! グゥゥウウッ! ズッ! ァア゛!」

 

 

着地を決めるエグゼイド。

一方でヨロヨロと前に歩くパラゼイド。体の至るところが小さな爆発を始める。

 

 

「お前は、本当にぃイ……!」

 

「ごめん。キミは……、必要ない!」

 

「あぁぁあ! クソったれ! せっかくおれが、お前の力で暴れまわってよぉ! クソガキどもをぶちのめて! オタクどもを殺して! それで、それでぇええゥ!!」

 

 

パラゼイドは両手を広げ、天に向かって吼えた。

 

 

「エグゼイドを地に堕としてやろうと思ってたのによォォォオオオオ!!」

 

 

仰向けに倒れると、パラゼイドは大爆発。木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 

「ギュアアアアアアアアアアアアア!!」

 

『カイシンのイッパツ!!』【GAME CLEAR!!】

 

 

エグゼイドはそれをジッと見ていた。

ドレミファビートによる記憶復元、それがビーコンとしての役割であると、思い出す。

 

 

「!」

 

 

ゲーマドライバーからドレミファビートが排出され、粉々になって地面に落ちた。

耐えられなかったのだ。それぞれのライダーの力を『呼び覚ます』役割を受け、その絶大な力にガシャットは耐えられなかった。

握り締める拳。あくまでもうろたえずにその破壊を受け入れられたのは、ポッピーはいつまでも胸の中で生きている――、などと言うロマンチックなものではなく。既に覚悟を決めていたこと、そして思い出してしまったからだ。

 

ポッピーを愛していた。

しかし、愛していなかった永夢がいる。

そういう概念が扉の向こうにはあるのだ。

 

 

(分かっている。分かってるよポッピー)

 

 

これが、キミが望んだことだろう? だからこそエグゼイドは冷静だった。

同時に景色がまた変わっていく。

 

 

「………」

 

 

宇宙だった。

無限に広がる宇宙。数々の惑星が瞬き、消えていく。その場に立っていたのは、エグゼイドだけではない。

士。ゴロウ。翔太郎とフィリップ。映司。弦太朗。晴人。紘汰。進ノ介。悠、千翼、そしてタケルが立っていた。

 

 

「あれッ?」

 

 

千翼は混乱し、周囲を確認する。

当然のことだ。先程まで三世と戦っていた筈なのに、今はすっかり別の場所で、変身も解除している。

反射的にイユを探してしまうのは、青さからゆえなのだろうが、そのイユはどこにもいない。

 

そしてオーロラが無数に浮かび上がる。

それぞれはモニタになっており、その向こうには呆然と立ち尽くす雄介達が見えた。

雄介は、翔一は、真司達は――、世界に取り込まれたものは思い出したのだ。

自分が何者なのか。なぜココに来ることになったのか。エグゼイドの奏でる音が本条の管理を引き剥がし、深層にあった記憶を掘り起こして自らが何者なのかを知る。

 

 

「ハァ! ハァ!! グッ!!」

 

 

タケルは胸を抑える。

心臓が張り裂けるように痛かった。激しいリズムを刻み、今にも飛び出しそうだ。

 

 

「いや――、それはおかしいな」

 

「!!」

 

 

タケルは腰を抜かし、真っ青になって目を見開く。

歩いてきた男は本条栞。手には一冊の本を持ち、それを捲っている。

 

 

「この文はおかしい」

 

 

本条は持っていた本の中をエグゼイド達に見せ付けた。

そこにはこう書かれている。

 

 

『雄介は、翔一は、真司達は――、思い出した』

 

『自分が何者なのか。なぜココに来ることになったのか』

 

『ハァ! ハァ!! グッ!!』

 

『タケルは胸を抑える』

 

『心臓が張り裂けるように痛かった。激しいリズムを刻み、今にも飛び出しそうだ』

 

 

本条は並んでいた文字、その一文を指差す。

 

 

「本には、心臓が張り裂けそうだと記載されていた。しかしお前に心臓はない。なぜか分かるか?」

 

 

プロローグを思い出せ。

そうすれば答えが出る。分かるか、分かるよな。だってお前は――、死んでいた。

アカリや御成はお前の姿を確認できなかった。なぜならばお前はゴースト。死んだものは、生きているものには見えない。

 

 

「他のヤツらも、全てを思い出しただろう?」

 

 

本条が一同をジロリと睨んだ。

普段は余裕そうな表情を浮べているフィリップや晴人でさえ、今は青ざめて沈黙している。

 

 

「エグゼイド、キミのせいだ」

 

 

本条は指を鳴らす。

すると、エグゼイドの変身が解除され、永夢が引きずりだされる。

 

 

「……!」

 

「指を鳴らすとエグゼイドが変身を解除した」

 

 

本条は、本に、ペンで、そう書いた。

 

 

「キミが悪いんだよエグゼイド。せっかくみんな忘れていたのに。キミが、堀りおこした」

 

 

呼吸を荒げ、頭を抑えるタケル。

無表情なのは、映司と士だけだった。

 

 

「天空寺タケル。キミは死んだ。そしてアカリ達はキミを目視できなくなった。なぜか? 決まっている! キミは死を受け入れたからだ! だからこそ復活のチャンスは消え、君は本物のゴーストになった! お前の物語の終わりだ!」

 

「ち、違う……!」

 

「違う? 違うのはそっちさ! だからこそ終わりを紡ごうとしたんだろう? お前が諦めたから終わりの物語が始まろうとしていた!!」

 

 

だがタケルはココにいる。

 

 

「では何故、そのタケルを今、この場でボク達は目視できると思う? アカリたちがタケルを見つけられず、竜斗が、ミライが、ツバサが! なによりも門矢士や泊進ノ介! お前らが! 一体どうしてタケルを名前で呼べる? その体に触れられる!?」

 

「違う!!」

 

「何が? 言ってみなよ、ゴースト!」

 

 

本条は両手を広げ、強く叫んだ。

 

 

「その答えは簡単! ココにいるお前らは、既に死んでるんだ! だから死んでいるタケルを目視できる! そうだろう!!」

 

 

誰もが言葉を失う。

それは、本条の言葉を否定できなかったからだ。

 

 

「お前は全て知っている! 隠すのは良くないな、ディケイド!!」

 

 

指を指された士は、無表情だった。

ただ何も言わず、ジッと、本条を見る。とは言え周囲の視線を受けていることが分かったのか、大きくため息をついて頷いた。

 

 

「ああ、そうだ。俺達は敗北し、死んだ」

 

 

誰もが知っている。

そうだ、死んだのだ。だが死は死などと言う甘いものではなかった。

そんなものは存在しなかった。それを一同は知ってしまったのだ。

 

 

「俺達は死んでいるが――、今は生きている。生きているし、死んでいる」

 

 

概念は、全てを超越していた。

そう、つまり『生』や『死』など、この世には存在しなかった。

士達は死ぬが、死なないのだ。生きているが、生きていないのだ。

 

 

「全てはお前が望んだことだ。本条栞。いや――」

 

 

士が指をさす。

すると、本条はニヤリと笑い、胸に手をあててお辞儀を行う。

 

 

「改めて、自己紹介を」

 

 

はじめまして、神々の皆様。

僕はまだ、キミ達とは初めてだからね。

 

 

「僕の名は――、ブックメイカー!」

 

 

光が迸り、本条栞の姿が僅かに変わる。その正体は上位観測者・"ブックメイカー"。

文字のような模様がビッシリと刻まれた金色のケープマントを羽織っており、手には金色の装飾が施された本を持っている。

そして一番の変化は目だった。青い瞳が、より美しい青に染まっている。

いや、違う。ただの青じゃない。瞳が『星』になっていた。

 

 

「おさらいだ仮面ライダー! あの日、あの時、何が起こったのか。今一度お前たちは知る必要がある。そしてまた理解するんだ! お前たちの『死』を、終わりをな!!」

 

 

もう一度真実に触れたとき、ライダー達は思い出すだろう。

そして納得する筈だ。この世界、『終焉の星』に足を踏み入れたことを。

 

 

「まずは、そう。神なる世界! お前は知っているねディケイド」

 

「……世界が一つじゃないってことは、俺が生まれる以前にもあった考えだ。パラレルワールド、多層現実。なにがきっかけは知らないが、それは事実なんだから仕方ない」

 

 

そう、世界は一つじゃない。

仮面ライダーの世界だけでも無数にあり、それを超えればまた別の世界が広がっている。

女の子達が煌びやかなドレスを着て戦う世界だったり、光の巨人が怪獣と戦う世界だったり。

機械人形がビームライフルを撃ちあう世界だったり、色とりどりの戦士が並んで戦う世界だったり。

かとも思えば生意気な幼稚園児が好き勝手やる世界だったり。

 

多様な世界は今も生まれ、増え続けている。

その総数を理解するのはもはや不可能だ。おそらくそれは、神でさえ。

 

 

「が、しかし。一つだけ確かな真実がある。それは全ての世界は、たった一つの世界から生み出されていくものだと」

 

「それが最上位真世界、通称・神なる世界」

 

「その通り。そしてその神なる世界は、キミ達仮面ライダーの世界とよく似ている」

 

 

ブックメイカーは目を見開いた。

黒目の部分が星になっているが、この星こそが神なる世界の惑星の名。

 

 

「地球だ!」

 

「地球……!」

 

 

タケルが呟く。同じだった、自分の星と。

丸くて青い星、地球。

日本やアメリカ等いろいろな国がある星、地球。

さまざまな生命が生きとし生ける場所。太陽系第三惑星。

 

 

「神なる世界に住むのは文字通り神々、彼らが観測した物語は世界となり、その存在を確立する」

 

 

神なる世界に生きる神々が物語を書くことで、見ることで、それが世界として確立する。

だからつまり、単刀直入に言えば、こういう事だ。

 

 

「お前たちは神なる世界にて放送されたテレビ番組。その正体はただの創作物! フィクションなんだよ!!」

 

「!!」

 

 

それは二回目であったとしても脳をハンマーで殴られた様な感覚だった。

改めて突きつけられる事実に、ライダー達は絶句して固まる。

創作物。つまり、キャラクター。脚本があり、台本があり、俳優がいて。云々。

 

 

「現実じゃないんだ。神なる世界に住む者達にとってお前たちは!」

 

 

だが士達からしてみれば己は確かにいるはず。

それはブックメイカーも理解できる。士達はココに存在し、それはウソではない。

ましてやその頭にあるものや、胸にあるものは言葉では説明できないほど多くのものがある。

 

言葉にできない感情を言葉にして紡げるとは思えない。

だから、そう、生きている。神が創ったとは言え確かに士達は生きて、自分で考え、自分で歩いていく。

だからこそもはや常識は崩壊し、言葉は意味を無くすのだ。

 

ある日突然、お前はフィクションのキャラクターなのだからと言われてもピンとこないに決まっている。

だからフィクションはフィクションではなくなった。しかしどれだけ自分は違うと思っていても、やはりそれはフィクションと言う枠からは逃げられず。

だけどやっぱり信じられないし、だからどうしたという部分もあって。

 

ああ、ああ、もはや何を信じていいか分からぬ中、ブックメイカーは話を続けた。

大切なのはフィクションのキャラクターと言う部分ではない。

その点など今はどうでもいい。先程のとおり生きているといえばそうだし、死んでいるといえばそうなのだ。

だからこの話に終わりはないし、続けるつもりもない。

今、最も大切なのは――、"世界形態"ではないか。

 

 

「全ての始まりは、その神なる世界の時間軸、1971年4月3日だった」

 

 

あの日、全てがはじまった。

 

 

「そう、仮面ライダー1号の誕生だ!」

 

 

神なる世界の神々は、画面の中で戦う仮面の戦士に心打たれ、魅了された。

人のために戦う悲しみを背負ったヒーローはさぞカッコよかっただろう。

途中、役者の事故で終了の危機を迎えたものの、2号を登場させることにより物語(せかい)はより加速する。

 

 

「変身ポーズの登場。帰ってきた1号ライダー。ダブルライダーキックには――」

 

「ライダーダブルキックだぞ」

 

 

士が言葉を挟んできた。うんざりしたようにブックメイカーは首を振るう。

 

 

「とにかく、神なる世界の神々。特に子供達は熱中したはずだ。自転車を買ってもらった神、ライダーキックの真似をして怪我をした神。ポテトについてきたカードを集めた神様。そりゃ、さまざまだろうね」

 

 

神は楽しんだことだろう。

孤独や恐怖に苦しみながら戦う男達を見て、楽しそうに笑っていた。怪人達が死ぬのを楽しんだんだよ。

なんてことを、少し強調して言ってみる。

 

 

「――だが、戦いは無限ではない。ショッカーはライダーにより壊滅させられる。悪は滅びる。当然だ。世界はそれを望んでいる。神はそれを熱望だ。んん、フィクションじゃお決まりだね」

 

 

だから、なんの問題もないはずだった。

 

 

「だから、終わるはずだったんだ。1973年2月10日に全てが幕を閉じる筈だった」

 

 

全98話を戦い抜いたライダーたちよ。ありがとう。もうゆっくり休んでくれ。

悪は、滅びたのだから。平和な世界で。

 

 

「しかし」

 

 

ブックメイカーは歪に笑う。

 

 

「神はそれを認めなかった」

 

 

祈り、願った! 渇望した。喉から手が出るほどに欲したのだ!

なにを? 決まっている! 戦いをさ!!

 

 

「神々は望んだんだ。ライダーが戦い続ける事を!!」

 

 

恐ろしい! 身が震えるよ! 神々はとんでもない連中さ!

 

『終わってほしくない……』『もっと見たい』『終わるのはイヤだ』

 

『ライダーが見たい』『終わったら次から何を楽しみにすればいいんだ』

 

『永遠に続いてほしい』『カッコいいから続いてほしい』

 

『仮面ライダーが、もっと続いてほしい!!』

 

そうだ。神々はライダーの終わりを認めなかった。

常に死と隣り合わせにあった苦痛の日々が延長してくれることを願った。

やっと訪れた他世界の平和を拒んだんだ!

 

 

「神の思いは力になる。だからこそ、そう! 歴史は――」

 

 

違う。違うな。ああ、違う! 違う違う違うゥウ!

 

 

「呪いが始まったんだよ! そうだろ? 仮面ライダー!!」

 

 

V3が始まった。神が望んだから。需要があったから続いてしまったんだ。

 

 

「かわいそうなV3! 神様が願ったせいで、戦いなさいと願ったせいで、家族を殺された!」

 

 

それでもV3は戦った。

ライダーマンはお空に散った。人を守って、『神』を楽しませて、ドッカンバッカン。

 

 

「それでも戦いは続いた! エックス! アマゾン! ハハハハハ! そしてライダーマンは呼び起こされた。死んだはずなのに! 死んでない事になった!」

 

 

恐ろしい!

死してなお、なのか。神は死の概念さえ覆すのか。

しかし思えば神とは、人とはそういうものさ! かつて闘技場に人間を入れて虎と殺し合わせた狂った文化。

話し合いではなく刀と鉄砲を持ち出したこと。国同士が争い、ひいては核をぶち込んだ事!

 

 

「人が戦いを求めることなど歴史が証明している。神々の歴史が物語っている!」

 

 

それはどれだけ時が進もうが関係ない。

ハブとマングースを殺しあわせ、人間とウシを殺し合わせ。虫同士を戦い合わせ。

それが終われば人同士が殴りあうスポーツが盛り上がり、野球では乱闘で騒ぎ始めるギャラリーたち。

 

 

「世界を生み出すことを生業とした神々も同じさ! 箱庭の中でキャラクターを創造し、殺し合わせる! それを売って、お金を稼ぐ!」

 

 

ライダーも例外じゃない。神が望んだのだ。

怪人共と殺しあえ。それをコーラとポテトを片手に僕らは楽しみます!

命を殺める武器を玩具にして、売り出しますね。

 

 

「だがライダーたちも戦ったのだろうね。神々と」

 

 

戦いが終わるように、見えない神と戦ったはずだ。

それは暴力かもしれないし、全く違うアプローチかもしれない。

ブックメイカーはその戦いを知らない。観測者は全知ではないからだ。

しかし結果だけは知っている。ライダー達は見事に勝利を収めたことはブックメイカーの耳にも入ってきたし、ましてや歴史が証明している。

だから仮面ライダーは、終わった。

 

 

「こんな言葉がある」

 

 

ブックメイカーは千翼を指差し、笑う。

 

 

「人は、(はじ)める事はできても、終わらせる事はできないッッ!!」

 

「!」

 

「神の力は凄まじい! お前たちなど所詮は創作物! 神には、観測者には勝てないんだよ!!」

 

 

だからこそ、2000年。1月30日に仮面ライダークウガが始まるのは必然であった。

 

 

「神々はお前たちを逃しはしない。戦いの連鎖は永遠だ! 終わったと思っても、また始まるだけ!」

 

 

全て同じだった。1号の時となにもかも!

五代雄介は必死に戦った。多くの犠牲者を生み出し、救えないことに苦しみ、殴ることに傷つき、最後は闇の力に蝕まれて、泣きながらダグバと殴りあった。

 

 

「それが神々にとっては最高に面白いことだったのさ!!」

 

 

もちろんそれはゲラゲラ笑う面白さとは言わない。

しかし確かに人の心には刺さり、娯楽と言うカテゴリーの中で爆発した。

 

現にクウガは、神々の中でも非常に評価が高い。

こんな感想だってある。死ぬから。傷つくから。だからそう、最近は不満だ。

1期は良かった。規制が無くて怪人が怖かった。たーっぷり死んだのに、最近はぬるーい。

 

そんな意見もあるんだぜ?

なあ、神様。よくジャラジ戦が持ち出されるけど、本当はそれが嬉しくて楽しくてたまらないんだろ?

ライダーであんなハードな内容をやっているんだ。だから子供向けじゃないんだ。

ハードで重くて心にくる物語なんだ。そういう風に思えて嬉しいんだろ?

それが好きな自分の自尊心が満たされていくが気持ちよくてたまらないんだろ?

深い作品を見ている俺は高尚なんだと満たされていくんだろう?

 

 

「それはお前らが望んだんだよな!」

 

 

ブックメイカーは、『アナタ』を見る。

 

 

「そう、そうだ! 面白かったんだよライダー、お前らの戦いは! 殺し合いは! だから五代雄介の戦いだけじゃ満足できない! もっと見たい! もっと続けて欲しい! もっと戦って欲しい――ッッ! 仮面ライダーは続いてほしいってな!!」

 

 

オーロラの向こうで五代雄介は崩れおちた。呆然と、虚空を見つめている。

思い出したのだろう。その時のことを。

 

 

「五代雄介。キミは本当はあの時、死ぬはずだった」

 

 

ダグバと相打ち。それが本当のエンディングだ。

しかし神がそれを拒んだ。代わりに永遠の呪いをかけた。

あの青空の下で平和に過す光景が夢であったのは、最近分かったこと。

 

 

「感謝しろよクウガーッ! 私が助けてやったんだぜー!!」

 

「!!」

 

 

世界が大空の下、砂浜に変わった。

そこに、新しい登場人物が現れる。

 

 

「そうだ! この私が! お前たちの歴史を! 続けてやってるんだよ!!」

 

 

突如姿を見せたのは黒い服を来た、中年の男性だった。

さらにオーロラ。渡、剣崎、タケシ、ジョウジが姿を見せる。

 

 

「お前は! どうして!!」

 

 

すぐにタケシが反応し、前に出た。

知り合いだった。シザースジャガー、かつて戦い、倒した筈の怪人。

 

 

「違う! 違う違う! 落ち着けよ童貞バカシ! わたしは確かにシザースジャガーの人間態だが、これは入れ物だ。わたしが円滑に活動できるための人・間・状・態!!」

 

「入れ物だと……?」

 

「そう。画面外で死んでくれて助かった。おかげで神に気づかれずに回収できたからな!」

 

 

光が迸る。肩や腕を覆う円形の装甲、そこに宝石が埋め込まれていく。

そして最後に赤い角が二本生え、頭で発光した。

 

 

「私だよ私! ウヒヒヒハハハハハ!!」

 

 

その怪人を見た瞬間、晴人が声を荒げる。

 

 

「お前は! アマダム!!」

 

「ひッさしぶりだな操真晴人ォ! それに門矢士ッ! 葛葉紘汰ァア!!」

 

 

アマダム。

かつて魔法石の世界でウィザードやディケイドがライダーたちと共に協力して倒した男であった。

魔法石の世界。怪人が保管される世界。住人達が怪人になる世界。

つまり、怪人を生み出す世界。

 

 

「バックアップだよバックアップ! 戦うためには相手が必要だろう? 特にほら、春映画とかな!!」

 

 

ハイテンションではしゃぐアマダム。

そこでふと、士は目の色を変えた。

 

 

「アマダム、アマダム!? まさか、お前!」

 

「やっと気づいたかアホたれが! そうだ、私は"マユ"ちゃんじゃねーんだよ! おやっさんの娘とか、メイジになるヤツとか? ソウジの妹とか! 被りすぎだろどうなってんだよ神様(スタッフ)!!」

 

 

だから勘違いをさせてしまった。申し訳ないとアマダムは頭を下げる。

士が思い出したのはアマダムの肩書きだ。『古の魔法使い』。そう、"古"とは即ち、"古代"とも言える。

 

 

「私は天飛(アマダム)! そう、クウガのアークルの中に入っていた霊石でおじゃーる!!」

 

 

かつてはリントの魔道師だった男は、グロンギに対抗するべく、自らを霊石に移植させてアークルを作り上げた。

そして五代雄介と融合し、戦ってきたのだ。

 

 

「最終決戦であのクソ……ッ! ダグバの野郎が私を殴りやがった!!」

 

 

ヒビ割れたアークル。

だからこそ、戦いが終わったあと、アークルは限界を迎えて崩壊。アマダムは五代から解き放たれ、具現した。

目の前には倒れ、瀕死になっている五代。

はて、どうしたものか? そう考えていると――

 

 

「あれは革命的な出会いだった!!」

 

 

次元を超え、世界の壁を越えて、神なる世界の神々の声を聞いたのだ!

戦いを続けさせろ! 永遠の連鎖を作れ。クウガは面白かったのでまた見たい!

終わらせるな! 死は終わりだ! 五代は殺してはいけない!

ましてや殺してしまえばライダーとしての人気が下がる。そうすれば、シリーズは続けられない。

そうだ、シリーズだ。クウガを終わらせるな。戦いを終わらせるな。無限の戦いを望んでいる!

特撮最高! ライダーシリーズを続けてくれ!!

 

ゆえに、五代雄介(平成ライダー)を、永遠に戦い続けさせるのだ!!

 

 

「私は了承した! そして魔法石が生まれたのだ!」

 

 

それは永遠を司る宝石。

 

 

「私はライダーの歴史を紡いできた。怪人が死ねば、その怨念が魔法石を生み出し、その世界の主となった私は無限の命を手に入れる!」

 

 

それはある種、封印であることは認めよう。

ライダーの世界、歴史、概念に縛られること。だが力を手に入れるのは、世界を視るのは悪くない話だった。

 

 

「ま、一度は外に出ようと思ったこともあったが。私の華麗で高尚な作戦はクソッタレなウィザードとカスみてぇな鎧武と、ウンコみてーなディケイドと他のライダー共に邪魔されて……!!」

 

 

もちろん、それは少しはしゃいでみただけであり、アマダムは知っていた。

終わりはない。アマダムは概念だ。戦い続けるライダーたちの象徴。呪いの具現。

鎧武が終わったところで、ドライブ、ゴースト、エグゼイド。怪人達は死ぬし、その事実が魔法石に集まり、アマダムはまた具現していく。

 

 

「あの時から裏にはお前がいたのか! ブックメイカー!」

 

「いたと言えばそうだし、いないと言えばそう。僕にとって時間は超越した概念の一つでしかない」

 

「ワケが分からん。もっと分かりやすく言え!」

 

 

士の怒号にブックメイカーは鼻を鳴らした。

 

「時間軸など一つの存在であり、絶対的な存在ではない。ウィザードを見なければ鎧武を見れないワケじゃないだろ? 鎧武の後にウィザードを見てもいい。でなければ貴様らの年齢はバラバラになり、グチャグチャになり、どの時間軸をピックアップするかをいちいち考えなければ――」

 

「……なるほど、だいたい分かった」

 

「や、分かってねぇだろ」

 

 

晴人はぺチンと、士の胸を軽く叩く。

それを見て呆れたようにうな垂れるアマダム。こんな間抜けなヤツらに負けたと思うと恥ずかしい。

 

 

「私は既に世界を視た。世界の可能性は果てしない。見よ、進化したこの私の力を!」

 

 

腰に手をかざすアマダム。するとそこに、アークルが出現する。

中央には魔法石が埋め込まれていた。

 

 

「ライダー! スーパー変身!!」

 

 

手を斜めに突き出して大きく旋回させる。

すると回転するアークル内部の魔法石。クロス状の光が回転し、石は虹色に染まる。

そしてアマダムの体が光りに包まれると、体の銀色だった部分が金色に染まっていく。それは全てを超越した唯一無二の存在。

 

 

「見よ! これが仮面ライダーゴッドだ!!」

 

 

全てのライダーはウソになる。全ての怪人はウソになる。

なぜならば、超越者がココにいるからだ。仮面ライダーゴッドは両手を広げ、高らかに笑ってみせた。

 

 

 

 





第一章・完

次回から第二章『アペイロフォビア』編はじまりです。

予定は7/5らへん。
ここらへんから更新速度遅くなるけど、許してくれよな(´・ω・)

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