カメンライダー   作:ホシボシ

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tips

ねえ奥さん。
なぁに?
あの人、奥さんとお子さんを亡くしたそうよ
まあ、お気の毒に。
なんだかぷわぷわしてる飛行機に爆撃されたらしいわ
まあ、こわい


第11話 愚かさに乗って

 

 

「メダルの器……」

 

 

ブックメイカーが見上げる先には菱形の物体が浮遊している。その周りを取り囲むコアメダルの群。

 

 

「暴走状態か……!」

 

 

アマダムの言葉に重なり、端の方にいる怪人達の悲鳴が聞こえてきた。

見ればその体がセルメダルに変わって、メダルの器に吸い込まれていくではないか。

そしてメダルに変わるのはなにも怪人だけではない。壁や床、天井の一部が次々にメダルとなって器――、つまり映司だったものに吸い込まれていく。

 

 

「なるほど。心が壊れてしまえば、オラクルの神託も胸には響かないか」

 

 

どれだけ攻撃してももう、グチャグチャに壊れているものには響かない。

前に説明した0を否定できないのと同じだ。

 

 

「潰す――ッ!」

 

 

士はずっとこの時を待っていた。

観測者は必ず自分達の前に現れ、説明を行う筈だ。

だからこそ、この敵が集まった場で全てを終わらせる。たとえ火野映司と言う一人の仲間を犠牲にしたとしても。

 

 

「終わらせてやる……! 全てを破壊し、この物語はココで終わりだ!!」

 

「ハァ」

 

 

呆れた様に、うんざりした様に首を振る。

 

 

「理由はどうであれ。オラクルの攻撃が胸に刺さるという事は、少なからず響いていると言う証明でもある」

 

 

着眼点はいい。

普通だったらココでブックメイカーも終わり。

 

 

「にも関わらずお前らはまだ戦うと言うのか。意味が分からないにも程がある。欠片も理解できないね」

 

 

だが、甘いのだ。

 

 

「理解は、してもらわなくても、結構だッッ!!」

 

 

いけない。勘違いをしている。

 

 

「強がるなよ。何が変わる? 何が変えられる?」

 

 

全てに意味がないということは、戦いの概念が変わっていると言うことだ。

メダルが昇る中で、士とブックメイカーは睨み合う。

 

 

「分かっているくせに。心にウソをつくのは虚しいな」

 

 

ブックメイカーは持っていた本を開き、ページを捲る。

さらに手に宿った光。それがペンとなり、ブックメイカーは干渉を行った。

 

 

「無駄なんだよ。この先の展開は、我が手の中に――」

 

 

★★★★★

 

映司は全身を掻き毟るようにして、叫び声を上げた。

すると、映司の形が崩れた。大量のメダルとなり、天井に昇っていく。

そして広いホールの頂点に達すると、メダルは集合して巨大な菱形の物体となる。

その周囲には各コンボを象徴するコアメダルが円形にならんでおり、ある種神々しささえ感じてしまう。

だがそれは、世界を終末へと導く破壊の器であった。

 

 

「―――」

 

 

ホールの端、怪人が並んでいる所から悲鳴が聞こえた。

同時に、ジャラジャラとメダルが擦れる音が聞こえ、大量のセルメダルが空に昇っていった。

 

 

「メダルの器……」

 

 

ブックメイカーが見上げる先には菱形の物体が浮遊している。その周りを取り囲むコアメダルの群。

 

 

「暴走状態か……!」

 

 

アマダムの言葉に重なり、端の方にいる怪人達の悲鳴が聞こえてきた。

見ればその体がセルメダルに変わって、メダルの器に吸い込まれていくではないか。

そしてメダルに変わるのはなにも怪人だけではない。壁や床、天井の一部が次々にメダルとなって器――、つまり映司だったものに吸い込まれていく。

 

★★★★★

 

 

「文を追加しよう。正しい運命(ページ)に変えるんだ」

 

 

☆☆☆☆☆

 

映司は全身を掻き毟るようにして、叫び声を上げた。

すると、映司の形が崩れた。大量のメダルとなり、天井に昇っていく。

そして広いホールの頂点に達すると、メダルは集合して巨大な菱形の物体となる。

その周囲には各コンボを象徴するコアメダルが円形にならんでおり、ある種神々しささえ感じてしまう。

だがそれは、世界を終末へと導く破壊の器であった。

 

 

「―――」

 

 

ホールの端、怪人が並んでいる所から悲鳴が聞こえた。

同時に、ジャラジャラとメダルが擦れる音が聞こえ、大量のセルメダルが空に昇っていった。

 

 

「メダルの器……」

 

 

ブックメイカーが見上げる先には菱形の物体が浮遊している。その周りを取り囲むコアメダルの群。

 

 

「暴走状態か……!」

 

 

アマダムの言葉に重なり、端の方にいる怪人達の悲鳴が聞こえてきた。

見ればその体がセルメダルに変わって、メダルの器に吸い込まれていくではないか。

そしてメダルに変わるのはなにも怪人だけではない。壁や床、天井の一部が次々にメダルとなって器――、つまり映司だったものに吸い込まれていく。

 

しかしそれは気のせいだった。映司はふと目覚める。

夢を見ていたのだ。成功した夢を。現実は暴走が失敗していた。

彼の中にはコアメダルが残ったまま。映司は失敗のショックからその場に気絶する。

 

☆☆☆☆☆

 

 

「修正完了」

 

 

本を閉じ、ニヤリと笑う。

 

 

二次創作(ファン・フィクション)

 

 

一瞬でホールの景色が変わった。

消えていったはずの怪人が元に戻っている。そして人間の姿だった火野映司は、気を失い、バタリと倒れる。

全ては気のせいだった。そうだろう?

 

 

「ッッ!? なん――ッ、だと……!!」

 

 

士は、倒れる映司をジッと見ていた。

そして察する。ブックメイカーの恐ろしさを。

 

 

「ひとつだけ」

 

 

ブックメイカーの(ひとみ)が光った。

 

 

「キミ達は、僕には勝てないよ」

 

「……ッッ」

 

「浅いなディケイド。観測者の真似事をしても、それは所詮、劣化品でしかない」

 

 

ブックメイカーはフィリップを見る。

フィリップは汗を浮かべて固まっている。どうしていいか分からないと言った様子であった。

 

甘いのだ。戦いの概念が違う。

勝つか負けるかはない。あるとすれば、続けるか、続けられないか、だ。

殴り、ダメージを与え、必殺技で倒す。そんな戦いは今は必要はないし存在もしていない。

全ては前に進むかどうかだけ。その意思が強いほうが勝つ。

だから映司は勝てなかった。物は、心には勝てない。

 

 

「フィリップが観測者の代わりか。だが甘い。僕の劣化品では、僕には勝てない」

 

 

そして、舌打ち。

ブックメイカーは怒っている。こんな簡単な二択を外されるのは正直言って心外だったし、腹立たしいものでもあった。

なぜこんな事が分からないのか。1+1を何度教えても理解できない子は、ふざけているのではないかと思ってしまう。

 

 

「心が知ってるくせに。おしおきだライダー共。お前達は――」

 

 

刹那、激しいスパークが巻き起こる。

ホールに赤と青の光が巻き起こり、激しいフラッシュにブックメイカーやアマダムは目を覆った。

 

 

「……これは」

 

 

目を開けるブックメイカー。

するとホールにライダー達の姿は無かった。

 

 

「なんだ? どこに行った!?」

 

 

アマダムは前に出て辺りを見回す。どうやら先程のフラッシュはブックメイカーが行ったものではないようだ。

ブックメイカーは本を開き、ページを確認するが、何も分からない。

周囲を見回す。景色はホール。壁には何も映っておらず、真っ黒だった。

 

 

「逃がした。やはり観測者(ボク)を放置しておくわけもないか……」

 

「どういう事だ?」

 

「僕と同じ力を持った存在が、ライダーに味方をした」

 

「ッ、鳴滝か?」

 

「いや、ヤツじゃない。ヤツはもういない」

 

 

諦めたからだ。

 

 

「だから、おそらく――……」

 

 

ブックメイカーは笑う。

 

 

「まあいい。いずれにせよ、僕らの勝利はゆるぎない。考える時間を与えてやるのも必要だろう」

 

「フッ! 確かに。今はまだ抵抗があるだろうが、考えれば考えるほどヤツらは分かるはずだ。正しい選択肢をな」

 

 

たとえ観測者がライダー達に微笑もうとも、それが答えになるワケじゃない。

提示された答えや真実は全てブックメイカーが語るとおりである。であれば、今はただ延命しただけにしか過ぎない。

 

 

「どんなバカでも分かる答えを、あいつ等が選べないワケがない」

 

 

戦い続けるか。戦いを止めるか。

 

 

「かつて、神様が言った」

 

 

人は、人のままでいればいい。

 

 

「仮面ライダーの価値をゼロにする。戦いは、このブックメイカーが終わらせるぞ」

 

 

ブックメイカーは本条に戻る。

そのままホールを退場していく本条やアマダム。

 

 

「怪人と、ライダー」

 

 

ショッカー首領は噛み締めるように呟く。

すると近くにいた三世がニヤリと笑った。

 

 

「二世もさっさと理解すればいいものを」

 

 

 

 

 

「!」

 

 

士が目を覚ますと、そこは学校の屋上だった。

 

 

「ここは……?」

 

 

辺りは暗い。夜? いや違う。星空――、ではなく銀河。

学校の周りが宇宙のように星や惑星に囲まれていた。

周りには先程までホールにいたメンバーが倒れており、徐々に目覚める者もチラホラと見える。

 

 

「おい! しっかりしろ!」

 

 

士はすぐ近くにいた翔太郎の肩を揺さぶる。

ダメだ、起きない。仕方ないか。士は左手、二本の指を翔太郎の鼻につめて、右手で口を塞ぐ。

 

 

「………」

 

「………」

 

「―――」

 

「………」

 

「ぼッほあふぅぉあ!!!」

 

 

真っ青になって飛び起きる翔太郎。

 

 

「なッ、なんだ!? 息が――ッ! がふっ! これもブックメイカーの仕業か!?」

 

「ああ。危なかったな。無事でよかった。くそう、ブックメイカーのヤツめ、とんでもないことを――」

 

「ウソですよ」

 

 

永夢は呆れた様に士達を見ていた。

とにかく皆、無事だったようだ。気絶している者たちも時間差で全員起き上がってくる。

 

 

「………」

 

 

タケルはギュッとを胸を抑えて、青ざめている。

辛そうだ。とは言え、誰もがその理由を察している。

もちろん痛いのはタケルだけではない。他のメンバーも複雑そうに表情を歪めている。

無理もない。あの真実は、あまりにも心に刺さる。

 

 

「アンタ達は知ってたんだな」

 

 

晴人の視線の先には、壁にもたれかかっている渡や剣崎が見えた。

 

 

「ええ、知っていましたよ。全て」

 

 

ブックメイカーに出会う前から、鳴滝に教えられた。

最凶のネタバレだ。自分達の存在が創作物などと。

とは言え、鳴滝もはじめは情報を伏せていた。彼は分かっていたのだろうか?

いずれ観測者が現れ、ライダー達に牙を向けてくることを。

 

そして鳴滝が消え失せたのは戦うことを放棄したからに他ならない。こうなっては終わりと思ったのだろう。

観測者にとっての死は目を閉じること。観測を放棄したからこそ鳴滝は消えた。

つまり、諦めたのだ。鳴滝はライダー達の終わりを予見していた。

 

 

「彼はライダーが好きだったんですよ」

 

 

渡は鳴滝の正体はライダーファンであると語った。

あまり多くは語らないため、そこが掘り下げられることはなかったが。

 

 

「ったく、一体どうなって――」

 

 

頭を抑えて立ち上がる翔太郎。

すると気づいた。屋上の柵に、一人の少女が腰掛けていた。

 

 

「おいおい、危ないぜ。お嬢ちゃん」

 

「申し訳ありません。仮面ライダー」

 

「?」

 

 

振り返る少女。

すると声をあげるタケル。

 

 

「ミライちゃん?」

 

 

そこにいたのは竜斗のクラスメイトの少女。

ツインテールだが、今は左だけが結ばれたサイドテールとなり、眼が赤く光っている。

タケルは覚えている。彼女はたびたびこういう状態になる時があった。そしてその時にはやけに大人びたように達観し、落ち着いていた。

何かがあるとは思っていたが、やはりと言うべきなのか。

 

 

「私は、神。観測者です」

 

「観測者――、ブックメイカーと同じか!」

 

「はい。名前はイブ。今はこのミライちゃんの体を借りています」

 

 

そもそも観測者とは何か。

それは神なる世界の力を持った存在のこと。

神なる世界こそ唯一無二の世界と把握し、そこから創作物として世界が生成される仕組みを理解しているものである。

 

それはつまるところ、神なる世界に住むものたちとかわりない立場にいるものだ。

とは言え『観測者』は『神なる世界に住む(ヒト)』とは違い、その元が創作物のキャラクターであったり、神なる世界に留まらずに他の世界を移動している存在を指す場合がほとんどだ。

 

 

「創作物であると言うことを自覚することは、最大のタブーです」

 

 

世界の禁忌。

自らの存在が虚像であることを理解するのは、全てが狂ってしまう。

 

 

「だからこそ私達は世界が調和を保つように見守る役目を担っています。世界が意図しない融合や模倣を犯さぬように監視する、とでもいいましょうか」

 

 

なによりも、他の世界が神なる世界に近づかぬように監視すること。

まるでそれは治安を維持する警察のように。無限に広がる世界を見守る役目。

だからこそたまに目に付くのだ。観測者の力を持っていながら、過度な干渉を行う者が。

 

 

「それが、ブックメイカーか」

 

「その通り」

 

 

ミライの眼が赤から青色になり、サイドテールの位置が逆に変わる。

 

 

「僕はアダム。イブと共に観測者をやっている」

 

「アダムとイブって、あの?」

 

 

立ち上がるタケル。

歴史に関しては少し知識がある。神話や偉人の話を聞くのは好きだった。

 

 

「ああ。僕等はかつて知恵の実を食し、楽園を追放された」

 

 

そして、様々な奇跡を起こしながら、その果てに観測者となった。

今は、一歩引いた位置から様々な世界を観測している身。そして今、この異常事態を把握して駆けつけた次第である。

 

 

「監視者は神。神でいなければならない観測者が、世界に手を出し、メチャクチャにしようと干渉を始める。これはいけない」

 

 

観測者は観測者としての立場を忘れてはいけないのだ。

その圧倒的な力を悪用すれば、世界は歪に崩壊していく。

 

もちろん、干渉自体が絶対的なタブーとは言わない。

事実、鳴滝も観測者でありながら何度も士に接触をしてきた。それが赦されたのは、干渉のレベルがしっかりと定められているからだ。

だが今回のブックメイカーの行動や発言は、『観る者』を大きく外れた行為だ。

中でも神なる世界への干渉は絶対に許してはいけないルール違反である。

 

 

「観測者はありとあらゆる存在に負け、ありとあらゆる存在に勝てます」

 

 

それは士達も分かっている筈だ。

観測者は勝敗の概念を破壊する事ができる。勝ち負けなどもはや存在しない。そう教えられてしまった。

創作物にとっては全てが意味ある事であり、同時に意味の無いことでもある。それがフィクションを生きる者達の宿命だ。

ブックメイカーがその真実を見せたことで、現に全てが壊れた。

 

士達は生きているし、死んでもいる。

全ては創作の内容によって左右される完結された世界。

それが導く一時的な結果でしかない。

 

 

「ああ、なんと言うことを。ブックメイカー……」

 

 

今回の行為は許されない。

あまりにも大きな情報を話しすぎた。調和が、ルールが、世界が崩壊していく。

 

 

「ヤツはなぜこんな事を?」

 

「分かりません。あくまでも観測者同士は対等であり、僕達は全知ではないのです」

 

 

あくまでも一歩引いたところから物事を観られるだけだ。

ブックメイカーが何を見て、何を想い、この行動に出たのか、イブたちには察することもできない。

ただ観測者が力と立場を悪用していると言う情報だけは把握できた。ゆえに駆けつけてみたが――、心を読めるわけでもないので困っている所であると。

そこでタケルが歯を食いしばる。

 

 

「おれのせいだ。アイツ、言ってた。おれが神々に否定されたからだって!!」

 

 

タケルの肩が震えていた。それを口にすることがどれだけ辛い事なのか。

一方で困ったように笑いながら、紘汰がタケルの肩を叩く。

 

 

「タケル、あんま気にすんなよ。俺だってお前アンチスレ298もあるんだぜ? 多すぎだろって話だよな。ハハハ……」

 

 

とは言え、完全に作り笑いだったのは言うまでもない。

初瀬やシドの死は、神が仕組んだものであり、それをつまらないという人間がいるのだ。それを考えれば、漠然とした怒りが湧いてくる。

 

 

「やめましょう。こんな話しは」

 

 

ミライはイブになる。終わりのない苦痛を話していても気分は落ち込む一方だ。

分かっている事と言えば、ブックメイカーは五代や翔太郎、士達をライダーの席から外し、ありとあらゆる人間がライダーになれる新世界形態、『カメンライダー』を確立させようとしていることだ。

そして同時に、ライダーの力を放棄した五代達に幸せな世界を提供するらしいが――?

 

 

「信じられるか! ヤツらは絶対に放置できないし。してたまるか!」

 

 

士は拳を振るい、虚空を睨みつける。

だが、それを見ていた渡は冷めた様子で鼻を鳴らした。

 

 

「本当にそう思っているんですか?」

 

「なんだと……?」

 

「僕達は常に世界を危険に晒す敵と戦ってきました。命を懸けれたのは、この胸に確かな正義、大義名分があったからでしょう?」

 

 

しかし今回は違う。

 

 

「本当は分かっているんじゃないですか? 今回は、敵側(アチラ)の方が正しいと」

 

「ッッ!!」

 

「なんだっていいじゃねぇか!」

 

 

黙る士と、吼える弦太朗。

 

 

「ダチを傷つけようとするヤツは、オレがゆるさねぇ!!」

 

「と言う、設定ですよね?」

 

「はぁ?」

 

「如月弦太朗。アナタは神がそういう性格に設定したから、そう口にしているだけです。友情のために戦う戦士。それを作者が設定した。だからアナタはそう動く。いや、そうとしか動けない。僕達は自由に思えて、その実、雁字搦めだったんですよ」

 

 

何も知らずに、虚像のアイデンティティを掲げて戦っていた。

ハリボテの信念を掲げて叫んでいた。実に愚かしい。

まさにピエロだ。渡は表情を歪めて、弦太朗を睨む。

 

 

「一つ聞かせてください。そのオトモダチとやらはどうしたんですか? 弦太朗くん」

 

「そ、それは――ッッ」

 

「あなたのその髪型、どうしたんですか?」

 

 

弦太朗はいつもリーゼントだった。自慢のアイデンティティだった。

しかし今は髪をおろしている。なぜか? 神は理解できるだろうか?

 

 

「怖いから。ですよね?」

 

「………」

 

「教師であるアナタは、生徒からリーゼントが怖いといわれて、生徒のために拘りを殺した。操真晴人、アナタもそうです。アナタは本当はもうプレーンシュガー以外のドーナツをたくさん食べていますよね。だけど神々はそれをキャラクターが崩壊すると言う理由で認めようとはしない。可能性を否定されるんです僕達は」

 

 

にも関わらず、戦いには繰り出される。

 

 

「質問に答えてください如月弦太朗。お友達はどうされたんですか」

 

「やめろ渡。知ってるだろ」

 

「ええそうですよ。あえて言いますが、死にましたよね?」

 

 

弦太朗は俯き、動きを止めた。

 

 

「みんな死んだんですよ。ゼットンの火球やザクのマシンガンの薬莢に飲み込まれて」

 

「ッッッ」

 

「これが創作されると言うことなんですよ。ああ、そう、あなたもだ進ノ介さん。奥さんはどうしました? お子さんは?」

 

「お前! いい加減に――ッ!!」

 

 

渡を黙らせようとした士だが、前に剣崎が立ちはだかる。

退け。士が横を通り抜けようとすると、拳が飛んできた。

 

 

「黙ってろ」

 

「ッ、テメェ……!」

 

 

殴られ、地面に膝をつける士。

一方で進ノ介は拳を強く握り締めている。

思い出しているのだろう。唇を噛む力が強すぎて、血が流れてきた。

 

 

「あなた達は幸せだった。しかしそれは『冒頭』だった。創作物において、冒頭の幸せが続くわけもない」

 

「――ろ」

 

「泊霧子と、泊英志はゼビウスの襲撃を受けて殺された」

 

「やめろ!!」

 

 

進ノ介は裏返った声で叫ぶ。

その時の事は、忘れたくても忘れられない。一瞬だった。一瞬で愛するものたちが死体に変わった。

 

 

「……創作の中で生きると言うことはこういう事です。ありとあらゆる物語が僕たちを襲い、ありとあらゆる可能性が具現してくる。幸福も、もちろん不幸もね」

 

 

Aを選ぶ道と、Bを選ぶ道、Cと言う道を書いてみようか。

そんな想いがいずれも世界となり、具現する。妻と息子が殺されて復讐に燃える刑事、そんなお話は特別珍しいものではなかった。

 

 

「だが泊霧子は生きている。別の世界で、あなたと、愛を育んでいる」

 

 

もう分かった筈だ。

二次創作、本編、アナザーエピソード。

全ての可能性は確かに観測されることで具現している。

 

 

「僕達は何人もいる! 今こうやって話している間も、別の世界で、僕が戦っている!!」

 

 

特別じゃないし、たった一つでもない。

物語に出てくる数だけ紅渡はいるし、その存在を今までは把握することもなかった。

しかしブックメイカーが提示した真実を見て、渡達はその存在を知ってしまう。あまりにも残酷な真実を把握してしまう。

 

 

「僕はもう人を見限りましたよ」

 

 

アイドルごっこはもうおしまいだ。

 

 

「だったら、ブックメイカーの世界で生きるつもりか!?」

 

「いえ、彼らは信用できない。だからこそ終わらせるには終わらせます」

 

 

方法は――、ある。

観測者は確かに強力だ。しかしその力は『個』では成し得られない。『集』で作られるものだ。

 

 

「眼を消す。そうすれば、ブックメイカーは何もできない」

 

「眼……」

 

 

補足説明を行うイブ。

 

 

「眼は観測者の分身、部下のようなものです。文字通り眼がなければ世界を見ることができないのですね。干渉する事そのものが封じられます」

 

 

観測者である鳴滝は、眼に渡と剣崎を選んだ。

しかし鳴滝はたびたびディケイドの前に現れていた。そうだ、眼は二つだけとは限らない。

 

 

「キバーラも眼でした。鳴滝は眼をディケイドの傍に置くことで、常に世界に現れることができるようにしておいたのです」

 

「あの裏切りコウモリめ……!」

 

 

考えてもみればキバーラが噛んだ事でユウスケはアルティメットに変身していた。

それだけの力があったからだ。眼の力がユウスケをアルティメットへ変身させることを許した。

クウガはアルティメットになれる、そんな情報を送りこんだのだ。

 

 

「あなた達も観測者と眼でしょう?」

 

 

イブは士とフィリップを手で指す。

 

 

「擬似的なものだがな」

 

「そう、そう。僕は、観測者になるべく――、知識を取り入れていった」

 

 

士は観測者の詳細こそ知らぬが、存在は把握していた。

いずれ戦うことになる、それを予見した士とフィリップは、自分たちで擬似的な観測者を作ることにした。

ディケイドが世界を移動し、デンライナーを使用することで、ありとあらゆるライダーのデータを撮影し、集めて記録していった。

それを全てフィリップに与えることで、仮面ライダーを観測する存在を。巨大な情報のデータベースを作り上げた。

 

 

「僕らのデータもよく取れてたね」

 

「そりゃ、どうも」

 

 

本を取り出すフィリップ。

ページを捲ると『Wの検索 / 探偵は二人で一人』の話が見える。

そしてさらにページを捲ると、『Eにさよなら / この街に正義の花束を』と名づけられた話が記載され、そこで本は終わりを向かえる。

 

 

「これを、全てのライダーで行った」

 

 

それを全てまとめたデータをフィリップに移植する。

逆を言えばフィリップでなければ膨大な知識量に狂い、耐えられなかっただろう。

こうしてライダーのデータベース、その名も『Episode DECADE』を取り込んだフィリップが誕生した。

 

全てのライダーを客観的に見ているのだから、それは観測者のようなもの。

そして眼はディケイド。こうする事で、士とフィリップが同じ世界にいれば、Episode DECADE、観測者の力を擬似的に引き出せる。

 

 

「それは、調和」

 

 

それはたとえば、パンチ力。

ライダーはそれぞれパンチ力やキック力が設定されているが、中には桁外れな威力を持っているものが多い。

世界が交わるということは、それが同じ世界にいることである。

 

しかし観測者はそもそも均衡を司るものだ。

フィリップが存在すれば、世界に足を踏み入れたライダー達のスペックはやや平均的なものになる。そういう効果があった。

 

たとえばそれは概念の破壊。

Episode DECADE下であれば、アンデッドを破壊することができる。クロックアップが高速移動になる。などなど。

 

 

「しかし、ふむ。観測者は眼がいてこそ力を発動できるか……。だから、つまり――」

 

 

フィリップが状況を確認する。

 

 

「ブックメイカーにも、眼はいる」

 

「その通りです。眼は三人」

 

 

渡よりも早く、アダムが答える。

 

 

「加古、ミライ、そして――」

 

 

その声は『すべての』ライダー達に届いていた。

 

 

「竜斗」

 

 

家にいた真司は、呆然と座り込み、一点を見つめている。

 

 

「彼らはブックメイカーに選出され、眼としての役割を与えられた。この三人が存在していることにより、ブックメイカーは観測者でありながら干渉を行うことができるんだ」

 

 

今、アダムとイブはミライの体に憑依した。ブックメイカーの眼を乗っ取り、自分の眼として使用しているのだ。

 

 

「そんな事ができるのか」

 

 

イブになる。

 

 

「私たちの特殊能力の様なものです。もちろんこのやり方は長くは持ちません」

 

「アンタ等に眼は?」

 

「いません。ですので、ミライちゃんが死ねば私達は干渉できなくなります。あなた方に喋りかけることもできない」

 

 

眼は簡単に作れるものではない。

少し時間が掛かるため、これはあくまでも『仮』であると。

 

 

「………」

 

 

渡は無言で一歩後ろに引いた。

なんだったら今一人殺してしまおうと思ったが、イブたちとコンタクトがとれなくなるのは望むところではない。

 

 

「渡や剣崎に乗り移ることは?」

 

「できません。魔皇力やアンデッドの力は私達にとっては毒の様なものですから。なによりもミライちゃんをジャックする事ができたのは、彼女は自分が眼であることを自覚していなかったためにあります」

 

 

ブックメイカーは三人の眼に余計な知識を与えなかった。それは眼が裏切る可能性も十分にあるからだ。

一方で鳴滝は渡と剣崎に眼としての役割や力を与え、強化を施した。イブは渡に入ろうとしても弾かれてしまうだろう。渡たちにはあくまでも鳴滝の管理下にあるとの自覚が強い。

 

 

「ふぅむ。なるほど」

 

 

渡と剣崎は眼の役割を理解していた。

だから対立したのだ。眼を殺す派と、生かした上で事態を解決する派に。

渡側は殺すことを選び、士達は『眼と呼ばれる子供』を殺せば、と言う点に疑問を持った。

だが、とはいえ、ましてや、しかれども、全てを知ったタケルは小さく呟いた。

 

 

「そもそも、もう今は、解決することに、なんの意味があるんですか」

 

「………」

 

 

士と渡が黙る。

それは皆が抱えている事だ。イブも分かっているのか、それが最後の試練であると口にする。

 

 

「ブックメイカーが言うことは正しい」

 

 

要は求められれば戦いの毎日。拒まれれば存在否定。

戦い続けるか。戦いを誰かに渡して、自分達は消えるか。

 

 

「ですので、あなた達はこれから選ばなければなりません。戦う道か、退く道か。私はあえて言いますが、ブックメイカーは本当にあなた達を『救う』つもりです」

 

 

ウソはない。コレだけはわかる。

それが救いになるかは別としても。

 

 

「私達は、その道を選ぶことも、また一つのよりよい答えであると思っています。仮面ライダーの皆さん。あなた達はもう立派に戦い抜きました。せめてこの物語だけは、あなた達の幸せを綴り続けることもできる筈です。そしていずれは全ての物語からあなた達が消える事だってできる」

 

 

首を振るイブ。

それは彼らが決めることだ。

 

 

「ブックメイカーは行動を起こし、あなた達を急かします。だから考える時間はそれほどありません。けれども、どうか、考えて、答えを出してください」

 

 

カメンライダーを肯定するのか、否定するのか。

 

 

「他者を思いやることはもちろん大切ですが、なによりもまず、優先するべきは自己では?」

 

 

イブはそれを言い残すと、再会を約束し、消え去った。

すると周囲の景色が元に戻り、青空の下の学校になる。

 

 

「どうしろって言うんだよ」

 

 

誰かが呟いた。

誰も答えなかった。答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……いくぞ、渡」

 

「ええ」

 

 

はじめに動いたのは剣崎と渡。

どうやら加古を殺しに行くらしい。止めようとした士だが、それよりも早くフィリップが口を挟む。

 

 

「敵もバカじゃない。眼の周りには怪人を配置しているだろうね」

 

 

かつて、タケルは怪人に襲われた竜斗たちを守ろうとしていたが、あれはその実、タケルだけを狙っていたのだ。竜斗たちを脅威であるゴーストから守るために。

4号だってそうだ。機銃はちゃんと狙いを定めていた。

 

 

「ブレイド、キバ。キミ達だってオラクルに負けた。心をやられたんだ。今、同じ相手と戦って勝てるのかい?」

 

「………」

 

 

フィリップの言葉に剣崎はサングラスをかけ、鼻を鳴らす。

 

 

「俺はかつて、仲間のため、人間のために運命と戦った」

 

 

そして不死となり、生き続けた。

くじけそうになった事もあるが、それでも前に進めたのは、それだけ大切なものを選んだと言う自信があったからだ。

しかし分かった。結局あんなものは脚本家の指示であり、選ぶ権利などなかった。

仲間達もそれは結局幻で、ましてやオラクルの言葉。

 

 

こんなの剣崎じゃない!

 

俺もあれが本人だとは認めない

 

ガワだけの剣崎

 

キャラ崩壊させすぎ

 

 

違う。サングラスをかけ、ディケイドの前に現れた男は、本人だった。確かに剣崎だったのだ。

覚悟を決め、ディケイドと敵対する道を選らんだ。

なにもすぐに選んだ訳じゃない。苦悩もあったし、覚悟もあった。

なのに、なのに――……。

 

 

「結局、神々(アイツ)らは何も見てない。上辺だけだ」

 

 

理解してしまった。

結局、神にとって気に入らない道を選ばなければ否定される。

全てを晒すことでしか理解されない。神が想う正義に従わなければ愛のもとに否定される。

 

にも関わらず、戦いは強要される。

神々の理想の姿であるために、剣崎は戦い続ける道を常に選ばなければならない!

苦しみ続ける姿こそが剣崎一真の姿であると?

 

剣崎らしくあるため、自己犠牲を選び続けろと言うのだ。

それから外れれば、キャラクターが違うと言われる。

 

 

「バカらしいとは思わないのか!!」

 

 

ディケイドの登場により、世界が崩壊し、ブレイドの世界は粉々になった。

それは今も。橘も、睦月も、始ももういない。世界の崩壊に巻き込まれて消えた。

その延長線に剣崎は立っている。それもまた神々が書いた脚本どおりだ。

それを受け入れて戦っても否定されるだけ。もうどこにも剣崎が救われる道はない。どこに言っても壁がある。決して乗り越えられない壁が。

 

だから、剣崎は頼んだ。終わらせてくれと。

鳴滝はそれを了承し、剣崎をアンデッドではなくした。

ジョーカーではなくなったのだ。それでもまだ世界は剣崎に不死を望む。永遠に終わらないことを望んでいる。

だから、終わらせるために、さ迷っている。

それは渡も同じ。

 

 

「僕の仲間はネオファンガイアによって全滅させられました」

 

 

戦い続けるとはその可能性と隣り合わせだと言うことだ。それが具現するのはある意味、当然のこと。

ましてや、大切な人の死が、仕組まれた事であると知れば、納得はできなかった。

 

 

「僕たち仮面ライダーはヒトのために戦い、ヒトの否定によって苦しめられる。少なくとも、そんな下らないサイクルは止めるべきだ」

 

 

屋上から飛び降りる剣崎と渡。

士は追いかけようとして、躊躇してしまった。

 

 

「―――ッッ!!」

 

 

唸り声をあげて柵を殴りつける。

痛い。あまりにも痛い。だが、しかし、痛みがあるのは分かってしまうからだ。

これから一体、なんのために戦えば――ッ!

 

 

「正しいんじゃないですか? あの二人が」

 

「……ッ」

 

 

士は、それを言ったタケルを見る。

彼は体育座りをしながら、ふてくされていた。

 

 

「父さんをバカにされた事もあるし、仲間を馬鹿にされた事もある」

 

 

タケルは拳を握り締め、虚空を、神を睨んだ。

 

 

「戦えないよ、おれ……!」

 

 

だから、オレアイコンが反応しなかった。

戦ったところで、神はきっとまた自分をバカにする。

タケルの心は叫んでいるのだ、『オレ』はもう戦えないと。

 

 

「………」

 

 

士は何も言わないし、何も言えない。

タケルは純粋だった。年齢だって、言うても子供だ。

だからこそタケルはオラクルの攻撃に一番の傷を負ってしまった。

どこか達観していたほかのメンバーとは違い、タケルにはオラクルの刃が一番深く刺さってしまった。

 

あまりにも傷ついた心は防衛本能として夢をみせた。何も知らずに戦う夢を。

それをブックメイカーが具現し、タケルを幽閉した。

それが、【Ch.5】。なんとか自力で戻ってこれたはいいが、もっと深く攻撃されていれば、完全に浸ってしまっていただろう。

 

 

「タケル、ドライブでもしないか?」

 

 

進ノ介はタケルの肩を優しく叩くと、この場を離れるように促す。

 

 

「………」

 

 

どうしていいか分からず、取りあえずタケルは頷いた。

離れるタケルと、それにあわせて他のライダーたちも屋上を離れていく。

どこに行くでもないが、とにかく心を整理したかった。

その中で、三人だけ残る。士と、翔太郎と、フィリップだ。

 

 

「少し気になることがある」

 

「んん?」

 

 

士は先程までタケルが座っていた場所を見る。

フィリップも釣られて其方に視線を移した。

 

 

「なぜブックメイカーはタケルを狙ったと思う?」

 

 

オラクルはおそらくブックメイカーの指示に従い動いていた筈だ。

その中、タケルは特別強い攻撃を受けた。より心を抉り削るような。

それは少し過剰とも思えるようなもの。ライダーを否定し、ゴーストを否定し、全てを否定する一手。

 

 

「それは僕も気になっていた。オラクルの言葉を聞くに、ゴーストには神々の厳しい言葉が投げかけられたようだ」

 

 

だがしかし、そんなものは他のライダーも同じなのだ。

ディケイドも、ダブルも、あの最大の否定、シリーズの終焉を望むものはいただろう。

 

 

「オラクルの説明を聞くに、ヤツは神なる世界のSNS等のコメントをチョイスしているだけにしかすぎない」

 

 

であるならば、ダブルやディケイドに向けてあの一撃を放つこともできた筈。

なぜあの言葉の刃を、タケルに向けたのか。ゴーストを持ち出してきたのか。シリーズ1の~、などと。

 

 

「偶然の可能性? もちろんあるだろう」

 

 

しかし、何が裏があれば。

それは特別で大きな理由じゃなくとも、何か少し、欠片でもゴーストが関わっていたら……?

 

 

「この世界に来て、フラッシュバックが起きた」

 

 

断続的にいろいろな情報がフィリップの中に入ってきたという。

フィリップはそれをデータとしてデンデンセンサーに出力しており、映像化をさせてみる。

士達の前に広がるホログラフモニタ。そこにフィリップの頭の中にフラッシュバックしてきた映像が映る。

 

 

「映像は全部で5つ。これが何を意味しているかは分からない。もう起きたことならば止めようがないけれど、なにかヒントにはなるかも」

 

 

最初の【Ch.1】はニュースの映像だった。

ノイズだらけで言葉はほとんど聞こえないが、一瞬だけ男の子の写真が映る。

小学校高学年くらいだろうか? 少なくとも知らない顔だ。竜斗たちでもなければ、ブックメイカーでもない。

 

耳をすませる翔太郎。

なにやら内容を察するに、男の子が行方不明になったようだ。それを探しているニュースだろう。

映像はある程度すると完全に砂嵐になり、以後はなにも映らない。チャンネルを切り開ける事でループ再生が行われるらしい。

 

フィリップはここでチャンネルを切り替え、【Ch.4】に。

暗くてよく見えないが、喘ぎ声が聞こえてきた。

 

 

「お、おい! なんだこれ」

 

 

身を乗り出し、目を細める翔太郎。

み、見えない。シルエットだけはかろうじて確認できるが……。

 

 

「おそらくは交尾中だろうね」

 

「こ、こここここここけっこっこーッッッ!!」

 

 

翔太郎は真っ赤になりながらフィリップと士の肩をバシバシ叩き始める。

 

 

「こここここここうびってお前何言ってんだよそれってお前つまりあれか? あれだよな? あ、あ、あ、あ、あああああ! 良い! 言わなくて良い! でもお前だからそれはつまり交尾ってお前――」

 

「ああ! もう! お前はうるっさ――ッッ! ただセックスしてるだけだろうが!!」

 

「せぇえええええええええうッッッ! オオオオオオオオオオオ!!」

 

 

翔太郎は胸を抑えて後退していく。

一方で呆れた様に鼻を鳴らす士。フィリップもやれやれと首を振り、会話を続ける。

 

 

「これはエグゼイドとポッピーピポパポだ。ガシャットが奪われて、彼がブックメイカーの世界に取り込まれた時の映像だろう」

 

 

おかしいと思っていた。画面は暗くて見えないが、声で永夢と分かったのだ。

この異変にもっと早く気づいていれば良かったのか? いや、流石にこの情報だけで永夢を問い詰めることは出来ない。

 

 

「プライベートなことかと思って。ほら、こういうのは聞かない方がいいんだろう?」

 

 

フィリップは次のチャンネルに。【Ch.5】は新しく追加されたものだという。

オラクルの言葉に傷つけられ、取り込まれかけたタケルがいた世界だ。

永夢と同様に全く違う記憶を刷り込まれ、その世界の住人として生きていく。

永夢はCR職員として、タケルは仲間たちと共にゴーストハンターとして。

 

 

「さて。僕が気になってるのはこの二つさ」

 

 

まずフィリップは【Ch.2】を見せた。

そこには砂漠を歩く人影が見える。映像は砂嵐に塗れて何も見えない。

が、しかし、声だけは聞こえてきた。

 

 

「これは? アンデッド語か」

 

「そう。翻訳すると――」

 

 

アッタドゥザフラヲアヒアカタツ、イホナ

(あの日、戦いは終わる筈だった)

 

アチシエチホウェロサゴチフルシア、イサキス

(しかし、愛する人がそれを否定した)

 

アッタカネモチマギタトチフ

(人たちが認めなかった)

 

アヅンオゾノウコギズ

(地獄を望んだ)

 

ウルシエチフ、アタマラカヅ

(だからまた、否定する)

 

オツソーグ、アフーィル

(理由はゴースト)

 

アディエソネアモ

(お前のせいだ)

 

ウラヲアヒアカタツ、エディエソネアモ

(お前のせいで、戦いは終わる)

 

アッタカネラシア、ーヘアモ

(お前は、愛されなかった)

 

 

「ブックメイカーの情報どおりだな」

 

「ただ、気になるのは発言者だ。僕ははじめアンデッド語ができるという理由から、このシルエットの正体がブレイドだと思っていた」

 

 

しかし剣崎にしては、あまりにも崩れている。もはやヒトとしての形状は限界を迎えようとしているようにも見えた。

確かに剣崎もジョーカー体になれば人間の姿ではなくなるが、これはもうその次元ですらない。

 

 

「声も濁っている」

 

「つまり、剣崎じゃないって事か」

 

「と言うよりも、さっき本人に聞いた」

 

「マジか。いつのまに。それで?」

 

「記憶に無いらしい」

 

 

では誰が?

情報で絞られる事。ゴーストを知っており、かつあの情報を知っているもの。

そしてアンデッド語を喋られる人間。それはもしかしたら膨大な知識量――

 

 

「……とにかく、もう少し調べてみるよ。まあ何か分かったところで、ヒントくらいにしかならないだろうけど」

 

「ああ。もうひとつは?」

 

「ああ、これだけど」

 

 

映し出された【Ch.3】には残虐な映像が記録されていた。

ペストマスクを被った男が椅子に縛られた少年をナイフで刺し殺しており、その後、肉体を崩壊させていく。内蔵を引きずり出し、皮をはいでいく。

その凄惨な光景を見て、翔太郎は怒りに拳を震わせた。

 

 

「クソ! ふざけたヤローだなッ! 許せねぇ!!」

 

 

いくら怒りを露にしようが、これは映像。救えないのがもどかしい所だ。

ましてやフィクションと言う可能性もある。これが本当に起こったことかどうかは分からない。

それに、許せない。許せないが――。

 

 

「誰だこれ」

 

「そう。それが分からない」

 

 

この映像はどう考えてもただのスナッフフィルム。

にも関わらず、フィリップの頭のなかに入ってきたということは、何かしらはライダーに関係していると言うことだ。

怪人? いや、違う。これはただの仮面。

 

つまり――、人間?

 

 

「少し調べてみる。が、期待はしないでほしい。情報が少なすぎる」

 

「ああ、分かった」

 

 

士は翔太郎とフィリップの肩を叩き、間を通り抜ける。

 

 

「どこへ?」

 

「渡達を止めてくる。いくら敵が控えてるつっても、そっちはそっちでヤバイからな」

 

「大変だな」

 

「本当にな。ったく、ライダーってのはこれだから困る。皆が皆、俺のように素晴らしい人間であったならこんな事にはなっていなかったと言うのに……」

 

「………」

 

 

翔太郎は何ともいえない表情で固まる。安いししゃもみたいな顔だった。

 

 

「何だよその顔は」

 

「……リアクションに困ること言うんじゃねぇ」

 

 

士はため息をついて目を逸らした。

だが一方で腕をふり、『ある道具』を翔太郎に向けて投げる。

 

 

「コイツは……」

 

「アイツに渡してくれ」

 

「――ああ、引き受けたぜ。破壊者さんよ」

 

 

ニヒルに笑う翔太郎。受け取った『道具』を掲げると、踵を返す。

 

 

「いくぜ相棒。のんびりはしちゃいられねぇ」

 

「ああ。そのようだね」

 

 

翔太郎達は士と別れると、駆け足で学校を出る。

校庭には既に到着していたリボルギャリーが。フィリップはそこに。

翔太郎はハードボイルダーの乗り込むと、それぞれ砂煙を巻き起こしながらタイヤを回転させた。

 

 

 




意外とディケイド版剣崎と渡ダークで好き( ^ω^ )
バトライドウォー無印の士もダークで好き( ^ω^ )

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