カメンライダー   作:ホシボシ

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第12話 ピエロ

 

 

「いらっしゃい」

 

 

カランカランと、来客を知らせる鐘がなる。

ウッドスタイルの店内は随分と落ち着いているが――、今日はなぜか店内が薄暗い。

わざとなのだろうか? とは言え、気分は落ち着く。翔太郎は帽子を整えるとカウンター席についた。

隣にはフィリップが座り、店主に笑みを向ける。すると店主も笑みを返してくれた。

 

 

「やあ、何か飲む?」

 

「今日は大人びた気分でな。マスター、ウイスキーを」

 

「あはは、ここ一応喫茶店なんだけどね!」

 

 

とは言え、置いてはあるようで。

マスターはグラスを用意すると、翔太郎の前に琥珀色の液体を差し出した。カランと、音をたてて氷がまわる。

翔太郎は何も言わない、動かない。その内にグラスには汗が浮かんできた。

一方で隣にいたフィリップは牛乳を注文するとゴクゴク音をたてて飲んでいる。

おかわりを注文すると、またゴクゴクと。

 

 

「………」

 

 

翔太郎はニヒルに笑い、ゆっくりとグラスに口をつけた。

 

 

「ゴハァ! げほっっ! おえッ!」

 

「大丈夫?」

 

「……ああ、芳醇な甘い香りが樽のアレで、オレの口に広がって、まろやかなアレがそれで」

 

「つまり?」

 

「おいちい」

 

 

翔太郎はそれだけを言うと何も言わなくなった。

強い酒を頂くのは久しぶりだったから醜態を晒してしまった。だからこそ、フィリップが本題に入る。

 

 

「これがキミの望んだ世界なのかい? クウガ」

 

「………」

 

 

五代雄介は薄暗い店内で、貼り付けたような笑顔をずっと浮かべていた。

 

 

「平和だけど、キミは冒険家だろ? 店を構えるのは向いてない」

 

「かもね。でも、これでいいよ」

 

「と言うと?」

 

「正直もう何も見たくないし、何も聞きたくない」

 

 

耳障りの良い言葉だけを聴いていたいし、赤黒い血じゃなくて青空のように綺麗なものばかりを見ていたい。

それ以外は見たくないし、聴きたくない。動かなくていい。もう冒険なんてしたくない。

ただ平和な地で、平和に生きたい。争いのない場所で永遠に笑っていたい。

つまり――、それは単純に言えば、結局。

 

 

「もう、戦いたく――、ないんだ」

 

「………」

 

 

それはあまりにも純粋な願いだった。

そうだ、戦いたくない。誰も、彼も、皆。

 

 

「気持ちは分かるよ。でも――、だからと言ってブックメイカーの齎す世界で生きる理由にはなるのかい?」

 

 

ブックメイカーがただ救済だけを与えてくれるのであれば、それも一つ答えだと流していたかもしれない。

事実それはフィリップ達だってそうだ。

 

しかしブックメイカーの言う救済には裏がある。

いや、逆を言えばそれをしなければ救済はされないのか。

とにかくブックメイカーの言う新たなる世界形態、まさにニューワールドオーダーとも言える『カメンライダー』とは、ライダーを量産し各世界にバラまいた怪人と戦わせること。

何を思ってそんな事をするのかは未だに分かりかねるが、とにかく怪人の脅威が各世界にもたらされることを意味する。

 

 

「救われる者もいるが、傷つく者もいる」

 

 

ブックメイカーはそれを当たり前だと口にした。

確かに、当たり前だ。しかしそれでも引っかかるものはあるだろう。

 

 

「やはりそれは、止めなければならない」

 

「……でも、俺以外にもクウガは生まれるでしょ?」

 

「それは、まあ」

 

「やっぱりさ。俺じゃなきゃダメって思うところはあったよ。だってグロンギに対抗できるのはやっぱりクウガじゃないとね」

 

 

だから戦えた。

しかし今はグロンギなんて他のライダーでも倒せる。

甘えてもいいじゃないか。五代は少しそう思うようになってしまった。

ああ、そんな事を思ったら神々に否定されてしまうのだろうか?

こんなの五代じゃないって。

 

 

「疲れるよ」

 

「………」

 

「それに俺もう変身できないし」

 

「アマダム、か」

 

「うん」

 

 

今まではお情けだった。

戦いが続くことでアマダムにも利点はあったのだ。

だからこそアマダムはクウガに協力していただけにしか過ぎない。しかし今、アマダムは完全にブックメイカー派だ。

まあ早い話が、五代雄介を見限ったといえばいいか。アークルも今はアマダムが所持し、ゴッドの変身に使用している。

だからもう五代はクウガにはなれない。

 

 

「理論上は、な」

 

「え?」

 

 

翔太郎はある物を取り出し、カウンターに乗せる。

 

 

「これって……」

 

「士から預かってきた。アンタに渡してほしいって」

 

「………」

 

「アイツの、親友が使ってたものらしいぜ」

 

 

呪いかもしれない。

いや、呪いだった。永遠の呪縛。

 

 

「ともかく」

 

 

翔太郎は席を立つ。

 

 

「いずれにせよ。決めるのはアンタだ。仮面ライダークウガ、五代雄介」

 

 

フィリップも無言で立ち上がると、喫茶店を出て行こうと。

 

 

「あ、お金」

 

「ツケといてくれ。"次に会うとき"に渡す」

 

 

翔太郎は振り返らず、店を出た。

そして店の前に停車していたハードボイルダーのハンドルに手を伸ばす。

 

 

「翔太郎。ついさっき飲んだだろ?」

 

「や、全部吐いた」

 

「ハァ。キミってヤツは」

 

 

すると爆発音が聞こえた。

それに混じって、悲鳴も。

 

 

「………」「………」

 

 

しばし固まる。二人とも。

やれやれ。つくづくそう思う。

 

 

「意味はあると思うかい?」

 

「ねぇだろうな。だが――、それでもオレ達はココにいる。違うか? 相棒」

 

「……ああ」

 

 

ブックメイカーによる精神攻撃は、『攻撃』ではない。『勧誘』だ。

全てを教えることにより、よりよい選択を選ばせる。

それはなにも難しい事ではなく、ただ『苦しむ』か『苦しまないか』、それだけだ。

思い出す。オラクルに負けたとき、ブックメイカーから誘いを受けた。

 

 

『やはり先輩が先陣を切ったほうが、後輩も続きやすいだろう?』

 

 

そういう理由らしい。

ブックメイカーが指を鳴らすと、翔太郎は、フィリップは、アパートの一室にいた。

なんの前ふりもなく、同じ様な間取りだが、翔太郎達はそれぞれ別々の部屋にいて、クッションの上に座っていた。

 

 

「はい、来人(ライト)くん」

 

「………」

 

 

呆気に取られているフィリップの前には、温かいオムライス。

ベタな光景だ、黄色いタマゴの上にケチャップでハートが描かれている。

Episode DECADEにはありとあらゆる情報が記載されている。だからこそフィリップもそれだけ賢くなっている。

シリアスな男達の戦いとは裏腹な光景に、つい笑ってしまった。

これは、あまりにも、バカなカップルの象徴だから。

 

 

「ちぇ! なになに! ハート嫌い? 綺麗に書いたのに!」

 

「いや……」

 

 

皮肉にも、『覚えている表情』は険しいものばかりだった。

もちろん最期の時を忘れた訳ではないけれど。結局と彼女に与えられた役割は『敵』であり、ましてや――、姉であり。

 

しかし、それでもフィリップがその女性の事を『若菜さん』と呼んだのは、そういう願いが心のどこかにあったからなのだろうか。

悪くないが、どこか間抜けだ。フォトフレームには若菜と身をくっつけて笑っている自分が見える。

あんな写真を撮った覚えはないが、自分に嫉妬してしまうのは異常なことだ。

 

そう異常なことだ。

血が繋がっている相手と、こんな場所で、こんな――……。

 

そしてそれは翔太郎も同じであった。

味噌汁の匂い、ちゃぶ台にはご飯が置かれ、包丁がまな板に当たる音が聞こえてくる。

なんだ? どこだ? 周りを見ると、ベッドの上に『YES』だの『NO』だのかかれた枕が転がっていた。バカみたいな光景に一瞬吹き出しそうになるが――

 

 

「待っててね翔ちゃん。もうすぐできるから」

 

「お、おお! わりぃな真里奈」

 

 

自然な会話だった。

エプロン姿の女性は、太陽のような笑顔を向けるものだから、つい普通に答えてしまったじゃないか。

翔太郎はすぐに気づいた。これは現実じゃない。

 

 

「いや、現実だ」

 

 

ブックメイカーの声が聞こえた。

翔太郎とフィリップの耳に同時に、そして等しく。

 

 

「ブックメイカーの目指す救済とは――! ありとあらゆる理想を体現したものでなければならない」

 

 

――なかでも!

そう、『愛』は必要不可欠なものであると僕は考えている。

愛の形は多種多様にわたり、一概にその全てを説明する事はできない。

 

故に、僕は最も分かりやすく受け入れやすい愛をキミ達に提供することで、よりより救済の形を理解してもらおうと思うのさ。

時にそれは他者から見れば酷く滑稽で間抜けなものに見えるかもしれないが、なに、心配はいらない。誰もキミ達の幸福を邪魔する権利はないのだし、今までキミ達は他者のために自己を犠牲にしてきたのだから、多少なりとも人目はばかる事なく振舞ったとしてもバチはあたらないだろうて。

 

僕はブックメイカー。

設定はそう設定されているから、そう反映されるのであって、それを書き換えれば設定は姿を変える。当たり前の話だ。

 

悪くないはずだよ。

そういうルートがあったとしてもキミらはそれを簡単に受け入れることができるはずだ。

いやいや、抵抗があったとしてもいずれは受け入れることができる。

なぜか? 決まっている。たとえ自覚していなくともキミ達の心の奥底では、この景色を望んでいた部分があったからだろう?

たとえそれが数字にしてみれば0.1%だったとしてもね。

 

いいかい? このブックメイカーの前では血は血にあらず。罪は罪に有らず。

下らない倫理観や常識に縛られることもない。姉は姉でなくなり。罪人は罪人でなくなり、一人の女性となる。

その背景も状況も違う。いいか、何度でも言うぞ。人を構成するのは記憶、環境、状況。即ちバックボーン。

全く違うものになれば別人になる。それはキミ達もよく理解しているところであろう。

 

そしてキミ達もまた同じではないか。ただの幸せな住人として生きればいい。

今は受け入れられずとも、唯一無二の愛がキミ達を満たすであろう。

慈愛の光はキミ達の自尊心を埋め、幸福な世界を具現する。

 

違うか? 左翔太郎。フィリップ。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

確かに。と、思う。

 

 

「――ハハ」

 

「フッ! ハハハ!」

 

 

だがしかし。

バカだなぁとも思った。

確かに! ブックメイカーの言うことは素晴らしいのであろう。

事実なのかもしれないし、優しさに従うのも有りなんだろう。いや、むしろ最高だ。

こんな素晴らしい世界を与えてくれるブックメイカーには土下座の一つでもしなければ申し訳ない気分にさえなる。

 

 

 

なる。

 

 

 

が!

 

 

一つだけ! たった一つだけ、ブックメイカーは甘かった。

 

それは、自分たちが『二人で一人』だという事だった。

 

 

「「ハハハハハハハハハ!!」」

 

 

重なる笑い声。

ますますおかしくなったのは、出口の向こうから声が聞こえてきたからだ。

 

確かに、確かに、素晴らしい。

が、しかし、フィリップは真里奈には欠片も心揺さぶられないし。

翔太郎は若菜姫には感謝はすれど、愛欲は抱かなかった。

 

だから、いらないのだ。

 

それになにより、受け入れれば必ず相棒はバカにしたような笑みを浮かべるんだろう。

それはなんだかとても腹が立つことだった。これは文句の一つでも言ってやらねば気がすまない。

しかし生憎と相棒の姿はない。どこだ? どこだ? 探す。と、ほら、後ろに扉が。

 

なんだ、とっても簡単だ。

入り口と出口は同じじゃないか。

翔太郎は、フィリップは、玄関の扉の前にたち、まずはチェーンをはずす。

 

 

「いかないで」

 

 

するとどうだ、二人の女は男の手を取って懇願を。

涙を流し、崩れ落ちてすがり付いてくる。行かないで、ああ行かないで、愛しているの。

ずっとここにいましょう。そうすれば私は幸せだから。

 

なんて言葉を投げてくるのだ、この女どもは。

しかしそれに従うのは残念ながら阿呆のことなのだ。

だって教えられたじゃないか。ライダーとは――、そんな幸福には浸れない。悲劇背負う事にこそ、その本質がある。

 

 

「ああ、いいぜ。悪くない。悪くないぜ。こういうのってまさに――」

 

 

ハードボイルド。

翔太郎は帽子を深く被り、笑ってみせる。

扉は一つ。窓はカーテンで隠されている。奥には部屋があって、トイレがあって、扉はあるんだろう。しかしそれは『奥に進む』ことでしか見えぬ扉。

 

必要はない。

 

出口は、ただ、一つだけ。

 

 

「悪りぃな、真里奈」

 

「ごめん、姉さん」

 

 

一番近い片割れが、相乗りしないといけないヤツが扉の向こうにいるんだ。

だから翔太郎は、フィリップは、ドアノブを掴む。

しかし開かない。鍵が掛かっている。内側なのだから普通はつまみを捻ればいいだけだ。

にも関わらず、つまみがなかった。室内なのに、ドアノブには鍵穴があった。

 

 

「悪趣味な野郎だ」

 

「……吐き気がする」

 

 

翔太郎とフィリップはドライバーを構え、ガイアメモリを手にした。

バカらしくて笑いそうになる。戦いの要らない救済の場に、こんな物を持ち出さなくてはいけないとは。

鍵はどこにあるのか。どうすれば扉は開くのか。翔太郎とフィリップは理解してしまった。

だって分かりやすい。背後にいる"恐竜"を。"土人形"をブッ飛ばせばいいんだろう。

 

 

「変」「身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

フィリップは血まみれの部屋で立っていた。

周囲には臓器が散乱し、彼は上半身だけの姉をジッと見ていた。

 

 

「……私達、こうして…、ずっと。一緒にいられたら――ッ、素敵でしょうね」

 

 

幻なのか。それとも。

 

 

「……僕も、そう思います」

 

 

「じゃあ……、そう…、す――、る?」

 

 

吐血し、微笑む女性をフィリップはどう見ているのだろうか。

美しかった彼女の顔は、今はもう見る影も無い。しかしフィリップは目を逸らさなかった。顔の半分を潰したのは、自分の手刀だったから。

 

 

「いいですよ。本当の若菜さんがそうしたいなら、本当の僕もついていきます」

 

「ねえ……、今の――、本……、気……?」

 

「どうかな」

 

 

若菜は舌打ちをすると、鍵を投げた。

 

 

「香澄さんとお幸せに」

 

 

そして消え去る。血も、臓器も、ましてや死体は欠片も残らない。

フィリップは鍵を受け取ると無表情で踵を返した。ただ、一筋だけ。たった一筋だけ。右目から雫が零れた。

そして、翔太郎だって。

 

 

「ハァ――ッ、ハァ。真里奈。どうだ? ハハ、ハハハ」

 

「翔ちゃん。ムリしてる」

 

「何が――ッ? オレの勝ちだぜ。ハハ、もう参っただろ? だから、速く鍵を渡してくれ」

 

「いかないで」

 

「ソイツはムリな相談だな。オレはハードボイルド。女よりも街の平和を守る鉄の男なのさ」

 

「自分の街だけ守れればいいクズ」

 

「おい、おい止めろ。オラクルの言葉を蒸し返すな。ハァ、ハァ」

 

「……バカね。本当に」

 

 

グチャグチャになった真里奈が微笑んだ。

そうしなければならなかったし、そうなっていった。それを翔太郎が望んでいたかと言われればもちろんノーだ。

しかし先に進むにはそうしなければならなかったし、それをしなければどうしようもないので、やはり翔太郎はそうするしかなかったのだ。

 

だから、翔太郎は吐いた。躊躇して攻撃を受けた。

血まみれになり、肩で息をし、涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら翔太郎は微笑んでいた。

無様な姿だ。まさに半熟卵みたいな顔である。

 

殺さなければならない。

なぜ? 先に進むために。怪人状態でいてくれた方がよほど良かった。

なのにこの女、途中で変身を解除しやがった。だけれども倒さなければ先に進めないので、翔太郎は戦った。

生身の女相手に、力を存分に振るった。にも関わらずなかなか死なないし諦めてくれない。

 

まったく、コイツは本当に、厄介なメス猫ちゃんだぜ。

自由で、きままで、勝手で。

 

 

「辛いなら、止めればいいのに」

 

「かもな。自分でも、間抜けだ……!」

 

 

肉塊が微笑む。翔太郎は涙を流して微笑んだ。帽子も床の端に落っこちている。

しかし、なぜかあれだけ泣いたのに、雫は左目からしか出ない。

 

 

「……あげる」

 

 

肉は鍵を渡し、消え去った。

翔太郎は素早く口をゆすぎ、タオルで顔を拭くと、扉の前でニヤリと笑う。

おっといけない、帽子を忘れてた。素早く拾い上げると頭に乗せて、もう一度ニヤリと笑ってみる。

そして扉を開くと、フィリップと顔を合わせた。

 

 

「行くか相棒。ちょっと遅かったんじゃねぇのか?」

 

「冗談だろ。そっちの方が遅かった」

 

「や。や。それはウソだ。だって――」

 

 

気づけば、回りの景色は消えていた。

ディケイドたちがいる中で、フィリップは小さく呟く。

 

 

「翔太郎」

 

「あん?」

 

「僕らはダブルなのか。それとも、ダブルでなければならないのか」

 

「………」

 

 

翔太郎は何も答えなかった。

 

そして現在に戻る。

翔太郎はブレーキをかけてハードボイルダーを停車させる。

恐怖の形相で逃げ惑う人々が翔太郎を通り過ぎていく。前からは異形の化け物たちがゾロゾロと歩いてくるのが見えた。

コウモリとか、カマキリだとか、ヒトデだとか、良く分からない生物もいる。だがいずれもが返り血を浴び、人の屍を踏み越え、笑っていた。

 

翔太郎は、バイクから降りた。

後ろに"相乗り"していたフィリップも降りた。

二人はゆっくりと歩き、怪人達に向かっていく。10体。いや、20体はいるだろうか。

 

 

「戦う気か」

 

 

先頭を歩いていたショッカー怪人、"死神カメレオン"が問いかける。

 

 

「勝てると思っているのなら愚か者。そして戦うと言うのなら、救いようのない愚か者だ」

 

「………」「………」

 

「この戦い自体に意味はない。分かるな。そうであると言うだけ。我々の進行を止めたところで何にもならないし。なにも変わらない。なぜならばコレもまた創作の中の一つでしかないからだ」

 

 

つまり、虚構(フィクション)

ギョロリとした目が翔太郎達を睨みつける。

意味の無いモノを意味あるモノにしようともがくのは苦痛を伴う。理解されない苦痛が。

 

 

「苦みを背負う意味はないのだ。仮面ライダーダブル」

 

「愚かもの、か」

 

「?」

 

「ハハ。ハハハ! ハハハハハハハハハ!!」

 

 

やはり、翔太郎はゲラゲラと声をあげて。

フィリップは――

 

 

「フフッ、ゾクゾクするねぇ」

 

 

笑った。

確かに、この二人は笑った。声をあげ、ただただ笑う。

 

 

「確かに! 意味はない!」『サイクロン!!』

 

 

ガイアメモリを起動するフィリップ。

するとどうだ。サイクロンメモリの力なのか。風が、突風が巻き起こる。

激しい風だ。フィリップの髪を、服をバタバタと揺らし、怪人たちも風圧に怯んだように踏みとどまっていた。

 

 

「僕たちが今からする事に意味はないし! ましてやその根本にあるのは人を守ること! しかし今、僕たちが戦えば人は戦いに興味を示してしまい! 争いを加速させるためにさらに物語りは生まれていく!」

 

 

ビョウビョウ音を立てる風に負けないように、フィリップは大声で叫んだ。

 

 

「ましてや! 全てが創作ならば誰が死のうが、誰が生きようが! 意味なんてない!! だって全てはフィクションの上にあることなのだから!!」

 

「そのとおりだ。勝利も敗北も、生も死も、もはや意味はない」

 

 

些細な物語の一つでしかないのだ。

 

 

「だったらそのために苦痛を感じながらも戦う僕らは確かに愚かだ! 愚かで、バカで、ああッ、まさに救いようがない! 道理、納得、万歳!!」

 

 

しかし、どうだ、んん。

風は、なお、その勢いを増していくばかりではないか!

 

 

「愚かな輪廻の中で踊り続ける僕達は滑稽だ! ねえ、翔太郎!」

 

「ああ、そのとおりだぜ相棒!」

 

 

風はまた強くなる。

遠くに風車が見えるのは気のせいだろうか。どこぞの店にある風見鶏が凄まじいほど回転していく。

翔太郎のベストが揺れる。帽子を手で押さえなければ飛んでいってしまうだろう。

 

 

「もっとだ! もっと強く!」

 

「どういう事だ……!?」

 

 

緑色の風が吹き荒れる。

まさにそれは全てを吹き飛ばすサイクロン。痛みも、迷いも、そしてこの恐怖さえも。

 

 

『♪』

 

 

翔太郎の肩を蹴ったシルエット、それはメモリガジェット・フロッグポッド。

誰が設定したのかは知らないが、フロッグは一曲、音楽を奏でる。

曲名は『ハードボイルド』。その意味は、感情や状況に流されず、軟弱や妥協を嫌う生き様である。

翔太郎の憧れであるが――、どうにもそう上手くはいかないことだ。

 

しかし、まだ、ごっこ遊びくらいは続けられるはずだ。

このドロドロとした感情をハードに見せることくらいは。

 

風が吹く。風が舞う。

その中で翔太郎は笑った。強引に唇を吊り上げて、歯を見せてやるのだ。

ハードなときほどニヒルに笑ってやるのだ。

 

 

「風よ吹け! 荒れろ! オレたちの迷いを吹き飛ばす嵐に変われ!!」

 

「ムゥ!」

 

「間抜けに哀れに踊ってやるよ。世界よ、オレを視ろ! オレだけを映せ!!」

 

 

全てのカメラが翔太郎に、全てのスポットライトが翔太郎に、全ての目が翔太郎に向けられる。

 

 

(そうだ! それでいい! キテる。キテるぜ相棒!)

 

 

アホだろ? 間抜けだろ? 何にも分かってないだろ!?

 

 

「なあ、そうだろ、ブックメイカー!」

 

「………」

 

 

事実、本条は白い部屋のなかでテレビを見ていた。

壁一面に広がる全ての分割されたモニタが翔太郎を映す。本条は椅子にどっかりと座り、頬に手をついてその様を見ていた。

 

 

「アホが」

 

 

そう、アホなんだ!

だが、しかし、それでいい! 翔太郎は今、それを望んだ。

 

 

「いいか! オレは言ったんだよ!」

 

 

たとえお前らがどんなに強大な悪でも、風都を――

 

 

「いや! 人を泣かせる奴は許さねえ! 体一つになっても食らい付いて倒す! その心そのものが仮面ライダーなんだッてなぁ! おいおい! それを訂正させる気か? オレ自身に否定させる気か! ふざけんな! そっちの方が百億倍ダセぇだろうが!!」

 

「だから痛みを背負うと? プライドのために愛の幻影まで否定して」

 

 

まるで会話が通じているようだった。

モニタ越しに会話を行う本条と翔太郎たち。

 

 

「僕らはまさにピエロ! アホの象徴!」

 

「間違いねぇなフィリップ! そう、オレ達は滑稽なモンスター!」

 

 

ミュージカルのように大げさな仕草で二人は笑い合う。

 

 

「だが翔太郎! ピエロは子供に人気だよ!」

 

「だったら――ッ、問題はねぇな!」

 

 

ピエロがなぜ涙のメイクをしているか、知っているかい? フィリップが笑った。

いろいろ諸説はあるが、ピエロと言う演目において道化は愛ゆえに『片思い』の相手を殺してしまう。

 

たとえ滑稽に間抜けに踊るアホでさえ、哀しみは背負っているし、汚いものを抱えている。

ドロッドロの愚かで見苦しい罪を背負ってるんだ。

それが涙のマーク。罪を数えるための証。

 

しかしピエロはそれを悟らせない。白塗りと笑顔で間抜けに踊り続ける。

今日も、明日も、明後日も、未来永劫、自分が愚かと知りながら。

 

 

――報われないとも理解()りながら。

 

 

「踊ってやるよ――ッ! 地獄の果てまで、間抜けにな!」

 

 

まさに、それは。

 

 

道化師(ジョーカー)!』

 

 

メモリを構える翔太郎とフィリップ。

 

 

「「変身!」」『サイクロン・ジョーカー!』

 

 

フィリップの体は本の形をした『Episode DECADE』に吸い込まれて消失。

一方で翔太郎の顔に浮かび上がる刻印。それはかつてライダーが受けた改造手術の傷跡にも見えるし、涙の痕にも見える。

それは翔太郎にとっての愚かで哀れなピエロのメイクだった。

 

 

「哀れなり、ライダー!!」

 

 

走り出す怪人達。

 

 

「哀れ……。ハッ」

 

 

確かに。だが、それでも――

 

 

「"動けば"かっこいいのが、オレ達の専売特許だろ!」

 

 

逆に、動かなければダサいままだ。

ダブルもまた怪人の群れに突っ込んでいった。

 

 

「ショッカー怪人!『「さあ! お前の罪を数えろ!!』」

 

 

マフラーを靡かせて。死に向かって走っていく。

 

 

「オオァア!!」

 

「フゥエエエエ!!」

 

 

飛び上がるダブルと、羽を広げた怪人・ゲバコンドルがぶつかり合う。

結果は火花を散らして墜落したダブルが証明していた。しかしそれでもすぐに立ち上がり、足を振るう。

怪人を蹴った感触。しかしすぐにカウンターの爪が伸びてくる。

 

あまりにも多勢に無勢。

四肢に絡みつくカマキリ男の鎖鎌や、クモ男の糸。ミミズ男の殺人リング。

それらはダブルの動きを拘束し、怪人たちはなだれのようにダブルへ突撃しった。

 

ああ、こんな分かりやすい暴力の形があるのだろうか。

引き倒され、そこへ群がる怪人達。ただ容赦なく拳や足、武器で倒れたダブルを襲っていく。まるでそれは砂糖に群がるアリのようだった。

 

 

「オオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ダブルが――、正確には翔太郎が叫んだ。

痛い、苦しい、もちろんこんな事をする為にダブルになったワケではない。

なんて、思う頭を黙らせるため、ありったけに叫んだ。

 

 

「!!」

 

 

怪人達のうろたえる声が聞こえる。

ダブルを中心にして暴風が発生した。

巻き起こり、渦巻く嵐に巻き込まれ、怪人達は空へ巻き上げられていく。

風が糸やミミズを引き裂き、ダブルは両手を広げてゆっくりと上昇していく。

 

 

『ジョーカー! マキシマムドライブ!!』

 

 

「『ジョーカーエクストリーム!!』」

 

 

風の流れが変わった。

墜落していく怪人達と、半分に分かれたダブルが蹴り飛ばしたのはゲバコンドル。

 

 

「ウィィィィィッッ!!」

 

 

痛みに叫びながら地面を滑るゲバコンドル。

流石にまだダメージを与えきれていないのか、爆発はせずに終わった。

だったら追撃を加えるまで。ダブルはヒートジョーカーに変身すると、地面を転がっているゲバコンドルのもとへ走り、容赦なく蹴りころがしていく。

 

 

「ぎぃい!」

 

 

頭部を掴み、引き立たせると、炎を纏った拳をわき腹に打ち込んだ。

ダメージを負った箇所が軽く爆発して燃焼。

後退していくゲバコンドルへ、その後も容赦なくフックを、ボディーブローを叩き込んでいく。

 

 

「!!」

 

 

しかし抵抗感。みるとまた糸が四肢に絡み付いている。

倒れていた怪人が立ち上がりはじめた。鈍る動き、さらにそこでハチ女が飛びだしてきてレイピアによる突きをダブルへ打ち込んでいく。

 

 

「ウッ! ガァアア!!」

 

「ライダー! ココが貴様の墓場と知れ!!」

 

 

強力な一閃が喉を打つ。

激しい痛みと嫌悪感。しかしそれでも翔太郎は、フィリップは、魂を燃やしながら迫る敵に立ち向かっていく。

突き動かすのは何か? これが悲しいかな、分からない。

 

 

『メタル!』

 

 

だから、そう、少しでも気を緩めれば折れるのだ。

分からぬことに飲みこまれ、死んでいく。

 

 

『ヒート・メタル!』

 

 

なぜ――、戦う。

 

 

「ウォオオオオオオオオ!!」

 

 

なんのために戦う。

メタルのボディがレイピアを弾く。呆気に取られているハチ女の頭部に、鉄の棒が抉り入った。

渾身の力を込めて打ったのだ。ハチ女の首がおかしな方向に曲がった。

 

コイツは嫌なもので、手に骨を砕いた感触が伝わってくる。

ましてやハチ女はなかなかどうして人の形を保っているじゃないか。

そこで当たり前の事に気づいた。

怪人。そうか、怪『人』か。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

それでも思い切りメタルシャフトを振るう。炎が纏わりつき、周囲に迫った怪人を纏めてなぎ倒した。

ダブルはメモリを抜き取ると、メタルシャフトに装填しつつ、目の前にいたハチ女の腹部を思い切りつく。

 

 

「ごがぁぁあ! がっぽぉぉ!!」

 

 

おかしな悲鳴が聞こえ、ハチ女の口から内臓が溢れてきた。

それでもダブルは止まらない。炎を吹き出すメタルシャフトを構え、目の前にいるハチ女を滅多打ちにしていった。

 

 

「メタル――ッ!!」『ブランディング!!』

 

 

首、腕、胴、脚の骨が折れていき、骨が皮膚を突き破る。

肉塊になったハチ女を最後は思い切り打ち飛ばした。炎塊となって死体は爆発。

周囲にいた怪人たちも爆風に巻き込まれてダメージを負っていく。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

また叫ぶ。

また迷いが浮かんだからだ。

 

この今の意味は!? 知らないから黙っていろ。

ダブルはメタルシャフトを振り回して怪人の群れに突っ込んでいく。

迫るやつを殴り、殺そうと暴れまわる。

 

ドーパントではない。

命を持つ怪人だ。爆発したら人間が輩出されることはなく、そこで終わり、そこで死亡。

 

 

『ルナメタル!』

 

「グッ! ギギギギッッ!!」

 

 

鞭のようにしなるメタルシャフトが、カマキリ男の首を絞める。

絞める。絞める。絞める。絞める。

 

 

「た――、す、け――ッッ!」

 

 

それはカマキリ男の声か。それともカマキリ男になった男の声か。

どちらかは知らない。ダブルはひたすらにメタルシャフトを引く力を強め、より首を締め付ける。

絞め、絞め、〆。爆発することもなく、カマキリ男は絶命して地面に倒れた。

 

 

「ハァ! ハァ! グッッ!!」

 

 

呼吸を荒げていると、背後に衝撃。怪人の爪が見える。

命? 命とはなんだ。神が与えたシナリオに沿うアクターの役目のことか!? だとしたら――

 

 

「グォオォオァァアァアァアアァ!」

 

 

引き裂かれそうな悲鳴が上がる。

だとしたらこの痛みはなんだ? ダブルの肩に命中した光弾。

それはメタルの装甲を一撃で粉砕すると、ダメージを内部へ響かせる。

腕が持っていかれたような感覚。ダブルが背後を振り返ると、そこには倒した筈のトカゲロンが立っているではないか。

 

 

「なッ! お前は! オレたちが――!」

 

「愚かだなライダー! 改造人間は死なん! 破損した箇所を再手術すれば何度でも蘇る!!」

 

 

それに、改造人間――、怪人など仮面でしかない。

ショッカーの技術によって生まれる改造人間は、料理で言うなればレシピのようなものだ。カレーは一度作ったら二度と作れないのか?

 

いや違う。材料さえあれば、些細な違いはあれどカレーはいくらでも作れる。『作り方』さえ知っていれば。

 

トカゲロンの背後から大量のハチ女が飛来してきた。

視界を埋め尽くすほどの異形と、耳障りな羽音。ダブルはなかば諦めたように放心する。

蜂女のレシピがあれば、誰でも蜂女だ。身長が低い小柄の蜂女も見えた。あの『元』が誰だったのかを考えるだけで頭が痛くなる。

 

やたら体格の良い蜂女も見えた。

そうか、そうだな、別に男だからと言ってショッカーの技術の前では問題ない。

ただ手術の途中で性器を切り取ればいいだけだ。声帯をいじれば声も女性に近くなるし、胸にシリコンを入れればシルエットは完成する。

 

あるのはただ蜂女と言う完成系の情報だけ。

その作り方が確立していれば、誰を改造するかはさして問題ではない。

"誰でもハチオンナになれる"、特別じゃない。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ダブルは叫ぶと、ルナトリガーに変身。

必殺技、トリガーフルバーストにて黄色と青の光弾をハチ女の群れに向けて発射した。

爆炎が視界を埋める。しかしそれを切裂いて跳んでくるバーリア破壊ボール。

それはダブルの胸に突き刺さると、装甲を粉々に破壊し、後方へ吹き飛ばした。

変身が解除されるダブル。翔太郎とフィリップは血を撒き散らしながら地面を転がり、すぐに怪人に囲まれる。

 

 

「ライダーよ! 覚悟!!」

 

 

犬、猫、魚。ライダー。

チワワ、マンチカン、ブリ、ダブル。

ココア、マーチン、ブリ、翔太郎。

 

 

「お前達の概念など、壊れてなくなる! ライダーを殺すのは人の想いだ!」

 

 

周囲の怪人達が一勢に走り出しダブルを狙う。

だがさらに周囲からメモリガジェットたちが登場。突進で怪人達を怯ませ、さらにその中にいたファングメモリがフィリップのもとへ。

 

 

「ウォオオオオオオオオオ!!」『ファング!!』

 

 

ダブルはファングジョーカーになると、咆哮をあげてトカゲロンたちのもとへ走る。

殺せども殺せども、それは終わることはなく。むしろ新しい死の始まりだった。

そもそも、この世界に守る人間などいない。それにダブルは気づいているのだろうか。

 

 

「!」

 

 

振り返る。声が聞こえたから。

それは先程、怪人に恐怖して逃げていたはずの人々だった。つまり守ろうとした人々だった。

一般人――、一般人? 全てはブックメイカーが与えた役割をこなす駒でしかない。

ココは終わりの星。終わりの大地。最期の夢。

 

 

「追加だ」

 

 

トカゲロンが言う。

するとその人々が与えられた役割を捨て、新たなる役割を担う。

それこそが怪人。大人も、子供も、おじいさんも、次々に怪人となり、ダブルのほうへと向かっていく。

 

 

「泣く街も消え、泣く人も消え、虚無を抱きながら戦う」

 

 

トカゲロンが掌を前にかざすと、光球が出現する。

 

 

「死ね。仮面ライダーダブル」

 

 

トカゲロンは光球を思い切り蹴り飛ばし、ダブルへ向けて発射した。

 

 

 

 

 

 

「フッ、無駄な事を」

 

 

白い壁に広がるモニタを見ながら、アマダムが呟いた。

白い椅子には本条が座っており、同じく馬鹿にした様な笑みでダブルを見ていた。

アマダムは、打ちのめされて地面を転がるダブルを見ながらもう一度声を出して笑った。

 

 

「救済を理解できないことほど愚かなものはないな。そうだろう? ブックメイカー」

 

「ああ。だが仕方ない。彼らの中にある正体不明の良心が邪魔をしているんだろう」

 

 

後ろめたさが足を引っ張る。

 

 

「だがそんなものは所詮、神が設定した呪いでしかない。いずれは消える」

 

「ふむ」

 

「それにそもそも彼らは自分が何のために戦っているのか、分かっていないだろう」

 

 

チェスの駒を弄りながら本条は小さなため息をつく。

 

 

「そういう時間軸の中にいるヤツ等をチョイスした」

 

 

それでも戦えるのは、まだ恵まれているから、とでも言えばいいか。

たとえば進ノ介は妻や息子が死んでいる事になっているものの、戦いを終えればそれはエンディングを迎え。一つの物語が終わる。

終わるとはつまり破壊。するとディケイドの繋ぐ力が発動し、世界は再生される。

 

 

「以前ディケイドはキバーラに殺されたが、記憶を媒介に蘇ることができた。それと同じことが起きる」

 

「霧子たちが蘇ると?」

 

「そうだ。霧子達にとってはゼビウスに殺されたのは夢で視るだけ」

 

 

世界は、いろいろな運命に分岐していく。

しかしそれはあくまでも分岐であって、『中心(コア)』がある。確固たる一本道。そこから様々な未来に派生、分岐していく。

 

 

「世界は生き物の様なもので、起こった出来事を自動的に記憶してくれる。そう。それはゲームのセーブデータのようなものとも言えるか」

 

 

昔のゲームはラスボスに挑む前にしかセーブができなかった。

エンディングが終われば電源を消さなければならない。

 

 

「ディケイドはそのポイントに進ノ介を戻すことができる。今だと……、そうだな。マッハハートか、ドクターパックマンの時か。いずれにせよその時には霧子は存命だ。記憶が人を、世界を創る」

 

 

破壊された世界の中では生きられない。

だからセーブデータまで戻り、修復した世界の中で生きる。

 

 

「そのなかでまた世界は時間と共にさまざまな形に変化していく。悪いものにも、良いものに変わるときがくる」

 

「フフ、そう聞くとますますゾッとするな。まさに無限だ」

 

 

終わりの無い世界。

輪廻する世界。繰りかえされる世界。

ああ、ああ、ああ。本当はどこ? 本物はだれ? 今は、何?

 

 

「狂いそうだ……! ハハハハ!! ウヒヒ!?」

 

「考えるのはやめろ。無限を考えると壊れるぞ」

 

 

膨大な知識と、世界の真理はまさに無限。

無限を考えるということは不可能であり、不可能を考えると答えのでない問題に永遠に向き合うことであり、それは脳をおかしくしていく。

 

事実、"観測者の多くも知識量に狂い、おかしくなる場合がある"。まさに肉体が崩壊していくケースもあるのだ。

知識に耐えられなければ、観測者としては生きられない。すぐに狂い消える。

士がフィリップに情報を与えたのも、フィリップ以外に与えれば壊れることが分かっていたからだ。

 

アマダムもその実、知識によっておかしくなった一人である。

アマダムもまた世界の真理、無限を考えるうちに自己が崩壊していた。

思い出してほしい、魔法石の世界でウィザードと会話を行っていたとき、アマダムはさまざまなキャラクターになっていた。

ギルや童子、衣装や口調がコロコロ変わっていたのは、ふざけていたのではなく、アマダムが自分を把握することができなかったからだ。

 

次々に送られる情報に混乱し、自分を見失い、自分がなにものか、誰であるかすら忘れてしまう。

かつてリントの魔道師だった男は、魔法石の中でライダーの歴史を存続させる概念と成り果て、次々に送られる歴史に心を壊された。

とは言え、それはまた新たなる始まりではあったが。

 

 

「私は私だ」

 

 

アマダムは壁を殴りつけ、映像の向こうにいるダブルを睨みつける。

 

 

「ムカつくんだよ。なんであんなクソみたいな連中がヒーローになる!?」

 

 

翔太郎に憧れる?

 

五代が好き?

 

真司に憧れる?

 

進ノ介が尊い?

 

おい、おいおいおいおいおいおい!

 

 

「反吐が出るわッッ!!」

 

 

再び壁を殴りつけるアマダム。

人が人を愛する――、くらいならばまだ理解ではできる。見下してはいるが。

しかし尊敬する。崇拝する。信者になることだけは我慢がならない。

 

 

「人は欠落品だ。ガラクタに憧れるなど理解に苦しむ! あんな不完全な生き物が私のライダーと怪人の力を使い、持て囃されるなんて我慢ができねぇ!」

 

 

ああ、狂いそうだ。

ライダーは、怪人は、完璧でなければならない。なのに、なのに!

 

 

「アァアアァァア!」

 

「落ち着けアマダム。今は単純に考えていれば良い。誰もみんな」

 

 

ライダーも同じだ。

 

 

「終われば始まる。今はそれだけさ」

 

 

戦い終われば、進ノ介はドライブの世界の主軸に戻る。

どんな派生になるにせよ、主軸は一年間放送した『本編』と呼ばれた時間の中にある。

きっとそれを進ノ介も分かっている。もちろん他のライダーも。

 

 

「だから主軸の世界さえ輝いていれば、未来に希望も持てる。どれだけ悪いことが起こったとしても再生された主軸の世界が住みやすいのならば、起こりうる悪夢もそれほど酷くないだろうと希望が持てる」

 

 

要するに、世界が温かかったり、ハッピーエンドならば、それに戻りやすい。

たとえ観測者からの情報があっても、自分の世界を愛せるかもしれない。

 

 

「しかし――、そうでないものは?」

 

 

つまり、自分の世界があまりにも生き辛かったら?

 

 

「……あぁ、確かに」

 

 

アマダムは納得したように唸り声をあげた。

進ノ介はまだいい。理解ある同僚や上司、かわいい嫁や息子がいる世界なんだから。

誤射してしまった友人も死んでないんだから、そりゃ良かったさ。

本条は頬杖をつき、笑う。

 

 

「アマダム。"ヤツ"を出せ。さっさとこの状況を終わらせるぞ」

 

 

白い部屋の床は、大理石でできていた。その輝きが反射を起こしている。

しかし違和感があった。椅子に座る本条。モニタを視ているアマダム。

なのに、大理石の中のシルエットは三つあった。

耳障りな耳鳴りが、今の本条には心地よい。

 

 

 




アニメ、特撮、声優、アイドル、鉄道。
いろいろ楽しい事は多いですが、割りとファンってのは暴走しがちで、それが取り上げられることは多いですよね。

そういうのはたまに調べるんですが、最近解散した有名アイドルグループのファンが、死人をネタに大喜利して、なおかつその亡くなった方の仕事仲間をディスってるのを見かけて、おいおい( ;´・ω・`)ってなったんですけど、よく見たらその人、二児の母親でライダーファンだったんですよね。

特にダブルが好きみたいで。
子供生んだ人間が死人で遊んだ後に、ダブルの漫画版の宣伝をリツイートする根性と狂気はスゲェなって思いましたね( ;´・ω・`)


んでこれ見たらなんかね、好きなモノを盾にしてる人っているなって思うんですよね。

なんか例えば『自分はこれが好きでファンですから、何してもいいですよね?』みたいなのはあんまり良くないと思うな。


まあ何を言いたいのかって言うと、ボクもちょっと分からないんですけど。


んで逆に、○○ファンはこうであれって言う想いを押し付けるのもナンセンスだとは思うますし。


うん、いろいろ書きましたけど、要はこういうのって面白いですよね。
なんかファンである事に対してだとか、○○への愛に異常に縛られてる人とかっていると思うんですよ。
まあ良くも悪くもの意味でね。

例えばあたかも自分がファン代表であるように語る人とか、さっき書いたみたいに自分の行動で結果的にファンや作品の質を落とす人とか。

もちろんそれって正解は無いと思うんですよ。
いろんな愛の形があるのは、創作の面白さの一つだと思うんですね。
ましてやそれって情熱から来てるものだと思うし。

ただ、ただ――ッ! って感じで以後無限ループみたいな。


って言う事を、カメンライダーでちょいちょい伝えていこうと思うんですが、伝わるかどうかは別の話。
そもそも伝えようとしてるならココに書くなって話じゃわな。

考えるな。感じてくれ( ´・ω・`)b

次回は未定。
まあなるべく早くします。



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