カメンライダー   作:ホシボシ

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第13話 仮面ライダー龍騎

 

 

「………」

 

 

少女は――、『ツバサ』は困惑していた。

キョロキョロと辺りをしきりに見回し、少し落ち着いたかと思うと、また同じことを繰り返している。

 

 

「ねえ、どうしてわたし、ここにいるの?」

 

 

同じ質問。おそらく五回目くらい。

薄暗い部屋だった。明かりもつけず、僅かに開いたカーテンの隙間から差し込む光だけが部屋を照らしている。

ツバサは困惑していた。今日は保育園の日なのに家にいてもいいのだろうか?

それは兄や両親だって同じだ。なぜか皆、揃って家にいる。

 

 

「ねえ、おにいちゃん。がっこうは?」

 

 

椅子に座っていた竜斗は、唖然としたように固まっている。

同じく椅子に座っている美穂も同じような表情だ。真司なんて床に座り込んで固まっていた。

 

 

「ねえママぁ、どうしたの?」

 

「どうしたのって――……」

 

 

どうしたのだろう? 美穂は真司を見る。

真司は両手を見つめ、汗を額に浮べていた。

 

 

「思い――、出した」

 

 

真司は震える肩を抑え、うめき声を上げる。

龍の騎士。全ての記憶の無くし、優衣達は死に、戦いは終わった。最後の時間軸で皆それぞれを生きるはずだった。

にらみ合う真司と蓮。記憶はないけれど、友人になれる筈だった。

 

筈だった。

 

 

「戦いは、終わってなかった!!」

 

「え……?」

 

 

ツバサは突如怒号を上げる父に怯えたのか、美穂にしがみ付く。

だが、いつもならば抱きしめてくれる筈の美穂も、今は何もしない。彼女もまた思い出したのだ。

しかしどれだけ記憶が復元したところで、傍にいるツバサが誰なのかは全く分からなかった。

こんな少女の記憶はない。

 

 

「………」

 

 

フラッシュバック。

デッキが見えた。終わってなどいなかった。そしてまた始まるだけだ。

違いは神崎がいるか、いないか。ただそれだけ。龍騎の概念は龍騎を龍騎として逃がさない。

だからこそまたはじまるだけ。

 

 

「―――」

 

 

13人の仮面ライダー。

戦いは続き、また死んでいく。

 

 

『蓮――ッ!』

 

 

譲れない戦いの末、真司は理解した。

また繰り返すのか。終わらないのか。崩れ落ちるナイトに手を伸ばしたとき、果てしない虚無感を感じた。

 

 

『真司……』

 

 

血まみれの蓮を抱いた真司。今度は立場が逆なだけ。

死ぬなと叫ぶが、言葉は虚しく砂のなかに消えていくだけ。

美穂は、真司達をを複雑そうな表情で見ていた。

哀れみ、同情、慈愛。生き残ったライダーはあと二人。

 

 

『戦うのか、美穂……』

 

 

震える背を見て、美穂は目を逸らした。

 

 

『真司は、どうしたい?』

 

『俺は、俺は……!』

 

 

そこで、世界が交わった。それが自分の世界の最後の記憶だった。

あとは集結するライダーたち。現れるオラクル。ブックメイカー。

あとは、あとは――?

 

 

「ぼくは」

 

「!」「!」

 

 

今に戻る。小さな背中が震えていた。

竜斗もまた、ブックメイカーの声を聞いていたのだ。

 

 

「ぼくたちは、本当の家族じゃないんだね……」

 

「竜斗……ッ」

 

 

そうだ。こんなものはただの家族ごっこでしかない。

ブックメイカーが脚本を担当した劇にしかすぎない。偽りのステージの上で、何も知らずに自分に与えられた役を演じていただけ。

だからこそ『もうやめろ』と言われれば、それに従うしかない。

 

 

「それは――」

 

 

真司は、竜斗に向かって何もいえなかった。

なぜならば、演じていた記憶は薄れていき、今は段々と本当の城戸真司の記憶が戻ってくる。

息子などいない。娘などいない。そうだ、全ては戦いの日々だった。

仮面ライダー同士の殺し合い。その先にあったものはなんだったのか。それは今でも分からない。

 

 

「なあ、美穂。お前……」

 

「な、なんだよ」

 

「お前は、その、本物なんだよな?」

 

「………」

 

 

美穂は頭をかくと、立ち上がり、真司のもとへと歩いていく。

 

 

「立って」

 

「え?」

 

「いいから、はやく」

 

「お、おお」

 

 

美穂に腕をつかまれ、真司はアタフタとしながら言われた通りに。

すると直後、美穂の拳が真司の腹部ど真ん中にめり込んでいく。

 

 

「うごぉ……!」

 

「コレが答えだよ」

 

「――ッ、え!?」

 

 

何が!? 真司は涙目になって美穂を見る。

息が出来ない。とんでもない女だ。確実に本気で殴ってきやがった。

 

 

「げ、ゲホッ! おぇ! やッ、だからどっちだよ! や、やっぱ敵か!?」

 

「んなワケないでしょ! 本物よ本物!」

 

「ならなんで殴る!」

 

「なんとなくッ!」

 

 

まあ尤も、何をもってして『本物』と言うのか、美穂にはそれを答える自信はない。

ただ確実に言えるのであれば、美穂は美穂と言うことだけだ。世界が融合したとき、龍騎だけじゃなくて彼女も一緒にやって来た。

そしてオラクルに負けて真司がブックメイカーによって終焉の星に連れて行かれる際、美穂は誘いを受けた。

 

 

『お前も来るか? 霧島美穂』

 

『え?』

 

 

周囲にはオラクルになすすべもなく敗北したライダー達が転がっていた。

その中で、美穂はどうしていいか分からずに立ち尽くす。傍にはハナもいたと記憶している。

 

 

『簡単だ。お前の望む幸せを具現してやる。お前が差し出すのはただ一つ、ファムの称号だけ』

 

『ファムの……?』

 

『その通り。お前の中には圧倒的なクロスオブファイアが眠っている。それを回収すれば、もはやお前は自由だ』

 

『自由……』

 

『そうだ。お前も視ただろ。世界の一端。そして僕が言うことに偽りはない。お前達は創作物であり――』

 

 

そもそも、なぜブックメイカーは『竜斗』を真司の息子として設定したのか?

竜斗はブックメイカーの眼。つまりはブックメイカーを構成する大切なパーツであり、力の一端。

それをライダーの傍に置く事は弱点を晒す危険行為とも取れる。

 

しかしブックメイカーに焦りはない。

なぜならば、ライダーたちが記憶を取り戻すことはあくまでも想定内であるからだ。

その上で、彼らに突きつけられるのは選択。

 

つまり、また元の世界に戻り、戦いを続けるのか。

それとも戦いの運命から解放される道に手を伸ばすのか、である。

当然、世界の『形』や『色』には差がある。恵まれている者達は帰還を望むかもしれないが、そうではないものは――?

 

 

「!」

 

 

現在、今。

真司と美穂は最悪の耳鳴りを聞いた。

不快で耳障りで、何よりも『死』を感じさせる音は大嫌いだった。それが、今、聞こえるじゃないか。二人は反射的にリビングにある姿見を睨む。

悲しいかな、習性なのかもしれない。死に対する怯えと、それに立ち向かう覚悟は。

 

 

「あッ!」

 

 

ツバサが声をあげたときだ。姿見からミラーモンスターが飛び出してきたのは。

トンボ型のミラーモンスター、レイドラグーン。耳障りな鳴き声をあげながら爪を構えて襲い掛かってくる。

 

 

「ツバサ! 逃げて!」

 

 

美穂はツバサを抱いて下がっていく。

しかし一方で竜斗は椅子から降りると、なんのことはなくレイドラグーン達に向かって歩いていく。

 

 

「竜――」

 

 

手を伸ばす真司。

しかし気づいた。レイドラグーンはまるで竜斗を守るようにして移動したではないか。

そう、そうだ。分かっている。なぜならばレイドラグーンは本条側。つまり、竜斗側なのだ。

 

 

 

「………」

 

 

竜斗は無言で部屋を出て行く。

唖然とし、言葉を失う真司。どんな言葉をかけていいのか、ましてや竜斗にたいしてどんな態度を取ればいいのか、全く分からなかった。

 

すると、背中に激しい痛みを感じる。

背中、痛み。レイドラグーンを前にしているからか、一瞬最悪の記憶が蘇った。

しかしあの時とは違い、痛みはビリビリと面で広がっていく感覚だ。

 

 

「い――ッ!」

 

 

気づいた。美穂が背を叩いたのだ。

間抜けな表情を浮べている真司とは違い、美穂は鬼気迫る表情で旦那の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「おいッッ!! 竜斗を追いかけるぞ! ボサッとしてんなよバカ!!」

 

「!!」

 

 

真司の目の色が変わった。

しかしツバサの悲鳴が聞こえる。レイドラグーンが爪を振り上げて二人に迫ったのだ。

だからアクションはいきなりだった。美穂が真司を蹴り飛ばし、爪の軌道から強制的に外した。

間抜けな悲鳴をあげて壁に叩きつけられる真司と、爪を回避して、カウンターの回し蹴りを叩き込む美穂。

 

 

「ブランウイング!!」

 

 

掠れた声で叫ぶ。

すると姿見から白い白鳥型のモンスターが飛び出してきた。舞い落ちる白い羽。

その中で大きな翼は、ラリアットのように標的を打つと、そのまま後方へ持っていく。

移動する先には窓。ガラスが割れる音がして、モンスター達は外へ吹き飛ばされる。

 

 

「……!」

 

 

それはいつの間にか手に現れたのか、それともずっと持っていたのか。

とにかく真司の手にはデッキがあったし、美穂の手にもデッキがあった。

 

 

「鏡は――」

 

「いらない」

 

 

そういう世界じゃない。

ただ、概念があればいい。魂がそこにあればいい。

 

 

「行くぞ、バカ」

 

「おまッ、バカって言うな! バカっていう奴がバカなんだぞ」

 

「その発言がバカなんだよ。カバ」

 

「カ――ッ!?」

 

 

美穂に促され立ち上がる真司。

デッキを握り締めると、二人は同時にそれを前へ突き出した。

装備されるVバックル。真司は右腕を斜め上に。美穂は両手を開いた後、左手を左腰の位置へつけ、右腕を左伸ばし、構えを取る。

 

 

「変身ッ!」

 

「変身!」

 

 

セットするデッキ。すると左右から鏡像が回転しながら飛来。

二人に重なると、その姿を仮面ライダーに変える。仮面ライダーファムはすぐにブランバイザーを手に飛び出していく。

龍騎はしばし沈黙した後、拳を構えて走り出した。

 

 

「ハァアアア!!」

 

「ベボウゥ! オ゛ォン!」

 

 

激しい突きの嵐。

ファムが繰り出す一閃は、レイドラグーンの目を潰し、確実にダメージを蓄積させていく。

反撃の爪が飛んでくるが問題はない。まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す。

ファムはマントを翻してレイドラグーンを翻弄すると、怯んだ隙を狙って胴体に剣先を打ち込んでいった。

 

 

「ッゥ!」

 

 

羽音が響き、レイドラグーンは半ば強引に前に距離を詰めていく。

しかしファムは大きく後ろにバックステップ。マントをはためかせ、白い羽を撒き散らしながら宙を舞う。

 

 

『ソードベント』

 

 

ブランバイザーを腰にセットし、かわりに金色の長刀がファムの手に宿る。

さらに地面に着地する前にブランウイングがファムの背後に回った。背を蹴り、ファムは三角飛びでレイドラグーンの頭上に移動する。

肉を断つ音が聞こえた。レイドラグーンの悲鳴も聞こえた。

 

そしてその向こうでは龍騎とレイドラグーンが殴り合っている。

 

 

「ォオオオオオ!!」

 

 

死の恐怖を振り払うように叫び、拳を打ち付ける龍騎。

フックが側頭部を捉え、ボディーブローでわき腹を打つ。

怯んだ所に右、左、右、正面ど真ん中。龍騎の拳が次々にレイドラグーンを打った。

 

少し、懐かしい感覚だった。

いつぶりだろうか。ここまで拳を使うのは。

最悪のノスタルジー。いや、皮肉にもそんな思いはすぐに消えた。

だってそれは、いつもどおりのことだった。

 

 

「ウォッ! ラァア!」

 

 

ドロップキックでレイドラグーンを大きく後ろへ後退させる。

倒れた龍騎はカードを抜いて発動。ソードベントでドラグセイバーを呼び出すと、立ち上がり、地面を転がって一気にレイドラグーンの懐にもぐりこんだ。

 

 

「ハァアア!」

 

「ペボゥッッ!!」

 

 

前転の勢いを乗せた突きが腹部に入った。

龍騎は立ち上がると、地面を蹴って跳躍。レイドラグーンの肩を蹴るとさらに上昇して、剣を天に掲げる。

すると刃に纏わりついた炎。落下と共に剣を振り下ろし、赤く燃える斬撃を刻み込む。

"龍舞斬"。炎を撒き散らしながらレイドラグーンは悲鳴をあげて後ろへ下がっていった。

 

そしてファムの方に大きな変化が。

血のように火花が噴射する中、さらに敵の胴体を切裂いていく。

背後にまわり、ファムはレイドラグーンの背を蹴った。よろけ、強制的に前進していくレイドラグーン。その隙にデッキからカードを抜き、ブランバイザーにセットして発動。

 

 

『ファイナルベント』

 

 

龍騎もまたカードをドラグバイザーに装填して発動させた。

 

 

『ファイナルベント』

 

 

地面から飛び出たのはブランウイング。

フラつきながら歩いていくるレイドラグーンに向けて思い切り羽ばたき、突風を送る。

レイドラグーンから悲鳴があがった。足が地面を離れ、凄まじい勢いでファムのもとへ送られていく。

 

 

「………」

 

 

長刀を高速回転させるファム。

狙いを定め、跳んでくるレイドラグーンを睨みつける。

刹那、一閃。金色の光が線を作った。ファムの背後で何かが『二つ』落ちる音がした。

一つはレイドラグーンの上半身。もう一つはレイドラグーンの下半身だ。すぐに爆発し、粒子となって消えていくレイドラグーン。

 

同じくして龍の咆哮が聞こえる。

空中がガラスのように割れ、破片を撒き散らしながらドラグレッダーが姿を見せる。

邪魔だ退け、そういわんばかりに口から火炎弾を発射。龍騎の前にいたレイドラグーンの前で着弾、爆風で吹き飛ばし、そのまま主人の周りを旋回し始める。

 

 

「フッ! ハァアアア……ッ!!」

 

 

龍騎は両手を前に突き出し、大きく旋回させて腰を落とす。

 

 

「タァア!」

 

 

レイドラグーンが地面を転がっていく間に、龍騎は地面を蹴って高く跳躍。

その周りを飛びまわるドラグレッダーが最終的には背後にまわる。

 

 

「ッ!」

 

 

立ち上がったレイドラグーンが見たのは、足を突き出す龍騎と、そこへ火炎の力を与えるドラグレッダーの姿。

レイドラグーンはもはや悟ったのか、それとも最後のチャンスに賭けるのか。

爪を打ち合わせて猛ダッシュ。殺意を腕に乗せて龍騎に向かっていった。

 

 

「ダアアアアアアアアアア!!」

 

「ヴォボォォアァアアアア!!!」

 

 

しかし勝負は一瞬だった。

猛スピードで向かっていく紅蓮の塊は、レイドラグーンに一切の抵抗を許さず直撃する。

蹴られた部分から一瞬で業火がまわり、全身を包み込むと同時に後方へ吹き飛ばしていく。

一瞬でレイドラグーンの全身に亀裂が走り、地面に墜落する前に木っ端微塵に消し飛んだ。

 

 

「……!」

 

 

着地する龍騎。

振り返るとファムがツバサに駆け寄るのが見えた。

 

 

「ママ、ママなの?」

 

「そう。ママだよ。マママママ」

 

 

変身を解除するファム。

するとツバサも笑顔を浮かべて飛びついてくる。

 

 

「ママすごい!」

 

「ああ、すごいだろ! ほら真司! はやく竜斗を!」

 

「………」

 

「真司? なに黙ってんの」

 

「……どうするんだよ」

 

「は?」

 

「竜斗に会って、どうするんだよ」

 

「どうするって、そんなの……」

 

 

沈黙。

 

 

「分かってないんだろ。お前だって」

 

「ど、どういう意味?」

 

「だからッ、逃げるなって事だよ!」

 

 

真司は叫ぶ。

美穂は思わず肩を竦めてツバサをギュッと抱きしめた。

ツバサも感情を読み取ったのか、不安げな表情で真司を見る。

 

 

「パパ、怖い」

 

「あぁ、ゴメン。けど、えっと、だから――ッ」

 

 

真司は頭をかく。

違う。娘じゃない。だからツバサを娘として接することは間違っている。

だってそれはブックメイカーの世界を受け入れることじゃないか。だからツバサを娘として接してはいけないのだ。

 

分かる。それは『真司でも』分かることだった。

だってあまりにも分かりやすい。難しい話じゃないんだ。ブックメイカーがなぜこんな舞台を、役割を与えたのか。

それは、分かっていたんだ。自信があったんだ。真司たちがこの分かりやすい幸福の形を見せられれば受け入れてしまうことを。

 

 

「だから、それだけ――ッ、俺達の世界が……ッ!」

 

 

髪を掴み、拳を握り締める真司。

自分でもなぜこれほどまで不愉快なのかが分からない。

すると笑い声が聞こえた。真司と美穂はゾッとしたように、その声の主を探す。

危機感を感じたのは耳鳴りが聞こえたからだ。キィィンとしたものは、ミラーワールドからの来訪者を意味する。

 

 

「流石にバカでも分かる話か。なあ、城戸真司」

 

「お前は――ッ」

 

 

真司は近くにあるカーブミラーの中に声の主を発見する。

そこには真司が映っているだけに見えるが、すぐに理解した。あれは自分じゃない。

 

 

「久しぶりだな」

 

 

光が迸る。

するとカーブミラーの中にいた真司が現実世界にやって来る。

地面に降り立った『鏡像の真司』は服装や髪型が大きく違っていた。

ツバサと竜斗の親だった『本物の真司』は、今は髪色は黒く。美穂にいたっては黒髪のショートカットである。

 

しかし今、目の前にいる真司は茶色い髪に、スカイブルーのジャケットを着用している。

それを観た瞬間、真司達の容姿が変わった。

 

鏡像の真司と同じ髪色、髪型、そして鏡像の自分と同じ格好。

美穂も髪色が茶色に染まり、髪の長さは肩ほどまでに伸びていく。

そう、簡単に言えば若返った。そして詳細に言えば『その時になった』。まさにそれは、最終回。物語が終わる時。

 

 

"エピソードファイナル"。

 

 

「城戸真司、霧島美穂。夢の終わりはいつも突然だ」

 

「リュウガ……!」

 

 

見た目は真司と同じだが、その表情や声色はゾッとするほど冷たい。

リュウガは目を細め、僅かに唇を吊り上げた。

 

 

「ゴミのような世界に帰る意味はあるか? そうだろう霧島美穂」

 

「ッ!」

 

「だからお前は幸福を夢想した。今もそう思っている」

 

 

そう、そうだ。

これこそがこの戦いの裏にある本質。仮面で隠していた真実に触れた今、ライダーたちが向き合うべき問題なのだ。

観測者、創作物、それを理解したうえでライダー達はもとの世界に帰るのか? 帰れるのか?

全てを知りながら尚、求められる役割をこなす道化になるのか、と言うことである。

 

 

「お前達の役割はなんだ? 決まっている。命を賭けてプレイするデスゲームこそが仮面ライダー龍騎(オレたち)の本質!」

 

 

龍騎であると言うこと、龍騎のライダーである事とはどういうことなのか。

決まっている。求められるのはライダーバトル。バトルロワイアルと言う名の殺し合いだ。

その役割こそが龍騎である価値。人はそれを望み、そして望みは具現する。し続ける。

 

 

「俺は神崎が送り込んだリーサルウエポンであり、なによりもその本質は世界の象徴!」

 

 

つまり、リュウガとは城戸真司・『仮面ライダー龍騎』の(きょうぞう)なのだ。

それすなわち、リュウガとはライダーバトルの象徴。世界を映す鏡なのである。

 

 

「仮面ライダー龍騎のロゴにはドラグレッダーが映っている」

 

 

リュウガの背後に現れるモニタ、そこへ映し出される龍騎のタイトル。

赤い文字で『仮面ライダー龍騎』とかかれており、その周りには金色のドラグレッダーのシルエットが見える。

リュウガが注目してほしいのは、このドラグレッダーの形。

 

 

「これは、そう、無限大のマーク」

 

 

∞。永遠に続く象徴。

そうだ、戦いは永遠に続く。それが龍騎のルールであり神に望まれていることだ。

真司が龍騎である限り、美穂がファムである限り、世界は、観測者は、人は戦いを望む。

タイムベントで繰り返され、それがダメならばまた別の方法でライダーたちが殺しあう。

それが"仮面ライダー龍騎"。王蛇やゾルダが仲良く馴れ合っている世界を人は望むか?

 

ああ、もちろん望むだろうさ。

しかしそれはデスゲームと言う土台に立っているからこそ、人は同情し、協力を望む。

だがやはり、裏にあるそれはあくまでもデスゲーム。殺し合いと言う凄惨な状況にいるからであって、それが世界の色と言う前提があるからだ。

いずれにせよ過程、前提、根本には殺し合いがついてまわる。

 

 

「ライダー同士が、殺しあったからこそ、俺達は神に気に入られた」

 

「――ッ」

 

「もはやその概念は定着し、逃れられないものになる」

 

 

神が龍騎の世界を創作しようとすれば、ほぼ間違いなくライダー同士の戦いは行われる。

そうすれば、また真司は傷つく。なぜか? それが真司に与えられた役割であるからだ。

日曜朝に放送されるヒーロー番組の主役は『善』でなければならない。

それも分かりやすいバカみたいな方がいい。

 

 

「だからこそ、城戸真司。お前は生き辛い」

 

「………」

 

「否定できないものを否定しつづける。滑稽な」

 

 

拳を握り締める真司。

それは、分かっていた。それをブックメイカーとオラクルに教えられた。

戦いを止める役割を与えられた主人公。しかし戦いを止めようと叫んで本当に止めると思うか?

 

それでお話が続くか? ムリだ。

デスゲームで誰も死なないなんて興ざめのシナリオにも程がある。

神はそれを望むわけはないし、そんな展開になるワケがない。

つまり――?

 

 

「お前ははじめから何も変えられなかったんだよ」

 

「――ッ!」

 

「シザースも、ガイも、ライアも、死ぬ運命だった。死ぬために生まれてきた。タイガも、インペラーも、オルタナティブも、誰もが皆死ぬ運命だった」

 

 

そしてその時のことを神々は嬉しそうに語る。

あの死に方が良かった、インパクトがあった。

 

 

「芝浦のヤツは盾にされて死んだが、あれは傑作だったと神は笑いものにしている」

 

「――ッ」

 

「浅倉のキャラ付けのため、魅力を上げるために踏み台となって消えていく」

 

 

真司は目を見開き、ひたすらに拳を握り締めていた。

ガイが目の前で死んだときの喪失感と虚無感は今でも覚えている。

また理不尽にヒトの命が消えていく。あの時の果てしない絶望感を、人は『ネタ』にしている。

 

 

「佐野の死だって、俺達を語る上では外せない鉄板ネタだろうな」

 

 

死は、娯楽へと昇華する。

それを観て人々は龍騎を愛する。

歪んだ愛で、戦いは続いていく。

 

 

「ライダーである事の真の恐怖は、理想のライダーであることを望まれることだ。お前は戦いを止め続ける間抜けでなければキャラクターが違うといわれ、病気でない北岡は北岡らしくないといわれ、他のライダーと手を取り合う浅倉を神は否定する」

 

 

剣崎が狂った原因だった。

真司が望むことなのに、ライダーたちが協力することを他ならぬ神々が拒絶する。

永遠の地獄を味わい続ける事を神々は望んでいるのだ。

 

 

「お前の理想は、お前が龍騎である限り成し遂げられる事はない」

 

 

だからこそブックメイカーは確信している。

城戸真司は、龍騎のライダーは、確実に救済を受け入れることを。

 

 

「お前が前に進むということは、確実に犠牲を生み出すことでもある!」

 

「そんな――ッ!」

 

「龍騎を選ぶという事はそういう事だ。俺達は死の上に成り立つライダー。一般人を、参加者を犠牲にして生き続けるほど、龍騎は高尚なものか?」

 

 

それだけじゃない。

ディケイドの登場によって破壊されていく世界の中には当然龍騎の世界があった。

世界の破片は『主に』近い性質の世界を巻き込み、時には全く性質の違う世界を巻き込んでしまう可能性がある。

 

 

「ディケイドと言う概念によって融合を始める世界。分かるな龍騎、俺達の死の領域が他世界を侵食してしまう」

 

 

リュウガもまた概念のようなものだ。

城戸真司の記憶を全て継承しており、これより先の未来、もしくは起こるべく必然を目に映している。

 

 

「視える。視えるぞ龍騎! ファム!」

 

 

それは、真司達を心を殺す一手であった。

何よりも聴きたくない事、前に進もうとする意思を根こそぎ刈り取る言葉が放たれる。

 

 

「断言する! お前たちがこの戦いを乗り越えたところで、お前たちには新しい殺し合いが用意されている!」

 

「うッ、ウソだ!!」

 

「本当だとも! ソレが龍騎である事だろ! 今度は甘くないぞ! 最高の地獄が視える!!」

 

 

色が近い他世界を巻き込み、全く関係のない人間達を巻き込み、龍騎達のデスゲームが続行される。視える、ああ、視えてしまう。

 

 

「この俺とて恐怖に震えるほどの地獄の光景が視えた!」

 

 

多くの願いを叶える為に他者を犠牲にするのか、仲間の為に巨大な力に挑むのか。

別の人間を、別の世界を巻き込み、永遠に続く絶望連鎖。狂気融合。

 

 

「新たなるサバイバルゲームが俺には視える! 分かってるよな? 死ぬぞ。子供も、女も、俺達の力で殺される」

 

 

何の罪もない人間が化け物に殺され。参加者達は憎悪を振りかざして殺しあう。

 

 

「お前が龍騎である限り、俺達は逃れられない――」

 

 

リュウガは懐からデッキを取り出すと、前にかざす。

 

 

「城戸真司。お前の存在が人を殺すんだ」

 

 

出現するVバックル。

美穂が急いでファムに変身する中、リュウガはゆっくりと息を吐いてデッキを移動させる。

 

 

「戦わなければ生き残れない? 違うな」

 

 

リュウガはデッキをバックルに装填し、静かに笑う。

 

 

「俺達は――、戦わなければ生きられないんだよ」

 

 

変身。

 

 

「―――」

 

 

龍騎の前に現れたのは、真っ黒に染まった龍騎。

仮面ライダーリュウガは目を光らせて一歩前に出た。

 

 

「お前は……、何が――ッ、目的なんだ……!」

 

「決まっているだろ。終わらせるんだ。全てをな」

 

 

リュウガもまたブックメイカーについた者。それには相応の理由があると言うものだ。

 

 

「戦いを終わらせるため、龍騎を消す」

 

「は……!?」

 

「いくら概念とは言え、あくまでも俺もまた13人の仮面ライダーが一人でしかない。永遠に殺し合いを続けるのは、もううんざりなのさ」

 

 

はじめはリュウガも概念(それ)には気づかなかった。

ただ純粋に仮面ライダーの一人として勝利を目指した。特に城戸真司には因縁がある。

本物の、そして最強のライダーになるために、真司を取り込もうと画策していたのは今も覚えている。

 

しかし、それは一度ではなかった。

そしてリュウガの目指す勝利などただの幻想である事に気づかされた。

戦いは永遠だ。一つの時間軸で龍騎に負けようが、龍騎に勝って存在を取り込もうがそれはただ一時の事。

全ての戦いが終わればありとあらゆる理由が襲い掛かり、再びライダーバトルが開催される。

 

ある時は神崎の意思、ある時は世界の意思。

悪意は形を変えて龍騎を、ファムを、リュウガを永遠に幽閉し続ける。

終わらせるためには元を断たなければならない。つまり『龍騎』の消滅。

まず、城戸真司が龍騎の称号を捨てて他者に移すことだ。

 

 

「そうすれば俺達は自由だ。だからこそ城戸真司、アマダムにクロスオブファイアを渡せ」

 

「――ッ」

 

 

胸を抑える龍騎。

この果てにある炎の十字架を……。

 

 

「お前は我々の世界のコアだ。お前の『アドベントカード』の力をアマダムに渡しさえすれば、同時に他のカードの力を持つ騎士たちも力を失う」

 

 

つまり、ファムやリュウガ。

ここにはいないナイトやゾルダ、王蛇を宿命から解き放つことができる。

 

 

「つまり、お前が望み続けていた答えがココにある」

 

「戦いを、終わらせる……!」

 

「そうだ! お前が龍騎を、仮面ライダーを終わらせれば戦いは消える。そうすれば歴史も終わる!」

 

 

助ける事ができるのだ。龍騎の世界に住む人間達を。

 

 

「でもッ、それは……!」

 

「何を迷う必要がある? この世界で与えられた役割は、他ならぬお前達が望んだ幸福の形だろう?」

 

 

いつか、どこかで、願った。

リンゴの木の下で皆と会えることを。

 

 

「それが現実になる」

 

 

そして、リュウガはファムを指差す。

 

 

「フッ、あまりにも普通の夢だな。霧島美穂」

 

「ッ、なんだと……!」

 

「事実だろ。愛する男と共に生き、愛の結晶を残す。どこにでもある光景だ」

 

 

ファムは背後で不安そうに立っているツバサを見る。

 

 

「夢なんだよ。それは全て」

 

 

リュウガの目が光る。それは体験版を終わらせる合図。

戸惑っていたツバサの体がシュワシュワと音を立てて粒子化をはじめたのはその時だった。

 

 

「え? え? え……ッ!」

 

「ツバサ!!」

 

 

変身を解除し、美穂はツバサを抱きしめる。

 

 

「止めて! お願いだから!!」

 

 

リュウガが鼻を鳴らした。

するとツバサの粒子化は止まり、美穂は安堵の表情を浮べながら崩れ落ちる。

 

 

「あぁ、あぁ、よかったぁ」

 

「ママ……」

 

 

へたり込んだことで、ツバサと美穂の目線が同じになった。

幼い少女とて理解しただろう。自らの存在が異端なものであることを。

 

 

「かつては復讐のために生きた女も、随分と丸くなったな」

 

 

下に見た様子でリュウガが呟く。

すると美穂は挑発に応えるような笑みを浮かべる。

 

 

「……やっぱ、バカの影はバカね」

 

「なに?」

 

 

美穂はツバサを優しく抱きしめると、疲労しきったようにため息をついて笑っていた。

 

 

「あんな生き方……、したくてしてたワケじゃない」

 

「美穂……」

 

「あんな風に、生きたいワケ――ッ、無いじゃない!!」

 

 

その通り!

誰もが望んでデスゲームを行うわけじゃない。適応していけるかどうかなだけだ。

あの浅倉とて、あのような戦闘狂を生み出したのは他でもないゲームを加速させようと言う世界の意思があったからではないか。

 

 

「だからこそ俺達は自由になる必要がある! それは城戸真司、お前が龍騎を放棄することで成し遂げられるのだ!!」

 

「!!」

 

 

打ちのめされたように龍騎は動きを止め、何も言えなかった。

なぜならば『断る理由』が無かったからだ。クロスオブファイアを渡せば、竜斗やツバサ、美穂と暮らせるし、なによりもそれはずっと止めたかった戦いを終わらせるという真司の願いにも繋がっている。

拒む理由など、どこにも無かった。

 

 

「か、か――ッ、か」

 

「?」

 

 

それでも、龍騎が言葉を紡ぐのは、後ろめたさがあったからなのか。

それとも、彼が龍騎だったからなのか。

 

 

「カメン、ライダー」

 

「ああ。あれがどうした?」

 

「あれは、いいのかよ?」

 

「は?」

 

「俺達が力を捨てても、別の誰かが龍騎になる。ブックメイカーの言い方だと、龍騎が量産される……! そッ、そしたらいっぱいに増えた龍騎達は、お前の言う概念を生み出すはずじゃないか!!」

 

「かもしれないな。デスゲームが拡散されるかもしれない」

 

「だったら、それはッ、俺たちの責任じゃないのか――?」

 

「ハァ。お前は何を言っているんだ?」

 

「ッ!?」

 

「それが、どうした?」

 

 

そもそも、ブックメイカーが言うにそれは概念だ。

龍騎があるからデスゲームがある。それは真司のせいじゃなくて、そこに生み出された世界のシステムが原因である。

これは人が牛を食らう。酸素があるから息ができる。空は青い。水は冷たい。鳥は空を飛べる。そんな次元の話だ。

 

ましてやブックメイカーの言うカメンライダーは"1を10"にする事であって、"0から1"を生み出すシステムではない。

今だって龍騎のクロスオブファアは真司が拒む拒まぬ関係なしに流れ出て、既に他世界に影響を与えている。

だから、そう。今もきっとどこかで真司とは違う龍騎が戦っている。

別の真司がどこぞの誰かと肩を並べて戦っている。

 

 

「いいか? お前が龍騎を渡さなくても、お前の危惧している事は既に起こっているし、起こり続ける」

 

 

ディケイドが原因である。

辰巳シンジがいるように、他の龍騎がいてもなんら問題はない。

 

 

「ブックメイカーのカメンライダーによってそれが増えるだけであって、お前がココで抗ったところで、変わるものはほとんど無い」

 

 

ましてや、ううん、確かに関係の無い人間が巻き込まれるかもしれないとは言え、あくまでも龍騎とはそういうものであっただろう?

 

 

「本来、俺達は選ばれただけ」

 

 

龍騎の世界で、真司が龍騎になることなく終わった戦いもある。

そう、龍騎のライダーとはそういうものだ。誰もがカードとデッキを手にすればライダーになれていた。

神々が確認したのがあの13人とオルタナティブと言うイレギュラーなだけであって、『アビス』や他のライダーがいた時間軸もある。

 

リュウガの背後にはモニタが現れ、複数の人間がカードを持って微笑んでいる光景が映った。

顔にはモザイクが掛かっているが、女性や、帽子にスーツを着た男性。Tシャツを着た青年。リュックを背負った子供など、いろいろな人間がカードを手にしている。

これらの名も知らぬ人間がライダーとして戦った時間軸もある。

 

 

「ベルデが言っていた。人間はみんなライダーなんだと。カメンライダーはそれをより具現するシステムでしかない」

 

「……!」

 

「ましてや。それは他世界の出来事だぞ? まさかお前は自分の世界だけでなく、他の世界に住む人間のために自己犠牲を選ぶつもりか?」

 

「それは――ッ!」

 

「俺達の世界の人間を傷つけてまで、別の世界の人間を守るのか?」

 

 

そんな事はありえない。

真司だって人間として生まれてきた。自分の幸せを選んでいい場面はある。

人間は常に他の人間を犠牲にしてでしか生きられない。

 

夢を叶えると言うことは、他の人間は叶えられなかったと言うことであり、働くということは、その分の失業者を生み出すことでもある。

いちいちそんな風に考え、生きてなどいられるものか。

 

さらに言えばブックメイカーとてその点は考えている。

救済を受け入れれば、世界のシステムや概念についての記憶は消す。

なんの後ろめたさももたず、つい先程まで過していたように家族と共に生きることができるのだ。

 

 

「にも関わらず戦う道を選べば、お前はまた龍騎として元の世界に帰ることになる」

 

 

そしたらまた戦いだ。さらに大きな戦いだ。

そして戦いは観測者達に憧れや愛を生ませ、龍騎の存続や継続を望ませる。

世界はそれに応え、また戦いは続いていく。

無限大のマークが示したように。

 

 

「人が犠牲になるかもしれないと言う点でみれば、表を選ぼうが裏を選ぼうが一緒だ」

 

「――ッ」

 

 

龍騎は何も言い返せなかった。

あまりにも、あまりにも一択。

もちろんリュウガの言う様に後ろめたさはある。不信感もある。しかし、それが真実だとも分かってしまうゆえ、選ぶルートが一つしかない。

 

だってそうだ。なぜ、わざわざ苦しむ選択を選ぶ必要がある。

ましてや龍騎を取るということは、『またライダーバトルを続ける』という意思を他ならぬ、戦いを止めたいと願う真司に選ばせるわけだ。

矛盾にも程がある。多くの人を巻き込み、悲しませる力が龍騎にはあったのだ。

ならばそれを捨てるのは当然じゃないか。

 

 

「それは――、そうかもしれないけど……!」

 

「偽善は止めろ」

 

「ぎ、偽善ッ!?」

 

「違うのか? お前だって嫌いな人間には態度が悪くなるし、手も出るだろ。聖人でもないお前が、わざわざ他世界の命を気遣うな」

 

「それは――ッ! そりゃあ俺だってそんな善人じゃない! ただそれでも、気になるだろ!」

 

 

たとえば、そう。リュウガは全てがうまくいった未来に戦いが待っていると説いた。

しかもそれは13人を超える数の殺し合い。どういう事なんだ? 他世界を巻き込んで殺しあう。

色が近い世界とリュウガは言ったが、それはつまり『性質』の近い世界が交じり合うという事だ。

であるならば、その世界に住む者たちもなにか危険な目に合っているかもしれない。

 

 

「だったら、助け合えるかもしれないじゃないか!」

 

「ハッ、本当にそう思ってるのか?」

 

「ッ!?」

 

「ウソだな」

 

 

歩くリュウガ。対して後退していく龍騎。

 

 

「お前はただ迷っているだけだ。今も、昔も、これからも」

 

「迷う……?」

 

「その通り。お前の言葉は軽い。だからこそ他者の胸には響かず、戦いを止められなかった」

 

「なんだと……!」

 

「違うのか?」

 

 

そうに決まっている。ライダーたちは皆、良いか悪いかは別として譲れない想いを抱えてきた。

だからこそ本気の想いでなければ対抗はできない。そして結果はご覧の通りだ。真司が戦いを止めたいというのは意思ではなく、道徳的観念からでは?

つまりそれは願いなどではなく、ただの否定だ。

 

 

「お前は空虚だな。今だって、何かを決めることすらできない」

 

「それは――……」

 

「選択には犠牲がついてくる。ましてや、生きる事も同じだ」

 

 

何を取り、何を犠牲にするのか。

龍騎は今、それを強いられている。にも関わらず渋るのは、彼の中にある正義感――?

いや違う。ただ純粋に選ぶことが怖いからだ。

 

結局のところ龍騎は責任を負いたくないだけ。

ミスで人を殺したくないだけ。○○を『したい』と言う願いを掲げるライダー達のなかに、『したくない』を掲げる龍騎。

 

それが白か黒かは別として。覚悟なき物には何も変えられない。

あの戦いは、そんなに甘くない。

 

 

「だからこそ、お前は何も変えられなかった!」

 

 

リュウガの拳が龍騎の腰、つまりデッキを捉えた。

火花を散らして大きく後退していく龍騎。勢いあまって仰向けに倒れた。背を打ち、うめき声が漏れる。

 

 

「あッ」

 

 

強い力で殴られたためか、デッキには亀裂が走った。

 

 

「最期のライダーバトルだ龍騎。俺は、戦いを止める」

 

 

まさか、同じ理由とは。

あまりにも皮肉な話だった。

 

 

 




龍騎小説版ほんとすこ(´・ω・)

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