カメンライダー   作:ホシボシ

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わりと自己満足( ^ω^ )

あと何度も言ってるけど、龍騎って挿入歌のタイミングすごくいいから。
みんなも見てくれよな!


第14話 龍騎VSリュウガ(前編)

 

 

「………」

 

 

デッキにヒビが入る。

しかしなにもせず、龍騎は体を起こしてもジッとそれを見ているだけ。

ビシッと音を立て、また亀裂が広がる。枝分かれする亀裂はまさに龍騎の世界。さまざまな展開に分岐していく悲劇の連鎖。

 

 

「………」

 

 

ただ迷う。

そして納得。

 

そうか、そうかもしれない。

結局と自分が抱えてきたものは理不尽な世界に対する怒りだったのかもしれない。

だからこそ、その世界から解き放たれる選択を選ぶことは、ある意味必然だったのかもしれない。

 

だから、龍騎の選択肢は一つだった。

 

 

「………」

 

 

美穂もまた何も言うことはなかった。

ただ目の前にいるツバサを抱きしめることしかできない。それは既に美穂の心が折れていたからであろう。

観測されながら戦う世界よりも、親しい人と生きられるこの世界の方が魅力的だった。全てを受け入れれば、きっと姉ともまた暮らせるかもしれない。

 

ただ、それだけだ。

 

戦う理由など、もう無くなった。ならば戦う必要はない。

反発心や復讐心をバネに翼を広げていたが、蹴るべき地面はぬかるんで。ズルズルと自分を引き込んでいく。

そしてそれは、どこか心地いい。

 

 

「真司。私はもう――、いいよ?」

 

 

美穂は笑った。

龍騎は無言だ。しかし心が揺れているのは確かなのか、デッキにはさらなる亀裂が走る。

 

 

「ハァ」

 

 

小さく、ため息をついた。

思えば、自分だけじゃない。他のライダーだってきっともう諦めた人だっているはずだ。

だから、別に――、諦めても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ、へんっ」

 

「え?」

 

 

ツバサは腕に力を込めて、美穂を振り払う。

どうやら諦めた二人のライダーとは違い、諦めていない弱い一般人がいたようだ。

 

 

「だまされないで!」

 

「!」

 

 

ツバサの声を聞いたとき、デッキの亀裂が止まった。

いや、それだけじゃない。何本かの亀裂が消え去った。

 

 

「ッ」

 

 

リュウガは舌打ちをして、呆れた様に首を振る。

一方で龍騎は立ち上がると、ツバサの方を振り返った。

 

 

「だまされる?」

 

「うん! へんだよっ! パパも、ママも、いつもと全然違う!」

 

 

その言葉に、龍騎も美穂もどうしていいか分からずに沈黙した。

 

 

「その黒い人に騙されないで! いつものッ、パパとママに戻って!!」

 

「いつ、もの……」

 

「退け」

 

「グッ!」

 

 

リュウガは龍騎の胴を蹴ると、再びダウンさせる。

そして歩き、ツバサを目指した。

 

 

「幻想が。耳障りだ」

 

 

リュウガが手を前に出すと、ツバサの体が粒子化をはじめる。

アッと声に出し、美穂は大きく目を見開く。しかし先程とは違い、大きく取り乱すことは無かった。

それを超えるショックがあったからだ。だから打ちのめされ、固まっている。

 

ただ、やらなければならない事はあった。

美穂は唇を震わせながら、ゆっくりとツバサの手を取る。

ツバサは目を開けて立っていた。足が震えている。当然だ。体が消えそうになっている。

しかしそれでもツバサは、自分がおかしいと思うことを言いたかった。

誰のために? 決まっている。

 

 

「ねえツバサ」

 

「なぁに」

 

「いつもの私達って、どんなんだった――?」

 

 

それは、即答だった。

 

 

「かっこよかったよ。パパも、ママも」

 

「……そっか」

 

「でもっ、今はぜんぜんちがう! だからッ、だから――ッ!」

 

 

もはや思い出は消えかけている。

記憶が体験版のデータを塗り替えていくのだ。しかしそれでも、ツバサにとっては本当だった。

誰かにとってはクソみたいな時間も、誰かにとってはかけがえのない唯一無二の時もある。

 

 

「そっか、そっか……、かっこよかったかぁ」

 

「ブわーってしてた。パパも、ママも……」

 

 

言葉を止めるツバサ。

掌を見る。向こうの景色が透けてみえた。皮膚の向こう、へたり込む美穂が見えた。

 

 

「かっこわるいよなぁ」

 

 

ため息と共に放たれた言葉。

なんだか変な気分だった。コールタールのような水面に綺麗な雫が落ちたような。

だから、美穂は立ち上がる。

立ち上がって、娘の頭を優しく撫でた。

 

 

「――ォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!?」

 

 

誰もが肩を揺らした。

リュウガでさえ、『叫び』に驚いて足を止めた。

美穂は立ち上がり、そして振り返る。

 

 

「変ッッ身ッッッ!!」

 

 

その姿がファムに変わり、ブランバイザーを構えて全速力で走る。

あまりにも一瞬だった。跳躍するとマントがグライダーの役割を果たし、ファムは空中を滑りながらリュウガの前に着地する。

繰り出されたのは全力の突き。反応に遅れたリュウガは回避がとれず、左胸に走る痛みに声を漏らした。

 

 

「グッ! 貴様!!」

 

「あ……!」

 

 

ツバサの粒子化がとまり、手も元に戻る。

どうやらリュウガがツバサを操作しているらしい。

だからこそファムはリュウガの意識を散らすために連続で突きを繰り出した。二発目は肩に命中、三発目はデッキに――。

 

 

「頭の悪い奴は見ているだけで虫唾が走るな」

 

「!!」

 

 

激しい抵抗感。デッキに剣先が届く前に、リュウガが刃を掴んで止めていた。

そして打撃音。リュウガの裏拳がファムの頭部を捉え、白騎士は苦痛の声を漏らしながら地面を転がっていく。

掴んでいた剣を投げ捨てるリュウガと、無様に地面に倒れているファム。マントが汚れている。しかし、綺麗なままよりはいい。

 

 

「――せェんだとよ」

 

「あぁ?」

 

 

倒れたファムは腕に力を込めて起き上がる。

濁音混じる声を出し、ファムはもう一度叫ぶ。

 

 

「だせぇんだってよッ! このままじゃ!!」

 

「もはや何を言っているのか。理解に苦しむ」

 

 

呆れ、リュウガは地面を強く踏み歩く。

だがデッキに手をかけたところで肩を掴まれた。

誰だ? 決まっている。リュウガが振り返ると、そこには龍騎の拳が見えた。

 

 

「グゥウッッ!」

 

 

拳が頭部を捉えた。怯むリュウガと、前に進む龍騎。

 

 

「龍騎ィ、お前ェッ!」

 

 

リュウガもすぐに拳の動きに反応。

腕でガードを決めると、カウンターの一撃を龍騎に打ち込んだ。

両者、すぐに体勢を整えると殴りあいに移行する。

 

フック、ガード、ストレート、回避、アッパー、バックステップ。

久しい感覚だ。そうだ、あの時もそうだった。ただ一心不乱に相手だけを考え。どうやって殺すかを考える。

 

 

「お前ッ! 自分が何をしているのか分かっているのか!!」

 

「それはッ、でもッ! でもッッ! ア゛アァァアア!!」

 

 

分かっているが、分かれない。

男はやはり中途半端だった。しかしそれでも、あのままただ流されて受け入れるのだけはダメだと思った。

負けるなら負ける、抵抗するなら抵抗する。

今はせめて、『娘』のためにもそうしなければならないと思った。

 

 

「エゴを振りかざすつもりか! 自分の世界の人間を危険に合わせるつもりか!!」

 

 

拳が交差する。

鎧が揺れる。それでも殴りあう。

リュウガは城戸真司の鏡像であり、だからこそ分かっている筈だ。城戸真司には天才的な戦闘センスがある。

 

ミラーモンスター相手ならばほぼ負け無しであったように、龍騎は『強い』のだ。

だからこそリュウガにも食い下がることができた。

 

 

「俺は犠牲を選ぶつもりはない! そういう方法があってもいいじゃないか!」

 

「馬鹿が! 一時の感情に身を任せるのか!!」

 

 

そこでリュウガのわき腹から火花が散った。

ファムだ。ブランバイザーを拾い上げ、龍騎に合流したのだ。

 

 

「かっこ悪いんだってよ!」

 

「ッ!?」

 

「ダセェんだってよアタシらは!! ンなのッ、ヤだろうが!!」

 

 

ファムの左手にはウイングシールドがあったのだが、リュウガはそれに気づかなかった。

だからこそ普通のパンチでファムを狙ってしまう。拳は問題なくファムを突き抜けたが、捉えた感触が無い。

腕がズブリと沈んで、直後ファムの体が消え失せると、白い羽が舞い散るだけだった。

 

 

「これは……ッ!」

 

 

トラップ。

白い羽が周囲に次々と広がっていき、視界が悪くなる。

すると背中に衝撃が走った。ファムだ。羽に紛れて背後にまわっていたのだ。

 

 

「マジでッ」

 

「グッ!」

 

 

渾身の突き。

 

 

「ムリ――ッ!」

 

 

突きッ!

 

 

「なんだよッッ!!」

 

「グゥウウッッ!!」

 

 

突きッッ!!

 

ファムの突きが背を打ち、火花が大量に飛び散る。削られる装甲。怯むことで止まる動き。それを龍騎が見逃す筈もなかった。

ファムによって強制的に押し出されたリュウガに向かって、龍騎は左フックで頭部を打つ。

そしてさらに右フック。大きく怯んだ所を見て、胴体へ左ストレート。

よろけ、後退していくリュウガに距離をつめ、右ストレートを叩き込む。

 

 

「クッ!」

 

 

頭を振るい、全身を叱咤させるリュウガ。

その前方には肩を並べて走ってくる龍騎とファムが見えた。

 

 

「「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

 

二人は声を合わせて吼え、飛び上がる。

狙うはリュウガ――!

 

 

「!?!!??」

 

 

だが龍騎とファムの背から火花が散り、二人は地面に墜落した。

 

 

「グッ!」

 

「いッッ!!」

 

 

リュウガは前にいる。しかし痛みは背中。

新しい敵か? 龍騎達はすぐに立ち上がり、後ろを確認。

 

 

「……ウソ」

 

 

消え入りそなファムの声。

後ろには、二丁拳銃を手にしていたツバサが見えた。

 

 

「え? え? え……ッ?」

 

 

ツバサは青ざめ、戸惑っていた。

手は震えている。突如手に現れた拳銃を見る目は困惑。

だから龍騎とファムは理解した。引き金を引いたのはツバサの意思じゃないと。

なのに撃った。ツバサは、自分の指で引き金をひいた。殺す道具を使ったのだ。

 

 

「――ぞ」

 

 

龍騎はただ、ただ、ただ、拳を握り締めるだけしかできなかった。

何が正しくて、どちらが間違っているとか分からない。

分からないが、ただ、ただ、悔しかった。

 

 

「まだ――、5歳だぞ」

 

「そう思ってるだけだ」

 

 

複眼を光らせるリュウガ。

 

 

「愚かすぎるぞ。龍騎、ファム」

 

 

ブックメイカーへ申請。

未来の絶望を少しだけ呼び出してほしい。

許可。だからこそ、リュウガの体からどす黒い瘴気が溢れる。それらは意思を持つように移動すると、ツバサに吸い込まれていった。

 

 

「救済を理解できないどころか、人を破滅へ導くか」

 

 

ファムが叫び、ツバサへ駆け寄る。

だがもう遅い。いや、初めからツバサなんていないのだ。ファムの勘違いが終わるだけ。

大量のどす黒い瘴気はツバサを包み込み、体内に侵入していく。

するとツバサの頭部から瘴気が溢れ、それが魔女が被るような大きな帽子になった。

 

被る帽子、同時にツバサの顔に仮面が装着される。

歯車を模したデザインだ。顔の上半分を大きな歯車が覆い隠し、下半分には真っ赤に染まった唇が三日月の様につりあがっている。

それは仮面、ペルソナ。つまりツバサの表情が全く分からなくなる。

 

 

「ツバサ!!」

 

 

ファムが叫ぶが、返事は無かった。

赤い唇で裂けるように笑っている仮面が不気味だ。

本当に仮面の奥にはツバサがいるのだろうか?

 

そもそもファムにとって、ツバサとは?

 

ハッキリ言って、分からなかった。

偽りの親子。それでもファムが走ったのは、おなかを痛めて生んだ記憶がまだほんの少しだけ残っていたからだろうか。

 

 

「あう゛ッッ!!」

 

 

残念。その記憶が消えてしまった。

その衝撃は銃弾。ツバサが持っていた二丁拳銃が再び火を吹いたのだ。

 

 

「ツバサじゃない」

 

 

リュウガがツバサだったものを指差す。

 

それは、愚かさの象徴。

 

それは、戦いの証明。

 

それは、無限の恐怖。

 

 

仮面ライダー龍騎たる幻想の果て、絶対の呪いだった。

 

 

「フール」

 

 

戦いの鏡像。

絶望のミラーモンスター、『フール』は拳銃を腰にあったホルスターにセットすると、掌を前に出す。

 

 

『ユニオン』『ソードベント』

 

 

濁った電子音が聞こえた。

これはリュウガのバイザー音声。するとリュウガではなくフールの右手に黒いドラグセイバーが装備される。

どうやらフールはリュウガのカードを自分で使用する事ができるらしい。

当然か、これは龍騎達の未来。戦いの象徴、ならばカードを使えて当然だ。その力で殺しあうのだから。

 

 

「お願い! 止めてッ! 待って!」

 

 

ファムの言葉は虚しく消えていく。

フールは小さな体で剣を持ち、ファムへ駆け寄っていくと躊躇無く切りつけていった。

 

 

「うぁあ! ヒィ!」

 

 

ファムの脚や腰から火花が上がる。

痛い。ああ、なんと痛いことか! オラクルにやられた時のような痛みが走った。

いつもは伸ばした手を嬉しそうに掴んでくれる娘が、今は刃物を伸ばして傷つけてくる。

 

 

「ツバサ!」

 

 

龍騎もまたツバサを止めようと走り出すが、リュウガに肩をつかまれ、そのまま殴りつけられる。

地面に倒れたところで、わき腹を蹴られた。

 

 

「ガハッ! グゥゥ!!」

 

 

息ができない。地面を転がり、苦痛に呻く。

 

 

「愚かにも程があるな」

 

 

つくづくリュウガはそう思う。

いや、それはなにも龍騎にだけ言えることではない。

 

あれだけの幸福に身を置いていながらも、まだ誰もブックメイカーのもとへ連れて行って欲しいというライダーはいない。

喫茶店で沈黙している五代を初め、誰もが皆どうしていいか分からずに固まっている。それは思考の放棄だ。罪悪感に苛まれ、選択を拒んでいる。

戦いの終わりを望んだのは、他ならぬライダーなのに。

 

 

「そうか、なるほど、結局恐れている」

 

 

誰も、かれも、みんな。幸福に――、なる事を。

 

 

「失望したぞ龍騎」

 

 

リュウガは複眼を光らせ、再び歩行を開始する。

 

 

「皆が納得できる選択などない。何を捨て、何を選ぶか、それを人間は常に迫られている」

 

 

それを放棄したものは、もはや人にあらず。

犠牲を取る覚悟を固められない人間は人間にはなれない。優しさと言う名の弱さを抱えて消えていく。

そして本人はそれを望んでいる。綺麗なままで消えられたらどれだけいいだろうと、生きる事を放棄する。

 

弱肉強食の分かりやすいシステムを尊重する人間が、いざそれを目の当たりにするとすぐに目を逸らす。

なんて弱い生き物か。人であり、人ではないリュウガにはそれが鮮明に映った。

だから、いっそ、消えてしまえばいい。

 

 

「お前に救いはいらないな」

 

「ッ」

 

「龍騎。俺が消してやる。今度こそ……!」

 

 

龍騎は一瞬だけ動きを止めた。

しかし背後を見ると、ファムが悲鳴を上げて火花を散らしているのが見えた。

ファムを攻撃していたのはフール。先程まで娘だと信じていたものだった。

 

選択?

捨てる?

それを強いるために、この今があると言うのか?

だとしたら――

 

 

「――カハッ」

 

 

息が漏れる。

衝撃と共に視界が反転し、気づけば地面にへばりついていた。

 

 

「………」

 

 

何が間違っていたのか。

何がいけなかったのか。

幸せになる事が怖い? 違う。望んだのはただ当然の幸福だ。

なのに、なのに、なぜ――?

 

 

「――ァ」

 

「!」

 

「アアアアアアアアアア!!」

 

 

立ち上がり、叫び、そして走り出す龍騎。

リュウガもまたゆっくりと息を吐き、直後地面を思い切り蹴って走り出す。

既視感が襲い掛かる。以前にもあった――、のだろう。何度もあったのだろう。

それだけの殺し合いを経て、いま尚殺しあう。そんなバカな連中こそが自分たちなのだ。

 

 

『ガードベント』『ガードベント』

 

 

憎悪が呼応する。

やはり、全ての殺意は、自分自身へ。

龍騎とリュウガはドラグシールドを両手に構えるとそのまま思い切り双方へぶつかり合う。

盾を通して凄まじい衝撃が腕に伝わってきた。もげそうだ、感覚も無くなっていく。骨が軋み、痺れる腕の向こう、それぞれは相手を睨みつけた。

 

 

「ウゥウッ! オオオオオオオオ!!」

 

「フンッ! ハァア!!」

 

 

盾を振るい、またぶつけ合う。

一撃、一撃、一撃、ぶつかり合う盾。衝撃と音の果て、龍騎の目には死が映った。

アイツも、彼も、あの人も、生きていても良かった筈だ。なのに、なのに、世界が殺すのか。だとしたら、自分達は一体。

 

 

「ウゥアウアァウアアアア!!」

 

 

一体、なんのために……!?

 

 

「ハァアッッ!!」

 

 

リュウガが全身を前に出し、盾を押し付ける。

龍騎も負けじと盾を突き出し、ぶつけ合う。お互いは気づいていた筈だ。

一撃を当てるたびにシールドに亀裂が走っていたこと。だからこそ重い一撃が重なったとき、それぞれの盾は砕け散る。

 

しかしお互いは一歩も引かなかった。

盾の持ち手だけが腕に残る。それだけでいい。後はほら、飛んできたそれぞれのミラーモンスター。

ドラグレッダーとドラグブラッカーが強引に押し入り、お互いの主人を守るように体を打ち付けあう。

 

 

「ッ!」

 

 

後退していく龍騎とリュウガ。まだだ、ドラグレッダーが龍騎の周りを高速旋回。同じくしてドラグブラッカーはリュウガの周りをグルグルと飛びまわる。

するとどうだ、お互いの体から炎が発生し、それが竜巻となる。

『竜巻防御』、赤と黒の旋風がぶつかり合い、激しく競り合っていく。

 

結果――、は、相殺。

激しい熱風が龍騎とリュウガを弾きあい、お互いは地面を滑りながら後方へ移動していった。

 

まだだ、まだだ、まだだまだだまだなんだ。

その想いに呼応したのか。離れていく相手に向かって二匹のドラゴンが火球を発射する。

これもまた相殺、お互いの炎は互いを巻き込みながら爆発。爆炎が視界を埋めつくす。

 

何が起こっているのか、もう訳が分からない。

しかし聞こえてくる音だけはクリアに耳へ入っていく。

そうだ、あれはカードを抜き取る音。そしてバイザーに入れる音だ。

 

 

『ストライクベント』『ストライクベント』

 

 

爆煙を吹き飛ばすように龍が旋風を発生させる。

腰を落とし、ドラグクローを構える龍騎とリュウガ。その周りを飛びまわるドラゴン。

 

 

「ヤアアアアアア!!」

 

「ハアアアアアア!!」

 

 

昇竜突破。突き出した腕にあわせてモンスターが口から炎を塊を発射する。

さらにドラグクローからも炎が発射され、炎の塊をより大きくさせる。二つの弾丸は一直線に飛んでいき、再びぶつかり合い、大爆発を起こす。

 

 

『『ソードベント』』

 

 

騎士は剣を持ち、熱に向かって走る。

爆炎を刃で切裂いたとき、果てにいるのは自分の姿であった。

刃をひたすらに打ち合い、競り合いが発生する。

そこで、リュウガは笑みを浮かべた。

 

 

「お前の迷いが伝わってくる。俺はお前だ、龍騎」

 

「ッ!」

 

「自分だって分かってるだろ? お前は本当はブックメイカー側に行きたいんだ」

 

「それは――ッ」

 

 

違う、とも言えないし。

そうだ、とも言えなかった。

正しくは、救済はほしいが、カメンライダーの形態には疑問を持っている。そのあたりだろう。

だが先程の言葉を借りるのであれば生きるためには何かを捨て、何かを選ぶときがくる。それは真司だって今までの人生の中で分かってきたはずだ。

 

 

「どちらが上かは、もう分かってる」

 

「……ッ」

 

「フッ、所詮お前は!」

 

「しま――ッ!」

 

 

リュウガの剣に炎が纏わりつく。

龍騎はすぐに防御を行うが、剣が弾かれ、すぐに戻そうとしてもまた弾かれる。

 

 

「自分の願いも優先できない様なヤツが――ッ!」

 

「があッ!!」

 

 

横にして構えた剣に、リュウガの剣が叩き込まれる。

するとドラグセイバーの刃が砕け散った。一方でリュウガの刃はまだ進む。

龍騎の肩を抉り、強制的に膝を地面につかせた。

 

 

「戦いを止められるわけがない!」

 

 

足裏が龍騎の胸を撃つ。

龍騎は仰向けに倒れ、大きく息を吐いた。

 

 

「止められずにもがき続ける。愚者の象徴!」

 

 

あまりにも哀れ。

だから、消してあげるのが優しさだ。リュウガはバックステップで後ろへ跳ぶ。

 

 

「来い! フール!」

 

 

リュウガの言葉に反応し、フールは首を動かす。

 

 

「待って!」

 

 

なぜか、攻撃されていたファムが言う。

しかしそんな言葉が届く筈もない。フールはファムのマントをつかんで引き寄せると、足を蹴り、バランスを崩して地面に倒す。

さらに追撃、倒れたファムへ容赦なく銃弾を浴びせていった。

 

 

「ぐッ! ガァア!」

 

 

炎に包まれるファム。

拳銃に込められていたのは、炎の銃弾レッドホット。

ファムは地面を転がり、なんとか炎を消すが、さらにそこへ別の弾丸が。

氷の弾丸。クラッシュガスト。撃ち込まれたところが凍結し、ファムはすぐに凍りに包まれる。

 

 

「ツバ――、サ」

 

 

フールはファムに一瞥もくれる事なく駆け出した。

地面を蹴り、バク宙をしながらも前方へ移動。途中、眼下に転がっている龍騎には麻痺を与える弾丸、スタンガンを命中させる。

 

 

「グ――ッ! ガゥ……!」

 

 

体が痺れて動けない。

龍騎が止まっている間に、フールはリュウガの前に到着する。

 

 

「体も、心も、状況も、勝負も、完全に負け、その状態で死んだとして――、まだ終わりはこない」

 

 

デッキに手をかけるリュウガ。

 

 

「死は終わりではない。今、俺達はそういうステージの上で戦っている」

 

 

カードを抜き取り、反転させて絵柄を見せつける。

辛うじて体を起こした龍騎、見えた絵柄は禍々しく光るリュウガの紋章。

 

 

「だが、それでも――、終わりの理由にはできる」

 

 

背中を押してあげるのは大事だろう。

リュウガはカードをバイザーに装填し、フールは散歩ほど前に出る。

 

 

『ファイナルベント』『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

フールはリュウガのカードも使える。それはもちろん、ファイナルベントも同じである。

だからこその二重使用。確実に殺すというそれはあまりにも純粋な願い。

 

 

「もう一度、言おう」

 

 

複眼が光る。

両手をゆっくりと広げ、リュウガの体はゆっくりと上空へ浮き上がっていく。その周りを飛びまわるドラグブラッカー。

さらに黒く燃え上がる炎塊が13個、リュウガを中心に円形に配置される。

 

 

「お前は怯えながらも救いを求めている。犠牲よりも自分の幸せを求めている」

 

 

リュウガの言葉に龍騎は何も言わなかった。

だってそれは人間としては当たり前の行動だ。仮面ライダーは神ではない。

 

 

「しかしそれを求める勇気がない!」

 

 

そうだ。そうなのだ。リュウガの言っている事は、本当だったのだ!

さらにそこで銃声。フールは持っていた拳銃の引き金を引き、光線を発射する。

それは龍騎の脚に命中すると、そこにリュウガの紋章が浮かび上がった。

 

痛みはない。が、シンクロするようにしてドラグブラッカーがリュウガの頭上、時計でいうならば12時の部分にある炎塊を発射させる。

先ほど打ち込んだ光線はつまりマーカー。炎は龍騎の脚にあった紋章へ吸い寄せられるように移動し、そして着弾。

 

 

「ウグァア!!」

 

 

熱と痛み。そして一番の変化は重さ。

そう、ドラグブラッカーの炎には一つ特殊能力がある。それは当てた相手を石化させる事。

黒い炎が龍騎の足を石で覆っていく。そしてそれは一つではない。一つの炎が発射されると、次の炎が用意される。

円形に並んでいた炎塊が横へ移動。1時の方向にあったものが12時の方向へ自動的にズレた。

 

そしてまた光線を発射するフール。

それは龍騎の肩に、ファムの胴体に、二人のいたるところに命中していく。

追撃の炎が次々と命中していき、13の炎弾を全て打ち込んだときには龍騎とファムは完全に石化してしまった。

 

 

「鏡像ゆえに、分かる。城戸真司はブックメイカーのほうへ行きたいんだ。行きたくて堪らない」

 

 

神は許してくれるだろうか?

もう戦いたくない、楽になりたいという意思を汲み取ってはくれるだろうか?

分からない。未曾有の恐怖。だから踏みとどまる。だからこそリュウガが終わらせる。

龍騎を殺すことで、観測を断ち切る。そうすれば、真司も折れるだろう。

 

尤も、今は自らの願いを優先させる。

リュウガもまた参加者。叶えたい願いがある。

そう、城戸真司を殺すという願いが。融合し、取り込み、最強のライダーとなる事!

 

 

「消え失せろ」

 

 

その言葉に反応し、フールが後ろに跳んだ。リュウガを飛び越え、高く、高く。

前からリュウガ、ドラグブラッカー、フールの並びとなる。フールは腕を交差させ、二つの銃口を前に出した。

そして引き金を引くと、前方にいたドラグブラッカーが黒炎の龍に変わった。

 

黒炎龍は大口を開けて前にいたリュウガを飲み込むと、その力を融合させる。

おお見よ、黒く発光し、目は赤く光り、激しく燃え上がる禍々しい巨大なドラゴンを。

そして轟々と燃える炎を纏ったまま飛翔すると、その牙をむき出しにして龍騎に噛み付き、持ち上げ、ファムのところへ投げ飛ばす。

落ちる二つの石像。ドラゴンは咆哮を上げながらそこへ突っ込んでいった。

 

リュウガのファイナルベントであるドラゴンライダーキックを強化。

13発の炎弾で相手を石化させたうえで、自身が巨大な炎の龍となり相手に突撃する"ウェルモルテ・ドラグーン"。

黒炎龍は地面に直撃すると大爆発。石化していた鎧は粉々になり、中にいた真司と美穂が悲鳴をあげて地面を転がっていく。

 

 

「ぐうぅあぁあぁ……ッッ!!」

 

「うッ! くぅ……ッ、かはッ!」

 

 

痛みが強い所を押さえ、苦しんでいる二人。

一方でリュウガは地面に落ちていた龍騎とファムのデッキを拾い上げた。

 

 

「ゲームオーバーだ」

 

 

リュウガは二つのデッキをいとも簡単に握りつぶして破壊する。

バラバラになって落ちる破片を、真司達はぼんやりと見ていた。その表情は絶望とも、安堵とも取れる。

 

 

「これでお前達はもう変身できない」

 

「………」

 

「ハァ。お前は――ッッ!!」

 

 

リュウガは真司の髪を掴むと、上に引き上げて起立させる。

 

 

「まだ迷っているのか!」

 

「グッ!」

 

「どこまで俺を怒らせれば気が済む! 城戸真司!!」

 

 

目が語る。『殺れ』と。だからこそフールは頷き、銃を構えて歩き出した。

目指すは美穂のもと。へたり込む彼女の肩へ、まずは一発。

 

 

「がぁああ!!」

 

「美穂ッ!!」

 

 

小さく仰け反る美穂。肩からは血が飛び散り、地面に赤い点々が浮かび上がる。

パン、パン、パン。前進しながら引き金をひいていくフール。

美穂の体から次々に血が飛び散り、ついには吐血をして崩れ落ちる。

 

 

「美穂ッ! おい! 離せよ!」

 

 

真司は必死にリュウガの腕を掴むが、ただの人間である真司にもはやできる事など何もない。

どれだけ力を込めようとも、リュウガの腕はピクリとも動かなかった。

いや、それだけじゃない。

 

 

「―――」

 

 

一発。ただ一発。リュウガは真司の腹を殴った。

それで終わりだった。臓器は壊れ、吐き気を覚えれば直後大量の血が口から溢れてきた。呼吸が止まる。

吸うも吐くもできない。ただ大量の血が口から漏れるだけ。真司は地面にへたり込み、動きを止める。

 

 

「喋れずとも問題はない。大切なのは意思一つだ」

 

「―――」

 

「迷えばそれだけ苦痛が増すぞ」

 

 

このように。

リュウガは真司の左肩めがけ踵を落とす。骨が砕ける音がした。鎖骨が、肩甲骨が、上腕の骨が簡単に崩れていく。

真司は激痛に表情を歪ませる。ああ、なんて哀れで愚かな男なのだろうか。答えはもう心の中では出ていた。

ブックメイカー側につくのだ。だからそれを宣言すればいい。宣言すればいいのだが、どこか引っかかるものがあって言えなかった。

そうしている間にこれだ。流石に間抜けすぎる。それは美穂も思うところなのか、口を開く。

 

 

「もういいよ。もういいって、真司」

 

 

消え入りそうな声だったが、真司の耳にはちゃんと届いた。

血まみれの美穂にはまだ弾丸が撃ち込まれていた。普通ならもう死んでいるレベルだが、それでも生きているのはただ概念のためか。

 

とは言え、美穂はもう答えを出しているようだ。

当たり前だ。苦痛に縋る意味はない。全てを受け入れれば、目の前で自分を撃っている『モノ』が愛する娘に変わるのだ。

そしてそれは美穂だけが欲しているものじゃないことくらい、美穂も分かっていた。大丈夫だ、付き合いは長い。何度も何度もループしていたから。

 

 

「受け入れなよ真司。もういいじゃん」

 

「―――」

 

「少なくとも私は絶対責めない。アンタの味方してあげるから」

 

「―――」

 

「だから、一緒に……」

 

 

"一緒に暮らそう"。

断る理由はどこにもなかった。

だからリュウガの勝利だった。ブックメイカーの目的は達成された。

 

 

「―――」

 

 

しかし、美穂はその最期のトリガーを引かなかった。

言葉を止めたのだ。『暮らそう』とまでは言わなかったのだ。

なぜ? 分からない。

 

ただなんとなく、本当になんとなく、上を見た。

 

これから一緒に暮らす家族を見たかったからだ。

愛する娘になる怪人(フール)を眼に映したかったから。

 

ああ、あともうひとつだけ理由はあった。

濡れていたのだ。なぜかフールの足元が濡れていた。

だから気になって上を見た。なんで濡れているんだろうと。

そう、そうだ、だから美穂は言葉を止め、目を見開いた。

 

 

「ッ、ツバサ……!!」

 

 

美穂は理解した。

それは、"ツバサ"だった。フールじゃない、ツバサだったのだ。

 

フールは仮面を付けている。

だから表情は全く分からない。立ち振る舞いも見事な殺戮マシーンで、今も容赦なく銃弾を撃ちこんでくれる。

穴だらけになった美穂は、もはや痛みすらも感じない状況だ。

しかしそれでも意識は、視界はクリアだった。

美穂は見た。フールの仮面の下、ボタボタと雫が流れているのが。

 

 

「………」

 

 

頬を伝うから、顎に伝うから、雫はまだ落ちる。

今も尚、とめどなく流れている水滴。

 

美穂は、ただ、ただ、小さく笑う。

 

それだけ。

 

本当にそれだけだった。

 

 

「優しいなぁ。ツバサは」

 

 

美穂がフールを攻撃できなかったのは、辛かったからだ。

何が嬉しくて愛しい愛しい愛娘を攻撃しなければならないのか。そう思ってしまったからこそ手が出なかった。

愛する人を攻撃したくない。そんな当たり前の事を――……。

 

 

だから、前にいたのはツバサだった。

 

 

「!!」

 

 

音がした。

リュウガがその方向を見ると、フールの胸を貫く白き刃が見えた。

 

 

 

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