カメンライダー   作:ホシボシ

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第15話 龍騎VSリュウガ(後編)

 

 

「あの女……!」

 

 

意識を集中させるだけで、ブランバイザーは手に宿った。

あとはそのままフールの――、ツバサの心臓を一突きに貫いた。

小さな体に剣は深く侵入していき、あっと言う間に肉体を貫いていく。

 

 

「―――」

 

 

フールの仮面が砕け散る。

涙を流していたツバサは、ゆっくり、それはゆっくりと微笑んだ。

 

それでいい。そんな表情だった。

 

直後、ツバサは血を吐き出し、その場に倒れる。

語弊があった。倒れる前に美穂に支えられた。

全てがスローモーションだった。

 

 

「―――」

 

 

真司は歯を食いしばる。

不思議と、血の味がしなくなった。

 

 

「ツ」

 

「!」

 

「バ……、サ」

 

「お前、まさか……」

 

 

 

行かなきゃいけない。

それだけを真司は思った。だから立ち上がると、ツバサの方へフラフラと足を進めていく。

 

 

「おい、お前ッ!」

 

 

させるものかと、手を伸ばすリュウガだったが、そこで空中から桃色の光が降って来た。

矢だ。桃色の矢が飛んできた。それはリュウガの眼前に降り注ぐと、地面に着弾して次々と爆発を起こしていく。

衝撃でリュウガは後退するしかない。正体不明の攻撃に、仮面の裏にある表情が歪む。

 

 

(なんだ――?)

 

 

上空には人型のシルエットを持った桃色の光が浮遊している。

シルエットには光の翼が生えており、『天使』に見えた。

 

 

「ブックメイカー! なんだあれは!」

 

 

脳内に声が響く。

 

 

『フール召喚の代償だ』

 

「なに?」

 

『あれは龍騎達の絶望だが、お前にとっての絶望でもある』

 

 

所詮リュウガも参加者。

フールとはそもそも『永遠に続く戦い』の具現でしかない。当然それはリュウガに対しても言えることである。

 

フールがリュウガの味方をして、龍騎とファムを狙うならば、当然その逆も言える。

全てはコインの表と裏。表裏一体なのだ。リュウガの味方をしていたフールは終わった。だから次は、龍騎の味方のフールが現れた。

そういうものだ、世界のシステムなど。

 

 

「クッ! 面倒な!」

 

 

リュウガは次々に降り注ぐ矢を回避していくが、一本、避けきれぬものがあったため、胴体で思い切り攻撃を受ける。

一方でリュウガが怯んでいる間に、真司は立ち上がった。

美穂は震える手で娘を抱いている。そこへ真司はフラフラと足を進め、なんとかたどり着き、一緒にへたり込む。

 

 

「―――」

 

 

一番初めに動いたのはツバサだった。

青ざめ、白くなった顔。その中でツバサは腕をあげ、美穂の頬を優しくなでる。

 

 

「ゴメンね……。ママ」

 

「―――」

 

 

美穂はそれで崩れた。

涙を流し、ただひたすらに手を握り締める。

 

 

「こんな――ッ!!」

 

 

愛する『母』を傷つけるのは辛かった。

だから泣いたのだし、攻撃を避けなかった。自分を貫いた相手に微笑みかけ、感謝を口にする。

それは殺戮モンスターであるフールの意思か? いや、そんな筈がない。

まあ尤も、どちらにせよ愚者にはかわりないのかもしれない……、が

 

 

「こんな想いをさせるために――ッ! あぁぁあぁあぁ!!」

 

 

美穂はただ声をあげて泣き、俯くだけ。

そしてツバサは真司を見て、同じ様に微笑む。

 

 

「―――」

 

 

気のせいだろうか。太鼓の音がした。

ドン、ドン、ドコドコ。和太鼓の音はひどく澄んでおり、心臓の鼓動とシンクロする。

 

懐かしいと思ったのは、記憶があったからだ。

皮肉にもそれはブックメイカーが与えた仮の記憶。

しかしそれでも、夏祭り、太鼓の音がする神社で、娘と息子と手を繋いで出店を回った記憶があったのだ。

 

真司は口を開いた。しかし何を言っていいか分からない。

ただ震える唇を開き、ツバサの頭をなでる。

 

 

「俺は……、俺は――ッ」

 

 

掠れる声。

同じ夢ばかり、見てた。

陽炎の向こうにいつも、いつも、いつも、願っていて、砕けて。

それでも――、まだ。

 

 

「俺は、良いパパだったか……?」

 

 

ツバサは確かに笑い、頷いた。

小さな手が、真司の指を掴む。

 

 

「パパ、負け――ッ、ないでね……!」

 

「―――」

 

「カッコいい、パパで、いてね。だって、そんな、パパを、おにいちゃんは――……」

 

 

その目から光が消えたのはその時だった。それは突然のようで当然だった。

ツバサは死体となった。もう何も喋らないし、ピクリとも動かない。美穂はただツバサを強く抱きしめて泣きじゃくり。真司は呆然としたように固まる。

 

 

「あ、あぁああぁ!」

 

 

美穂が震える声で叫ぶ。

ツバサの死体が粒子化をはじめたのだ。

 

 

「………」

 

 

負けないで。

 

ツバサはそう言った。

 

なにに? だれに?

 

ああ、分からない。

 

 

 

 

 

分からない? 本当に?

 

 

いや、分かっている。

分かっている筈だ。分からない事に、きっと分かってる。

 

 

「………」

 

 

真司の目から涙が零れた。

美穂ほどは激しくないが、真司は天を仰ぎ、呻く。

 

 

「なん――ッ! で!?」

 

 

なんで。

 

 

「なんでだよッッ!!」

 

 

なんで。なんで。

 

 

「本当だったんだよ……、ツバサにとっては――、本当だったんだよ!」

 

 

誰に言うでもなく、ただ自分に言い聞かせる。

何が欲しいのか。何を求めているのか。神に赦してほしいのか。

ツバサに赦してほしいのか。それとも自分に赦して欲しいのか。真司はまだ、分からない。分かれない。

 

 

『そうだ。本当だ。だからこそ選べ』

 

 

そしてブックメイカーは叫ぶ。

 

 

『龍騎を捨てれば! またツバサに会えるぞ!!』

 

「………」

 

 

沈黙の真司。

そこでリュウガは桃色の光をかき消した。まだ、この期に及んで真司は悩んでいるのか。

それが堪らなく腹立たしく。リュウガは拳を構えて走り出す。

 

 

「決断をしろ! お前の答えを出すんだ!」

 

 

拳を振り上げ、へたり込む真司を狙う。

頭を砕けば死ぬ。それが"理由"になればいい。

 

 

「いつまでも迷い続ける! この馬鹿がァッ!!」

 

「―――」

 

 

真司は、その拳を――

 

 

「!?」

 

 

確かに、受け止めた!

 

 

「なにッ!?」

 

 

左手でしっかりと、リュウガの拳を受け止めたのだ。

思わず、叫び、うろたえるリュウガ。ありえない、普通は。

なぜならばリュウガは決して手加減などしていない。

 

仮面ライダーの力は人間を超えている。

その全力の拳は、たとえ受け止めようが骨を破壊し、腕を破壊し突き進む筈だ。

 

にも関わらず、しっかりと止められた。真司に。ただの人間に。

 

いや。いや、いや!

それだけじゃない。リュウガは右手に激しい『熱』を感じて思わず真司から離れた。

熱だ。熱い。真司の掌から激しい熱を感じた。

これは一体――?

 

 

「確かに……!」

 

「ッ?」

 

「たしかに俺は馬鹿だ。大バカ野郎だ……!」

 

「お前――ッ!」

 

 

気づく。

真司は掌でリュウガの拳を受け止めた訳じゃない。

 

 

「馬鹿で、愚かで、本当にどうしようもないヤツだよ!」

 

 

掌に置いていたカードでリュウガの拳を受け止めたのだ。

 

 

「でも、ツバサは――」

 

 

立ち上がる真司。

その掌にあったカードは。リュウガの拳を受け止めたカードは――!

 

 

「そんな俺を! 愛してくれたんだ!!」

 

「それは、烈火――ッ!」

 

 

サバイブ・烈火。

一瞬だった。周囲の景色に亀裂が走り、直後弾け跳ぶ。

 

世界には真司とリュウガだけが立っていた。後は、炎。

周りが炎に包まれた空間で、真司とリュウガは対峙する。熱が発生させる陽炎の向こうに真司は立っていた。

この炎はただの炎じゃない、そんな事くらいはすぐに分かる。

 

これは、そう、魂の業火。

あの時、ツバサの笑顔を見た時、家族と過ごした記憶が過ぎったとき、真司は少しだけ答えに近づいた気がした。

もちろん答えが視えた訳じゃない。だがそれでも、欠片は掴んだ気がした。

そうだ、お前の信じるものだ。

信じるモノ、理由。それがあったんだ。

 

 

「どうして――、俺の世界は『龍騎』の世界なんだ?」

 

「なに……?」

 

 

それは、龍騎が主役だったから。

だったら――、なぜ? なぜ龍騎だ?

ナイトじゃダメだったのか? ゾルダじゃダメだったのか? ましてや仮面ライダーシザース?

ううん、分からない。そして龍騎は――、もちろん蓮が変身した時もあるが、ほとんどが真司だったはず。

 

 

「俺が創作物なら、俺を創った人間がいるはずだ。その人は、どうして俺を主役にしたんだ? どうして俺が戦いを否定するように書いたんだ?」

 

 

なぜ世界は城戸真司を主人公に選んだのか――?

サバイブのカードが激しい光を放つ。するとカードは姿を変え、真っ赤なデッキに変化する。

赤く燃えるように煌くデッキ。中央に刻まれている龍のエンブレムは、涙を流しているようにも見える。

魂の炎が、宿命の理由(デッキ)を生み出した。

 

 

「ッ、お前、まさか!」

 

 

リュウガから焦りの声が漏れた。

そして同じく、ブックメイカーも声を荒げる。

 

 

『何を考えている城戸真司!』

 

 

迷い、それでもバカみたいな選択を取る。

そういう所を、ツバサはカッコいいと言ってくれたんじゃないのか?

それはきっと、竜斗だって――

 

 

「思い出した。俺は龍騎。俺が龍騎」

 

 

ましてや、神もまた。

 

 

「俺が主役(コア)に選ばれたのは、俺の意見が一番大事だって、思ってくれたからじゃないのか……!」

 

『違う! そんなもの、規制があったからさ!』

 

「じゃあなんで規制なんてものがあるんだよ!!」

 

『……ッ!?』

 

 

仮にも報道に携わる職種なのだから、真司だって『規制』には無知ではない。

自分が書いた記事も推敲し、言葉を選んだこともある。

例えば子供向けの記事ならば普段ついつい使ってしまう乱暴な言葉遣いをなるべく抑え、言葉を選出する。

殺すとか、馬鹿野郎とか、そんな事はもってのほかだ。

 

 

なぜ?

 

 

つまり、それは、子供達が見るためのモノだから。例えば浅倉が主役では、流石に。

だから真司こそが主役として相応しい。つまりそれが正しい意見だと思われた。

理不尽なデスゲームに巻き込まれたとしても、怒ったとしても殺さない、戦いを止めようと奮起する姿こそ、子に見せたい姿であると思われたから――……。

 

 

「それがどうした? それが何になる!」

 

 

リュウガは吼えた。

真司はデッキを握り締め、目を閉じる。

見えたのは参加者の最期と、ツバサの最期。

 

 

「違うんだよ……!」

 

 

分かった。分からないことが分かった。

危ない危ない。欲望を刺激してくるものだから、つい思考が止まってしまっていた。

 

革命だ。革命の時間だ。

だから、抱いた。叶えたい願い。求めたい世界。

答えを見つけたいが、今の真司の答えだ。

 

 

「たった一人……、守れないで――ッッ!!」

 

 

真司はデッキを突き出す。

すると出現するVバックル。分かっている筈だ。周りで燃える炎の正体。

それこそまさに、魂の炎。燃え上がるクロスオブファイア。何度砕かれようが魂の炎が欠片でも残っていれば、それが逆風に吹かれて激しく燃え上がるときもある。

 

 

「生きてる甲斐が、無いんだよ!!」

 

 

そうだ。やっと分かった。ブックメイカーの救済を拒む理由。渋る理由。躊躇う理由が。

死ぬと思ったからだ。体が? 存在が?

 

違う。心が。

 

戦いを止めたいと言う意思は本当だ。

だからこそブックメイカーの齎す救済は欲しい。

だがそれは同時に新たな戦いを生み出す確信があるし、ブックメイカーもそう言っている。

 

だから、選べなかった。

自己犠牲? いや、そんな大層なものじゃない。あるのはただもっと深い、ドロドロに濁った願いだ。

戦いを止めるという事と、戦いを止めたいという事は大きく違う。だからこそ真司はこれからの戦いをイエスとした。

関係ない人間が巻き込まれる地獄を認めたのだし、それを形にする意思も固めてしまった。

そうだ、関係のない人間を巻き込むという罪の沼に足を踏み入れた。

 

だが、だが――、それでも……!

 

 

「俺は、止めたいんだよ! じゃないと俺は何もしてない! 悔しくて悔しくて死にそうだ!!」

 

 

要するに、妥協したくない。ただそれだけだ。

龍騎の世界に帰ればまた新しい戦いが起こる? それは無限に続く象徴? 一生戦い続けるピエロになれ?

おい、おい! ふざけんな。ふざけんなよ。

 

 

「ふッッざけんなよォオ!!」

 

 

真司はデッキを持った左手を右斜め上に突き上げる。

 

 

「なんで他のヤツ等が、俺の限界を決めてるんだよッ!」

 

 

突き上げた左手を大きく旋回させ、右下へ持っていく。

 

 

「俺だって、人間だ! 欲望も願いもある!」

 

 

だから、寄越せ。

そう思った。ブックメイカーの齎す救済は素晴らしい。それを否定するつもりはない。

だが、足りない。それだけの救済じゃ満足できないんだよ。

真司は右手を斜め左へ突き出し、強く叫ぶ。

 

 

「変身ッッ!!」

 

 

デッキをセットした瞬間。空間がはじけた。

元の世界への帰還。真司がいた場所も砕けており、破片の向こうにいたのは、龍騎サバイブ。

まだ炎は消えていない。燃え盛るクロスオブファイアの中、龍騎サバイブはリュウガを睨みつける。

 

 

「ライダー同士の戦いを止めたうえで、ショッカーみたいなヤツらをブッ飛ばす!」

 

「その行為そのものが争いを生むぞ!」

 

「だったら、終わらせる方法を探す! 全ての人間が戦わなくて済むように!」

 

 

それは、ブックメイカーが教えてくれたじゃないか。

 

 

「世界の可能性は、無限だろ!!」

 

『!』

 

 

汗が一筋、ブックメイカーの額に。

そう、そうだ。可能性は無限。ましてやリュウガの言う事が本当ならば、この先に戦いが強要される未来がある。

 

それを、ぶっ壊さない限りは納得がいかない。

だからその為に、まだ力を捨てるわけにはいかない。

永遠に続くとか、終わらないとか、犠牲とか、可能性の無限を口にするものが、常識を振りかざそうとしているのがなんだか真司にはたまらなく腹の立つ話しだった。

 

 

「コイン? 表裏一体? お前らこそ馬鹿なんじゃないのか!? 戦いは、殺し合いはコインなんかじゃないんだよ!」

 

 

いけないいけない。つい忘れるところだった。

 

 

「俺は、人を守るためにライダーになったんだぞ!!」

 

「城戸真司! お前は――ッ! お前は!!」

 

「死ぬんだよ」

 

「!?」

 

 

死ぬ。つくづくそう思った。

どれだけアホだのバカだの言われる道に向いてしまっても、苦しむと分かっているのに進みたくなる。

自分でも泣けてくるくらいバカだ。でも、それでも、それが自分なのだ。

 

 

「死にたくないんだよ!!」

 

 

誰もがそうだった筈だ。

 

 

「死にたくないんだよ! 諦めたら、城戸真司が死ぬんだよ!!」

 

「エゴのせいで他人が死ぬぞ!」

 

「救いを求めても死ぬんだろうが!」

 

 

誰も死なせない選択なんてないんだよ。今もこうしている間に誰かが犠牲になっている

でも求めることはできる。そしていつか、あるかもしれない。全てを救う道も。

目を閉じれば、それは見えなくなる。

 

 

「俺は戦いを止める! それが、仮面ライダー龍騎だ!!」

 

 

滑稽に踊るピエロではない。龍騎は拳を握り締め、口に持っていく。

 

 

「ッシャア!!」

 

 

生きて、激しく踊り続けるのだ。

それを選ぶことが罪なら、せめてその十字架は燃やし続けよう。それこそが、城戸真司の選択だった。

 

 

「―――」

 

 

美穂は泣き、強く、強くツバサの亡骸を抱きしめる。

 

 

(そうか、そうだね、分かってたよ真司)

 

 

だからこそ夢だった。きっと分かっていた。こうなる事を。

そしてそれを望んでいた自分もいる。だからこそ、ただただツバサに申し訳なかった。

愛する娘を捨てる選択を、ずっと視ていたのだから。

 

 

「それがお前の答え! 罪を歩む道か!」『サバイブ』

 

 

黒い炎が溢れた。またも空間がガラスのように砕け散る。

中から姿を見せたのはリュウガサバイブ。龍騎サバイブとは頭部と胸部アーマーの形が違っている。

頭部の触角が龍騎のものよりも太く、角のようになっている。

さらに胸部アーマーの肩上部にある角のような装甲は龍騎は一本だが、リュウガは四本であった。

 

 

「結局! お前もまた所詮は醜き参加者だな!!」

 

「やっと気づいたのか! 俺達の戦いに正義はない! あるのはただ、純粋な願いだけだ!」

 

 

それは同時だった。

 

 

「龍騎ィイイイイイイ!!」

 

「リュウガァアアアア!!」

 

 

双方、叫び、走り出す。

ドラグバイザーツバイを前に突き出し、炎弾を連射。お互いの弾丸を相殺しながら距離を詰める。

赤と黒の拳が交差した。

 

結局、こうなる。

だが、その裏は大きく変わっていた。

 

 

「俺は、戦う! 俺の願いを叶えるために! 俺の心を死なせない為に!!」

 

「救いようの無いバカだな。もういい! お前は不要だ! 俺が今ココで処分してやる!」

 

 

並行して走りだす二人。

シュートベントを使用する事で、光線を発射しながら失踪する。

 

 

「迷っているくせに!」

 

「ああ、迷ってるさ! まだな! この期におよんでも!」

 

 

光線を撃ち合う中で飛来してくるのはドラグランザー。そしてブラックランザー。

互いの光線に合わせる様にして火炎弾を発射し、次々に相殺していく。

 

 

「迷ってるからこそ、答えを出したい! 答えを出すには、俺が龍騎でなくちゃいけないんだ!」

 

「そうやって! また犠牲を連鎖させるつもりか!」

 

「その果てに、俺は救いを勝ち取る! 俺もまたッ、ゲームの参加者だ! 勝つ資格を持つライダー!」

 

 

爆炎が、爆風が、二人を包む。

それを切裂くソードベント。ドラグブレードがぶつかり合い、二人はメチャクチャに斬りつけ合う。

 

 

「無駄だ! 永遠に続く!」

 

「誰が決めたんだよ!」

 

「神だ!」

 

「神様も死ぬ! 神様だって完璧じゃない! そもそも俺は神話なんてこれっぽっちも知らない! あんな難しい話しより、マンガの方が面白い!」

 

「屁理屈を!」

 

「馬鹿なだけだ!」

 

 

ただ相手の刃に自分の刃を当てればいい。

それだけの意思が交差しあうように、次々と刃物がぶつかり合う音が聞こえた。

舞い散る火花の中で、意思と意思が、心と心がぶつかり、軋み合う。

 

 

「違う!」

 

「ッ!?」

 

 

なにが? 全てだ。

犠牲の連鎖。絶望の増産。違うと吼えなければならなかった。

なぜか? なぜならば。

 

 

「俺は、俺はッ! 仮面ライダーだ!!」

 

 

吼える。そしてドラグブレードに纏わりつく烈火。

龍騎はそのままクロス状に剣を振るい、リュウガを押し出した。さらに炎の残痕が空中に留まり、そのまま発射される。必殺技、バーニングセイバー。

 

だがリュウガは大きく踏み込むと、ドラグブレードを思い切り振るう。

すると黒い斬撃が発射され、クロスの炎をかき消した。

赤と黒の火の粉が散る中で、リュウガは上ずった叫び声をあげる。

 

 

「なんて哀れなんだ、お前達は!」

 

 

分かっている。

分かっているともリュウガとて。自分が納得できるかできないか、それは人間のエゴだ。しかして、ライダーとは人間なのだ。

分かっているとも。この理由無き戦いを続けるためには、何が必要か?

 

決まっている。戦う理由(ワケ)だ。

リュウガにも聞こえていたさ。あの太鼓の音。清めの音。

 

 

「ある者はプライドか」

 

 

リュウガの眼が光る。

ココから少し離れた場所。竜斗が通う学校。

 

 

「ようし、お前ら、大丈夫かぁー?」

 

「先生!!」

 

 

涙目で笑う生徒達。

その前には多くの怪人の破片が転がっている。

さらにまた一体、太鼓の紋章が収束して怪人が爆発した。

生徒達が見るのは、音撃棒をまわす仮面ライダー響鬼。

 

 

「ある者は十字架か」

 

 

泣き叫ぶ小さな子供達。

そこへ迫るショッカー戦闘員や怪人の群れ。

そこへ突っ込んでいくのはプラットフォーム。しかしすぐになぎ倒され、吹き飛ばされる。

 

だが今度は怪人達が吹き飛んでいった。

鬼のような形相でハナが拳を振り回しているのだ。鉄拳は怪人の頬に抉りこむと、そのまま後方へ吹き飛ばしていく。

 

 

「ある者は妥協か」

 

 

リュウガの眼が燃えるように光る。

喫茶店、カランカランと音が鳴る。スーパーの袋を抱えた翔一が入ってきた。

 

 

「お客さん来てたんですか?」

 

「うん。もう帰ったけど」

 

「へえ。あ、そうだ。スパイス、買ってきましたよ」

 

「ありがとう。ごめんね、おつかいさせちゃって」

 

「なんのなんの。これくらい」

 

 

翔一はカウンターに入るとスパイスを取り出して並べていく。

 

 

「そうだ、外、凄いことになってましたよ」

 

「そうなんだ……」

 

「お子さんとかも死んでて。バラバラだったな。酷いですよね、ショッカーって」

 

「………」

 

「あ、疑ってます。本当なんですよ。ほら、これ、指」

 

 

翔一はカウンターに血まみれの指を置く。子供の指だろうか?

 

 

「怖いですよね。ああ、怖い怖い。捨てちゃいましょう」

 

「……驚かないんだね」

 

「知ってましたからね。おれ」

 

 

翔一は腹を軽く叩く。

 

 

(アギト)ですから」

 

 

翔一もまた、鳴滝の眼。

渡。剣崎。キバーラ。そして翔一。ただ翔一はどうにも眼の雰囲気に慣れなかったため、基本的には好きに行動していた。

 

だからこそ、あえてブックメイカーの誘いに乗ってみた。

洗脳は鳴滝が解除してくれた。もともと眼の立場にある翔一、そして今のアギトならばブックメイカーの役割を与える力に対抗できる。

それもあってか、翔一が自分を取り戻すのに時間は掛からなかった。

 

 

「この世界に生きる人たちは、みんなブックメイカーが作った虚像です。偽りの心を、偽りの役割を与えられるだけ。アマダムが魔法石の力で人々に与えたクロスオブファイアを活性化させれば、すぐに怪人になります」

 

「……そう」

 

「あ。これなんですか?」

 

「あぁ、翔太郎くんが置いてったんだ。士くんから貰ったって」

 

「へえ」

 

 

翔一はピンときたようだ。

オールライダーの戦い。あそこで見かけた。

 

 

「ははあ。なるほど」

 

「………」

 

 

翔一とは違って五代はうな垂れるだけで、何も喋らない。

ただ割れたカップを見つめ、小さく唇を吊り上げていた。

 

 

「やだなぁマスター、どうしたんです? そんな顔して」

 

「分からないんだよ。何も」

 

「じゃあ、カレーでも食べましょうか」

 

「えぇ? どうしてそうなるの?」

 

「人間食べなきゃ、生きられないでしょ?」

 

 

翔一は鍋の蓋を開ける。

先程までカラッポだった筈の鍋の中には、今やじっくり煮込まれたカレーがあった。

驚く雄介だが、そういう世界だ。そういう世界にいるのだ。まずはそれを理解しなければならない。

そして、どうするか、知ってこそ選べるものもある。

 

 

「―――」

 

 

それは一瞬で、何が起こったのか考える間も無かった。

雄介と翔一は並んでカウンターに座っており、目の前には既にさらにご飯、そしてカレーがかかっている。

 

 

「うん、おいしいね」

 

「でしょう? おれの野菜、気合入れて育ててますから」

 

 

これがウソだと思うだろうか。

野菜も言ってしまえば幻影だ。しかし考えてみれば、それは翔一の世界の野菜もウソと言うことになる。

なぜならば全ては創作物。今まで食べてきたものは、育ててきたものは、熱心にやって来たものは全て幻想だった。

 

なんてことを言えば『そうだったのか!』となり、納得するのだろうか。

はて? 翔一はよく分からない。眼としては不真面目だが、それなりに世界の事は学んだつもりだ。

 

しかしすぐにペンを投げた。資料を捨てた。

それを知って、その概念に触れたからと言って、今までのことが変わるワケじゃない。

確かに『これから』は変わるかもしれないが、過去そのものが変わるワケじゃない。

 

 

「これから先触れるものが創作物だと知って、全てが偽物だと分かっても、それでも何も知らなかった時は本物だった」

 

 

今だって、この美味しい美味しいカレーがウソだなんて。

あ。どんな味なのか、どれくらい辛いのかはあえて言わない。そうすれば神は分からないはずだ。

そもそもこのカレーがチキンなのか、ビーフなのか、キーマカレーなのか、はたまたカツカレーなのか、神々はきっと分からない。

しかし翔一と五代は分かってる。目の前にあるんだから。

 

 

「………」

 

 

五代はカレーを食べる。食べる。食べる。

口が膨れてきた。

 

 

「痛かっただろうなぁ」

 

「………」

 

 

翔一は何も答えない。持ってきた血まみれの指はいつのまにか消えていた。偽者? いや、いや、それは――。

五代はご飯を思い切りほお張り、虚空を見つめている。思考を止めようとしても、頭にはずっと浮かんでくるものがある。

それが苦しくて、痛くて、五代は誤魔化すようにご飯を口に入れた。しかし入れれども入れれども、やはりこみ上げてくるものはあるようで。

 

 

「怖かっただろうなぁ」

 

 

入り口の扉、ガラスには血で作った手形がある。

小さな手だ。子供のなのだろう。店内BGMもなく、翔一も何も喋らないために、外の声が聞こえてくる。

悲鳴だった。女も、子供も、男も、誰もが悲鳴を上げている。

 

 

「辛かったろうなぁ」

 

 

五代の瞳から涙が零れた。

声が震える。誤魔化すようにカレーを食べた。

 

 

「!」

 

 

太鼓の音が聞こえてきた。

翔一は目を閉じて笑う。呆れた様に。

 

 

「どうしたいんですか?」

 

 

響鬼は変身した。

理由は? 誰かが聞いた。ブックメイカーか、子供なのか、それはまあ分からないが響鬼は一言で返す。

 

 

「鍛えてますから」

 

 

響鬼は昔、いじめられていた友達を助けることができずに見捨てることになった。

それをずっと悔い、二度とそんな事が起こらぬように鍛えた。

そんな理由。それだけの理由。それはまあ、残念ながら呪いなのだろう。ブックメイカーはその呪いに理由と真実をぶつけてかき消そうとした。

 

しかし残念ながら響鬼の呪いはそれでは消えなかった。

あまりにもアッサリとした理由である。見捨ててはいけない、たとえ、虚像でも。

 

そもそも偽りと真実の差はどこに?

創られたものならば、きっと神々だって同じだ。操作される人生があるとすれば、それは神だって同じかもしれない。

そうだ、人は未知なる上位存在が自分の運命を決定付けるのだと妄想し、辛いことも嬉しいことも『ああ、きっとこれは神様が仕組んだに違いない』と思うところがある。

 

けれども、それを忘れることはある。

神頼みの後に良い事があったからと言って、それが自分の実力なのだと思うヤツなんざ山ほどといる。

そういう世界に生きてる。神も、五代も、なにも変わらない。

 

案外、いいかげんな生き物なのだ。

だからそう、罪悪感も、善意も、後悔も、今も心を取り巻くドロドロの思いもウソだし本当だ。

 

 

「そういう想いが、おれたちを縛り付ける」

 

 

そもそも、ブックメイカーの言葉は『大きい』故に心が持っていかれそうになるが、そもそもの話、ライダーであるからとか、ライダーだからだとか、そんな事は関係なく、純粋に自分達はライダーなのだ。現在進行形で。

観測者は観測者にしかあらず。干渉できるようになったとしても、観測者にはかわらず。

観測者は全てに勝ち、全てに負ける。なぜか?

 

それは観測者は直接の勝敗を左右させることはできない。

そういう概念の下でなければ戦うことはできないからだ。

 

観測者はその全てを文字を通して知る。理解する。そして投げかける。

自分が望む結果を齎すように野次を飛ばす。文字を飛ばす。その言葉が心に届くこともあろう。そうすれば心は形を変えるはずだ。

 

だが、以前にも言ったが、人間は『言葉にできない』ものを抱える生き物だ。

だから時に理屈じゃない物を抱えて戦うことがある。確実に負けると分かっている戦いにも、拳握り締めて前に行かなければならない時もある。

合理的に、理知主義に生きられたらそれはいい。

 

だが、人間は不器用だ。

しかれども、神は、人間をそう創った。

 

 

「辛かったでしょうね。痛かったと思います。殺されるって、そういう事でしょう?」

 

 

翔一はスプーンを置く。

 

 

五代は泣きながらカレーを食べていた。

 

 

「死ぬってことは、もう二度とこういう美味しいカレーを食べることはできなくなる」

 

「それは――、悲しいね」

 

「ええ、ええ、そうですね」

 

 

翔一は泣きながらカレーを食べる五代を見て、やっぱり呆れた様に笑った。

 

 

「バカだなぁ、おれ達」

 

「うん、うん……!」

 

 

被害者は偽物なのに。言ってしまえば怪人になるのに。

それでもまだ、『優しさ』なんて下らない感情に流されるのか。

自分の中にある良心には逆らえないのか。支配、命令、でも、それでも――

 

 

「楽になれなければ、救済じゃないんだよなぁ……」

 

 

つくづく呆れる。

まさか、救われない道が救いになるとは。

 

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

「うん、うん……!」

 

「あ、でもカレーは全部食べてくださいよ。おれがせっかく作ったんだから」

 

「じゃあ、急ごうか」

 

 

直後、二人はものすごい勢いでカレーを口へ放り込んでいく。

はい、はい、ここDEEP BREATHですよ。翔一は笑みを浮かべてスプーンを置いた。

二人は空になった皿を置いて立ち上がる。そして五代は、翔太郎が置いていった『道具』を掴んで喫茶店を飛び出した。

 

 

『「ファングストライザー!」』

 

「ギャアアアアアアアアアアア!!」

 

 

巨大な竜の顎が怪人を噛み砕く。

しかしそれは囮。狙ったはずの本命は既に後ろへ跳んでおり、大きく足を振り上げていた。

 

 

「必殺シュート!!」

 

「ぐうあぁあぁあッッ!!」

 

「う――ッ! グウッッ!!」

 

 

 

空中から蹴られたボールは隕石のように斜め下に落下。

ファングジョーカーの胴を激しく打つ。ダメージから変身が解除され、翔太郎とフィリップは地面を転がっていった。

揺れる脳。迫る恐怖。心を叱咤して目を見開く翔太郎。まだまだ余裕と言った様子のトカゲロンが歩いてくるのが見えた。

跳ねたボールが地面を転がり、再びトカゲロンの足元へ戻っていくのが絶望的だ。

 

 

「終わりだ。ライダー!」

 

 

足を振り上げ、ボールを蹴ろうとしたトカゲロン。

 

 

「!」

 

 

だが、足を止める。

なぜか? エンジン音だ。それが聞こえた。そして跳ねる二台のバイク。

 

 

「ムゥ!」

 

 

バイクは翔太郎とフィリップの前に着地すると、ブレーキ痕を残しながら停車する。

シートの上に乗っていた男達はヘルメットを投げ捨てると、肩を並べて立ち構えた。

 

 

「へッ! 遅かったじゃねぇか!」

 

 

血を吐きながらも翔太郎はニヤリと笑う。

 

 

「ツケをね、返してもらわないといけないからさ」

 

 

そう言って笑ったのは、五代雄介。

その隣では同じように津上翔一が笑みを浮かべている。

 

 

「五代……ッ!」

 

 

その様子をモニタで見ていたアマダムは、思わず肩を震わせた。

あれだ。あの笑顔が怖かった。苦痛を背負う事を知っているくせに笑えるなど、理解に苦しむ。

この恐怖を例えるならば、聖人サイコパスと言ったところか。

 

そしてアマダムの予想通り、五代と翔一は腰に手をかざす。

するとアークルとオルタリングがそれぞれの腰に出現した。

 

 

「な、なぜだ! 五代雄介のアークルはココに……!」

 

 

アマダムが、いやゴッドが腰を見る。

クウガの変身にはアマダムを、それを内蔵しているアークルを使う。

だからこそ五代がクウガになれるワケもない。なのに、なのに。

 

 

「あれは五代が使っていたものじゃない」

 

「え……?」

 

 

本条は小さくため息をつき、モニタから一瞬だけ目を逸らした。

 

 

「あれは、小野寺ユウスケが使っていたものだ」

 

「リイマジのクウガか――ッ!」

 

「ああ。それに――」

 

 

もはや、炎の十字架さえあれば、なれないことはない。

小野寺ユウスケのアークルはただの理由だ。逃げられないことを納得し、前に進むための。

 

五代は前から吹き付ける風を感じた。ああ心に宿りし『抵抗感』や。

風が髪を揺らし、それが額をくすぐって不快感を覚えた。だから思わず顔をしかめる。しかしどこか可笑しくて、吹き出してしまった。

だがそれは一瞬でしかない。五代と翔一は覚悟を決めたようにショッカー怪人達を睨みつけ、それぞれ構えを取った。

 

五代は左手を右腰につけ、右手の小指と薬指を折り、そのまま腕を勢いよく左斜め上に伸ばす。

そのまま右腕を左から右に平行移動。左手も同じくスライドさせて左腰へ。

 

 

「ァァ……!」

 

 

一方で翔一は、ゆっくりと息を吐きながら右手を前に伸ばしていく。

 

 

「変身ッ!」「変身!」

 

 

五代は右手を左手の上に置いて押し込む。するとベルトが回転を始め、五代の体が次々に装甲で覆われていく。

翔一は両手でベルト左右のスイッチを押した。すると光が迸り、一瞬でその姿が変わる。

 

並び立つダブルライダー。

仮面ライダークウガ、仮面ライダーアギトが怪人達の前に姿を現した。

 

 

「ライダー……!」

 

 

怪人が呟く。

そしてそれを感じ取ったのか、理解したのか、リュウガがポツリと呟いた。

 

 

「悲しい――」

 

 

お互いの刃が砕け散る音が聞こえた。龍騎とリュウガは距離を取り合う。

そして、カードを引き抜いた。一瞬、停止。お互いは立ち止まり、お互いを睨む。

 

 

「悲しいな」

 

 

もう一度リュウガは言った。

真司も、五代も、翔一も、ヒビキも、みんな。他のライダーも。悲しい生き物だ。

この終焉の星、救いの中でそれを否定するのはエゴ。だがそれは明確なスイッチがあればこそ。

そうだろう? 真司だって何もなければ何もなく、ただこの星の一員としての生を全うしていたにしか過ぎない。

けれども今こうして龍騎とリュウガは戦い、傷つけあい、そして勝利を目指そうとする。

 

あれだけブックメイカーがそんなものは無意味ですよと教えてくれたにも関わらず。

なぜか? なぜ。分かっているとも。ツバサだろう。龍騎の場合。ファムの場合。

娘が苦しみ、苦しんでくれと言った――。そう捉えたんだ。心が。

 

だから理由が生まれた。生まれてしまった。

それは昔もそうだ。そうして、そうやって戦ってきた。

理由を求めながら、理由を見つけながら。それはいつだって心を駆り立てる脅迫じみたものだ。

 

 

「お前達はいつもそうだ」

 

 

でもそれが彼らをライダーにしたのならば。やはり、悲しいな。

 

 

「――失う事でしか、前に進めない」

 

「ッ」

 

 

龍騎は今までの想いを視た。

目を逸らさず。失ってきたもの、守れなかったもの、取りこぼしてきたものを視た。だからこそ、今度こそはと願う。

だから、まだ、死ねない。今はただそれだけだった。

だが、"それだけ"が、全てだろう。

 

 

『ファイナルベント』『ファイナルベント』

 

 

戦いを止める。

そうだろう? 龍騎。それがツバサが望んだヒーローの姿だ。

竜斗が好きだった仮面ライダーの姿だったはずだ。

 

それはお前が『愛』したものの望みなのだ。

悲しいなぁ。残しては、死ねないんだ。求めてしまうから。未練が残ってしまうから。

あるんだ。あったんだ。あってしまったんだ。できてしまった、理由が。

救いを否定する理由が、生まれたんだ。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ドラグバイザーツバイを投げ捨て、龍騎は両手を前に突き出した。

空中から飛来してくるドラグランザー。吼え叫びながら龍騎の周りを飛びまわり、目を光らせてリュウガを睨みつける。

一方でリュウガもゆっくりと両手を広げながら空中へ上昇する。

その周り飛びまわるは、黒炎まき散らすブックランザー。

 

 

「ダァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ヅァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

両足を突き出した両者へ、ミラーモンスターが炎を追加する。

信念を乗せた両足蹴り、サバイブライダーキックがぶつかり合った。

分かっている筈だ。これは攻撃と攻撃のぶつかり合いではない。概念と概念のぶつかり合いだ。

戦いを続けるという意思、戦いを終わらせると言う意思。同一の存在がもがき苦しむ果てが、足裏同士のぶつかり合いなのだ。

 

赤と黒。その狭間に光が生まれた。戦いを止めると言う意思の光。

戦いのアーチの果て、龍騎はそこに愛した娘の幻影を見る。

かつて、いつか、そんな陽炎に、龍騎は()を伸ばした。

 

 

あれは、俺のものだ。

 

 

「リュウガアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「グッ! グゥウゥウウウゥウゥゥゥ!!」

 

 

赤が! 紅が! ああ、激しく燃える炎よ。

黒が染まっていく。黒が徐々にオレンジへ。

リュウガの脚に亀裂が入り、そこから炎があふれ出ていく。赤い、赤い、赤い炎が。

 

 

「恐れているのにぃィいッ! 苦しむことが怖いのにお前は――ッッ!!」

 

「――ッ! ダァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

いい、いい。それは、仮面で隠した。

 

だから視えなくていい。

 

消えてくれ。

 

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

爆発が起きた。

リュウガが砕け散り、龍騎は地面に降り立った。

 

 

 




龍騎の未使用曲は最後の願いと、Firebirdがすこすこのすこ。
今週、エグゼイドの映画行けたら行って来ます。
ネタバレはしないでね(´・ω・)

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