カメンライダー   作:ホシボシ

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一部のテキストは、レンスト(カードゲーム)のフレーバーテキストを引用というか、参考にさせてもらっています。


第16話 Out of Eden

 

 

「ウガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

爆発が起きた。

リュウガが砕け散り、龍騎は地面に着地する。

 

「!?」

 

 

また終わったのか。ならば、また始まるだけなのか。

 

龍騎の体が震えた。

散らばったリュウガの破片が収束していき、一つの塊に変わる。するとどうだ、それが大きなシルエットを構成して弾けた。

 

そうか、まだ、終わってくれないのか。

息を呑む。そこから姿を現したのは歪なモンスターであった。

まず現れたのは巨大な心臓。ドクンドクンと鼓動打つそれは、トランプのスートであるハートと同じ形だった。

心臓に毛が生えていると言わんばかりに、ハートの周りには鋼の棘の生えた触手が張り巡らされている。さらにハートの下部からは長い龍の体が伸びていた。

 

これはブラックランザーのものだ。

そしてハートの上部から生え出るのはリュウガサバイブの上半身。

 

 

「光が強くなるほどに――」

 

 

全身がボコボコと沸騰するように盛り上がっていく。

そしてドクンドクンと波打つ鼓動。巨大なハートから伸びる龍の体と、埋め込まれたリュウガの上半身。

鎧の一部は損壊し、そこから歪に膨れ上がった肉塊がはみ出ている。

 

 

「影は色を濃くしていく」

 

 

希望が勝ったので、腐敗していく絶望。だがそれは終わり無き輪廻の象徴。

名づけるのなら、まさに、ドラゴンゾンビ。朽ちれども朽ちれどもまだ足を掴む絶望。

 

 

「そして影は、光を覆い隠す闇となった……!」

 

「リュウガ――ッ!」

 

「終わらないぞ龍騎。お前が龍騎である限り、闇は晴れない。俺は死なない!」

 

 

概念と概念のぶつかり合いは終わった。

真司はライダーであることを望んだからだ。

だから次は、龍騎たる宿命、歪に続くライダーとライダーの戦いだ。死ねど消えれど終わらない、まさにゾンビのように戦い続ける。

 

 

「苦痛に塗れた死の果てに」

 

 

リュウガの左手にあったブラックドラグバイザーツバイが掌に埋め込まれていく。

すると銃口から炎ではなく、針が発射された。

龍騎は相殺するために炎弾を発射していくが、針はそれを上回る数で飛来していく。

いくつかは相殺することに成功したが、残りは回避するしかない。地面を走る龍騎、針は次々に走った軌跡をなぞるように地面へ突き刺さっていく。

 

 

「!」

 

 

地面に刺さった針が、五秒ほど経った後に巨大化した。

15センチばかりの針が倍以上に伸びたあと、砕け散って消滅した。

 

 

「………」

 

 

美穂は、自分の腕をぼんやりと見ていた。

愛した娘はもう消えた。頭の中にある思い出も少しずつ消えていくのがイヤでも分かった。

出産のときに味わった筈の痛みや、生んだときの喜びなど、もう欠片も思い出せない。

 

けれどもそれをウソだとは思いたくはなかった。

あの時、あの時間、それはウソだったとしても、美穂にとっては本当だったと信じたい。

そしてなによりも、ツバサと言う存在は真司に決断を与えた。

ではツバサは一体、美穂に何を与えたのだろうか?

 

 

「―――」

 

 

龍騎の悲鳴が聞こえて、美穂はなんとなく後ろを見る。

すると龍騎の全身から針が突き出ているのが確認できた。血がとめどなく流れ出て、龍騎は膝をつく。そこへ降り注ぐ黒炎。

まだ戦っているのか。美穂は――、呆れた様に笑った。

 

 

(ああ、そうか。そうだよ。ツバサは愛をくれたんだ)

 

 

娘を愛していたのはただの母親。どこにでもいるような女。そんなモブキャラ。

真司と、竜斗と、ツバサだけに真の意味で愛される。総数3。

 

いや、いや、そうじゃなんだ。

もっと愛されている筈だ。それは神様に。

龍騎を愛せばファムを愛する人もいるだろうから。

 

 

「どうして?」

 

 

どうして好きになってくれた?

ああ、ああ、そうか。そういうことか。

 

 

「結局――、アタシらは……!」

 

 

美穂は虚空を抱きしめる。先程までツバサがいた場所を抱きしめる。

 

 

「戦いの中でしか――!」

 

 

だが、だからこそ巡り逢えた。

美穂は輝きを見た。ツバサがいた地面に、一枚のカードが突き刺さっていた。

美穂は目を光らせると、そのカードを拾い上げて立ち上がった。ツバサが最後の最期に残したのは、戦いのカードだった。

その意味を理解した。翼は、新しい風を生み出したのだ。

 

 

「!?」

 

 

疾風が巻き起こる。

風は、龍騎に刺さろうと飛来していく針をせき止め、逆に吹き飛ばす。

まさに反射だ。針は次々と放ったはずのドラゴンゾンビに戻り、突き刺さっていく。

 

 

「ガァアアア!」

 

 

そして針が巨大化。

上部のリュウガが悲鳴を上げ、動きを止めた。

 

 

「――ッ?」

 

 

足音と風を感じ、龍騎は振り返る。

するとそこにはマントを翻し歩いてくるファムの姿が。

 

 

「美穂……」

 

「ウソと知りながらウソに身を浸しても、全てはウソのまま……」

 

 

復讐の炎に焼かれ、戦いの泥に塗れた。

 

 

「でも、ウソと知って、ウソを否定して、それでも本当だったって叫べば、本当になるかもしれない」

 

 

だがそれでも、翼の白さだけは失わない。

羽が舞う。白い光が迸り、ファムの手にあったブランバイザーが砕け散る。消滅ではない、それは進化だ。

レイピアが西洋剣に変わった。剣幅は広く、鍔の部分が白鳥の装飾になっている両刃剣。

 

 

「娘のために、私はアンタを否定する。ブックメイカー」【サバイブ】

 

 

ファムは疾風のカードをブランバイザーツバイに装填した。

すると突風が巻き起こり、ファムの姿がサバイブに変わる。

頭部にある金色の装飾はより派手に大きくなり、王冠のように見える。

腕にはガントレットが装備され、腰マントやブーツ、まるでそれはジャンヌダルクのように。

 

 

「私は、戦いの中で生きる」

 

「霧島美穂。お前もバカな選択を――ッ!」

 

 

リュウガから淀んだ声が。

ファムは自嘲気味に笑い、頷いた。

 

 

「バカを愛したからな」

 

 

ファムは龍騎の腕を持つと立ち上がらせる。

 

 

「住めば都」

 

「ッ?」

 

「私は豪邸じゃないと満足できないのよ。ね? 真司」

 

「ハハ……、そうだな、お前はそういうヤツなんだよ」

 

 

リュウガは吼えた。

 

 

「結局ッ、こうなるか!」

 

「繰り返しじゃない。お前はそれが分からなかったから負けたんだ」

 

「なに……!?」

 

「変わっていくのよ。たとえ同じに見えても。そこに心がある限り」

 

 

前に出るファム。

すると背中に光の翼が生まれ、大量の羽が巻き上がった。

 

 

【トリックベント】

 

 

龍騎の隣にいたはずのファムが消え、羽の一つがファムになった。

白い一閃がドラゴンゾンビの体を切る。黒い血が飛び散ったが、ファムの体の前につくまえにファムが消えた。

そしてまた羽の一つがファムになる。

 

ワープ、そして攻撃。

ドラゴンゾンビは尾を振るうが、無数の羽を全て散らすことはできない。

 

 

【ブラストベント】

 

 

王冠を被った白鳥、セイクリッドウイングが空間を切裂いて出現する。

クリアハリケーン。翼を大きく羽ばたかせると竜巻が発生してドラゴンゾンビの体を浮かび上がらせた。

 

 

「グゥウウウウゥウ!!」

 

 

敵が風の牢獄に動きを止めている間に、ファムは龍騎の肩を叩く。

 

 

「真司」

 

「?」

 

「死ぬなよ」

 

「……珍しいな。お前からそんな」

 

「いいじゃん、たまには。あと、そのまんまの意味じゃないから」

 

「は? あ、あー……」

 

 

分かった。

そうだな。龍騎はつくづくそう思う。

バカでも、バカで生きたままの方が自分らしいならバカのままがいい。

その方が楽だ。きっと先の未来は辛いだろうけど、苦しみながら生きるのは、なんだか生きてる気分がしない。

忘れてしまうならば、本当に自分じゃなくなってしまう。

それに、どんな道でも、悪い事ばかりじゃない。

 

 

「アンタがアンタのまんまなら、少なくとも私はアンタを愛してやるよ」

 

「なんだよ、その上からの発言は」

 

「ハァ。やっぱりバカは本当バカだね。この究極的美少女の美穂様が愛してやるって言ってんだから、土下座モンでしょ?」

 

「……分かってるって」

 

 

龍騎はファムの肩を叩くと、前に出てデッキに手をかける。

 

 

「守ってやるさ。どこにいっても、どんな時も、俺が龍騎である限り、俺は人間を守るために戦う」『ストレンジベント』

 

 

ストレンジベント。

使ってみるまで何が起こるか分からないカード。

しかしその実、使った時点で最も効果があるカードに変わるカードだった。故に、ストレンジベントはその姿を変え、再び発動される。

 

 

【ユナイトベント】

 

 

ドラグランザーとセイクリッドウイングが砕け、混じり、解き放たれる。

白炎輝龍・グレイセスライザー。黄金の鎧を纏った白龍は巨大な翼を広げて飛翔する。

 

 

【ソードベント】【ソードベント】

 

 

龍騎の右肩から紅い炎の翼が生える。そして炎の剣がツバイから伸びた。

ファムの左肩から白い光の翼が生える。そして光の剣がツバイから伸びた。

二人は肩を並べ、地面を蹴った。そして剣を突き出し、二つのエネルギーを交わらせる。

 

 

「!!」

 

 

体勢を立て直したドラゴンゾンビ。

前方から迫るエネルギーを感じ、全身からどす黒い炎を吹き出した。

 

 

「――ォ!?」

 

 

しかし白と赤の光は黒を突き進んでいく。

 

 

「私の白は、黒を塗りつぶすぞ」

 

「お前――」

 

 

リュウガは理解した。

ファムだ。龍騎が折れなかったのは、他者がいたからだ。

 

考えても見ればそうか。

他者のために命を散らした男だ。そんなバカが一度のミスで学習するわけがない。

なんどでも繰り返すぞ。守るべき命がある限り。

それが――、∞。

 

 

「リュウガ。これが、俺の願いだ」

 

「―――」

 

 

交じり合う刃がゾンビを貫いた。"輝焔双舞斬"。オレンジ掛かった白い羽が舞い落ちる中、真司と美穂はそれをジッと見つめていた。

ふと舞い落ちる羽の一つをつかみ取る。

とても、温かかった。

 

 

「綺麗だな」

 

 

なんだかおかしくなって、二人は笑みを浮かべた。

なぜだろうか。悲しいけれど、酷く清清しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クウガ」

 

 

激しいエネルギーが解き放たれ、クウガの周囲にいた怪人が一瞬で消し飛んだ。

黒のエネルギーから姿を現したのはアルティメットフォーム。刺々しい装甲と、赤い複眼。

クウガは虫を払うように手を振ると、その軌跡をなぞるように炎が出現。周囲の怪人を一瞬で焼き尽くす。

 

 

「アギト」

 

 

一方で白のエネルギーが巻き起こる。

太陽光に包まれたアギトはシャイニングフォームとなり、光の残像を纏いながら迫る怪人を切り伏せていく。

 

 

「ダブル」

 

『エクストリーム!』

 

 

光が迸り、クウガとアギトに挟まれたダブルもまた強化フォームへ。

視界を埋め尽くすほどの異形も、今はトカゲロンを残して消え去っていた。

 

 

「おのれライダー!」

 

 

足を振り上げるトカゲロン。必殺シュートが放たれた。

 

 

「無駄だ、キミの検索は終了している」

 

 

ビッカーファイナリュージョン・メタル。

ダブルは盾でボールを受け止めると、競り合いを開始。

しかしすぐにボールの勢いが死んでいき、直後虚しく地に落ちた。

 

 

「ムゥ!」

 

 

なぜ、理解できない。トカゲロンは拳を握り締めて唸りを上げる。

先程までは、つい先程までは有利だった怪人軍団が、今はもう。

そして業火。トカゲロンをパイロキネシスが襲う。激しく燃える炎に包まれ、トカゲロンはふいに理解する。

なるほど。熱い。熱すぎる。これが魂の炎なのか。

 

 

「概念の中で戦うのであれば、なるほど、今のオレには勝てんか――ッ!」

 

 

飛び上がるクウガ、アギト、ダブル。

突き出された足を見て、トカゲロンはニヤリと笑った。

 

 

「戦う意思が――ッ! まだ、コチラでは足りぬのか!」

 

 

地獄に属していているせいで鈍っていたようだ。

地獄を切り開くものには、まだ、届かない。

トカゲロンは自分の体が吹き飛び、引きちぎれていくなかでそれを理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――この三人だけじゃないさ。今もまだ続々と戦う意思を固めてるヤツがいる」

 

「随分と嬉しそうだな。アンタ」

 

「ハハッ、そう見えるか! だったらそりゃあ、間違いじゃないって事だろうな」

 

 

葛葉紘汰はため息をついた。小川に掛かる小さな橋の手すりに座っている彼の前には、かつてDJサガラと呼ばれた男が立っている。

怪人の気配を感じ、移動していたら、まさかサガラと遭遇することになるとは。紘汰は訝しげな表情を浮べていた。

いろいろと助けられたが、苦労もさせられた。本当に、いろいろと。

 

 

「葛葉紘汰。お前、アダムとイブに会っただろ」

 

「会ったけど。アンタ知り合いなのか」

 

「まあな。オレも観測者の仕組みはよく知ってる」

 

 

そういえばと、紘汰は思い出す。

あまり勉強は好きではないが、禁断の果実とはなんなのかを少し勉強した時はあった。その神話にアダムとイブが登場している。

 

かつて地上には楽園があった。

とても豊かな場所で、何もせずとも食べ物が手に入り、平穏が約束されていた。

アダムとイブはそこで暮らしていた。彼らは神が一番初めに創った男と女と言われている。

 

しかし一つ、楽園には掟があった。

楽園――、エデンには『命の木』と『善悪の知識の木』と呼ばれる2本の木が存在してたが、その後者の実だけは絶対に食してはならないと言われていたのだ。

つまり、そう、禁断の果実、リンゴである。(ちなみに一説によるとそれは黄金の果実、つまりオレンジであったともされている)

 

アダムとイブは、それを食べてしまった。

その結果、二人は楽園を追放され、女は妊娠と出産の苦痛が増し、大地もまた額に汗して働かなければ食料を手に出来ない程となった。

 

楽園で過し続けたら幸福だったろうに。

後にアダムとイブは、カインとアベルと言う子を儲けるが、禁断の果実を食した罪なのだろうか? 大きな悲劇が待ち受けることとなる。

その後、アダムは930歳で死んだとされ、イブの死については一切の記述がないとされている。

 

 

「禁断の果実。二人はヘビに唆されたって……」

 

 

そう、アダムとイブは、蛇《ヘビ》に唆されて果実を食べてしまったといわれている。

 

 

「ああ。ありゃあオレの祖父さんだ」

 

「は!? アンタ家族がいるのかよ!」

 

「ハハハ、悪い悪い。言葉のアヤさ。正しくは――」

 

 

サガラは自分の『目』を手で示す。

 

 

「オレは眼だから、その上にいる観測者だな」

 

「……アンタもブックメイカーと同じってワケか」

 

「まあちょっと異端だがな。観測者は観測者でも、『元』がつく」

 

「?」

 

「引退したってことさ。前にも言ったがオレは蛇。ヘルヘイムそのものだ。この体はその一部、ただのアバターでしかない」

 

 

言い換えれば、ヘルヘイムの使い。使徒。

 

 

「ヘルヘイムこそが観測者だった。しかしもはや自我はない。ただ進化を齎す概念に成り果てた」

 

「死んだ――、ッて事か」

 

「変化とも言える。それが良いか悪いかはともかくな」

 

 

世界に種を撒き、それが破壊になるか創造になるかは分からない。

ある時はオーバーロードのような存在を生み出し、ある時は紘汰のような神を誕生させた。

その干渉の度合いは、もはや観測のレベルを振り切っている。

 

 

「観測者じゃなく、干渉者だな」

 

「ふ、複雑だな……」

 

「そうでもないさ。要は観測者をクビになっちまったってワケだ。それで放置されてる」

 

「アンタはそれでいいのか? そんな自我もないシステムの言いなりになって」

 

「オレはその一部だからな。それに変化を齎し――、それを見届けるのは嫌いじゃない」

 

「アンタなぁ、それで俺達がどんだけ苦労したか――ッ!」

 

 

首を振る紘汰。ここで蒸し返しても仕方ない。

もう過ぎてしまった事を今更グチグチと言ってもどうしようもないのだ。

とにかく観測者としての立場を見誤ったモノは、観測者の椅子を離れていく。

 

 

「干渉か。ブックメイカーと同じってワケだな」

 

「ああ。アイツもやりたい放題やってるみたいだな、ハハハ」

 

「……なにが目的だと思う? そもそもアンタの上にいたヤツだって、一体全体なにを考えてアダム達に禁断の果実を食うように仕向けたんだ?」

 

「さあな」

 

「おい!」

 

「怒るなよ。オレが生み出された時にはヘルヘイムはもうヘルヘイムだった」

 

 

だがしかしと、サガラは笑う。

 

 

「あったんだろうさ。大きな野心が」

 

「野心ねぇ」

 

「観測者になれば膨大な事実や知識を手に入れることができる。お前だって世界の一端を知ったはずだ。それを知って、その上で、観測者であり続けることを拒む想いが生まれた。たとえ未来に破滅が待っていると分かっていても」

 

「それがヘルヘイムの場合、アダムとイブにリンゴを食わせる事だったのか?」

 

「だろうな。なんでかは分からん。だが今、世界にはいろいろな解釈や考察が生まれている」

 

 

それは一つ一つが答えとなって、人々の想いを刺激していく。

そうだったのか。そうかもしれない。もしかしたら。そんな想いこそが無限の可能性。

 

 

「真実の続きは、心が創っていく。オレもあるぜ、一つの考察が」

 

「アンタの考え?」

 

「ああ。祖父さん(ヘビ)はな、イブを唆したんだ。知恵を実を食ってはいけないといわれたのはアダムだった。イブは知らなかった」

 

「???」

 

「何も知らないイブはリンゴを齧り、アダムにも勧めた。そして食ってはいけないと知っているはずのアダムもリンゴを食った」

 

「どういう事だよ」

 

「さあな」

 

「おいッッ!!」

 

 

サガラはヘラヘラと笑い、紘汰はイライラと唸る。

だがふと真顔になり、サガラを見る。

 

 

「……ブックメイカーにもあると思うか?」

 

「あ? なにが?」

 

「なにか、強い意志が」

 

「なかったら、こんな事しないだろ」

 

「………」

 

 

胸を抑える紘汰。

心。しかし自分達は本当に――……?

 

 

「なんだよ、もしかして響いてるのか。創作物ってのが」

 

「アンタには、お見通しか」

 

「フム。よし。葛葉紘汰。オレから一つアドバイスだ」

 

 

サガラは天を指す。

 

 

「創作されない命なんてのはない。皆、誰もが創られ、いずれ壊れる」

 

「でもそれは――」

 

「神の筋書き通り? いや違うさそれは」

 

「え?」

 

「いいか? 神なる世界も創作物だとしたらどうなる?」

 

「そうなのか!?」

 

「さあな」

 

「なんだよアンタは!!」

 

「いいか? 常識は常に変化していく。ただ一端の概念でしかない」

 

 

確かに神は紘汰を創っただろう。

だが、創っただけだ。紡ぐのは神の意思だが、その細部までは決められない。

 

 

「葛葉紘汰。真理とは即ち期待だ」

 

 

○○ならこうしてくれる。

 

●●ならこうするだろう。

 

●○はこんな事をしてしまうような人間だ。だからこうなる。

 

○と●が関われば、きっとこんな反応になる。あんな科学反応が起こる。

 

 

「だからこそ神は物語を紡げる。お前もそうだ」

 

「俺、も」

 

「銃を持った人間と木の棒を持った人間が戦ったらどうなる? 勝つのは当然、銃を持った人間だ」

 

 

誰もがそう思う。皆がそれを期待する。

常識がある。マジョリティの眼。だからこそ紡がれる物語は、そこに擦り寄っていく。

 

 

「だからこそ銃を持て。しかし木の棒を持った人間が、それでも銃に勝てそうと思わせれば話は変わってくる」

 

 

それが意思だ。

 

それが選択だ。

 

それが自分。アイデンティティと言うものだ。

それを人に見せることで世界は反映されていく。

 

 

「いいか? 世界は人の目を通して確立できる。多くの人間が向ける期待がどういうものか。それを取る人間が世界を創る」

 

 

サガラは一つのロックシードを紘汰に投げ渡す。

何も画かれていない、所謂ブランクのロックシードだった。

 

 

「これは?」

 

「何にでもなる。お前のクロスオブファイアさえあれば」

 

「………」

 

「お前は仮面ライダー鎧武だ。どんな意見があろうとも、鎧武を無かったことにはできない。それをブックメイカーも分かっている。だからせめてお前だけでも消そうとしている」

 

 

挑発的な笑みを浮かべ、サガラは紘汰を睨んだ。

 

 

「"鎧武"に負けるのか? なあ? 葛葉紘汰」

 

「………」

 

「ブックメイカーは本気だぞ。だったらお前も、本気で戦え」

 

「分かってるさ」

 

 

踵を返す紘汰。

丁度前から無数のショッカー戦闘員が走ってくるのが見えた。

紘汰は手を前にかざす。すると戦闘員の周りに浮かび上がる無数のクラック。そこから蔦が伸び、戦闘員を絡め取ると強制的に中へ引きずり込んでいく。

 

 

「イィィィイ!!」

 

 

蔦が顎に絡みつき、ショッカー戦闘員達は強制的に口を開く。

そこにヘルヘイムの実が放り込まれた。

咀嚼する音が聞こえる。するとクラックから飛び出してきたのは戦闘員ではなく、インベスたちだった。

 

 

「結構エグいな、お前」

 

「神だからな。これでも」

 

 

紘汰は無数のインベスを引きつれ歩く。気づけばサガラは消え去った。

頷き、紘汰は腕を天に掲げた。気のせいだろうか? ほら貝の音が響き渡ったような。

 

 

「世界を獲るぞ! まずはこの世界を我が手中に!!」

 

 

気づけば紘汰の背後には大量のインベスが。

皆一勢に拳を天にかざすと、ショッカー怪人達を根絶やしにするべく走り出した。

 

 

「ムゥウ!」

 

 

それを感じ取ったのはアマダム。

 

 

「各地でインベスと怪人が戦闘を開始した」

 

 

本条は舌打ちを放つ。

紘汰の意思が、選択が、戦うことだと分かったからだ。

 

 

「どいつもコイツも――ッ! 気に入らない!」

 

 

本条の目が星になる。

ブックメイカーは唸りをあげ、近くにあったテーブルを思い切り蹴り飛ばす。

そこでモニタの一つが切り替わった。映ったのは、ショッカー首領。

 

 

『ブックメイカーよ』

 

「なんだ?」

 

『星の記憶が断片となり、フィリップが受信したようだ。それを今、ユウキ・ジョウジが調べている』

 

「なに……?」

 

『一応と、忠告はしたぞ』

 

 

そこで通信が切れた。

ブックメイカーはゆっくりと自分の胸、心臓の部分を掴む。

 

 

「――……分かっているさ。(ある)

 

 

目を細め、アマダムを睨む。

 

 

「もういい。もう分かった。彼らの答えは結局、苦痛の中にしかない」

 

「愚かだな。全く愚かだ」

 

「そうだ。だからもういい。慈悲は与えない。選択は無意味だ」

 

 

初めからこうするべきだったかもしれない。

苦痛を、地獄を与え、選択肢を奪えばいい。

全てを潰し、終わらせる。圧倒的な闇を見せた後で、改めて救いを与えてやればいい。

時間は掛かるだろうが、それでいい。

 

 

「馬鹿は死ななきゃ治らない。そうだろアマダム」

 

「……ああ」

 

「だからまずは消すぞ。全てを奪い、全てを壊し、粉々にしてやる」

 

 

指を鳴らす。

するとオラクルとハーメルンが姿を見せた。

 

 

「アマダム。オラクルを貸す。天空寺タケルを消せ」

 

「ハハハ。ああ、任せておけ。もはやアイツなど私の敵ではない……!」

 

 

アマダムはオラクルを引き連れて退出していく。

一方で入れ替わりで部屋に入ってくるものが。

 

 

「はぁいブックメイカーちゃん。およびかしら」

 

 

ガーリーファッションに身を包んだ少女が姿を見せる。

ツインテールで、バッグを持つその様は普通の人間とかわりない。しかし当然、彼女もまた異形である。

 

 

「"キュル・キラ"。キミには余計な詮索をするヤツらの処理を頼みたい。ハーメルンを貸そう」

 

「本当に? やったぁ! じゃあちょっと――」

 

 

キュルキラはニヤリと笑い、目を見開く。

 

 

「ブッ殺してくるわ。ウフフ!」

 

「ああ。期待しているよ」

 

 

消失するキュルキラ。

さらにブックメイカーの部屋を訪れる者が。

 

 

「お困りですかブックメイカー」

 

「やあ、キミか。体内に宿したクロスオブファイアを活性化させる、簡易で安易な悲壮強化(インスタント・ホッパー)の調子はどうだい?」

 

「バッチリですよブックメイカー。凄いや、とっても体に馴染みます! そっか、私はライダーだったんだ! 改めてそう気づかされる思いです!」

 

「フフフ。その通り。キミは貴重なテストプレイヤーだ。仮面ライダー」

 

「ええ、ええ! 力が漲る! 私は私の信念のために戦います! ライダーパワー!」

 

「ほう、それは? 理由を聞いても?」

 

「女子高生!」

 

「は?」

 

「女子高生はキラキラ眩しいんです! それに柔らかくて美味しいし!」

 

「………」

 

「そう、フワフワで柔らかくて。だからずっと考えてたんです! 子宮に入ってみたいって!!」

 

「………」

 

「あったかいんだろうなぁ! 私! ワクワクしてきました!!」

 

「………」(なに言ってんだコイツ)

 

 

温度差は伝わらないものだ。

退出者を呆れた様子で見ているブックメイカー。

そしてその後、ただジッと、戦いを選んだライダー達をモニタを通して見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『進ノ介。私にも感じるよ。クロスオブファイアの共鳴が』

 

「みんな、自分を取り戻してるみたいだな」

 

 

トライドロンの中でベルトさんが唸る。

進ノ介の体内にある炎のエネルギー、クロスオブファイアを可視化した。

そしてそれと同じエネルギーが続々と生まれていくのが分かる。各地でライダーが魂の炎を燃やしているのだ。

 

 

「どうして……!」

 

 

タケルは焦ったように唸る。

力を込めてもまだゴーストドライバーが現れる気配はない。

それは簡単だ。タケルの中にあるクロスオブファイアの勢いが弱く、消えかかっているのだ。

その理由は本人が一番分かっていた。だから余計にイラついてしまう。

 

 

「泊さんは……、どうするんですか?」

 

「俺は――、ライダーである前に、刑事だ」

 

 

たとえ友人を誤射しても、その道は外れなかった。

市民を守ることだ。たとえ二つの選択肢、どちらも犠牲が生まれるとしても、刑事であることにはかわりない。

 

 

「未曾有の危機から人々を守るためには、まだドライブの力が必要なんだ」

 

『やれやれ、なかなか眠れないね、私も』

 

 

ペポペポ、クラクションのような音と共にベルトさんの表情が変わる。

つまりのところ、それは。

 

 

「俺は刑事で、仮面ライダーだからな」

 

「………」

 

 

タケルは俯き、首を振る。

ライダーとしてドライブを選んだのではなく、刑事としてドライブを選んだ。

どちらも人間であるにはかわりない筈だが……。

 

 

「おれには、理解できない」

 

 

一瞬だった。タケルがシートをすり抜け、トライドロンから降りた。

 

 

「!」

 

 

進ノ介は驚き、ブレーキに足をかける。

しかし止まったのは一瞬だった。窓をあけ、進ノ介は叫ぶ。

 

 

「また後でな! タケル!!」

 

 

そして進ノ介は走り去る。

残されるタケルは、トライドロンをぼんやりと見つめていた。

 

 

『いいのか、進ノ介』

 

「ああ。いずれにせよ。これだけは自分でなんとかしないといけない問題だからな」

 

『しかし、変身できない彼をひとりで残すと言うのは――』

 

「アイツが言ったんだ」

 

『?』

 

「変身できるとか、できないとか、関係ないってな」

 

 

幸いにも、今はそういう世界に立っている。

 

 

「だから、それを信じるだけさ」

 

『なるほど……』

 

 

ハンドルを切る進ノ介。

どうやら彼には彼で、やりたい事があるらしい。なにやら一つ気になる事があるようだ。

 

 

『気になる事?』

 

「ああ、少し引っかかって……、とにかく急ごう」

 

 

アクセルを踏み、トライドロンのスピードを上げた。

一方で残されたタケルはトボトボと歩道を歩く。すぐ隣に流れる小川を見つめながらゴーストと言うものを振り返る。

 

けれどもそれで答えがでるワケじゃない。

尤も、今抱いている感情を分かりやすくいうのであればムカついていると言えばいいか。

頑張ってもそれが否定されるかもしれないのに、なんだってコレ以上戦う必要があるのか。

皆ライダーの力を取り戻しているらしいが、いまひとつタケルには納得できない部分があった。

 

戦う事で神なる世界の人間が喜ぶのに。それが不満だ。

ライダーは、嫌いな人間のためにも戦わなければならないのか。

 

 

「あ」「あ」「あ」

 

 

丁度その時だった。

タケルの前に竜斗が。そしてさらに弦太朗が歩いてきた。

三人は顔を合わせてしばし固まって動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い出したんです」

 

 

小川を少し歩いたところにベンチがあった。タケル達はそこに並んで座り、緩やかに流れる川を見ている。

はじめに口を開いたのは竜斗だった。思い出したと彼は言う。そして同じころ、同じ言葉をミライは呟いた。

場所は町外れにある採石場。そこにリボルギャリーが停車しており、ミライや晴人たちはその中にいた。

 

ちなみに映司はフラフラとリボルギャリーの周りを徘徊しており、もはや自分が何をしているのかすら分かっていない。

ただ探索系アプリは欲望の抑制によく効いてくれただけ。何かを探す行為そのものにとり憑かれているのだ。

 

 

「ねえチッヒー、写真とろー?」

 

「う、うん」

 

 

場面を車内に戻そう。

ブックメイカーの力ですっかりとキャラクターが変わったイユは、千翼と一緒に自撮りを行っていた。それを複雑そうに見ている悠。

さらに端の方ではジョウジがなにやらパソコンを弄っている。

 

 

「"オブザーバーメモリ"、これがあればフィリップが見た記憶の欠片にコンタクトが取れる」

 

「そんな事が……。作ったのかい?」

 

 

ゴロウがPCを覗き込む。

ガイアメモリが刺さっており、ジョウジがエンターキーを押すと、画面にはフィリップの脳裏に浮かんだ映像の数々。

所謂『世界の欠片』が映し出された。どうやらジョウジが『作った』ガイアメモリの力は、映像の中に入れると言ったとんでもない代物らしい。

 

 

「これでも元はショッカーの科学者だ。そもそもディケイドライバーは俺が作った」

 

 

さらりと言ってのけ、ジョウジは専用のヘッドギアを装着した。

 

 

「少し時間が掛かる」

 

 

エンターキーを押してダイブを開始するジョウジ。

さて、話を戻そう。注目するのはミライだ。思い出したと彼女は言った。さて、何を思い出したのか。

それは竜斗と同じく、自分が何者なのか。どういう事なのか。そして『眼』、はじめは何も知らなかったが、記憶が徐々に答えを導いてくれた。

ましてや今のミライは体内にアダムとイブを宿している。観測者の力がより真実へ彼女を誘った。

 

 

「私も、竜斗くんも、加古くんも、みんなウソ」

 

「ウソ?」

 

 

晴人が問いかけると、ミライは頷いた。

 

 

「私、ミライって名前じゃない」

 

 

全部偽りの名だ。"ミライ"は『未来』、"加古"は『過去』を弄ったもの。"竜斗"は『龍騎』の息子にしようと言うことから与えられた偽りの名だった。

本名は――、ミライは首を振る。言葉が出なかった。

 

 

「それは思い出せないけれど……、思い出せることもあって、ああでもそれは思い出したくない事なのかもしれなくて、でも――ッ!」

 

「大丈夫。落ち着いて」

 

 

同じく話を聞いていたタケシが優しく肩に触れる。

そこでミライは頷き、ゆっくりと呼吸を整えた。

 

 

「私達はココとは別の世界から呼ばれて。でもそれは呼び出されたって方が正しいと思うんです。私は――、あの、今はこんな格好ですけど、本当はもう高校生で」

 

 

ミライは悩んでいた。

勉強が難しくてついていけなくなっていった。

徐々に周りからも馬鹿にされ始めて――

 

 

「だから、私、あの日――、で、で、で、電車に、と、ととととッッ」

 

 

声が震えて言葉が紡げない。

するとミライの雰囲気が変わる。目が赤く染まった。イブだ。

 

 

「ミライさんは自ら死を選ぼうとしました」

 

「!」

 

「加古さんは詐欺の被害に合い、全ての財産を失いました。そして練炭を使ったのです」

 

 

尤も、その死は途中で中断されたが。

 

 

「つまり――」

 

「ええ。ブックメイカーは眼に選んだのは、自分の世界に絶望していた人たちです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ブックメイカーは壁をジッと見ていた。

そこに並ぶのはライダー達の紋章、ライダークレスト。

 

1文字のG。

2本のメモリ。

3つのメダル。

4つのスイッチを操る。

5本の指がある手に関係している。

6の形に見える『ロック』シードを使う。

7がロゴに隠されている。トライドロンのタイヤは六個、ドライブの一本をあわせれば7。

8は無限の形、そう、ムゲン。。

9は"キュー"キュー、レス"キュー"、"キュウ"キョクの"キュウ"ジョ。

 

こじつけと言われればそうだ。

現に公式は否定しているらしい。

 

だが、こじつけられる事が問題なのだ。

公式が真実だとは限らない。公式もミスを犯す。ましてや、ウソをついている可能性は否定できない。

 

そこにあれば、人はそれを思う。

だからそうなる。それが続いていく。それが可能性。それが無限と言うものだ。

人の想いが事実を創っていく。

 

だから、ほら、9で終わるなんてスッキリしないだろう?

求められれば、ほら、そこに。

 

 

「!」

 

 

ブックメイカーは大きく目を見開いた。

紋章はエグゼイドで終わっている――、筈だった。

しかし一瞬。ほんの一瞬だけ、歯車のような紋章が見えた気がする。

 

それも、エグゼイドの隣に。

 

 

「………」

 

 

天を仰ぐ。

そして、笑う。

 

 

「分かっている。分かっているさ。終わらせてやる。僕が、全部……!!」

 

 

テレビにはウサギが映っていた。

ブックメイカーは胸を押さえつけ、ひたすらに虚空を睨んだ。

 

 


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