カメンライダー   作:ホシボシ

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遅れるかと思ったけど、普通に投稿できました。
考えるな。どうか感じてくれ。


第18話 仮面ライダーよりサーモンのほうがいい

その天空寺タケルは青ざめ、走っていた。

フォーゼがクロスオブファイアを活性化させた。それにより、タケルの心に齎されるのは大きな焦りと、嫉妬と、憎悪に近い感情だった。

どうして、どうして? 理解できない。だから少しイラついてしまう。

 

そうだ、フォーゼはいいんだ。だって弦太朗は恵まれている。

でも自分は違う。最低評価を貰えば、フォーゼだってきっと立ち上がることはできなかった。

所詮、恵まれている。愛されている。歓迎されている。

だから、自分の気持ちなんて分からない。

 

 

「………!」

 

 

気づけば森の中だった。

まるでそれはタケルの心のようだ。走れども走れども同じ様な景色。

抜け出すことのできない自然の牢獄。

 

 

「よお、駄作野郎」

 

「!」

 

 

ゾッとする。

青い羽が舞い落ちるのが見えた。

 

 

「殺しに来たぜ」

 

「アマダム……! そ、それに――ッ、お、お、オラクル!」

 

 

言葉が震える。

前から歩いてきたのは、最も見たくない相手だった。

瞬間的に察する。分かりやすい死のイメージ。

 

 

「分かるな。お前の敗北を望むことがマジョリティなんだ」

 

「そのトオリ! ヒトのタメ、消え去るがイイ! 仮面ライダーゴースト」

 

 

青い鳥は翼を広げて笑う。

 

 

「イヤ、仮面ライダーワーストの間違いダッタカ!」

 

 

走り出す二人の怪人。

変身できない今の状態で勝ち目など。

タケルは目を見開き、恐怖に表情を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ユウキ・ジョウジはゆっくりと目を開いた。

視覚を取り戻した。その後、聴覚を取り戻した。時間と共に戻っていく感覚。

手を開く感覚が酷く懐かしいと錯覚する。

 

目の前に広がるのはフィリップが見た記憶の断片。

そこへ直接コンタクトを取る。文字通り、ジョウジがその場に行くのだ。

降り立った場所は【Ch.2】、熱砂の上、ジョウジは眉を顰める。熱い、そしてその視線の向こうに崩れた肉塊を見た。

 

醜い異形だ。

それがもはや何なのか、言葉に表すのは難しい。

黒ずんだグズグズの塊はかろうじて二本足、二本腕である事は分かる。

だがそれ以外は――……

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

単刀直入に聞いた。

だがシルエットは何も答えない。ただ這うように砂の上を移動し、ひたすらに前に進む。

どこに向かっているのか。ジョウジはしばらくついて行くことにした。だが肉塊のスピードは遅い。

そして何を喋りかけても反応は無し。

 

 

「アッタカネモチマギタトチフ」

 

 

たまに喋ることはあったが、事前に聞いていた情報だけ。

アンデッド語はジョウジも覚えている。しかし次の言葉までが遅い。こうしている間にも外ではリアルタイムに時間が進んでいく。

 

ミライが近くにいるとか関係無しに、ブックメイカー側にはコチラの情報がある程度筒抜けだろう。

おかしな動きをすれば、すぐに気づかれ、対処に動かれる可能性はあった。

今は少しでも情報を集めたい。ここで肉塊に戸惑っている時間はないのだ。

だからジョウジはこのチャンネルの捜索を諦め、スイッチを切り替える。

 

 

【Ch.1】

 

 

フィリップが見た映像は砂嵐に塗れ、その詳細な情報は謎に隠されていた。

しかしジョウジが映像の中に降り立ったことで、その問題は消え去る。ノイズが除去され、鮮明になる世界。

抽象的ではなく、より具体的に。

それはニュース映像。キャスターが語るのは、一つの行方不明事件。

 

 

「行方不明になった天城(あまぎ)(ある)くんの捜索が絶望的に――』

 

 

不安を煽るのはマスコミのやり方なのだろうか。

切り替わる映像では、母親が泣き崩れている様子が映った。

自覚してか、無自覚なのかは知らないが、どうやらなかなか悪趣味なニュースらしい。

しかし情報は詳細だ。ある家族が神社で行われる夏祭りに出かけたとき、息子が行方不明になった。

 

山道が近くにあるため、迷子の可能性はあった。

もちろん誘拐も。しかし人が多い状況であったにも関わらず目撃情報はゼロ。

山の中を捜索もしたが、手がかり一つ見つからない状況が続き、三週間以上が経過した。

 

 

「警察は捜索を打ち切りました。ご両親のお二人は今も帰ってくるのを信じて――」

 

 

ここで一つ、情報がエンターテイメントに切り替わる。

なんでも祭りが行われていた神社では、過去、天狗が人をさらう神隠しの伝説があったそうだ。

そしてこの夏祭りでは過去にも人がいなくなっている。

神隠しの特集。ハーメルンの笛吹き男も例に上がった。

 

 

『このような事件は一度だけではなく――、バミューダートライアングルなど、実際にあった消失事件とも関与して――』

 

 

神隠し。

ジョウジはサングラスの奥にある目を細めた。

この映像がフィリップの脳裏に浮かびあがったということは、何かしら大きな関係があると見て間違いない。

なにが関わっているのか。一つ気になる点があるとすれば、やはりあの報道以外にはあるまい。

 

 

「天城或……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョウジが記憶の欠片を探索しているころ、他のメンバーは彼とミライを守るためにリボルギャリーの周りにいた。

やはり眼を守るためなのか、怪人達はその存在を嗅ぎつけ、寄ってくる。

 

 

「ショッ! カーッッ!!」

 

 

ショッカー怪人"ギルガラス"が噴射するデッドマンガスがエグゼイドレベル3に降りかかり、脳を破壊しようと試みる。

しかし赤い旋風が巻き起こった。Gが発生させた突風、"クリムゾンウインド"がガスを吹き飛ばし、さらにG型のエネルギーが空中を飛行していたギルガラスに直撃する。

 

 

「ハァア!」

 

 

その間にエグゼイドはアームを飛ばし、ギルガラスへヒットさせる。

空中を墜落していく怪人へ、エグゼイドは必殺の拳を打ちあてる。

 

 

『ゲキトツ! クリティカルストライク!!』

 

「ギガアアアアアアア!!」

 

 

悲鳴をあげて爆発する怪人。

 

 

「ありがとうございました」

 

「ああ」

 

 

しかし遠くにまだ怪人の気配を感じる。またすぐにココへやって来るだろう。

エグゼイドは懐から金色のガシャット、ハイパームテキを取り出すが、ボタンを押しても起動する気配はない。

 

 

「ムテキが使えれば……! やっぱりパラドがいないから――ッ!」

 

「いや、そうじゃない」

 

「え?」

 

「ココはそういう世界じゃない。設定ではなく、大切なのは僕達の中にあるクロスオブファイアの勢いだ」

 

「じゃあ、つまり……」

 

「まだキミの心のなかに迷いや燻りがあるんだろうね」

 

「………」

 

 

思い出すのはやはり、救えなかったポッピーだろうか。

 

 

「想い人と死別したんだ。そう簡単に割り切れるものじゃない」

 

「かもしれません。ポッピーは今まで友人でした。けれど、この世界じゃ違った。彼女は、もっと、ボクの心に張り付いている」

 

「なぜ愛した?」

 

「……なぜでしょう。けれどボクの世界とは何もかも違った」

 

 

ブックメイカーも散々言っている。

イヤと言うほどに口にしている。

全ては、状況と環境。

 

 

「それが違えば、全く別になるか」

 

「はい。関係も、人間性ももしかしたら」

 

「………」

 

 

確かに、この終焉の星での真司や五代は全く別の人間になっていた。

ああいや、大まかな性格は一緒だが、バックボーンや細かなところはもちろん違っている。

 

 

「平成一期の連中は見事に引きずり込まれたな。僕とディケイドは微妙な位置づけにいるから助かったが」

 

「そもそも士くんが助けてくれましたから。それに一期の皆さんのほうが、戦いの歴史も長いわけですし、それだけの苦痛があると思うんです」

 

「………」

 

 

Gは顎を触る。時間は複雑なものだ。

しかし一期と二期か。それらは大まかに括られるケースが多い。Gはふと想像する。一期が白ブドウの畑で、二期が赤ブドウの畑で。

畑は別々。もし、ひとつの畑に害虫(フィロキセラ)がいたのなら、やはり悪くなるのはまとめてで――

 

 

(なんて、考えすぎか)

 

 

すると空中から声がした。

エグゼイドとGが顔をあげると、なでしこが困ったように叫んでいる。

 

 

「ふたりともすぐ来てっ! ちょっとピンチかも!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ」

 

 

ツインテールがゆらゆら揺れる。

オメガ、ネオとその背中に隠れているイユ、エグゼイド、G、映司、ホッパー、メテオ、なでしこは並び立ち、一人の相手を見ていた。

 

"キュルキラ"。

他の怪人は倒した。だからこそ分かる異常性。

キュルキラは一見すれば普通の女の子で、だからこそこんな場所にいるのは気持ちがわるい。

それに彼女が普通じゃないとすぐに分かったのは、隣にピエロのような異形、ハーメルンがいたからだ。

 

 

「はじめましてクソライダーども」

 

 

にっこりと笑い、可愛らしい声で放たれる罵倒。

 

 

「キュルキラちゃんはね、ミライちゃんを回収しに来たの」

 

 

バッグから一枚のメダルのようなアイテムを取り出し、指で弾く。

それはエナジーアイテムの『挑発』。キュルキラの体がオレンジ色に発光し、効果が適応される。

挑発とはそれすなわち、狙いの一点化。つまりライダー達はハーメルンを狙えず、まずはキュルキラを倒さなければならないと言うことだ。

 

 

「これねー、おみあげー、あげるねー!」

 

 

さらにキュルキラは楽しそうにバッグに手を突っ込むと、モゾモゾと動かして『ソレ』を引き上げた。

時間が止まる。誰も意味が分からない。だってそれはどう考えてもバッグに入る大きさじゃなかったから。

ましてやその異常性、狂ったのかとも思っていしまう。

 

それは、『鷹山(たかやま)(じん)』の首だった。

 

 

「仁――ッ、さん……!?」

 

「コイツねー、クソ雑魚だったよー?」

 

 

固まり、青ざめる悠。口を押さえて後退していくネオ。

困惑するほかのメンバーを見て、キュルキラは恍惚に顔を歪ませる。下卑た笑みを浮かべ、涎を垂らしながら舌なめずりを行った。

 

 

「いい顔するじゃん。キュルキラちゃんコーフンしてきちった」

 

 

キュルキラは持っていた仁の首を地面に落すと、脳天に足裏を乗せる。

 

 

「サッカーでもする? イヒヒハハ!」

 

 

さらにバッグに手を入れる。

 

 

「それともボールが嫌い? いろいろあるよ。こんなのも」

 

 

キュルキラが取り出したのは別の首。伊達(だて)(あきら)のもの。

 

 

「イケメンだよねぇ。メンクイのキュルキラちゃんもこれは大合格」

 

 

ゾッとし、固まるなか、映司が反応を示した。

ヘラヘラと笑い、フラフラと前に出る。

 

 

「こら~、ダメでしょぉ、伊達さん殺しちゃあ」

 

「あっはー、そっかぁ、ごめんねー!」

 

 

一瞬だった。

キュルキラは腕を突き出し、ほんの僅かな時間で映司の左胸を突き破る。

 

 

「あいた」

 

「あ?」

 

 

しかし映司の体から出てくるのはジャラジャラとしたセルメダル。

 

 

「あー、お前もう人間じゃねぇのか」

 

「ひどいなぁ、酷い事すると、酷い事しちゃうよぉ」『タカ!』『トラ!』『バッタ!』

 

 

映司はメダルを垂れながしたまま、オーズに変身。キュルキラに向けてトラクローを振るう。

しかしキュルキラはかろやかな身のこなしでバックステップを行い、それらを回避。

そして起こる変化。二つ。

 

まずひとつはキュルキラの容姿が変化した。

現れた異形。ガーリーファッションはどこへやら。

今のキュルキラはインディアンやアマゾンの民族を思わせる衣装に変わる。

黒く変色した皮膚には禍々しい模様。そしてピンク色の髪、前髪で顔は隠れ、ツインテールを結ぶゴムにはドクロの装飾が。

 

 

「ハーメルン! ワールド展開!!」

 

 

キュルキラ怪人体。

さらにもう一つの変化。それはハーメルンが笛を吹いたことだった。

 

 

星屑(タグ)!」

 

 

呟いた言葉を合図に、キュルキラの周りに無数の『言葉』が浮かび上がる。

 

 

「"技のみ(オリジナルハック)"!」

 

 

浮かび上がった言葉の数々、それは前にブックメイカーが見せたライダーが関わらない他世界の名。

ブックメイカーはそれを『原作カテゴリ』と呼んでいた。その一つが、キュルキラに吸い込まれる。

 

 

『▲ドラゴンボール』

 

 

これもまた一瞬だった。

ピシュン! と音がしたと思ったらキュルキラの体が消失。そしてオーズの背後に出現する。

 

 

「え?」

 

「オラァア!」

 

 

背を打ち当てるようなタックル、鉄山靠がヒットし、オーズは前方へ吹き飛んだ。

またピシュン。キュルキラが現れたのはオーズが飛んできた位置。オーズが地面につく前に蹴り上げると、その体が面白いように吹っ飛び、上空へ。

さらにピシュンと音がして、キュルキラがオーズの頭上に現れる。

キュルキラはアームハンマーでオーズを叩き落すと、そのまま両腕にパワーを集中させていく。

 

 

「すっごいビーム☆!」

 

 

両手を前につきだすと、青白い光線が発射されてオーズを包み込んだ。

もはやオーズは悲鳴をあげる暇もない。黒焦げになり、変身が解除、映司は白目をむいて動かなくなっていた。

 

 

「ヒヒヒハハハ!!」

 

「クッ!」

 

 

構えるライダーたち。

一方でキュルキラは戦闘の影響で転がっていた首に目を向ける。

 

 

「邪魔。も、いらね」

 

 

伊達の首を蹴り飛ばし、仁の首は踏み潰すと手からエネルギーを出して焼却する。

 

 

「お前ェエエエエエエ!!」

 

 

吼え、走のはオメガ。

ブレードを構え、猛スピードでキュルキラに向かっていく。

 

 

「ハァ。うっぜぇな。何マジになってんの?」

 

「黙れ! お前はッ、お前ェエ゛エ゛!!」

 

 

キュルキラとオメガの殴り合いが始まった。

はじめは拳を弾いていたキュルキラも、オメガの気迫に圧されているのか少しずつ身を切裂かれていく。

 

 

「お? お! お!?」

 

 

さらに他のメンバーもすぐに合流。

エグゼイドが飛び上がりながら背を切り、Gのブレードを身に突き刺さる。

 

 

「他人の命を、なんだと思ってる!」

 

「ハハハ! キュルキラちゃんのオモチャ!!」

 

「ガァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

オメガのブレードが首に掛かる。

捻るレバー。

 

 

『VIOLENT・PUNISH』

 

「ヴゥウン゛!!」

 

「ウゴォオアァアア!!」

 

 

オメガが腕を思い切り引くと、ブレードが肉を抉り引き裂く。

キュルキラは見た。真下に、自分の体がある。『自分』は宙を舞っていた。

 

 

「キエロォォ!!」

 

 

さらに腕を振るう。するとキュルキラの胴体が二つに分かれた。

ボトリと、首が地面に落ちる。見える景色が低い。

 

 

「……まじかよ」

 

 

首だけになったキュルキラは意識が遠のくのを感じていた。

血が噴水のように吹き出ている。上半身と下半身が地面に落ちているのも見えた。

 

 

「あ――」

 

 

そこまでだった。

キュルキラの意識が消え、死ぬ。

派手で凄惨な一撃に怯んだが、そこで声をあげるメテオ。

 

 

「今のうちにハーメルンを!!」

 

 

そうだ。一同は頷き、ハーメルンを破壊しようと試みる。

だがそこでまた笛の音。空中に漂う世界の名が回転しながらキュルキラの死体に向かう。

 

 

「!?」

 

 

文字を読みとるメテオ。

なになに? 『▲Re:ゼロから始める異世界生活』と書いてある。

その文字がキュルキラの頭部に吸い込まれると、なんと元通りになったキュルキラが出現する。

転がっていた上半身と下半身は消滅。血の痕はあるものの、現在立っているキュルキラには、見たところ傷一つない。

 

 

「キラーン! キュルキラちゃんフッカーツ!!」

 

「なに!?」

 

「次、これにしよー!」『▲ONE PIECE』

 

 

文字が吸い込まれたあと、突き出した拳が伸びた。

メテオを、ネオを、エグゼイドたちを吹き飛ばし。

さらにキュルキラはその場で高速回転を行う。すると摩擦熱で炎が生まれ、両足が赤く発光した。

 

 

「ヒハハハハ! 燃えるキックーッ!」

 

「!」

 

 

飛び上がり、足を突き出すキュルキラ。

それに反応したのか、ホッパーの複眼が光り、同じく飛び上がる。

燃えるキックと、ライダーキックがぶつかり合い、爆発が起きた。

墜落したのは――、ホッパー。爆炎を纏い地面を転がる彼を、華麗に着地したキュルキラは見下したように笑っていた。

 

 

「だっさーい。身の程知らずのバーカ!」

 

「グゥウウ!」

 

「ワンピの売り上げ知ってるぅ? お前みたいなカス作品じゃ相手にならないよー!」

 

 

キュルキラは刀を出現させ両手に構える。

さらに口に咥えると、三刀流にしてみせた。

 

 

世界融合(クロス・オーバー)

 

 

さらにハーメルンを睨む。すると反応して笛の音が。

 

 

「来い」『▲ソードアート・オンライン』『▲遊戯王』

 

 

刀をふるって文字を引き寄せるジェスチャー。

そして二つの世界がキュルキラに吸い込まれた。息を呑むライダーたち。

キュルキラの背後から青い目をした白龍が姿を見せたのだ。その神々しさに怯んでいる間に、刀を構えるキュルキラ。

刃が蒼く発光し、ニヤリと笑う。

 

 

「まずい、みんな逃げ――」

 

 

誰かが叫んだが遅かった。

ドラゴンから放たれるエネルギーを刃に乗せて、キュルキラは青白い斬撃を無数に発射する。

 

 

「滅びのバーストスターオニギリストリームゥウ!!」

 

「グアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

吹き飛ぶライダーたち。次々に変身が解除されて地面に落ちていく。

 

 

「………」

 

 

転がる永夢を見て、キュルキラはにやりと笑った。

 

 

「オラクルが言ってたんだけどォ、エグゼイドってSAOのパクリなんだってぇ。ダメでしょ永夢ちゃん。他人のヤツ盗ったらぁ……」

 

 

歪んだ笑み。

 

 

「なんちって☆! グヒヒィッ! ウヒヒハハハ! ヒャーッハハハハハハハ!!」

 

 

刀が手から消えた。体から射出された世界の文字はまた空中を留まる。

無数の世界を見上げながらキュルキラは腹を抱えたまま笑い転がる。

 

 

「あ゛ーッ! だのじい! きんッもぢいぃいい! グハハハッ!!」

 

 

ツインテールをブンブン揺らしてキュルキラは倒れているライダー達を睨みつけた。

 

 

「マジでイキそうだわ! 最高だな世界を使って遊ぶのは!」

 

「何がしたい……!」

 

「決まってんでしょ? ムチャクチャにするんだよ! 全部グチャグチャにして汚して犯してやるよ!」

 

 

そう、それは全てだ。ライダーだけじゃない。使う世界も汚してやる。

希望に満ちた世界などいらぬ! 全てはアンチテーゼとヘイトに塗れ、その輝きを濁りきった黒へ沈めるのだ。

(けが)せ、(よご)せ! 強姦。そう、強姦!

 

 

ううん、けれども字が少し違うか。

そう、姦しいではなく――

 

 

原作強完(レイプ)の時間だライダー共ォ。ウヒヒヒハハ! キュルキラちゃんが天国(オワリ)()かせてやるよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャンネル、チェンジ。

ジョウジたちから、士へ。

 

 

「う、うあぁあぁああ!!」

 

 

加古が叫んだ。

目の前で母親が貫かれた。血が滴るのはキングラウザー。

 

 

「に、逃げて!!」

 

 

母は愛する息子に手を伸ばした。

しかしブレイドは剣をそのまま振るう。すると加古の母は分割され、もう動くことは無かった。

加古は悲鳴をあげて逃げ回る。追いかけるのはキバだ。しかしそこで加古の父親が割り入った。

 

 

「お、お願いです! 息子だけは――ッ! どうか息子だけは!!」

 

 

土下座を見て、キバはため息を漏らした。

 

 

「邪魔です」

 

 

踵落としで父親の頭部を粉砕する。

脳天が陥没し、衝撃で眼球が飛び出し、零れた。

加古は泣き叫び、広い家を逃げまどう。高そうなカーペットや食器は血で汚れて、高級感の欠片もない。

 

 

「な、なんなんだ――ッ! ひぃい!」

 

 

加古が最後にたどり着いた部屋は弟の部屋だった。

ベビーベッドの中で泣き叫ぶ弟を抱きかかえると、加古は逃げ出そうと踵を返す。

 

 

「逃げるな。お前はココで終わりだ」

 

 

鍵など意味は無かった。

ブレイドは扉を破壊すると、加古の前に立ちはだかる。

加古は青ざめながら振り返る。二階ではあるが仕方ない。弟を守るため、こうなったら飛び降りてでも――、と。

しかし窓に手を伸ばそうとした瞬間、キバの頭が降ってきた。

まるでコウモリのように天井に張り付いたキバは、上下逆さまになりながら加古の行く手を阻む。

 

 

「だ、誰か助けてぇえ!!」

 

 

泣きじゃくる弟を抱きしめ、加古はへたり込む。

そこへゆっくりと足を進めるキバとブレイド。

だがその時、電子音が。

 

 

『アタックライド』『ブラスト!!』

 

 

マゼンタの弾丸が不規則に飛びまわり、キバとブレイドに直撃する。

火花をあげて怯む二人へ、ディケイド激情態が剣を構えて飛び込んできた。

 

 

「やめろお前ら! 相手は子供だぞ!!」

 

 

キバの反撃をかわし、ディケイドは装甲を切り抜いて移動する。

 

 

「馬鹿が!」

 

 

ブレイドの装甲、タイムスカラベが光った。

しかしディケイドはコンファインベントを使用。スカラベを無効化し、時間が止まることを防いだ。

無効化された力はしばらく再使用できないのか。ブレイドは舌打ちをしてディケイドへ切りかかる。

 

 

『アタックライド』『イリュージョン!』

 

 

ブレイドが斬ったディケイドが、データの残骸となって消滅する。

分身による目くらまし。本物のディケイドは加古と、その弟である赤ん坊を連れて家の外へ避難していた。

 

 

「ディケイド!」

 

 

キバが叫び、窓から飛び降りる。

 

 

「貴方はまだ理解していないのですか!!」

 

「――ッッ!」

 

 

違和感はすぐに分かった。

ディケイドは赤ん坊を右手で抱き、もう一方の左手で加古の手を引いていた。

違和感は右腕。凄まじい重力。赤ん坊を抱いているはずなのに、まるで大きな岩を腕に抱えているような感覚だった。

そして次の瞬間。何かが砕ける音とともに、ディケイドは地面にへばりつく。肩が外れた。腕が折れた。右腕がぺしゃんこになっていた。

 

 

「がは――ッッ!!」

 

 

腕の中にいる赤ん坊が下卑た笑みを浮かべている。

 

 

「そう。分かっていないからこうなるのだ、ライダーよ」

 

 

赤ん坊の口からガスが噴射される。

ガスはディケイドを包み込み、直後凄まじい爆発を巻き起こす。

全身が炎に包まれ、加古は悲鳴をあげてディケイドから離れる。

 

 

「グゥウアァアァアア!!」

 

 

地面を転がるディケイド。

赤ん坊は自分で立ち上がると、唸り声をあげて怪人へと変身した。"カマクビガメ"。亀の改造人間である。

 

 

「死ね、ディケイド!!」

 

 

飛び跳ねるカマクビガメ。

その能力は自身の体重を一トンまで跳ね上げることができる。

赤ん坊の姿に擬態し、そのまま押しつぶすもよし。怪人となりて棘付きの硬い甲羅で相手をプレスするもよし。

 

 

「ゴバァアア!」

 

 

だがディケイドへ直撃する前に、カマクビガメに巨大な水球が直撃した。

キバだ。バッシャーフォームへと変わり、必殺技を使用。カマクビガメを弾き、ディケイドを守る。

 

 

「お、お、おのれ――ッ!」

 

 

立ち上がるカマクビガメ、

しかしそこで背中に衝撃を感じた。ブレイドだ。マッハの力で素早く後ろに回り、キングラウザーを甲羅に叩き込む。

焦り、しかし安堵。カマクビガメの甲羅は硬い。それはキングラウザーの切り下ろしをせき止めるだけの防御力があったのだ。

 

だがココでブレイドの装甲。スラッシュリザードが光る。

するとキングラウザーが光に包まれ、直後、刃がまるでカステラを切るように甲羅へ進入していく。

 

 

「ゴガァアァ!」

 

 

さらにビートの力。

ブレイドの拳が甲羅を粉々に粉砕する。こうなると前も後ろも関係ない。

混乱してなんどか振り返るカマクビガメに、次々と黄金の刃が刻まれていく。

 

 

「グガァ! ンヌゥウゥ!!」

 

 

気づけば、夜だった。

巨大な月の下、黄金の一閃が次々に迸る。

そして"降ってくる"コウモリ。カマクビガメの脳天のキバの足裏が直撃し、直後踏み潰されるようにして地面に叩きつけられた。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ダークネスムーンブレイク。カマクビガメの悲鳴を聞きながら、ブレイドは後ろへ跳ぶ。

するとつい先程までブレイドが立っていた地面が陥没し、キバの紋章が地面に刻まれていた。

その中央にいたカマクビガメは既に爆散し、跡形も無く消え去っている。

 

 

「……え?」

 

 

加古は、尻餅をつき、絶望したように声を漏らす。

赤ちゃんが、弟が、化け物だった。

 

 

「なんて――、本当は分かっていたでしょうに」

 

 

キバは加古を指差す。

 

 

「貴方はもう思い出している。違いますか?」

 

「それは――」

 

「縋りつくのは今か? これは夢だぞ」

 

 

ブレイドは後ろにある家を剣で指し示した。

大きな家だ。広い庭だ。それはまさに分かりやすいお金持ちの姿。成功者の証だ。

加古は頭を抑えて呻きだす。こんな家は――、幻想だ。そうだ、本当はもっと狭くて、ボロくて、臭くて、そういう家に住んでいた。

だってお金がなくなってしまった。お金がなくて、それは元々ないワケじゃなくて無くなったのだから普通の貧乏よりもずっと辛く。

だから、だから――

 

 

「選びなさい。加古」

 

 

選択肢は二つ。

ブックメイカーの役割を放棄し、キバ達に協力すること。

そうすれば殺しはしないし、戦いが終われば元の世界に返す。

そしてもう一つ。それは強力を拒み、今この場でキバ達に殺されるかだ。

 

 

「そ、それは――、でも……!」

 

 

加古の脳に浮かび上がる現実の世界。

奪われ、弱者となり、貧しく、みすぼらしく、惨めだったあの日々に戻るのか。

加古は貧しかった。だからこそブックメイカーは見せた。裕福な中で生きる素晴らしさを。

 

 

「う、ウゥウゥゥウ!」

 

 

迷う。そして浮かんでしまう。

ブックメイカーを裏切ればこの理想たる世界は消えてしまう。

ならば、ライダーが負けるほうに賭けるのもありなのではないかと。

 

 

「そこまでだ! ライダー共!」

 

「!」

 

「余計な情報を与え、眼を困らせるのは止めろ」

 

 

赤いマントを翻し、ディケイド達に向かってくるのはショッカー首領三世。剣を両手に構え、不適な笑みを浮かべている。

追従するのは無数の戦闘員や怪人達。ディケイド達はため息をつき、拳を握り締める。

 

 

「紅、剣崎!」

 

「ええ、分かっています」

 

「足を引っ張るなよ。ディケイド」

 

 

そしてショッカー首領は剣を振るう。

 

 

「さあ、消去しろ!!」

 

 

吼え、走り出すライダー。

怪人達もまた同じくして地面を蹴り、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃぁあぅん!」

 

 

情けない声をあげながら、電王プラットフォームは壁に叩きつけられた。

 

 

「良太郎!」

 

 

叫ぶハナだが、彼女もとてもじゃないが余裕とは言えない。

そもそも変身できない彼女が今まで電王を守りながら戦っていたことが奇跡のようなものだ。

必殺技ほどの大技を持たないハナでは怪人達を消滅させることは難しい。殴れども殴れども、起き上がってくる異形。

 

そして気づけば周りにいた守るべき園児たちが消えていた。

どこに? 決まっている。はじめから園児などいなかった。

怪人が足りなくなったら補充される。皆異形となり、電王を、ハナを引き裂こうと走り出した。

 

 

「うあ゛ッ!」

 

「ハナさん!」

 

 

怪人、ガニコウモルの爪がハナの肩を抉った。

血が飛び散り、電王の声色が変わる。

とは言え、電王もまた他の怪人に殴られ変身が解除。倒れた良太郎はそのまま押さえつけられ動くことができない。

 

 

「―――」

 

 

言葉を失う。

ダメだ、どうすれば――……、ひたすらに力を込めるがビクともしない。

 

 

「ハナさ――」

 

 

そこで銃声が聞こえた。

 

 

「!?」

 

 

怪人達の身体から火花が散っていき、さらに大きなシルエットが飛んでくる。

それはガニコウモルの眼前にて着地すると、鉄拳で胴を打ち、吹き飛ばした。

なんだ? 電王が立ち上がると、そこにはタイヤのようなガトリングガンを持った機械人形が立っていた。

 

 

「!?」

 

 

さらに怪人達の動きが止まっていく。

紅い光に良太郎とハナは目を細めた。怪人達に円錐状のエネルギーが張り付いていたのだ。

ともあれば一瞬だった。怪人達が爆発していき、浮かび上がるのはΦのマーク。

 

 

『3』『2』『1……』『Time Out』

 

 

そして、爆炎の中に一人だけ立っている者が。

仮面ライダーファイズ・アクセルフォーム。

 

 

「大丈夫か? 良太郎、ハナ」『Reformation』

 

 

フォームチェンジの解除。さらに変身の解除。

30代くらいの男性が――、乾巧が姿を見せる。

 

 

「なんか、厄介な事に巻き込まれちまったな」

 

 

面倒そうに頭をかき、巧は幼稚園に上がる小さな段差に腰掛けた。

 

 

「キミは……」

 

「おいおい忘れちまったのかよ。覚えてんだろ。ファイズだ」

 

 

風が吹き、巧は鬱陶しそうに目を細める。

さらに爆発音が聞こえてくる。オートバジンが先に感知したのか、飛び上がり、飛行を開始する。

 

 

「また敵か」

 

 

気だるそうに立ち上がると、ファイズフォンを弄りながら歩き出す。

 

 

「お前らはそこで待っとけ。ちょっと片付けてくる」

 

「……あの、ぼくも」

 

「いい! いい! 邪魔だ!」

 

 

そう言われては仕方ない。

良太郎は無人となった幼稚園の教室に入ると、端の方で体育座りを。

ハナは唇を尖らせ、目を逸らす。しかしすぐに前を見て良太郎の隣に座った。

 

 

「大丈夫? 良太郎」

 

「……うん。あ、ハナさんこそ」

 

 

バツが悪い。良太郎よりハナの方が怪我をしているのが皮肉だった。

 

 

「ごめん」

 

 

申し訳なさそうにうな垂れる良太郎を見て、ハナは思わず吹き出してしまった。

だってそうだろう? 何について謝まられているのか、心当たりがありすぎて。

 

 

「ハナさんは、ココに来ちゃいけなかった」

 

「ああ、その事。それなら謝る必要なんてないよ。だって――」

 

 

ハナは良太郎に微笑みかける。

 

 

「あれは、私の意志だもん」

 

「……っ」

 

「一人になんてしておけないよ」

 

 

オラクルに負け、引きずり込まれた良太郎へハナは手を伸ばした。

そして掴み、離さなかったからこそココにいる。

 

 

「良太郎はほら、優しいから、心配だし」

 

 

あっけらかんと答えるハナだが、良太郎はなぜか表情を歪ませた。

思わず、ハナも言葉をとめる。優しいのは良く知っている。なのに今の良太郎の表情は知らない。

歪み、屈折し、唇を噛む。

 

 

「分かってないよ」

 

「え?」

 

「ハナさんは、ぼくのこと!!」

 

 

珍しく声を荒げるものだから、ハナは怯んでしまう。

 

 

「ど、どうして。あ、あの、わたし何か気に触ること言った?」

 

「どうしてぼくだけ苦しまないといけないの!」

 

「え? えッ?」

 

「誰も何も分かってない! だって僕は――ッ!」

 

 

その時だった。

バイクのエンジン音が聞こえたのは。

 

 

 

 

 

【新番組!】

 

 

俺の名前は塩枡(しおます)射家男(しゃけお)! ただのしがないシェフだった。

 

謎のワンダフルパワー。

ギョギョギョストーンを体に取り込んでしまい、不思議な力に目覚めたんだ。

 

ある日、ネットでバブみを感じてオギャると言うワードを見た時、全てが始まった。

 

謎の力でイクラサイズになれた俺は、ある希望に目覚める。

それは、人間の中でもっとも柔らかい(俺が捌いた感想なのであしからず!)女子高生の子宮に入り、その状態で通常サイズになれば、腹を突き破って誕生できるのではないかと言うことだ!

 

俺はイクラを食らう人間が大嫌いだ。

 

なぜならばイクラと言うのはタマゴであり、誕生を司るものだからだ。

だが人間を理解したいと願う俺は、俺自身が誕生することを理解すればおのずと真理にたどり着けるのではないかと思う!

 

そうだ、俺が生まれればいいんだ。

女子高生ママを見つけて腹を突き破り誕生を繰り返す。これが生命を司る俺の答えに違いない。

 

そうだ、人間は皆ママなんだ。

男は食材だから除外するとして、俺は全ての女の子から生まれてやる。

そしてそれを経て、俺は真の生命を理解し、食材をより美味しい料理に昇華できる。

 

そうだ、俺はアーティストだ。

 

 

「さあ! 調理開始!」

 

 

【アーティスト:Anisakis OPテーマ:PONPONITATATA】

 

 

こうして、女子高生の体内に入り、肉体を突き破って誕生を繰り返すことを望んだ射家男。

サーモンドライバーを使い、彼は変身する。

 

 

「大将シャケ頂戴!」『アイヨー!』

 

 

全ては、希望のために!

 

 

「変身!!」『ヘイオマチ! シャケザケサケザケシャケテンナー!』

 

 

戦う敵は、カスザコライダー。

クウガ(笑)ダブル(笑)ディケイド(大爆笑)。

センスの欠片もないカスザコパチモンライダー共を蹴散らし、希望を齎せ! 僕らの仮面ライダー!

 

 

「全ての人間は、俺が調理する!」

 

 

新番組、仮面ライダーシャケフレーク!

 

 

このあとすぐ!

 

 

「なん――ッ!?」

 

 

なんだこれは。

良太郎とハナの脳裏にフラッシュバックする謎の映像。

仮面ライダー? シャ、シャケ――?

 

 

???

 

 

「変身ッ!」『ヘイオマチ! シャケザケサケザケシャケテンナー!』

 

「!?」

 

 

壁をバイクが飛び込んできた。

大きな角が生えた"焼肉バッファロー"に跨るのは、紅に染まった装甲を持つ戦士。

 

 

「野上良太郎だな」

 

「き、キミは……?」

 

「仮面ライダー」

 

「え? え……!?」

 

「俺は、仮面ライダーシャケフレーク」

 

 

仕組みさえ理解していれば、作り方は簡単だった。

アマダムがクロスオブファイアを用意し、それをサケアマゾンへ埋め込む。

適応までには少し時間が掛かったが、クロスオブファイアは毒とは言えずリジェクションが起きることはほとんどない。

つまり、時間さえあれば誰でも適応者になれるということだ。

 

あとはそれをブックメイカーが活性化させた。

燃えあがった炎に相応しい設定(どうぐ)を与えてあげた。後は特別語るほどのことではない。

 

 

「カメンライダーが始まれば、みんな私――、俺のようになる事ができる。素晴らしい」

 

「ッ!」

 

 

理解した。

つまり、ブックメイカー側。

 

 

「あとは野上良太郎。邪魔なお前を倒すだけだ」『タイショー!』『炙り捌き包丁!』

 

 

光る! 鳴る! DX炙り捌き包丁!¥8500。商品化されましたら是非。

大きな包丁を構え、シャケフレークは歩き出す。

 

 

「逃げてハナさん!」

 

 

本能で危険を察知し、良太郎はプラットフォームに変身。

ハナを庇い、シャケフレークの前に立つ。

 

 

「炙りサーモンにチーズはいらない派ですスラッシュ!!」

 

「うわぁあああああああああ!!」

 

 

黄色の斬撃を発射する技、"炙りサーモンにチーズはいらない派ですスラッシュ"が炸裂し、電王の体から火花が飛び散る。

怯んでいる間に距離が詰まる。刃が大きく振るわれた。

 

 

「炙りカルビ!」『OK!』

 

「うわぁ!」

 

「炙りカブリ!」『MISS!』

 

「ふぁあ!」

 

「アビルカビュゥ!」『FUCK!!』

 

「んあぁあ!!」

 

「噛んだだろうがァアアアアアア!!」

 

「ぁぁああぁあぁあ!!」

 

 

連撃が決まり、プラットフォームが粉々になる。

気づけば玄関前に放り出されていた。硬い地面に倒れる良太郎。血を吐き出し、目を細める。

 

 

「弱すぎワロタ!!」

 

 

シャケフレークは良太郎の肩を踏みつけ、骨を砕く。

良太郎から悲鳴が上がった。ハナは反射的に助けようとするが――

 

 

「お前は女子高生ではない。私は女子高生を望んでいる」

 

「!」

 

「女子高生の子宮を泳ぎ、それを突き破り血まみれにする。それが希望」

 

「ぐッッ!」

 

「バブーッッ!!」

 

 

言っている意味が欠片も理解できないし、あまりにもふざけた雰囲気。

しかしそれとは裏腹に、今までの怪人とは違い、隙が無い。

 

ハナは多少『力』に任せた『ゴリ押し』に自信があったが、それが通用する気がしない。

少しでも間合いに入れば長い包丁で腕でも腰でも吹っ飛ばされる。

そんな殺意を感じ、ハナの足が止まった。

 

 

「電王、噂に聞いていたとおりの弱さだ」

 

 

良太郎を蹴り飛ばし、シャケフレークは笑う。

 

 

「ただオリジナルと言うだけで神格化されていたようだが、所詮ベールはがれれば、この程度!」

 

 

弱く、脆く、実績は全て過去。

 

 

「もはやお前達の価値など錆びつき、汚れていくだけ。だが俺は違う。俺は新しい力を手にし! 仮面ライダーとしてお前達の下らない歴史を塗りかえる!」

 

 

そうか、そうなのか。

良太郎は理解した。

これが、『カメンライダー』なのか。どうやら根本的なことを忘れていたようだ。

 

いや、違う。仮面ライダーを理解していなかった。

変身する人間が皆、善人なワケがない。良太郎だって知っているはずなのに、忘れていた。

 

仮面ライダーと怪人は同一。

 

そう、怪人。

 

量産されるのは善でも悪、ただの殺戮兵器。

 

 

「………」

 

 

良太郎は、立ち上がった。

呼吸荒げながら、青ざめた表情で立った。

 

 

「―――」

 

 

罪の重さを感じたからだ。

寝転んでいたままだと、押しつぶされる。

なぜ平成一期だけが終焉の世界に引きずり込まれたのか。直前になってディケイドがダブル達を助け、逃げたから。と言う理由が一つ。

そしてもう一つ。それは平成一期が纏められるからだ。ディケイドだけは異質だからこそ逃れることができたが、他はそうじゃない。

 

だからつまり、一期の中に所謂『癌』がいたからだ。

 

それが皆の足を引っ張り、一期と言う括りを終焉の星に引きずりこんだ。

スポーツやゲームで言う戦犯、足を引っ張る存在。

それが、それこそが――!

 

 

『野上良太郎。僕ははじめにお前に声をかける』

 

 

世界融合が始まる前。

その前に、電王の世界にブックメイカーがやって来た。

姉が経営するミルクディッパーで、ブックメイカーはコーヒーに口をつけた。

 

 

『不幸に生きる毎日は幸せだったかい?』

 

 

姉は消えていた。

世界は宇宙だった。

 

 

『キミの物語を確認させてもらった。コメディの仮面をつけていても、キミの人生は酷く悲惨だ』

 

 

財布に住所や名前をつけなければいけない毎日なんてゾッとする。

 

 

『ましてや家族には利用され、なによりも――』

 

 

呪いが張り付いた。

永遠に戦い続ける呪いが。

 

 

『その呪いはキミでは終わらない。キミの血筋、未来永劫約束された苦痛』

 

 

放棄するには、簡単だ。

その魂を差し出せばいい。

 

 

『いつまで迷っている? ヘラヘラ笑ってないで、自分のやりたい事くらい、いい加減に自分で見つけろ』

 

 

だから――、だから。

 

 

「………」

 

 

嘆いているのか。

悲しんでいるのか。

今、その罪の重さに気づいたことを。

 

 

「変身――ッ」

 

 

プラットフォームはシャケフレークの腰に掴みかかった。

けれども、スペックが違う。ましてやその中に在るクロスオブファイアの熱量も。

シャケフレークは間違いなく仮面ライダーだ。電王もライダーとは言え、その存在は同一。同じ場所に立っている。

 

 

「シャケライダーパンチ!」

 

「うぐッ!」

 

「ムニエルキック!」

 

「ガハァア!」

 

 

プラットフォームでは相手にすらならない。

地面を転がり、ダメージからか変身が解除される。良太郎は血を撒き散らしながらうめき声を上げていた。

 

 

「無様な姿だな。野上良太郎。格好悪いにも程がある」

 

 

だがシャケフレークはカッコいいのだ。動けばカッコいい。

残念だ。この魅力溢れるムーブを見せられず。

 

 

「これより先、多くのライダーが誕生する」

 

 

仮面ライダーシャケフレークだけではない。

たとえば仮面ライダーブリパーティ。仮面ライダーマグロカブト。仮面ライダーイカニギリ。

 

これだけには留まらず。

オリジナルと呼ばれる――、つまりクウガや電王、フォーゼやウィザードも誕生していくだろう。

シャケフレークは『カメンライダー』の欠片を示しただけにしか過ぎない。

多くの人間が自由に仮面ライダーの力を手にする。そう言った象徴がまずはこのシャケフレークにはある。

 

 

「電王。お前の世界はアホばかりだな。だからお前のファンもアホに違いない」

 

 

だからこそ教えてあげなければならないのだ。

電王など所詮、アホでしかない。イマジンが弱いだけで本当は弱い。

 

 

「だからこそ!」『カタパッド!』

 

「グッ!」

 

 

立ち上がった良太郎に迫る肩。

咄嗟に変身するが、あまり意味はない、かも。

 

 

「お前は今ココで醜く負ける!」『モグラ!』

 

「うあぁ!」

 

「そうすれば人は理解する!」『タワー!』

 

「ぎゃあ!」

 

「シャケフレークは電王より強いのだと!」『テッパン!』

 

「うひぃぃ!」

 

「電王よりも素敵なのだと!!」『バクダン!!』

 

 

変身が解除される。

良太郎へ渾身のボディーブローが炸裂した。

 

 

「シャケフレークの時代だ!!」『ヘビーッ!』

 

「がぁぁ、ゴフッ!!」

 

「これがッ、必殺の! 一撃!!」『コウモリ!』

 

「ん――ッ、がぁぁぁッ!」

 

「絆の一撃だ!!」『グリル!!』

 

 

必殺技、サーモン8連撃が決まった。

血を吐き出し、良太郎は地面を転がっていく。

ハナの悲鳴が聞こえた。もうダメだ、これ以上は良太郎が死んでしまう。

助けに行こうと走り出したとき、腕を掴まれた。

 

 

「行くな。死ぬぞ!」

 

「ッ!」

 

 

ファイズだ。

 

 

「良かった! お願い、良太郎を助けて!」

 

「………」

 

 

そうするべきだ。

べき、なのだが、ファイズは首を振った。

 

 

「え!? ど、どうして!!」

 

「どうしてもだ、ほら、行くぞ!」

 

 

引っ張られる。ファイズの力には勝てない。

しかしハイそうですかとは納得できない。当然だ。どう考えてもあのまま良太郎を放置すれば本当に死んでしまう。

だから少し抵抗してみるが、無駄だった。

 

 

「助けても死ぬ!」

 

「え……?」

 

 

そんなバカな。ハナは良太郎を見る。

ほら、あんなに傷ついて。ボロボロで血まみれで。

けれども、どうして? ハナは理解できなかった。

良太郎は、立ち上がっていた。

 

 

「ッ?」

 

 

これにはシャケフレークも首を傾げる。

まるで何度倒れても起き上がる達磨のようではないか。

なんだ? シャケフレークは危機を感じる。まずい、これでは報告にあったとおりだ。

 

 

(クロスオブファイアか……?)

 

 

正解だ。

だがそんな高尚なものではない。

良太郎が立ったのは、ただの罪悪感に他ならない。

受け入れたのは――、あまりにも軽い気持ちだった。不満がないワケがない。なぜ好き好んで不幸体質として生きたいものか。

 

 

「………」

 

 

両親は死に、姉は記憶喪失、姉の婚約者は行方不明。

高校を中退し、毎日喧嘩に巻き込まれたり、カツアゲされたり、乗り物に乗ればほぼ確実に酔い。

あげく、姉達に利用されていた。と。

 

そして電王として命を賭ける戦いに参加。

なんとか終わったと思えば、ファイナルだとか、刑事にもなったし、ああ、ああ、ああ。

 

未来永劫続く戦いへようこそ良太郎。

 

い、いやだ。そう叫んだのがスイッチになった。

別に深くは考えていない。ただなんとなく、なんとなくイヤになった。それだけだ。

 

 

「スパイラルサーモン!!」

 

 

肉が飛び散り、良太郎は地面に倒れた。

だから、解放された。誰よりも早く。

カメンライダーを受け入れたからこそ、良太郎は消え去った。しかし今、流れる記憶が戦いをサルベージしていく。

そう、そうか、あったんだな。自分が知らない、自分がいない戦いがたくさん。

続いていくのか。仲間に投げ渡して。

 

 

「………」

 

「お前……」

 

 

良太郎は立ち上がった。プラットフォームになり、フラフラとシャケフレークに向かっていく。

申し訳ないと、思う。

鬼ヶ島とか、小太郎とか。ヒーロー大戦なんか、いろいろ。

 

 

「………」

 

 

装甲がバラバラになり、良太郎の体に突き刺さる。

痛い。苦しい。もうイヤだ。もう止めたい。もう辛い。怖い。戦いたくない。

そんな――、思いを、背負わせたのか。

罪を、責任を、呪いを投げたのか。

 

 

「………」

 

 

みんなに。

 

 

「サーモンッ! キィィイィク!!」

 

 

良太郎は放物線を描いて吹き飛んでいった。

これもまた贖罪でしかない。

ごめん、モモタロス。ウラタロス。キンタロス。リュウタロス。ジーク。

侑斗。デネブ。幸太郎。テディ。

 

 

ぼくは、ぼくは……!

 

 

(逃げたんだ)

 

 

とんでもない世界だ。

とんでもない世界だった。良太郎の心の声がまさか聞こえるなんて。クロスオブファイアが共鳴しているのだろう。

今、良太郎が考えることが耳を通してなのか、それとも脳を通してなのか、ハナやファイズに聴こえてきた。

 

 

「良太郎――ッ!」

 

 

ハナは口を抑え、ボロボロと涙を零す。

こんな言い方はおかしいかもしれない。語弊があるかもしれない。

と言うよりもハナ自身どんな捕らえ方をしたらいいのか、分からない程、感情がグチャグチャだった。

 

けれども今はただ、ただ強く良太郎を抱きしめたかった。

今すぐ良太郎を抱きしめ、一切の苦痛から守ってあげたかった。

 

ああ、なんて事だ。彼は、今、逃げたといった。

呪いではないか。コメディの仮面で隠した、狂いそうになるほどの絶望。

なのに良太郎は『逃げた』と認識していたのか。

 

じゃあ一体どうすれば、良太郎は楽になれると言うのか。

カメンライダー? 本当に? 本当にソレでいいのか。ハナは今すぐブックメイカーに会って文句を言いたかった。

この良太郎が味わう今の苦痛は、そんな簡単になかったことにできると思っているのか。

 

 

「………」

 

 

良太郎は立ち上がった。

血が落ちる。涙が零れる。

 

 

(ゴメン、モモタロス……! ぼくは、ぼくは――ッ!)

 

 

唇が震える。

堪えようとしても涙が出てきた。責任だけを投げた。彼は、彼らは戦い続けたのに自分だけ。

 

そして、このザマだ。

 

幼稚園の先生として生きる日々は悪くなかった。

だが、自分がライダーだったから、その子たちも無駄に苦しめた。

何も守れなかったのだ。

 

 

「全部――、ぼくの、せいだ……!」

 

「違う!」

 

 

ハナは叫ぶ。

殴られ、倒れる電王。

砕け、変身が解除される。良太郎は血を吐き、涙を流した。

 

 

「もういい、もういいよぉ! もういいって良太郎! これ以上――ゥ!」

 

 

ハナに向かってシャケフレークが歩く。

その足を、野上良太郎は血まみれの腕で掴んだ。

 

 

「ハナさんには手を出すな」

 

「良太郎止めて! もういいから! もう良太郎は戦わなくても――ッ!」

 

 

蹴り飛ばされ、地面を転がる良太郎。

ハナは膝を折り、涙を落とす。

 

こんな事があっていいのか。

 

ハナの先、シャケフレークの先。

 

良太郎は、立ち上がったのだ。

 

立ち上がってしまうのだ。どれだけ止めてと叫んでも。

 

 

「ぼくは、ぼくは……!」

 

 

涙で歪んだ視界に、消せない炎を見た。

 

 

「ぼくは――ッ!」

 

「言わないで! 良太郎!!」

 

 

ああ、自分が背負えてあげたらどれだけいいのだろうか。

一度拒んでも、また、戻る。戻ってしまう。

戻らされる。

 

 

「ぼくは、仮面ライダーだ」

 

「ハハハハ! 過去に縋るか! 愚かなカスライダーめ!!」

 

 

確かに、クロスオブファイアは厄介だ。

とは言え、対処できないワケじゃない。なぜならば心の炎を折るには、心を折ればいいワケだ。

 

その最も簡単な方法とは何か? 誰でも分かる。痛みだ。痛みと苦痛が、純粋な心を砕くのだ。

だからこそ完膚なきまでに叩きのめし、敗北を、死を味あわせればいい。

一度死んでもこの世界なればクロスオブファイアを媒介に蘇るだろうが、問題はない。

何度も殺す。殺して殺して殺して殺して殺す。

そうすれば立ち上がる気力などなくなる筈だ。だから問題はなかった。

 

 

「ちくしょう! 初めは女子高生が良かったが仕方ない! お前が最初の犠牲者だ!!」

 

 

シャケフレークは縮小し、球体状のエネルギー、イクラ体となり、良太郎のもとを目指す。

鼻でも耳でも口でもなんでもいい。とにかく体内に割り入り、そこから腸や胃にでも到達すれば、あとは元の大きさに戻ればいい。

そうすれば良太郎は終わりだ。肉片飛び散らせ、肋骨を吹き飛ばし、死を迎えるだろう。

 

 

「――ゥ」

 

 

良太郎はそれを理解した。

きっと、殺される。

モモタロス達は――、もういない。だって自分が拒んだのだ。否定したのだ。

もういらないから、もうやめてくれ、もうこないで、そういう風に選んだのは自分だ。

 

だからムリだ。殺される。

仮面ライダーを拒んだんだ。だからムリだ。

仮面ライダーじゃない偽物が、仮面ライダーには勝てない。

 

 

 

 

 

 

だから。

 

 

 

 

 

だから――

 

 

「やめてェエ! 良太郎ッッ!!」

 

 

掠れるほどにハナは叫んだ。

 

なぜ、彼は。

 

彼らは――ッ!

 

 

「なりたいなぁ、仮面ライダーに……!」

 

 

良太郎は、そう口にした。

してしまったのだ。

呪われたいと、口にしてしまったのだ!

 

 

「!?!?!?!?!?!?!」

 

 

拳が飛んできた。

シャケフレークは衝撃と共に吹き飛び、元のサイズに戻ると地面に墜落する。

背で地面を擦り、煙を上げながら良太郎から離れていく。

 

良太郎――、否。

 

 

「おい、シャケ野郎。ウチの大将に何やらかしてくれてんだ? アァん?」

 

 

逆立った髪に映える、赤いメッシュ。

 

 

「え?」

 

 

立ち上がったシャケフレークの顔面ど真ん中にストレートパンチが抉り刺さった。

 

 

「ォんビゅッ!」

 

 

情けない声をあげて後ろへぶっ飛ぶシャケフレーク。

一方、良太郎は殴った腕を見て、鼻を鳴らした。

 

 

 

不思議な空間だった。

シャケフレークは視界にはいない。気づけば、良太郎は電車の中でシートに座っていた。

 

 

「………」

 

 

見覚えはあった場所。座りなれたシートとは思えなかったのは、それだけ座っていなかった証拠。

窓の外はいつもの虹色の空ではなく、西日が差し込んでいる。

 

どういう光の屈折が起こっているのかは知らないが、良太郎は隣に座っている者を目視できない。

夕焼けが逆光となり、シルエットしか確認できなかった。

 

ましてや仮に光が無かったとして、良太郎には何も見えなかったであろう。

もはやその瞳からはとめどなく涙があふれ出てきて、良太郎はさきほどから声をあげずに泣いていた。

シートに揺られ、ただ声もなく泣き続ける。

 

唇が震える。言葉が出てこない。代わりに涙ならいくらでも出てくる。

なぜ泣いているだろうか。もはや悲しみで心は埋め尽くされて何も分からない。たとえばそれは自分の人生だろうか。

人並みに文句を言えたはずだった。あまりにも酷い家庭環境と運の悪さ。

それを受け入れていたのは世界に文句を言うこともできないただの臆病さからか。

 

いや違う。そもそも情熱など何も無かったのかもしれない。両親が死んだときからネジは外れていた筈だ。

世界に起こることは何も特別なことではなく、喜びも悲しみもただそこにあるだけで、人生には何の意味もない。

そんなニヒリズムを抱えて生きてきた。そうすればどんなに辛い事があっても、ただそこにあるだけと認識できて、心は壊れない。

自分を守るために不運を受け入れ、喜びもないものと考えた。

 

だからこそ、毎日はただそこにあり、何の事無く過ぎていく。

唯一望んだのは姉の幸せだけ。自分はどうでもいい。なぜならば自分の人生などとっくに終わっているからだ。

生きていく意味は姉のため、死んでは姉が苦しむ。だからこそ姉が死んだときには電車にでも飛び込めばいい。

不運を理由に。

 

 

「そんな生き方、楽しいのかよ」

 

 

影が喋った。すぐ近くにいる影が。

二本の角が見える。良太郎はおうおうと泣いた。

 

 

「―――」

 

 

楽しかったのだ。あの日々は。苦労もさせられたが、なんだかんだと充実していたから。

はじめて自分の人生を歩めた気がした。友達だった、仲間だった。ああ、いや、家族だったかもしれない。

 

 

「ごぇん」

 

「あ?」

 

「ごべん――ッ、ごべん……! ぼんどうに゛ッ、ごめん――ッッ」

 

 

しかし、手放した。

なぜ、なぜだ。分からない。ただ何となく、ちょっとだけ、ふと、疲れてしまった。だからつい、手放してしまった。

 

その結果、『彼ら』を売ることになった。

自分がのうのうと生きている間、彼らはどれだけ戦ったのだろうか。

どれだけしなくてもいい苦労をかけさてしまったのか。

 

 

良太郎出せないなら、もう止めちまえよ

 

良太郎いない電王とかマジでゴミだから

 

良太郎がいない電王は電王じゃないと思ってる

 

 

どれだけ、望まれぬ戦いを与えてしまったのか。

果てしない喪失感に苛まれ、良太郎はただ涙を流すだけだった。

 

 

「んな事、はなから気にしちゃいねぇよ」

 

 

影はそう言って笑った。

 

 

「コッチは元から戦いてぇから契約したんだ。イチイチ周りの意見聞いて凹んでるタマだと思うか?」

 

「それは――、でもぉ」

 

「あぁ、もう、メンドくせぇな! いつまでもウジウジ泣いてんじゃねぇよ!」

 

 

影は手を伸ばした。

鬼が書かれたハンカチがあった。

 

 

「これ――」

 

「バン●イの野郎共が出したんだ。小銭稼ぎだな。俺に許可なく出しやがってちくしょう。一割よこせってんだ。なぁ?」

 

 

そう言いながらも、影は笑った。

良太郎が顔を上げると、そこにはモモタロスが立っていた。

 

 

「久しぶりだな。良太郎」

 

「あ、あ、あ……!」

 

「ちょっと見ねぇ間に、でかくなったじゃねぇか」

 

 

以前オラクルに負けたとき?

いや、いや。違う。そうだろう? もっと、ずっと、会っていなかった。

そういうものだ。そういうものなんだろう。

 

 

事務所が――』『黒歴史』『売れたら――

 

 

狂ったように求められる概念。現実が創作を引っ張り、創作が現実を侵食する。

それが良太郎をミキサーする。細かく砕けた自分のパーツは良太郎を苛み、自分が誰なのか。何をすればいいのか。良太郎とはそもそも何なのかを狂わせていく。

だがその中で、変わらない人がいてくれるというのは何よりも嬉しいものだった。(まあ、人ではないが……)。

 

 

「あのな良太郎。疲れたんなら別にお前は休んでもいいんだ。ああ、そっちのほうが良い。コッチはただでさえ、他にいろいろ変なのがいるんだ。なるべく人数が少ないほうが俺が戦える」

 

「うぅぅぅぅ」

 

「なんだよまだ泣いてんのか。お、おいおい、いろんなモン零れてんぞ。キタネェな……」

 

 

何で泣いてるんだ?

ははあ、分かったぞ。羨ましいんだな。お前も遊びてぇんだ。

 

 

「だったらよ――! また一緒に遊ぶか! な!」

 

「―――」

 

 

良太郎は光を感じた。

目の前に、強い、強い、光を。

 

 

「なに驚いた顔してんだ?」

 

 

難しいことなどいらない。

 

 

「お前の場所は、とってあるぜ」

 

 

ただその光を求めれば良い。

そんな道しるべ。分かりやすい"味方"。気づけば、釣られて笑みを浮かべていた。

迷っているヒマは無い筈だ。戦いは、ほら、もうそこに。

 

 

「うん……! うん! ぼくも――ッ、一緒!」

 

「フッ! だったらよ。今日は――」

 

 

モモタロスは、良太郎の手を取って笑った。

頭をポンポンと優しく叩き、引っ張り上げる。

 

 

「俺とお前の、ダブルアクションだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『SWORD・FORM』

 

「!?」

 

 

赤い旋風が巻き起こる。

 

 

「俺!!」

 

「お前は――ッ!」

 

「参上ッ!!」

 

 

赤、とてつもなく赤い。

まるで世界を染め上げるような激しい(ほのお)

仮面ライダー電王は、そこにいる。

 

 

「覚悟しろよ。シャケ野郎。今日の俺は――」

 

 

訂正。首を振る電王。

 

 

「いや。今日の俺達は、徹底的にクライマックスだからな」

 

「電王……! モモタロスか!」

 

 

シャケフレークは怯み、後退していく。

 

 

「おいおいビビッてんのか? ハッ、いいぜェ、そういうのが欲しくて今まで戦ってきたんだ」

 

 

一方、電王は前進。

ベルトにあるデンガッシャーのパーツをガチャガチャ弄り、あっという間にソードモードへ。

地面を蹴る電王。一歩、加速、また一歩、そして加速。

 

 

「行くぜ」

 

「!」

 

「行くぜ行くぜ行くぜェエエエエエッッ!!」

 

「ンンン゛ッ! 負けるものかァア!」

 

 

肩を大きく揺らし、走り出すシャケフレーク。

赤い刃と包丁がぶつかり合う。

だがここからの分岐。シャケフレークは競り合うつもりだったが、電王は違う。

 

 

「あっ」

 

 

シャケフレークからマヌケな声が漏れた。

剣が、弾かれたのだ。

 

 

「いたい!」

 

 

またも素の声。

電王の刃が、シャケフレークの装甲を抉る。

 

 

「いいぜぇ」

 

 

斬る!

 

 

「クッ! この――ッ!」

 

 

斬るッ!

 

 

「いいぜぇ!」

 

 

斬るッッ!!

 

 

「あぁ! いたい!!」

 

 

ただひたすらに斬るッッッ!!!

振るった剣がまた弾かれる。競り合いはノー。格下相手に均衡など無意味!

 

 

「体が軽ぃな!」

 

「おうふッ!」

 

 

電王のヤクザキックがシャケフレークの腹部を打った。

腹を抑えて後退していく敵へ、電王は距離を詰め、メッタメタに切りまくる。

 

 

「オラッ! オウラッ! オラララララ!!」

 

「イッ! イダダダダダダダダダダ!!」

 

「くぁー! やっぱ、良太郎の体は格別だぜ!」

 

 

ダメージに怯むシャケフレークの頭を掴んで頭突きを一発。

さらに回し蹴りでわき腹を打つと、さらに体を捻り、飛び回し蹴りで頭部を打った。

ふら付くシャケフレーク。視界に星が散る。

 

だがそこへ視界を埋め尽くすほどの赤。

エネルギー纏わりついた刃がシャケフレークの身を存分に切り裂き、悲鳴が生まれた。

 

 

「へっ! どうした? もうグロッキーかよ。俺はまだまだノーダメージだぜ?」

 

「ウッ! うぅう!」

 

 

シャケフレークは首を振り、舌打ちを零す。

 

 

「クロスオブファイアが覚醒したくらいで偉そうな事を言う!」

 

 

いいだろうか。電王は理解していない。

クロスオブファイアならば、シャケフレークも持っているのだ。

 

 

「その過信ッ、後悔させてやる!」

 

 

シャケフレークはイクラモードに変身。

小粒なエネルギー体となって電王の周りを高速で飛びまわる。

先程は直線だったので見切られただけだ。今は不規則な動きで飛行しており、事実電王もその姿を追えていないようだった。

さらにシャケフレークは自身にエネルギーを注ぎ込み、貫通力を跳ね上げた。これで突進をすれば電王の装甲を簡単に破壊し、体内に侵入できる。

 

 

「チッ! 見えねぇ!!」

 

「フハハハハハ! 死ねッ、電王ォオッッ!」

 

 

がら空きになった背中に突っ込んでいく。

しかし――

 

 

「おぎゃあああああああああああん!!」

 

 

突如裏拳が飛んできた。

背中に命中するはずが、振るわれた手の甲にヒットし、シャケフレークは跳ね返される。貫けもしなかったし、衝撃で元のサイズに戻った。

なんとか受身を取るものの、混乱はしたまま。

 

 

「な、なんで! 見えないって言ったじゃないか!!」

 

「言葉の裏には針千本」『ROD・FORM』

 

「!?」

 

「千の偽り、万のウソ」

 

 

電王の装甲が入れ替わり、青い電王に。

ロッドフォームはソードモードになっているデンガッシャーを分解すると、パーツの一部を空に放り投げる。

慣れた手つきで、組み換え、最後は降って来たパーツを装填。

するとデンガッシャーが伸長し、ロッドモードへ。

 

 

「それでもいいなら、お前、僕に釣られてみる?」

 

『ウラタロス……!』

 

「やあ、良太郎。久しぶり」

 

 

クロスオブファイアの共鳴。

それはまるで暗闇の中で位置を知らせる灯台のように。

だからこそ広い広い世界と言う海の中、モモタロスたちは良太郎を見つけた。

 

 

「随分酷くやられたねぇ」

 

 

その時、穏やかなウラタロスの声がドッと冷たくなった。

 

 

「おしおきしなくちゃ」

 

「ウッ! ウアァアア!!」

 

 

切りかかるシャケフレーク。

しかし電王はロッドでそれを受け止めると、ロッドを捻り、腕を絡め取る。

何がどうなったのか。まさに一瞬だった。シャケフレークの腕はロッドフォームに絡め取られ、関節技が入る。

 

 

「イダダダダダ!」

 

 

ロッドフォームはシャケフレークの背を蹴り、解放。

 

 

「ウッ! このッッ!!」

 

 

これが面白いもので、どれだけシャケフレークが包丁を振るおうとも電王はそれを回避、もしくは受け止め、気づけばカウンターの一撃が決まっている。

おまけにカウンターの突きがいやらしい。狙う場所はシャケフレークの関節部分。

特に膝が多く、確実に足がふら付いていく。

 

 

「ハァアア!」

 

 

横に振るわれた包丁を、電王は姿勢を思い切り低くして回避。

さらに通り抜けザマにロッドを低く振るい、敵の足を払う。

倒れるシャケフレーク、そこへ電王は容赦のない突きを浴びせていった。

 

 

「ギャアアアアアア!!」

 

「良太郎! 僕はよくウソをつく!」

 

 

それは良太郎もご存知のとおりだ。

 

 

「でもこれは本当だ!」

 

 

シャケフレークの悲鳴が足元で聞こえる中、電王は胸を抑えた。

 

 

「僕はキミが好きだよ」

 

『え!?』

 

 

驚く良太郎と、えずく声がシンクロする。

 

 

『なに気持ち悪ィこと言ってんだアホガメ!』

 

「フフフ。本当は女の子にしか言わないんだけど。まあ、今日は特別って事で」

 

 

それが、地獄を選んだ友人へ向けるせめてもの気遣いだった。

 

 

「チィイイ!!」

 

 

シャケフレークは地面を素早く転がり、ロッドを回避。

そして立ち上がり――、気づいた。足に違和感。下を向くと、脚に糸が絡みついているのが見えた。

 

 

「ハァアア!」

 

 

デンリールによって釣られるシャケフレーク。

到達点には電王の突き出されたロッドが待っていた。

 

 

「ギャアアアアアアアアア!!」

 

 

電王が狙ったのはシャケフレークの複眼。

青いエネルギー纏った一撃がシャケフレークの目を激しく打つ。

 

 

「目ッ! 目がぁああ!!」

 

 

顔を押さえ、うろたえる。

視界が歪む。だが安心してほしいと電王は言った。

 

 

「涙はこれでふいとけ!!」『AX・FORM!』

 

「!?」

 

 

紙ふぶきが見えた。

そしてツッパリが飛んでくる。シャケフレークの体が浮き上がり、気づけば後方にある幼稚園の壁に激突していた。

めり込み、破壊、室内へ侵入していくシャケフレーク。一方でキンタロスが憑依した電王は首をコキリと鳴らした。

 

 

「良太郎。久しぶりやな」

 

『キンタロス……!』

 

「なにしょげた声出しとんのや。男は元気があってなんぼやで!」

 

 

叫びが聞こえてきた。

相当頭にキテているのか、シャケフレークが罵詈雑言を叫びながら包丁を振り回してくる。

 

 

「まあ、せやけど、生きとれば辛い事も山ほどあるわな、そら」

 

 

特に良太郎なれば。

 

 

「せやから、良太郎」

 

『うん? あ!』

 

 

良太郎は見た。眼前にて振り上げられた刃を。

 

 

『危ないキンタ――』

 

「オレらが守っちゃる!!」

 

 

バキンッ! と音がして、包丁の刃が粉々に砕けた。

 

 

「えぇええぇ、うそぉおおぉぉん!?」

 

 

柄だけを握り締め、後退していくシャケフレーク。

電王の装甲の前には半端な攻撃は意味をなさない。

一方で電王はまるで攻撃など無かったようにノーリアクションで会話を続けている。

 

 

「お前にはオレらがついとるんや。何を心配する必要があるんや?」

 

『う、うん。でも――』

 

「"でも"やない! なぁに、任せとき! オレらはほら、あんま大きな声では言えんけどもアホばっかりや。ちょっとやそっとの事じゃ動じん!」

 

『聴こえてんだよ! アホはテメェ一人だろうが! ブッ飛ばすぞこの野郎!』

 

『いやッ、どう考えても二人でしょ! 先輩とキンちゃん! アホ、アホ! ダブルアホ! これ以上の説明いる!?』

 

『はい。えー、それではですね。今から喧嘩が始まります。オラァアア!!』

 

『あーッもう! やめてよ二人とも!』

 

「おうおう。ええな。やっぱ良太郎がおると、喧嘩もえらい楽しそうや」

 

「無視してんじゃぬぇえええええええ!!」

 

 

シャケフレークは柄を投げ捨てると、拳を構えて走り出す。

そしてフック、アッパー、ボディブロー!

 

 

「イッテェエエエ!!」

 

 

まるで硬い岩を殴っているようだ。

シャケフレークは腕を振って悶えるだけ。一方でその身につき入る重々しいアックスの一撃。

デンガッシャーをすくい上げるように振るうと、シャケフレークも合わせる様に飛んでいった。

 

 

「オレの強さに、お前が泣いた。涙はもう拭かんでええ。その前に終わりや」

 

「ふざけ――」

 

「答えは聞いてない」『GUN・FORM』

 

「おぶぁああああ!!」

 

 

吹き飛ぶシャケフレークの肉体から次々に火花が上がった。

地面に落ちるとき、立っていたのは紫の電王。ガンフォーム。

 

 

「今からお前ボコボコのメタメタのギタギタのグチャグチャにするけどいいよね?」

 

「……え!? いや、ダメに決まって――ッ、バオチッッ!!」

 

「答えは聞いてないって」

 

 

銃口から煙が上がる。連射で動きを止めつつ、電王は軽快なステップで距離を詰める。

そして舞うようにして浴びせる蹴り。ブレイクダンスを基調とした、カポエラのような足技がシャケフレークの全てを凌駕する。

 

 

「ねえ良太郎。ボクの事、覚えてる?」

 

 

少し不安げな様子でリュウタロスは問いかける。

そんな事ないよ――、とは、いえなかった。

 

 

『忘れるつもりだった』

 

 

けれど――

 

 

『忘れられないよ……』

 

「そっか……! えへへッ、いいよ、ボクもそっちの方が嬉しいし! お姉ちゃんにも会えるし!」

 

 

たとえ呪われていたとしても、これだけ手放せなかった。

それが良太郎の財産である限り。

 

 

「ボクは嬉しいよ。良太郎好きだし、お姉ちゃんは、もっと」

 

『そっか、ありがとうリュウタロス。ごめんね』

 

 

儚げな声だった。

思わず、同情してしまう。

 

 

「――良太郎の望みを言ってよ」

 

『え?』

 

 

けれども。

 

 

「どんな望みも叶えてあげるよ」

 

『……うん』

 

「良太郎が払う代償はたった一つ」

 

『うん』

 

「永遠に戦う事だよ」

 

 

それでも。

 

 

『いいよ。ぼくの望みは――』

 

 

良太郎は、その道を行くのだ。

 

 

『ぼくと一緒に、戦って』

 

 

返事はすぐだった。

皆バラバラの返し。けれども、声は重なっていた。

電王は跳ぶ。体を捻りながら空を舞い、銃口を下にむけて引き金をひいた。

弾丸が雨のようにシャケフレークへ降り注ぎ、悲鳴が聞こえる。

 

 

「――ッ!!」

 

 

ダメだ、殺される。負ける。

ノリが完全に向こう側にいっているではないか。危険だ、だから、だから――、シャケフレークの選ぶ道。

 

 

「焼肉バッファロー!」

 

 

バイクを呼び出し、飛び乗るシャケフレーク。

そう、撤退だ。逃げるが勝ち。シャケフレークはアクセルグリップを思い切り捻り、爆走スタートを切る。

ハナを、ファイズを華麗に通り抜け、幼稚園を抜け出す。電王は呆気に取られているようで、今からマシンデンバードを呼び出してもタイムラグはどうしても発生する。

その間に撒ける自信があった。

 

 

(クソ! クソッ! ま、まあいい! 今は逃げ、またクロスオブファイアを安定化させてからリベンジをすればいい! まったくッ、なんてヤツ等だ。私のシャケパワーがまるで通用しなかった。クソ、クソ! ちょっとオリジナルだからって調子にのりやがって――ッ! ああ、クソ!!)

 

 

そこで、気づく。

はて、幼稚園を出ての道、こんなに広かったか?

おかしい。車線が無い。ミラーも無い。見渡す限りのコンクリート。

 

 

「はれほれ?」

 

 

アホみたいな声が出る。

周りの草木、こんなに背が高かったものか。

そして、日陰。太陽が消えた。ふと上を見る。

 

 

「マジで?」

 

 

足が降ってきた。

シャケフレークはそこで気づいた。

イクラモードの時と世界が同じだった。つまり、縮んでいた。

小さくなっていたのだ。

 

 

「降臨! 満を持して……!」『WING・FORM』

 

 

ぷちんこ☆

 

 

「良太郎。そなたは我がお供たちが総出で守る。安心せい!」

 

『あ、ありがとう』

 

「うむ。ではこのお下劣なものを、まずは排除する」

 

 

潰されたシャケフレークはさらに蹴り飛ばされ、そこで縮小が解除される。

地面を転がり、ダメージにひたすら呻いていた。だからこそ周りを見る注意力が散漫になる。

 

 

『LINER・FORM』

 

 

ほら、立ち上がったときには光のレールが敷かれていた。

 

 

「ほ、ほぉおぉお!!」

 

 

理解する終わり。

それでもやはり恐怖しているのか。シャケフレークはパニックになり、ご丁寧にレールに沿って後ろへ逃げる。

それを追いかける電車のエネルギー。

 

 

「――ッ」

 

 

弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても。それは何もやらない事の言い訳にならない。

ライナーフォームはレールを滑り、デンカメンソードを構えた。

 

 

「電車斬りッッ!!」

 

「マッ! ママァアアアアアアアアア!!」

 

 

一閃。

 

 

「な、なぜだ!! どうしてココまでッ、力の差が!!」

 

 

上半身だけになったシャケフレークは最期の言葉を紡ぐ。

 

 

「決まってんだろ」

 

「!」

 

「場数が違ぇんだよ」

 

「ングッッ!!」

 

「それに――」

 

 

モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジークは、良太郎を守るように立っていた。

 

 

電王(おれたち)には、6人分のクロスオブファイアが入ってんだ。(ハート)の熱さが違うんだよ」

 

「そんな――ッ、バカなぁあぁぁあ!!」

 

 

シャケフレークは爆発し、跡形もなく消え去った。

 

 

「良太郎!」

 

「わ!」

 

 

ハナは変身を解除した良太郎へ、真っ先に飛びついた。

 

 

「おい! 何してんだハナクソ女! 良太郎が死んじまうだろうが!」

 

「そ、そうだよハナさん! ハナさんってば自分が思ってる以上に力が強いから!」

 

「うっさい! バカ!」

 

 

ダブルストレートで吹き飛ぶモモタロスとウラタロスは置いておいて。

ハナは力いっぱい良太郎を抱きしめる。

 

 

「は、ハナさん――ッ?」

 

「わたし、良太郎の傍にいる! ずっと傍にいるからね!」

 

 

なんと声をかけていいのか、ハナには全く分からなかった。

ただそれでも、少しでも良太郎の力になりたい。それは本当だった。

だからせめて彼が寂しくないように、未来を考えて不安にならないように、今は少しでも力になりたかった。

 

 

「おい」

 

 

そこで、同じく変身を解除した巧が気だるげに指をさす。

 

 

「大丈夫なのかそれ」

 

 

そこには、真っ青になって白目をむいている良太郎が。

どうやら相当強い力で絞められてたらしい。

 

 

「りょ、良太郎!? ご、ごめーんッッ!!」

 

「ハァ」

 

 

巧は呆れた様に首をふり、大きくうな垂れた。

 

 

 

 

 

 




tips

『エネミーデータ』


・十面鬼キュルキラ

キュルキラの部族では『首狩』の文化が常識とされており、その行為には霊的なモノが宿るとされ、神聖化されていた。
しかしその信仰心を利用し、キュルキラは私利私欲のために首を狩るようになっていた。
欲望と快楽に任せた行為に、次第に怨念が溜まり、キュルキラは怪物となった。
と、言う――


・仮面ライダーシャケフレーク

はじめまして、シャケフレークです。握手します?

私ね、思ったんです。
もし、仮面ライダーシリーズが終了するか、二度とサーモンが食べられなくなるかってなったら、どっちを人は選ぶと思いますか?
どっちを選ぶ人が多いと思いますか?

つまり、ええ、そういう事です。

まあ私シャケ食べてる人嫌いなんで、全員始末するんですけどね!

あ、あとやっぱりクロスオブファイアは凄いです。
これならエグゼイド達にもリベンジができますね。
あぁ、なんかちょっと電王とか言うヤツが見えたんで、ま、軽くシメてやりますよ。私鯖じゃなくてサーモンですけどね!
じゃあ、行ってきます。ハハハ!


………


次回未定。
タイトルの調子も次回か、次々回くらいに多分戻ります。

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