カメンライダー   作:ホシボシ

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突然ですが今回でラストです。



第23話 最終回

「「ォオオオ!!」」

 

 

咆哮が重なる。

走る男達はすれ違い様に刃を打ち付けあった。

 

 

「ウェイ!!」

 

 

散る火花。ブレイドはブレイラウザーを何度も振るい、三世もそこに刃を重ねていく。

唸る三世。明らかに先程よりも刃の威力が上がっている。

 

 

(なるほど、これがクロスオブファイアか。面白い……!)

 

 

競り合いが始まる。

だが双方まともに続ける気はない。蹴りを狙う三世。だがソレよりも早く、ブレイドはラウザーを展開してカードを引き抜いた。

 

 

『スラッシュ』

 

 

ピピピと音はなれど、ラウザーのメーターが減る様子はない。

ジョーカーとしてのレベルはさらに上がっており、ブレイドのシステムを完全に侵食しているのだ。

 

 

「ウォオ!」「ム!」

 

 

スラッシュリザードの力を得て、ラウザーの攻撃力が上がる。

競り合いの中に、ブレイド優勢の兆しが見えた。だからこそ出鼻をくじく必要性がある。

だがその時、新しいシルエットが見えた。

 

 

「失礼します」

 

「ああッ! 来い!」

 

 

後ろから走ってきたキバは跳躍するとブレイドの肩を蹴って、さらに跳躍。勢いをつけるとそのまま足を振るい、三世の頭部に蹴りを叩きこんだ。

 

 

「チィイ!」

 

 

クリーンヒット。よろけたところで眼前に足。

とは言え、立ち直りは早い。三世は柄頭でキックを弾くと、カウンターにと刃を振った。

だがキバはまたも跳躍でそれを回避すると、側宙で後ろへ回り込む。

脳天が地面を向いたとき、キバは拳を伸ばして三世の肩を打った。

逆さまで攻撃、まさにコウモリのような動きで翻弄していく。一方で走るディケイド、前にいるブレイドへ声を投げた。

 

 

「俺もいくぞ。止まってろ剣崎!」

 

 

ジャンプ、そしてブレイドの肩に足を乗せた。

 

 

「サワルナ!」

 

「いっでッ!!」

 

 

ブレイドは肩を払い、ディケイド振り落とす。

 

 

「は!? なんでだよ!」

 

「うるさい! 勝手に俺の肩に乗るな!」

 

「おい! おい!? お……? いやッ、おいィッッ!!」

 

 

皆さんどうか覚えていて欲しい。

この世には好感度と言うものがある。

肩を蹴ってジャンプ、攻撃には良いアクセントになるが、誰もがそれを行えるわけじゃない。

 

 

「まったく! 調子にのるなよディケイド」

 

 

走るブレイド。一方でキバが伸ばした足裏が三世の腹部にめり込むのが見えた。

捉えた。そう思った瞬間、三世の体が陽炎のように揺らめいていく。

気づけばキバの足にあったのは黒いマントだけだった。

 

 

「残像だ! 幻影血斬閃!」

 

「グゥウ!」

 

 

気づけばキバの背後に三世が立っており、次の瞬間には三世はキバを切り抜けていた。

キバは腕をクロスにして盾とするが、それでも全身のいたるところから火花が散っていく。

しかし鎧が擦れる音が聞こえる。三世が横をみると、すぐそこにブレイドが。

そしてブレイドの後ろにはディケイドが見える。おっと、なにやらディケイドが地面を殴りつけていた。

 

 

「あったま来た! これでも食らえ!」『ファイナルフォームライド――』

 

「もらった!」

 

 

カードを入れるディケイドと、飛び上がったブレイド。

ラウザーを思い切り突き出し、銀色に光る剣先が、今まさに三世の頭部を――

 

 

『ブブブブレイド!』

 

「おぉ!?」

 

 

剣先がもう少しで三世に届くというところで、ブレイドの動きがピタリと止まった。

ブレイドからうろたえる声が漏れる。無理もない、いきなり空中に浮かんだかと思ったら、体の至る所が変形をはじめ、気づけばディケイドの手に収まっていたのだし。

 

 

「ブレイドブレード」

 

『おい! 何をするんだ!』

 

「なにって、見ての通りだろ」

 

『タイミングを考えろバカが! 今決まってただろ!』

 

「バカはお前だ! 紅の攻撃が通用しなかったの見てなかったのか! あれは囮、フェイク! カウンターを狙ってんだよ!」

 

『マントを外してる! つまりあれは一度だけだ!』

 

「それもフェイクだ! ちょっとは考えろ!」

 

『仮にそうだったとしても、それを考えてないワケがない! 対処の用意はしていた!』

 

「お前は――ッ! ああ言えばこういう奴だな!」

 

 

小さな悲鳴。

三世の背に水の弾丸。それだけじゃなくてディケイドとブレイドの身にも衝撃が走る。

見れば地面に倒れていたキバが、バッシャーフォームに変身しており、銃口を向けていた。

 

 

「いつまで下らない言い争いを続けているんですか! 状況を考えなさい!!」

 

「その通り! お前らのサムシングを合わせなければ――」

 

「!」「!」『!』

 

「俺には勝てないぞ! ライダー!」

 

 

三世は両手に持っていた剣を、投げた。

 

 

「しま――ッ!」

 

 

武器を手放すとは思わなかった。

しかしこの剣、刃が見事に真っ直ぐ向いてくる。キバは水の圧縮弾を撃つが、やはりと言うのか刃はそれをかき消し、飛んでくる。

反射的に体を起こすキバ、胸に刃が直撃し、火花が散った。

一方でディケイドも剣が直撃――、したように見えて、ブレイドを盾にしている。

 

 

『い゛ッッづ! 士ァッ!!』

 

「悪い! 俺のあまりにも優秀な反射神経が!」

 

「安心しろ!」

 

「あ!?」

 

「俺の攻撃はまだ終わっていない!」

 

 

剣が動いた。

見れば剣の柄に赤いクモの糸が巻きつけられている。それを操り、剣を移動させているのだ。

剣が動く。刃が空中を飛び、ディケイドの肩を、足を切った。

 

 

「ぐがッ!」

 

 

痛みから膝を付く。だがまだ剣は起動を変え、刃がディケイドを狙う。

そこで舌打ちが聞こえた。

 

 

『士! 合わせろ!』

 

「チッ! 仕方ないな!」

 

 

ブレイドが叫ぶ。

それに合わせるように、ディケイドは立ち上がり、思い切り大剣を振るう。

 

 

「面白い」

 

 

三世は剣を引き戻し、二刀流で向かっていく。

さらにこの時、右の剣先を一瞬だけキバに向ける。すると刃から赤い糸が発射され、キバの体に纏わり付く。

 

 

「ぐッ!」

 

 

糸はすぐに鎖に変わり、キバを縛り上げる。

一方で既に接触をはじめたディケイドと三世。

先に仕掛けたのは三世だ、剣を突き出し、しかしディケイドがそれを弾く。

ブレイドブレードの攻撃力は当然ブレイラウザーの比ではない。常に競り負けていた印象の三世の攻撃だが、それを打ち負かし、ついには刃がその肉体に届いた。

 

 

「グウゥ!」

 

 

よろける所を見逃すわけも無い。

踏み出し、前に出るディケイド。しかし次からの一撃は的確に防御を決められる。

ブレイドブレードはその見た目の通り、かなりの重量がある。故にその振りは単調になりやすい。

三世は既に見切っているのか、紙一重で刃を交わすと、剣をディケイドに突き入れた。

 

 

「クッソォオオオオオ!!」

 

 

しかし怯まない。

気合を入れるために叫び、ディケイドは強引にブレードを上から下に叩きおろす。

 

 

「チッ!」

 

 

三世は剣を交差させて、それを受け止めた。

細い剣ながらも、大剣をしっかりと受け止める辺りに『力』を感じる。

だがここで終わるディケイドではない。これは狙い通りだ。

 

 

「ぶっ壊す!」『ファイナルアタックライド』『ブブブブレイド!』

 

「!」

 

 

カードを抜いて放り投げる。するとブレードブレードに纏わり付く電撃と光。

攻撃力が跳ね上がり、直後三世の剣を打ち砕いて肩に入った。

 

 

「ぐッ! オォオオ!!」

 

 

三世はすぐに後退し、刃の範囲から逃れる。

だが帯電し、青く光る傷は本物。ダメージが確かに入った。

ディケイドたちは『流れ』を感じ、さらにダメージを与えるために走り出す。

 

 

「ハァアア!」

 

 

まずは一撃、斜めの残痕が三世に刻まれた。

 

 

「ウォリャアア!!」

 

 

そして真横へ。だがそれが三世にめり込んだとき、景色が歪んだ。

幻影だ。本物はディケイドの背後に現れ、背を斬った。

 

 

「グハッッ!!」

 

 

三世の両手には新しい剣が。

数発はまともに食らったようだが、最後は幻影を生み出す事に成功したらしい。ちなみにこの幻影、別にマントが無くても生み出せる。

まあそれはいい。今の問題は三世が持っている剣に、嵐のパワーが纏わり付いたことだ。

 

 

「雑魚が! 死紅烈風波!」

 

「ぐあぁあ!」

 

 

赤い竜巻に飲まれ、ディケイドはブレイドブレードを持ったまま大きく吹き飛ばされる。

地面に倒れたところで狼の咆哮。鎖を撃ち破ったキバはガルルフォームへ変身、四速歩行で地面を駆け、三世へ飛びついた。

一方で、ブレイドが吼える。

 

 

『何をやっているディケイド! 俺をもっとうまく使え!』

 

「うる――ッ! ああもう! 重いんだよお前は!」

 

『いいワケだな! 情けない! 俺だったらもっと上手く剣を――』

 

「お! なんだよその態度は、ほれ、ほれ」

 

 

ブレイドブレードを地面に転がし、ライドブッカーでつつき始める。

 

 

『ヤメロ!! オマエッ!! フザケルナヨ!!』

 

「ハハハ、いい気味――」

 

 

膝蹴りが飛んできた。まさかのキバである。

 

 

「いい加減にしてください! この状況でケンカとか本ッ当にありえませんからッッ!!」

 

「コイツがもっと素直なら!」

 

『ディケイドがもっと強ければ――』

 

「黙れェエ! どっちもです! いい加減にしないと――」

 

 

爆発音。

キバとディケイドの体に赤い斬撃が直撃し、双方は地面を離れ後ろへ飛んでいく。

 

 

「バカどもが! 炎の色がバラバラだな!」

 

 

三世はマントをつけなおし、剣を構えて走り出す。

狙うのは当然地面に置かれたままのブレイドだ。

 

 

『お、おいおい! これどうやって動くんだ! おいディケイド!』

 

 

ガタガタと多少は自分で動けるようだが、それだけだ。

一方確実に迫る三世。ブレイドの口から裏声が漏れたときだった。ディケイドが設定を操作、ブレイドが自由に戻れるようにする。

 

 

「グゥゥツ!」

 

 

間一髪。三世の振るった刃を、元に戻ったブレイドが受け止めた。

しかしブレイドは一本、三世は二本、手数は後者の方が上だ。

気づけばブレイドはきりもみ状に吹き飛ばされ、地面にへばりつく。

 

 

「ハァアア!」

 

 

飛び上がり、剣を大きく振るっていく三世。

だが立ち上がったブレイドの手にはカード。

 

 

『メタル』

 

「うぐッ!」

 

 

ガキンッ! と大きな音がして、三世の剣が弾かれる。

手がビリビリと痺れている。それはチャンスだ。ブレイドはさらにカードをラウズさせ、距離を詰める。

 

 

「ウェイッ!」『キック』

 

 

ケンカキック。ブレイドはドアを蹴破るようなキックを繰り出す。

三世は剣を交差させてソレを受け止めるが、痺れている手ではまともに力が入らない。

蹴りの衝撃で手を離してしまい、二本の剣が地面に落ちた。

まずい――! そう思ったときには電子音。

 

 

『ビート』

 

 

踏み込んで放つ渾身のストレートが、三世の胸に――、心臓の部分に直撃する。

確かな一発をもらった三世は動きがとまり、次なるカードラウズを許してしまう。

 

 

「吹き飛べッッ!」『タックル』

 

 

全力を込めた。

だからこそ三世が苦痛の声をあげて吹き飛んだ。

そしてラウズカードはポイントが減らない。つまり何度でも使用ができると言う事だ。ブレイドは三枚のカードを選択し、スラッシュ動作を行っていく。

 

 

『キック』

 

 

カードの絵柄が動き、ローカストが大ジャンプ。

 

 

『サンダー』

 

 

ディアーがその角から雷撃を。

 

 

『マッハ』

 

 

ジャガーがシャカシャカと地面を駆ける。

三枚のカードはブレイドの周囲を飛行、最終的には後ろへと。

 

 

『ライトニングソニック!』

 

 

ブレイドはラウザーを地面にを突き立てる。仮面が赤く発光し、スペードの形を作った。

 

 

「ァアアアアアアアア!!」

 

 

腕をブンブンと振りながら加速する。

風を切り裂き、三世の肩を弾いて後ろへまわる。敵がきりもみ状に回転して動きを止めている間に、ブレーキとターン。

さらに走るディケイドとキバ。

 

 

『アタックライド』『インビジブル!』

 

『ウェイクアーップ!』

 

 

消えるディケイドと、夜に変わる景色。

三世が体勢を整えると、まず確認するのは背後から迫る雷撃。

そして正面からもコウモリが一匹。

おっと、真横にはエネルギーカードが連なっている。

三方向からのキック。だが三世は冷静だった。剣を二本、地面に突き刺すと広がる魔法陣。

 

 

「ショッカーの力は、お前達の勝利を阻む! 滅殺死雷陣!」

 

 

赤い雷撃が三人の蹴りを受け止める。

 

 

「クッ!」「グッ!」「ッッ!」

 

 

力を込めるが――

 

 

「ムゥンッッ!」

 

「なにっ! ぐあぁああ!」

 

 

ショッカー三世が跳んだ。

せき止められている足裏を拳で弾き、蹴りで打つ。

停止しているディケイドたちに逃げる術はない。打撃妨害を受け、ライダー達はそれぞれ墜落していった。

 

 

「ぐぅうッ!」

 

「フフフフ!」

 

 

ディケイド達は倒れ、三世は剣を引き抜く。

だが後者、笑っているものの、呼吸は荒い。

どうやらお互い、実力の差は縮まっていると言うことか。

 

 

「剣崎! 紅!」

 

 

地面を殴り、ディケイドは叫ぶ。

たとえ炎の勢いが強くとも、同じ場所に集まって、やかんの裏を熱していなければお湯も満足に沸かせない。

 

 

「立場の違いはある――、が!」

 

 

双方知っている。

渡が抱きしめた愛する人。バラバラに砕けたとき、士はジッと見ていた。

剣崎が人でなくなっていく時を、士はジッと見ていた。

それでも彼らは前に進んだ。心の炎は消えなかった。

 

 

「同じ場所だ! 俺達が向かうのは! だから――ッッ!!」

 

 

仮面の奥で、三人の視線がぶつかり合う。

 

 

「力を合わせるぞ! 変身!」『カメンライド』『カブト!』

 

 

立ち上がったディケイドはクロックアップを発動。超高速の世界に足を踏み入れた。

同じくブレイドは、カードをラウズアブソーバーへスラッシュさせる。光が迸り、ジャックフォームへ変身、翼を広げて飛行を開始する。

 

 

「!」

 

 

三世に迫られる選択し。

空中か地上、どちらを見るか。とは言えそれは強制される。

全身に痛みが走り、三世は舌打ち交じりに周囲を見た。赤い影がチラチラと目障りだ。

防御を行いながら、攻撃を受けながらも、精神集中させる。するとほら、規則性が見えてきた。

 

 

「もらった!」『ファイナルアタックライド――』

 

 

なにより、大技を狙う時は、動きが止まる。

場所は背後。三世は振り向き――

 

 

「いやッ、これはフェイクだな!」

 

「なに!」

 

 

しかし後ろへ剣を伸ばす。

すると感触。ディケイドの胴体に刃が入った。

 

 

「フッ、分かりやすいぞディケ――」

 

 

吹き飛んだディケイドにおまけでもやろうと思ったが、そこで気づく。

夜だ。そして吹き飛ぶディケイドの向こうに『目』があった。見るつもりはなかったが、ディケイドを見れば自然に視界に入るので、つい確認してしまった。

 

 

「う、ゥオオオオオオオオオ!?」

 

 

トゥルーアイ。ドッガフォームに変わったキバの攻撃。

ハンマーについている真実の目を見たものは、並の相手ならばその時点で即死する。

だが三世はそうではない。とは言え、気づけば全身がステンドグラスに覆われていくではないか。

力を込めるがどうしようもない。その内に意識がブラックアウトした。

 

 

「上出来ですディケイド」

 

「いい囮だったろ!」『カメンライド』『ファイズ!』

 

 

立ち上がったディケイドは、マシンディケイダーを呼び、アクセルを吹かす。

そのまま発進。一方でキバの鎧に撒きつく鎖、それがはじけると、ドガバキフォームへと姿を変える。

 

 

『ライトニングスラッシュ!』

 

 

そして上空にいるブレイドも必殺技を発動。電撃を纏う剣を持ち、一気に急降下していく。

 

 

「ェアアアアアア!!」

 

「グアァアアア!!」

 

 

一閃。雷撃迸る斬撃がステンドグラスを切裂いていく。

同時に地面を転がるブレイド。退いた、なぜ? 決まっている。ダークネスムーンブレイクが三世の直撃したのはその時だった。

ステンドグラスを吹き飛ばし、破片ともに蹴り飛ばす。三世は苦痛に叫びながら後方へ吹き飛んでいく。

その到達点に回り込んでいたのはディケイド。既にファイナルアタックライドを使用しており、ファイズショットが装備された腕を突き出した。

 

 

「ウゥヌゥウ! アアア゛!!」

 

 

グランインパクトが炸裂。Φのマークが浮かび上がり、ダメージが叩き込まれる。

終わってくれるか――、内心は期待したが、そう甘くはないらしい。

三世が力を込めて胸を張ると、浮かび上がった紋章が破裂。地面に降り立った三世は回し蹴りでディケイドを打つ。

 

 

「グッ!」

 

 

仮面の奥で目を細める。

倒れない。ライドブッカーを開くと、カードをグッと掴んで引き抜く。

持って行け。全部だ。ディケイドはカードを強引にディケイドライバーへねじ込むと、咆哮をあげて走り出す。

カメンライド、その音声が、やけに重なって聞こえる。

 

 

「!」

 

 

構える三世。そこで背に衝撃。

ブレイドがサンダーを、キバがバッシャーマグナムを撃って動きを鈍らせる。

 

 

「ハァアアアアアア!」『クウガ!』

 

 

殴ったとき、ディケイドの姿がクウガに変わる。

拳を交差した剣で受け止める三世。だが、まだ、電子音は続く。

 

 

『アギト!』

 

 

交差した剣の中央を蹴り上げ、クロスの形を破壊する。

 

 

『リュウキ!』

 

 

ドラグシールドが発動済みだった。

両手に盾を構え、思い切り突進を決める。

 

 

「ヌゥウ!」

 

『ファイズ!』

 

 

距離が離れたところで、ファイズとなったディケイドはファイズエッジを振るう。

すると赤い斬撃が発射され、三世に直撃すると動きを拘束する。

とは言え、そこはショッカーのトップ格。動きが拘束されながらも、腕だけは動かし、ディケイドが振るった剣に刃を重ねる。

 

 

「ウォオオオオオオオ!!」『ブレイド』

 

 

だがディケイドは怯まない。

ファイズエッジの一振りが、三世の右の剣を弾き飛ばした。

さらにここでカメンライドが発動。持っていたファイズエッジが電撃を纏うブレイラウザーに変わり、ディケイドもブレイドへ。

青白い一閃が、三世が持っている左の剣を打ち弾いた。これで敵にに武器はない、ディケイドは踏み込み、懐へ入る。

 

 

『ヒビキ!』

 

 

太鼓の音が鳴り響く。

音撃鼓を押し当てた後は、ただひたすらに音撃棒を叩き込んだ。

はじめは苦痛の声を漏らしていた三世。しかし痛みと衝撃に慣れたのか、何とか腕を伸ばしてディケイドを首を掴もうと――

 

 

『カブト』

 

「!」

 

 

高速の回し蹴りが三世の腕を弾く。

 

 

『デンオウ!』

 

 

赤く煌く刃が三世の肉体を抉る。

しかし限界を迎えたのは刃の方だった。肉体を僅かに抉った程度で、デンガッシャーの刃が折れる。

 

 

『キバ!』

 

 

ならばとサマーソルトで蹴り上げ、ディケイドは三世とともに空中に舞い上がる。

ディケイドの斜め下に三世が並ぶ。ディケイドはカメンライドで、『ディケイド』に変身。

 

 

「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

『ファイナルアタックライド』『ディディディディケイド!』

 

「グオォォォオオ!!」

 

 

足裏に三世を捉えたまま、ディケイドは地面へ降下し、叩きつける。

だがその瞬間、三世は足を振るいあげてディケイドの背を蹴った。

よろけ、前のめりになるディケイドと跳ね起きる三世。腕から赤い糸を発射するとディケイドの背に付着させ、そのまま思い切り引き寄せながらのラリアットを決める。

首に激しい衝撃を感じ、仰向けに倒れるディケイド。寝返りをうつと、そこには顔面を踏み潰そうとしている足裏が見えた。

 

 

「やっべ!」

 

 

首を思い切り逸らすことで何とか回避。すぐ真横を見れば三世の足が。

これはいけない。ディケイドはゴロゴロと回転しながら距離を離し、かつ新たなカードとアイテムを取り出した。

ケータッチ。ディケイドはカードを装填すると、急いでタッチパネルに指を乗せる。

 

 

『クウガ!』『アギト!』

 

 

立ち上がると、三世のフックが飛んでくる。

姿勢を低くしてそれを回避しつつ、ディケイドは三世を背後を目指して移動する。

 

 

『リュウキ!』『ファイズ!』『ブレイド!』

 

 

そこでキバも加勢に入った。

蹴りが三世を打ち、二人が打撃を交差している間にディケイドはタップを。

 

 

『ヒビキ!』『カブト!』『デンオウ!』『キバ!』

 

『ファイナルカメンライド!』『ディケイド!!』

 

 

カードがパラパラと捲れる音とともに、ディケイドの姿が強化形態コンプリートフォームへと変わる。

胸にはクウガからキバまでのカードが並び、ライダークレストが浮かび上がる。

それはバックルも同じ。ディケイドライバーをベルト右へずらし、中央へケータッチを装填した。

複眼が光り、衝撃波が発生。その時にはもうアクションを行っていた。

ケータッチにあるファイズの紋章をタッチ。するとカードがめくれ、胸部アーマーがすべてファイズのカードに。

 

 

『ファイズ!』『カメンライド』

 

 

ピロリロリン! と軽快な電子音が聞こえ、ディケイドの左隣にファイズ・ブラスターフォームが出現する。

 

 

『ブラスター』

 

 

データによる分身体は、ディケイドの動きにシンクロしている。

つまりディケイドが右手を振れば、同じ様にファイズも右手を振る。

ディケイドはライドブッカーの銃口をを三世へ向けた、するとファイズも持っていたファイズブラスターを三世へ。

引き金を引くと強力な弾丸が発射され、キバと戦っていた三世を吹き飛ばす。

 

 

「グゥウ!」

 

 

ディケイドがカードを抜き取る動作を、左にいるファイズも行い、二人は必殺技を。

 

 

『ファイナルアタックライド』『ファファファファイズ!!』

 

 

ライドブッカーをソードモードに変え、バズーカーのように持つ。

すると本当に剣先からビームが発射され、隣にいたファイズからも同じ様に光線が発射された。

二本のビームは三世に直撃すると、爆発を起こし、マントを焼き焦がす。

 

 

「――ッ」

 

 

それを見ていたブレイドは、何かを思いついたようにラウザーを展開させる。

カードを使っても減らないということは、だ。

 

 

「やってみるか」『スラッシュ』

 

 

メーターは減らない。つまり――

 

 

『ビート』『タックル』『キック』

『サンダー』『メタル』『マグネット』

『マッハ』『タイム』『フュージョン』

『アブゾーブ』『エボリューション』

 

 

所持しているカードを片っ端からラウズさせる。

すると青く光り輝くブレイラウザー。魂の炎が、機能を超越させるのだ。

 

 

『トリオンフィブレイド!』

 

 

走るブレイド。マッハの力であっと言う間に三世の間合いに入る。

 

 

「グアァアア!」

 

 

さらにこの状態、タックルとメタルも追加されている。いかなる攻撃にも怯まず、ブレイドは三世へタックルを。

逃がさない。一瞬で距離を詰め、怯んでいる三世にビートの力が入った拳を当てる。

アッパーカットだ、上空へ打ち上げられた三世。さらにそこでタイムが発動。制止した時間の中で、ブレイドだけが動くことを許される。

 

地面を蹴り、飛び上がるブレイド。

右脚にキック、サンダーが追加。されにマグネットが発動され、足が『S』に、ブレイラウザーが『N』となる。

剣が右脚に張り付き、刃が足裏の方へ。同時にカードが舞った。ジャック、クイーン、キングのトランプがブレイドと三世を繋ぐ。

 

 

「ヴェエエエエエエイ!!」

 

 

時間が戻った。

首を光のほうへ向ける三世。

そこにはディメンションキックのように、三枚のトランプを通過して向かってくる足裏と、刃が見えた。

 

 

「グォオオオオオオオ!!」

 

 

足裏が胴体にめり込み、横にあった刃も突き刺さる。

さらにここでマグネットの力が発動。足もブレイラウザーもSに変わる。

つまり反発する力が働き、剣が電撃を纏いながら発射された。それはまるでレールガン、三世は電撃を纏いながら地面を滑る。

 

 

「決めるぞ!」

 

 

決着をつけるためにディケイド達は走りだす。

だがそこで倒れた三世からどす黒い光が溢れた。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!」「!」「!」

 

 

激しい抵抗感。

周囲の地面が剥がれ、直後エネルギーに耐えられず崩壊していく。本能が進行を阻む、足を横にして踏みとどまるディケイドたち。

すると闇から鋼が伸びた。大鷲の装飾が施された新しい刃。そこには闇のエネルギーが纏わりついており、それだけでなく今までディケイド達から受けた傷口からも闇が溢れている。

 

 

「死が視えるぞライダー! 見事だ! お前達の意地がッ、俺をここまで焦らせる!!」

 

 

いよいよと全力を出してぶつかり合うようだ。

だからこそ、ライダー達も全ての力を――!

 

 

「タツロット!」『はいはいー! 行きますよ渡さん! テンション、フォルテッシモォオオ!』

 

「ッ」【アブゾーブクイーン】【エボリューションキング】

 

 

コウモリが、カードが溢れ、それぞれは黄金の鎧を纏う。

その中央に歩いてくる銀の鎧。ディケイドは剣の刃をなぞり、大きく息を吸う。

 

 

「行くぞ!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

 

走り出すディケイドたちと、同じく走り出す三世。

 

 

「ウォオオオオオオオ!」

 

 

三世が両手の剣を外から内側へと振るう。

闇のエネルギーがリーチを伸ばし、刃はそれぞれキバとブレイドに迫った。

だが弾かれる音。キバはドッガハンマーを突き刺し盾に。ブレイドはメタルで弾き、足を止める事はない。

そしてキバは飛び、ディケイドは地面を転がり、三世を囲むように立つ。

だが戦いは数ではない、力だ。三世がその場で回転切りを行うと闇の竜巻が発生し、ディケイド達を怯ませる。

 

 

「いいぞ! 戦いはやはりこうでなくてはならない!」

 

 

ステップを踏み、ブレイドを斬り、そのままディケイドを切り抜ける。

 

 

「命を賭ける事! 命を奪う事! 生と死の狭間で傷つけあう!」

 

 

キバはザンバットソードのコウモリをスライドさせ、刃を強化させる。

斬り合う中、ディケイドはクウガを召喚。アルティメットフォーム。

後ろへ跳ぶキバと、巻き起こる業火。二倍の威力を持つパイロキネシスが三世を包み込む。

だが炎が消し飛んだ。いや、斬られたのだ。三世はキバを蹴りと怯ませると切り伏せ、後ろからやってきたディケイドとブレイドも切り抜いていく。

 

 

「だが俺たちは生と死を超越している! 常識と概念の果てにいるこの今こそ! 唯一無二の境地!」

 

 

三世はブレイドをタックルで弾き飛ばすと、ディケイドへ距離を詰める。

 

 

『リュウキ!』『カメンライド』『サバイブ』

 

 

だがディケイドの前に龍騎が出現。

なにもない虚空を殴り、蹴るディケイド。

虚無と戦うなど一見すればマヌケな姿に見えるが、その動きは例外なくシンクロされ、前方にいる龍騎サバイブが三世と殴り合っている。

だがすぐに闇が龍騎を覆う。刃が走り、龍騎がバラバラに砕け散った。

 

 

「さあ! はじめようか! 終わりはない。終わりなど存在しない! 無限の戦い。永遠の苦痛。いや、永遠こそもただの言葉でしかない!」

 

 

斬撃がディケイドを捉え、爆発する。

しかし同時に火花。飛び上がったキバが、バッシャーフィーバーを発動させたのだ。

銃口にタツロットを装備させ、水流弾をより強化させる。

緑の光弾を受け、しかしそれでも三世は笑う。

 

 

「我らは至った! 全てにたどり着いた!」

 

「いや、お前は――ッ! なにも分かってない!」『ブレイド!』『カメンライド』『キング』

 

 

立ち上がったディケイドが召喚するのはキングフォーム。

本物のブレイドは、分身が持っていたキングラウザーを掴み取り、二刀流となる。

二刀流と二刀流、黄金と闇が交差する中、ディケイドは胸に手をあてる。そこにあるのはブレイドのカード。それが輝き、無数のラウズカードが召喚された。

ディケイドはそれを掴み取ると、叫び、投げる。

 

 

「剣崎ッッ! 使え!!」

 

「!」

 

 

確認。そして確かに頷いた。

カードは独りでに二本のラウザーへ吸い込まれ、認識されていく。

そしてブレイド自身もカードを召喚し、ラウザーへ装填していく。

 

【スペード10】【スペードJ】【スペードQ】【スペードK】【スペードA】

【ダイヤ10】【ダイヤJ】【ダイヤQ】【ダイヤK】【ダイヤA】

【クラブ10】【クラブJ】【クラブQ】【クラブK】【クラブA】

【ハート10】【ハートJ】【ハートQ】【ハートK】【ハートA】

 

【クアドラプルロイヤルストレートフラッシュ!!】

 

 

両手に持っていた剣が四色に光り、直後四散する。

三世を中央にし、ブレイドから見て奥に現れたのは仮面ライダーギャレンの幻影。

そして右にはレンゲル。左にはカリスが立つ。そしてブレイドが拳を握り締めると、黄金の力が全て右腕、その拳に集中する。

基本フォームに戻るブレイド。全ての力が詰まった右拳を強く、強く、強く握り締めて走り出す。

 

ブレイドは足を止めない。

加速する。たとえ激しい闇の力が行く手を阻んでもだ。

その足を突き動かしたのは、確かな――、友情。

そして、立ち向かう勇気。

 

 

「ウェエエエエエエエエエエエエエエイッッ!!」

 

「が―――ッッゥ!!」

 

 

ブレイドの拳が、ギャレンの拳が、レンゲルの拳が、カリスの拳が三世を捉える。

ライダー達の幻影はすぐに光となり、ブレイドに戻る。

再びキングフォームとなった後は、後ろに跳んだ。

 

 

『ファイナルフォームライド』『キキキキバ!』

 

 

その弓は黄金に輝き、神々しい光を放っている。

エンペラーアロー。ディケイドはそれを振り絞り、ファイナルアタックライドを発動させた。

 

 

「俺達の勝ちだ! ショッカー首領、三世ッ!!」

 

 

黄金の矢が、無数のコウモリが発射される。

コウモリ達は次々に三世に着弾していき爆発を起こす。

そして最後に、一番大きな矢がブレイドが殴った部分に突き刺さり、そのまま腹部を貫いた。

 

 

「ウ――ッ! ウォオオォオ……!!」

 

 

手に持った剣を落とし、三世は後ろへ下がっていく。

苦痛の声は、すぐに終わり、含み笑いへ。

そして拍手が始まった。

 

 

「グレイト。ナイス……、サムシング……!」

 

 

腹部に風穴が開いている。

そこからは大量の闇が漏れ、黒い血が地面に落ちていく。

ふと、糸が切れた人形のように三世は崩れ落ちた。地面に膝をつき、ガクリと頭を落とし、俯いた。

 

だが膝を殴りつけると、彼は立ち上がる。

笑い、そして確かに規律すると、敬礼を一つ。

 

 

「見事! だがッ、一つだけ間違っている点がある!」

 

「!」

 

「最後に笑うのは、我々ショッカーだ! 偉大なるッ! ショッカー首領が勝利を齎してくれるだろう! その時貴様らは、自らの行いが間違っていたと後悔を――」

 

「うるせぇ。さっさとくたばれ」

 

 

ディケイドの言葉に、三世は大きく笑いながら頷いた。

 

 

「偉大なるショッカーに栄光あれぇえ! んぐォッ! ガァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

立ったまま三世は爆発を起こし、粉々に砕け散った。

大きく息を吐くディケイド。とりあえずは終わってくれたようだ。

さて、と走り出す。向こうの方で赤い球体が見える。加古だ。彼が糸で覆われ、繭のようにされている。

彼を助けなければ。そう思ったとき、景色が大きく歪んだ。

 

 

「おいおい、ウソだろ」

 

 

休ませろよ。

ディケイドの呟きにブレイドとキバも心の中で同意する。

景色が変わっていく。世界のジャミングがおき、気づけば三人は荒野に立っていた。

 

 

「あれあれ?」

 

「ん?」

 

 

三人?

いや違う。ディケイド達に駆け寄ってきたのは仮面ライダーアギト。その奥にはクウガとダブルも見える。

 

 

「アギト……」

 

「お久しぶりですぅ、金剛寺(こんごうじ)さん、銀宮寺(ぎんぐうじ)さん!」

 

(誰だ……?)(誰でしょう……?)

 

 

アギトは変身を解除し、ブレイドとキバの手を握ってブンブン振り回す。

 

 

「やだなぁ、冗談ですよ。二人ともポカンとしちゃって。同じ眼なんだから、忘れるワケないじゃない」

 

 

さらに周囲を確認してみれば、トライドロンに乗った進ノ介たちも見える。

いや、それだけではなくリボルギャリー周辺にいた者達や、タケルや紘汰たちも確認できた。

つまり、ライダーたちが集められている。良い予感はしない。そう思ったときだ、悲鳴が聞こえてきたのは。

 

 

「きゃああああああああ!!」

 

「わあああああああああ!!」

 

 

加古同じく、ミライと竜斗の体から赤い糸が噴出され、球体の形を作る。

近くにいた者達は救出を試みるが、それよりも早く三つの繭は浮かび上がり、一つに集まった。

 

 

「どうなってる!」

 

 

誰も分からない。

球体は三つ、三角形にならぶと、直後魔法陣が出現した。

まるで『目』だ。球体を黒目として、目の形に見える魔法陣――。

 

 

「心のどこかで――……」

 

「!」

 

 

声が聞こえる。

一同が視線を向けると、そこには歩いてくるブックメイカーが。

隣にはハーメルンも追従しており、ライダー達はすぐに変身を行う。

 

 

「こうなる事は分かっていたかもしれない」

 

「ブックメイカー……!」

 

「救いを理解できない愚かさが、お前たちを英雄にしたのだろう」

 

 

ブックメイカーが指を鳴らすと、ハーメルンが変形を始めた。

ガチャガチャとけたたましい音を立てながらハーメルンはどんどん『縮んで』いく。体を折りたたみ、どういう理論なのか、完全に質量と体積を無視した『形』に変わる。

ブックメイカーは変形を終えたハーメルンを掴み取ると、天へかざす。それは"バックル"のように見えた。

 

 

「竜斗!」

 

 

龍騎が叫ぶ。

三つの繭は、光球へと変わり、バックルに吸い込まれる。

 

 

「次なる手は、新しい終わりを導く」

 

 

ハーメルンを腰に押し当てるブックメイカー。

すると自動的にベルトが伸び、ハーメルンが腰へ装着される。

 

 

「まさか……!」

 

 

ディケイドが呟いた。そのまさかである。

それはまさに歪んだデウスエクスマキナ。舞台に降り立ち、圧倒的で超人的なパワーで全てを解決に導く禁じ手。

見よ。バックルの中央、シャッターが開き、風車が回る。

 

 

「変身」

 

 

光が迸った。

ブックメイカーの体が、呟いた言葉どおり、変身を開始する。

ああ、見たことがあるぞ。その体は間違いなくバットファンガイア。そして左足はグリラスワーム。

右脚はレイドラグーン。左腕はジョーカー、右腕はアークオルフェノク。体にはオロチが巻きつき、頭部はダグバにデスイマジンの角。

そしてテオスをイメージさせる茶色い髪が伸びていた。

 

 

「今日で最終回とする」

 

「!」

 

「そうだな。この姿、"仮面ライダーエピローグ"とでもしようか?」

 

 

エピローグ。

彼はバックルを叩く、すると現れる『ペン』。それを持つと、虚空に文字を書き始める。

 

 

「ッ! まずい! あれを止めろ!」

 

 

しかし、エピローグの体に巻きついていたオロチが目を開き、頭部を動かしてライダー達を睨みつける。

その口から発射されるのは強力な炎弾。さらにエピローグの目が光るとパイロキネシスが発動され、ライダー達は業火の中に消えていく。

 

 

「申し訳ない。このお話は今日でおしまいだ」

 

 

だからこそ、終わらせなければならない。

しかし、ううん、終われない連中だ。だからこそ取る手は限られている。

なぜ禁じ手と呼ばれるのかを、お見せしようではないか。エピローグはペンで虚空に文字を――、お話の続きを記載していく。

 

 

『仮面ライダークウガの頭部が弾け飛ぶ』

 

「ハーメルン。ファンフィクション」

 

 

笛の音が聞こえた。

炎の向こうで悲鳴が聞こえた。

首だけになったクウガは、ヨロヨロと歩き、その場に倒れこむ。

 

 

『仮面ライダークウガは死亡する』

 

「五代ッッ!!」

 

 

粒子となり、クウガは消滅した。

 

 

「デリート完了。次は――」

 

 

空間が弾け飛び、大量のレイドラグーン、ハイドラグーンが出現しライダーたちを足止めにする。

いくらジョーカーの力で不死を手に入れようが、執筆の邪魔をされるのは気に入らない。

迫りくるライダー達をクロックアップで交わしながらエピローグは文字を綴っていく。

 

 

『仮面ライダーダブルは死亡する』

 

『仮面ライダー電王は死亡する』

 

『仮面ライダーブレイドは消滅する』

 

『仮面ライダーファイズは死亡する』

 

『仮面ライダーアマゾンオメガは死亡する』

 

 

次々に消え去っていくライダー。

 

 

「キミ達を救うのは、どうやら今回はできなかったらしい」

 

 

だから終わらせてもらう。

少々荒っぽい方法だ。お話としては破綻してしまい、このカメンライダー計画は酷く――、愚かな結果に終わるだろう。

終わりよければ全て良し、ならばその逆もあって当然だ。

 

このストーリーは酷いものだった。

しかしそう思われる事こそが、終焉も齎すなによりの方法ではないだろうか。

もちろん、ブックメイカーも無事ではすまないだろう。

しかしライダーがライダーとしてより確立するためには、こういうやり方もありなのではないか。

 

 

『仮面ライダーなでしこは死亡する』

 

『仮面ライダーメテオは死亡する』

 

「ゥオオオオオオオオオオ!!」

 

 

鬼気迫る声。

目の前にロケットがあった。

だが――、遅かったようだ。文字は既に。

 

 

『仮面ライダーフォーゼは死亡する』

 

「グアアアアァアアアア!!」

 

 

フォーゼが粉々に爆発し、粒子となって消え去った。

 

 

「ハアアアアアアアアアア!!」

 

 

強引に突破してくるのはウィザードとオーズ。

しかしバットファンガイアの力でエネルギー体になると、高速で飛びまわり攻撃を回避する。

 

 

「どうして! 時間停止が――」

 

『仮面ライダーオーズは死亡する』

 

「うわあああああああああああ!!」

 

 

(テオス)には、そんなものは通用しない。

 

 

「今日……」

 

 

ウィザードの爪がエピローグを捉え、地面に叩き落す。

だが、ジョーカーの力。不死なのだ。死なないのだ。それを脅かすブレイドはもう――、死んでいる。

 

 

「仮面ライダーが死ぬ」

 

『仮面ライダーウィザードは死ぬ』

 

 

消し飛び、粒子に変わるウィザード。

そうだ、不死を攻略するにはまだディケイドがいたか。他のライダーだってなんだかんだと攻略してくるに違いない。

だったら――

 

 

「僕の中には、竜斗、ミライ、加古の魂がある」

 

 

つまり、エピローグを倒せば、三人は死ぬ。

 

 

「……フフ」

 

 

動きが鈍くなった。

 

 

「それがキミ達なんだね」

 

 

ペンを走らせる。

G、ダブル、オーズ、フォーゼ、メテオ、なでしこ、ウィザード、鎧武、ドライブ、ゴースト。

クウガ、アギト、龍騎、ファム、ファイズ、響鬼、電王、キバ、ディケイド。

永夢、ネオ、カラスアマゾン、オメガ、ジョウジやレーザー、ホッパー。

全て揃っていたライダーたちも、今はもう数えるほどしかいない。

 

 

「変身できれば――ッ!」

 

 

生身の永夢が悔しげに目を細める。

彼にドライバーはない。今まで使っていたのは貴利矢のもので、そのレーザーも今は既に死亡しており、彼が使っていたゲーマドライバーは粒子となって消え去ってしまった。

つまり永夢は変身できない。弱い人間なのだ。

 

 

「何も解決はしないだろう。しかし、キミ達の勝利だけは防がなくてはならない」

 

 

勝てば、正しいと思われてしまう。

それは違う。正しいのは全てブックメイカーなのだ。

だからこそ、今は無かったことにするしかない。真っ白にする事はもうムリだとしても、全てを黒で塗りつぶせばいい。

 

 

『………』

 

 

それは、龍騎とファムが死んだときだった。

 

 

『――よ』

 

「!」

 

『ダメだよ。本条くん……』

 

「竜斗――ッ?」

 

 

バックルから声が聞こえた。

 

 

『今まであった事を、無かったことにはしちゃいけない』

 

「何を言って……」

 

 

バチッと、火花が散った。

バックルから煙が上がったのを見て、ブックメイカーは青ざめる。

 

 

「まさか……! 抵抗を!?」

 

『ぼくだけじゃない。加古くんも、ミライちゃんも……ッ!』

 

 

喋るのが苦しいのか、竜斗の声は途切れ途切れだ。激しい抵抗感を感じているのだろう。

それでも竜斗は言葉をとめなかった。それはほんの短い時間で、竜斗自身もまだ何も分かっていないのかもしれない。

けれど龍騎やゴーストの努力を、フォーゼの言葉を、無かったことにはしたくないと思った。

それは、成長だ。前に進みたいと思う意思を、ゼロにはされたくなかった。

 

 

「やめろ! 分かっているのか、バックルが壊れれば取り込まれたキミ達は――」

 

『分かってるよ。でもね――』

 

 

どうせ、元の世界に帰っても、だ。

加古は金を失い、ミライは将来の不安に苛まれる。そして竜斗は目覚めることはない。

きっと前には進めるかもしれない。もしかしたら何か解決策が見つかるかもしれない。しかしそれよりも、もっと大きな価値を今に見た。

だから、竜斗たちの意見は一致した。未来の希望を見るよりも、今、確かなものを残したい。

ソレが絶望してしまった自分たちが抱ける、最後の希望だった。

 

 

「やめろ! 竜斗!」

 

「よすんだ!」

 

 

ディケイドとゴーストが叫ぶ。

しかし竜斗達は首を振った。

 

 

『ありがとう、仮面ライダー……!』

 

「クソッ! バカな事を!!」

 

 

エピローグはなにやらガチャガチャとバックルを触っている。

しかし火花は止まらず、スパークはよりは激しく。

 

 

「―――」

 

 

観測者は眼を通してでしか世界を視れない。

世界に存在できない。ゴーストが浮遊でエピローグに迫る。だが、もう遅かった。

 

 

「!!」

 

 

バックルが、ハーメルンが砕け散った。

その時、凄まじい爆発が巻き起こる。景色が、世界が、意識が粉々に砕け散った。

押し続けるバックスペース。白ではないが、塗りつぶすことで世界はゼロになる。

終わりのときだった。皮肉かもしれないが、それはブックメイカーの目指した最終回を完成させる一手だった。

 

 

 

 

 

 

『エピローグ』

 

 

 

 

 

 

海が見える丘で、タケルは『目』を覚ました。

 

 

「!」

 

「起きろ、仮面ライダーだろ」

 

 

ふと、タケルは顔を上げる。言葉が耳を貫いた。

 

 

「――え? それはどういう……?」

 

 

タケルはしばらく呆けていたが、芝生をグッと掴み、悔しげに俯いている。

周りにはライダーがチラホラ見えるが、立っているのは士と渡だけだった。

 

 

「ったく、つくづくだな俺達は。お前もそう思うだろ?」

 

 

士がタケルの肩を叩く。近くにいた渡もため息をついていた。

 

 

「苦労は終わりそうもない」

 

 

渡はこめかみを押さえ、首を振っていた。

士は頷き、天を仰ぐ。

 

 

「そうだな、だからこれからだ」

 

「助けられた筈だった! 竜斗くんっ! ミライちゃん! 加古くん!」

 

 

タケルは悔しげに叫ぶ。

 

 

「他のみんなだって――ッ!」

 

「………」

 

 

士は無言で海を見ている。

 

 

「また始まる。それだけです。妥協か、それとも望んでいくのか」

 

 

仮面ライダーに終わりはこない。

明日も、今日も、ましてや過去も。

いや、これからも永遠に続いていく。

 

 

「これで終わりか」

 

 

その中で、士が呟いた。

そして世界の崩壊が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメンライダー

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

カメンライダー

 

 

 

 

 

 

 

 

そして世界の崩壊が始まった。

その中で、士が呟いた。

 

 

 

「これで終わりか」

 

 

いや、これからも永遠に続いていく。

明日も、今日も、ましてや過去も。

仮面ライダーに終わりはこない。

 

 

「また始まる。それだけです。妥協か、それとも望んでいくのか」

 

 

士は無言で海を見ている。

 

 

「………」

 

「他のみんなだって――ッ!」

 

 

タケルは悔しげに叫ぶ。

 

 

「助けられた筈だった! 竜斗くんっ! ミライちゃん! 加古くん!」

 

「そうだな、だからこれからだ」

 

 

士は頷き、天を仰ぐ。

渡はこめかみを押さえ、首を振っていた。

 

 

「苦労は終わりそうもない」

 

 

士がタケルの肩を叩く。近くにいた渡もため息をついていた。

 

 

「ったく、つくづくだな俺達は。お前もそう思うだろ?」

 

 

周りにはライダーがチラホラ見えるが、立っているのは士と渡だけだった。

タケルはしばらく呆けていたが、芝生をグッと掴み、悔しげに俯いている。

 

 

 

「――え? それはどういう……?」

 

 

ふと、タケルは顔を上げる。言葉が耳を貫いた。

 

 

 

「起きろ、仮面ライダーだろ」

 

「!」

 

 

海が見える丘で、タケルは『目』を覚ました。

 

 

 

 

『エピローグ』

 

 

 

 

終わりのときだった。皮肉かもしれないが、それはブックメイカーの目指した最終回を完成させる一手だった。

押し続けるバックスペース。白ではないが、塗りつぶすことで世界はゼロになる。

その時、凄まじい爆発が巻き起こる。景色が、世界が、意識が粉々に砕け散った。

バックルが、ハーメルンが砕け散った。

 

 

「!!」

 

 

世界に存在できない。ゴーストが浮遊でエピローグに迫る。だが、もう遅かった。

観測者は眼を通してでしか世界を視れない。

 

 

「―――」

 

 

しかし火花は止まらず、スパークはよりは激しく。

エピローグはなにやらガチャガチャとバックルを触っている。

 

 

「クソッ! バカな事を!!」

 

『ありがとう、仮面ライダー……!』

 

 

しかし竜斗達は首を振った。

ディケイドとゴーストが叫ぶ。

 

 

「よすんだ!」

 

「やめろ! 竜斗!」

 

 

ソレが絶望してしまった自分たちが抱ける、最後の希望だった。

だから、竜斗たちの意見は一致した。未来の希望を見るよりも、今、確かなものを残したい。

きっと前には進めるかもしれない。もしかしたら何か解決策が見つかるかもしれない。しかしそれよりも、もっと大きな価値を今に見た。

加古は財産を失い、ミライは将来の不安に苛まれる。そして竜斗は目覚めることはない。

どうせ、元の世界に帰っても、だ。

 

『分かってるよ。でもね――』

 

「やめろ! 分かっているのか、バックルが壊れれば取り込まれたキミ達は――」

 

それは、成長だ。前に進みたいと思う意思を、ゼロにはされたくなかった。

けれど龍騎やゴーストの努力を、フォーゼの言葉を、無かったことにはしたくないと思った。

それでも竜斗は言葉をとめなかった。それはほんの短い時間で、竜斗自身もまだ何も分かっていないのかもしれない。

喋るのが苦しいのか、竜斗の声は途切れ途切れだ。激しい抵抗感を感じているのだろう。

 

『ぼくだけじゃない。加古くんも、ミライちゃんも……ッ!』

 

「まさか……! 抵抗を!?」

 

バックルから煙が上がったのを見て、ブックメイカーは青ざめる。

バチッと、火花が散った。

 

「何を言って……」

 

『今まであった事を、無かったことにはしちゃいけない』

 

バックルから声が聞こえた。

 

「竜斗――ッ?」

 

『ダメだよ。本条くん……』

 

「!」

 

『――よ』

 

それは、龍騎とファムが死んだときだった。

『………』

だからこそ、今は無かったことにするしかない。真っ白にする事はもうムリだとしても、全てを黒で塗りつぶせばいい。

それは違う。正しいのは全てブックメイカーなのだ。

勝てば、正しいと思われてしまう。

「何も解決はしないだろう。しかし、キミ達の勝利だけは防がなくてはならない」

つまり永夢は変身できない。弱い人間なのだ。

彼のドライバーはない。今まで使っていたのは貴利矢のもので、そのレーザーも今は既に死亡しており、彼が使っていたゲーマドライバーは粒子となって消え去ってしまった。

生身の永夢が悔しげに目を細める。

「変身できれば――ッ!」

全て揃っていたライダーたちも、今はもう数えるほどしかいない。

永夢、ネオ、カラスアマゾン、オメガ、ジョウジやレーザー、ホッパー。

クウガ、アギト、龍騎、ファム、ファイズ、響鬼、電王、キバ、ディケイド。

G、ダブル、オーズ、フォーゼ、メテオ、なでしこ、ウィザード、鎧武、ドライブ、ゴースト。

ペンを走らせる。

「それがキミ達なんだね」

動きが鈍くなった。「……フフ」つまり、エピローグを倒せば、三人は死ぬ。「僕の中には、竜斗、ミライ、加古の魂がある」だったら――そうだ、不死を攻略するにはまだディケイドがいたか。他のライダーだってなんだかんだと攻略してくるに違いない。消し飛び、粒子に変わるウィザード。『仮面ライダーウィザードは死ぬ』「仮面ライダーが死ぬ」だが、ジョーカーの力。不死なのだ。死なないのだ。それを脅かすブレイドはもう――、死んでいる。ウィザードの爪がエピローグを捉え、地面に叩き落す。「今日……」(テオス)には、そんなものは通用しない。『仮面ライダーオーズは死亡する』「どうして! 時間停止が――」しかしバットファンガイアの力でエネルギー体になると、高速で飛びまわり攻撃を回避する。強引に突破してくるのはウィザードとオーズ。「ハアアアアアアアアアア!!」フォーゼが粉々に爆発し、粒子となって消え去った。「グアアアアァアアアア!!」『仮面ライダーフォーゼは死亡する』だが――、遅かったようだ。文字は既に。目の前にロケットがあ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『HYPER・CLOCK OVER』

 

「!?!?!??!?!??!!」

 

 

運命の――、選択。

人はいつだってゲートの前に立っている。

その門をこじ開けたのは、仮面ライダーカブト、ハイパーフォーム!

気づけば、誰もが"生きて"いた。

 

 

「お前――ッッ!!」

 

 

ブックメイカーだけではない。

その場にいた全ての者が記憶を共有した。時間が戻った。

 

 

「あれ!? 生きてる! ウワーッ! いきてるぅー!」

 

「うぉおおおお! 生存きたああああああああああ!!」

 

 

手を取り合ってはしゃいでるオーズとフォーゼ。

それが理解できるのはEpisode DECADEによる共有化ゆえか。

各々のクロスオブファイアがカブトが行う時間跳躍を、全てのライダーに刻み込む。

 

 

「覚えておけブックメイカー」

 

「!」

 

「俺は天の道を行き、総てを司る男――!」

 

 

飛来するパーフェクトゼクター。

カブトは四つのボタンを順に押していく。

 

 

『KABUTO POWER』『THEBEE POWER』

『DRAKE POWER』『SASWORD POWER』

 

「仮面ライダーカブト。天道総司」

 

『ALL ZECTER COMBINE』

『MAXIMUM・HYPER CYCLONE』

 

 

鎧が展開していき、光の翼が広がる。

カブトが引き金をひくと、赤い竜巻が発生し、目の前にいた無数のレイドラグーン達を消し飛ばす。

目くらましと兵隊が消えたことでさらけ出されたエピローグ(ブックメイカー)。目を見張ると同時に、武器を捨てたカブトが眼前に立っていた。

 

 

「お祖母ちゃんが言っていた――」

 

「!」

 

 

クロックアップを発動し、殴りかかるエピローグ。

しかしその拳が弾かれ、ストレートが胸に入る。

 

 

「グッ!」

 

「ちゃぶ台をひっくり返していいのは、よほど飯がまずかった時だと」

 

 

エピローグは再びフックで殴りかかるが、カブトは頭を逸らしてそれを回避。

もう一度迫る拳を、手で弾くと、代わりにストーレートを一発、怯んだ所にボディーブローを一発。よろけたところ、胴に拳を三発叩き込んだ。

 

 

「ぐはッ!」

 

「ブックメイカー。お前の救い(メシ)は不味過ぎる。悪いが、このちゃぶ台は俺がひっくり返させてもらう」

 

「――黙れッッ!!」

 

 

殴りかかるエピローグ。

しかし殴ったほうが倍殴り返されると言う事態が発生してしまう。

そして、そんな中だ。この戦いの場に不釣合いなほど、幸せそうな声色が聞こえてくる。

 

 

「えむぅー!!」

 

「え?」

 

「あいだがっだよぉおぉお!!」

 

 

衝撃を感じ、視界が揺れた。

脳震盪を起こしそうに成る程の強さで飛びついてきたのは、他でもない、"ポッピーピポパポ"ではないか。

永夢は意味が分からず、ただ真っ白になって固まるだけだった。

しかし抱きしめてきた彼女の優しい匂いは、一緒に過してきたあの時と変わらなかった。

そしてその匂いは、記憶にある過去とは違う。

そう、つまりこのポッピーは――

 

 

「ハナエル……! なぜヤツが!!」

 

「俺が助けた」

 

「ハァ!?」

 

 

言い放つカブト。

回想。いや、なに、特別なことなど何もしていない。

ポッピーが自傷行為のため、バグヴァイザーを手にした時、それを掴んだ男がいた。

それがカブトだ。そのまま武器を没収し、ポッピーは事なきを得た。

 

だからそれが未来に繋がる。

ポッピーは死んでいないのだから、ココに今生きている。何かおかしな事でも?

そしてもう一人。エピローグは見た、変身を解除し、ボロボロと泣いている美穂を。

彼女が抱きしめている小さな影、それは紛れもない、城戸ツバサの姿だった。

 

 

「お祖母ちゃんが言っていた」

 

 

コチラも別に特別なことはしていない。

ただちょっと過去に飛んで止めてきた。そして守った。その結果が今だ。

 

 

「子供は宝物。この世で最も罪深いのは、その宝物を傷つける者だとな」

 

「バカな事を……ッッ!!」

 

 

走り出すエピローグ、しかしカブトはその先を行く。

 

 

「ついて来れるか俺に」

 

「!」

 

「ハイパークロックアップ」『HYPER・CLOCK UP』

 

 

光速を超え、カブトは一瞬でエピローグを宙にたたき上げる。

エピローグとしても気づけば宙を舞っていた状態だ。

きりもみ状に吹き飛ぶなか、足が見えた――、と思ったらよく分からない方向へ吹き飛んでいる。

 

 

「ぐあぁあああああ!!」

 

 

地面を転がるエピローグ。

一方でカブトは振り返り、永夢達を見やる。

 

 

「守れ」

 

「!」

 

「たとえ、失う選択肢しかなかったとしても――」

 

 

美穂はよりギュッと、ツバサを抱きしめて頬ずりをしていた。

ツバサも笑顔で美穂の背中を摩っている。

 

 

「その運命を破壊して、守る道を選べ」

 

 

永夢はその言葉を聞いて、強く、強く頷いた。

そしてポッピーを強く抱きしめ、心臓と心臓を合わせる。

強く、ドクンドクンと共鳴する命の音が、永夢の魂にかつてない炎を生み出した。

 

 

「たとえ世界を敵にまわしても守るべきものがある」

 

 

ライダーは人間だ。

 

 

「だがそれでも、俺は全てを超え、全てを守る」

 

 

一方で鼻を鳴らす音が聞こえた。

 

 

「遅いッ! いつまで待たせるんだ!」

 

「全く、少し焦りましたよ」

 

 

ディケイドとキバは既に気づいていたようだ。集まったライダーの中でカブトだけがいなかった事に。

 

 

「悪かったな。少し時間が必要だった」

 

「くだらない――ッ!」

 

「!」

 

 

声が聞こえる。

顔をそちらに向けるカブト。

 

 

「救う必要のない命を救うなどと――ッッ!!」

 

 

立ち上がり、舌打ちを零すエピローグ。

ハナエルとツバサはエピローグ側が用意した駒にしか過ぎない。

それをさも価値のあるように言われるのは腹立たしいことだった。

 

 

「それでも守る。でなければ――」

 

 

カブトは人さし指で天を貫いた。

 

 

「俺の正義は満たされない」

 

 

エピローグは仮面の裏で強く歯を食いしばった。

気に入らない。ああ気に入らないとも。ならば教えてやるしかない、

またポッピーや、ツバサを化け物にするだけだ。その為にエピローグはペンを持ち構える。

 

 

「させるものか」

 

 

走るカブト。

が、しかし、腕を前に突き出すエピローグ。

するとバットファイガイアの力が発動し、魔皇力で構成された強力な結界が出現する。

それだけではなく、ダグバの頭部がサイコキネシスを発動。カブトの足がビタリと止まった。

 

 

「クッ!」

 

「いくらお前でもこの中では動けないようだな!」

 

 

それは他のライダーも同じだ。

さらに一度は消されたとは言え、兵士は何度でも生み出せる。

大量のレイドラグーンがエピローグを覆い隠し、その間にペンを走らせる時間が生まれる。

 

 

「そうだ! まずはなによりもお前から消してやる! カブト!!」

 

 

不意打ちには怯んだが、だからどうしたというのだ。

ジョーカーの不死能力があるし、ハーメルンによる絶大な干渉能力は今も健在だ。

 

 

『仮面ライダーカブトは頭が吹き飛び、死亡する』

 

「消え失せろ! ファン・フィクション――ッ!」

 

 

文字が綴り終わり、指を鳴らすと、カブトから断末魔が聞こえた。

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

文字通り、首が破裂し、大量の血が飛び散る。

そして体はガクリと力なく倒れ、その後カブトは粉々に爆散した。

 

 

「フフフ……! いけないヤツだ。救いを拒むからこうなった」

 

 

邪魔者はもういない。

エピローグは再びペンを持ち、筆を走らせる。

綴るべきは、生まれた下らない希望もどきの排除。ポッピーとツバサを敵にしてやればライダー達は大きく絶望し、あわよくばエピローグに頭を下げるだろう。

どうかお願いですからと彼らは――――はら彼とらかすでい願おかうど

。うろだるげ下げを頭にグーロピエばくよわあ、し望絶くき大は達ーダイラばれやてしに敵をサバツとーピッポ。除排のきども望希いなら下たれま生、はきべる綴

。るせらを筆、ち持をンペび再はグーロピエ

。いないうもは者魔邪

「たっなうこらかむ拒をい救。だツヤいなけい !……フフフ」

。たし散爆に々粉はトブカ後のそ、れ倒くな力とリクガは体てしそ。る散び飛が血の量大、し裂破が首、り通字文「!!アアアアアアアアアアアアアアグ」。たえこ聞が魔末断らかトブカ、とすら鳴を指、りわ終り綴が字文「!ッ――ンョシクィフ・ンァフ !ろせ失え消」『るす亡死、び飛き吹が頭はトブカーダイラ面仮』

 

 

『HYPER・CLOCK OVER』

 

「グアアアッッ!!」

 

 

鉄拳が顎に入った。

視界が歪み、エピローグは荒野の地面に伏せる。

睨む先、立っていたのは仮面ライダーカブト・ハイパーフォーム。

 

 

「貴様ァアア!!」

 

「お祖母ちゃんが言っていた――」

 

「あぁああ! うるッさい――ッ!!」

 

 

ダラダラと喋っていたのが間違いだったな。エピローグは仮面の奥で笑みを浮かべた。

素早く書き記す。もはや書きなぐった見るに絶えない汚い字。

けれどもハーメルンが認識すれば問題ない。

 

 

『仮面ライダーカブトはぐちゃぐちゃになって死ぬ』

 

「グッ! グアアアアアアアア!!」

 

 

カブトが叫びをあげた。

投稿完了。カブトは肉片を撒き散らしながら、惨たらしい死を迎え『HYPER・CLOCK OVER』カブトの蹴りがエピローグを捉え、地面を転がしていく。

カブトは美しい銀の鎧を光らせ、青い複眼でエピローグを睨んだ。

 

 

「俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する」

 

「グッウ! ふざけやがってェエ……!!」

 

 

立ち上がったエピローグは浮遊し、後ろへ飛んで行く。

 

 

「僕に逆らったことを後悔させてやるぜ!」

 

『仮面ライダーカブトは、ハイパークロックアップの力を失い、時間跳躍を封じられる』

 

「さらに!」

 

『仮面ライダーカブトは死亡する』

 

「永遠に消え失せろ! カブトッッ!!」

 

 

そのカブト。

ハイパークロックアップを発動し、鎧を展開させる。

さらにハイパーゼクターに手を駆け、角の部分にあるレバーを降ろした。

 

 

『MAXIMUM RIDER POWER』

 

「おい……!」

 

『ONE』

 

「おい……ッ!!」

 

『TWO』

 

「おい! おいッ!」

 

『THREE』

 

「おいおいおいおい!!」

 

「ハイパーキック」『RIDER KICK』

 

 

飛び、一回転、そして右脚を突き出す。

エネルギーの奔流が纏わりつき、凄まじいエネルギーを散布させる。

 

 

「ちょっと待て! なぜ僕の力が――」

 

 

空間跳躍。カブトが消えた。

そして背後から気配。エピローグが振り返ると、そこにはカブトの足裏が。

 

 

「グッッ!!」

 

 

両手を前に出し、結界でそれを受け止める。

手数と違和感に飲まれているが、さすがは全てのライダーを相手にするだけはある。

エピローグはハイパーキックを完全に受け止めると、ハイキックでそれを打ち返した。

 

 

「――ッ!」

 

 

着地するカブト。

迫るレイドラグーン達を拳で打ち弾きながらエピローグと対峙する。

 

 

「なにがどうなって――ッ! お前、何をした!!」

 

「簡単だ。俺は仮面ライダーカブトではない」

 

「なに? では一体なんだと言うんだ!!」

 

「決まっている。俺は――」

 

 

回し蹴りで周囲のレイドラグーンを吹き飛ばすと、カブトは天を指差す。

 

 

「俺は、仮面ライダーカゲロウ。スーパーフォーム」

 

「はぁ!?」

 

「見せてやろう。スーパークロックアップを」

 

 

失礼。語弊があった。

カブトなどいない。"仮面ライダーカゲロウ"は、スーパーゼクターをタッチし、スーパークロックアップを発動する。

光速で駆け、エピローグと殴りあう。

 

 

「どうなって――」

 

 

腕が絡み、組み合う両者。

そこでエピローグの脳に電流が走った。

 

 

「まさか! お前――ッ!!」

 

 

全ては過去に遡る。

カッチリとしたスーツを着た大人たちが並ぶ会議室。

そこで男の一人が、文字が羅列している紙を、責任者へと差し出した。

 

 

『こちらが新しいマスクドライダーシステムです』

 

『ほう、名前は』

 

『カブト――と』

 

 

そこで光が迸った。ハイパークロックオーバー。

現れたのは天道総司。彼は企画書を没収すると、呆れた様に首を振る。

 

 

『誰だ貴様は!』

 

『そんな事はどうでもいい。名前の変更があってココに来た』

 

『は!?』

 

『カブトと言うのはセンスが無い。そのまますぎる。カブトムシから取りましたと丸分かりだ。捻りがない』

 

『いやッ、しかし』

 

『それにビーファイターカブトと被ってる。同じカブトムシ型の戦士、訴えられたら負けるぞ』

 

『それは……! 確かに!』

 

『だからカゲロウにしよう。そうしよう』

 

『み、三島様。どうされますか』

 

 

三島と呼ばれたメガネの男は近くにいた上司に相談を一つ。

 

 

『新しい息吹の誕生は、移ろう陽炎の向こうに消えていく(適当)』

 

『カブトからカゲロウにしろと、言う事ですね(適当)』

 

 

いや、失礼。

適当ではないかもしれない。天道は目を閉じ、頷いた。

そして現在、エピローグは確信する。

 

 

「お前ッ、企画会議まで遡ったのか!」

 

「ああ、カブトの名をカゲロウに変えた。だからこそ未来は形を変えたと言うわけだ」

 

「ハッ! ご丁寧に説明ありがとう。だったら――」

 

 

カゲロウを――、いや、そうじゃないな。天道総司を名指しして殺せば良い。

そう思ったとき、ハイパークロックオーバーの電子音がハーモニーを奏でる。

 

 

「あ?」

 

 

斜めの上にカブトが出てきた。

いや、あれはカブトではない。

 

 

「始めましてだな。俺は、仮面ライダーカブタ」

 

 

正面にカブトが現れた。

 

 

「時を越えて参上。仮面ライダーカブチ」

 

 

次は背後。

 

 

「天を掴む意思。俺は、仮面ライダーサバミソファンタジー」

 

 

なん――、だよ、それ。

そう思った時、ますます増えていく電子音。

 

 

「仮面ライダーラブヒヨリ、待たせたな」『HYPER・CLOCK OVER』

 

「仮面ライダーカブカブ。やってきたぞ」『HYPER・CLOCK OVER』

 

「仮面ライダームシキング。俺の力が必要か?」『HYPER・CLOCK OVER』

 

「おい逆にやべーだろそれは!」

 

 

鎧武の言葉は無視。

するとまた光が。仮面ライダーカブ吉が登場。

いや、まだだ!

 

 

「仮面ライダーオデン」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダートーキョータワー」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダーヒロちゃん」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダーサバヅクシ」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダーポイステレッドホーン」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダーワン」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダーツー」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダースリー」『HYPER・CLOCK OVER』

「仮面ライダーライダーキック」『HYPER・CLOCK OVER』

 

 

「最後らへん適当だな!!」

 

 

無視。

とまあ、あっと言う間に大量のカブトが。

 

 

「コイツ等全部ッ、時を、跳躍して……!!」

 

 

ペンを走らせなければならないのに、エピローグは思わず固まってしまう。

気づけば、全てのカブトの手にはパーフェクトゼクターが。

 

 

『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』

『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』

『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』

『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』『ALL ZECTER COMBINE』

 

 

――MAXIMUM・HYPER TYPHOON。

 

 

音声が多重に重なり合い、巨大な刃が荒野を走る。

もはや敵であるエピローグ以外の悲鳴も聞こえてくる。

 

 

「グッ! ゴォオォオォオオ!!」

 

 

結界が破壊され、幾重もの閃が刻まれたエピローグ。

膝をついて呼吸を荒げているとき、時を越えてやってきたカブトたちが次々と消滅していく。

最後に残ったのは仮面ライダーカゲロウ――? ではなくカブト? ううむ。

 

 

「めちゃくちゃなヤツだなお前は。今は誰だよ」

 

 

ディケイドが呟いた。するとカブトは鼻を鳴らして返事を。

 

 

「お祖母ちゃんが言っていた。本当の名店は看板さえ出していない。名前などどうでもいい、中身さえ確かならな」

 

「………」

 

 

なるほど、では、まあ今はカブトと言うことで。

一方で呼吸を整えるエピローグ。少し、引っかかる点がある。

カブトは先程過去に戻り、カブトの名前を変更したといっていた。

だが、少なくとも『この世界』ではどれだけ過去に戻ろうがそれは不可能なはず。なぜならばカブトが誕生したのはあくまでも別世界だからだ。

 

 

(ヤツは時間や、同世界での空間跳躍は可能かもしれないが、世界を移動する力は持っていない筈。なのに何故――?)

 

 

そもそもエピローグは――、つまりブックメイカーはこの荒野にライダー達を呼び寄せた。その力を何故カブトだけがすり抜けたのか。

仮に、"カブトがこの終焉の世界を抜け出していた"としたら?

同じくしてモザイクが空間に走る。ノイズ掛かったところから姿を見せたのは、仮面ライダーディエンド。

 

 

「お前か……! 厄介なネズミを逃がしてくれたのは!!」

 

「そもそも逃げたんじゃなかったのか海東」

 

 

エピローグやディケイドの視線をヒラリと交わし、ディエンドは適当に見つけた岩の上に足を組んで座る。

 

 

「おいおい、よしてくれたまえよ。こんな素敵な世界があるのに何も頂かないワケがないだろう?」

 

 

それに、ディエンドとしてもカメンライダーは少々邪魔である。

そんな中、カブトが前に出る。

 

 

「行くぞ。お前達は望まれない終わりを見た。違うか?」

 

 

悔しい思いをしたはずだ。

ならば、それを壊すのが仮面ライダーだろうて。

グッと拳を握り締めるゴースト。彼が一番はじめに口を開いた。

 

 

「竜斗くんたちを救って見せる!」

 

「ッ」

 

 

ハッとする龍騎。すぐに頷いたのは言うまでもない。

だが一方でその想いをブックメイカーは一蹴する。数が増えたところで何の問題もない。

今もほら、バカ共は希望を口にして足を止めているじゃないか。

その隙を見てこっそりとペンを走らせてやる。

全てが、消え去るように。

 

 

「………」

 

 

歯軋りを行う。

半ば分かっていたが、反映はされなかった。

なんだ? なにが原因だ。探す。探る。するとほら、見つけた。

妨害する力を。発生源は――、リボルギャリー。

 

 

「目障りな……!」

 

 

気づいたのか、ディエンドがニヤリと笑う。

そうとも、世界を移動し、その力を持ってくる。気ままに移動できるディエンドやディケイドだからこそできる力とでも言えばいいのか。

 

 

「ジョウジが作った"アンチハーメルン"をさらに強化した」

 

 

キュルキラ戦のようにハーメルンの機能を狂わせるのはもちろん、なによりも対ブックメイカーを意識した機能拡張。

そう、それは『眼』への干渉。力の源を弱めれば――!

 

 

「待ってろよ竜斗! 今、俺達がお前を助けてやる!」

 

「ミライちゃんも加古くんも、もう少し頑張って!!」

 

 

龍騎やゴーストの言葉に、エピローグは仮面の奥の表情を歪めた。

確かに、それは観測者としての一番の弱点。だからこそエピローグは力を込めた、バックルの中で期待してしまっている魂達を奥底に沈めていく。

 

 

「――それにしても、ジョウジが一人で作ったのか?」

 

 

ふと、ディケイドが口にした。言われてみればだ。

カブトが出現してから、今に至るまでの時間だけでそれを行ったと?

すると事情を知っているディエンドが、少し呆れた様に答える。

 

 

「ま、一人じゃない」

 

「?」

 

 

するとリボルギャリーの上に立ったフロッグポッドが奇声を上げ始める。

 

 

「!?」

 

 

ギョッとしたライダー達と、笑い始めるフロッグポッド。

ディエンドは何かを思い出しているのか、頭を抑えて首を振っている。

 

 

『ブックメイカーァ! 何故君が観測者の力を使えなくなったのか!』

 

 

永夢がチベットスナギツネのような顔に変わったのはその時だった。

変身していたレーザーも帰りたそうにしゃがみ込んでいる。

 

 

『何故アンチハーメルンが短時間でアップデートを行うことができたのか!』

 

 

永夢にしがみ付いていたポッピーはまだ意味が分かっていないのか、首を傾げている。

しかし彼女も歪んだ背景があるとは言え、ライダーである事にはかわりない。

クロスオブファイアが活性化している中、魂の炎が全てのポッピーを繋ぎ、記憶を共有させる。

だからこそ全てを思い出したのか、言い方を変えれば知ったのか。思わず『ゲ!』と声をあげて、より永夢にしがみ付く。

 

 

『何故ディエンドが世界を移動していたのかーッ!』

 

「それ以上言うなーッ!」

 

 

レーザーが悪乗りを始めた。

 

 

「わいわいわーい」

 

『その答えはただ一つゥ!』

 

「ヤメロー!」

 

『アハァー』

 

 

殺してぇ……!

茶番すぎる。血走った目で睨みつけるエピローグとは逆に、フロッグポッドからはそれはもう楽しそうな声が聞こえてきた。

 

 

『神の才能を持ったッ! この私がいるかルァだぁあああああああ!! ヴぇーっ! はははははははぁあ! ヴァハハハハハハハーッッ!!』

 

 

新檀黎斗? 檀黎斗神? 神檀黎斗? ああもう何でもいい。

とにかく、リボルギャリー内ではガチャガチャガチャガチャ、カタカタカタカタそれはもううるさいタイピング音が木霊していた。

中には無数のモニタや線を張り巡らされており、繋いだPCの前にはディエンドが連れてきた(だん)黎斗(くろと)が変身する、仮面ライダーゲンム・ゾンビゲーマーレベルXが。

さらにゲンムは能力で分身体を作っており、無数のゾンビがリボルギャリー内を埋め尽くしながらタイピングを行っている。

すし詰め状態の車内の中央ではジョウジがイライラしたようにアンチハーメルンの調整を行っている。

 

 

(うるせぇ)

 

 

まあ、つまりは優秀な技術者を連れてきたと言うワケだ。

拳を握り締め、吼えるエピローグ。納得がいかない。

いくら檀黎斗が優秀だったとしても、あの短時間でショッカーの技術を結集させたハーメルンシステムが、ましてや観測者と言う立場にある『眼』に干渉できるシステムを作り上げるなんて――

 

 

「もちろん僕も少し力を貸したよ」

 

 

ディエンドは、さらに後方を指差した。

 

 

「あとはそうだね、もう一人使える男がいたから。つれて来たのだよ」

 

「!」

 

「なによりあれは――、キミには『効く』んじゃないかな?」

 

 

シャカシャカシャカシャカシャカ。

 

 

「なん――、だと?」

 

 

カチャカチャカチャカチャカチャ。

 

何かを振る音が鳴り響く。荒野の果て、一人の男が歩いてくるのが見えた。

首を傾げるもの。敵かと思って警戒するもの。そして理解するもの。

そう、キバやブレイド、アギト、ディケイドは完全に理解した。そして何よりもエピローグ、ブックメイカーは大きく表情を歪ませた。

 

それは――、あまりにも綺麗な絶望。

 

 

地獄へようこそ。

ディケイド達の無言のメッセージを受け取ったのか、男は歩くスピードをほんの少し速めた。

腕を見れば、なにやら複雑な文字盤が書かれた腕時計が見える。

なにより目立つのは、空間に出現し、飛び交う『数式』の群れ。

 

 

『はぁーい☆ み・ん・な・のアイドル! みーたんだよぉ♪』

 

 

突如、フロッグポッドの声が変わった。

リボルギャリーのなかに少女がいるのだろうか。明らかに作ったような猫なで声が耳をくすぐる。

 

 

『らびたん! きちんと先輩方に挨拶してぇ、仲良くなろーね!』

 

「ら、らびたん? 先輩?」

 

 

オーズがポツリと声を漏らす。

そして一同が見るのは、青年の腰。そこにあったモノを確認し、一同は目の色を変える。

 

 

「まさか……!」

 

「これはどうもどうも先輩方ぁー、みんなのヒーロー! らびたんです☆」

 

 

沈黙が。

 

 

「やめた。キャラじゃねぇわ」

 

『は!? やめんなし! ちゃんとやれし! 「ヴェーハハハッハ」うるせェしッッ!!』

 

 

ブツリ! と、フロッグポッドの音声が切れた。

一方でシャカシャカチャカチャカなにやら、『ボトル』を両手で振っていた青年は、その手の動きを止めた。

そしてカシャン! と音が聞こえる。キャップを捻ったのだ。

そこで青年は、ニヤリと唇を吊り上げた。

 

 

「百聞は一見に。ってね」

 

 

青年は、持っていたボトル――、『フルボトル』を腰につけていたドライバーに装填していく。

 

 

(ラビット)!』『戦車(タンク)!』

 

 

ボトルをドライバーへセットすると、電子音とともに浮かび上がる紋章。

装填したのは赤と青のボトル。それらは互いに相乗りし、化学反応を巻き起こす。

 

 

【R】『(ベスト)(マッチ)!』【T】

 

 

鳴り響く待機音。

青年はベルトについているレバーを右手で掴むと、ゆっくりと回し始める。

すると連動して、バックルにある歯車が回転を始める。

 

ゴン! キン! カン! ゴンキンカン!

 

などとベルトがけたたましい音を鳴らし、歯車は赤と青の光を放ちながら回転スピードを上げる。

レバーをまわす手も早く。強く。とにかくグルグルとまわしていく。

するとベルトにセットされいていたフルボトルの中身が激しく上下に移動。するとボトルからパイプが伸び、枠を形作っていく。

それはまるでプラモデルのパーツがついている『ランナー』のようだ。

そして赤と青の液体はパイプを駆けめぐり、ついには装甲のパーツを具現させた。

 

 

覚悟完了(アーユー・レディ)!?』

 

 

その男、桐生(きりゅう)戦兎(せんと)は、両肘を曲げ、右の拳は握り締めて斜め左へ。そして左手は開いて右拳よりも前に持っていく。

それはまさにファイティングポーズ、前後に鎧を置いて彼は強く叫んだ。

 

 

「変身!」

 

 

一旦両腕をクロスし、左右に開く。

すると前後の鎧が戦兎に重なり、スチームが激しく噴射される。

 

 

『鋼のッ! ムーンサルト!!』

 

 

変身。

つまり――

 

 

『ラビットタンク!』『完成(イェーイ)!!』

 

 

"仮面ライダービルド"は、フレミングの法則を模した決めポーズを一同に披露した。

そう、お披露目だ。衝撃を受けていたメンバーもようやく意味を理解し始める。

 

 

「は? いやいや、なんでヒートトリガーがココに?」

 

『違うよ翔太郎!』

 

 

まだ分からぬモノもいるだろうか?

だからなのか、ダブルのなかにいたフィリップが楽しそうに声を荒げる。

 

 

『彼はEpisode DECADEにまったく情報がない。つまり! 君はッ! ううぅ、ゾクゾクするねぇ! 仮面ライダービルド!』

 

 

つまり、そう、エグゼイドの次。

新らたなる仮面ライダーなのだ。

 

 

「僕が代わりにまとめておいた」

 

 

ディエンドが本を投げる。

つれて来たカブトのハイパークロックアップがあったおかげで過去には戻れた。

投げた本は『エピソード・ビルド』。ページが剥がれ、次々にダブルへ――、正確にはフィリップに吸収されていく。

 

 

『へえ! 凄い、まだ4話しかやってないじゃないか! そうだ! だったら試したいことがあったんだ! 今のままじゃ不便だろ? 僕がキャラ付けをしてあげるよ!』

 

「あ、俺も参加して良いか!?」

 

 

鎧武をはじめとして一気に群がるライダー達。

 

 

『一人称はどうしようか!』「アタイにしよう!」

「サバミソが好きな設定を追加しよう」「おい、お前らあんま弄るな!」

『いいじゃないかディケイド! 滅多にない経験だ。まだ輪数がないから記載が容易なんだ』

「語尾にやんすつけたらかわいくないか?」「ちょっと貴利矢さん、変な事を言わないでくださいよ!」「通り魔? 通り魔キャラにしよう」「し、失礼だよ!」「いいっていいって、なんかやばそうだし」

 

 

結果。

 

 

「アタイッ! 仮面ライダービルド! 世界中のサバミソを制して! バイトリーダーにないたいでやんす! 邪魔するヤツは、見つけ次第成分吸収しちゃうぞ☆」

 

「やめろ! 二週で打ち切られるわ!」

 

 

そもそも敵の前で何をやっているのかと言う話である。

だが幸いにもエピローグは見事に動かなかった。ピタリと停止し、沈黙している。

小さな声で呟くのは、ネガティブな言葉の数々。ないよりも深い、怒りと焦り。

 

 

「やはり……、ムリなのか――、止める事は――ッ」

 

 

しかし、叫ぶ。

そして思い切り地面を殴りつけ、体を跳ね起こす。

 

 

「ガァアアアアアアア! 違う! 違うッッ! 僕は――ッ! 終わらせてみせる!!」

 

「!」

 

「来いライダー共! 最後の勝負だ! お前たちをデリートし! この物語を終わりへと導くッッ!!」

 

 

一方で笑うのはビルドだった。

キャラクターが元に戻ったのか、適当にそばにいたライダー達の肩を叩く。

 

 

「よろしく先輩。事情はディエンドって人から聞いてる」

 

 

ビルドが睨むのはエピローグのベルト、そのバックルだ。

 

 

「ミッションは簡単。今からあそこに封じられている三つの魂にアプローチをかける」

 

 

どうやって? 大丈夫。それを今リボルギャリーの中で必死に作ってる。

だからこそ、それが完成するまでの時間を稼ぐのだ。

レイドラグーンのこともある。ライダー達は素早くエピローグを止めるメンバーと、リボルギャリーの守護にまわるライダーに別れる。

リボルギャリーの方に走るのは、ホッパー、G、メテオ、なでしこ、カラスアマゾン、ディエンド、オメガ、ネオ。

 

 

「ほら、ママといこ、ツバサ」

 

「うん!」

 

 

美穂もツバサの手を引いてリボルギャリーの方へ走っていく。

そして、レーザー。

 

 

「永夢、ベルト使うか?」

 

「あ――、って、え?」

 

 

レーザーが自分の腰を示す。

そこで永夢は、ポッピーに引っ張られた。

 

 

「ねえ永夢。好きって10回言って」

 

「え!? ど、どうしたの急に」

 

「そうだぜ。今クイズやってる場合かよ!」

 

 

戸惑う永夢と首を傾げるレーザー。けれどもポッピーは折れない。

 

 

「いいから!」

 

「え、えっと、好き好き好き好き好き好き好き――」

 

「私も好きーッッ!!」

 

「なんじゃそりゃーッッ!!」

 

 

ポッピーは永夢をギュッと抱きしめ胸に顔をうずめる。

捻りないし。今やる会話じゃ絶対無いし。そもそも10回言ってねぇし。だから大きくずっこけるレーザーだが、一方で永夢は違った。

目を見開く。そうだ、本物なんだ今は。そして彼女との関係も。抱いてきた感情も。

 

フラッシュバックするポッピーの死と、あの時の痛み。

でも今は全てを包んでくれる温かいものが心を取り巻いている。

だから――、だからこそ、無かったことにはしたくない。

全ては、エグゼイドであるための旅路。

 

 

「ボクは、もう失いたくないし、失わせもしない」

 

 

ポッピーが顔を上げると、そこには確かに"仮面ライダーエグゼイド"が立っていた。

息を呑むレーザー。レーザーのベルトは確かに腰にある。そしてエグゼイドの腰にも確かにゲーマドライバーが存在していた。

クロスオブファイアの覚醒。魂の炎がベルトを具現させる。

 

 

「頑張ってね、永夢」

 

「うん。ちょっと待ってて」

 

 

ポッピーとレーザーはリボルギャリーの方へ。

一方でエグゼイドは振り返り、前に歩いた。

ふと、エピローグと目が合う。彼はエグゼイドが戻るのを見ていたし、特に止めもしなかった。

もはや何をしても魂の炎を消滅させることは不可能と悟ったからだ。

 

 

「だが――、問題ない。火を完全に消そうとすることが間違っていた」

 

 

水をかけても、また燃える。

 

 

「ならば、水をかけ続ければいい」

 

 

ニヤリと笑うエピローグ。そして並び立つライダー達。

それらを見てビルドはフムと唸る。

 

 

「OK、ハナシは簡単みたいだ。ライダーを終わらせようとする観測者。そして文字を紡ぎ続けようとする俺たち仮面ライダー」

 

 

兎と戦車を模した複眼を光らせた。

 

 

「果たしてどちらが勝つのか――? さあ、実験を始めようか」

 

 

 

 







突然ですが今回でラストです(三章が)


……ごめんな何かまたこんなちゃちな擦りかたして(´・ω・)
でも言葉の裏にはハリセンボンだから、の!

と言うわけで次回から第四章『仮面ライダー』スタートや。
最終章じゃけぇ、もうちっと付き合ってぇな!



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