カメンライダー   作:ホシボシ

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第26話 熱風ライダー

 

「ベ――、キ」

 

「はい?」

 

 

おもちゃ屋さん。

そこでチェック柄のシャツを着てリュックを背負った青年が、なにやらモゴモゴと口にしている。

歳は20代後半くらいだろうか? 顔を真っ赤に染めており、額には汗が滲んでいる。一方で店員のお姉さんは眉間にしわを寄せており、少し前のめりに。

 

 

「なんですか?」

 

「いやッ、だから、あの、べ……チで、――ッキー」

 

「はい!?」

 

「ベ……ッ、ンヒヒ! アッ、イヤッ、チガウクテデスネ、アノ、エット、ダカラツマリ、ベ、ベベ、ベストマッチデ……ンフホッ」

 

 

あいも変わらず男はモゴモゴと煮え切れない態度を取る。

バイトのお姉さんは神様に祈った。

あー、コミュ障今すぐ全員死んでくんねーかなぁ! つうかそもそもレジ前来てんだからハッキリ話せよ!

その顔でシャイとか冗談じゃねぇぞキモオタが、あー、殺してぇ、バイトはダルイし、オタクは来るし――、ああもうなに見てんだよ気持ちわりーな、殺すぞ!!

などと営業スマイルの仮面の裏でお姉さんは憎悪爆発である。

しかしその内に他の客も並んできた。青年は覚悟を決めたのか、唇を震わせて前のめりになる。

 

 

「べ、ベストマッチでラッキぃぃぃいん!」

 

「―――」

 

 

緊張からか裏声になる。青年。

しかし決意と勇気とは裏腹に、バイトの女性は呆気に取られた表情で固まる。

 

 

「は?」

 

「え? い、いや。だからベストマッチでラッキー……。え!?」

 

 

なーに言っちゃッてんだ、このキモオタは。頭大丈夫か? ヤバイ奴か? 呼ぶか? 呼んじゃうかポリスメンを。

しかしそこでバイトの女性は気づく。そう言えばそんなキャンペーンがやっていたか。特定のワードを言うと、スペシャルグッズが当たるものだ。

 

 

「あ、じゃあコチラのポスターをどーぞー」(くたばれよ)

 

「ア、アリガトウゴザイマス……! ンフフ!!」

 

 

ポスターを受け取ってレジを抜ける男性。

すると後ろの方で小さな男の子が放つ、元気のいい声が聞こえてきた。

 

 

「ベストマッチでラッキー!」

 

「あッ、ごめんなさい。ポスター、さっきので……、終わっちゃった」

 

 

子供の泣きじゃくる声が聞こえ、青年は心がグシャグシャになるのを感じつつも早足でその場を離れた。

悪い事をしてしまった。とは、思う。もちろん本心だ。しかし欲しいものは欲しいのだ。

これも世の中と思って割り切ってもらおう。エスカレーターを早足で駆け下り、男性は玩具屋があったデパートを離れる。

 

 

「ん?」

 

 

なんだか暗い。

ふと空を見上げると、そこには巨大な雲があった。

黒く濁る雲。はて? 今日は雨だったか? しかし違和感。見ればその雲は空の一点に存在していた。

 

 

「あ」

 

 

何かが、降って来た。

雨だ。そう思ってすぐに首を振る。

違う。そんな甘いものじゃなかった。降って来たのは、人の形をした何か。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

絶叫だった。

シルエットは次々にデパートの屋根や壁を突き破ると、中へ進入していく。

同時に各地で起こる爆発。はじめはテロかと思っていた人間達も、徐々にその正体に気づいていく。

逃げ惑う人々の絡みつく糸。クモ男が形成した巨大な蜘蛛の巣には、人間たちが磔にされているではないか。

 

なんとかデパートを出ても終わりはしない。

地中を突き破って現れるサボテンの数々、サボテグロンに狙われたものは次々にサボテンの檻に閉じ込められ逃げ場を失う。

しかし人は数だけはある。サボテンの間を縫って逃げる人々。そんな彼らの悲鳴はすぐに聞こえた。

地面を植物の蔦が突き破り、逃げる人の足に絡みつくとそのまま一気に地中へ引きずり込む。

 

 

「あ」

 

 

腰から下が完全に地面に埋まってしまっているバイトのお姉さんが顔を上げると、奇怪な笑い声をあげているショッカー怪人、サラセニアンが見えた。

 

 

「エケケケケケ! ゴミ共が。どこに逃げても無駄だ!!」

 

 

すると町中に響く音楽。

曲名、"悪魔のショッカー"。戦闘員の一人が指揮をとり、肩を並べた無数の戦闘員が口を大きく開いて謳う。ショッカー賛歌。

 

 

『はじめまして人間の諸君! 私の名前はショッカー首領』

 

 

全てのチャンネルが、首領の姿を映す。

さらに各地上空にはショッカーの紋章が入った飛行船が浮遊し、その船体に同じく首領の映像が映し出された。

ラジオや電話もジャックされ、携帯の画面にも首領の姿が映る。

 

 

『既にご存知の事かもしれぬが、今、この世界に我々ショッカーが侵略を開始した』

 

 

この世界にも『仮面ライダー』の概念は存在し、多くの人が熟知しているヒーローだ。

ショッカーとはその中に登場する組織の一つ、さらには最近のコミカルな一面も心に残っているのか、初めは多くの人がドッキリの類かと思っていた。

なんなら街中を走る戦闘員と写真撮影を行おうとするものや、SNSにアップしようとするものも多かった。

だが徐々に分かってしまうのだ。町の様子や、自身に降りかかる殺意を感じ、人はその存在がウソではないことを理解してしまう。

 

 

『抵抗はオススメしない』

 

 

多くのパトカーが街中を駆けた。しかし怪人はそれを片手で止めると、それぞれ異形の力を解放してねじ伏せていく。

 

 

「粗末な鉛玉が、この私に通用するものか! 見よ! これがショッカー怪人の力だ!!」

 

 

ヒトデンジャーの硬い皮膚が銃弾を弾き、コブラ男やカマキリ男、コウモリ男が次々に警官を締め上げ、投げ飛ばす。

虚しく響く銃声が滑稽だった。警棒を持って立ち向かう勇敢な者もいたが、カニバブラーが前に立つとそこでおしまいだった。

何度警棒を叩き込もうが、カニバブラーはビクリともしない。その内にハサミで首元を打ち、気絶させていく。

 

異常事態に自衛隊の姿も見える。

だが様々な法律や手続きを無視して引っ張ってきた戦闘機はドクガンダーやゲバコンドル、プラノドンなど、飛行できるものが次々と撃墜していき、せっかく運よく用意できた戦車も――

 

 

「フゥン!」

 

 

サイギャングが乗り回すオートバイが跳ね、弾丸に直撃して破壊する。

さらに戦車の上に飛び乗ったのはトリカブト。強力な溶解液を発射し、戦車の屋根を溶かしていった。

 

 

「ケケーンッ! 見つけたぞ!!」

 

「た、助けてくれぇえ!!」

 

「無駄だ! お前達は我らが偉大なるショッカー怪人軍団に狙われたのだ! もはや勝利などないわ!!」

 

 

トリカブトは戦車に乗っていた男を引き摺りおろすと地面へ投げ飛ばす。

そこへエイの怪人、エイキングが強力な雷撃を発射する。男性は感電し、その場に気絶した。

町にサイレンが鳴り響く。とは言えそれもすぐに止まった。サイレンが破壊されたのだ。

 

 

『我々には銃など粗末な武器は効かない。戦車やミサイルならば話は別かもしれないが、効率が悪い。ううん、ましてや核など――、この世界が持つまい』

 

 

だが安心してほしいと首領は言う。

ショッカーは何も、人間を攻撃しているワケじゃない。今も怪人に命令を出し、襲った人は殺してはいないのだ。

今もほら見ろ、嬉しそうにライトを抱えて走るのはヤモゲラス。目の前には真っ青になりながら走る家族連れが見える。

 

 

「デンジャーライトを食らえェエ!!」

 

 

スイッチをオンにするとライトから怪光線が発射、それは家族が連れていた犬に命中すると一瞬で白骨化させてみせる。

 

 

「イアアアアアアアアアアア!!」

 

「ハハハハ! このライトに当たったものは骨になるのだ! 人間どもよ! そのようになりたくなければ今すぐ逃げるのを止めろォオ!!」

 

『キミ達はこれより我らの改造手術を受け、偉大な怪人の力を手にいれるのだ』

 

 

それは神なる世界へ至る船に乗るための切符。

英雄の船は、神の世界へと至り、全ての世界を支配するだろう。

望む力を、地位を、世界を手に入れ、ありとあらゆる世界を創作する事も可能となる。

 

 

『とは言えキミ達に拒否権はない。逃げられもしない』

 

 

全速力で走る人たち。

怪人や戦闘員に見つからないように、建物の影を歩き、路地裏にて身を潜めた。

表通りを走っていく怪人達を見て、ホッと胸をなでおろす。だがそこで耳に張り付く不快な笑い声。

 

 

「無駄だ」

 

「!!」

 

「お前達は逃げられはしない」

 

 

何もない空間が歪む。

そこから現れたのは死神カメレオン。人々の悲鳴を踏み潰し、手刀で次々に吹き飛ばしていく。

 

 

『我々には脳を改造する技術も持ち合わせてる。キミ達の意思に関係なく、怪人にすることも可能なのだ』

 

 

以後、同じ様な会話がループする。

爆発はより大きさや回数を増し、辺りでは黒煙ばかりが立ち込めている。

ショッカー戦闘員が運転する車の荷台には拘束された人たちが放り込まれている。

 

 

『まずは日本。そして次は世界、全ての人間は怪人になる』

 

 

日本、茨城。

とあるセンタービルを拠点とし、近くの広場前にクロスオブファイア吸収マシーンを設置する。

一見すれば石像、首領は両手を広げ、さらに先のとがった頭部のフードが頭上の大鷲に当たらないように首を曲げ下を向いていた。

マシーンと首領の視線があった。思わず零れる笑み、あのマシンの中に魂の炎が吸収されているのだ。

 

 

………

 

 

さて、侵略を開始してから6時間ほど経ったが。順調に人間は集まっていき、問題は何もない。

 

 

「国会は?」

 

 

首領の問いかけに、近くにいたガニコウモルが頭を下げる。

 

 

「問題ありません。ギルガラスのデッドマンガスにより、パニック状態です」

 

 

「ならばいい。世界の方はどうだ?」

 

「アブゴメスが電波撹乱マシーンを使用し、妨害電波を飛ばして偽の映像を配信。海外からの情報規制を行っています。向こうもまだ気づくのは先でしょう。携帯も使えませんし、SNSも同じくです」

 

「素晴らしい」

 

 

さらにクモ男が首領の傍へ。

 

 

「首領、人間の中に、自ら怪人になりたいと名乗るものが多数現れました!」

 

「フフフ……! そうか」

 

「さらにこの混乱に乗じて犯罪に走る人間も多数との報告が」

 

「フハハハハハハハ!! そうか! そうか!」

 

 

面白い。とても愉快だ。首領は声をあげて笑い始める。

世の中に不満を持つもの、たとえばそれは刑務所の中にいたもの。

同じ人間とて『適応』と、狂気に順応するのが早いこと、早いこと。

 

 

「ダカラ言っタだろう? コレがアノ馬鹿ドモが守ろうトした、愚かな人間ドモさ」

 

 

オラクルの言葉に首領はゆっくりと頷いた。

まあ、どうせ脳みそを弄るのだから、やる気の有無は関係ない。

大切なのは動植物の細胞に拒絶反応(リジェクション)を起こさない生まれ持った才能だ。

 

 

「とは言え、人間同士で勝手なことをされても困る。我々ショッカーは邪魔な相手は許さん! 我らの計画を邪魔するものは構わず殺せ!」

 

 

頷き、手を上げる怪人達。

 

 

「ム!」

 

 

ふと、ガニコウモルが耳障りな泣き声を感じて視線を向ける。

広場からビルへ集められていく人間たちの中に子供を見つけた。災難な日だ、ポスターはもらえないし、ショッカーに拉致されるし。

 

 

「うるさい! 黙らせますか」

 

「よいよい。彼ら子供は特別な存在だ」

 

「と、言いますと?」

 

「他世界におけるライダーのような力を持つものは、子供には甘いという特徴がある。あれらは大切な人質だ。なるべく怪人には改造せず、脳だけを弄るように」

 

 

さらに体内に爆弾を埋め込んで置くことで、さらなる効果が期待できる。まさに究極の抑止力ではないか。

 

 

「ハッ!」

 

 

下がるガニコウモル。侵略は順調のようだ。

電子、兵器、機関、ショッカーの力はそれらを簡単に狂わせることができる。

それらに対抗できうる力を人間が創る前に、侵略を終わらせる自信があった。

ふと、首領は手を上げる。すると上空を飛行していたギルガラスやゲバコンドルが飛来してくる。

 

 

「収集状況は?」

 

「ハッ! まずまずです。しかしまだ逃げている人間も多数との報告が」

 

「此処は我々の知っている地形とは若干の違いがあります。地下通路、商業施設も複数の怪人や戦闘員が見回っていますが、抜けはあるかと」

 

 

一応人間をサーチできる力もショッカーは持ち合わせているが、まだチューニングがうまくいかない。

さすがに新世界で持てる力を100%出せるまでには至っていないか。

しかし問題はない、少し見逃したからと言っても向こうに抵抗はできない。逃がしたとしてもいずれは全てを支配するのだ。

 

 

「……ん?」

 

 

首を傾げるアマダム。

何か違和感を感じたのだが――、ハッキリとは分からない。

気のせいか。いずれにしても場を混乱させるのは気が引けるため、特にアマダムが口を開くことはなかった。もっと違和感が強くなれば自然に分かるだろう、と。

 

さて、ココで一つネタバラシを。

アマダムが感じた違和感とは即ち『異物』の気配である。

まだそこまでサーチする能力はなかったが、ショッカー同じくして他世界の要因がこの世界に流れ込んでいる。

 

 

「ど、どうするんだよぉ」

 

 

頭を抱えた加古は、マンションの屋上に続く階段で蹲っていた。

そう、竜斗達は選択を迫られたのだ。ショッカー軍団がこの世界へ転送する中でアダムとイブが持ちかけた提案。

 

それは、自分の世界へ帰るか否か。

 

ショッカーが降り立った世界は竜斗達の世界ではない。

つまりアダムとイブがその気になれば竜斗達は自分の世界に帰れる。そして生きる事ができる。

永夢達の頑張りを無駄にしない事ができる! かつ、戦いの記憶は消える!

こんな良い事づくめだったのに! 竜斗は――、叫んだ。

 

 

「ダメだ! それじゃあ――、終わっちゃう!」

 

 

そう、物語の収束、結末だ。

全てが終わり、エピローグの向こう側に何がある? それは紛れもない、『完結』の二文字ではないか。

 

 

「終わったら――ッ、ダメなんだ!!」

 

 

もはやそれは世界で一番最悪のワガママだ。

いや、分かる。どうぞ叩いてくれ。つまり竜斗は、ショッカーが向かった世界について行こうというのだ。

確認するまでも無いが竜斗は人間だ。しかも人間にしてみればかなり弱いほうだ。そんな人間がライダー達ですら時に敗北してしまう怪人達に勝てるものか。

当たり前なのだ。もちろんそれを竜斗もよく理解している。その上で、その上でこの男はこんなバカな事を口にする。

 

 

「だって、本当に――ッ、死んじゃう!!」

 

 

竜斗はエピローグに吸収されている間の会話や情報から大まかなことを理解しているようだ。

ライダー達は変身できず、破れ、死に、世界は完結した。

本当に? 本当に死んでしまったの?

 

 

「違う! まだ終わってない!」

 

 

竜斗たちが諦めなければ、だ。

なぜならば竜斗たちは終焉の星、あのブックメイカーが作った世界のキャラクターとして認識されているから。

本当の竜斗は城戸竜斗などと言う名前ではないし、観測者がその正体に気づくわけがない。だから『竜斗』が『竜斗』として存在し続ければ。

つまり『カメンライダー』の登場人物として存在している以上、まだ終わりじゃない。あの物語はまだ続くのだ。

 

 

「ぼ、ぼくが主役になる! そうすれば、あの概念はまだ続く!!」

 

 

つまり、全ての根本はクロスオブファイアにあると言うこと。

手足が吹き飛ぼうが、ベルトが破壊されようが、魂の炎が燃え上がれば修復される。

それは仮面ライダーとして最も大切なものだからだ。

 

ライダーがライダーであること、クロスオブファイア。

だからその概念が通用していた『世界』を見せることができる竜斗たちがいれば、まだライダー達を救える。

竜斗たちが消えてしまえばもうあの世界のルールは使えない。

だからあの物語を最終回にしてはいけない。次回作が始まってはいけない。

 

 

『だからッ、ぼくは行くよ!!』

 

 

竜斗はアダムとイブにそう言った。

もちろん、バカな事だとは分かってる。たぶん、きっと、と言うよりも100%自分はショッカーに捕まり殺されるだろう。

それを分かっていても奇跡を望んでしまう。永夢達の努力を無駄にしても、美穂の最期の言葉を無視しても、それでも竜斗は死にに行く選択を取りたかった。

かつてはタナトフォビアだった男が、死を目指そうと言うのだ。

 

自傷行為? 自殺願望? 違う。

それだけは違うと竜斗は声を大にして言える自信がある。

事実加古やミライはそう思った。だが竜斗は叫ぶ。生きたいのはかわりない、むしろ生きたいからこそショッカーに挑みたかった。

 

 

「だって、死んだように生きててもッ、しょうがないじゃないか……!」

 

 

全て客観的に見てて、分かった。

生きると言うことは、美味しいことだ。食事をちゃんと味わって美味しいと思えること。ゲームやスポーツをしたら楽しいと思えること。遊園地にいったらちゃんと楽しめること。

そういう事が生きていると言うことだろう? だったら、このまま元の世界に帰っても絶対に生きられない。

だって『もしかしたら助けられたかもしれない』という未練を引きずって生きて、それで本当に楽しめるのか? ショッカーが神なる世界に行くかもしれないと、さらなる悲劇が待っているかもしれないと分かっていて笑えるのか?

 

記憶を消される?

その記憶を消すという選択肢を今、本当に取れると思っているのか?

なによりも、自分達を助けてくれたライダー達を見捨てるような選択を選べるのか?

 

 

「ぼ、ぼくにはッ、ムリだよ!!」

 

 

だから、走った。

ぐずぐずはしていられない。すると竜斗の手を握るものが。ツバサだ。

 

 

「お兄ちゃん……!」

 

「ツバサ」

 

 

ツバサは儚げに笑った。

虚構の存在の彼女が自分の世界を脱すればどうなるかは分からない。

だが逆を言えば、本当にその世界だけのツバサがショッカーのところに紛れ込めば、カメンライダーの世界は続いていく。

 

 

「……!」

 

 

そしてミライも竜斗と同じ心持ちだったのか、覚悟を決めたように頷くと走り出した。

加古としても一人で帰る図々しさは持ち合わせていない。ヒィヒィいいながらも竜斗たちの背を追った。

そして今に至るワケだ。アダムとイブは観測者ゆえなのか、世界に送ってくれた時点で姿が見えなくなった。

だから情けない話、最初に転送されたマンションから動けなくなっていると言うわけだ。

 

そんな時轟音が響く。

肩を震わせる一同。外を見ると、大きなビルが崩れていくのが見えた。ショッカー怪人アルマジロングが体を丸めて飛びまわり、建物を破壊していく。

散り散りになって逃げる人々だが、無駄のようだ。クモライオンが発射した赤い糸が次々に人間を縛り上げ、地面に引き倒していく。

 

 

「ええい! まだ理解していないのか!」

 

 

チーターカタツムリがイライラしたように吼える。

 

 

「人間共! お前達に未来はない! どこに逃げようが、我々ショッカーからは逃げられないのだ!」

 

 

誰かが叫んだ。

 

 

「どうしてこんな事を!? なぜ平和を壊そうとするのか!」

 

 

涙に濡れた声に、ショッカー怪人は歪んだ笑い声を上げる。それは各地で。

 

 

「何故? 愚問だな!!」

 

 

多くのプロレスラー達が白目をむき、泡を吹き出している。

詰まれた男達の頂点に座し、笑っているのはピラザウルス。

 

 

「我らショッカーが求めるのは力!」

 

 

女子高に張り巡らされた茨。

鋭利な棘がついた蔦に縛り上げられた生徒達は苦悶の表情を浮べて沈黙している。少しでも動けば針が肉体を引き裂くことを知っているからだ。

その中で椅子に座り、足を組んでいる女性怪人・バラランガ。

 

 

「力ある者が力なき者を贄とし、次なる理想を望むのだ!!」

 

 

ショッカーが嫌うのは弱い者達だ。誰かを守ろうと立ち向かってくるものは評価していた。

戦えないように痛めつけるが、その意思は怪人になった時におおいに役に立ってくれるだろう。

だがこの混乱の隙を見て、欲を満たそうとするものが現れる。

汚職、強奪、詐欺、強姦、猟奇、障害、殺人。人間が行おうとするそれらはショッカー怪人からしてみれば見るに耐えないもの。

過去にはそう言ったものを改造したこともあったが、のきなみ成果は上げられていない。なぜか? それが人の『弱さ』を象徴しているからだ。

 

 

「無様なヤツ等は、高貴なるショッカーには要らんのだ! 溶けて死ねェエ!!」

 

 

ハエトリバチが殺すのはそうした者達である。食虫植物の口が開くと、溶解液が発射され、殺処分が順調に行われていく。

臓物を零しながら、垂れる脳みそをかき集めながら、零れた目を拾おうとしながら、絶叫をあげて死んでいく者達を見て怪人達は大いに笑った。

 

 

「哀れなり人間。血を重ね、我らが強さの足跡となれ」

 

 

悲鳴が重なる。

同じくして加古はもう一度ため息をつき、大きくうな垂れた。

 

 

「ムリだよォ、ムリムリ! 絶対ムリ!」

 

「――ッ」

 

 

たしかに。いつまでもココにはいられない。

しかし竜斗は諦めてはいなかった。一つだけプランがある。と言うよりもそこに賭ける以外にはない。

ライダー達を助けるにはどうすればいいか? 決まっている。なんのために概念を引っ張ってきた? クロスオブファイアだ。

 

 

「あの機械を壊せば、きっと……!」

 

「あ、そっか。クロスオブファイア吸収マシーンを壊せば、みんなの吸い取られた力が解放されて――」

 

「そう。ぼくらの世界のルールが適応すれば、それはライダーを形成してくれるはず!」

 

「で、でもあんな大きなマシンをどうやって?」

 

「それは――」

 

「そ、それは!?」

 

 

目を光らせる竜斗。ミライたちもゴクリと喉を鳴らして、言葉を待つ。

すると10秒経った。どっこい20秒経った。そしてついに竜斗が口を開く。

 

 

「わかんない」

 

「どえええええええええええええええ!?」

 

 

加古は目を見開き、竜斗の胸倉でも掴みかかりそうな勢いではあったが、まあ仕方ない。

するとその時、足音が聞こえてきた。階段を上がってくる音だ。思わず身を縮めて固まる一同。

だがショッカー関係にしては足音は穏やかで、複数ではない。

 

 

「ッ、キミ達は!」

 

「!」

 

 

現れた男の服装を見て竜斗達は察する。上下の服が迷彩柄、つまり自衛隊の人間だ。

事情を説明しあう一同。今日はたまたま近くで自衛隊の演習があり、戦車や戦闘機があったというわけだ。

とは言え、それらは今はもうショッカーが破壊してしまった。自衛隊の男はなんとか逃げてきたらしいのだが、途方にくれていたと。

 

 

「だがキミ達の話を聞いて光明が見えた。早速あのマシンを破壊しよう」

 

「できるんですか!」

 

「ああ。近くにショッカーが仕掛けた爆弾があった。それを逆に利用してやろう。爆発にはまだ時間がある。奪ってもしばらくは安全だ」

 

 

強く頷く竜斗たち。思わず笑みが漏れる。

なんだ、まさかのまさかがあるかもしれない。

 

 

「よかったね竜斗くん!」

 

「うん!」

 

「ようし、じゃあ早速行きましょう!」

 

「ああ。だが外にはあの化け物がいる。みんな、くれぐれもはぐれないように」

 

 

一同は早速その爆弾がある場所を目指すことに。

そう離れてはいないらしいので、一同は道路に出るやいなやダッシュで爆弾を目指す。

しかしやはり町中をうろつく怪人だ。シオマネキングが走る竜斗達を確認、笑い声をあげて追いかけてくる。

 

 

「アヴィアヴィアヴィ! 見つけたぞ人間ンン!!」

 

「走るんだ! この先にコンビニがある。そこを右に曲がったところまで走れ!!」

 

 

自衛隊の男に促されて竜斗達は全力で足を動かす。

一方で男はシオマネキングに向かい、拳を構える。どうやら時間を稼いでくれるようだ。竜斗達には簡易的に道を説明し、すぐにアクションをとった。

そして竜斗達は言われた通りに走り、必死にコンビニを目指した。そして言われた通り右へ曲がり、近くにあった路地へ逃げ込む。

 

 

「だ、だッ、大丈夫なのッ、あっ、あの人!!」

 

 

確かに。

そう思ったとき、自衛隊の男性が路地裏に駆け込んできた。

 

 

「だ、大丈夫ですか!」

 

「ああッ、少し怯んだが……、なに、撒いてきたよ」

 

「よ、よかった!」

 

「ああ。ああ。じゃあ行こう!」

 

 

男性に促され、再び道路を走る竜斗たち。

少し開けた場所に出た。幸いにもショッカーの姿はない。

 

 

「爆弾っていうのはどこに?」

 

 

尤も、人の姿も無いが。

 

 

「いやッ! ないんだ!」

 

「え?」

 

「あれはウソだ!」

 

「……え?」

 

 

立ち止まる竜斗たち。

同じく、自衛隊の男も止まる。

 

 

「少し試したんだ。キミ達は少し特殊だから、何かが張り付いているかもしれない――」

 

 

闇が男を包む。

黒い靄をかき分け、姿を見せたのは――、ショッカー怪人ガニコウモル。

 

 

「なッッ!!」

 

 

声を失う竜斗たち。なんとか反射的にツバサを守るように立つが、それは無意味だ。

なぜならばツバサの後ろに魔法陣が一つ。そこから姿を見せたのは――、アマダム。

そして上空から飛来してくるのは、青い羽を撒き散らしていくオラクルである。

 

 

「子供ハ嫌イダ」

 

ライダーの映画来たけどガキうるさすぎてマジで萎える

 

ガキってなんで頭悪いんだろう。マジで目障りだわ

 

子供嫌い。皆殺しにしたい

 

 

青い言葉が振ってくる。

同じくして青ざめる一同。アマダムは神をも超えると豪語する魔法使いだ。

当然、はじめは些細な違和感だったが、すぐにその正体を割り出すことができた。

あとは簡単だ。気配を特定し、近づけばいいだけ。なにかあるのかと少し揺さぶりをかけたが、どうやらそういうワケでもないらしい。だからこそこうなっている。

 

 

「悲しいほどに弱い」

 

 

仮面ライダーと『子供達』と言うのは切っても切れない存在ではある。

時にその存在がショッカーにとっては大きな毒となった事も認めよう。

だが――、皆がそうなれるワケではない。竜斗たちはそうなれなかった。ただそれだけの話である。誰もが皆、特別になれるワケではない。

 

 

「竜斗!」「竜斗くん!」「お兄ちゃん!!」

 

 

しかしそれでも三人の言葉が重なったのは、その時になってやっと自覚したからだろう。

誰もが竜斗と同じだった。死んだように生きるのはイヤだった。だからこそ叫ぶのだ。

自分たちが何もできないモブキャラで終わりたくないからこそ。

 

 

「逃げろ!」「逃げて!」「にげてぇ!!」

 

 

無様な姿だった。加古達は別に怪人達に掴みかかったわけじゃない。ただ何もできず捕まり、動きを封じられる。

だが、想いだけは届いたようだ。竜斗は目を潤ませながらも、歯を食いしばりながらも、何も頭に思い浮かばなくとも、踵を返して走り出した。

 

 

「馬鹿が、逃げられるわけが――」

 

 

追いかけようとしたガニコウモル。

しかしそこで、男の雄たけびが聞こえた。

 

 

「ォオオオオオオオオオ!!」

 

 

鉄パイプを持って飛び出してきたのは、全く見知らぬ少年だった。

少年は持っていた武器を思い切り振るい、ガニコウモルへ打ち当てる。突如現れた少年に怪人達は怯み、そして一部の者は目の色を変える。

だからだろう。誰も竜斗に構わず、まさかの逃走を成功させてしまったのは。

いや、まあ、それを超える『面白み』があったのは間違いない。ガニコウモルは裏拳で少年が持っていた鉄パイプを弾くと、そのまま首を掴みあげる。

 

 

「グゥウウ!!」

 

「誰だコイツは……!」

 

「知らないのかガニコウモル」

 

「なに? どういう事だアマダム」

 

「フフフ、勉強しておけよ。ソイツはな、仮面ライダーだ」

 

「なに!?」

 

「ドライブだったか? つまり泊進ノ介だ」

 

 

しかしおかしな話だ。その少年は泊進ノ介とは顔が違う。声も、背丈も、年齢も。

 

 

「――ククク、面白いのが釣れたな」

 

 

進ノ介らしい人物と、締め上げられて苦しがっている加古達を見て、アマダムはニヤリと笑った。

危険因子は今すぐにでも排除しておきたいが、ココはまず首領に報告しておくべきだろう。すると面白いことに、アマダムとほぼ同じ考えを首領は持っていた。

 

 

「ココは一つ、コイツ等を有効活用しようではないか」

 

 

 

 

 

 

「――ッ」

 

 

竜斗は近くにあった生活雑貨店に逃げ込んでいた。

小柄な体ゆえ、ベッドの下に隠れてしまえばそうそう見つからない。建物自体もそれほど大きくなかったので、破壊されることも無かった。

しかし、だからどうしたと言うのか。竜斗はギュッと目を瞑り、絶望していた。分かっていた事とは言え、あまりにも無力ではないか。

これからどうすればいいのか。竜斗にはサッパリ分からなかった。さらにアマダムがいればこの場所もすぐに見つかってしまうだろう。

どうすればいいんだ、どうすれば、どうすれば、どうすれば……。

 

 

『人間共よ!』

 

「!」

 

 

町中に響き渡る首領の声。

それは竜斗に向けて。

それはまだ逃げている者達へ向けて。

 

 

『今宵20時に我々ショッカーが、処刑を始める』

 

 

竜斗はベッドの下から少しだけ顔を覗かせる。

店内に置かれたモニタが、ショッカー首領の姿を映していた。蛇に覆われた顔の中に、ただ一つだけ輝く目が、竜斗を睨んだ気がした。

 

 

『処刑されるのは、この世界においてライダーを演じた者達だ。クウガ、アギト、龍騎――』

 

 

切り替わるモニタ。そこには五代雄介や津上翔一を演じた俳優達が映し出される。

とは言え、それらは竜斗の知っている彼らではない。『この世界』だけの五代達だった。

名前も知らない男達は十字架に磔にされており、気絶しているようだ。

 

 

『ドライブ』

 

 

ふと気づく。

ドライブで映し出された少年は、先程竜斗達を助けに来てくれた人だった。

そしてライダー達の名前が言い終わると、次はツバサ、ミライ、加古の三人。

 

 

「!!」

 

 

そしてショッカーが適当に見繕った人物が十字架に磔にされて広場に並べられている。

 

 

『彼らを助けたくば――』

 

 

一定数がそこに来ること。隠れている人間がそこに来ることだ。

 

 

『城戸竜斗、お前は絶対に来い! いいか、場所は――』

 

 

場所を指定する首領。

それはセンタービル前の広場、クロスオブファイア吸収マシーンがある場所だった。

そこに人を集め、処刑ショーを始める。それが首領の目論見だった。

 

 

『見殺しにて罪を背負うのかは、諸君らの判断に掛かっている。ではまた後ほど……』

 

 

そこで映像は切れた。

後はショッカーのマーク、翼を広げた大鷲が映っているばかり。

 

 

「―――」

 

 

竜斗は青ざめ、震える手で、震える足で、フラフラと、どこに行くでもなく店内を彷徨う。

フラッシュバックしていく人生と後悔。フォビアは永夢が取り払ってくれた。だから、かろうじて自我は保てる。

その中で、思い出すのはやはり自分達を守るために戦ってくれた英雄達の姿だった。それを思い出せば、『逃げる』と言う選択肢が消えたことは言うまでもない。

 

 

「も、もう――ッ」

 

 

涙を目の端にためながらも、竜斗は玩具コーナーに入っていく。

縁日をテーマにしたコーナーには新品から中古まで、いろいろな玩具が揃っている。

 

 

「もう――ッ、怯え続ける世界はイヤなんだ……!」

 

 

竜斗はグッと『ソレ』を握り締め、虚空を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

PM20:00

 

空はすっかり闇で覆われており、三日月は地面に群がる人間達を笑っているようにも見えた。

夜の闇は深く。けれども今は飛行船が放つ強力なライトがいくつも用意され、広場を、人を、首領の像(クロスオブファイア吸収マシーン)を照らしている。

広場には多くの人が集まっているが、誰もがみんな青ざめ、呼吸は荒い。

 

周りを見ればいくつもの十字架が聳え立っており、そこには多くの人間が磔にされている。

異様な光景だ、何度も夢だと思った。しかしそれは夢でも幻でもなく、現実なのだ。

別におかしな話じゃない。ある日、当たり前だと思っていた生活が粉々に崩れ去るなどありえない話でもない。

ショッカーは戦争や災害と同じだ、個人の力ではどうする事もできない。

巻き込まれた力なき者は、ただその運命に従うしかないのだ。

 

今もほら、捕らえられた者の家族や知り合いが、首領の言う事を信じて広場に集まっていく。

中には恋人や息子を捕らえられた人たちもおり、悲壮な表情で一縷の望みに縋ってくる。

しかし誰もが半ば理解していた。こんな事をしても――……。

その想いを後押しするように、広場には多くの人間の他に、それを囲むようにしてもっと多くの怪人達が見える。初めて見る異形の化け物、特殊メイクかと思う時間はもう終わった。何をしても勝てない化け物が100体以上集まっている。

あの子を返してください。彼が無事かを確認させて。彼女の代わりに――。

そんな言葉が飛び交うが、怪人達の返答は同じである。

全てはショッカー首領の意思によって決定するとの一点張り。

 

 

「フフフ! バカな連中だァ」

 

 

アマダムは腕を組み、群れる人間を見ていた。

悲壮感漂うのは弱さの証拠だ。ああはなりたくない物である。

するとザワめき立つ人々。センタービルから捕らえられた人たちが出てきたのだ。

とは言え、それは解放ではない。しっかりとその目に刻み込ませるためだ。

 

 

「諸君! 集まっていただき、ありがとう」

 

 

悲鳴が聞こえた。

ライトアップされたのは異形。蛇に覆われた顔、そこから覗かせる一つの目。

赤いマントを靡かせて、ショッカー首領は声をあげて笑い始める。

 

 

「突然だが、先程の提案。アレはウソである」

 

 

嘆きの声は、すぐに恐怖に塗りつぶされる。

怪人達が唸り声をあげ、人々は引きつった表情のまま石の様に固まる。

 

 

「ヒッ!」

 

 

目覚めたミライは思わず言葉を失った。

拘束されているだけならばまだしも、ショッカー戦闘員がバズーカを持って歩いてきたのだ。構える砲台、その銃口は自分に向けられている。

 

 

「処刑は予定通り行う。お前たち人間はその目に刻むこむのだ。この世界には圧倒的な力がある! もはやお前達に希望など欠片も残されていない」

 

 

それを理解していただく。

今から大砲が十字架に撃ち込まれ、粉々に爆散するだろう。

吹き飛ぶ肉や骨、血を、臓器を目に焼き付ければ、人間と言うものが特別な存在ではないと言う事が分かる。

人間の命など何の価値もないゴミと同じだ。だからこそショッカーは少しでも有効活用してあげるのだ。

怪人と言う、役割を与えて。

 

 

「では、撃――」

 

「待て!!」

 

「ム?」

 

 

恐怖の静寂は、甲高い声によって切裂かれた。

人間、怪人、一同の視線がその声の持ち主に集中する。

 

 

「なんだぁ?」

 

 

アマダムは思わず前のめりになって確認を行った。

ショッカーのライトが現れた者を照らす。それは――、なんとも形容しがたい歪な戦士であった。

そう、なんと言えばいいのだろうか。一言で表現するのならばやはり"仮面ライダー"なのかもしれない。しかし筆舌に尽くしがたいというのは何のライダーなのかさっぱり分からないという点だ。

 

中古品のフォーゼドライバーを身に付け、右手には大橙丸、左手にはメダジャリバー。

上半身にはエグゼイドの光るパジャマ。体には新発売のビルドのなりきりマントを羽織り、そして顔には――、ゴーストの『おめん』があった。

 

 

「み、みんなには――ッ、手をッだすなぁ!!」

 

 

小柄な体が震えている。足が竦み、手が震え、それでも小さな戦士は必死に前に出た。

 

 

「……ギャグかよォ」

 

 

思わずアマダムは鼻で笑ってしまった。

 

 

「ココまでアホだとはナ。竜斗」

 

 

怪人達が声を出して笑い始める。

不快な笑い声の中、竜斗は雄たけびをあげて玩具(ブキ)を構えた。

走る。走る。その中で、たまらなく惨めになった。ゴメン、これしかなかったんだ。ミライの泣いている顔が見える。加古の泣いている顔も見える。ツバサの泣いている顔が見える。

ごめん、情熱とか、希望とか、勇気とか、そんなものじゃ何もできなかったよ。何も変えられないんだよね。

 

 

「ゴ――ァ、カヒュ!」

 

 

腹を蹴られた。

前に出たのはガニコウモル。『偽物ライダーを抹殺しろ』、首領の命令を受けて怪人はライダーの頭を掴む。

 

 

「ノコノコ現れるとは! 本当にバカなヤツだ!!」

 

 

玩具を取り上げられ、粉々に壊された。

マントを引きちぎられ、仮面を剥ぎ取られ、竜斗は顔を殴られる。

血を吐き出し、虚ろな目でガニコウモルを睨む。しかしそれだけだ。一発殴られただけで竜斗は倒れてしまう。膝がガクガクと笑い、力が抜ける。

 

 

「無策で勝てると思っていたのか!!」

 

 

そうだ、ヒーローのように頭が回るわけでもなかった。

ただ漠然とした考えだけで危険に足を突っ込み、結果として死にそうになっている。

 

 

「ライダーも憎悪しているだろうな! お前のような馬鹿を救って死んだとは!」

 

 

そうだ。せっかく救ってくれた命を、無謀で散らした。

加古やミライ、ツバサを巻き込み、殺すことになった。

ガニコウモルは、倒れている竜斗の足を踏みつけて強くねじる。

 

 

「やめろぉぉぉおぉおおぉぉお」

 

「あ?」

 

 

情けない声が聞こえてきた。

群集をかきわけ、メガネの青年が飛び出してきた。また笑い声が聞こえる。なんとその青年もコンセレで購入したベルトを巻いていたのだ。

それは先程、玩具屋でポスターをもらった青年だった。ベストマッチでラッキー、人生全然ラッキーじゃないし、何ともベストマッチできなかった男が鼻息を荒くし、言葉にならない言葉をあげてガニコウモルに掴みかかった。

 

 

「み、みんなも手伝ってぇえぇ!!」

 

 

大人たちに向けて吼える。

しかし聞くものは一人もいなかった。それはそうだ、誰が助けに行くというのか。

そりゃあ刃物を持った男一人くらいならば集団で掛かれば取り抑える事ができるだろうと協力する者達も現れるだろう。

しかし今、周りは怪人の群れ、助けにいったらどうなる? 決まっている。死ぬ時間がほんの少しだけ伸びるだけ。

事実、今まで抵抗に出たものは何人もいた。しかし腕を折られ、足を折られ、文字通り手も足も出なかった。

 

 

「ギハッ! べへぇ!」

 

 

腹を殴られ、顔面に拳一発。砕けて歪んだメガネ。血を鼻から、口から吹きだし、オタクの青年は倒れた。

 

 

「ゴミ共が」

 

 

ガニコウモルは竜斗と、もはや名前も必要ない青年(モブ)を掴み上げ、互いの額を打ち付ける。

痛みに呻き、再び倒れる二人。そのわき腹をガニコウモルは蹴った。

 

 

「アァアアアアアアアアアアアァアア!!」

 

 

群集の中、一人の少女が叫んだ。

恐怖で狂ったのだろう。頭を掻き毟り、地面に倒れる。

それをスイッチ、似たような人間が現れた。呻き、崩れ、泣き叫ぶ。ボロボロと溢れる涙は絶望の証だった。

親子連れも見え。父親が妻と子供を抱きしめ、声を殺して泣いている。

目の前で名前も知らない子供がボコボコにされ、普段は心のどこかで見下している人種がアクションを起こしたのに自分達は震えているだけ。

様々な人間の負が交差し、オラクルは嬉しそうに笑った。

 

 

「下ラン屑の集マりダ! まして、アァ! 愚かシイ!!」

 

 

茶番が過ぎる。

下らない人間共の自慰につき合わされているようだ。竜斗たちがついて来た時には一瞬焦ったものだが、蓋を開けてみればこれは酷すぎる。

なんの考えも無しにライダー達の努力を無駄にする竜斗は屑のようなものだ、これがライダーの努力の果ての答えなのだ。

戦い、守り、犠牲になり、残した希望が今、コレなのだ。

 

さあ、叩け!!

ノープランで怪人に挑み、イラつかせるクソガキ。気持ち悪いくせにヒーロー気取りのオタク野郎。

これがライダーの死を踏み越えた人間だ!

 

魅力溢れるライダー達を踏み台にし、生き恥を晒す連中なのだ。

今やっと気づいた。さあアイツらの存在に低評価をぶち込みなさい! 青を超えて無色透明にしてあげなさい!

お前は何色にもなれないのだとこき下ろしておやりなさい!!

 

 

「お前ら無能な人間(クズ)こそがアンチヘイトの根源!!」

 

 

それは神とて例外ではない。

生きているだけでライダーの足を引っ張るヤツが、いるんですよね。

 

 

「まだライダーを欠片デモ愛スる気持ちがあるノなラ! 今すぐ首を括ッテ、お死になさイ! ライダーはお前ラ屑を守ッテ死ぬなりヤ!!」

 

 

小鳥の鳴き声が響き渡る。

ガニコウモルは竜斗を引き起こし、わき腹を蹴った。

白目をむき、倒れる竜斗。そうか、そうだな、思えば何かになりたかったけど、何にもなれなかった屑だ。死んでも構わないのか。

 

そんな時、フラッシュバックしていく景色。

泣きながら殴り合っている男がいた。お姉さんが酷い目にあって泣いている男がいた。

目の前でみんな死んで泣いている男がいた。何も守れないと泣いている男がいた。

死ねないと泣いている男がいた。過去を悔やみ泣いている男がいた。妹がかわいそうで泣いている男がいた。

不幸すぎて泣いている男がいた。亡骸を抱きしめて泣いている男がいた。帰る場所がないと泣いている男がいた。

 

 

「―――」

 

 

竜斗は――……、立ち上がった。

震える足で歩き、壊れた大橙丸を拾い上げる。

しかしすぐに掴みあげられ、投げ飛ばされた。

オタクの青年も奇声をあげて竜斗を助けに走るが、ガニコウモルの拳が青年を捉える。

 

 

「………」

 

 

思い出すなッッッ!

竜斗は脳内で叫ぶ。けれどもムリだった。足が震えるたびに思ってしまう。

愛する人と引き離され泣いている男がいた。望まぬ姿に泣いている男がいた。終わらせられずに泣いている男がいた。喰えずに泣いている男がいた。

 

 

「――ァ」

 

 

竜斗が顔を起こすと、助けに来てくれた青年が泣いていた。

もともと死ぬつもりで助けにきたが、怖くなった。

お小遣いをためて買ったコンセレベルトが壊される。止めてくれと懇願していた。

 

竜斗の脳裏に、臨まぬ世界が映った。

街を泣かせてしまって泣いている男達がいた。

割れたメダルを抱えて泣いている男がいた。友情のジレンマに泣いている男がいた。

救えぬ希望に泣いた男がいた。異形の運命に泣いている男がいた。

 

 

「―――」

 

 

泣き叫ぶ声が聞こえる。

群集は理解した。あの殴られている竜斗と、特撮オタクの青年はいつかの自分たちだ。やられる側か、『やる側』になるのか。

記憶をなくし、異形の化けものになり、もしかしたら同じガニコウモルにされるかもしれない。

イヤだ。怖い。それは、誰も、同じ。誰もが喉元まで出掛かっている言葉がある。

 

 

「―――」

 

 

機械に翻弄されて泣いた男がいた。家族を守れず涙した男がいた。

医療の壁に泣いた男がいた。記憶が無くて泣いた男がいる。

 

 

「フゥ……! フゥッ!」

 

 

竜斗は胸を激しく動かし、呼吸を行う。

息を吸うたびに涙が溜まり、息を吐くたびに涙が零れた。

分かっている。分かっているのだ。苦しみ、悲しみ、苦悩、苦痛。痛みは分かっている。十分伝わっている。

だから、以後、『行動』を取るのならば、それを知った上でと言うことになる。

 

 

「ガニコウモル! そろそろ殺せ。肉を裂き、骨を砕き、臓物を引きずりだし、首を切れ! そして見せ付けるのだ! ショッカーに歯向かう事がどういう事かを!」

 

「ハッ!」

 

 

悲鳴が聞こえた。

蹲った人たちの涙はとめどなく溢れ、顔を覆い悲痛な叫びをあげる。

その中でオタクの青年は立ち上がり、竜斗に覆いかぶさった。

彼は最後まで守ってくれるのだ。名前も知らないオタクのお兄さんは。

多くの人に『気持ち悪い』だとか『無様』だとか後ろ指をさされた人間は、最後まで弱い竜斗を守ってくれるのだ。

また守られるのか。守られるしかないのか。それがイヤでココにきたのに。竜斗はなんだかとても暗い気持ちになった。

 

 

「死ね」

 

 

笑うガニコウモル。

人々は嘆き悲しみ、恐怖に叫ぶ。

笑い、体を動かしてはしゃぐショッカー戦闘員たち。

目を瞑る特撮オタク。

顔を覆い、泣きじゃくる女性。

父と母は息子の顔を覆った。

女の子が恐怖で泣きじゃくる。

怪人たちの下卑た笑い声が木霊する。

ミライが叫んだ。竜斗くん逃げ――、ああダメだ。もう聞こえない。

 

 

「――ェ」

 

 

ダメだ!!

竜斗は心の中で叫んだ。

やはりッ、それだけは――、ダメなのだ。

 

 

「――ェて」

 

 

ダメだッッ!

やめろ! 頼むから止めろ! それだけはダメだろ!

だからお前はッッ! あぁぁあ! 止めろ屑! お前ッ、分かってんのかよぉオ!

それだけはダメだろ! それを言っちゃあおしまいだろうが!

おい、なあ、おい! 聞いてんのかよ! おいッ! おいッッ!!

止めろ、止めてくれ、竜斗――ッ!

 

 

「――ずげて……! た――けて」

 

 

ガニコウモルと目が合った。

竜斗は、涙をためて、叫んだ。

 

 

「たずげで……! たすけてぇッッ!!」

 

 

叫んで、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

「――ッ!?」

 

 

低く、唸るような音が聞こえた。

気が、する。

 

 

「――ァ」

 

 

どうでもいい奇跡が起きた。

特オタの青年がだらしなく広げた手、その指先が転がっていた携帯電話に触れたのだ。

殴られたときにポケットから零れ落ちたのだろう。携帯はまだ壊れておらず、指は、音楽のアイコンに触れる。

すると先程まで自分を鼓舞するために聞いていたのか、一つの曲が初めから流れはじめた。

 

 

『The Next Decade』

 

 

静かなイントロが流れる。

音量は小さくしていた筈なのに、なぜか誰しもの耳に聞こえてきた。

だからどうした? そう言われれば、その通りである。

 

 

ヤォンヤォンヤォン!

 

 

おっと、また変な音が聞こえてきた。

音と同時に、空に灰色のオーロラが現れる。

それは――、一瞬だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴゥィォオオオオオオオンンン!!

 

 

「!?!??!?!?!!」

 

 

"ソレ"は、壁を破壊するようにオーロラを突き破る。

灰色のオーロラは砕け散り、破片となり、ライトの光りを浴びて反射を繰り返す。

キラキラと降り注ぐそれはまるで雪のようだ。美しく、儚く、そして確かに形あるもの。

 

破片は煌いたまま、ゆっくりと落ちていく。

音楽が耳を支配する中で、人々の視界には光り、瞬く破片が飛び込んでくる。

車輪が、風を切裂く。男はただ姿勢を低くしてアクセルグリップを回すだけ。

 

 

「―――」

 

 

笑みを消したガニコウモル。

人々は嘆き悲しむのを一旦中断し、恐怖に叫ぶのを止めた。

呆気に取られ、動きを止めたショッカー戦闘員たち。

目を見開く特撮オタク。

顔を覆い、泣きじゃくっていた女性は、驚きに涙が止まるのを感じた。

父と母は息子の顔を覆った。しかし手の力が緩む。キラキラと降り注ぐオーロラの破片に目を奪われ、上空を飛んでいるのは何なんだと困惑する。

女の子が驚きで目を見開いている。

怪人たちの下卑た笑い声が一勢に止んだ。

 

誰もが、驚きに動きを停止する。

怪人も、人間も、誰もがみんな固まっていた。

その中で、倒れていた特撮オタクの青年は、目を見開き、その中に輝きを生み出す。

 

 

「かっこいいなぁ……!」

 

 

青年は思わず呟いた。その声色、10年以上の時が戻ったようだ。

思えば、人は生きていく中でいろいろなモノを捨てる。諦める。そして卒業していく。

青年もいろいろなモノを捨てた。失った。得られなかった。卒業しなければならなかった。

けれど、だけれども――……。

 

 

"ソレ"だけは捨てなかった。

 

 

今もずっと大切に握り締めている。

ああ。メガネが曇ってよく見えない。

だが不思議と眼にはよく映るのだ。白く輝くマシンが。風を受けて空に広がる真紅のマフラーが。闇を受けてもハッキリと分かる緑の仮面が。

そして、闇の中で光る赤い複眼が。その下に見える涙の痕が――!

 

もしかしたらライダーファンならば既に知っているかもしれない。

しかし今、もう一度、ある人が残した言葉を紹介しておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時代が望む時、仮面ライダーは必ず甦る――。

 

 

 

 

 

 

「イ゛ギェア゛アアアアアアアアアア!!」

 

 

爆音を上げるマシンは、群れる戦闘員達の中に突っ込み、着地した。

ひき潰される断末魔の中、ブレーキをかける音が聞ける。ギュルギュルとタイヤが地面を擦り、タイヤ痕からは白い煙が巻き上がる。

ハンドルを捻り、車体を横にすることでドリフトを行いながら――、『サイクロン』は停止する。

 

 

「………」

 

 

シートに跨っていた男は足を振り上げ、ハンドルを放して二本の足で地面に立つ。赤いマフラーが風に靡いていた。

特オタの青年は体を起こし、竜斗を抱き起こす。指をさし、アレを見てみろとジェスチャー。その表情は何とも輝いていた。

 

 

「かめんらいだぁだぁ」

 

 

童心に帰った声。一方で歪んだ声。

 

 

「貴様ァ! どこから来た! なんのつもりだぁアア!!」

 

 

ガニコウモルが左手のハサミを構えて走り出す。

沈黙するアマダムやオラクル、そしてその目を光らせ、ジッと見ている首領。

その中で、『1号』はゆっくりと顔を上げた。

 

 

「ライダーッ! チョップ!」

 

 

ガニコウモルが真横に吹き飛び、戦闘員達を巻き込んで木っ端微塵に吹き飛ぶ。

もはや断末魔さえあげる暇もなく、怪人は消し飛んだのだ。

その時、別の場所で悲鳴があがった。視線が右往左往に交差していく。

まるで間欠泉にでも巻き込まれたかのように怪人や戦闘員が空に打ち上げられているのだ。

手足をバタつかせ情けなく宙を舞う怪人や戦闘員。

 

 

「何だ! 何が起こっているのだ!!」

 

 

首領の傍にいたクモ男が叫んだ。

本当にそうだ。一体全体なにが起こっていると言うのか。人間たちも怯えながら目を凝らす。

 

 

「大丈夫だ! もう大丈夫だ!!」

 

 

確認したのか、父親と思わしき男性が妻と息子の背を撫でている。

涙を流しているのはノスタルジーのせいだ。昔、カードほしさにポテトチップスばかり食べていた。あの人が、彼が欲しくて買っていたんだ。

 

 

「もう大丈夫なんだ!!」

 

 

涙を流す父親を、息子は不思議そうに首をかしげて見つめていた。

ああ、そうか、世代じゃないもの。まだ見せてないんだもんな。

いけないな、お家に帰ったらすぐに見せてあげなければ。お父さんが大好きだったものを!

 

 

「ッ! 何者だ! 貴様!!」

 

 

倒れた戦闘員や怪人の中を、ゆっくりと歩いてくる男がいた。

ショッカー怪人ジャガーマンは、少し怯んだように交代しながら、突如現れた男を指差した。

濃い緑は黒に見える。手袋は赤く、拳は握り締めて。

何者かを問われたのなら、答えてやろうではないか。

 

 

「――正義、仮面ライダー2号」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブイッ! スリィイイイイ!!」

 

「!?!??!!?!?!??!」

 

 

また別の場所で怪人の悲鳴が聞こえた。

 

 

「きりもみ反転――!!」

 

 

ピュルルルルーン! キュインキュインキュイーン!

特徴的な音が鳴り響き、赤い仮面が空中を飛びまわる。

 

 

「キーッック!!」

 

「ギエエエエエエエエンッッ!!」

 

 

捻りを加えた一撃が怪人の胴体に突き刺さると、遥か後方まで吹き飛ばして爆発させる。

広場の階段を上ったところに着地したのは――

 

 

「仮面ライダー! V3ィァアア!!」

 

 

力の技の風車(ダブルタイフーン)が回り、緑色の複眼が光りを放つ。

 

 

「マシンガンアーム!!」

 

 

銃声、そして無数の弾丸がショッカー戦闘員が持っていたバズーカに命中していき、次々に破壊していく。

 

 

「ロープアーム!」

 

 

さらに『かぎ』の付いたロープが縦横無尽に駆け回り、十字架を次々に破壊していく。

拘束されているロープも切っているので、ミライ達はすぐに自由の身になれた。

笑顔を浮かべる加古たち。その視線の先には、拳を合わせた"ライダーマン"が立っていた。

 

 

「ライドルホイップ!!」

 

 

ベルトから剣(短鞭)を引き抜いたのは"仮面ライダーX(エックス)"。

エックスライダーはさらに剣をスティックに変え、処刑を行おうとしていた戦闘員達をなぎ払っていく。

棒を振るい、胴を打ち、脚を払い、胸を付く。そして最後は脳天を叩き、戦闘員達を(あぶく)に変えていく。

広場は、かつてない混乱に包まれていた。その中で誰かが指をさし、視線が集中する。月に重なるシルエット。

 

 

「アレは誰だ!」

 

 

誰かが叫んだ。

では、大空に聞いてみよう。

 

 

「スゥーパーッッッ!!」

 

 

ヒレが、両腕のヒレが動く。

 

 

「大――ッ!」

 

 

天高く振るいあげた腕が、今ッ、振り下ろされた!

 

 

「切――ッッ!!」

 

 

刃が、大鷲の脳天に食い込んだ。

 

 

「断ンンンンンンンンンンッッッ!!!」

 

 

後は一気に下へ。引き裂かれていく恐怖の象徴。

"仮面ライダーアマゾン"が着地した時、背後には真っ二つに両断されたクロスオブファイア吸収マシーンがあった。

左右のパーツがそれぞれ対照的にはがれていき、ついには地面に落ちる。

その前には両腕を振るい広げているアマゾンライダーが。

 

 

「ケケーッ! キュキケーッッ!!」

 

 

怒り狂うクモ男達を交わすように、アマゾンは後ろへ跳んでいく。

一方で表情こそ同じで分からなかったが、確かに首領は肩を震わせていた。そこにある感情は、紛れもない怒り!

 

 

「おのれッ、本郷(ほんごう)(たけし)――ッ!」

 

 

また、お前なのか。お前達なのか!!

 

 

「おのォれェエッ! ライダァアアア!!」

 

 

その時、流れていた音楽の一番が終わり間奏に入る。

ただの携帯が放っているとは思えないほど音は大きく、心に入っていく。一方でその音に負けないくらいの口笛が聞こえた。

 

 

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ――ッッ!」

 

 

誰だ? 怪人達はその音を探る。

するとライトアップ。それはショッカーが拠点としていたセンタービルの屋上だった。

マフラーを靡かせ、一人の漢が怪人達を見下している。

 

 

「悪を倒せと、オレを呼ぶッッ!!」

 

 

男が手を上げると、落雷が発生。

それは群れる怪人や戦闘員達に直撃していき、同時に雷撃は人々を守る電磁バリアとなった。

 

 

「聞け! 悪人共ッ!!」

 

 

男の背後に火花が吹きだし、スパークが巻き起こる。

 

 

「俺は正義の戦士! 仮面ライダーッ、ストロンガー!!」

 

 

ストロンガーは左肘を曲げ、右手は親指、人さし指、中指を立てて天に掲げる。

キュピーン! その音と共に一番大きな雷が落下、光と柱ともいえるそれは首領に降り注ぎ、直撃する。

着弾の衝撃で地面が揺れた。迸る雷撃は左右にいたアマダムやオラクルにもダメージを与える。

 

 

「グゥウウ!」「チィイ!」

 

 

怯む両者。

一方で帯電しながらも不動の首領。頭の蛇が動き出し、大口を開く。

 

 

「邪魔者めらが――!」

 

 

蛇達は一勢に火炎弾を発射。それは一つにまとまると、巨大な火の玉となり飛んでいく。

さらにこの炎塊、周りには紫色の闇のエネルギーが纏わせており、強力な追尾能力を付与していく。

 

 

「セイリーンッジャンプ!!」

 

 

しかしストロンガーと炎弾の間に入った黄緑の残像。

"スカイライダー"は全身を伸ばし、セイリングジャンプにて飛行。炎弾の標的を自分に変えると、空を飛びまわり、炎弾を誘導していく。

すぐに空を飛べる怪人がスカイライダーを撃墜しようと試みるが、追いつけず、逆に背後にあった炎弾に巻き込まれて塵になっていく。そして最後には――

 

 

「トウッッ!!」

 

「!」

 

 

スカイライダーは首領の眼前にて急上昇。

するとその背後に追尾していた炎弾が、首領に直撃する。

大爆発を起こし、アマダムやオラクルは爆風に巻き込まれ、宙を舞って地面に倒れた。

だがまだ終わらない。歌は、二番の歌詞に突入している。

 

 

「チェーンジ!」

 

 

ジャキーン! ピピピピ!

機械音が響き、怪人達はその音の方へ襲い掛かる。

 

 

「冷熱ハーンド!!」

 

 

銀の機械の腕が放つ拳が怪人の腹部に叩き込まれる。炎の手形、凍結された体を蹴り砕く。

夜の闇を照らす赤と青の粒子。火の粉が、雪の結晶が、金の心を持つ男、"仮面ライダースーパー1(ワン)"を照らしていた。

 

 

「ゼーッ! クーッ!」

 

 

一度前宙で怪人達を注目を集め、次は体を大きく逸らしてバク宙で近くの建物の屋上に舞い上がる男がいた。

 

 

「ローッ! スゥウウッ!!」

 

 

怪人たちの注目を集めた男は、右腕を右上へ、左腕を右下へ伸ばす。

 

 

「ゼクロス!! 衝撃集中爆弾!」

 

 

名乗りと同時に"仮面ライダーゼクロス"は膝にある爆弾を外し、怪人たちの方へと投げる。

爆発が巻き起こり、うろたえる集団に向かって、さらに手裏剣が飛んでいった。

 

 

「こ、コ――ッ!」

 

 

地面に手をつき、体を起こしたオラクル。

見えたのは、無数の爆発。無数の悲鳴。尤もそれは全部、怪人のものだったわけだが。

ライダーが舞う。ライダーが飛ぶ。2号ライダーが敵をビッタンビッタン地面に打ちつけているのが見えた。

一段、二段、三段、四段、ライダー五段返しだ! おっと、V3火柱キックでシードラゴンがウェルダンになったぞ!

あぁ、スーパーワンのパワーハンドで掴んだ怪人が紙飛行機のように飛んで行く。

 

 

「この様ナ……! 事がァアア!!」

 

 

一方で、1号はゆっくりと歩き、竜斗たちのもとへ歩く。

特撮オタクの青年はあまりの感情に言葉を失い、立ち上がったままどうしていいか分からぬと言った様子だった。

興奮したように胸を上下させ、アドレナリンからか先程までは全身に響いていた痛みも忘れているようだ。

腰には壊れたコンプリートセレクション新1号ライダー変身ベルト¥31,500(税込)が見える。

一方で1号は膝を地面につき、へたり込んでいる竜斗に視線を合わせた。そしてそのあまりにも大きな右手で、竜斗の頭を撫でた。

 

 

「よく頑張った」

 

 

竜斗と青年を交互に見る1号。

呼吸を荒げる竜斗。その表情は険しく、唇を噛んで首を横に振る。『頑張った』と言うのは、心地の良い言葉ではない。

この世には頑張ってもどうしようもない事がある。気持ちや意思なんて何の役にも立たないちっぽけな存在だ。

 

 

「どうすればいいの?」

 

「ん?」

 

「どうすればッ、ぼくは強くなれるの? あなたの様になれるのッ!?」

 

「………」

 

 

弱くて、ビクビクして、惨めなのは嫌だ。

そんなの、つまらない、下らないヤツだって思われる。

そんなのは嫌だ。絶対にいやだ。誰にも否定されない世界が欲しかった。

 

 

「怪人を殺したい……! 怯える心を無くしたいッ! どうすればッ? どうすれば!?」

 

 

怪人の悲鳴が聞こえる中で、1号は確かに頷いた。

唇を吊り上げる竜斗。1号は、言葉をかける。

 

 

「キミは、仮面ライダーになるな」

 

 

時が、止まったようだった。

文字にしてみれば一瞬混乱してしまうが、イントネーションが答えを導いていた。

 

 

「キミ達は――、ライダーになってはいけない」

 

 

先程まで興奮して笑っていた特撮オタクの青年も笑顔は消えていた。

うまく文字にはできないが、しいて言うなら、それは夜明けのようなものだった。長い、永い夢が終わるような感覚。

最悪な安堵感だ。

 

 

「キミ達は、ライダーよりも強い戦士になれ」

 

 

荘厳な声色の中には優しさがあった。

瞬間、青年は泣き崩れた。地面に膝をつき、おうおうと泣いた。

鼻水をたらし、ただひたすらに涙が地面に、手の甲に落ちた。

竜斗も理解し、どうしようもない無力感と、安心感に包まれた。

 

 

「私達よりももっともっと強い男になり、お父さんやお母さん。友達や恋人。そして困っている人。大切な人を守るんだ」

 

 

ああ、ああ、ああ。

望んではいないのか。私は、貴方と肩を並べる事はできないのか。

あなたは、それを望まないのか。

 

 

「安心してくれ。ライダーはいつも君たちのそばにいる」

 

 

1号は立ちあがり、竜斗達に背中を向けた。

大切な言葉だ。何度だって言ってやろう。

 

 

「何があっても君たちと一緒だ。だから生きて、生きて、生きぬけ」

 

 

足を進める。

 

 

「ライダーは君たちと共にいる」

 

 

地面を蹴った。火花が散るなか、走る1号。

そしてそれは他のライダーも同じだ。2号からゼクロスが地面を駆け、怪人を弾き、一同に集まる。

異形を蹴散らし、全速力で走るライダー。まさにそれは野獣のような姿であった。

そこで黒煙が吹き飛ぶ。ショッカー首領は相変わらず目立った傷もなく、頭の蛇たちはライダーを睨み、舌を覗かせている。

 

 

「ショッカーは裏切り者の名を決して忘れはしない」

 

 

本郷猛。一文字隼人。

風見志郎。結城丈二。

神敬介。山本大介(アマゾン)

城茂。筑波洋。沖一也。村雨良。

名前を呼び上げるショッカー首領。そしてマントの中から腕を伸ばした。

胴体のデザインはかつてオーズや他ライダーと戦った岩石大首領と同じだった。

注目するべきはその腕。なにやら鷲の装飾がついた腕輪がある。

 

 

「甘いのだライダー達よ。クロスオブファイア吸収マシーンは既に小型化に成功している!!」

 

 

アマゾンが破壊したのはあくまでも『中継器』だ。

あそこに吸収した魂のエネルギーは、そのまま腕輪に転送できる。

そして当然、腕輪もまた吸収機能を備えているのだ。

 

 

「終わりの刻だ」

 

 

起動。

 

 

「皆の力を一つに合わせるぞ!」

 

 

拳を握り締める1号。返事の声が重なり、一箇所に集まる10人ライダー。

肩と肩を組み、円陣を作る。そして右手を前に重ね合わせるように前に突き出すと、そこに激しい光が生み出された。

 

 

「「「「「「「「「「ライダー!!」」」」」」」」」」

 

 

1号の、2号の、V3の。10人ライダーのベルトが激しい光を放ち、螺旋のエネルギーを生み出す。

そして10人はそのまま右手を天へ掲げた。

 

 

「「「「「「「「「「シンドロームッッ!!」」」」」」」」」」

 

 

その時、不思議な事が起こった!

 

 

「ライダァアア! パ゛ァンチッッ!!」

 

 

人々の平和を願う心が――!

 

 

「ボルティックシューター!」

 

 

大切な人を守りたいと言う想いが――!

 

 

「バイオアタック!!」

 

 

生きたいという純粋な望みが――!

 

 

「キングストーンッ! フラッシュ!」

 

 

ライダーシンドロームによって生み出されたパワーと共鳴し――!

 

 

「仮面ライダー! ブラァアアッッ!!」

「俺は悲しみと炎の王子! RX! ロボライダー!」

「俺は怒りの王子! RX! バイオ! ライダーッ!」

「俺は太陽の子! 仮面ライダーッ! ブラァア゛ッッ! ア゛ーッル゛! エ゛ェックスッ!!」

 

 

南光太郎!

仮面ライダーBLACK RXに!

奇 跡 の 四 段 変 身 を 与 え た の だ ! !

 

 

「「「ぎゃあああああああああああ!!」」」」

 

 

怪人や戦闘員の悲鳴がシンクロする。

光線が乱れ飛び、一方で怪人の攻撃はすり抜けてしまうぞ! って言う話である。

パンチの後にはキックが飛んでくるし。

ブス! ブス! ブス! シュパァアアアア! ボカァアアアン! これはもう音で察していただく他にはない。

 

 

「!?」

 

 

バカな! 首領は腕輪を確認する。

ライダー達のクロスオブファイアは問題なく吸い取っている。なのに1号の変身が解除されることはないし、RXは分裂するし。

どういう事だ? 光り巻き起こる中で首領は目を細める。

 

 

「一体どうなっているのだ……!」

 

 

するとその声を聞いたのか、ストロンガーが答えを教えてくれた。

 

 

「へへ、そんなこと俺が知るかよ!」

 

 

ならばなぜ答えた!!

知らないなら何故答えた!!

血走った目で激しくライダー達を睨みつけるショッカー首領。

しかしそこで気づいた。ライダー達からは確かにクロスオブファイアが流れ出て、腕輪に収集されていく。

だがライダーシンドロームの影響もあるのか、吸収するスピードが炎が湧き上がるスピードに追いついていないのだ。

 

とは言え、問題はない。

こんな事もあろうかと、首領はちゃんと吸い取るスピードを調節する『リモコン』を作っている。

右手にある腕輪とは別に、左手に持つ調整機械。細長いそれにあるボタンを押せば吸収スピードは倍以上となり、今すぐにライダー達を終焉に――

 

 

「!?」

 

 

緑色の残像が空を駆けた。

すると首領の手にあったリモコンが消えているではないか。すぐに影の行く先を目で追いかけると、そこには異形の後姿があった。

"仮面ライダー・シン"は手に持ったリモコンを首領に見せ付ける。すると直後、リモコンはバラバラに分裂し、地面に落ちた。

 

 

「貴様!」

 

『イノチを弄ぶヤツは、俺が許さない』

 

 

シンが放つテレパシーが首領の脳を揺らす。

それはある種の思考ジャック、だからこそ首領は右から飛んでくる二つの影に気づくのが遅れた。

 

 

「グゥウウ!」

 

 

ライダーキックが炸裂する。

シンの両隣に着地したのは次世代のライダー達だ。

 

 

「仮面ライダーZO」

 

「仮面ライダーJ!」

 

 

構えを取る似た姿のライダー達。

しかしよく見れば違う。ZOはクラッシャーが展開し、Jは文字通りアルファベットの『J』をイメージさせる手のポーズを取る。

巻き上がる光は夢の欠片だ。人々の想いがその光りを虹色に変えていく。

目を見張る首領。腕輪が、震える。虹色の光が吸収されていくまではいいが、圧倒的な炎が、容量を――ッッ!

 

 

「ショッカー!」

 

「!」

 

 

1号が指差した場所、腕輪。

そこに亀裂が走った。ヒビ割れた場所から炎が噴出していく。

問題だ、風船に空気を送り続けるとどうなるのか?

 

 

「お前の野望もココまでだ」

 

「ムッ! ムォオオォ!!」

 

 

バキンッ! と音が鳴れば、それはすぐだった。

粉々に腕輪が砕けちり、大鷲の装飾も膨れ上がった後に爆散する。

連鎖を起こすように真っ二つになったショッカー首領の銅像も爆発し、大量の魂が飛び散った。

 

 

「チィイ!」

 

 

赤や青、多彩な色を持つ魂は、飛びまわり怪人や首領に突進をしかけていく。

そして魂達は開けた場所で一列に並び、地面に降り立つ。炎はすぐに人のシルエットを形成し、弾けた。

 

現れたのは、一列に並び歩く男達。

正面見て左からゴロウ、紅渡、野上良太郎、ホンゴウタケシ、天道総司、日高仁志(ヒビキ)、剣崎一真、乾巧、城戸真司、津上翔一、五代雄介、門矢士、左翔太郎、フィリップ、火野映司、如月弦太朗、操真晴人、葛葉紘汰、泊進ノ介、天空寺タケル、水澤悠、千翼、宝生永夢、そして桐生戦兎。

 

並び歩く男達。

観測された時間は同じではないかもしれない。

しかしその迷い、想い、信念の重さは皆同じ様なものだ。それは、1号達にも負けてはいない。

 

そして少し離れたところに具現するものたち。

霧島美穂、美咲撫子、朔田流星、九条貴利矢、海東大樹、ジョウジ。元の世界へ強制送還された筈のハナや美空も再び姿を現す。

彼らが人々の救助に向かうなか、並び歩く男達は足を止めて地面に立つ。すると色鮮やかな炎が迸り、男達の腰にドライバーが出現した。

一勢にポーズを取り始める男達を観て、人は笑い、涙し、そして竜斗は瞳を潤ませて唇を噛んだ。

 

 

「まさに害虫だな! 殺しても殺しても湧いてくる亡霊かッ!」

 

 

首領の声が震える。もはや、どちらも人間ではない。

 

 

「なんなのだお前達は!!」

 

「――同属を殺し、(しゅ)を殺し、自己を否定し」

 

 

士は呟き、カードを取り出す。それぞれも、それぞれのアイテムを取り出した。

 

 

「今日も世界を彷徨っている。だがそれでも、俺達は俺達だ」

 

 

かつて、ある人が言った。

正義の為に戦うのではない、自由の為に戦うのだと。

だが、今、あえて言おう。士は叫んだ。

 

 

「俺達はたった一つの名前(いのち)をッ! 自由と愛! そして正義にかけて(たたか)う!」

 

「!」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ!」

 

 

 

変身――!!

 

声が重なる。

静かに言う者、雄雄しく叫ぶ者、バラバラではあったが、皆放つ言葉は同じだった。

普段は無言のヒビキやタケシも、別の言葉を叫ぶ悠や千翼も、今日だけは同じ言葉を叫んだ。

そして男達が叫んだ後、そこに立っているのはそれぞれ最強形態とされる姿に変身した仮面ライダーたち。

そしてゆっくりと、その姿が透ける様に消えていく。気づけば並び立つライダー達は基本フォームと呼ばれる姿に変わっていた。

 

 

「トウッ!!」

 

 

前宙で飛び交う1号たち。分裂していたRXも一つに戻り、昭和ライダー達は平成ライダーの隣に並ぶ。

同じく一点に集まるショッカーたち。

 

 

「仮面ライダー……!」

 

 

震える首領の声。頷くのはアギトだ。

 

 

「俺に何かあったとき、本郷さんに連絡が入るようにシステムが組まれていました」

 

「ああ。その名も、"正義の系譜"! 翔一くんからの連絡を受けた我々は、仲間を集め、ココにやって来た」

 

 

竜斗がいたおかげで、クロスオブファイアの概念が生きていたことが助かった。

 

 

「おのれ本郷猛! 貴様はどこまで我々の邪魔をすれば気が済むのだ!!」

 

 

1971年4月3日、この日から生まれた邪魔者は、今も、これからもショッカーの足を引っ張るだろう。

いや、もっとだ。様々な創作の中で、何度、一体何年!

 

 

「呪われ続けるのが! そんなにいいのかッッ!!」

 

「黙れショッカー!」

 

 

前に出る1号。

それはまさに、Colorless Images。

 

 

「人々が助けを求める限り! 俺が戦いから退く事はないッッ!」

 

 

背後に立つのは2号、V3、ライダーマン、エックス、アマゾン、ストロンガー、スカイライダー、スーパーワン、ゼクロス、RX。シン、ZO、J。

 

 

「貴様らに創られたこの体で、我々は人間の自由の為に戦う!」

 

 

クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ、ディケイド。

 

 

「たとえ何度倒れようが、必ず立ち上がり、お前達に食らいつく!!」

 

 

G、ホッパー、オメガ、ネオ。

 

 

「それが俺の正義だッッ!!」

 

 

ダブル、オーズ、フォーゼ、ウィザード、鎧武、ドライブ、ゴースト、エグゼイド、ビルド。

 

 

「さあ! 俺に続け! 魂の兄弟(仮面ライダー)達よ!」

 

 

皆、抱える思いに違いはあっても、確かに同じ方向を見ていた。

 

 

「ショッカーの野望を潰し! 世界の平和を守るぞ!!」

 

 

おうッッ!!

 

大声が重なり合い、それは世界を揺らすほどの音ととなる。

だがそれに負けずとも叫ぶのは、ショッカー首領、そして怪人たちだ。

 

 

「殺せ!! ライダーが何度でも甦るのならば、何度でも殺してしまえ!! 世界は、我々ショッカーのものだ!!」

 

 

走り出す仮面ライダー1号、それに続き、全てのライダーが走り出した。

一方でショッカー怪人達も走り出し、一同は広場でぶつかり合う。

 

 

「超変身!!」

 

 

緑のクウガに変わる。

空中からゴウラムが飛来し、クウガはゴウラムの足を掴むと上空に浮かび上がった。

 

 

「五代さん!」

 

 

ストームフォームに変わるアギト。

ハルバードを振るうと、暴風が発生し、それがペガサスボウガンに集中していく。

 

 

「なるほどな!」『サイクロントリガー!』

 

 

同じく風の弾丸をペガサスボウガンへ放つダブル。

同時にブレイドが怪人を切り伏せながらクウガへ近づいていく。

 

 

「雄介! 受けとれ!」『サンダー』

 

 

ブレイラウザーを振るうと雷撃が迸り、味方であるはずのクウガに直撃する。

 

 

「あ! おれのも使ってください!!」

 

 

だが無策ではない。意味を理解したのか、シャウタコンボに変わったオーズが簿たるタームウィップを振るい、雷撃をクウガへ向かわせる。

まだだ、地面を転がってきたストロンガーはスパークを起こし、右手に雷撃を集める。

 

 

「オレの雷は刺激的だぜ。炭になるなよ!!」

 

 

振るった腕にシンクロするように落雷が発生し、クウガへ直撃した。

おっと、言葉は荒いため不安を齎したが、ストロンガーはちゃんと電力をコントロールしており、クウガにはダメージではなく電気属性の力が付与されていく。

 

 

「ォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

金色に輝くクウガ、ライジングペガサスから風のレーザーが発射された。

それは怪人を爆発ではなく、消し飛ばしていく。

その中で殴りあうライダーと怪人たち。

 

 

「久しぶりだな。元気にしていたか?」

 

「アンタもな」

 

 

背中合わせになるエックスとファイズ。

ライドルスティックを振り回しながらふと視線を移動させると、敵と戦っているビルドが見えた。

 

 

『分身の術!』

 

 

四コマ忍法刀のトリガーを押すと、ビルドの姿が分裂。戦闘員や怪人の足止めを行う。

ふと視線を移動させるとタイヤが空を飛んでいた。別の所を見るとコンドルが弓になっていた。

 

 

「ライダーも変わったな」

 

「そんなに時間は経ってないだろ。老いを認めると一気に老けるぜ」

 

 

ファイズは気だるそうに旋回すると、持っていたファイズエッジを投げる。

反射的に受け取るエックス。貸してやるよと言われたので、ありがたく使わせてもらう事に。

迫るショッカー怪人・ギリザメスにまずは斜め切り。右から左下へ伸びる残痕は、黄色い光りを放っている。続いて左上から右下へ。その軌跡は紛れもない『X』を描く。

 

 

「ギエエエエエエエエエ!!」

 

 

倒れ、爆発するギリザメス。

一方でファイズはアクセルフォームヘ変身。サラセニアンを掴みかかると素早くボタンをタッチする。

 

 

『Start Up』

 

 

ファイズはサラセニアンを掴んだまま前転を開始する。

一回、二回、三回、連続で転がりサラセニアンの頭部を何度も地面に打ちつける。

そのまましばらく大地を高速回転しながら移動、戦闘員達を弾き飛ばし、ついにはファイズは両足でサラセニアンを蹴った。

足には既にファイズポインターが装備されており、蹴り上げと同時に赤い円錐が飛び出していく。

 

 

「ヤアアアアアアアア!!」

 

 

ファイズも飛び上がり、真上に蹴りを。

クリムゾンスマッシュは一瞬でサラセニアンを貫き、Φのマークを残して爆散させる。着地したファイズは大きくよろけ、尻餅をついた。

 

 

「マネするもんじゃないな。気分が悪い」

 

 

笑うエックス。

一方でビルドはスキップを行いながらテンション高く、周りを見ている。

マスクの下ではピョコンと髪の毛の一部が立っていた。

 

 

「いいなぁ、ライダーか。面白いなぁ。成分欲しいなぁ――ッて、ん?」

 

 

立ち止まるビルド。

視線の先には、やはりライダーがいるのだが。

 

 

「悠! 千翼!!」

 

「ガァアアアア!!」『VIOLENT・PUNISH』

 

「ウッラァアア!!」『a・m・a・z・o・n・s・l・a・s・h』

 

「ヒッ! ヒィイイイイイイイ!!」

 

 

ハエトリバチの右腕がオメガによって切断される。

左手はネオによってもぎ取られる。ブシャアアアア! っと音が聞こえるほど、大量の血がハエトリバチから噴射された。

 

 

「大ィイイイイッ、切断!!」

 

「エゲェエエエェエエェ!!」

 

 

アマゾンの右腕がハエトリバチの腹部をぶち抜き、そのまま左へスライドさせると、大量の臓物を撒き散らしながらハエトリバチは倒れ、動かなくなった。

 

 

「ウォオオオオオオオオ!」

「ガアアアアアアアアア!」

「ケケーッ! キキキーッ!!」

 

「………」

 

 

血まみれで雄たけびをあげるアマゾン達を見て沈黙し、固まるビルド。

 

 

「ん?」

 

 

ふと右を見れば、歩いてくる怪人――、じゃない! ライダーが一人。

仮面ライダーシンの手には、殺害したショッカー怪人たちの首があった。

みんな断末魔をあげた際の表情で絶命しており、首から伸びる脊髄からは緑色の血が滴っている。

 

 

「やっぱ成分取るのやめよーっと」

 

 

一方で駆けるマゼンダと赤。

同時に飛び上がり、空中に舞い上がる。

 

 

「ZX! キック!」

 

「ヤアアアアア!!」『ファイナルアタックライド! ディディディディケイド!』

 

 

空中で構えを取り、赤く発光した後に飛び蹴りを仕掛けるゼクロス。

標的に向かって連なるエネルギーカードを通過し、強化キックを放つディケイド。

同時に着地した二人は、爆炎の中で視線を合わせる。

 

 

「流石だな、ディケイド」

 

「アンタもな、ヤクザのおっさん」

 

「誰がヤクザだ」

 

「ヤクザだろ、アウトレイジ感が凄いぞ」

 

「俺一応先輩だからな」

 

 

言い合い、そして――

 

 

「マイクロチェーン!」『アタックライド・イリュージョン!』

 

 

ゼクロスの伸ばした鎖が、ディケイドの背後に迫っていたカメストーンを縛り付ける。

ディケイドの分身がゼクロスの背後に出現、カマキリ男が振るった鎌をライドブッカーで受け止める。

 

 

「行くぞディケイド!」「ああ! 任せろ!」

 

 

走り出した『10』たち。

一方、1号と2号はうなずき合う。

 

 

「行くぜ本郷!」「ああ、頼むぞ一文字!」

 

 

同時に地面を蹴る二人。

空中を同時に回り――

 

 

「「ンッライダァアア! ダブルキーック!!」」

 

 

右脚を突きだす1号と、思い切り左足を上げる2号。

二人の放つライダーキックが、ショッカー怪人ゴースターの胸に突き刺さる。

 

 

「オォウェエエエエエエエンン!!」

 

 

衝撃で空中を何度も回転し、地面を何度もバウンドしながら吹き飛んでいくゴースター。

そして最終的にはアマダムの隣に墜落し、爆散する。

 

 

「……!」

 

 

これは、まずい――、気がする。

アマダムはゆっくりとライダー達に背を向けると逃げるために――

 

 

「!?」

 

 

そこでオレンジ色の光がアマダムの周りを飛びまわる。

ビクッと身を震わせるアマダムへ。光はアマダムへ突撃、オレンジ色の光球はアマダムをガッチリと捉えると、フワフワと空中を飛行する。

 

 

「な、なんだこれは! は、離せ! 離せよコラ!!」

 

 

分かったと言わんばかりに光はアマダムから剥がれ、地面に落ちる。

一方で地面に着地した光、そこから発光する仮面ライダーゴーストが姿を見せた。

 

 

「ッ! お前は――ッッ!!」

 

「言っただろ、アンタは、おれが倒す!!」

 

 

拳を握り締めるアマダム。

ナメられっぱなしは最強の魔法使いとして認めるワケにはいかない。

なによりライダーが増えたからどうしたと言うのか。そうだ、首領も言っていた。甦るなら、何度だって潰せばいい。

だってそれができる実力があるのだから!!

 

 

「ガアアア! 来い駄作野郎! ライダーの中で一番最初に死ぬのはテメェがお似合いだもんなァア!!!」

 

「………」

 

 

アマダムの挑発にゴーストは反応しなかった。

それはなぜか? ゴーストの目は、アマダムを。そして何よりももっと遠くを見ていた。

 

 

 

 

 

 






まあ最近は特に

ライダー=正義ではなく自由の為に戦う

という図式が確立されていっているようにも思えますね。
もともとコンセプト的にも敵側にも正義があるから、自由の為に――って話だったと想うんですが、それでも僕は仮面ライダーには正義ために戦う正義のヒーローでいて欲しいですな。

V3の歌詞とかにも思いっきり正義って単語出てくるしね(´・ω・)

次回はちょっと未定。
親知らず抜いたんですけど、地獄みたいな日々が続いております。
最近やっと調子が戻ってきたんで、まあそんなに遅れる事はないと思います。
ではでは



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