カメンライダー   作:ホシボシ

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エピローグ

 

 

 

「また会える気がする」

 

 

ビルドはそう言って笑った。

会いたくはないが、その捨て台詞も忘れずに。

 

 

「今度は一番強いライダーでも決めようか」

 

 

俺に決まってる。そんな声がチラホラと聞こえてきた。

ビルドはもう一度笑って、美空と共にオーロラの中に消えていった。

 

 

「―――」

 

 

別れの言葉も少なく、男達はマシンを走らせていった。

少々、歪な絆だが仕方ない。その中で士は歩く。

ライダー達から離れたところで、誰にも気づかれないような場所で蹲っている男がいた。

 

 

「ちょっと――ッ、無茶……、しすぎたかな」

 

 

士に気づいたようだ。男は、苦しげに呻く。

 

 

「力の核を失った状態で究極の力を使い続けたんだ。仕方ない」

 

「かなぁ……」

 

 

五代雄介は、そこで崩れ落ちる。

徐々に、その身体にモザイクが掛かり始める。

 

 

「どうなるんだろ……、俺」

 

「求められてる。お前は人気だ」

 

「ハハ――、それは……、ありがたい――、けど」

 

「大丈夫だ。俺達は、永遠だからな」

 

 

その時、五代の髪型が変わる。恰幅も少し良くなったようだ。

 

 

「ワイルドだな。仁藤だったか? あいつに似てる」

 

「――きゃ」

 

「ん?」

 

「ハナコの子供が生まれるんだ。手伝わなきゃ」

 

「……そうか」

 

 

薄れ良く意識の中、雄介は笑った。

 

 

「せっかく――、生きてるんだからさ。全部の世界を見て、全部の人たちと友達になれたら最高じゃない?」

 

「………」

 

「地球、我が家。友達71億人――、とか」

 

 

そこで五代雄介は消え去った。

ため息をつく士。再構成――、か。

 

 

「大変だな、あいつも」

 

「それを望んだ」

 

 

振り返ると、ジョウジが立っている。

 

 

「魂は消せない。命ある限り戦う、それが――」

 

「仮面ライダーだろう?」

 

 

街灯の上に座っている海東がニヤニヤしながら口を挟んだ。

 

 

「これからどうする?」

 

 

ジョウジは士に問いかけた。サングラスの奥の瞳が光っている。

仮にも復讐対象である士は肩を竦める。何か変な事でも言えば、すぐにでも戦闘が始まりそうだ。

だからとにかく、思っていることを口にする。

 

 

「分からん。だがまあ――」

 

 

ディケイドライバーを軽く揺らす。

 

 

「だいたい分かってる」

 

 

ジョウジは無言で頷き、踵を返した。海東もニヤリと笑って街灯から飛び降りる。

士は再びため息をついて他の二人同じく踵を返した。三人は別々の方向を目指して歩いていく。

その先にあったマシンディケイダーに乗ると、一度辺りを見回してみる。

あれだけいた仮面ライダーが、みんなどこかに走り去っていた。

士は唇を吊り上げ、自らもバイクを発進させる。

 

 

 

皆、木枯らし吹き荒れる荒野を走っていく。飄々と。

帰るために。次に進むために。一人バイクを走らせる。

ムスッとした表情でバイクを走らせる渡と剣崎。その間に、笑顔の翔一が割り入った。

両手をハンドルから放し、渡たちの背を叩く。一瞬ムッとした表情に変わる二人だが、呆れたように笑うと、軽く手をあげた。

 

 

「これから大変ですよ。笑顔でいきましょうよ」

 

「鳴滝が消えた今、どうする?」

 

「大丈夫でしょう。彼は必ず蘇ります。ライダーが好きな面倒な人ですから」

 

 

尤も、観測者不在ゆえ面倒なことは起きるだろうが。

それを理解した三人は、それぞれ別の道に分かれた。剣崎は右へ、渡は左へ、そして翔一は正面へバイクを走らせる。

 

一方でバイクモードになったドラグランザーに乗っている真司。

美穂は真司の後ろにしがみついており、さらにその間には目を閉じているツバサが見える。

美穂はずっと、粒子となっていくツバサの頭をなでていた。目には涙が浮かんでいるが口は笑っている。

その別れは、ずっと良いものになったと信じたい。

 

 

「………」

 

 

自分の世界。無言で、輝夫は頭を下げた。彼は誓う。もう二度と――……。

巧は頷くと、オートバジンを走らせていく。

ヒビキは誰もいない山道を走っていた。

天道もまた遠くに見える東京タワーを独りで目指す。

タケシは夜の空から落ちていく白い粒を見つめ、ハンドルを切った。

 

良太郎とハナはデンライナーの中から下に見える荒野を見つめていた。

喧嘩しているモモタロスたちがうるさいので、少し離れる二人。

ふと、目が合うと、ついつい笑ってしまう。お互いの身体は小さく、子供になっていたからだ。

ゴロウはバイクを走らせながら愛する人を想った。赤い大地はまるでワインのように。

 

 

「………」

 

 

ハードボイルダーに乗って遠くに見える風車を目指す翔太郎。

一方でその後ろを走るリボルギャリーの上に腰掛けているフィリップ。

持っていた本が風にめくれ、ページが次々にはがれていく。

風にあおられ、飛んでいくページたち。あれはもう必要の無いものだ。そう思いたかった。

 

そして荒野を走る映司。ふと、手に持ったメダルを見る。

割れたコアメダル。映司は強く頷き、それをしまうとスピードを上げる。

 

 

「おー!」

 

 

なでしこは弦太朗の肩に手を置き、シートの上に立っている。

黄金の空。夕日は大地を赤く染めている。その景色が美しく、切なく、ついつい声が漏れてしまう。

並んで走る流星は、そこで全てを察する。

弦太朗を見つめ、じゃあと笑った。

 

 

「ああ」

 

 

それはなでしこも同じらしい。

微笑むと、体を前に出し、弦太朗の頬にキスを。

そこで、二人は消え去った。

 

 

「………」

 

 

弦太朗は涙をぬぐい、マシンを走らせる。

スタッフロールの後、『END』が表示されたままのゲームは一度スイッチを切るしかない。そして次に始めたとき、ラスボスを倒す前に戻る。

つまり、セーブ地点に戻るのだ。

 

それを知っている晴人はコネクトを使い、チョコレートがたっぷりと掛かっているドーナツを取り出し、一口かじる。

皮肉めいた笑顔を浮かべバイクを走らせた。

紘汰もまた目を細める。消えていく味覚、友を手にかけた感覚を思い出し、ひたすらにバイクを走らせた。

 

とはいえ、それは悪い事だけではない。

覚えているものは覚えているし、察するものは察している。進ノ介はベルトさんに触れて笑った。ベルトさんも笑い、直後、消え去る。

進ノ介は家の前に立っていた。息子を抱いた霧子は、進ノ介の表情を見て全てを察した。

彼女は、夢を視たと言う。死んでしまう夢だ。

 

 

「なら忘れたほうがいい。映画でも行こうか? マーマーマンションの実写化、今やってただろ?」

 

「――ありがとう」

 

 

霧子の笑顔を見て、進ノ介は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「♪」

 

 

海沿いの道を二台のジャングレイダーが走る。

千翼の背にしがみついていたイユは小声でメロディを刻む。

既に、全てを思い出している。悠も、千翼も、イユは――、どうなのだろう?

 

 

「海、見て帰ろうか」

 

「……了解」

 

 

千翼は泣きそうに笑い、ジャングレイダーを海へ向かわせる。

悠は、何も言わずに二人から離れていった。一度も振り返ることはなかった。

 

 

「ねえ永夢」

 

「ん?」

 

 

夕焼けは黄金の光を放つ。

それに包まれながら永夢はレーザーを走らせる。

後ろに乗っているポッピーは、頬を永夢の背にこすりつけた。

 

 

「今、幸せだよ」

 

「ひゅう、あついねぇ」

 

「んもう、貴利矢ッ、からかわないでってば!」

 

 

永夢は困ったように笑う。

 

 

「邪魔しちゃ――、悪、い――……わ、な」

 

 

レーザーの声にノイズが走る。

走るということは、近づくということだ。エグゼイドの世界、それはセーブポイント。

異物は消え去り、世界はあるべき姿に戻る。

いくら共有しているとはいえ、この貴利矢はブックメイカー産だ。カメンライダーが生み出した貴利矢だ。

だから、夢から覚める。

 

 

「―――」

 

 

レーザーの複眼が消えた。

永夢は一瞬、急ブレーキをかけそうになる。

しかしそれを止めるように、ポッピーが永夢の腕を掴んだ。

 

 

「行って。ね? 永夢」

 

「ポッピー……」

 

 

ギュッと、永夢を抱きしめるポッピー。

いや、ハナエルと言えばいいか。そんなバグスターは本当の軸には存在しない。

無いものは、無いのだから、そこにはあってはいけない。

エグゼイドの世界が近づく。

ポッピーの体が粒子化を始めた。

 

 

「ねえ、約束」

 

「――なに?」

 

「患者さんを笑顔にしてね。永夢なら――、できるよ」

 

「うん……!」

 

「あとね、もしね、本当の私が困ってたら……、助けてあげてね」

 

 

頷く永夢。

 

 

「最後に――、ふふっ」

 

 

照れくさそうに笑い、顔を赤らめるポッピー。

 

 

「ちゅーしよっか。お別れの……、キス」

 

 

それでも、最後には涙を流す。

許してくれるはずだ。一応、お嫁さんなんだから。

ポッピーはそこで消え去った。永夢は唇に確かな感触を感じ、涙を流す。

悲しいが、あのまま終わるよりは良かった。永夢は瞳の無いレーザーを走らせ、黄金の大地を駆け抜けていった。

 

 

たった、独りで。

 

 

誰もが皆、しばらくバイクのエンジン音だけを聞き続けた。

いろいろ、つまらない事まで考えてしまわぬ様に、爆音をあげて走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

少年は公園のベンチに座り、缶コーヒーを片手に遠くを見ていた。

背後には大きな病院がある。

少年は、思い出していた。夢を見た。天空寺タケルが見た景色がシンクロしていた。

本郷猛の授業を思い出す。でかでかと黒板に書いた『生命』の文字。

熱心に伝えたい大切なことは、笑われてしまうけれど、どこかで小馬鹿にされるけれども、ついていけないと流されるけど。

それでも、やっぱりそれは正しいと思ってしまうことで。なんだか心の炎に直接届いて。けれども熱いのは辛いから、ついつい目を逸らして――……。

 

 

「あの」

 

「!」

 

「もしかして、竜斗くん? ですか……?」

 

 

そこには制服を着た女子高生が立っていた。

随分とまあ、なんと言えばいいのか――、つまり、美少女だ。

少年はつい体が強張ってしまう。けれども少女の言葉で理解した。

 

 

「そうだよ。ミライちゃん」

 

 

尤も、今はお互い、顔も、名前もぜんぜん違うが。

名前は別に――、特別なものじゃない。よくある名前だし、特に意味ももたない。

少し遅れて、加古くんがやってきた。加古くんだった人はなんと30代だった。

 

 

「ちょっとウソでしょ? 俺だけオッサンじゃん」

 

 

結婚してたし、子供もいたし。びっくりしたと。

いや、まあ、だからこそ経済関係の悩みを抱えていたのだが。

 

 

「なんとかなってた」

 

 

一体、誰が助けてくれたのやら。

詐欺の犯人は、タイヤがどうとかブツブツ言っていたらしいが……。

 

 

「みんな今はどうしてるの?」

 

 

竜斗だった少年は問いかける。

皆、フォビアは消え去っていた。だから怯えながらも、ビクビクしながらも何とか生きてる。

 

 

「竜斗くんは、あそこに入院してたんでしょ?」

 

 

元ミライは後ろにあった病院を指差す。元竜斗は頷いた。

目を覚ますと――、少し驚くものがあったという。

 

 

「母さんが、僕がライダー好きなの覚えてて」

 

 

毎年、買ってしまったと。

竜斗は思わず声をあげたものだ。目覚めたら棚の方にズラリと並んでいるのだから。

 

 

「へえ、すごいね」

 

「今は――、病院にある。あげた」

 

 

もう今は――、いると言えば『要る』が、それはやっぱり他の子供達にあげたほうがいい。他の子供達の傍にいてほしい。

それか、もしくは、今、きっとどこかで苦しんでいる人に。

 

 

「でもまあ、せっかくこうして会えたわけだし。なんか食べに行こうよ」

 

 

加古に促され、竜斗たちは立ち上がる。

ふと、竜斗は周りを、世界を視た。

道の向こう、道路を走る車、それこそテラスでお茶をしながら携帯を覗いている少女。

彼らは生きている。何人もの人が生きる世界とは別に、もっと多くの世界がある。そこへ彼らの想いが流し込まれていく。

 

これから竜斗たちは美味しいご飯を食べる。その裏で、きっとまた戦いが――……。

 

たぶん、きっと、何日か眠ったら、あの戦いを自分は夢だと思うのだろう。

頭の中から消えるのだろう。忘れてしまうのだろう。なんとなくだがそう思った。

おそらく、そういう複雑な力があるに違いない。

だから今、しっかりと心に刻む。自分が思ったこと。

 

 

「………」

 

 

月並みな言葉だが、なるべく傷つけないように生きようと思った。

なるべく恥ずかしくないように。なるべく善意を前に出そうと思った。

どうしようもなく無責任で軽いように聞こえるかもしれない。けれども、そうしようと思ったのだ。

 

平和な世界なんて無理だ。

そう言う人は多いし、事実竜斗もそう思っている。けれどもやっぱり、そうしようと、そうしたいと思った。

そんな事、この戦いに巻き込まれる前から思ったことはある。そう言えばそうだ。それでも改めて思うことにした。

こんな漠然としてフワフワしたものの為に、彼らは血反吐を吐いているのだ。

 

だからせめて、せめて少しだけは――、この世界が良くなるように生きたいと思った。

 

もしも誰かが傷ついているのならば、それを少しでも癒せるようにしてあげたいと思った。

胸を張って、自分は他人から見ても正しい事をしているのだと言われる生き方を選びたかった。

竜斗だった少年はベッドから起きたときに見えた、ズラリと並ぶ仮面ライダー達の人形を見て、そう思ったのだ。

 

 

「――バイク、後ろに乗せてもらいたかったな」

 

 

呟く。

でもどうせ貴方達はそれを望んでいないんでしょう?

寂しさと安堵を胸に、少年は人の溢れる世界に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメンライダー END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな男の子が青空を見ている。

 

駅のホーム。

白線の内側。男の子はジッと空を見ていた。

隣にいる母親はSNSに夢中らしく、しきりに携帯を指でなぞる。

 

 

『あれつまんなかったよね』

 

『あ。でもさ、前に見たやつは面白かったよ』

 

 

母親は友人とメッセージをやり取りしているようだ。

やはりこういう話はストレスが減っていい。友人がいなければパンクしていただろうと思う。

 

おっと、まもなく電車が来るようだ。遠くに車両が見えた。

男の子はその時、空を飛ぶ鳥を見つけた。はじめは目で追い、そして体がついてくる。

一歩、二歩、前に出る。白線を越え、その時、男の子の体がホームを越えて線路に落ちた。

その時、電車が通り抜ける。

 

 

「!!」

 

 

気づいたのか。

携帯を落とし、母親は悲鳴をあげ――、ようとして止めた。

男の子は白線の内側にへたり込んでいたのだ。

見間違いだったのだろうか? しかしそんな事はどうでもいい。母親は男の子を強く抱きしめ、ゴメンを連呼していた。

お母さんは、男の子の手をもう離さないと誓っている。

 

オレンジ色の粒子が空に消えた。

 

 

天空寺タケルは遠くで抱きしめあう親子を見て、嬉しそうに微笑み、小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 





『熱風Rider』って曲があるんですけどカメンライダーのテーマソングです(妄想)
歌って言うのは歌詞の解釈が人によっていろいろ違うのが面白いところだと思うんですけど、個人的に『メタ』な歌だと思ってます。

一番はライダーファン→ライダー。
二番はライダー→ライダーファンのメッセージのような気がしてます。

よかったら聞いてみてね(´・ω・)


あといろいろ書きましたが、僕が言いたいことは『新・仮面ライダーSPIRITS』1巻・2巻に書いてあります。
この二巻を今回はめちゃくちゃパク――、参考にしました。クロスオブファイアを意識してみるのも面白いと思います。
あと1巻開いたところ絵がめちゃくそカッコいいんで、よかったら見てみてね(´・ω・)b

カメンライダーはこれで終了です。
読んでいただき、本当にありがとうございました。

ライダーは私が生まれたときから存在しておりました。
もう身も心もおっさんになった今でも、RXを見ると子供の時を思い出します。
私はこれからも過去の残像を追いながらライダーを書いていきますん。

狙う年齢層はバラバラなんだけど、結局ボクの書くライダー二次で伝えたい事はカメンライダーで書いたことなんで、金太郎飴みたいな作品ばっかになるけど許してくれよな!

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