カメンライダー   作:ホシボシ

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第1話 最後の試練

 

 

薄暗い部屋をモゾモゾと影が這い回っている。

窓の外では小鳥の鳴き声が聞こえ始めてきた。新聞配達員のお兄さんが必死になって自転車をかっ飛ばしているのも見える。

シルエットはその中で必要なアイテムを手にすると、一枚のDVDを機械にセットする。

カーン! ドゥルルルル! 特徴的な音が聞こえ、テレビの中で戦闘が巻き起こる。

 

 

『ライダージャンプ! トウッ!』

 

「!」

 

 

影――、ではなく、その少年は待ってましたといわんばかりに目を輝かせる。

 

 

『ライダーキ――』

 

 

そこで映像が切れた。

 

 

「あ、あれっ?」

 

 

テレビが消えてしまった。

すると代わりに部屋の電気がつく。

 

 

「あー、びびった。ちょっと勘弁してよ。泥棒かと思ったじゃない」

 

「お母さん……!」

 

 

部屋の入り口にはボサボサの頭をかきながら欠伸をしている少年の母親がいた。

手にはリモコンがあり、それでテレビを操作したようだ。

少年、竜斗(りゅうと)は、持っていたポテチとコーラを、恥ずかしそうに隠している所であった。

 

 

「ソレ何回目?」

 

「たぶん、13回くらい」

 

「飽きないの? 同じシーンばっか」

 

「うん」

 

「面白い?」

 

「うん」

 

「誰がすき?」

 

「うん」

 

「学校で好きな娘いる?」

 

「うん」

 

「今日ピーマン夕食に出すけどいい?」

 

「うん」

 

「来月のお小遣いなしでいい?」

 

「う――……、やめて」

 

「チッ」

 

 

リビング。

竜斗の母はできあがった目玉焼きを皿にのせて息子に差し出した。

一方で竜斗はボケッとした表情で食い入るように画面を見つめている。

テレビの中にいたのは仮面ライダー。今や知らぬものはいないほどの特撮ヒーローである。

1号は今日もショッカー怪人をボコボコに殴っている。竜斗はそれをジッと夢中で見つめていた。

 

 

「ちょい、せっかく作った目玉焼き冷める」

 

「目玉焼き? グチャグチャじゃん。ぼく、半熟がいいのに……」

 

「み、ミスったのよ。しょうがないな、コレはパパに食わせよ」

 

「パパ、かわいそう」

 

「じゃあアンタが食べる?」

 

「パパの皿にあげて」

 

「よしきた。って、あぁ、なんだよ。パンも焦げ焦げ。やっぱ安物のトースターはダメね。これもパパに食わせよ」

 

 

そこでガチャリと扉が開く。

小さな女の子が目を擦りながらやって来た。

 

 

「おはようママ。お兄ちゃん」

 

「おはよツバサ」

 

「………」

 

「こら竜斗、あいさつは?」

 

「え? あ、うん。おはようツバサ」

 

「お兄ちゃんまた、かめんらいだーさん見てるの?」

 

「ほんと、よく飽きないね」

 

 

そこで竜斗の母は時計を確認して舌打ちを零す。

 

 

「相変わらずおっそいな。もう時計鳴ってんだろ……」

 

「いつものことじゃん。お父さんが時間通りに起きてきた事なんてないよ」

 

「くぅ、情けない。竜斗達はごはん食べててね。ちょっとママ、かましてくるからね」

 

 

そういうと母は二階に上がっていった。

 

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!」

 

 

二階から悲鳴が聞こえる。

さらにドタドタと物音や震動が伝わってきた。

しかしいつもの事なのか、竜斗もツバサもノーリアクション。

竜斗はパンを食べながらテレビを凝視しているし、ツバサは小さな手でトースターにジャムを塗っている。

すると震動が近づいきた。扉が勢いよく開くと、汗だくになった父親が転がり込んでくる。首筋には歯型のようなものが見え、父はそのままソファに倒れこんだ。

 

 

「くっそ! お前ッ、もっと普通に起こせないのかよ!」

 

「普通に起こしても起きねーんだから仕方ないでしょ! ほら、さっさと食えよ! 遅刻するぞ!」

 

 

そう言われては具合が悪い。

 

 

竜斗の父、城戸(きど)真司(しんじ)は肩を竦めて席についた。

 

 

「おい、俺のパンだけ黒すぎだろ」

 

「愛情表現よ」

 

 

向かいの席についた城戸(きど)美穂(みほ)は涼しげな顔で目を逸らしている。

 

 

「目玉焼きがグチャグチャなのは?」

 

「愛情表現」

 

「俺だけ水もコーヒーもないのは?」

 

「愛情表現」

 

「休みに食べようと思っていたポテトとコーラがゴミ箱にあるのは?」

 

「愛情表現」

 

「ウソつけよ! 適当すぎだろ!」

 

「ああもうッ、うるさいな! 男がグチグチと!」

 

「パパ、わたしのパンあげるね」

 

「ツバサぁ! ありがとう。お前はママと違って優しく育ってくれて……! 俺は本当に嬉しいぞ!」

 

 

美穂はムッとしたように頬を膨らませると、直後ニコリと優しい笑みを浮かべる。

実に切りかえの早い女であった。

 

 

「あん、そんな事言わないでよア・ナ・タ。だったら美穂もたっぷりの愛情あげるね!」

 

「ゴミ袋じゃねぇか! 出して来いってか!?」

 

「いいじゃん、どうせ先に出て行くんだし! ねえ竜斗!」

 

「………」

 

「あれ? 竜斗? ってなんだ、また見てるのか」

 

「うん。だって、今日返さないといけないし」

 

「ゴメンね竜斗。パパがもう少し稼いでくれたらレンタルじゃなくて買ってあげれたのにね」

 

「やめろよ! いいよ別に、欲しけりゃ買ってあげるって」

 

「いらないでしょ! レンタルで十分よこんなの! 何回も見るわけじゃないし!」

 

「どっちだよ!」

 

「ぼくはいいよ別にレンタルで。見たいの全部買ったら本当、高くなるし」

 

 

仮面ライダーと言うのは1号だけではないのだ。

V3やX、まだまだあるぞ。アマゾンだのストロンガーだの最後はRXから真だの何だのと。

竜斗ももうすぐ小学5年生だ。家庭の負担を考えれば物欲をセーブする事くらいはできるというものだ。

 

 

「ねえお兄ちゃんソレもう消して。ツバサ、怖いよ……」

 

「えぇ? かっこいいじゃん」

 

「またまたぁ竜斗もビビッてたじゃん」

 

「やめてよお母さん。真さんは別だよ。あれはもういいんだ。あれは、もう……」

 

「ツバサもっと可愛いのがいい! プリキュアとか。そういえばこの前ね、DVD屋さんでキュゥべえって言うかわいいのが出てるアニメあったんだよ。あれ今度見たい!」

 

「へぇ、今度みてみよっか」

 

「いやッ! 止めておいたほうがいい!!」

 

「なんでよ真司。見た事あんの?」

 

「ないけど――、本能がそう告げている……! 俺の野生の嗅覚が……!」

 

「なんだよそれ、ワケわかんない」

 

 

真司はこの町でリンゴを売る仕事をやっていた。

品種改良に成功し、育てやすく甘くておいしいリンゴだった。まだ会社は小さいものだが、リンゴを買ってくれる人はそれなりに多く、未来はあった。

そして美穂はウエディングプランナーとしてブライダルで働いている。カップルに結婚式をプロデュースするのが目的であり、それなりに評判もいい。

真司達は結婚し、そして竜斗とツバサ、二人の子供をもうけたのだ。

 

 

「それにしてもなんだって電気もつけずに見てたのよ」

 

「だ、だって……」

 

「?」

 

「ちょっと、恥ずかしくて」

 

「ははあ、そうよね。もうそろそろ周りの子は卒業してるくらいだもんね」

 

「う、ぅう」

 

 

確かに特撮ヒーローと言うものは、成長していくと共に『見ています!』と胸を張っては言い辛いものである。

特に小学生にもなってくるとプライドや羞恥な感情があるのか、たとえそれが家族であったとしてもなるべく隠しておきたいものなのだ。

 

 

「好きなら好きでいいと思うけど?」

 

「そうだぞ竜斗。大切なのはな、お前が信じるものだよ」

 

「う、うん」

 

「パパかっこいい」

 

「おお! ありがとなツバサ!」

 

「かぁー! 言ってるよコイツ! 今の上司の受け売りだろ! パクリじゃない!」

 

「オマージュだよ! あ、いやッ、リスペクト。パロディだ!」

 

 

両親は気にしていないようだが、やっぱり竜斗としては恥ずかしいのである。

 

 

「ほら、もういいでしょ。DVDは私が返しておくから。用意して」

 

「はぁい」

 

 

パンを口の中に詰め込んで、竜斗は椅子から降りた。

 

「いってきまーす」」

 

 

ツバサが通っている保育園は学校に行くまでの通学路にあるため、いつも竜斗が送り迎えを担当している。

ランドセルを背負って、竜斗は妹と共に家を出て行った。

子供二人ではあるが、この町は平和なので心配はないようだ。

ほら今も、近所でラーメン屋をやっているおじさんと朝の挨拶を交わす。

 

 

「おはよう二人とも。いつも偉いね竜斗くん」

 

「おはようございます、おじさん」

 

「おはようごまいますっ」

 

 

おじさんはいろんなものに手を出している人だ。

タコヤキ屋に豆腐屋もやっている。なんでも昔はピアノを嗜んでおり、刑事であったが和菓子職人になるため辞めて、最終的にラーメン屋に落ち着いている。

なんでも、『なると』で占いができるらしい。良く分からないが。

 

さて、竜斗達はおじさんと別れると『baada ya kifo』と書かれた看板を見つける。

そこは喫茶店だ。カウンターで呆けていたマスターは視線に気づくと、笑顔を浮かべて手を振っている。

日課のようなものだった。竜斗はいつも早めに家を出て、ココに寄っていくのだ。

 

 

「おはようマスター!」

 

「おはようございます!」

 

「おはよう二人とも! 今日は青空! いい天気だね!!」

 

 

五代(ごだい)雄介(ゆうすけ)

竜斗が物心ついた時からこの店でマスターをやっており、よくカレーを食べたりジュースを飲みに来る場所だ。

なかでもこのマスターである五代が面白い。本人曰く2017の技を持っているらしく、竜斗は毎日少しずつこの技を教えてもらっているのだ。

今日は『セミの鳴きマネ』である。

 

 

「俺も知り合いに教えてもらったんだけど、ちょっとやって見て」

 

「ミーンミーン!」

 

「でしょ! でも違うのよ! 実際はね、シーウシーウってやるとそれっぽく聞こえるんだって!」

 

「しーうーしーう」

 

「しーゆーしーゆ」

 

「シーウシーウ!」

 

「しーうーしーう」「しーゆーしーゆ」「シーウシーウ!」「しーうーしーう」「しーゆーしーゆ」「シーウシーウ!」「しーうーしーう」「しーゆーしーゆ」「シーウシーウ!」「しーうーしーう」「しーゆーしーゆ」「シーウシーウ!」

 

 

まともな人間なら脳が破壊されるほどトロけた時間が過ぎていく。

しかし3分もやればまあまあ形になるものができた。五代は笑顔で頷くと、二人にサムズアップを向ける。

 

 

「よし! コレでキミたちも立派なセミだね! いつ夏が来ても大丈夫!」

 

「うん! ありがとうマスター!」

 

 

サムズアップを返す竜斗とツバサ。

クソの役にも立たない技術がまた一つ増えた。

 

 

「そうだ、裏の畑に翔一くんがいるからさ。よかったら顔見せてあげてよ」

 

「うん!」

 

 

言われた通り二人が畑に向かうと、そこにはキュウリやトマトを収穫している津上(つがみ)翔一(しょういち)が見えた。

 

 

「やあ! おはよう二人とも」

 

 

翔一はこの喫茶店、唯一の従業員であり、住み込みで働いている。

なんでも過去の記憶がどうのこうのと複雑らしいが、いつもニコニコしている好青年だ。

当然、常連客である竜斗たちとは仲がよく、一緒に湯豆腐を食べたり、テニスをしたりして遊んだこともある。

 

 

「そうだ、甘くておいしいトウモロコシが採れたんだ。学校が終わったら寄ってよ。みんなで食べて食べて」

 

「え? いいの!?」

 

「もちろん! トウモロコシも二人に食べて欲しいって言ってるからね。あと真司さんにはいつもおいしいリンゴをもらってるから。あのリンゴでつくるアップルパイがそりゃあもう美味しいのなんのって」

 

 

庭の野菜はもはや家庭菜園のレベルではない。

これが翔一の趣味で、採れた野菜は喫茶店の料理に使われているのだ。

野菜のグリルカレーは喫茶店の看板メニューである。

 

 

「そろそろ行くね」

 

「うん、気をつけて!」

 

 

さて、竜斗達は喫茶天を出ると、学校に向けて足を進める。

しかしふと、竜斗とツバサは緊張した面持ちとなった。と言うのも、少々苦手な建物があるのだ。

それはクリーニング屋である。近くにもう一軒とないため、真司はたまにココを利用するのだが、どうにも竜斗とツバサはこの店の主人が得意ではなかった。

おお、見よ、大きなガラスの向こうで座っているのはブスっとした表情の(いぬい)(たくみ)である。美穂もよく言っていた。

 

 

『アイツ絶対接客に向いてないよ。狼みたいな目してるもん』

 

 

だとか。

 

 

『竜斗とツバサも気をつけてね、アイツに近づくと食べられちゃうかもよ』

 

 

だとか。

 

 

『この前蕎麦屋で見かけたけど、アタシの蕎麦が来てからアタシが食い終わるまで、アイツずっとフーフーしてたから、とにかくヤバイ奴だから、近づかないほうがいいわよ』

 

 

だのと煽ってくるので、とにかく竜斗達は巧が苦手だった。

だから早足でクリーニング屋を通り過ぎ、学校を目指す。

ふと、竜斗達は立ち止まり、横を見る。するとそこにはとても大きな屋敷があった。

 

 

「相変わらず凄いお家だね」

 

「うんっ、お城みたい――って、あっ! あれ見てお兄ちゃん!!」

 

 

ツバサが指差した先にはバルコニーに立っている一人の男が。

朝っぱらからバスローブ姿でサングラス、そして赤いワインが入ったグラスを回しているのは天道(てんどう)総司(そうじ)という男だ。

 

とんでもない豪邸に一人で住んでいるのだが、美穂が井戸端会議で得た情報によると、天道と言う男は無職らしい。

『アイラブサバミソ』と書かれたワケのわからないTシャツを着ていたと言う情報から、グッズ製作を手がけていると噂された事もあったが、どう進んでも最終的には無職と言う結論にしかならないため、この町の人間は彼のことを『ロイヤルニート』と呼んでいる。

 

あ、目が合った。天道は二人をジッとみたまま人さし指を立てて天にかざす。

なになに? おばあちゃん? おばあちゃんが、世界を?

やっぱりヤバイ人だったんだ。二人は逃げるように屋敷から離れていく。

 

 

「ふぁー」

 

「おはよう永夢先生!」

 

「あ! おはよう二人とも。良い朝だね!」

 

 

この町にある小さな診療所、その前で伸びを行っていたのは宝生(ほうじょう)永夢(えむ)だ。

以前登校中に転んで怪我をしてしまったことがあるが、その時に永夢は無料で手当てをして助けてくれた。

それ以来親しくなり、さらにはゲームが趣味と言うこともあって、近所の子供達からは人気の先生だった。

まだ若いのに医療関係者と言うのは真司や美穂も評価している所であり、さらにはルックスも良い事もあってか、美穂は唸り声をあげて褒めていたのを覚えている。

 

 

『性格良さそうだし、子供受けはいいし、ルックスもよし。ただ、ただ――』

 

「えむー!」

 

『あれで彼女が電波じゃなけれりゃあ……』

 

 

アニメ声で話す女性が手を振りながらやって来る。

思わずギョッとする竜斗、ツバサはやってきた女性を見て目を輝かせているが、やはりなんと言うか子供でも分かる周囲との差。浮きっぷり。

 

 

「おべんとー忘れてたよー!」

 

「あぁ、届けにきてくれたの? ありがとうポッピー!」

 

 

毒々しいほどカラフルな女性、それが『ポッピーピポパポ』だ。

永夢の彼女で同棲もしているらしいが、とにかく派手である。ピンクの髪色はどうやらウィッグではなく地毛らしい。

医者の彼女としてはあまりにも浮いているために、周囲はそれだけザワついているワケだ。

 

 

「ねえ、えむぅ。もう一つ忘れ物があったよ?」

 

 

ポッピーは両手の人さし指を合わせてモジモジと動いていた。

竜斗はまだよく分かっていないが、美穂はポッピーとは知り合いで、たまに食事をしたりするからポッピーのことは周りよりは知っている。

しきりに『あざとい女』だと口にしていた。

 

 

「え? 何か忘れたっけ? 何にもないと思うけど……」

 

 

永夢はぽかんとした表情でポッピーを見る。気づいていないらしい。

ポッピーは頬をフグのように膨らませて永夢を睨んだ。

 

 

「もうっ! 行って来ますのチューだよっ!」

 

「あはは、そっか。ごめんね。はい」

 

「うん、ちゅー!」

 

 

軽く唇に触れるだけのキスだったが、それを見ていた竜斗達は顔を真っ赤にして俯いている。

 

 

「続きは――、夜だね……!」

 

「ちょ、ちょっとポッピー、二人もいるし……!」

 

「そ、そっかぁ。ごめんね。気をつけてね二人とも」

 

 

とんでもない会話ではあるが、竜斗達は意味が分からず首を傾げるだけだった。

ちなみに竜斗は真司がポッピーピポパポを言いきった所を見たことがない。

さて、そろそろ時間もない。早足で歩く竜斗とツバサ。すると子供達も増えてきて、保育園に到着する。

 

 

「おはようございます。ハナ先生」

 

「おはよう! いつも偉いね竜斗くん!」

 

 

ツバサの担任であるハナ先生がやって来る。

一方で彼女の背後では、一人の青年が園児に囲まれて悲鳴を上げていた。

 

 

「たっ、たひゅけてぇ! ハナさぁん!」

 

「もうッ、良太郎先生ったら!」

 

 

野上(のがみ)良太郎(りょうたろう)は優しい先生で有名だが、いかんせん迫力がなく、子供達にナメられてしまい玩具にされている。

さて、一人になった竜斗はすぐ近くにある小学校に到着。

クラスに入ると、自分の席につく。

 

 

「おはよッ!」

 

「おはよう竜斗」

 

「おはようミライちゃん。加古(かこ)くん」

 

 

竜斗の前の席にいるのは加古くん。竜斗とは幼馴染であり、よく一緒に遊んだ。

そして隣にいるのはミライちゃん。ツインテールの可愛らしい女の子で、正直な話、竜斗は絶賛初恋中を継続中である。

竜斗はとくにこの二人と仲がよく、いつも三人で行動していた。

 

 

「加古くん新しいCM見たよ。ジューシーって言って洋服が弾け飛ぶヤツ」

 

「ありがとう。でも多分あれ将来黒歴史になるからさ、中学生になったら触れないでくれよ」

 

「でもテレビに出られるなんて凄いよ」

 

「お父さんが知り合いだっただけさ。今度竜斗も出してあげよっか」

 

「えっ!」

 

 

一瞬、テレビ局に行けば仮面ライダーに会えるのかもと思う。

その実、竜斗の仮面ライダーに対する認識は非常に曖昧なラインの上にあった。

本当にいるのかもと思う心もあり、ただのドラマだと思う部分もあった。

 

 

「そうそう、そういえばさ、私の弟がまだ仮面ライダー見ててさ」

 

「!」

 

「もうすぐ二年生なのに、卒業しないとダメだよね!」

 

 

何気なく振った話題のつもりなのだろうが、ミライの言葉が竜斗の胸に突き刺さる。

そういう物なのだろうか。やはり。ううぅむ。

唸っていると、チャイムが鳴った。教室に入ってくるのは竜斗達の担任教師であるヒビキだ。落ち着いた雰囲気の優しい先生である。

とは言え、今日はみんなの視線がヒビキの後ろにいる少年に集中した。

 

 

「よし、みんなぁ。今日はご覧の通り転校生がいるぞー」

 

 

その少年はあまりにも儚げで、美しかった。

達観したような表情。全てを見据えた瞳は、青く輝いている。

 

 

「はじめまして、本条(ほんじょう)(しおり)です」

 

 

不思議な声だった。

特徴があるようで、何も特徴が無い。

一度聞いたら忘れないような声と言う感想を抱いた後、すぐどんな声だったか忘れるような、そんな声だった。

 

 

「両親の都合で引っ越してきました。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「すごい人気ね」

 

転校生は珍しい。しかもルックスが良い事もあってか、休み時間ともなればすぐに本条の周りにはクラスメイトが群がっていた。

それを離れたところで竜斗達が確認している。

 

 

「でもちょっとなんだか、不思議な子だよね。本条くん」

 

「おれ、知ってるよ。ああいうの、ミステリアスっていうんでしょ? ずるいよね」

 

 

そう言いながら加古くんは必死に鼻くそをほじっていた。

そうだ、本来小学生と言うものはこういうくらいで丁度いいのだ。

しかし本条と言えば、見るからに落ち着いて。顔立ちも大人びているものだから、人気が出るのは必然のようだった。

 

 

「竜斗くんはどう思う?」

 

「う、うん。どうだろう?」

 

「目が青いね。ハーフってやつなのかな? 竜斗はどう思う?」

 

「うん……、うん」

 

「?」「?」

 

 

首を傾げるミライと加古。すると竜斗の肩を叩く者が。

 

 

「なあ竜斗。悪いけどさ、次の授業で使うプリント運ばなきゃならないんだよ。手伝ってくれるかな?」

 

「先生……!」

 

「あ、先生! 私も手伝いますよ!」

 

「いやいや、一人でいいよ。ついて来てくれるか竜斗」

 

「は、はい……!」

 

 

断る理由もないので、竜斗はヒビキに言われた通り、職員室に向かいプリントを一緒に運ぶ事に。

するとヒビキが笑みを浮かべ、竜斗を覗き込む。

 

 

「どうした? 元気がないぞ」

 

「先生……」

 

「先生さ。人に言う事で楽になる事もあると思うけどな」

 

「じ、実は――」

 

 

仮面ライダーとは子供向けの番組なのだ。もうすぐ高学年なのに、それに熱中するなんておかしいのだろうか?

そんな話である。

 

 

「んー、そうかぁ。先生は別に良いと思うけどな」

 

 

何かを好きになるのは、絶対に悪い事じゃない。

大切なのは、どうやって『好き』な気持ちと向き合うか。そしてどうやってその好意を示すのかだ。

 

 

「竜斗が恥ずかしいと思うなら、胸を張って隠しておけばいい」

 

 

それが自分で空気を読むと言う事だ。

好きな物を共有できる人の前ではさらけ出せばいいし、そうじゃない人の前では自重するのは判断力があると言うことじゃないか。

自分の興味のあるものを相手に押し付けるのはあまり良い事ではない。

 

 

「今はそれでいいんじゃないの? 竜斗がもっと大人になれば、いろいろ分かる事もあるけど、今は自分が納得できる道を選ぶが一番だな」

 

「はぁ、そういうものですか」

 

「んん。ただ、何かを好きになる事自体は恥ずかしい事じゃないからな」

 

 

あともう一つと、ヒビキは付け加える。

 

 

「それに仮面ライダーが好きな大人はたくさんいるぞ。高いフィギュアとか、ベルトもあるらしいし」

 

「そ、そうですよね!」

 

「そうそう。あとはそうだな、誰かが好きな物を否定するのはよくない事だ」

 

 

そういう人間になるくらいならば、肯定できる人間になったほうがよほどいい。

 

 

「それは、仮面ライダーが教えてくれただろ?」

 

 

なによりも、仮面ライダーにはたくさんの大人が関わっている。

どうやって子供達に大切な事を教えようかと、いっぱいいろんな人が本気で関わっているんだ。

それにいつか、竜斗も気づくときがくるだろう。ヒビキはそう思っていた。

 

 

「うん……!」

 

 

笑みを浮かべる竜斗。とりあえず今は割りきりがついたようだ。

 

 

 

そして放課後、いつものように竜斗は友達と帰ることに。

とは言え加古は家が全く違う方向にあるので、校門前で別れる。

 

 

「はぁ」

 

「どうしたの加古くん」

 

 

いつもは笑顔で別れるのに、今日は違っていた。

 

 

「ちょっと、悩んでて」

 

「本当? どうしたの?」

 

「ちんちんが痒いんだ」

 

 

真面目に聞いた自分がバカだった。

竜斗はイラついたように頭をかくと、加古から離れていく。

 

 

「掻きなよ」

 

「でもっ、人前じゃ恥ずかしい……!」

 

「人のいないところで隠れて掻きなよ」

 

「そ、そっか! すごい……! 竜斗、すごい、天才……! ありがとぅッ、友達……!」

 

「はいはい。じゃあね」

 

 

竜斗はミライと合流して帰ることに。

 

 

「ねえ竜斗くん、今もずっとツバサちゃんを送り迎えしてるの?」

 

「うん、まあね」

 

「そうなんだ。えらいね」

 

「あ、ありがとう」

 

 

好きな子に褒められるのは嬉しい。思わずニヤケ顔になる竜斗。

二人は保育園に寄り、ツバサと合流して再び帰路につく。

 

 

「ツバサちゃん。保育園は楽しかった?」

 

「うん、今日はね、お絵かきしたよ」

 

 

そう言ってツバサは竜斗とミライに一枚の絵を見せる。

 

 

「あれ? コレって……」

 

「かめんらいだぁ。お兄ちゃんが好きだから」

 

「あッ、ちょ!!」

 

 

朝の会話を思い出してドキリとする竜斗。

すぐに妹の口を塞ごうとするが――

まさに、その時だった。

 

 

「!」

 

 

はじめからそこにいたのか、それとも現れたのか、とにかくそれは一瞬だった。

竜斗達の前に青年が現れ、地面に倒れたのだ。いや、もしかしたら『倒れていた』のか。

とにかく目の前に横たわる青年がいるのだ、ワケが分からなかったが、竜斗とミライはアイコンタクトを行うと、青年の肩を揺さぶる。

 

 

「大丈夫ですか!」

 

「平気ですか!?」

 

 

不安そうに見つめるツバサ。するとその時、青年が眉を動かした。

 

 

「う、うぅん……!」

 

 

目を開けたのは天空寺タケル。彼は竜斗達を見ると、跳ね起き、目を見開く。

 

 

「えっ!? 平気って――ッ、おれの事!?」

 

「えッ? そ、そうですけど?」

 

 

当たり前だという風に頷く竜斗とミライ。

 

 

「おれが見えるの!?」

 

「え? えぇ?」

 

 

もしかしたらこの人はヤバイ人なのではないだろうか。

後退する竜斗と、防犯ブザーに手をかけるミライ。

 

 

「もちろん」

 

「!」

 

 

すると、タケルの背後から声が聞こえる。

皆の視線が集中する先には、転校生・本条栞が立っていた。

 

 

「大丈夫ですか? 気分が悪いみたいだけれど」

 

「本条くん!」

 

「やあ。帰り道がこっちなんだ。クラスメイトがいたと思ったら」

 

 

本条はタケルを見る。

そこでタケルもハッとした様に表情を変えた。

 

 

「あれ? おれッ、なんでこんなところに……?」

 

 

アカリを追って、見えなくなって、御成にも気づかれず、そして寺の方で、たしか。

 

 

「……ッ」

 

 

それから、どうなったのか、タケルには思い出せなかった。

 

 

「あれ? おれ? あれ?」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 

明らかに様子が普通ではない。さすがに心配する竜斗。

 

 

「あぁ、ゴメン。おれは天空寺タケル。キミは?」

 

「ぼく、城戸竜斗です」

 

 

簡単な自己紹介を行う一同。

 

 

「僕は――、本条栞」

 

 

落ち着いた様子で本条は語る。

そして達観したようにタケルを見ていた。

 

 

「どうしてココに倒れてたんですか?」

 

「それが――、覚えてないんだ。おれ、さっきまで森の中にいたはずなのに」

 

「招かれた」

 

「え?」

 

 

目を細める本条。

 

 

「――のかも、しれませんね」

 

「それはどういう?」

 

 

すると、ミライが目を光らせた。

文字通り、本当に目が発光したのだ。いやそれだけじゃない。

彼女の髪型はツインテールだった筈。なのに今はサイドテールだった。左だけが結ばれており、左目だけ赤くなっている。

 

 

「なにが望みなのですか?」

 

「え?」

 

 

なんだか不思議な感覚だった。

声はミライだ。顔もミライだ。けれども竜斗にはそれがミライとは思えなかった。仲が良くていつも一緒にいたから分かる事なのだろう。

 

 

「その権利を使い、何をしようとしているのですか?」

 

「ミライちゃん……?」

 

 

すると次は右のサイドテールだけになる。髪型が一瞬で変わったのだ。

そして右目が青く発光していた。

 

 

「その果てに、キミの望むものはあるのかい?」

 

「ど、どうしたの? ミライちゃん」

 

 

違和感を覚えたのはタケルも同じだった。

明らかに、ミライの様子がおかしくなっている。赤と青、話し方が違う。

いやいや、何よりも髪型がいきなり変わるなんてそんなバカな話はない。

 

 

「禁忌を超えてまで、何を得ようとする?」

 

 

一方で構わず話し続けるミライ。

何が起こっているんだ? 竜斗は得体の知れない恐怖を感じて青ざめる。

すると、まるでその不安に共鳴するようにして、爆音が聞こえた。

 

 

「!」

 

 

ビクッと肩を振るわせる竜斗、ツバサ、タケル。

そして見えたのは三つのシルエットだった。

それは、化け物。右からスカル、ゼロノス、ギャレン。知っている人間は知っている名だ。

 

 

「な、なんだアイツら!」

 

 

タケルは竜斗達を守るために半ば反射的に前に出る。

気になる点は二つ。まずは三体の化け物が武器を持っている点だ。スカル、ギャレンは銃を。ゼロノスを大剣を。

そしてもう一つは、ビリビリと感じる何かがある。

これは、そう、忘れるワケもない。タケルが死ぬ直前――、殺されるときに感じたものであった。

つまり、殺気。

 

 

「逃げろみんな!」

 

「えッ!?」

 

「いいから、早くここから離れるんだ!!」

 

 

タケルは竜斗の身体を押した。竜斗は戸惑いながらも、ツバサの手を取って走り出す。

 

 

「さあ、キミ達も早く!!」

 

 

タケルはミライと本条の肩を叩いて同じように走らせる。

一方で足を進めるゼロノスたち。動いたのはギャレンとスカルだった。手に持っていた銃を構えると、銃口をタケル達に向けて、迷わず引き金をひく。

放たれた弾丸は一直線にタケルを貫こうと飛来していった。

 

 

「クッ!!」

 

 

しかしタケルが人さし指と中指を立てる。

するとタケルの前方に魔法陣が出現、飛来する弾丸を防ぐシールドとなった。

そしてタケルは腰の中央に手をかざす。すると光が迸り、そこへゴーストドライバーが出現した。

同じくしてタケルの手に現れるのはゴースト・オレ眼魂(アイコン)。タケルはアイコンのスイッチを入れると、ゴーストドライバーを展開させ、アイコンを装填する。

 

 

『アーイッ!』

 

 

ドライバーからオレンジと黒を基調としたパーカーが発射され、それは意思を持つようにひとりでに浮遊。

そのままゼロノスたちに突進を仕掛けると、火花を散らしてダメージを与える。

 

 

『ゥェバッチリミナー!』『ァバッチリミナー!』『バッチリミナー!!』

 

 

バッチリ見てほしいらしいので、竜斗は思わず立ち止まり、タケルを見つめる。

そのタケルは印を切り、ドライバー横にあるレバーに手をかけた。

 

 

「変身!」『カイガン!』

 

 

パーカーがタケルのもとへ駆けつけ、覆いかぶさる。

 

 

『オレ!』『レッツゴー! カクゴ! ゴ・ゴッ・ゴッッ! ゴーストッッッ!!』

 

「!?!?!?!?」

 

 

大きく口を開けて固まる竜斗。

タケルの身体が変わった。マッシブな体型、オレンジと黒を基調にした体。

そして頭から生える一本角。

 

 

「かめんらいだぁ」

 

 

ツバサが呟いた。

喉を鳴らす竜斗。見た目は全然違う。

しかし『変身』と叫び、変わるその様はまさに――。

 

 

「命、燃やすぜ!!」

 

 

そう、仮面ライダーゴーストは地面を蹴って走り出した。

弾丸が迫る。しかしゴーストは跳躍。すると身体がオレンジ色に発光し、光の粒子を撒き散らしながら滑空を行う。

空中を不規則な軌道で飛びまわり、ゴーストは銃弾を縫うようにして回避するとギャレン達の前に着地する。

 

 

「ハァア!」

 

 

ギャレンの腕を蹴りで弾くと、ゴーストはドライバーから剣を引き抜いた。

ガンガンセイバー。可変型の武器であり、基本形態は大きな両刃剣。

ゴーストはそれを振るうと、ギャレンとスカルの装甲を抉り削る。

 

 

「ムゥウ!」「ぐぅう!」

 

 

うめき声をあげて後退していく二体の化け物。

ゴーストは続けざまにゼロノスに切りかかるが――、そこで大きな火花が散った。

ゼロノスが横に構えた刃が、ガンガンセイバーを受け止めたのだ。

 

 

「フッ!」

 

「うッ!」

 

 

ゼロノスが前に出した足がゴーストの腹部に入る。

足裏がゴーストの体を押し出し、大きく怯ませた。

その隙をついてゼロノスは大剣をフルスイング。まずは右に一閃、ゴーストの体に斬撃が刻まれる。

 

 

「ウッ!」

 

「ハァア!」

 

「ウァアア!!」

 

 

続いて左への払い。ゴーストの体から火花が散り、大きくよろけた。

しかし素早く体勢を整えると、突き出された刃を回避し、ゼロノスの腕を絡め取る。

 

 

「!」

 

 

しかし背に衝撃、背後を振り向けばギャレンの銃口から煙が見えた。

そしてさらに眼前に足。スカルが飛び蹴りで距離を詰めてきた。足が頭部を捉え、ゴーストの視界がぐにゃりと歪む。

 

 

「フッ! ムンッ!」

 

 

スカルは帽子を押さえながら蹴りをしかけてきた。

一発目は弾き返すが、二発目が来るのを視覚した時に背中に衝撃。

ゼロノスに斬られたのだ。そこに怯んでいると、わき腹にスカルの蹴りがめり込んだ。

 

 

「カハッ!」

 

 

その時、スカルがゴーストの肩を掴む。

そしてみぞおちに突きつける銃口。ゼロ距離射撃だ。ゴーストの体からまるで血液のように大量の火花が飛び散った。

ゴーストはダメージから煙を巻き上げながら後ろへ倒れる。するとメモリを引き抜くスカル。それにシンクロするようにギャレンとゼロノスもカードを抜いた。

 

 

『スカル! マキシマムドライブ!!』

 

『バーニングスマッシュ』

 

『FULL CHARGE!!』

 

 

それは一瞬だった。

ゴーストが立ち上がったときには既にギャレンのキックが肩を打っていた。

 

 

「ぐあぁあッッ!!」

 

 

ダメージから動きを止めてしまったゴースト。

だからゼロノスの発光する刃が体に刻まれるのは当然の事だった。

悲鳴を上げるゴースト。すると巨大なドクロのエネルギーが直撃し、大きく後方へ吹き飛ばされる。

 

 

「うぐぁッ! あぐぁぁ――ッッ!!」

 

 

ゴーストの鎧が分解し、タケルは地面を転がっていく。

 

 

「………」

 

 

弱い。ゴースト、お前は――。ああ、ああ、ああ。

 

 

「逃げて!!」

 

 

タケルは竜斗達に向かって叫ぶ。

戸惑う竜斗。置いていくのは――、さすがに良心が許さない。

かと言って弱い自分に何かができるワケもなく。結果として震えることしかできなかった。

一方でタケルは立ち上がると、フラつきながらも再び変身するためにゴーストドライバーを出現させる。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

ゴーストドライバーを出現――?

 

 

「ッ! あれッ! くそ! おいッッ!!」

 

 

ゴーストドライバーが、現れなかった。

いくら手を腰にかざそうが、いつものように念じようが、タケルの腰にゴーストドライバーが装備される事はない。

 

 

「な、なんで!!」

 

 

ダメだ。出ないものは出ない。一方でゼロノス達の体が震え始める。

刹那、光が三体の異形を包み込んだ。

 

 

「イェァアアン!!」

 

「!」

 

 

再び、ゼロノス達の肉体が変質する。

装甲が吹き飛ばされ、中から現れたのはより禍々しくなった異形の姿。

ゼロノスは右手にナイフが装備された、ナイフアルマジロに。

ギャレンは巨大な腕が特徴的なアリガバリに。

スカルはまるで怪獣ともいえるトカゲロンにそれぞれ変身する。

 

 

「逃げよう」

 

「!」

 

 

本条が竜斗の肩を叩く。走るように促したのだ。

 

 

「クッ!」

 

 

タケルも踵を返して走り出した。

竜斗は頷くと、ツバサの手を引いて走り出す。

 

 

「ッ、ミライちゃん!?」

 

 

立ち止まり、タケルをジッと見ていたミライの手も掴んで。

 

 

「走って!!」

 

 

タケルは竜斗たちと合流してスピードを速める。

一方でトカゲロンを中心として並び立つ『怪人』たち。

 

 

「天空寺タケル。仮面ライダーゴースト……!」

 

「エケケケケケケ! 我らショッカーの偉大なる野望のため――」

 

「貴様を抹殺する――ッ!!」

 

 

両手を広げるトカゲロン。

すると彼らの周りに『闇』が発生し、それが人の形を作っていく。

 

 

「イーッ!」

 

 

闇は黒いタイツを纏ったショッカー戦闘員たちへ変化する。

戦闘員はナイフを持ったり、拳を握り締めたりと、敵意をむき出しにしてタケル達を追いかけていった。

 

 

「ム――ッ?」

 

 

目を細めるトカゲロン。

藍色に変わっていく空に、灰色のオーロラが浮かび上がった。

直後、オーロラが地面にまで伸び、そこから一台のバイクが飛び出してくる。

 

 

「イッ?」

 

 

そして、そのままバイクはショッカー戦闘員達の群れに突っ込んでいった。

 

 

「イィィイ!!」

 

 

次々に轢き飛ばされていく戦闘員達。

悲鳴が響き渡る一方、バイクはエンジン音をあげてトカゲロン達の前に停車する。

 

 

「貴様は――」

 

 

バイクに乗っていたのは二人の男であった。

運転手は白いハットを被り、青色のシャツに灰色のベスト、黒いボトムスを身に着けていた。

一方、バイクの後ろにいた少年は髪にクリップをつけており、黄色いボーダーTシャツに、緑色のロングパーカー、そして赤いサルエルパンツを身につけていた。

そしてその手には、一冊の本。

 

 

「フィリップ。スカルになってたヤツはどこのどいつだ?」

 

「真ん中の大きなトカゲだね」

 

「よし、決定だ。アイツをぶっ潰す!」

 

「やれやれ。もっと冷静になったらどうだい? それが、ハードボイルドってヤツだろ?」

 

 

バイクから飛び降りたのは、(ひだり)翔太郎(しょうたろう)。フィリップはその隣に並び立ち、顎を触りながら怪人達を観察している。

 

 

「仮面ライダーか。散れ!」

 

 

トカゲロンの命令と共に戦闘員を引き連れてアリガバリとナイフアルマジロは左右から回り込むようにして移動すると、そのまま翔太郎達を通り抜けてタケル達を追いかけていった。

一方でダブルドライバーを構える翔太郎。それを装着すると、既にフィリップにも同型のドライバーが腰にあった。

フィリップは手に持っていた本をめくり、フムフムと唸っている。

 

 

「翔太郎、気をつけたほうがいい。ショッカー怪人トカゲロン、過去のデータでは一度ライダーを倒している」

 

「その通り! ライダーをひとり潰してやった! このバーリア破壊ボールでな!」

 

 

トカゲロンは三角形のパーツがついた球体を取り出すと、それを空中に放り、思いきり蹴り飛ばす。

空中を飛来し、問答無用で向かっていく殺人球体。しかしフィリップはパーカーを翻しながら右へ移動。翔太郎は地面を左に転がる事で回避して見せた。

 

 

「その時のライダーと、俺達が圧倒的に違う点が一つある」

 

「?」

 

「俺達は二人で一人の仮面ライダーだ。アシスト頼むぜ、相棒!」

 

「やれやれ。努力はするよ。でもあまり期待しないでくれ」『サイクロン!』

 

 

ガイアメモリ。フィリップは緑色のメモリを。

そして翔太郎は紫掛かった黒色のメモリをタッチする。

 

 

『ジョーカァ!』

 

 

フィリップはメモリを持った左手を右へ。翔太郎はメモリを持った右手を左へ。

 

 

「「変身!」」

 

 

手でサイクロンメモリを押し込む翔太郎。

さらに持っていたジョーカーメモリを反転させるとドライバーへ装填。

そして両手でバックルが『W』の文字になるように展開してみせる。

 

 

『サイクロン・ジョーカー!』

 

 

電子音が響く中、翔太郎を中心として小規模の竜巻が発生。

その中で翔太郎は装甲に包まれ、右と左でカラーリングが違う仮面ライダー、ダブルへと変身を完了させた。

 

一方、糸が切れた人形のように倒れるフィリップ。

しかし硬い地面に倒れる直前、先程までフィリップが持っていた本に体が吸い込まれていき、本はひとりでに消えていった。

一瞬、それは本当に一瞬だが、本のタイトルが見えた気がする。

 

 

『Episode DECADE』

 

 

トカゲロンを指差すダブル。

 

 

「ショッカー怪人トカゲロン!」

 

「ッ!」

 

「『さあ!』」「『お前の罪を数えろ!!』」

 

 

 


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