カメンライダー   作:ホシボシ

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考えるな、感じておくれ


第3話 ドリーマーズは何も見えない

 

 

「ねえ永夢! たいへんたいへんっ!」

 

「どうしたのポッピー!?」

 

「わたし、病気になっちゃったかもしれない!!」

 

「えッ、本当? ちょっと来てごらん」

 

 

ポッピーのおでこに手を当てる永夢。

 

 

「本当だ。ちょっと熱いね。顔も赤い」

 

「うん。永夢のことをね、考えるとこうなっちゃうんだ……」

 

「えっ!?」

 

「変――、かな?」

 

「……ううん、変じゃないよ。ボクもポッピーのことを考えるとそうなるから」

 

「永夢――ッ!」

 

「ポッピー!!」

 

「えむぅ!」「ぽっぴぃ!」「えむぅぅ!」「ぱッぴぃぃ!!」

 

「大好きーッッ!!」

 

 

ポッピーは両手を広げると、永夢に飛びつく。

実に間抜けなやり取りではあるが、何もおかしな話じゃない。

夜の時間をどうやって過そうが、それは人の自由である。こうやって恋人同士で過す者もいれば、一人で趣味に没頭する者もいる。ご飯を食べている者もいれば、映画を見ている人だっているだろう。

そういうものだ。誰にピックアップするかでその時間の役割は変わってくる。

だからそれで言えば、"殺されそうになっている者"がいても、何らおかしくはないわけで。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 殺すって! え!?」

 

 

目を見開くタケル。

ゆっくりと顔をあげ、複眼を光らせるブレイド。放たれるのは間違いなく負の感情。分かりやすい殺気が肌を刺す。

ブレイドの手には金色の大剣、キングラウザーが。剣先が地面についており、ガリガリと音を立てている。

 

 

「待ってってば! ねえ! あのッ、ちょっと!!」

 

 

すくなくとも、ブレイドはタケルの声を聞いているようには思えない。

気になるのは『殺す』という発言だ。どう考えても穏やかには捉えられない。

 

 

「なんで!? あなたも仮面ライダーじゃ――」

 

 

タケルは言葉を言い切ることなく止めた。

はて? なぜ仮面ライダーならば攻撃してこないと思ったのだろうか?

一方、ブレイドは容赦なく剣を振るう。金色の斬撃が放たれ、タケルごと後ろにいる竜斗達を切裂こうと飛来する。

 

 

(終わ――ッ!)

 

 

死んだ。

あれ? でもなにかおかしいような――

 

 

 

死?

 

 

 

「!!」

 

 

斬撃は、タケルには命中しなかった。

なぜならばタケルの前に灰色のオーロラが現れ、それがシールドとなって斬撃をかき消したからだ。

 

 

「危なかったな。アイツ、不死身のヤツでも消滅させてくるから気をつけろよ」

 

「お前は――ッ!」

 

 

またも一瞬で人が現れた。剣崎と同じく、サングラスをかけた男だ。

その男を見た瞬間、ブレイドの雰囲気が変わった。キングラウザーを両手で掴み、構えなおす。どうやら油断できない相手らしい。

 

 

「久しぶりだな、剣崎。いや、昨日会ったか? 悪いな。どうでもいい事はすぐ忘れるんだ」

 

「ディケイド……!」

 

 

門矢(かどや)(つかさ)は、サングラスを投げ捨てると、煽るように肩を竦めた。

 

 

「殺す、か」

 

 

士は背後にいるタケル達を見る。

ブレイドは確かに言った、『殺す』、と。

 

 

「酷い変わりようだな剣崎。昔の仲間が見たら悲しむぞ」

 

「黙れ……! 俺に仲間などいない」

 

 

ブレイドの鎧の一部が光る。

するとその光がキングラウザーへと移動していく。

迸る金色の電撃。『サンダー』の力を纏った剣を構えると、ブレイドは走りだして士へ切りかかろうと殺意を爆発させた。

――が、しかし、士の前方に突如出現するジッパー。ジィィっと音がして、なにもない筈の空間がパッカリ開くと、そこから大剣が伸びてくる。

 

 

「!」

 

 

交差するキングラウザーと、火縄大橙DJ銃・大剣モード。

ジッパーが生み出した隙間、『クラック』からマントを靡かせ現れたのは、仮面ライダー鎧武・極アームズ。

二つの大剣は互いにぶつかり合い、弾きあった。

 

 

「落ち着けよ一真」

 

「鎧武か! どけッ!」

 

「ッ!」

 

 

剣をもう一度大きく打ち付けあい、両者は衝撃から地面を後ろに滑って距離をあける。

 

 

「俺だ。ディケイドを発見した!」

 

 

ブレイドが叫ぶ。すると再び灰色のオーロラが発生する。

今度は二つ。一つはディケイドを通過するように。もう一つはブレイドを通過するように。

するとやはり、オーロラが過ぎ去った後には、新たなる人影が姿を見せる。

 

 

「おのれディケイド……!!」

 

「おいおい剣崎。面倒なのつれてくるなよ」

 

 

正面から見て、剣崎の左隣にチューリップハットを被った男性、鳴滝(なるたき)が姿を見せる。

さらに鳴滝の左に、剣崎とは対の、白い服や白いマフラーを身につけた(くれない)(わたる)が姿を見せた。

 

 

「ディケイド。まだこんな事を続けているんですか……」

 

「紅か」

 

「いい加減にしてください。この世界もまた、貴方が巻き込んだ」

 

「その通りだ。ディケイド! お前と言う存在が憎しみを交差させ、争いを加速させる。破壊の連鎖はお前の仕業だ」

 

 

鳴滝に指差された士は、心底嫌そうな顔をして目をそらす。

一方で正面から見てディケイドの左には鎧武が並んだ。

 

 

「アンタたち。まだ士を消す気なのか」

 

 

そしてディケイドの右に赤い魔法陣が出現する。

その中から現れたのは、赤いボトムスが特徴的な青年、操真(そうま)晴人(はると)

 

 

「ちーっす」

 

「遅い」

 

「悪い。プレーンシュガーが売り切れててさ」

 

 

晴人は砂糖がまぶされたシンプルなドーナツを齧っていた。

 

 

「ドーナツくらいなんでもいいだろ。チョコリングで妥協しておけよ」

 

「そりゃムリだ。拘りなんでね」

 

「って言ってるけど、晴人この前、俺があげたアップルパイ、バクバク食ってたからな」

 

「おい鎧武、おいこら、おい」

 

「はッ、こだわりねぇ……」

 

「あのな。あれは俺のプレーンシュガーを左のヤツが勝手に食ってたのが悪い」

 

「もう一個あったじゃねぇか」

 

「あれはオーズに取られたんだよ。ピカチュウみーつけたとかワケわかんねぇこと言ってくるから。ちょっと怖くなってあげちゃった」

 

「それでも食べたのは事実なんだろ。おいおい、がっかりさせるなよ」

 

「俺も善意くらいは受け取るって。鎧武がくれるって言うから。断るのも悪いだろ? それに俺の中ではアップルパイはドーナツじゃな――」

 

 

地面を殴る音が聞こえた。

ブレイドだ。『いい加減にしろ』と言った雰囲気である。

事態を把握したのか、晴人はドーナツの残りを袋に入れると、魔法陣の中に放り込んだ。

 

 

「やれやれ。話し合いでもするか? そういう雰囲気じゃないけど」

 

「操真晴人。葛葉(かずらば)紘汰(こうた)。あなた達の行動は『眼』としては容認できない。今すぐ抵抗を止めて、ディケイドを差し出してください」

 

 

両者を激しく睨みつける渡。

しかし晴人も、鎧武も示す答えは拒否である。

 

 

「悪いね。士には俺の世界を繋いでもらわないと」

 

「俺も神として、士を殺らせるわけにはいかない」

 

 

それを聞くと渡は呆れた様にため息をついた。

 

 

「あなた達はまだ深淵に触れていない。それが愚かな判断だと気づく前に、自分から理解して欲しいものですね」

 

「そう。それに――」

 

 

鳴滝は士の背後――、そこで震えている子供達を見る。

 

 

「まずなにより、殺すのはあちらだ」

 

「ッ、子供を狙う気か?」

 

「そう、その通り」

 

 

鳴滝は震え、懇願する。

それは慈悲の声。諭しの声色。

 

 

「世界は悲鳴をあげている。もはや我らに助ける術はない。であるなら、その救いは死、破壊以外には残されていない」

 

「そう。眼を潰すことが、僕達に残された希望。神殺しの果てには破壊と創造がある」

 

 

鳴滝と渡は力説を行う。

 

 

「意味わからん。日本語で頼む」

 

 

が、しかし、士は一蹴。

そもそも話し合いだとかは考えていない。

通用するとも思っていないし、面倒だし。

 

 

「理解してください葛葉紘汰。操真晴人。この世界にいる人間を全て殺せば、『敵』は確実に死ぬ。それを望むのが我々の最も賢い選択でしょう?」

 

 

渡の周りを飛びまわる小さな影。

今はまだ飛びまわるだけ。それは渡なりの脅しであった。それを理解すると、晴人は小さく笑う。

 

 

「悪いけど。そっちのやり方は性に合わないんでね。俺は俺のやり方でやらせてもらうよ」

 

「甘い!」

 

 

吼えた。ブレイドだ。

キングラウザーを構えると、剣先を士達に向ける。

 

 

「甘い! 甘いッ! 抵抗するなら殺せばいい! こんな言葉すら面倒だ!!」

 

 

ブレイドの威圧感に圧され、剣を構えなおす鎧武。それは抵抗の意味。

渡は冷めた目で一同を睨むと、呆れた様に鼻を鳴らす。

 

 

「何も知らないのは、幸せでいい」

 

「そうでもないぜ。忘れたい事も山ほどある」『ドライバーオン! プリーズ』

 

 

晴人はウィザードライバーを出現させると、インフィニティーウィザードリングを構える。

一方で手を上に伸ばす渡。するとそこへ、キバットバット三世が納まり、牙を向きだしにした。

 

 

『渡! キバれよ! ガブッ!』

 

「ああ。分かってる。聞き分けのない連中は、そろそろ排除しなければなりません」

 

 

キバットが渡の手に噛み付いた。魔皇力が注入され、頬に刻印が浮かび上がる。

さらに鼻歌が聞こえてきた。空を飛行してくるのは、タツロット。

 

 

『シャバドゥビ タッチ ヘンシーン!  シャバドゥビ タッチ ヘンシーン!』

 

 

晴人はウィザードライバーのレバーを操作し、ハンドオーサーの向きを変える。

 

 

「変身」『インッフィニティー! プリーズ!』

 

「変身」『テンション! フォルテッシモーッ!』

 

 

金と銀色の光が巻き起こる。

 

 

『ヒー! スイ! フー! ドー! ボーザバビュードゴーンッ!』

 

 

宝石が砕け散る。

その中から姿を見せたのは、仮面ライダーウィザード・インフィニティースタイル。

一方でマントを翻したのは、仮面ライダーキバ・エンペラーフォーム。

 

 

「さあ、ショータイムだ……!」

 

 

アックスカリバーを構えるウィザード。

鎧武も火縄大橙DJ銃と、無双セイバーを分離させた。

そして向かい合うのは、キングラウザーを持って立つブレイド。そしてザンバットソードを出現させるキバ。

その中で、鳴滝が嘆きの表情を浮べる。

 

 

「どうやら道は違えたようだな、ディケイド」

 

「最期に到達する場所は同じだろうけどな」

 

「ならば協力したまえ。この世界はイレギュラーだ。観測者として見逃すワケにはいかない」

 

「だが、やり方が合わない。分かるな?」

 

「それはウソだな」

 

 

ブレイドが言う。

 

 

「お前が本当に恐れているのは、その果てにある死だ」

 

「……何?」

 

 

頷く鳴滝。ニヤリと笑い、士を睨む。

 

 

「キミは死を恐れているねディケイド。だからこそ我々には協力しない。できない。なぜならば、我らの目的の最終到達点はキミの消滅だからだ」

 

 

士は沈黙する。否定の言葉を投げないということは、少なからず図星をつかれている部分はあるようだ。

しかれども、そんな事を言っている場合ではなかった。

タケル達はもはやどうしていいか分からず、ゆっくりと後退していくだけ。その中で鳴滝は指を鳴らす。

 

 

「どうやら手段を選んでいる状況ではないようだ。我々には時間がない。ここでキミを排除しても、どうにかはなるだろう」

 

 

新しいオーロラが出現した。

 

 

「決着をつけましょう。ディケイド」

 

 

キバの隣に、ブレイドの隣に新たなシルエットが浮かび上がる。

士もため息をつくと手を上げる。するとオーロラが出現し、鎧武とウィザードの隣にシルエットが浮かび上がる。

 

鳴滝側のオーロラから現れたのは優しげな青年、『ホンゴウ・タケシ』。

そして、サングラスをかけた『ユウキ・ジョウジ』であった。

士はジョウジを見ると、目を細め、眉間にしわを寄せる。

 

一方でディケイド側のオーロラから現れたのはコートを羽織っていた青年『水澤(みずさわ)(はるか)』、そして白いスーツを着た『ゴロウ』と言う男だった。

 

 

「世界に触れるということは、可能性に触れることだ。意図しない所で禁忌に近づいていく。遅かれ早かれ、この日はやってきただろう」

 

 

感慨深いという様子で、ジョウジは深呼吸を行う。

サングラスを外し、ゆっくりとディケイドを見た。

 

 

「俺達は、近づきすぎた」

 

「………」

 

「門矢士。お前が生まれた時点で、こうなる事は決まっていたのさ。いや、違う。お前でなくともいずれはこうなった。それが世界だ」

 

「だからこそ……! 俺が終わらせなければならない!」

 

「違いますよそれは」

 

 

士の言葉を、タケシが遮断する。

 

 

「終わりなどありません。はじまりも、終わりも、過程も全て。そう言ったステージに僕達はもう立っていない」

 

 

沈黙が。

だが悠は、確かにアマゾンズドライバーを取り出すと、腰に装着する。

 

 

「確かに分かる事が一つだけあります。それは、未来は確かに存在している。ボクの世界も、きっと」

 

「腐っていたとしてもか? 腐敗した世界になんの価値がある!!」

 

 

ブレイドが剣を向けた。一方で悠は確かに頷く。

 

 

「水澤悠。キミはまだ青い。その青さは必要なものでしょうが、いずれは捨てなければならないものです」

 

 

キバの言葉が悠に向けられる。

その一方で誰もが気づいた。ゴロウがいつのまにかワイングラスを持って、中に入った液体を回している。

そして少しだけ口に含むと、目を閉じた。

 

 

「そろそろ始めないか? いずれにせよ戦うんだろう?」

 

 

ワイングラスが消える。代わりに、その手にあったのは小さなワインボトル。

 

 

「前に進む者と、後ろに進む者。どちらがどちらで、どちらが正しいのかは分からない。しかしその先には確かなものがある。僕がここに来たのは、それを確かめるためだ」

 

 

ウィング型コルクスクリューを模したバックル。『Gドライバー』がゴロウの腰に現れる。

 

 

「そしてもう一つ。確かなことがある」

 

 

ゴロウはボトルを持った手でGの軌跡を描く。

 

 

「それは、今ッ、僕のヴィンテージが芳醇の時を迎えると言う事だ! 変身!」

 

 

ゴロウはボトルをバックルにセットし、レバーを入れた。

 

 

「――ッ!」

 

 

タケシの腰にベルトが出現する。中にある風車が回転すると、一瞬で服装がバトルスーツに変わった。

 

 

「アマゾン――ッッ!!」『OMEGA』

 

 

レバーを捻る悠。

 

 

「ウガァアアアアア!!」

 

 

ジョウジは拳と拳をあわせ、直後、左手で右腕を掴むと強く引いた。

すると火花が散り、右手が体から分離する。その様子を見ていたタケルは一瞬ゾッとするが、断面図を見て理解する。

義手だ。ジョウジは精巧に作られた右腕を投げ捨てると、どこからともなく仰々しい義手を装着する。それはブラスターアーム。復讐のための兵器だった。

 

 

仮面。

ゴロウもまた体が赤い光に包まれ、スーツが装着される。

 

 

「ハァアア!」

 

 

赤い体、黄色い複眼の、仮面ライダーG。

腕を振るうと、隣にあった川が『G』の文字をつくるように凹んだ。

 

 

「……!」

 

 

仮面。タケシはマスクを被ると、クラッシャーをたたき上げるように装着した。

仮面ライダーホッパー。黒く汚れた仮面に赤い複眼。腕を斜めに上げ、ファイティングポーズを取る。

 

 

「ヴゥウウウウウウウウウッッ!!」『EVO・EVO・EVOLUTION』

 

 

仮面。悠の体から衝撃波が発生し、緑色のアマゾンに変わる。

アマゾンオメガ。獣のような唸り声を上げると、腕を広げて腰を落とす。

 

 

「永遠に続くと思っていたな、ディケイド。いつまでも終わらないと思っていた」

 

「……そんなものはない」

 

「そのとおりだ。だが、いつからか、そう勘違いをしてしまった」

 

「言いたい事はそれだけか。鳴滝」

 

 

士はディケイドライバーを構え、腰に押し当てる。

 

 

「俺は未来を見ている。だがお前は死を見ていた。それだけだろ」

 

 

自動的にベルトが伸び、ディケイドライバーは士の腰に。

一方でライドブッカーからディケイドのカードを抜き取り、鳴滝に見せ付ける。

 

 

「ううむ。実に長い夢だった。だが夢は――、いつかは覚める。いつかは終わるのだよ。ディケイド」

 

「ならその概念は、俺がブッ壊す。変身!」『カメンライド』『ディケイド!!』

 

 

士の周りに溢れるシルエット。それらが士に収束すると、バトルスーツが装着される。

出現するプレート群。それらはディケイドの顔面に突き刺さると、マゼンタの色彩を宿らせた。

そして皆は気づいただろうか。仮面ライダーディケイド。その目の形が禍々しく変わっている。シグナルもまた紫色に染まっていた。

ただのディケイドではない。その名も、『ディケイド激情態』。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

叫び声をあげる鳴滝。

するとその肉体が崩壊し、中から現れるのは異形の化け物、カニレーザー。

 

 

「夢の内容は、いつも滅びだった!」

 

 

並び立つ戦士たち。右からライダーマン、ブレイド、カニレーザー、キバ、ホッパー。

並び立つ戦士たち。右からオメガ、ウィザード、ディケイド、鎧武、G。

 

 

「今日で終わる」

 

 

同時だった。

同時に地面を蹴り、走り出す一同。

そして同時に直撃し、武器を交し合う。

 

 

「ゥオオオオオオオオ゛!!」

 

 

フェンスを飛び越え、川に着水するオメガとホッパー。

川はまだ浅く、脛の下ほどしかない。二人は並び走り、水を巻き上げながら蹴りや拳を打ち付けあう。

ホッパーのフックが迫る。が、オメガは顔を逸らして回避。拳は頬をかするだけで済んだ。

 

そしてオメガは回避と同時に回し蹴りを繰り出している。

腕を川底につける事で支えにし、足をより上のほうへ振るい上げる。恐ろしいのはオメガの蹴りはただの蹴りじゃない。

ふくらはぎの部分にブレードがノコギリのように並んでおり、打撃だけではなく斬撃でのダメージを与えることができることだ。

 

が、しかし、ホッパーは構わず腕を盾にして蹴りを受け止めた。

当然ブレードが腕に触れるが、切断される事はない。

どうやらスーツの防御力はそれなりのようだ。

 

 

「フッ!」

 

「!」

 

 

ホッパーはすぐに受け止めたオメガの足を掴むと、片手だというのに軽く持ち上げて、後ろに投げ飛ばす。

オメガは水しぶきを上げて着水。ホッパーは追撃を仕掛けようと走るが――

 

 

「ッ?」

 

 

オメガの姿が消えた。周囲を見ても水の波紋はない。

今は夜で、明かりは少ない。目を凝らさないと黒く染まった水の中は確認できなかった。

 

 

「ウォオ゛オ゛オ゛!!」

 

「!」

 

 

ホッパーの背後から水しぶきをあげてオメガが跳んできた。

地面を這うように移動することで水の中を移動。背後に回っていたのだ。

オメガはホッパーの頭を掴むと、そのまま水に叩きつける。

 

 

「ガァアアア!!」

 

 

頭を掴む力を強め、水に沈めていく。

窒息させる気なのだろう。しかしホッパーは冷静に後ろへ手を回し、オメガの腕を掴むと、ありったけの力を込める。

 

 

「!?」

 

 

片手で投げ飛ばされた時点で分かっていたが、凄まじい力だった。

それもそうだ。ホッパーの別名は『力の1号』、その握力に耐えられず、オメガは頭を掴む力を緩めてしまう。

その隙にホッパーは体を跳ね起こした。反動から倒れるオメガと、地面を蹴って水しぶきを巻き上げながら飛翔するホッパー。

 

バッタの改造人間らしく、脚力もまた凄まじい。

ホッパーは空中で一回転を行うと、右足を突き出して眼下に倒れているオメガを狙う。

しかしオメガはアマゾンズドライバーのグリップに手をかけ、アマゾンスピアを引き抜いた。長い槍を上へ突き出し、ホッパーの足裏にあわせる。

衝撃が走った。槍先がホッパーの足裏に命中したのだ。とはいえ問題はここから。槍は足裏に当たりはしたものの、貫きはしない。

 

 

「「ウォオオオオ!!」」

 

 

一方で逆に槍を破壊しようと力を込めるホッパー。

咆哮が重なり、両者は手に、足に、ありったけの力を込める。

 

 

「!」

 

 

結果は引き分けだった。お互いの衝撃がゼロになる。

ホッパーは槍を足場として、一旦バックステップで距離を取った。

立ち上がるオメガ。持っていた槍が蹴りの衝撃で粉々に砕け散る。

 

一方、少し離れた所ではジョウジがブラスターアームを展開した。

銃口に光が宿り、そこから無数の光弾が発射され、標的を黒焦げにしようと試みる。

狙われたGは、胸の装甲に手をかざす。するとソムリエナイフとコルクスクリューを合わせた剣、『ジースラッシャー』が手に収まった。

すぐに剣の刃が展開。Gは迫る光弾を前に、怯む事なく前進していく。

 

 

「食前酒は何がいい?」

 

 

首を逸らし、光弾を一発回避。

 

 

「シェリー?」

 

 

剣を振るうと赤い斬撃が発生し、光弾を両断する。

 

 

「カクテル?」

 

 

コルクスクリューの部分を突き出す。

刃がドリルのように自動回転し、そこで受け止めた光弾が崩壊していく。

 

 

「それともリキュール!」

 

 

Gは裏拳で光弾を弾く。

手の甲に纏わりつくのは『G』の形をしたエネルギー。

これで全ての光弾が消えた。既にGはジョウジの眼前にまで迫っている。

刹那、赤い斬撃がジョウジを捉えた。が、しかしジョウジもまたブラスターアームを盾にしており、両者は競り合ったままにらみ合う。

 

 

「ディケイドと言う存在を生み出したことが、俺の罪だ」

 

「矛盾している。ディケイドがいたからこそ、僕たちが生まれた」

 

 

ジョウジとGは会話を交わす。

後悔は、いくつもある。それを一つ一つ悔やんでいても仕方ない。それでも、ずっと消えない炎があった。

 

 

『影松!』『影松!』『影松!』『影松!』『影松!』

 

 

陸地。ブレイドの周りから槍が地面を突き破って飛び出してくる。

装甲を削る槍は攻撃もあるが、なによりも檻の役割を果たす。しかし閉じ込められたブレイドは何も焦らない。装甲の装飾が一つ光った。

リザードアンデッドだ。司る『スラッシュ』の力が発動され、キングラウザーに付与される。

 

 

「ウェエアアア!!」

 

 

回転切りを行うブレイド。

周囲にあった影松が一瞬で両断され、さらに纏わり憑いた金色のエネルギーに触れると消し炭になっていく。

 

 

『バナスピアー!』

 

 

鎧武はバナナ型の槍を持って飛び上がる。

目指すのはブレイドの胴体。しかしその時、全ての時間が制止する。

 

 

「………」

 

 

タイムスカラベ。

水面すらも動きを止めた世界で、ブレイドは歩き、鎧武を通り抜ける。

 

 

「!」

 

 

時間が動き出す。地面に着地する鎧武は息を呑んだ。

突き出したバナスピアーが空を捉えたのだ。先程まで目の前にいたはずのブレイドが消えた。鎧武はすぐに周りを確認し――

 

 

「ぐああぁあああ!!」

 

 

衝撃が走る。真横に吹き飛ぶ鎧武。

ブレイドがパンチ力を上げる『ライオンビート』の力を使い、鎧武を殴りつけたのだ。

フェンスを吹き飛ばし、水面をバウンドしながら飛んでいく鎧武。一方でブレイドは自分の手をジッと見つめている。

殴った感触がある。あるのだが――、硬い。

 

 

『メロンディフェンダー!』

 

 

マントを翻し、立ち上がった鎧武。

ブレイドの拳が当たる寸前、極ロックシードを捻り、盾を出現させていた。

とは言え一撃を受けただけで粉々に砕け散るメロンディフェンダー。それだけブレイドの力が強いという意味だ。

 

 

「ハァア!」

 

 

手を前に出す鎧武。

するとブレイドの周りにクラックが出現、中から無数の蔦が伸びて四肢に絡みつく。

 

 

「チッ! なんだこれは!!」

 

『ソニックアロー!』『ソニックアロー!』『ソニックアロー!』

『ソニックアロー!』『ソニックアロー!』『ソニックアロー!』

『ソニックアロー!』『ソニックアロー!』『ソニックアロー!』

 

 

一方でロックシードを連続で捻っていく鎧武。

自身の周りに無数の弓矢が出現。自動的に振り絞り、光が収束していく。

 

 

『ブドウ龍砲!』『キワミスカッシュ!』

 

 

浮遊する弓と、手に持った銃に虹色の光が宿る。

引き金を引くと虹色の弾丸が。弓からは虹色の矢が放たれブレイドを包み込む。

 

 

「――ッ」

 

 

仁王立ちのブレイド。当然だが、全ての弾丸をしっかりと受け止めている。

アンデッド、『メタルトリロバイト』の力により、体を硬質化させ、今の攻撃を耐え切ったようだ。

 

 

「ハァアアアアアアアアアアア!!」【スペード10】【J】【Q】【K】【A】

 

 

金色の光がブレイドをの体を駆け巡る。

一方で立ちはだかる鎧武。ロックシードを捻り、火縄大橙DJ銃と無双セイバーを合体させた『大剣モード』を二つ出現させ、二刀流となる。

 

 

「ウェアアア!!」【ロイヤルストレートフラッシュ】

 

「ゼイッヤアアア!!」『キワミスパーキング!』

 

 

金色の斬撃と、虹色の斬撃がぶつかり合い、凄まじい光があたりを包んだ。

 

 

「アンタは全て知っているんだろ!!」

 

「全てではありませんが、貴方達の中では最も真実に近い位置にいるでしょうね」

 

 

二人の戦士は文字通り、川の上を走っている。

ウィザードは足裏にウォータースタイルの魔力を纏わせ、キバはバッシャーの力を借りて水面を滑っている。

そして剣を打ち付けあい、距離を一定に保つ。

 

 

「だったらこの戦いの向こうにあるものも分かってるんだろ!」『インッ! フィニティー!!』

 

 

ウィザードは魔法を発動。時間干渉を行い、高速となってキバの周りを駆け回る。

魔法使いは金色の鎧を高速で切り抜けていった。しかしキバもすぐにドッガハンマーを出現させると、それを上へと投げ飛ばす。

 

 

「!」

 

 

ウィザードの剣が、キバの剣に重なる。

危機感。すぐにウィザードは後ろに跳んで、また高速でキバの周りを駆け回る。

そして再び死角を見つけると剣を振るうが、硬い音。

 

 

「確かに。そうですね。この戦いは――、ええ。あなたの思うとおりです」

 

 

キバはウィザードの動きを見切ったように、剣を重ねた。

どういう事なのか。高速で動き回るウィザードは、当然目で追えるものではない。

周囲を確認すると、先程キバが投げたドッガハンマーが空中で浮遊していた。気づく、ハンマーが展開されてトゥルーアイがむき出しになっている。

どうやら真実の目はウィザードの動きをしっかりと捉え、キバに伝えていたらしい。

 

 

「あれか!」『ターン・オン!』

 

『ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイタッチ!』

 

『プラズマシャイニングストライク!』

 

 

アックスカリバーを投げるウィザード。魔法の力で軌道は自由に操れる。

腕を回して、回転する斧を浮遊するハンマーへと打ち当てた。一度目は弾かれたが、二度三度と打ち付ける事でドッガハンマーは粒子となって消滅する。

 

 

「操真晴人、貴方は大切な人を失った」

 

「!」

 

「違いますか?」

 

 

走り出そうとしたウィザードだが、そこで足を止める。

大切な少女の面影が、そこに視えたからだ。

 

 

「"眼"のアンタなら、そんな聞かなくても知ってるだろ」

 

「ええ。そして、僕も同じです」

 

「ッ」

 

「大切な人を失った」

 

 

大きな喪失感と、耐え難い後悔。

思えども思えども、手を伸ばせども永遠に届かない領域。

しかし、それでもキバはココにいる。ウィザードは折れず、ここに立っている。なぜ?

 

 

「その死が、尊いものだと。僕達に成長を与えたからではありませんか?」

 

 

確かに、悲しかった。

けれども、悲しかったからこそ、学ぶこともあった。終わったものと残されたもの。何を背負って生きていく?

 

 

「あの死には大きな意味があったからこそ、それを無駄にしないために僕達はここまで生きてきた。違いますか?」

 

「それは――……」

 

「ですが、それが、なんの意味もない虚構だったとすれば――」

 

「ッ?」

 

「僕は、耐えられなかった」

 

 

マントを広げるキバ。

するとその姿が大きく変わった。まさにそれは気高きドラゴン。

キバ飛翔態は咆哮を上げると空に昇り、火炎弾を発射する。

 

 

「グッ! チィイ!」

 

 

斧で火炎弾を弾くウィザードだが、次々と降り注ぐ炎に対処できず、爆炎と水しぶきの中に消えていく。

 

 

『チョーイイネ!!』『フィニッシュストライク!』『サイコォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』

 

 

爆炎を吹き飛ばす銀色の風。

竜の翼を得たウィザードは空を切り裂き、キバのもとまで飛行する。

 

 

「ハァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

足を突き出すウィザード。すると足が竜の頭部となり、大口を開いた。

一方で大きく息を吸い込むキバ。赤い光が口内を満たし、直後巨大なレーザービームが発射される。

ぶつかり合う閃光と足。ウィザードはさらに回転を加え、ドリルのようにレーザーの中を突き進んでいく。

キバも、より多くの魔皇力をレーザーに注ぎ込み、ウィザードを消し炭にしようと試みる。

そして大きな爆発が巻き起こった。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオ!」

 

「ハァアアアアアアアアアアアア!」

 

 

拳が交差する。ディケイドとカニレーザーのクロスカウンター。

二つの拳が頭部を捉える。脳がゆれ、仮面の裏で二人は笑う。

これは始まりだ。終わりのはじまりなのだ。

 

 

「最期の旅だな! ディケイド!!」

 

 

カニレーザーは頭部から光弾を連射し、ディケイドを引き剥がす。

胴体、腕、腹部。次々に光弾が着弾して火花を散らす。

しかしライドブッカーからカードが自動で抜き取られると、ひとりでにディケイドライバーへ装填された。

 

 

『アタックライド――』

 

 

待機音が鳴り響く。ディケイドはバックルに手をかけて、カードを発動させる。

 

 

『リフレクト』

 

 

ディケイドの体が緑色の光に包まれる。

すると体に触れた光弾が反射され、カニレーザーの方へ戻っていった。

 

 

「チィイ!」

 

 

着弾し、爆発。

しかし甲殻類の硬い鎧は光弾をしっかりと防ぎ、ダメージを軽減する。

 

 

「終わりはいつも、突然だ!!」

 

 

カニレーザーは右手に斧を持ち、ディケイドに切りかかる。

体を回転させながら後ろへ回避を行うディケイド。斧がフェンスや街灯を次々に切裂いていく。尚、足を前に出し、ディケイドを切断しようと迫るカニレーザー。

一方でディケイドはカードを抜き取り、バックルへ放り投げた。

 

 

『アタックライド』『ガードベント!』

 

 

ドラグシールドを出現させ、振り下ろされた斧を受け止める。

たった一撃で盾のいたる所に亀裂が走ったが、問題ない。ディケイドは強く足を前に出し、カニレーザーの腹部を蹴る。

 

 

「はッ、はじまりは――ッ、いつだったか……!」

 

「そんなモン! いちいち覚えてられるか!」『アタックライド』『スタンパー』

 

 

押し当てた足裏から衝撃が発生し、カニレーザーはヨロヨロと後退していく。

腹部に違和感を感じ、視線を移すと、そこにはディケイドのライダークレストが刻まれていた。

 

 

「ボン!」

 

 

ディケイドの言葉と共に、カニレーザーの腹部に刻まれていたライダークレストが爆発。

倒れるカニレーザーと、新たなカードをバックルへ装填するディケイド。

 

 

『アタックライド!』『シンゴウアックス!』

 

 

斧を手にすると、ディケイドは背後に柄を突き刺し、斧を自立させる。

 

 

『マッテローヨ!』

 

 

そして次のカードを。

 

 

『アタックライド』『アドベント』

 

 

ディケイドとカニレーザーの間に緑色の雄牛『マグナギガ』が出現する。

立ち上がるカニレーザー。その眼前に、無数の弾丸やミサイルが見えた。

 

 

『ファイナルアタックライド』『ゾゾゾゾルダ!』

 

 

エンドオブワールドがカニレーザーの全身を焼き焦がす。

凄まじい衝撃に動きが止まり、それだけ時間が経過していく。

 

 

『イッテイーヨー!』

 

 

信号が青になり、ピッポー、ピッポーと気の抜けた音が流れ始めた。

ディケイドは斧を引き抜くと、雄たけびをあげてカニレーザーへ向かっていく。

 

 

「私はッ、覚えている!!」

 

 

斧と斧がぶつかり合う音。

激しく火花が散り、ディケイドとカニレーザーはお互いだけを睨みつけながら切りつけていく。

殺す、壊す、その全ての想いが心を渦巻いている。

だが同時に、慈悲もあった。それは優しさ。唯一無二の感情。

 

 

「お前は観測者候補として生まれた! しかしお前の才能は凄まじく、幼少期から既に、世界を視る力! そして移動する力が備わっていた!!」

 

 

妹と一緒に世界を視て遊ぶ。

しかしある時、士はその向こう側に行ってしまった。それが終わりの始まり。

 

 

「お前は異世界にて、ショッカーとの関わりを持ってしまった! 観測者の一端が、仮面ライダーの世界に触れる! これは罪だ!!」

 

「……ッ!」

 

「キミは言葉巧みに騙され、ショッカーの大首領として育てられた!」

 

 

全力で振るわれた斧と斧がぶつかり合う。

その衝撃から双方の斧が砕け散り、破片の向こうにお互いはお互いの姿を捉えた。

 

 

「ショッカーが欲しかったのはキミの世界を移動する、そして観測する力だけ! キミは傀儡だったのだ! 門矢士!」

 

 

カニレーザーの頭部から巨大な光が発射された。

太いレーザービームがディケイドに直撃し、ディケイドは後方へと押し出されていく。

 

 

「龍騎も、ブレイドも、響鬼も電王も! ましてや、クウガとアギトでさえ同じ世界ではなかったのに! ショッカーはキミの力を使い、その全てのライダーを把握する事ができた。当然、力を分析する事も! 能力を解析する事も!!」

 

『アタックライド』『オリハルコンエレメント!』

 

 

ブレイドに変身する際のエネルギーウォールが出現し、バリアとなってレーザーを遮断する。

膝を付き、呼吸を荒げるディケイド。

何かを思い出しているのか、精神が磨り減っているようだ。

 

 

「そしてショッカーは完成させた。キミの観測者としての力を使い、ライダーを殺す装置、ディケイドライバーとディエンドライバーをね」

 

「……ッ」『アタックライド!』『トライアルメモリ!』

 

 

ディケイドは手にしたメモリを空へ放り投げる。

さらに発動していたカードは一枚だけじゃない。次々にカードがディケイドの周りを旋回しながら自動的にディケイドライバーへ装填されていく。

 

 

『アタックライド』『ファイズフォン!』

『クロックアップ!』『チーターレッグ!』

『ジンバーチェリー!』『ズーットマッハー!』

『タイタンソード!』『ガシャコンソード!』

 

「ハァアアアアアアアアアアアア!!」『Start Up』

 

 

ディケイドが消えた。

直後、カニレーザーの全身から火花が上がり、切り傷が増えていく。

音速で駆けるディケイド。既に1000を越える攻撃を打ち込んでいた。

カニレーザーの全身を包み込む痛みと衝撃。その中で、途切れ途切れになりながら言葉を紡いでいった。

 

 

「ディケイドの力は想像を超えていた。世界は異物の来訪には耐えられず、バラバラになり、近くある世界を引き寄せ、融合を始めた……!」

 

 

水滴が近づけば一つになるように。

 

 

「ショッカーは悪意を巻き込み一つとなり、より大きな脅威となっていく。一方でライダー達はみな、それぞれ大きな信念を抱えている。だからこそ、簡単には一つになれなかった……!」

 

 

ましてや、ショッカーは全てのライダーのデータを知り尽くしている。

だからこそ、ディケイドには勝てなかった。ましてや世界が一つになった事で、アンデッドやミラーモンスターと言う特異な敵と戦わなければならない脅威。

ミラーワールドに引きずり込まれたライダーは、龍騎の世界にいるライダーでなければ救出できない。

そして巻き起こる。ライダー大戦。

 

 

『トライアル! マキシマムドライブ!!』

 

 

ガシャコンソード。炎の剣と氷の剣で次々に鎧を切りつけ、最後はタイタンソードの思い一撃で破壊する。

こうしてカニレーザーの鎧は粉々に砕かれ、地面を転がっていく。

それでも、カニレーザーは立ち上がる。血を吐き出しながら、血を撒き散らしながら。

 

 

「ディケイドの力は……、凄まじい。ライダー達は、勝てなかった。かろうじて、クウガが、アルティメットになる事で、引き分ける事には成功したが……」

 

 

だが何もかも遅かった。

クウガは遅かった。もう少し早ければなんとかなったのかもしれないが、遅かったのだ。気づいた時には周りに多くの『死』が転がっていた。

遅かったのだ。壊された。なにもかも。

 

 

「しかし強大にして究極たるクウガの力により、お前は記憶を失うほどのダメージを負った」

 

「………」『アタックライド』『ガシャットギア・デュアル』

 

「生き残ったライダー達は――ッ、世界が融合したままだとショッカーに勝てないと判断した。そもそもディケイドがいる事により世界は生まれ続ける! そう、キミの本当の恐ろしさは、世界を壊すことでも、観測することでも、ましてや繋ぐ事でもない。世界を生み出すことさ……! これは、なんと言う、脅威ッ」

 

「だから、お前は渡と剣崎に観測者の力を分け与えた。二人を眼に変えたんだろ」『パーフェクトバズュゥ……!!』

 

「その通り。私もまたそう、おっせかいな観測者さ」

 

『what's the next stage?』『what's the next stage?』

『what's the next stage?』『what's the next stage?』

 

 

待機音が鳴り響く中、エナジーアイテムが周囲に出現していく。

 

 

「俺は夏海に拾われ、何も知らずに生きてきた」『アタックライド』『トリックベント』

 

 

散らばるエナジーアイテムの一つが分裂し、増殖する。

両手を広げるディケイド。すると増殖したエナジーアイテムが正方形に並んでいく。

一種類、一緒のパズル。ディケイドは適当に手を動かすと、それをプレイする。

 

 

「渡は、(ディケイド)を使って世界を分断する計画を取った。記憶を失った俺は別世界にいってしまい、ショッカーの連中も俺の存在を捉えられなかったからな」

 

「そうだ。先に見つけたのは我々。こうして紅渡がキミにコンタクトを取った。世界の欠片、リイマジネーションは世界がひとつになった故に生まれたネガの存在さ。小野寺ユウスケは五代雄介の影。その存在を破壊する事により、世界を分離させる」

 

 

空席になった席には、誰かが座らなければならない。

それが小野寺。再び五代を席に戻すためには、小野寺は消さなければならない。

 

 

「クウガの世界のキングは五代でなければならない。小野寺ではいけなかった」

 

「俺はショッカーからも、お前らからも利用されていたわけだ」

 

「そう。リイマジを消した後はキミを消せば完璧だった。しかしディケイド。キミは世界を破壊するどころか纏めてしまった。記憶を失った君は光夏海との交流を経て、随分と丸くなってしまったからね」

 

『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』

『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』

『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』

『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』

 

 

ディケイドの体が真っ赤に発光する。

16連マッスル化。ディケイドはガシャットギアデュアルを投げ捨てると、代わりに別のカードを発動する。

 

 

「小野寺や辰巳は消さなければならなかった! しかしディケイド! キミはあろう事か絆を育んでしまった! ライダーの価値は重い! その存在が二つとあるのは、まさにパラドックス!」

 

「矛盾か――」『アタックライド』『ブレンチシェイド!』

 

「いや、矛盾しているように見える真実だ!」

 

 

ガタキリバコンボの力を発動する。

するとディケイドが分裂。50人のディケイドがカニレーザーを睨んだ。

 

 

「かつて電王の世界において、牙王と戦うため、異なる時間の野上良太郎が同時に存在する事態が巻き起こった。しかしその代償は重く、ウラタロスくんたちが消滅すると言う事件が起こった」

 

 

同じ事が発生してしまい、数々の消滅が発生してしまった。

だからこそ、渡達はディケイドの存在を不要と判断。剣崎を派遣させ、ディケイドを、士を消す手段を選んだ。

だが結果は失敗。敵に回ったと思われた仮面ライダーディエンド、海東が士を助けたのだ。

アポロガイストを倒した後、ディケイドは渡達に襲われた。

そこでディエンドはディケイドに銃口を向けた。しかし、あれはキバ達を騙すフェイク。

ディエンドは最後にインビジブルをディケイドに当てて、逃がしたのだ。

 

 

「フッ!」『ファイナルアタックライド』『ディディディディケイド!』

 

「キミは今までの流れを理解し、自らの手で世界を救おうと思った」

 

 

そして最後はキバーラに殺される道を選んだ。

しかし絆と想いがあったから、消滅はできなかった。ディケイドは生き残った。

 

 

「それがお前の、罪だ!!」

 

「ハアアア!!」

 

 

マッスル化をたっぷりと積んだ50人のディケイドが地面を蹴って飛び上がる。

具現する金色のホログラムカードたちは、夜の闇を照らした。

終わりを理解したのか、カニレーザーは両手を広げて天を仰ぐ。

 

 

「お前は死ぬべきだった! 概念を生み出してしまう前に! 可能性を生み出してしまう前に!」

 

「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

それはまさに流星群。

次々にディメンションキックがカニレーザーに降り注いでいく。

いやそれだけじゃない。キバにも、ブレイドにも、ホッパーにも、ジョウジにもディケイド達は必殺技を打ち込んでいく。

 

 

「ぐあぁああああ!!」

 

 

ディメンションキックは凄まじいホーミング機能を備えている。

さらに大量のマッスル化により、どこに逃げようが、何を当てようが、誰もディケイドを止められず、キバ達はその攻撃を受けて吹き飛んでいった。

 

 

「グゥウ!」

 

 

変身が解除され、着水する渡。

剣崎達も陸地をすべり、地面にひれ伏す。その中で、ゆっくりと鳴滝が立ち上がる。

砕けたメガネと、焦げ付いたチューリップハットを投げ捨てると、ニヤリと笑った。

 

 

「おめでとう。キミの――、勝ちだ」

 

「………」

 

 

鳴滝の体にノイズが掛かる。彼が先程からしきりに口にしていた最後や最期の意味がココにある。

鳴滝は自分の右手をジッと見つめた。粒子になってはがれていく肉体。掌の向こうがわにある景色が見えてくる。

そうだ、消滅だ、鳴滝は徐々に消えいく体を、笑みを浮かべたまま見つめる。

 

 

「消えるのか、鳴滝」

 

「ああ、そうだろう。私はもはや観測者ではない」

 

 

観測者と言うのは、文字通り視ているからこそ観測者と言うのであって、箱庭の中に手を出してしまうのはルールに反する行為だ。

少しならば目を瞑ってもらえても、それが過ぎれば罰せられる。当然の掟である。

なによりも、鳴滝がそれを望んだ。

理解したのだ。鳴滝が目指したものは、もうムリだ。もう手遅れなのだと。

彼は、諦めた。

 

 

「私は退場するよ。しかしコレは――、終わりではない。分かるねディケイド」

 

「知るか。さっさと消えろ」

 

「ハハハ。やはり、キミは――ッ!」

 

 

そこまでだった。

最期の言葉を言い切ることはなく、鳴滝は粒子となって消滅した。

 

 

「チッ!」

 

 

渡が手を伸ばすと、灰色のオーロラが出現しタケシとジョウジを回収する。

そのまま膝を付き、うんざりしたようにため息を漏らす。

 

 

「ディケイド、次は必ず――」

 

 

そして渡もオーロラに呑まれて消えていった。

しかしその中で、叫び声をあげて立ち上がるものが。剣崎だ。彼は唸り声をあげてディケイド達を睨みつける。

 

 

「まだだ! まだ――ッ! 終わってない……!!」

 

「剣崎――ッ! よせ、お前はもう!!」

 

「黙れェエエエエエエエエエ!!」

 

 

剣崎の体からどす黒い青色の光が溢れる。

するとその姿がブレイドではなく、カブトムシのような化け物に変わった。

 

 

「貴様を殺す! ディケイドォオオオオオ!!」

 

「チッ! 分からず屋が!!」

 

 

ライドブッカーを構えるディケイド。

しかしココで車のクラクションが鳴った。ハイビームのライトが夜の闇を切り裂き、その眩しさにディケイドと剣崎は目を覆う。

すると赤い車が猛スピードで登場。キュルキュルとタイヤが地面を擦る音が聞こえ、車はドリフトでディケイドと剣崎の間に停車する。

 

 

「この勝負! そこまでだ!」

 

 

赤い車、トライドロンから降りてきたのは刑事、(とまり)進ノ介(しんのすけ)

腰には既にドライブドライバーが巻かれており、腕にはシフトブレスも確認できた。

進ノ介は両手を広げて、右の掌をディケイドに。左の掌を剣崎に向ける。

それは制止の意味。彼は戦いの中断を叫んだ。

 

 

 




超クライマックスヒーローズの空中ロイストのテンポ好き(´・ω・)


次回多分19日前後

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