DMMO-RPG ユグドラシル
このゲームは数多開発されたVMMO-RPGの中でも「プレイヤーの自由度が異様に高い」
ゲームだった。日本人のクリエイト魂に火をつけるような仕様であったので瞬く間に
人気になっていった。しかし、それは一昔前のことである。
このゲームのサービス終了日にあるプレイヤーがログインした。そのアバターはある
カードゲームに出てくる竜にそっくりであった。頭から生える三本の角は力強く、
金色の目は気品さを感じさせ背中から生える翼は王者と呼ばれるにふさわしい偉大さを
備えていた。その雄雄しい見た目通り、ゲーム内では名を馳せたプレイヤーであった。
だが、それは今となっては過去の栄光にすぎない。そのプレイヤー・・・ヘロンは過去を
思い出しながら最後の時を草原の真ん中で静かに待っていた。
「このゲームもおしまいか・・・楽しかったな」
かつては孤高の王者と呼ばれた彼であっても寂しさを感じていた。一人でどこかのギルドを
荒したり、それにキレて復讐しにきた者たちを返り討ちにしたりと暴れ回ったことを
懐かしんだ。次第にゲームをプレイするものも減っていき、戦う相手もいなくなっていった。
そのことに悲しみと怒りが入り混じった気持ちに彼はなっていた。たとえこの世界がゲームで
あろうとヘロンにとってはかけがえのない自分の居場所だった。現実では、愚かな上司に
こき使われる毎日、家に帰っても自分を出迎える人もいない。やっと手に入れた居場所も
もうすぐ無くなる。時間を見れば今は23時57分。どうせ最後ならと彼は翼を広げ空に
飛び上がった。そして彼は空を飛びながら叫ぶ。
「王者は!この世界に!ただ一人!!」
自分の今までのユグドラシルのプレイの仕方を示す言葉であった。誰かと戦うのが楽しかった。
冒険するのが楽しかった。このゲームで遊ぶこと自体が楽しかった。
かつての思い出に浸りながらヘロンは目を閉じた。
23:59:58
23:59:59
0:00:00、01、02
「・・・・あれ?」
ログアウトしなかった。ユグドラシルのサービスは終わっているのに・・・ヘロンは目を開き
自身の手を見た。そこにはいつも通りの人間の手ではなく、竜の手があった。
さらに周りを見渡せば自分は空を飛んでいた。一体どうなっているのかいくら考えようとも答えは
出ない。ヘロンは困惑しつつも情報がないかもう一度周りを見回す。その時ビュービューと風が吹く。
「な・・・風が吹いている!?」
ゲームでは感じるはずのない風を感じた。いくらゲームでも風は再現できていなかったはずだ。
そのことに疑問を持ちつつもヘロンはコンソールを呼び出そうと腕を動かすが何も出てこない。
普段なら確実に焦るはずなのに妙に冷静な自分に驚きながら彼はかつて読んだ小説から
ある一つの可能性を導き出す。
「まさか・・・あの小説のように別世界へと飛ばされたのか・・・?」
一体ここはどこなのか。なぜ自分はアバターの姿なのか。この姿であるならばスキルも使うことが
できるのだろうか。考えれば考えるほど疑問だけが増すばかりであった。情報が欲しい。
そう考えたヘロンは自身の巨体に苦労しつつもなんとか地面に降り立った。だが、降りたのは
草木が生い茂る森の中、誰かがいるとは考えにくい。だが不意に森の奥から足音が聞こえる。
もしかすると、人かもしれない。自分が今どんな見た目なのかを忘れて、ヘロンは足音の主が
こちらにくるのを待った。
「よし!これで情報が手に入るは・・・ず・・・・?」
足跡の正体は人ではなかった。出てきたのはでっぷりとした緑色の肉体を持ち、片手に棍棒を持った
トロールであった。ヘロンの人間が来るという期待はあっさり裏切られた。
「オ前、ナニモノ?ウマそうダナ。」
そう言ってトロールが棍棒を振りかぶりながら襲いかかってきた。それを見たヘロンは自分の期待が
トロールごときに裏切られたことに苛立ち、八つ当たりと実験をかねて
「お呼びじゃねーんだよ!クソが!『アブソリュート・パワー・フォース』!!」
すさまじい力を纏った掌底がトロールの上半身に炸裂する。圧倒的な一撃を受けたトロールの上半身は
木っ端微塵に吹き飛び、残ったのは下半身だけであった。トロールは断末魔の声をあげることもできずに絶命した。
加減という言葉を知らない王者の一撃など下級モンスターが受ければ耐えられるわけがないのだ。
ヘロンはやり過ぎたことをわずかに後悔しつつ、情報収集の手段を考える。
「こんなとこにいてもさっきみたいにモンスターが出てくるだけかもしれん。移動するか。」
ヘロンは翼を広げ、空へ飛び立つ。そのとき彼の目に見たこともない美しい星空が映りこんだ。
「さっきはそれどころではなくて気がつかなかったが、これはきれいだ。」
現実の世界は大気汚染が進んでおり、ヘロンは綺麗な星空など一度も見たことがなかった。
ヘロンは空を数分間眺め続けた。この美しい景色はヘロンの心を優しく癒してくれた。
先ほどのことなどどうでもよくなってしまうほどに・・・
それから程なくして、彼は直感で行く方角を決め、その方向の方へ飛びたっていった。
情報を得るために。
紅き悪魔竜の冒険が始まる。
スキル解説
「アブソリュート・パワー・フォース」
単体攻撃。すさまじい力を纏って打ち込む掌底。