ヘロンは行くあてもなく飛んでいた。だが、いくら
飛んでも眼下にあるのは森だけであり、遠くを見れば
山があるだけである。
「マジで、何もねーな」
疲労無効や飲食不要などのアイテムを身につけていたおかげで
数日間飛び続けていたが、ヘロンは人っ子一人見つけることが
できず多少いらだっていた。そもそも森の中心にいたのだから
見つかる可能性は最初から低いのだが・・・
遂に森を抜けることに成功した。その先には村らしきものが
見える。ヘロンは喜ぶと同時に一つの問題を思いだした。
「俺、今竜の姿じゃん・・・」
さすがに人が住む村に竜が現れたらどういうことになるかは
想像に難くない。一応ヘロンは人化のスキルも持ってはいるが
竜から人になるところを誰かに見られるわけにはいかなかった。
彼は考える。すぐに答えはでた。
「いったん、森に戻ろう」
人間の姿になるためにヘロンは森の中にはいってスキルを発動した。
すると、竜が立っていたところには銀色の紋様の入った赤いコートの
ようなものに身を包み、腰にはサーベルを二振り下げていた。
金色の髪に鋭い双眸を持つその顔は勇ましいものであった。
「これで、大丈夫だろう」
ヘロンは人の姿で森を抜け、街道らしきところにでた。村の方へ向かおうとすると
護衛をつれた馬車が村の方に向かうのが見えた。話かけようとその者たちへ近づいた。
「あの~すみません」
冒険者になったアインズとナーベラルは漆黒の剣のメンバーと共に依頼を受け
カルネ村に向かっていた。もう少しでカルネ村に着くところでアインズは背後
から近づいている者に気がつき、ナーベラルに
『ナーベラルよ。背後から我々に近づく者がいる。警戒しろ』
『かしこまりました。アインズ様』
今まで出会った者よりも遥かに強大な力を持つ存在が近づいてきていることにアインズ
は警戒を強め、いざという時に対応できるように身構えた。
「あの~すみません」
「どうされましたか?」
背後から声をかけてきた者にアインズは返事をした。
アインズが話をしていることに気がついた漆黒の剣の
メンバーは立ち止まり、依頼者のンフィーレア・バレアレは
馬車を止めた。
ヘロンは漆黒の鎧を着た人物に話しかけることに成功した。
「私は、遠くから旅をしてきて、途中で迷子になりましてね。
ここがどこなのかを教えてもらえませんか?」
彼は適当な理由をつけて情報を引き出そうとした。
「ここはトブの大森林の近くにあるカルネ村のあたりですよ」
漆黒の鎧を着た男はこたえた。ヘロンは聞いたことのない地名に
戸惑う。そして、自分の予想通り異世界に転移したということが
より確実になった。戸惑っている様子を見たアインズも目の前に
いる男の正体が気になった。アインズはこの男の見た目を見て
ユグドラシルにいたあるプレイヤーに似ていることに気づく。
だが、確証が持てないために尋ねるべきことを言えない。なんとなく
後ろをチラッと見るとナーベラルが明らかにいらだった表情をしていた。
ナーベラルにしてみれば見ず知らずのウジ虫が至高の御方と話をするなど
許し難いことだからだ。アインズも自分の部下の忠誠心が異常なことは
わかっているので、
アインズは自分の予想が合っているのかを確かめるためにヘロンに単純な
質問をした。
「失礼ですが、あなたの名前はなんでしょうか?」
「これは失礼しました。私はヘロンと申します」
アインズの予想は見事的中した。目の前にいるヘロンという男はユグドラシル
のプレイヤーである可能性が高くなった。これは踏み込んだ質問をする必要が
あるようだ。そして、踏み込んだことを聞こうとすると
「あの~モモンさん。そろそろカルネ村に向かいたいんですが・・・」
馬車に乗るンフィーレア・バレアレが申し訳なさそうに言う。これを聞いた
アインズは依頼を優先すべきと考え、とりあえずヘロンも連れていくべきなので
ンフィーレアにお願いをした。
「これは申し訳ありません。ンフィーレアさん、この方が道に迷われてるようなので
ともに連れていってよろしいでしょうか?」
「モモンさんのお願いですし・・・わかりました、その方もご一緒に行きましょう」
「ありがとうございます。ンフィーレアさん」
ンフィーレアの許可も下りたので、アインズはヘロンを連れてカルネ村に向かった。
ヘロンはその冒険者一行と行動を共にすることができた。彼は他の人たちにも
自己紹介をした。それからひと悶着あったがなんとかカルネ村に入った。そして
アインズは村の高台にナーベラルとヘロンを連れて移動した。
「ナーベ、少し席を外してくれ」
「しかし!?」
ナーベラルはヘロンを警戒していた矢先にこのような命令をされるが、アインズを
見ず知らずの者と二人きりにするわけにはいかないと考え、引き下がろうとはしない。
「頼む」
「か・・・・かしこまりました」
彼女は不服そうにしつつも、その命令を受けた。彼女が行ったのを見計らってアインズは
ヘロンに話を切り出す。
「ヘロンさん。あなたはユグドラシルのプレイヤーですよね?」
ヘロンは目の前の男の言葉に驚きを隠せない。ヘロンは自分は特別だとか思うようなタイプ
ではないが、自分以外にもこの世界に転移した人がいるとは考えもしなかった。彼の心中は
自身以外にも同じ境遇の人がいたことの喜びと目の前の者が自分に対して恨みを持つプレイヤー
であったらどうしようという不安でいっぱいになった。ヘロンの戦闘スタイルは竜の姿が基本
であるため、今の人の姿では不利である。ヘロンはこの状況をどう乗り切るか考えていると
「今の姿じゃわからないか。ほら、俺ですよ。」
目の前の男は兜をとった。兜の下からは骸骨の顔が現れた。普通であれば驚くところなのだが
ヘロンはこの骸骨に見覚えがあった。
「まさか、あなたもきていたとは思いませんでしたよモモンガさん。」
かつてヘロンはモモンガの所属するギルド「アインズ・ウール・ゴウン」に1500人のプレイヤー
が攻め入った時に乱入して暴れたことがあった。その際にモモンガと知り合った。同じ異形種であり
なおかつ社会人同士であったことから意気投合し仲良くなった。こうして再会するのも何かの縁の
ような気がしないこともない。
「ヘロンさんは、いつ頃この世界に?」
「そーですねー数日前くらいかと」
「じゃあ、俺の方が先にきたみたいですね」
「マジすかー。モモンガさんはこの世界の情報どのくらいあります?」
「地理とかはだいたいわかりますよ」
「教えてもらえないですか。俺何も知らないんで」
それからヘロンはモモンガから様々なことをきいた。ギルド拠点ごと移動したとか、アインズと
名乗っていることそして、一番重要な地理的なことを聞いた。二人で話し込んでいるとンフィーレア
が走ってこちらにきた。
「モモンさんはアインズ・ウール・ゴウンさんなのでしょうか?」
ンフィーレアはヘロンがいたことにも気づかずにモモンに質問をした。やがて、ヘロンがいたことに
気づき、慌てるが時すでに遅し。そこで、ヘロンが助け舟をだす。
「ンフィーレアさんだっけか。この人はモモンさんであって、アインズ・ウール・ゴウンさんとは
別人さ」
「いや、でも・・・」
「たまたま、共通点が二人にあっただけじゃないのかい」
ヘロンはどうにかしてンフィーレアの予想を否定しようとする。それを見ていたアインズは
我慢できずにとうとう口をはさんだ。
「ヘロンさん。私は大丈夫ですから。ンフィーレアさん、私がアインズという人物と
同一だとすれば君はどうするんだい?」
「えっとその・・・村を救ってくれたことにお礼を言おうと・・・・それと隠していたことが
ありまして」
「ふむ。何かね。」
「はい実は・・・」
それからンフィーレアは自身の隠し事について話した。ヘロンは彼の話は聞かずにアインズから
の情報をもとにこの世界のレベルなどを推測すると同時に見え隠れするプレイヤーの影に
警戒レベルを引き上げた。その後、ヘロンは行くあても特にないのでカルネ村に一泊する
ことになった。夕食に出された料理の美味しさに感動したのは別の話である。
次回で、書籍二巻終了予定