すた☆だす   作:雲色の銀

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第14話「騒ぎの前の静けさ」

「はいカット! 天城、台詞違うぞ!」

 

 あれからというもの、妙に落ち着かない。

 キスシーン騒動の所為で周囲から有らぬ噂を作られ、こなたとも目を合わせづらくなった。

 

 大体、こんなの俺のキャラに合わないだろ!

 俺はもっと堂々とバカやってればいいんだ!

 

「わ、わりぃな!」

「どうした? もう3回もミスってんじゃねぇか」

 

 クラスメートの1人が珍しく心配して来た。

 こりゃ、相当ヤバいかもしれない。内心焦る俺だが、盛り上げ役として不安な表情を見せる訳にはいかない。

 

「そんなにか!? じゃあ、そろそろ」

「いい加減本気出せ。お前の所為で練習止まってんだぞ?」

 

 ぐ……。誤魔化そうとしたが、真面目に注意されてしまった。

 こっちがふざけて言ってるから仕方ないとはいえ、今のは心に刺さった……。

 

「……あき。変な噂はあまり気にしない方がいいよ」

「!」

 

 1人、自分の不甲斐なさに拳を強く握る。

 そんな俺に、みちるが優しく気遣いの言葉をかけた。

 

「は、ははっ! んなモン最初っから気にしてねぇよ! お前は俺みたいにならないよう台詞覚えとけよ!」

「え? あ、うん……」

 

 何とかして、俺はみちるの心配を笑い飛ばした。

 余計な心配はいらない、という振る舞いをすると、みちるはまだ不安そうな眼差しを向けたまま去って行った。

 

 ははは……親友にまで心配掛けてどうすんだよ、俺。

 

 

☆★☆

 

 

「仮面舞踏会の背景完成だオラァ!」

 

 つかさに咄嗟の嘘がバレてから、俺はサボることなく小道具、そして背景係に扱き使われていた。

 俺の手際の良さに目を付けたのか、サボらせないように強力な見張りまで付けている。

 

「わー、はやと君すごーい!」

 

 コイツだ。

 

 本来相方であるはずのつかさだが、本人は全く役に立たない。

 そこそこ器用ではあるが、俺の方が3倍以上も作業が速い。

 なのに、すぐ傍で作業をしているので抜け出そうとすればすぐバレる。

 

「次、どれだ! 持って来い!」

 

 だから俺が殆ど引き受け、さっさと仕事を終わらせようとしていたのだ。

 いい加減勘弁して貰いたいものだ。

 

「次はアリーナの背景よろしくね~」

「おし! ……あれ?」

 

 背景担当が真っ白な背景の用紙を持ってくる。と、ここで俺は漸く大事なことに気付いた。

 俺、クラス委員だよな? 小道具係でも背景係でもないよな?

 

「手伝いであるはずの俺が仕事してんのに、何でお前等担当の奴がサボってんだよ!!」

 

 あまりの作業速度で忘れていたが、俺達クラス委員が小道具や背景を全部引き受けてやる義理はない。

 それなのに、仕事をどんどん俺の方へ持ってくる。コイツ等は鬼か。

 

「えっ……あっ! そうだね!」

 

 大変な作業を俺に押し付け、自分達は楽しようとしている。そのことに、つかさも漸く気付いたらしい。

 つかさェ……。

 

「チッ、気付かれたか」

 

 自分達の計画がバレ、悪態を吐く小道具係。

 やっぱり全部俺にやらせる気だったのか。

 

「はいはい、今からクラス委員様は休憩時間に入るんで」

「えっ!? は、はやと君痛いよ~!」

 

 これ以上、好き放題されてたまるか。俺はつかさの頭を掴み、教室を後にした。

 

 

 

「久々の屋上だーーーーっ!」

 

 ドアを勢い良く開け、解放感に浸る。

 広がる空、浮かぶ雲、吹くそよ風。仕事のことなんかさっぱり忘れられる。

 

「いたた……本当に空が好きなんだね」

 

 隣でつかさが呟く。おっと、頭掴んだままだったな。

 俺はリボン頭を解放してやる。しかし、以前から思ってたが、つかさの頭は撫でやすいし掴みやすいな。

 

「大丈夫か?」

「うん」

 

 頭を擦りながらも微笑むつかさ。ま、そんなに強く掴んだ覚えはないんだけどな。

 それより、コイツのふにゃけた笑顔を見てると、無性に頭を撫でたくなる。きっと、ペットを撫でたくなる感覚に似てると思う。

 

「あ! あれ、あき君じゃないかな?」

 

 つかさが指差す先には、目立つ赤毛がフェンス越しに景色を眺めていた。

 あの背格好と横顔は、確かにあきだな。けど、今は役者は練習中のはずだぞ?

 

「オイ、何してんだ? サボりか?」

 

 俺はあきに声を掛けるが、あきはボーっと外を見ているままだ。

 反応がないので、顔を覗き込むと目は開いていた。寝てんじゃねぇかと思ったが、違ったか。

 

「え? ああ、お2人さんも来たのか。デートか?」

「ち、ちが」

「違ぇよバカ」

「……うん。そだね」

 

 やっと俺達の存在に気付いたか。

 ヘラヘラ笑いながら聞くあきに、俺ははっきりと断る。

 ……ん? 何でつかさは落ち込んでんだ?

 

「鈍感だなぁ」

 

 うっせぇ。何のことか分かんねぇけど、大きなお世話だ。

 そんなことよりも、気になったのはあきの方だった。

 一瞬だが、さっき覗き込んだ時の表情は明らかに何か悩んでいた。

 

「俺はお前がどうしたか聞いてんだがな」

「俺か? 何だ、俺のことが」

「突き落とすぞ」

 

 有らぬ疑惑をまた作ろうとしてんじゃねぇよ。

 あきの誤魔化しに付き合う気は毛頭なく、真剣な表情で睨みつける。オラ、さっさと言え。

 

「……別に何でもねぇよ。ただの気分転換だ」

 

 冗談が聞かないことが分かると、あきは背を伸ばしながらこの場を去ろうとした。

 まるで俺から逃げるかのように。

 

「何が怖いんだ?」

 

 放った言葉に、あきがピタッと止まる。

 

「お前は今、何を怖がってる?」

「俺が怖がってる、だと?」

 

 2度目の言葉に反応し、あきは俺を睨んだ。いつものふざけた態度からは想像も出来ない位にキツい視線で。

 何時ぞやのメイド喫茶での騒動を思い出すな。

 

「お前が何に悩んでるかは知らねぇが、その悩みに対して怖がってる」

「ふざけんなよ」

 

 言葉をやめない俺に、あきは遂に掴み掛かってきた。オロオロするつかさを尻目に、俺達は睨み合う。

 こんなに短気な奴だったっけ? まぁ、いいや。

 

「じゃあ、何で向き合わないんだ?」

「!?」

「お前は今、俺から逃げた。それは、お前が持つ悩みからも逃げてるってことだ」

「うるせぇ!」

 

 奴の核心を突いているようで、黙れと言わんばかりに思いっきり殴られた。倒れ込む俺に、つかさが駆け寄る。

 いってぇ……バカは腕力だけはあるな。

 

「お前に何が分かるんだよ……」

 

 声が震えだすあき。殴られた箇所を拭い、立ち上がりながら俺は口を止めない。

 

「お前みたいに逃げてる奴を、1人知ってる」

 

 ソイツは今までずっと逃げてきた。自分の問題からも、その相手からも、そして現実からも。

 逃げ続けても行き着く宛てなんて何処にもなくて。それでも後戻りも出来ないところまで来てしまった。

 気付けば、ソイツは彷徨うことしか許されなかったんだ。

 もし翼があったら、別の解決策を見つけることが出来たかもしれない。

 

「お前はまだ向き合える位置にいる。そこから逃げ続けて後悔するかどうか、後はテメー次第だ」

 

 だから、逃げようとするあきの態度が気に喰わなかった。

 翼を持ってる癖に、気付かないフリをして飛ぼうともしない奴が調子に乗るなよ。

 俺は視線を逸らさず、あきにゆっくりと歩み寄る。

 

「けど、テメーには頼れる奴もいる。ソイツ等も頼っていいんじゃねぇか?」

 

 黙りこくるあきを、俺は一発ブン殴った。不意打ちに、あきは屋上を転がり倒れる。

 

「一発は一発だ。行くぞ、つかさ」

「えっ!? ま、待ってよはやと君!」

 

 一発分の借りを即効で返して、俺はつかさと屋上を出て行った。ったく、バカの所為で嫌なものを思い出しちまったじゃねぇか。

 屋上から教室に向かう俺は、堂々と机で寝ることにした。座ったまま寝ると体痛いんだよなー。

 

「チッ、口切っちまったじゃねぇか」

 

 殴られた箇所を舌で舐めると、口の中に鉄の味が広がる。うん、マズい。

 

「大丈夫? はやと君」

 

 心配そうにこちらを見るつかさ。争いごとが嫌いなつかさは、終始涙目で俺達のやり取りを見ていたのだ。

 はいはい、分かったから泣きそうな目で見つめて来んなよ。

 ……よし。ここはからかってやるか。

 

「あー、メチャクチャ痛ぇ」

「ええっ!? 保健室行った方が……」

「それよりプリンが食いてぇな。プリン食ったら治る、うん」

「ぷ、プリンだね! 分かった!」

「……え? マジ?」

 

 つかさは俺の戯言を真に受けてしまい、急ぎ足でプリンを買いに行ってしまった。

 あのー、冗談のつもりで言ったんですが。

 

「ぐぇっ!?」

 

 突如、後頭部に衝撃を受けて膝を突く。

 

「私の妹をパシリに使うなんていい度胸してるじゃない? は・や・と・君?」

 

 ええ、大体分かってましたよ? こういうことしたら貴方が来るってことぐらい。

 後ろを振り向くと、腕をチョップの形にしたかがみが殺気を全開にして立っていた。

 

「死んだらどうする!」

「ピンピンしてるじゃない」

 

 命賭けのボケをあっさり返されてしまった。

 こういうのはあきの役目だろうがよぉ……。

 

「で、妹君を大切になさってるかがみ様は何の御用で?」

「別に? 通り掛かっただけよ」

 

 ああ、そうかい。通り掛かりにチョップしてくる女なんて、初めて見たわ。

 

「それより、アンタが殴り合いなんて珍しいじゃない。相手は?」

「あき」

「へぇ……え? あき?」

 

 かがみは話を聞いていたらしく、興味深々で俺に尋ねてくる。

 なので、正直に答えてやったら余計に驚いた。

 そりゃ驚くわな。俺はともかく、あきは仲間を大事にする奴だし。

 

「何したのよ?」

「話してやるつもりはないね。そうだな……コーヒーゼリーでも」

「腕と足、好きな方を選びなさい」

 

 黙秘権を行使しようとしたら、肉体言語で返されそうになった。

 バキバキ指を鳴らす姿が勇ましいです、かがみさん。

 

「お待たせ~! あれ、お姉ちゃん?」

 

 そこに、丁度プリンを買ってきたつかさが帰ってきた。

 ってか、マジで買いに行ってたんだな。姉と違っていい子だなぁ。

 

「じゃあ遠慮なく」

「金払え」

 

 プリンを受け取ろうとする腕をかがみに掴まれ、渋々プリン代をつかさに渡す。

 今の腕の速さはなかったわー……。

 

 

☆★☆

 

 

 何なんだ畜生!

 はやとに殴られた跡を拭い、俺は教室に戻った。幸い口は切れてなかったが、痛みよりアイツの言葉が気になっていた。

 

「俺が逃げてる? 俺が怖がってる?」

 

 はやとが言ったことを繰り返す。

 

 全部図星だった。俺は何かを悩み、怖れていた。

 だが、それが何なのか分からない。

 分からないものを相手にしていても、仕方ない。だから逃げていたんだ。

 

「ほら、あき君。出番だよ?」

 

 こなたに呼ばれるまで、今が劇の練習時間だということに気付かなかった。

 

「あ、あぁ悪い!」

 

 いつものように軽く返事する。

 そう、俺はこれでいいんだ。何かに悩むなんて柄じゃない。皆とバカやって、楽しく過ごせばいいんだ。

 

「決めるぜ!」

 

 

☆★☆

 

 

「オイオイ……」

 

 かがみと別れ、プリンを食い終わった俺とつかさが戻ってきた時には、既に事件は起きていた。

 

 

「しっかりしてよあき君! 皆迷惑してるんだよ!」

「うるせぇな! 分かってる!」

 

 

 言い争っているのはあきとこなただった。俺以上に珍しい組み合わせに、仲裁に入る気も起きない。

 

「どうしたんだこれ?」

 

 俺は近くにいた奴に聞いた。今来たばかりだから現状が分かんねぇ。

 

「それがな……」

 

 モブキャラAの話を3行で纏めた。

 

 あきがミス連発

 遂にこなたが業を煮やす

 大喧嘩に発展

 

 ……だそうだ。あきめ、とうとうやらかしたか。

 

「ねぇ、ひょっとしてやる気ないの?」

「そんなことねぇよ!」

「もう、やってらんないよ!」

 

 言い争いの末、こなたが教室を出て行く。アイツも何だかんだで劇を楽しんでたからなぁ……。

 

「……チッ」

 

 舌打ちして苛立ちを露にしながら、あきも教室を出て行く。

 どうやら悩みに対する答えも、まだ出せてないみたいだしな。

 

「あーあ」

「こなちゃんもあき君も、大丈夫かな……?」

 

 呆れ顔の俺の隣で、つかさがまたもや泣きそうになる。

 そりゃ仲の良い2人があんだけ声張り上げてケンカしてりゃあビビるよな。

 って、離婚直前の夫婦の子供かお前は。

 

「……皆さん、お2人が出ていないシーンの練習をしましょう!」

 

 すっかり静まり返ったクラスを、みゆきが纏めていく。今は自分達だけでやれることをやった方がいいな。

 練習が続行される中、俺は密かにメールを送っていた。

 あきと腐れ縁のアイツなら、何とかしてくれんだろ。

 




どうも、雲色の銀です。
第17話、ご覧頂きありがとうございます。

今回は文化祭前に起こった、あきとこなたのケンカ話でした!
主人公もちゃんと活躍出来たよ!やったねはやと君!

代わりにみっちーとみゆきさんが空気に……ゴメンよ。
え、やなぎ?彼は元々空気ですから(笑)。

次回はケンカの決着です!あき達は無事に文化祭を迎えられるのか!?
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