Fate/Fantasy 〜妖星乱舞〜   作:うどんこ

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※今回の行動は全て雁夜おじさんは知りません。
なのでみんな内緒にしててあげようね、ケフカお兄さんからの約束だよ。


第二楽章 その③

 

 綺礼は自室でゆっくりと腰を下ろして、先程までの出来事を思い返していた。事の始まりはまずあのバーサーカーの一言であったのは言うまでもない。

 

『キミが求めている素晴らしいものをその目に見せてあげるヨ』

 

 最初はその言葉を訝しんだ。しかし、何故か心惹かれるものがあり、時臣からの命令のついでに一度だけ協力することにしたのだった。

 そしてケイネスが潜むホテルを見下ろす廃ビルに来た時、その時が来た。日常では確実に聞くことができない怨憎の篭った叫び、悲鳴、断末魔。常人が聞けば気が狂いそうなコーラスに加え最後はホテルを吹き飛ばす爆発。普通の感性を持つ者がそれを見れば普通気を失うか怒りで気が狂うものである。だが、綺礼は違った。それを見て、聴いた時、綺礼はなんともいえない感覚に襲われていたのだった。心が満たされていくような充実感はなんとも心地いいもので、しばらくは興奮でその場から退散することすら忘れていたのだ。今思い出すだけでも身震いする。自分の奥底に眠っている感情に気がつかされたような気がした。

 あのホテル爆破事件は全て衛宮切嗣がやったことになっている。あのホテルに泊まっていたもののほぼ全てが犠牲になっており、更にそのほかの二次災害で命を落とした者も少なくなかった。確実に聖杯戦争で問題ある行動だと認定されるだろう。時臣はその報告を全く疑わなかったが、ギルガメッシュは何か違和感を感じていたらしい。

 先程もこの部屋にやって来た時に「あの時何があったか、何者かと接触しなかったか」など訊ねられたものであった。何もなかったと言えば少し険しい顔をしながら「好きに動くのは構わない、だが、敵対するようであれば容赦はせんぞ」と言葉を残して消えていった。勘付かれているのかもしれない。

 それよりも目の前に並べられた三つの物に目をやる。これはここへ帰る際にバーサーカーから手渡されたものである。なんでも彼の力の根幹を示すヒントとなりえる物らしい。

 一つは時計である。ゾロアスター教の紋の付けられた銀色の懐中時計が時を刻んでいる。時を司る何かなのであろうか。

 もう一つは女神像であった。頭の部分が牛になっておりとても特徴的である。

 そして最後はこの世で最も有名な書であろう旧約聖書のコピー本であった。

 バーサーカーが言うにはこれらの全てが彼の力に関わっているらしい。どれも出自は違うものでありそうであり、関連性が見えない。一体どのような者の力を得ているのであろうか。そもそも、どのようにして彼の様な存在が生まれたかが謎である。

 ゾロアスターの時を司る者、牛の頭を持つ女神、旧約聖書の中の存在の一つ。それらから連想されるものは何かかれこれ数時間頭を悩ませていた。

 

『ぼくちんのヒ・ミ・ツ教えてあ〜げる。ミンナニハナイショダヨ?』

 

 これらを渡して来た時の台詞が思い起こされて来た。なんとなくだが腹が立つ。すると、頭の片隅に追いやっていたとある考えがよぎった。常識では考えられないから追いやっていたあるものが。

 そもそもあの道化がイレギュラーなのだ。普通に考えるべきではなかったのだ。あの三つのものが何か一つを指し示しているのではなく、そもそもあの三つの司る存在が、道化の力の根幹なのだとしたら。それならあれだけの力も頷ける。知名度補正も旧約聖書由来のものなら凄まじいものであろう。

 早くあの道化の正体を知りたいと思うと同時に、あのふざけた道化に心惹かれて来ている自分がいた。あの道化は自分の求めているものを教えてくれるかもしれない。本当にそう思えるような気がして来たのだ。ギルガメッシュも愉悦を進めていたが似たものがあるのかもしれない。そして、あの道化が最後に残していった言葉に頭を悩ませていた。

 

『キミもキンピカのマスターもテロリストもみんなクソアニメに出ちゃったねぇ……早速ぼくちんの煽りが裏目になっちゃったよ』

 

 一体どんな意味が込められた言葉だったのであろうか。全く意図が読めない言葉であった。そもそも何も考えずの発言なのだろうか。

 

「綺礼様」

 

 気配のない真後ろから声がかけられる。アサシンだ。彼は一歩も動くことなく綺礼の背後に佇み、報告を始める。

 

「キャスターに動きがありました。各家庭から子供を数十人攫ってきているようです」

「そうか」

 

 少し前の話でキャスターを全てのサーヴァントで討伐するようにすることは決まっていたため。今更キャスターの聖杯戦争を目的としたものではない動きに驚きはない。しかし、気になるのはそこからであった。

 

「そして、儀式か何か行ったかわかりませんが森の中に巨大な竜を一瞬だけ召喚していました」

「巨大な竜?」

 

 宝具か何かであろうか。しかし、何もせずに引っ込めた点は謎である。何かの準備なのだろうか。

 

「召喚された竜は翼がなく、首と尾が長く、鋭い顎など持ち合わせていない奇妙な存在でした。ただ、姿を消した後は森の一部が風か何かで吹き飛ばされていましたが」

 

 その報告を聞いた綺礼はその不思議な竜の報告を聞いて、あり得ないと思いながらもある物を思い浮かべていた。人類が存在する前からいたあるものの姿を。そして何か悪巧みをしているバーサーカーの顔が一瞬だけよぎった。

 

 

 

─────────────

 

「おじさん、何しに来たの?」

 

 怯えた様子の桜に、ケフカはニマニマと笑みを浮かべながらトコトコと小刻みに歩きながら近寄っていく。

 

「そういえば自己紹介がまだだったねぇ〜。ぼくちんの名前はケフカ・パラッツォ。気軽にケフカと呼んでね。お嬢ちゃんのお名前は?」

 

 雁夜から既に聞いているはずなのだがそれでもお構いなく愉しげに聞いてくる。その姿はとても不気味であった。

 

「……桜、間桐桜……何しに来たの?」

 

 それを聞いたケフカはそれはもう嬉しそうに全身で喜びを表現しながら語りかかける。

 

「それはもう! 桜チャンとお友達になりたくて! キミもぼくちんとお友達になりたいでしょ?」

「……別にいい」

 

 それを聞いたケフカは顔をしかめて桜が聞こえない程度の声で呟く。

 

「これだから現代っ子は……そんなにピエロが怖いのか? これもホラー映画のせいだ」

 

 すぐに調子を戻したケフカはおちゃらけた声で大きく言い放つ。

 

「キミも友達少ないだろ? だから特別にワタシが友達になってあげよう。あ、拒否権はないよ。かわりにいい()()()()()を一杯教えてあげるからさ」

「おまじない?」

「そう! それもぼくちんのとっておきのスンゴイやつ。気になるでしょ?」

 

 興味を持ち始めた桜にゆっくりと近づいて触れる距離に入ろうとした。すると突然、横から黒い蟲が飛んで来て邪魔をする。

 

「こんな夜中に侵入者かと思えば…何をしておるバーサーカー。聖杯戦争はどうした。それと桜に何をしておる」

 

 明らかに苛立たしげな顔を浮かべた臓硯にケフカは白けきった顔を向ける。まるで馬鹿にしているようであった。

 

「ぼくちん今忙しいんだ。話なら後にしてよ。桜チャンも怯えちゃってんじゃん」

 

 別に自然体である桜をよそに、臓硯はバーサーカーに睨みを利かせ言葉を出す。

 

「桜に一体何をしようとしているのだ。返答次第では貴様のマスターを殺して、貴様を消すぞ」

 

 そんな言葉もなんのその、体をわざとらしくくねらせながら相手を挑発していく。

 

「やーん、ゴキブリが粋がってる〜。怖ーい。キンチョール後で撒いとかなきゃ。まあ、安心なさい。キミのお手伝いみたいな事をしようとしただけサ」

「手伝い?」

「ソソ、この子が立派な()()()になれるためのお手伝いをね。キミも早く取り掛かりたいのだろう?」

 

 バーサーカーの提案に深く考える臓硯。正直、悪い提案だとは思ってないようだ。桜に手を出してはいけないのは臓硯だけで、バーサーカーが何をどうしようと雁夜との約束は違えていない。しかも、遠坂の英霊を相手取ってなお余裕な様子であった。そのような相手に魔術の手解きをしてもらえるなどかなりの事であろう。

 ただ不安な点が一つある。何を考えているのかが一切分からないことである。万が一でも桜に何かあればたまったものではない。

 そんな考えがよぎった結果出した答えは──

 

「貴様の言い分は分かった。ただし、少しでも妙な真似をすればただでは済まないからの」

 

 バーサーカーの意を飲むことであった。その返事に気をよくしたケフカは手に魔道書を出現させ、桜へと手渡していく。

 

「この本がキミにいっぱい()()を教えてくれるから手放しちゃダメだよ。あ、別に開かなくてもいいからね!」

「魔術じゃないの?」

「まあ魔術みたいなものさ。この本は()()()()にしてね。お友達からの約束だよ」

 

 桜に渡された本の表紙には派手な格好をした道化が描かれている。どうやらケフカ本人のようである。臓硯はそんなやりとりをやはり疑問に思いながら聞いていた。本を持つだけで魔術など覚えたり鍛えられたりするものなのであろうか。

 そんな臓硯の視線をうざったらしそうに手で払いながら吐き捨てる。

 

「聞き耳立てないでくれる? そんな虫酸が走る視線を飛ばされるとこっちもカナワナーイ! だからぼくちんもう帰るね。録画し忘れた番組もあるし……あれ? ゴミ捨て日も今日だった!」

 

 そしていきなり慌て始めたケフカは完全に置いてけぼりな臓硯と桜を尻目にその場でスキップをしながら窓へと飛び出していく。

 

「それでは紳士淑女の皆様御機嫌よう! ゴミはちゃんと指定日当日に出すようにするのだ、分かったな!」

 

 そして窓から飛び出すと同時に放屁の音を残し、姿を消した。臓硯はやはり判断を間違えてしまったのではないかと頭を抱え、この先の聖杯戦争をある意味で心配していた。桜はその行動をただ楽しそうに見ていた。そして、桜が持つ道化の魔道書の表紙が一瞬だけ笑みを浮かべているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴミ収集待ってー! あ、次もよろしく〜」




三つの神々はFFをある程度お知りの方なら予想が付くはず……一柱に関してはそれほど詳しくなくても名前は聞いたことありますからね。魔道書は後々の為の重要なフラグアイテムなので覚えておいてください。そして次回予告!『巨竜、顕現す』『壊れたオモチャはいらないんだよ……』
の予定です。お楽しみに。

スキル説明

スキル名:シリアルキラー
保有者:ケフカ・パラッツォ
クラス:バーサーカー
ランク:A+
神性、王族に対して優位に戦えるようステータスが上昇し、特攻をもつ。相手がどちらも持つ場合は効果は重複する。
生前、皇帝を殺し、神々から力を奪ったから得たスキルである。

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