俺は"諦める"という言葉が大嫌いだ。
実際俺も諦めの悪いたちで、今までどれだけの困難にぶつかったことかわからない。しかし、やりきって無理だったり失敗したことはあっても、途中で諦めてそれを投げ出すということはなかった。
なんでかって話はしてもしなくても変わらないと思うが、単純に途中で諦めたら損じゃないか?っていうだけのことで、そこまで深い意味はない。
まぁ、そんなことで俺に嫌われているこの言葉が少しだけかわいそうだとは思う。だけど、嫌いなものは嫌いなんだよね。
何事も最初から諦めてたら自分の世界なんか広がらないし、挑戦する楽しさを味わうこともできない。
最後までやりきってダメだったら結果なんて変わらないって人もいるかもしれないけど、最初からやらなくて失敗するのと、最後までやって失敗するのってかなり経験値に差があると思うんだよね。
だってそうだろ?
やった人はそこまでのことを学ぶことができるじゃん。そのぶん楽しいこともあるかもしれない。
でも、やらなかった人はそこから何も変わらない。
ほら、やっぱりだいぶ差がある。
「いったーい!」
学校の校庭の隅でダンスの練習をしている穂乃果は、俺が見ていた限りではもう三回も転んでいる。
怪我をされても困るし、いい加減やめさせた方がいいだろうか。
そんなことを考えながら足を一歩踏み出そうとした時、隣にいた海未が穂乃果の元へ駆け寄り手を差し出した。
「う、海未ちゃん…」
そのことに驚きつつも、穂乃果は海未の手を取って立ち上がる。
「一人でやっても意味ないですよ?」
「…え?」
「私たち、三人でやらないと」
海未は俺に背中を向けているため、どんな表情をしているのかはわからないが、穂乃果の表情は海未のその言葉を聞くなりパァっと太陽のように輝いた。
先越されちゃったなぁ…なんて呟いてみるが、内心こうなることは予測できたいた。
やっぱり俺の予想は正しかったみたい。
答え合わせのために二人に視線を向けながら、ことりに問いかける。
「スクールアイドル…やるの?」
「うん」
「そっか。理由、聞いてもいい?」
なぜ今の時期からこんなことを始めようと思ったのか、純粋に気になった。
「ふふっ穂乃果ちゃんがね、スクールアイドルで廃校を阻止したいって」
楽しそうな声色に、あぁ、やっぱりことりも、穂乃果と海未と何かやることが楽しいんだなって感じる。
最初は穂乃果の思いつきに驚いて無理なんじゃないかって思うが、なんだかんだでやってよかったと思うのだ。
そういう、新しい世界に連れ込んでくれる人がいるのはいいことだと俺は思う。俺だって穂乃果に感謝している一人だしな。
しかし、今回の思いつきはやや斜め上を行っている気がする。
「そ、それはすごい発想だな」
こいつらは廃校阻止に上手くこぎつけられるのだろうか。
一度考え出すと止まらず、どんどんと胸の中で不安が膨らんでいく。
「そうだよね。ひろくんは…応援してくれる?」
ことりは控えめに俺の袖をきゅっとつかんできた。
なんだかんだ言ってことりも不安なんだろうか。
「当たり前だろ。俺はいつだってお前らの味方だ」
そう言ってぽんぽんと頭をなでると、ことりは小さくありがとうと呟いた。
「ひろくんがいたら最強だね」
「いや、いてもいなくても変わらねぇよ。きっと」
ちらりとことりのほうを見るとほっぺたを膨らませていた。
もちみたいだな…
じっと見つめているとことりも俺のほうを向いた。
その顔は普段のことりらしくなく、どちらかというとふくれっ面という穂乃果らしい感じだった。
だからその顔はなんなんだよ。
「そんなこと…」
「そんなことないよ!」
ことりが何か言おうとしたところを穂乃果が叫びながらこっちへ走ってきた。
それに、そんなことないって、あの距離で俺たちの会話が聞こえていたのか?
「そんなことないから、穂乃果たちに協力して!たいちゃんがいたらもっともーっと頑張れるから!」
「お、おう?」
なんだか話がよくわからない方向に向かっている気がする…
「だから、一緒にやろう!」
「いや、なにをだよ!?」
そんな眩しい笑顔で意味のわからないことを言うな!
なんだやろうって。でも、今の話からすると…
「アイドルだよ!スクールアイドル!」
…なんとなくそう言われると予想できていたことに、少しだけ悲しくなる。
「穂乃果…」
「穂乃果ちゃん…」
穂乃果に呆れていたのは俺だけじゃなかったようで、海未とことりのふたりも穂乃果を呆れた顔で見つめている。
「あ、あれ!?どうしてみんなそんな顔してるの!?」
「ったく、バカ穂乃果。俺がアイドルとかありえないだろ。俺はお前らのサポートしかしてあげられないからな!」
一息で言い切って、穂乃果の頭をワシャワシャと撫で回す。
「協力していただけるだけでも私たちは嬉しいですよ」
「うー。そうだね…うん。これからサポートお願いします!たいちゃん!」
「おう。任された」
一年後の俺たちはどんな顔をしているだろうか。
嬉しい顔…悲しい顔…
俺は、笑って卒業したい。なんでだかわかんないけど、俺はこいつらと一緒ならなんでもできる気がするんだ。
なんてな。
べ、別に照れたわけじゃねぇよ!?
*
「…はぁ。こうなるとは思ってたけどさ」
生徒会室では生徒会長である絵里と二年生三人が対立している。
まぁ、その隣に顔を引きつらせているであろう俺と、なぜかこの状況を楽しんでいる希がいるわけだが。
「…これは?」
絵里は自分の前に置かれた紙を目で指す。
「アイドル部設立の申請書です!」
それは…
「それは見ればわかります」
なんだろう。絵里の機嫌をどんどん悪くしていってる気しかしない。
「では、認めていただけますね?」
「いいえ。部活は同好会でも最低五人は必要なの」
「えぇ!?…たいちゃんは知ってたの?」
穂乃果にじろりと睨まれる。
全員の視線がこちらに向き、思わず両手を上げて降参のポーズになってしまう。
「だから言っただろ。今行っても追い返されるだけだって」
「そう、ですけど。でも、校内には部員が五人以下のところもあるじゃないですか」
「それはだな…」
「設立した時は五人以上いたからよ」
絵里は単調に答える。海未は分かっているからか、それ以上なにも言わなかった。
「あと一人…やね?」
ほんと楽しそうに希がそう言う。
って…あと一人?
「あと二人じゃなくて?」
「へ?そこの三人とひろっちで四人やろ?」
「え、俺は別に部活自体に入るつもりはなかったんだけど…」
俺の言葉を聞いて、絵里は少し嬉しそうに、希は心底驚いた顔になる。
「たいちゃんはべつに部員じゃないです!」
「おい!それはそれで傷つく!」
他にも言い方あっただろ!それじゃ俺だけ仲間外れにされてるみたいじゃないか。
「だって本当のことだもん!」
「そうですね。べつにそこまでは望んでいないです」
「そうだね…。あはは…」
穂乃果と海未、ことりと攻撃を受けて俺はだんだん本気で悲しくなってくる。
「く、くそぉ。べつに仲間に入れて欲しいなんて思ってないんだからな!とにかく、お前らは部員を集めて出直してこい!」
ビシッとかっこよく決めたつもりだったが、誰一人としてちゃんとした反応を示してくれなかった。
絵里は深いため息をつく。
「どうしてこの時期にアイドル部を始めるの?あなたたち二年生でしょう」
「廃校を阻止するためです!スクールアイドルって、今すごく人気があるんですよ!だからーーー」
「だったら、たとえ五人集めてきても、認めるわけにはいかないわね」
絵里の発言に俺は頭を抱える。
「えっ!?どうして!」
「部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。思いつきで行動したところで、状況は変えられないわ」
ついさっき聞いたようなセリフ。
今のこの室内の空気はなんとも居心地が悪い。
それは絵里のせいなのか。はたまたこの三人のせいなのか。
いや、何もできない俺のせい。
三人に少しでも期待を持たせてしまった。絵里にこんなことを言わせてしまった。
うん。俺のせいだな。
「変なこと考えてないで、残り二年、自分のために何ができるのかをよく考えるべきよ」
穂乃果たちが去ったあと、さっきまでの緊張感がなくなり、普段通りの生徒会室に戻った。
「さっきの、誰かさんに聞かせたいセリフやったなぁ」
絵里をおちょくるように希が言う。
そんな希に絵里は少し膨れてみせる。
「いちいち一言多いのよ。希は」
「ふふっ。それが副会長の仕事やし。なっ?ひろっち?」
「へっ?そ、そうだな」
突然話を振られてしまい、まともな返事を返せなかった。
「ねぇ、大翔。あなたは生徒会メンバーよね?」
「あ、あぁ…あたりまえだろ?まさか、お前らまで俺のこと仲間外れにしようとか思ってないよな?」
冗談交じりに返事をすると、絵里も希も吹き出した。
「さっきのことまだ引きずってるん?ひろっちにもかわいいところがあったんやなぁ」
「ふふっ。気にしなくても大丈夫よ。今のままだったら仲間外れにしないから」
「え、何それこわい」
なんだかんだ言って、この三人でいるのが一番落ち着く気がする。
この時の俺は、なんで絵里がどんな気持ちでこんなことを聞いてきたのか、気づくことはなかった。
おれかの10話!
これからもよろしくお願いします。
今日はなぜかμ'sの3rdライブをみたい気分なので、これからみようと思います。