あれから数日。
今日はついに、新入生歓迎会の日。そう、μ’sのファーストライブ当日だ。
あれから、俺の言葉をしっかりと受け止めてくれた三人は、毎日練習を頑張ってきた。
ライブのステージなどの準備の方は、穂乃果たちの同級生のヒデコ、フミコ、ミカのヒフミトリオが進めてくれて。
あと少しで、ライブの時間になる。
控え室では、衣装に着替えた三人が。
「ねね、たいちゃん、どう?」
穂乃果くるりとその場で回って、俺に感想を求めてくる。
「おう。なかなかいいんじゃないか?」
「えへへー」
今度はことりが。
「ことり、めちゃめちゃかわいいよ。それに、衣装作り頑張ったんだな」
聞かれる前に。ことりの頭をなでると、ことりは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。ひろくんに褒めてもらいたくて、ちょっと頑張っちゃった」
その後も少し話したが、時間が迫るにつれて顔が険しくなってくる。
緊張、するよな。
「あれだけ頑張って練習したんだから、大丈夫だよ」
俺の励ましの言葉も、もはや聞こえていない様子だ。それに少しむっとして、パンッと手のひらを鳴らす。
「こーら。笑え、笑え!アイドルだろ?いつもみたいに、かわいい顔で笑う!」
無駄に明るい声を出して、一番近くにいたことりのほっぺをむにゅむにゅといじる。
「ひりょく、やめっ」
「あはは、ことりちゃんかわいい!」
ことりは言葉ではやめてと言っているが、あまり嫌ではないようだ。その証拠に、俺が手を離した今では、穂乃果と二人してほっぺのいじり合いをしている。
「二人とも、騒ぎすぎですよ」
注意をした海未を見ると、彼女だけはまだ表情がガッチガチで。
「うーみっ」
わざわざ海未の背後に回って肩を叩く。
「なんですか?」
振り向いた海未のやわらかいほっぺたに、俺の人差し指が刺さった。突然のことに目を丸くさせた海未は、しばらくしてから顔を赤くした。
「な、なにするんですか!?」
「海未。緊張してるだろ?」
「そ、それは…当たり前じゃないですか」
今にも座り込んでしまいそうな海未の頭をひとなで。おまけにもうひとなで。
「今日まで、それも含めて頑張って練習しただろ?絶対に大丈夫だから。俺が保証してやる」
俺に向かって、そこまでですかって海未は笑って。いつの間にか、俺たちのところまで来ていた穂乃果とことりにも笑われて。
「そうだ。海未も、衣装似合ってるよ」
照れながらも、ありがとうございますと返す海未の頬は少し赤く染まっていて。穂乃果とことりがからかう。
そんな穂乃果たちを叱りながらも、海未の顔には笑みが浮かんでいた。
その様子に、最初に自分が言ったことを思い出す。
「うん。やっぱり笑ってたほうがかわいいな」
ぽつりと呟いた俺の言葉に、三人は目を丸くさせてお互いをみる。
「ひろくんは、ひろくんだね」
「そうですね。どうしようもないくらいに、ひろはばかです」
「たいちゃんって、いっつもそんなんだよねー」
三者三様に俺に言葉をぶつけてきて。
それが、褒められているのかけなされているのかもよくわからず。
「なんだよ、それ」
三人だけが通じ合っている様子に、少しだけ拗ねてみせる。すると、また笑いだす三人。
「ほら、もう時間だから」
もう勝てる気がしなくて、時間なのをいいことに、三人をステージに向かわせる。
ちらりと俺を見た穂乃果の口が、がんばるねと動いたことに安心して。
俺は、自分のやることを始めることにした。
幕を開けるのが俺の仕事。
放送の声が終わったと同時に幕を開ける。
開始時間ぴったり。ここからは、俺の仕事はμ’sのライブを見守ることだ。
しかし、幕はたしかに開いているはずだが、あたりはしんと静まり返っている。
何事かと思い、俺は急いでステージ脇からステージを覗き込む。
「嘘…だろ…」
観客の姿がない。ただ、その光景だけが目に入る。少し視線をずらすと、泣きそうな顔をで穂乃果を見ることりの姿が。
穂乃果と海未の表情は、ここからではわからないが、きっと大丈夫じゃないだろう。
心配になって観客席まで降りる。
穂乃果をはじめ、三人の顔は暗かった。
いてもたってもいられなくなって、そんな三人の顔を見るのが辛くて。
「…穂乃果」
「あれ!?ライブは?…あれ?」
俺が声をかけたと同時に、講堂のドアから一人の女の子が。
あれは、一年生だ。
「花陽ちゃん…」
知り合いなのか、穂乃果はその子の名前を呼ぶ。
「やろう!そのために、今日まで頑張ってきたんだから!」
三人は意思を確認するように名前を呼び合うと、最初の位置に立った。
その顔は、どこかやる気に満ちている。
音楽が流れ始める。
I say...
Hey, hey, hey, START:DASH!!
Hey, hey, hey, START:DASH!!
三人の息は、今までで一番あっていて。
なんだか、感動で胸が熱くなる。
三人から目が離せないのは、きっと俺だけじゃないはずだ。
そして何より嬉しいのが、三人がライブを楽しんでいることだ。率直に、今までで一番いい顔をしている。
最後のポーズが決まる。
見に来てくれた一年生二人が拍手をする。俺も反射的に拍手をする。
辺りを見回すと、入り口のところには真姫がいた。
真姫と目が合うと逸らされてしまったが、俺は目が合わなくなってしまった彼女に微笑みかけた。
もう一度ステージに目を移すと、穂乃果たちと目が合った。満面の笑みで俺を見る。
やりきった、そんな顔。
俺は、そんな顔を見て、穂乃果たちに親指を立ててぐっと前に出した。
「お疲れ様。ほんと、よかったよ」
もしかしたら、聞こえなかったかもしれないが、俺の思いは伝わったようで。
三人はハイタッチをして喜ぶ。
しかし、突然後ろから足音が聞こえてきたかと思ったら、三人が目を丸くさせて俺の後ろのほうを見た。
ゆっくりと後ろを向く。
「…っ」
絵里だ。
今は完全に、生徒会長モード。
「生徒会長…」
「どうするつもり?」
絵里は真顔で穂乃果を見つめる。
穂乃果は絵里をしっかりと見つめ返す。
「続けます」
「なぜ?これ以上続けても、意味があるとは思えないけれど」
相変わらず表情はない。
「やりたいからです!今、私…もっともっと歌いたい、踊りたいって思ってます。こんな気持ち、初めてなんです!やってよかったって、本気で思えたんです!」
穂乃果は、想いをぶつけるように言葉を続ける。絵里の眉が、ぴくりと動く。
「いつか…いつか私たち、ここを満員にしてみせます!!!」
穂乃果と絵里は睨み合う。
空気の悪い中、μ’sのファーストライブは幕を閉じた。
お読みいただきありがとうございました。
最近は雨ばかりですね。
体調を崩さないように気をつけてくださいね。
やっとファーストライブが終わった…