真姫の家にお邪魔した帰り道。
穂乃果の家の前を通った俺たちは、ものの見事に穂乃果に捕まり家まであげられた。
「ごめんな。強引なやつで」
「いえ、とても楽しい人ですよね」
ほんわかとした笑顔。
それに安心しつつ、いつも通りに穂乃果の部屋に行き、ドアを開ける。
・・・バタン
ドアを開けてすぐ閉めた俺に、花陽は不思議そうな顔をした。
「入らないんですか?」
「…うん。今は入っちゃダメな気がする」
なんでかって?
それは……
「ひーろー…?見ましたね?」
ゆっくりと開いたドアからは、にっこりと微笑んだ海未の姿が。
思わず顔がひきつる。
「お、おう。なんかごめん」
怒りのあまり笑顔のままの海未を押しのけて、俺と花陽は穂乃果の部屋に入った。
その後すぐに、店番を終わらせた穂乃果もやってきた。
「ま、まさか海未がポーズの練習なんてしてるとはな…ははっ」
そう。俺があの時見たのは鏡に向かってアイドルのようにかわいいポーズをしている海未の姿。実際、かわいかったんだけれども。
本人は見られたくなかったようだ。
「ほ、穂乃果が店番でいなくなるからです…!」
海未は赤くなった顔で穂乃果に詰め寄る。と、ガチャリとドアが開く。
「お邪魔しまーす」
ことりは慣れたように部屋に入ってくる。
ことりは花陽の姿を見つけるとジッと見つめた。
「お、お邪魔してます…」
花陽は少し困ったように笑う。
ことりは、そんな花陽を見るなりパァッと顔を明るくさせた。
「まさか、本当にアイドルに…?」
「違うよー。たまたまお店の前を通りかかったから、ご馳走しようかと思って」
穂乃果はにんまりと笑うと、穂むら名物の「ほむまん」を差し出した。
「おいしいよ!」
俺はほむまんをひょいっと一つ取るとそのまま口に運んだ。
うん。おいしい。
さらにもう一つとって、今度はそれを花陽の口元まで運んだ。
花陽は一瞬ためらったが、ほむまんを小さく口に入れた。
「お、おいしい…!」
「だろ?」
そのまま、残りを手渡すと、花陽は目を輝かせて頬張った。
その姿が、小動物のようでかわいい。
「ひろくんは、なんでいるの?」
入ってきた時俺のことを完全にスルーしていたから、何か話を振られることはないと思っていた。
「あぁ、花陽と一緒にいたから穂乃果に捕まったんだ」
「なんで花陽ちゃんと一緒にいたの?」
今日のことりは、少しばかり気にしいなようだ。普段は黙って笑顔で頷いてくれるのに、今日はなぜだか質問が止まらない。
それに、少しばかり不機嫌そうな顔をしている。
「それは、その。花陽と一緒に真姫の家に忘れ物を届けに行ったから」
「…そうなんだ」
あれ。ことりってば、表情では笑っているのに、目はまったく笑っていない。
俺が疑問に思って首をかしげると、あからさまに目をそらされてしまった。
「そうだ穂乃果ちゃん。パソコン持ってきたよ」
「わー!ことりちゃんありがとう!」
俺のことは無視かよ。ってか、そこまで意地はってまでして避けられると、余計に気になるんだけど。
なんて、俺をよそに、穂乃果たちはパソコンを覗き込んでいる。
しばらくすると、μ'sの曲が流れて始めた。
「な、なんで?」
びっくりして、画面を覗き込む。
そこには、俺が見た時とはアングルが違うが、ファーストライブの様子が映っていた。
「誰かが動画を撮って、アップしてくれていたようなんです」
海未は優しく微笑んだ。
「ふーん……って、おい!」
「ここ、練習ではうまくいかなかったけど、本番はうまくいったんだぁ」
ことりはなぜか俺をぐいぐいと外側に押して、何事もなかったかのように話しだす。
正直意味がわからない。
「あ、花陽ちゃんそこじゃ見づらくない?」
「………」
ことりは俺のことは完全に無視して花陽に声をかける。
しかし、花陽からの返事がない。
「花陽?」
俺が覗き込んでも気がつかないくらい、花陽はパソコンの画面を食い入るように見ている。俺たちの声は全くと言っていいほど聞こえていないようだ。
「小泉さん!」
「は、はいっ」
穂乃果の大きな呼び声に、花陽は肩をびくりとさせて顔をあげた。
「スクールアイドル、本気でやってみない?」
少し考え込むように下を向いて。
「わ、私なんかには、アイドルなんて向いてないです…」
花陽は顔をうつむかせたまま、そうぽつりと呟いた。
「俺は、そんなことないと思うけどな」
なるべく花陽の背の高さに合わせるようにして、そっと声をかけた。
しかし、花陽からの返事はない。そのかわりに、ことりが俺を押しのけて、花陽に寄り添った。
「私もね、歌を忘れちゃったりするし、運動も苦手だよ」
「私だって、人前に出るのは苦手です」
「私は、すごくおっちょこちょいだよ!」
ことりの次に、海未、穂乃果とそれぞれ花陽に声をかける。
「なんで穂乃果はそんな自慢げなんだよ」
「えへへー、ごめんごめん」
花陽は顔を上げ、穂乃果の笑顔を見るとつられるように笑った。
「ゆっくり考えて答えを聞かせて。私たちが、いつでも待ってるから!」
*
花陽、か。
俺的には、花陽はアイドル向いてる向いてない関係なしに、やってみるべきだと思うんだけどな。
見た目ももちろんだし、あれだけアイドルへの熱い想いがあるなら、他には理由なんていらないと思う。
それと、昨日のことりの様子がな…
まぁ、そっちはとりあえず様子見でいいか。なんか、反抗期みたいな感じだし。
廊下の窓から気持ちのいい風が吹いてくる。
今日も、穂乃果たちは屋上で練習するだろう。
うーん。もう少しだけ、ここでサボってしまおうか。
「あぁ!!!」
「うお!?」
そんなことを考えていた矢先、大きな声が聞こえたものだから、自分でも引くくらいに驚いてしまった。
「す、すみません!先輩…は、スクールアイドルの人ですよね!?」
目の前には、小柄でショートカットがよく似合う、かわいらしい女の子が立っていた。
「あ、うん。マネージャー…かな」
とりあえず、このままだと俺がアイドルやってるみたいになるからな。正すところはちゃんと正しておかないと。
「り、凛は…えっと……」
言葉を探すように、視線がさまよう。
バッチリと目が合うと、なぜか彼女は急にシュンとしてしまった。
「俺に何か用かな?ゆっくりでいいから、落ち着いて」
「ありがとう、ございます。たしか、ヒロト先輩ですよね?」
「あ、うん。三年の結城大翔です。えっと、君は…どこかで会ったかな?」
どこかで見たことあるような、でも、話したことはなかったような。
「えっと、みゅーず?のライブ、私も見てたんです。それと、かよちんから先輩の話を聞いて」
ファーストライブの時のことを思い浮かべる。あの場にいたのは、俺と穂乃果たちμ's二年生、それに絵里。あとは、外には希と真姫がいたなぁ。あとは隠れてコソコソと見ていたにこ。花陽と…
「あぁ!花陽と一緒に来ていたお友達か!」
「そうです!星空凛って言います」
よろしくな、と手を差し出すと、凛はしっかりと握って返してくれた。
「凛って呼んでもいい?」
「もちろんにゃ!…あ」
思わず出てしまった、と言うように、凛は両手で口を塞いだ。
にゃ?口癖、かな?
「あ、凛も俺のこと好きなように呼んで。先輩扱いはあんま好きじゃないんだよ」
「そう、なの?」
キョトンとした顔が妹みたいでかわいい。
あ、俺、妹なんていないわ。
「おうおう。なんだったら、お兄ちゃんって呼んでくれてもいいぞ?」
あ、やばい。願望からかなんなのか、けっこうガチなトーンになってしまった。
弁解しようとしたが、それは凛によって止められた。
「じゃあ!ひろ兄だね!」
「お、おう?」
「ひろ兄!えへへ、ひろにー。ひろにぃ!」
あふれんばかりの笑顔で、俺のことを何度も呼ぶ。あれ、おかしい。俺から言い出したはずなのに、めっちゃ恥ずい。
嬉しいけど、なんだか恥ずかしいぞ。
「気に入ったなら、よかったよ」
照れを誤魔化すように凛の頭をわしゃわしゃとなでると、猫のように俺の手にすり寄ってきた。
これはまた、花陽とは逆のタイプだな。
凛はすぐに懐いてくれるっていうか、最初からオープンすぎるからかな。
「そうだ。今日は花陽と一緒じゃないのか?」
もし一緒なら、μ'sのこと少しだけ聞こうと思ったんだけど。あいにく花陽の姿は見当たらない。
「そうだ、かよちんのこと探してたんだった」
てへへ、と笑う凛を小突く。
「忘れちゃだめなやつだろ、それ」
「ひろにぃがいたからにゃ。だから、少しはひろにぃの責任でもあるよー」
「わかったわかった。一緒に探すか……ん?」
窓から風とともに音が聞こえる。いや、これは人の声かな。
「あーあーあーあー」
「…あー…………あー」
最初は芯の通った声。
その後に続くように、少し控えめな声。
「…かよちんの声」
凛は目を閉じたままぽつりと呟いた。
「もう一人は真姫の声だな」
俺と凛は顔を見合わせて、もう一度耳をすます。
「「あーあーあーあーーー」」
最後に、二人同時に発せられた音が混ざり合って、はっきりと俺らの元まで届いた。
身体中に響き渡ってから、それは静かに消えてゆく。
「あそこにゃ!」
余韻に浸る俺の手を引いて、凛は走りだした。
お読みいただきありがとうございます!
お久しぶりです。
忘れられてませんか?…忘れられてますよね。笑
まとまりがなくわかりづらい文で、本当に申し訳ありません…!