すっかり忘れていたが、今日は二年生が映画鑑賞教室でいない日だ。そのため、校舎内は少し静か…と言うわけでもなく、全員が体育着で。
そう、今日は一・三年合同の球技大会の日でもあるのだ!!!
最近は何かと忙しかったから、たまにはこういう息抜きもいいだろう。
まぁ、生徒会である俺が考案したんだけど。採用されているのは知らなかった。
とにかくまぁ、全力で楽しむしかないってこと!
*
そんなこんなで開会式も終わり、それぞれが自分の出る種目のところに移動し始める。
まぁ、その時間も長く設けていて、話す機会を多くしている。
男子はバスケだから体育館に移動だな。
あ、あそこに真姫と花陽と凛がいる。
「なぁなぁ、あの子かわいくね?」
突然肩を叩かれる。指をさす方を向くと、あの3人がいる。
「ん?どの子?」
「ほら、ちょっとつり目で赤毛の子!」
「あぁ、真姫か…ってお前誰だよ!?」
自然に話していたが、よく考えたら話したこともないやつだ。てか、かわいい顔の男子だな。
「そんな驚くなよ、俺ら同じクラスじゃん!ほら、
俺よりも少し背の低い彼に肩を組まれる。
「橘…あぁ、そんなんいたな…」
「そんなんって…俺ずっとヒロと話したいって思ってたんだよ」
いきなりのあだ名呼び。海未にも同じ呼び方されてるけど、なんか違うな。でも、不思議と嫌じゃない。
こいつ俺と気があうかもな。今まで絵里とか希といたせいか、友達ってほどの男子はいなかったからな。
しかし、なんでこいつくねくねして、人差し指で俺のこと突っついてきてんだ。
「え、なに、俺のストーカーなの」
「そうそう…ってちげーよ!?」
いいノリっこみ。
「冗談だよ。カズ、よろしくな」
笑顔で手を差し出すと、和樹も笑顔で俺の手を握ってくれた。
それよりも、真姫がジャージを着ていないことがとても気になる。てか、少し震えてない?春だけど、まだ少し肌寒いのは確かだ。
俺はジャージの上を脱ぎながら、真姫たち3人の元へ向かう。
後ろから和樹も付いてきているようだ。
真姫に興味津々だったもんな。
そばまでくると、俺に気づいた凛が大きく手を振ってくれた。
「ひろにぃ!やっほー!」
「おう」
俺は脱いだジャージを真姫にかけてあげる。
「な、なによ。べつにジャージなんて…」
「半袖半ズボンとか寒いだろ。俺はこれからバスケで動くし、サイズもでかいけど、よかったら真姫が持っててくれる?」
そう言って頭をなでると、真姫はありがと、と言って下を向いた。
「てか、なんでジャージ着てないの?」
「わ、忘れたのよ…仕方ないじゃない」
理由がなんともかわいくて、思わず吹き出してしまった。それに怒って俺の脇腹を殴ってくる真姫に笑い声が大きくなる。
「それよりも大翔くん。この方は…?」
花陽は、俺のことを羨ましそうに見ている和樹を見る。
「あぁ、さっき友達になったんだ」
「俺、橘和樹!よ、よろしくな?」
勢いのみで言ったような自己紹介。
なぜか後輩相手に緊張しているようだ。
「星空凛にゃ。よろしくにゃ!」
「小泉花陽です…!」
「よろしく。西木野真姫…です」
それぞれと握手をして。
なんか手を見つめて下を向いていると思ったら、突然俺の体育着を引っ張ってきた。
「ヒロやばい!俺、めっちゃ嬉しい!やばい!」
「やばいのはお前の頭な。語弊力なさすぎだろ」
「やばい、ほんと。泣きそう」
泣きそうとか言ってるわりには、顔は嬉しそうに緩んでいて。かわいいかよ、こいつ。
って、なんで男子に…あぁ…
「おい!いい加減服伸びる!」
引っ張る力がだんだん強くなってきたので、無理やり和樹を引きはがす。
「ふへへ、初めて後輩の知り合いができた。やっば、顔にやける」
変な笑い声をあげてにこにこ、いや、にたにたと笑っている。
「和樹先輩って、かわいい顔してるにゃ。凛よりもかわいいかも…」
なんて、笑っている和樹を見て、凛は少しだけ複雑そうな顔をして。どこからどう見ても、凛のほうがかわいいけどね。
「べ、べつにかわいくねーよ!むしろかっこいいだろ!てか、凛ちゃんのほうがかわいいっての、ばーか!」
和樹は結構な声量で一言で言い切った。その頃には和樹の息は切れていて、凛も和樹も顔が真っ赤になっていた。
必死すぎて笑えてくる。
「この人、なにキャラなのよ」
真姫は呆れた顔で、ため息をついていた。
すると、和樹は真姫のほうを向く。
「ま、真姫…さん!俺、真姫さんが一番きれいでかわいいと思ってる。お、俺が褒めてんだから喜べよな!」
真姫を指差してなぜかドヤ顔の和樹。
てか、なんで真姫のことさん付けで呼んでんだ。
「なにそれ、意味わかんない」
「なんで!?」
「そうだろうな。真姫は間違ってない」
「大翔、私この人苦手」
真姫はまたしてもため息をつくと、俺の服の裾を掴んできた。もともとコミュニケーション能力も低い真姫だし、普通に話すところから始めればいいのに。
「ヒロってば、そんな哀れんだ目で見るなよ…」
反対側には和樹が涙目でくっついてくる。
「そんなくっついてくんな。男同士で!」
真姫にはやんわり離れるように伝えて。
和樹はとにかく引きはがす。しかし、そう簡単には離れてくれないようだ。
「確かに、すごくかわいいタイプの男の子ですね…大翔くん懐かれてるみたいだし」
「花陽、聞こえてる」
「俺、イケメンなんだからな!まじだからな!」
顔真っ赤にしてる時点で、キャラがぶれまくりなんだけど…?
本人は俺様でいきたいんだろうけど。
「こいつうるさいから連れてくわ。もし時間あったら、バスケの応援きてな!」
ひらひらと手を振る一樹を引きずって三人の元を後にする。
男子はそもそもの数が少ないため、全員が体育館でバスケだ。同じクラスだし、和樹とは同じチームだろうな。
女子は何やるんだったっけ?絵里たちも応援来てくれっかな。
そんなことを考えながら、体育館へ向かった。
*
試合は順調に勝ち進んでいき、いつのまにか決勝になっていた。そもそも一年3チームと三年2チームだし。決勝まで残ったの三年だけだし。まぁ、一年生よりも三年生のほうが運動じゃ負けないよな。
あいにく、真姫たち一年生組や、絵里と希、おまけににこまで応援に来てくれない始末。
周りに気づかれないよう、密かに肩を落としていると、後ろからバシッと背中を叩かれた。
「ヒロってば、なに落ち込んでんだよ!俺が決勝まで連れてきてやっただろ?」
「ん、おぉ。カズって運動神経よかったんだな」
和樹はめちゃめちゃバスケが上手い。
一人で何点も入れてたし、周りへうまくパスも出してた。
とにかく、こいつがいるとバスケがしやすいってことだな。
「あったりまえだろ!」
仁王立ちで踏ん反り返っている姿は、少し子どもっぽくて面白い。まぁ、このことは黙っておこう。
感謝も込めて頭をなでると、和樹は人懐っこい笑顔を向けた。と、同時に周りから黄色い声が上がる。
「きゃー!結城くんが、かずちゃんの頭なでてるぅ!」
「かずちゃんうらやましい!!!」
びっくりしすぎて、なにも言葉が出てこない。てか、かずちゃんって…
「うあぁぁああ!なんでヒロばっかり!俺だってキャーキャー言われたいのに!」
「言われてんじゃん」
「あれは、なんか、ちげーだろ!しかも俺なんて周りの女子から女子扱い受けてんだぞ!わかってんのか?あぁ!?」
なるほど、だからかずちゃんって呼ばれてるのか。
てか、なんかやたら食ってかかってくるな。
そんなくっついて来られると、女子の方々がさらに騒ぐんですけど。
しょうがない。
「いや、でもカズかっこいいじゃん。バスケも上手いしさ」
「ほ、ほんとか!?ヒロが言うんだったら信じるしかねーよな!」
俺の言葉を聞くなりぱあっと明るい表情になる。素直すぎて、眩しいな。
まぁ、ある意味単純すぎる和樹の扱いはとても楽だ。
「おう。だから離れて」
とりあえず少し距離をとる。
「お!あれ、真姫さんたちじゃね!?」
和樹は突然大きな声を上げた。指差す方を向くと、確かに真姫たちがいる。
「ほんとだ」
真姫たち3人に向かって軽く手をあげると、俺に気づいてくれたようで凛と花陽が手を振り返してくれた。それと一緒になって和樹も手を振る。
真姫は手は振り返してくれなかったが、「がんばれ」と口が動いた気がする。それに、俺のジャージをちゃんと着てくれているし。もう、かわいいのなんの。
よし、がんばろ!
タイミングよくピーっと笛が鳴り、試合が始まった。
前半、三年生同士ということもあり、なかなかに接戦だったが、和樹のおかげでこっちのチームがリードして終わった。
「なぁヒロ。お前、本気出してる?」
ハーフタイムに入るなり、和樹が少し真面目な顔で話しかけてきた。
「お、おう。なんで?」
「いや、汗ひとつ出てないし。ボール回してもすぐパスするし」
やっぱり和樹は周りをよく見ているな。
本気を出していない、といえば少し語弊がある。俺的には周りに活躍してほしいことが第一で。今までだって、そうやってきたから。なんか、癖みたいなもんってゆーか。
「後半は、もっと動くようにするよ」
「おっけ!俺ももっとボール回すからな!」
和樹、嬉しそうだ。
なんか、いまいちやる気が出ないのも確かなんだけど。まぁ、さっきよりもちゃんと動かないとな。
「ヒロ!パス!」
後半が始まるなり、和樹は俺にボールをたくさんパスしてくるようになった。
もしこれで、俺が運動音痴とかだったらどうするんだよ。まぁ、人並みには動けるけどさ。
前半とは違い、ドリブルをして少し前まで進んでから他の人にパスをする。
その様子に、和樹は満足そうな顔をしていた。こんなもんでいいのか。
「大翔っ」
試合中だが、その透き通るような声に思わず足を止めて振り返る。
「え、絵里…!?」
「ウチもいるよ〜」
そこには、さっきまでいくら探してもいなかった絵里と希がいた。それだけで、自分の中で何かが満たされていく。
「ほら、試合にもどらないと。ここで応援してるから」
絵里は、まるで小さい子に言い聞かせるように優しい声色で。希は、そんな絵里にくすりと笑って俺を見た。
「ひろっちの、めっちゃかっこいいところ見たいなぁ」
二人の言葉だけで、こんなにやる気が出るなんて思わなかった。やっぱり、俺にとって二人の親友はかなり大切な存在らしい。
二人にグッと親指を出して、俺は試合に戻った。
「ヒロ!」
タイミングよく和樹がボールを出してくる。それをしっかり受け取った。ちらりと二人のほうを見ると、しっかりと俺のことを見ていて。希の言葉が思い出される。
かっこいいところ、見せないと!
ボールを何回か地面につき、走り出す。
相手チームの何人かが俺の前に出てきたが、それを上手くかわしていく。
ここからなら、届く!
シュートを打つと、スパッと気持ちのいい音を立てて、ボールがゴールのネットに吸い込まれていった。
わぁっと歓声があがる。
やばい、こんなにちゃんとスポーツしたの、高校入ってから初めてかもしれない。
「ヒロ、ナイッシュー!!!」
背後から和樹が肩に手をやってくる。
「お、おう」
「てか、やっぱり本気出してなかったんだな…。あーあ、ヒロばっか女子の視線奪いやがって」
「いや、俺、こんなちゃんとやったの久しぶりで」
そう言いながら絵里たちのほうを見ると、二人とも手を叩いて喜んでくれていた。
他の人たちにすごいって言われるより、あの二人に喜んでもらえるだけで満足なんだよな。なんてな。
そこから、俺も何点かとり、結果は俺たちのチームが優勝になった。
「大翔ってば、全然気づいてくれないんだもの。私たち、最初からいたわよ?」
試合の後、最初から見ていてくれればよかったのにと言うと、絵里は少し拗ねた顔をした。
「う、うそだ…探してもいなかったし」
「最初、えりちが恥ずかしがって後ろのほうにいたん。女子もすごかったしなぁ」
なんだよ、それ。
でも、まぁ応援してくれてたんだしいいか。
「大翔、かっこよかったわよ」
「あ、ありがとう」
面と向かって褒められると、少し恥ずかしい。
「最初からちゃんとやればいいものを…なんてな」
「なんだよ、それ」
「いやー、ひろっちと同じ中学の子達がな。大翔くんは運動神経すごくいいの!って言ってたんよ」
あ、あぁ…中学の頃は結構いろんな部活の手伝いしてたからな。高校入ってからは、周りが女子ばっかだから、どこか遠慮してたのかもしれない。
「まぁ、応援しに来てくれて、サンキューな!」
球技大会、楽しかったな。
なんて、俺もまだまだガキってことか。
*
次の日、昼休みに真姫が一人で俺の教室にやってきた。
「どしたの?」
「こ、これ。ありがと。ちゃんと洗っておいたから!」
そう言って渡された紙袋を覗くと、俺のジャージが入っていた。
「そんな、わざわざよかったのに」
ありがとね、と頭をなでる。
「あ、あとこれも…」
手のひらにはチョコレートが3つ。
「くれるの?嬉しい」
「甘いもの、好きでしょ。だから、たまたま持ってたからあげるわ」
耳が赤くなってるし、たまたま持ってたなんて信じてあげねーぞ。
「ははっほんと、真姫はかわいいな」
「な、なによ!もう帰る」
顔を真っ赤にして、ほんとに帰ってしまった。もうちょっと、からかっていたかったんだけど、しょうがないか。
「あー!真姫さん帰っちゃった…話しかけようと思ってたのに…」
たった今登校してきた和樹は、俺のところまでくると肩を落とした。
「少しくるのが遅かったな」
「ぐ…それ、なに」
あからさまにしょげている和樹は紙袋を指さす。
「俺のジャージ。洗って持ってきてくれたんだよ」
丁寧に答えてやったのに、黙り込んで何かを考えている。と思いきや、貸して!となかば強引に俺の手から紙袋を奪い取る。
なにをするのか、見守っていると。きれいに畳まれていた俺のジャージを取りだして、なぜかシャツの上からそれを着た。
「なにやってんの?」
「いや、ほら、真姫さんの匂いだなーとか。こうしたらギュってしてるみたいかな。とか…お、思ってねーから!」
「思ってんじゃん。カズってば変態」
「う、うるせー!」
和樹が大きな声を出したせいで、クラス中の視線がこっちへ集まる。
「かずちゃん、結城くんのジャージ着てるよ…!」
1人の女子生徒がそんなことをぽつりと呟くと、瞬く間に教室中が騒がしくなる。
女子たちは俺たちのことをおかまいなしに取り囲んできた。
「あとはよろしく」
俺は、こういう系の騒がしいのはあまり好きじゃない。和樹の肩をポンと叩くとその場から逃げ出した。
和樹は女子たちに囲まれて見えなくなってしまっていた。まぁ、元はといえば和樹のせいだし、悪いとは思わないけど。
「絵里、かくまってくれ」
絵里の席の前でしゃがんで、絵里を見上げる。
「まったくもう、朝から騒々しいわね」
絵里は呆れた顔をしながらも、俺が見えないように少し椅子をずらした。
「さんきゅ。あ、そうだ、チョコやるよ」
さっき真姫からもらったチョコを差し出す。
「いつもと違うチョコね?」
「あぁ、真姫からもらったんだ」
「西木野さん…?ふぅん。ジャージ貸すほど仲がいいものね」
チョコなんていらないわ、と。
なんか、拗ねてるのかな…?こういう時、希がいてくれないと、絵里の気持ちがわからないから困る。
「ほんとにいらないの?」
「ええ」
こうなってしまったら、頑固なんだよな。
俺は、チョコの袋を開けて手に取る。
「開けちゃったし、絵里が食べてくれないと困るなぁ」
「ひ、大翔が食べればいいじゃない」
「俺、すでに食べてるし。しょうがないから他の人にあげるか…」
そう言って、まだ騒いでいる和樹のほうを見る。
なんて、あげるつもりないけど。
横目で絵里を見ると、なんだか悲しそうな顔でチョコを見ている。素直じゃねぇな。
「ほら、あーん。それとも、ほんとに他の人にあげてほしい?」
「い、や、あ…あーん」
絵里の口の中にチョコを入れる。
「ん、いい子だな」
そしてそのまま、頭に手をやる。
ぽんぽんとなでると絵里は大人しくなった。やばい、怒ったかな?
「あー、そろそろ和樹のこと助けてやらないと」
そう言って逃るように立ち上がって歩き出そうとすると、くいっと袖が引っ張られた。
「ど、どうした?」
「…まだ、ここにいて」
振り返ってみると、顔を上げた絵里と目が合う。
「お、おう」
俺は素直に頷いて、絵里の前の席に座った。
か、かわいすぎだろ!
言っていることも、やっていることも。
ましてや、なんだよその表情。
顔どころか耳まで、それに手首まで赤くして…!なのに、嬉しそうに柔らかい顔しやがって。
反則だろぉぉおおお!!!
その後、希に笑われたのは言うまでもない。
お読みいただきありがとうございます。
こんな青春時代を送りたかった…
もう、終わりか。
表紙作ったので、よかったら見てください!あらすじのところに載せておきます!
この新キャラの和樹、お気に入りです…笑