やあやあ、随分とお久し振りになってしまいましたとメタ発言。腐の伝道師、みんなの都ちゃんですよ~。……うん、誰だよコイツ。久し振りすぎて完全に自分のキャラを見失ってらっしゃる私。まあ、私のキャラなんてどうでもいいだろう。誰も興味はないだろうし、この
時は放課後。陽は既に西に傾いて、ハーモニカでセルフBGMを演奏しながら、満足を忘れた満足さんが歩いて来そうな茜空だ。そんな教室の中でしばらく雑談を交わす。しかしまあ、会話の下ネタ率の高いこと高いこと。ウブでネンネというわけでもないから、普通に返すけれど、元の世界での高校生男子ってこんな感じなんだろうか? 五回に一回くらいのペースで下ネタが飛び出してるわよこの娘。……いや、コイツが特殊なんだよね。なんなら、それに普通に返答してしまう私も特殊なんだろう。英語で言うとスペシャルだと、某ラノベ主人公は言っていたが、正直誇れる気はしないな、うん。そんな彼は絶対に受け。戸塚きゅん相手でも絶対に受け。ちなみに私は戸部八派。マイナーカプ好きは辛い、主に供給の少なさと言う点において。
そんな変態淑女たる相方と語らい会うのは楽しくもあり、何処か切なくもある。私は知っているのだ。この時間は永遠なんかじゃなく、短く儚く、取り返しのつかないものだと。あと数年もして、社会に出て、仕事に忙殺されるようになればこうして下らないお喋りに興じる時間は少なくなるのだ…………少しおセンチになりすぎたようだ。ほら、相方が怪訝な表情で私を見ている。何でもないと首を振ると、私はカバンをもって立ち上がる。部活に行こう。そう声を掛けると、彼女もまたカバンを手にして立ち上がる。短く儚いものだとは知っていても、楽しまない理由にはならないし、なによりそんなのは私のキャラじゃない。昨日見たアニメのキャラのカップリングを話す方が億倍建設的である。……何を建設するというのだろうか? キマシタワー? いや、あれは元々は百合用語だったかな? ともあれ、新米刑事とベテラン刑事のアニメの話をしながら部室に向かう道すがら、見覚えのある二人組を見つけて足を止める。
ーー藤鶴だ。
おっと失礼、藤見野君と鶴瀬君だった。二人してスマホを片手に何かを話している。一見すればなんてことのない日常的青春の1ページ。だが、私の持つ
case 2:お揃い
皆さんはお揃いの物を身に付けることにどういう意味合いを持つだろうか? 私がまだ少女だったころ、当時の友人とお揃いの小物を買って身に付けたりもしたものだ。端から見れば微笑ましく映るだろうか? そういう仲良しアピールは女子にとっては重要で、私達は仲良しですよと周りに喧伝するのだ。ただ単に仲のよさをアピールするだけなら微笑ましくもあるのだろうが、其処には多くの意味合いが含まれる。友情の所有権や裏切りの防止、気に食わないあの子への牽制などなど理由は様々。一番恐いのは、当人達にその意識はなく、本当に友人との友情の証だと思って身に付けていることである。
さて、女子社会の黒い所は置いといて、やはりお揃いの物を身に付けるということは仲が良くなければあり得ない。つまりはどういう事かと言うと、私の地獄眼は捉えてしまったのだよ、二人のスマホに揺れるお揃いのストラップを。バスケットボールのようなものに手足と顔をくっ付けただけの雑なデザインのキャラクターは可愛いとは言い難く、しかし妙な愛嬌もあって憎めない不思議なゆるキャラ感を演出していた。
そろりそろりと近寄って、二人の会話に耳を澄ませる私を見て、相方が先程とは違う意味で怪訝な表情を浮かべて見せる。……というより不審者を見る眼ですね、わかりません。
「……全く、何処で買ってくるんだこんなもの?」
「とか言いつつも、ちゃんと付けてくれるあたり、拓巳らしいよね」
まさかの藤見野君からのプレゼントらしい。まあ、藤見野君はバスケ部だし、なんとなく分からなくもないか。手にしたスマホに揺れるバスケットボールマンは西陽に照らされて少し赤い。同じく少し赤くなっている二人の間に流れる空気がちょっぴりセンチメンタリズムなのは、季節的にか時間帯的にか人をそういう気持ちにさせてしまうものなのだろう。
「……久しぶりだな、こういう風に同じものを身に付けるのは」
少し眼を伏せながら言う鶴瀬君に、藤見野君が柔らかく微笑む。
「小学校以来かな? いつもなにか同じものを持ってたよね、鉛筆か消しゴムか、キーホルダーか」
まさかの幼馴染み設定に私、大・興・奮! 何処までベタなのだこの二人は! ベタはベストという座右の銘を持つ私は当然ながら幼馴染み物も大好物ですから。……しかし、マイナーカプを好きになってしまう事がちょいちょいあるのはどういう事だろうか? まあ、心の琴線に触れてしまったものは仕方がないだろう、山崎×新八とかもっと増えないかなあ……5年後新八の下克上込みで。などと下らないことを考えていると、藤見野君が楽しそうに笑い、鶴瀬君が奇妙なものを見る眼で彼を見る。
「……どうした急に?」
「いや、お揃いのキーホルダーをなくして、拓巳が泣いちゃった事を思い出してさ」
「な、泣いてなどいない!」
「泣いてたって。一緒に探してさ、見つかったときに二人してまた泣いてさ」
少し遠い眼をした藤見野君がスマホのバスケットボールマンに触れる。彼がなにを考えているのかは私には読み取れなかったが、幼馴染みたる鶴瀬君は何かを察したようで、少しためらいがちに友人の肩に手を置いた。いつもより、少し優しげで、だけど寂しげな表情だ。
「……今度は大事にする。ありがとう……遥」
「……! ……うん、ありがと拓巳」
「何故、お前が礼を言う」
「気にしない、気にしない……ふふっ」
『都、都……!』
小声で私を呼びながら揺さぶる相方によって意識を取り戻す私。いかんいかん、目の前で繰り広げられている光景の尊さに意識が持っていかれていたようだ。いつの間にか出ていた鼻血をハンカチで拭うと、相方に向き直り礼を言う。しかし、彼女の視線は私の後ろに固定され茜空のせいで赤く染まっているはずの顔は妙に青ざめていた。
「…………そこでなにをしている?」
半端ない威圧感を感じる声に振り向くと、額に青筋を浮かべた鶴瀬君が立っていた。イケメンが怒っている姿というのは素直に恐いものである。その後ろには気恥ずかしそうに頬をそめて、困ったような表情を浮かべる藤見野君。なにその表情、エロい。
「盗み聞きとはいい趣味をしているようだな……?」
数秒後、土下座で謝る私と、説教をする鶴瀬君、それを宥める藤見野君と涙目で私と一緒に謝る相方というカオス空間に薔薇色空間は書き換えられているのだった。
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