鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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奏さんがオタク化したのは私の所為じゃない。(1)

 文香の休日最終日。文香は昨日ぶっ倒れたので、大事をとって寝転がりながらラノベを読んでいた。読んでるのは、ガンダムSEED。砂漠の虎付近の話だ。

 しばらく読み進めてるうちに「キラはフレイと寝た」という文が出てきた。

 

「………っ?っ!」

 

 その言葉を深く捉えた文香は、顔を赤くして本を閉じた。今まで、割とラノベは読んで来たが、マジでエロい事するシーンは初めてだった。まぁ、文章はそこで途切れてて、詳しく書いてあるわけではないんだけどね。それでも、文香を赤面させるには十分だった。

 

「…………」

 

 頬がすごく熱くなり、熱中症をぶり返すかもしれないという、よく分からない言い訳を誰に対してなのか知らないが、自分の心の中でして布団の中に潜った。

 

「………一緒に寝る、か……」

 

 性器の中に性器を入れられるって、どんな感覚なんだろう、と想像してしまった。例えば、千秋と恋仲になったとして、部屋でガンダムSEEDのアニメを見てる時に、さっきのシーンが流れて、突然自分に覆い被さって来………。

 

「っ!な、何考えて………⁉︎」

 

 頭をブンブンと横に振って、枕の下に埋めた。エロい妄想をした事もそうだが、それに千秋を使ってしまったことが余計に恥ずかしくなってしまった。

 パタパタと両足をベッドの上にバタつかせ、ギュウゥッと頭の上に置いた枕を握りしめる手に力が入る。

 

「…………」

 

 ていうか、なんで千秋を思い浮かべたのか分からない。いや今まで出会って来た男の人の中で、千秋以外で話すのはプロデューサーくらいだから、出てもおかしくはないが。そもそも、何故誰か名指しで浮かべたのか。

 頭の中でグルグルと思考が巡ってると「あっ」と声を漏らした。

 

「……そういえば、今日は鷹宮くん来ないのかなぁ」

 

 ラノベを貸りる約束はしてないけど、今日も文香が休みであることは知ってるはずだ。

 

「………どうせ暇なんだし、来てくれれば良いのに」

 

 そんなことを呟いてると、ピンポーンと音がした。

 

「っ!」

 

 鷹宮くんかなっ?と意気揚々にベッドから降りて玄関を開けて顔を出すと、奏が立っていた。

 

「こんにちは、文香」

「………なんだ、奏さんか……」

「ちょっ、何よその反応」

「……あ、いえ。すみません。どうしたんですか?」

「鷹宮くんが、あなたが昨日倒れたから見てあげてって言ってたから来てあげたのよ。ほら、スポーツドリンクとりんご」

「………鷹宮くん、が……?」

 

 ………自分で来てくれれば良いのに、と少しムッとする文香。それを察した奏は、ニヤニヤと笑いながら文香に言った。

 

「ごめんなさいね、鷹宮くんじゃなくて」

「っ! な、なんですか?別に全然そんなんじゃないですから……!」

「ふーん?ま、何でも良いけど。上がらせてもらうわよ」

「……あ、はい。どうぞ」

 

 文香がスリッパを用意して揃えて置くと、奏はそれをありがたく使って後ろをついて行った。

 奏はソファーに座り、文香はお茶を淹れてソファーの前の机に置くと、奏の隣に座った。

 

「それで、どうだったの?昨日と一昨日は」

「……楽しかった、ですけど………昨日は、迷惑を掛けてしまいましたね………」

「その話は聞いたわ。彼の方が気にするなって言ってるんだし、気にしない方が良いわよ」

「……はい。次は冬にコミケがあるので連れて行ってくれると約束してくれました」

「良かったわね」

「………はい。冬が楽しみです」

 

 ご機嫌な文香の表情を見て、奏は微笑みながら聞いた。

 

「……で、まずは一昨日の話から聞こうかしら?どうだったの?お祭り」

「……はい。奏さんに浴衣を着せていただいたお陰で、鷹宮くんにすごく喜んでいただけました」

「良かったじゃない。まぁ、文香の浴衣姿はあの子なら絶対喜ぶと確信してたからね。後はメイド服とか着てあげたら喜ぶかもよ?オタクなんでしょ?」

「……いえ、鷹宮くんは『私服だからこそ、そのキャラがどんな服が好みなのか知れて萌える。メイド服みたいな衣装は好きではない』って言ってました」

「………相変わらずすごい濃い子ね、色々と……」

 

 奏は呆れたようにため息をついた。お茶を一口飲むと、文香が言った。

 

「……でも、その……私の浴衣姿を見て、なんか、こう……顔赤くして俯いちゃって……。あれ、もしかして」

「照れてるのよ」

「……やっぱりそうですよねっ?」

 

 嬉しそうに微笑む文香。

 

「……なんか『多摩の夏限定浴衣グラより似合ってて可愛いです』なんて褒められ方、して……照れ隠しなのかよくわかりませんでしたけど、すごく可愛かったです」

 

 どう考えても、「わ、笑いませんか?」「ほんとに?」「ほんとのほんとに?」としつこく聞いてた人の台詞ではない。

 それを見越してか、奏はニヤニヤした表情で言った。

 

「ふぅん?でも、褒められて嬉しかったんでしょ?だから、褒められた時の台詞を細かく覚えてたのよね?」

「……………は、はぃ」

 

 バレた……と言った感じで、文香は顔を赤くして呟いた。

 

「……文香も大概可愛いわね」

「……か、からかわないで下さい………」

「いやいや、ほんとに。……まぁ確かに、鷹宮クンも可愛いけど」

 

 奏はまたお茶を口に含んだ。

 

「で、お祭りの方はどうだったの?」

「……あ、はい。えーっと……最初は浴衣が予想以上に歩きづらかったので、腕を組ませて歩かせていただきました」

「あら、まるで恋人みたいね」

「…………それはもういいです。それで、お祭りの会場に到着したのですが、私って……その、アイドル、じゃないですか」

「鷹宮くんは気づいてないみたいだけどね」

「……それで、その……周りに見られたらマズイと思って、鷹宮くんの身体で顔を隠すように歩いてたんです」

「……それで?」

「……そしたら、鷹宮くんがお面を買ってくれたんです。ほら、アレ」

 

 文香の指差す先には窓があり、それについてるカーテンのレールの上にお面が飾ってある。

 

「……か、仮面○イダーなのね………」

「………はい。でも、嬉しかったです。その後に射的をしたんですけど、鷹宮くんが私の分も出してくれて……」

「へぇ、鷹宮くんってそういう所優しいわよね」

「……それで、撃ち方を教えていただいて、対戦したんです。どちらがたくさん落とせるか」

「どうだったの?」

「……勝ちました」

「ブフッ」

 

 奏は思わず吹き出してしまった。撃ち方を教えた方が負けるか?普通、みたいな。

 

「? 何か、おかしかったですか?」

「あー、ううん。何でもないのよ。それで、勝った方に景品とかあったの?」

「……1日、なんでも言うことを聞いてもらう権利です」

「それはまたすごいものを賭けたわね……。その権利はもう使ったの?」

「……はい。昨日………」

 

 そこで、文香の台詞は止まった。体調悪い中、一人になるのは心細かったから「もう少し、一緒にいてもらえませんか?」なんて言ったなんて言えなかった。

 だが、文香の事において奏に分からないことはほとんどなかった。

 

「………昨日、鷹宮くんと一日一緒にいたんでしょ。体調悪くて寂しかったからかしら?で、その時に権利を使ったんでしょ」

「…え、エスパー⁉︎奏さん、エスパーなんですか⁉︎」

「……バカね、あなたの事なら何でもお見通しよ」

「………そ、そうですか……?」

 

 その返答に軽く引く文香。それを察した奏はコホンと咳払いした。

 

「そ、それで?昨日は結局どうしてたの?」

「……そうですね。アニメ見たり、その感想話したり、ご飯食べに行ったり、一緒に本読んだり……それくらいですかね」

「ふーん……そういうのも素敵かもね。私は嫌だけれど」

「……奏さんはどんなのがいいんですか?」

「そうねぇ、私が彼氏と家デートするなら……」

「…ま、待ってください。別に鷹宮くんは私の彼氏では」

「あーうんそうねーはいはい。私が彼氏と家デートするなら、アニメじゃなくて映画が良いわね」

「…か、奏さん!真面目に聞」

「例えば、ほらこの前やってた恋愛モノの奴。ああいうの観て隣で手を握りたいわ」

「………はぁ。手を、ですか……?」

 

 諦めたため息と共に、気になった所を尋ねた。すると、奏は頷いた。

 

「そういうの、ロマンチックじゃない?」

「……そうですか?」

「あら、じゃあ文香はアニメを見ていた方が良いの?」

「………うーん、休日に部屋で恋人と過ごすなら……」

 

 いつの間にか、文香も「恋人と過ごす」になっていたが、奏はニコニコしたままツッコまなかった。

 文香の頭に真っ先に浮かんだのは、さっきのガンダムSEEDのキラとフレイのやり取りだった。かあっと顔が赤くなり、頭から湯気が出そうなほどに頬が熱くなった。

 

「………文香?」

「……か、奏さん意地悪です!」

「いや名前呼んだだけなんだけど……?」

 

 文香が何を想像したのか分からなくて、是非ともしつこく問い詰めたかったが、なんかすごい自己嫌悪してるように肩を落としていたので、奏は話題を変える事にした。

 

「まぁ、実際恋人とかは一緒にいるだけで良いものよね。何をするかは問題ではないと思うわ」

 

 奏がそう言うと、文香はジト目になった。

 

「………奏さん、恋人いた事ない癖に」

「っ! ど、どういう意味よ。ていうか、それ誰に聞いたのよ」

「……昨日、鷹宮くんが『速水さんは多分、一切キスとか男女間の経験とかないタイプだよなぁ。じゃなきゃ、いきなりキスがどうのとか言って来ねーもん』って言ってました」

「……あの子は本気でキスしてやろうかしら」

「…そ、それはダメです!」

「冗談よ」

 

 慌てた口調で止められても、奏はサラリと切り返した。

 

「所で、あなた達はもうデートの約束はしてないの?」

「……してませんよ。デートの約束なんてした事ないです」

「それなら良いけど。約束するなら、ちゃんと日にちを考えなさいよ。私に言われるまでもないかもしれないけど、もう近いうちに泊まりがけでグラビア雑誌の撮影とかあるんだからね」

「……はい。分かってます。それまでに、たくさんラノベ借りておかないとですね」

「………そういうことを言いたいんじゃないんだけれど……。まぁ良いわ」

 

 奏はため息をつきながらお茶を飲んだ。すると、机の下にBlu-rayのパッケージが落ちてるのに気付いた。

 気になって、奏はそれを拾い上げた。

 

「………これは?」

「……あー!そこにあったんですね」

「?」

「……鷹宮くんがこの前、うちに持って来た時の忘れ物です。昨日も少し探したりしたんですけど………」

 

 パッケージには「Angel Beats!」と書かれていた。

 

「……えんじぇる、びーつ……?」

「……はい。面白かったですよ?」

「………ふーん。女の子が多いのね」

「……見ますか?」

「良いわよ、別に」

「……せっかくですし見ましょうよ。もしかしたら、奏さんもアニメに夢中になるかもしれませんよ?」

「ありえないわよ。……ま、見るだけなら良いけど。でも、あなたの家ってBlu-rayなんてあるの?」

「……最近、鷹宮くんに来年面白いゲームが発売されるから、一緒にやりませんか?って誘われて、買ったんです」

「……ぷ、プレ4………」

 

 文香の指差す先にはプレ4があって、奏はそれを軽く引きながら見ていた。

 文香は、プレ4にBlu-rayディスクを入れ、リモコンを持って操作しながら「Angel Beats!」を再生した。

 

 


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