鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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眠気に耐えて書いたので、修正箇所あるかもしれないです。すみません。


二度あることは三度ある。

 スーパーから戻り、俺は購入したものをプロデューサーに渡すため、加蓮さんと別れた。

 プロデューサーさんの元へ荷物を運ぶと、冷蔵庫に入れとけとの事で、領収書を渡した後にお金をもらってから、冷蔵庫に買ってきたものをしまった。アイスは冷凍庫に。

 ………さて、どうしようか。海に戻らないとダメだよなぁ。普通の人なら、アイドルと遊んでていいって言われたら遊びに行く、それを拒否したプロデューサーさんに「誰かとなんかあったの?」と思われるのは明白だ。言い訳はいくらでも考えられるが、少しでも疑われると、こっちがしらばっくれても鷺沢さんに問い詰められたら終わりだ。だってあの人2億%嘘下手だもん。

 いや、オタクの性質を逆手に取ろう。浜辺に出てアイドル達の様子を眺めていれば良いんだ。「混ざらないの?」って言われても「なんかこっちから声掛けるのは恥ずかしくて」と言えば疑いは持たれないだろう。

 そう決めて、早速浜辺に出ようとすると、電話が掛かってきた。画面には当然、鷺沢文香の文字。

 

「…………」

 

 大丈夫、プロデューサー達は明日の打ち合わせ、アイドル達は浜辺。俺しかいないはずだ。いや、念の為辺りを見回して………。よし、いない。

 

「もしもし?」

『……鷹宮くん、ですか?』

「はい」

『………あの、バイトって仰ってましたよね?何のバイトなんですか?』

「あー………」

 

 ………この質問が来るって事は、もうほぼほぼバレてんだろうなぁ。加蓮さんに聞けば何もかもバレるし、そもそもバレてはいけないのは、俺と鷺沢さんの関係だ。恋人じゃないが、何回か二人で出掛けてる時点でアウトだろう。なら、今のうちに吐いて傷を浅くすると共に、鷺沢さんにもご協力願おう。

 

「………アイドルグループの写真撮影ですよ」

『………やっぱり』

 

 鷺沢さんは電話の向こうでため息をついた。

 

『………なんで嘘ついたんですか』

「あー……」

 

 あなたが怖過ぎたんです、とは言えなかった。てか、それ言ったら俺が今から怖い目に遭いそうな気がするし。

 

「鷺沢さんはアイドルですし、俺との関係がプロデューサーさんにバレるのはマズイと思ったんです」

『………それでなんで私に嘘をつくんですか』

「だけど、お互いに他人のふりをするのは鷺沢さんに負担が掛かるでしょ。ただでさえ、仕事できてるのに。それなら、弟設定を作って他人のフリした方が良いかなーって……」

 

 そこまで言って、俺の口は止まった。なんか、罪悪感がすごい。なんというか、鷺沢さんにはあまり嘘はつきたくない。人に対してこんな感情が芽生えたのは初めてだが、芽生えちまったもんは仕方ない。

 だが、アニメでもよく言ってるように、一時の感情に流されてボロを出すわけにはいかない。鷺沢さんのアイドルの道が残ってるんだ。

 落ち着いて、ここで鷺沢さんに嘘をつく必要があるかを考えろ。……うん、無いね。あなたが怖過ぎた、ということを隠そうとしてるだけだ。なら、オブラートに包んで遠回しに正直に説明すれば良いだろ。

 この嘘がプロデューサーにバレる話に繋がるとも思えないしな。

 

「………すみません、嘘です」

『………はい?』

「なんか、鷺沢さん理由はわからないけどすごく怒ってて……それで、速水さんにフォローするように言われたんですけど、鷺沢さんに『弟ですか?』なんて聞かれて、つい嘘をついてしまって……」

『…………』

「すみませんでした」

 

 電話越しなのに頭を下げた。………あれ、でもこれ、よく考えたら自己満足じゃね?鷺沢さんに嫌われる可能性もあるんじゃ………。

 と、思ったら、電話の向こうから「くすっ」と微笑む声が聞こえた。

 

『………大丈夫です。怒ってませんよ。それよりも、正直に話していただいたので、嬉しかったです』

「さ、鷺沢さん………」

『………私も、奏さんから説明を聞きました。プロデューサーさんに私達の事がバレるのはマズいんですよね?』

 

 おお、ナイスかなっぺ!

 

『……理由はよく分かりませんが、鷹宮くんが私と特別仲良くするわけにはいかないことは、よく分かりました』

 

 いや理由が重要なんだけどな……。まぁ、この際良いか。

 

「はい。すみません……」

『………いえ。私の方が年上なんですから。そう気を使わないで下さい』

「分かりました。では、俺今からそっちに行きますけど」

『……はい。分かってます』

 

 良かった……嫌われなくて。やはり、鷺沢さんは天使、ハッキリわかんだね。あと、速水さんにも今度、何か奢ろう。

 

『……あ、その前に一つ良いですか?』

「? なんですか?」

 

 なんだ、まだ何かあったか?

 

『……なんで、加蓮さんの事だけ下の名前で呼ぶんですか?』

 

 ん、なんでそんな事気にするんだ?別に鷺沢さんが気にするようなことじゃ………あっ、そっか。鷺沢さんを特別扱いしない割に、加蓮さんだけ下の名前で呼んでたら不自然って事か。

 

「あーいや、別に深い意味はないですよ。ただ、加蓮さんは、神谷さんが『加蓮』と呼んでるのを聞いて、下の名前から覚えたからそのまま呼んでるだけですよ」

『………特に、深い意味はないんですか?』

「ありませんよ。そもそも、俺がアイドルに深い意味を込めて下の名前で呼んだって相手にされませんって」

『……………』

 

 あれ、なんか鷺沢さん黙っちゃったな。

 電話の向こうで、「すぅ、はぁ………」と小さく深呼吸する吐息が聞こえた。で、意を決したような声で鷺沢さんは言った。

 

『………あのっ』

「は、はいっ」

『……もし、よろしければ、私の事も……「文香」と呼んでもらえませんか………?』

「……………」

 

 ………あーもうっ、可愛いなぁこの子。理由はよく分からないけど、そういう事なら……いや待てよ。そういうことか。

 

「……分かりました」

『…ほ、ホントですか⁉︎で、では早速、その……呼ん』

「アイドルなんだから、みんな下の名前で呼んだ方が良いですよね」

『で欲し………はっ?』

「みんな平等に扱わないと、プロデューサーさんにバレますもんね」

『……………』

 

 地雷を踏み抜きました☆

 

 ×××

 

 浜辺に顔を出すと、まだみんな遊んでいた。鷺沢さんに無言の圧力を残したまま電話を切られた俺は、浜辺でボンヤリすることにした。実際、俺はアイドルが遊んでる中、「入れてー」とは言えないからなぁ。

 そんな事を思いながら、遊んでる風景を眺めた。みんなで水を掛けたり、浮き輪に揺られたりしている。鷺沢さんは不機嫌そうに浮き輪に乗っていて、それを速水さんと橘さんがなだめていた。お手数をおかけしています。

 そんな事を思いながらボンヤリしてると、背後からゾゾっと背中をなぞられた。

 

「わひょっ⁉︎」

「あははっ♪面白い反応〜!」

 

 誰だよ殺すぞこの野郎と思いながら振り返ると、クローネの中でラスボス的存在の女の子が立っていた。カラフルなビキニに、短パンのような水着、ふわふわした金髪、俺と大して歳変わらない癖に化粧した顔、THE・ギャルって感じのする大槻唯さんだ。

 

「お、大つ……唯さん、ですか……。何かご用ですか?」

「んー、唯のキャンディー食べるぅー?」

 

 口に咥えてるチュッ○チャップスを俺に差し出してきた。

 この手の人間が一番苦手なんだよなぁ………。

 

「……いや、もらうなら新品がいいんですけど」

「ジョーダンに決まってんじゃん!」

 

 口に飴を戻した。つーか何?何の用?用事それだけ?

 

「みんなと遊ばなくて良いのか?」

「んー、今トイレに行ってきたとこ。今からまたあそこに戻るよ?」

「そうですか」

「鷹宮クンは遊ばないの?」

 

 この野郎はまたすごい質問を……。文香さんの件もあるし、行けるわけねーだろ。

 

「プロデューサーには許可もらってますけどね。でも、アイドルの中に俺一人入って行くのは………」

「つまり、照れてるんだ?」

「………端的に言えば」

「タカちゃんかわいいなぁ〜!うりうりうりぃ〜!」

 

 ちょっ、頬をツンツンするな!すごくいい匂い!ていうかタカちゃんって何?なんでこんな距離近いの?俺のこと好きなの?絶対違う。

 

「………あの、何の用ですか?」

「んー、一緒に遊ぼっか!ビーチバレーとか!」

「えっ………」

「ほれほれ、立って立って!」

 

 ちょっ、水着越しにおっぱいを当てるな!感触がモロだから!立つから勃たせないで!

 唯さんに引っ張られて、全員の群れの中へ。

 

「おーい、みんなー!ビーチバレーやろー!」

 

 その声に合わせて、全員がこっちを見た。文香さんがこっちを見た直後、乗ってる浮き輪が破裂した。見なかったことにしよう。

 

「あ、いいですね。やりましょう!」

 

 アーニャさんが乗り気になり、他のメンバーも「やるか」みたいな空気になった。文香さんが目を見開いた柳生流四天王筆頭みたいな目で俺を見てくるが、気付かないふりをしよう。

 ビーチバレーのネットとかを立て、ビーチボールを用意。チーム決めである。人数は11人。サッカーができる人数、つまり奇数だ。今の説明、全くいらない。

 

「あ、奇数なんで俺抜」

「あの、私もう疲れちゃったから、審判やるね」

 

 ……加蓮さんに先手を打たれました。お前覚えてろよ。

 

「とりあえず、グーパーで決める?」

「そうですね。二手に分かれて、そこからさらに別れて行こうよ」

「10人だと、5:5に分かれて奇数になるよ?」

「なら、お互い余った人達がチームってことで」

 

 思っていたよりサクサクと決められて行く。ていうか、よく考えたら女子とマンツーマンチーム?何それ足引っ張ったら死亡事故じゃん。

 いや、アーニャさんなら多分、負けても許してくれそう文香さんは普段なら「仕方ありませんね」と笑って許してくれそうだけど、今日の文香さんは「修正してやる‼︎」とか言って顔面パンチして来そう。

 ………いや、待てよ?逆だ。ここで文香さんとチームになって良い感じに勝てば、もしかしたら仲直りできるかもしれん。

 文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと同じチーム文香さんと…………。

 

「じゃあ、いくよー」

「せーのっ」

『グッパーじゃす‼︎』

 

 運命のチーム決めが始まった。

 

 〜1分後〜

 

 Aチーム:渋谷神谷

 Bチーム:宮本塩見

 Cチーム:橘アーニャ

 Dチーム:鷺沢速水

 Eチーム:鷹宮大槻

 

 神は死んだ、そう思うしかないね。

 ひぃ………文香さんがすごい睨んでる………。怖いなぁ、何怒ってんのホントに………。

 

「よ、ろ、し、く!タカちゃん!」

「うおっ」

 

 唯さんが手を繋いで握手して来た。だからなんでそんな距離近いの。文香さんが写輪眼になりそうなくらい俺を見ていた。だからなんで怒ってんの。

 

「ひひっ、顔赤くしちゃって!かわいいなぁ、ホントに」

「いや、やめてくださいホントに。プロデューサーにヒートエンドされるんで」

「優勝したチームはどうするー?」

 

 聞けよ話。ホントに唯さんは俺苦手かもしんない。

 審判の加蓮さんが、椅子の上からとんでもない事を言った。

 

「じゃあ、勝ったチームは鷹宮くんからアイスの奢りね?」

 

 おい、あの女悪魔か?それともバカなのか?

 

「待てや。それ俺が勝ったらどうすんの?プラマイ0じゃん」

「んー……じゃあ、女の子誰でも良いから指名してよ。その女の子から頬にキスしてOKって事で」

「…………はっ?」

 

 この女ホント何言ってんだ?なんつー公開処刑を俺にさせようとしてんだよ。それにそんなもん、みんな嫌がるに決まってんだろうが。

 

「ええー!嫌だよふざけんな加蓮!」

「そ、そうです!破廉恥です!」

 

 ほらな?早速、奈緒さんやありすさんが反対意見を出した。でもね、なんで俺を睨むのかな?俺何も言ってないよね?

 

「えー?面白そうじゃん」

「そうだね、勝てばいいだけだし」

「負けても指名されるとは限らないしね?」

「キスしても良いの?………ああ、文香冗談だから抓らないで」

 

 周子さん、凛さん、フレデリカさん、奏さんからの倍以上の賛成意見で、反対意見は封じられた。奈緒さんもありすさんも、顔を赤くして俯いてしまっている。おい、お前らもっと頑張れ!

 

「あの、俺の意思は………」

「何、アイドルからのキスが嫌なの?」

「いや、そういうわけじゃ、ないが………」

「なら決定!」

 

 こ、こいつら………!基本的に無法地帯かよ……。プロデューサーいないからってやり放題やりすぎだろ。

 仕方ない、こうなったらわざと負けて………。

 

「あはっ、わざと負けたら、プロデューサーのいる前で、タカちゃんのお部屋に入っちゃうからねー?」

 

 それも唯さんに封じられてしまった。ていうか、あったばかりで人の思考読みすぎでしょ。ニュータイプなの?あと人の弱点見抜くのも早すぎ。

 

「よーし、じゃあ始めようか」

 

 加蓮さんが俺に向かって微笑んで言った。おい、その笑みはなんて意味なんだ?

 

 ×××

 

 何の間違いだろうか。俺達のチームがシードになってしまいました。しかも、5チームなので強制的に決勝戦。それまで待機、かぁ……。結局座って待ってるだけになるんだよなぁ。まぁ良いけど。

 で、1試合目。鷺沢速水チームvs渋谷神谷チーム。奏さんは運動もできそうな感じはするが、文香さんはとてもそうは見えない。大丈夫なのか?ハイキューは読んでたけど………。

 

「………か、奏さん。申し訳ありません。足を引っ張ってしまうことになりそうなのですが……」

「大丈夫よ。遊びなんだし、楽しくやりま」

「……ですが、鷹宮くんには天誅を下したいので、勝っていただけませんか?」

「え?それ私一人で勝てって言ってる?」

「……頑張りましょうね」

「あれ?文香?文香ー?」

 

 なんか割と楽しそうじゃん。会話の内容は聞こえないけど。

 一方の、奈緒さんと凛さんチーム。

 

「奈緒はバレーとかやったことある?」

「体育とかではやったけど、それ以外はないなー。凛は?」

「私も同じ。まぁ、他の人も同じだろうし、軽くやろう」

「そうだな。ま、やるからには勝つけどな」

「あっそう……。頑張ってね」

「お、おい。凛は勝つつもりないのか?」

「まぁ、ない事はないけど……」

 

 向こうは元々仲良いのかもしんない。

 そうこうしてるうちに、試合が始まった。まずは凛さんのサーブ。アンダーサーブで綺麗に上がった。落下点には、文香さんが待機している。

 

「……えっ、えっ………えっ?」

「文香、両手を頭の上に広げて構えて。ボールが降って来たら、指先でボールを軽く押す感じで」

「……は、はいっ。えいっ」

 

 速水さんのアドバイスを聞いて、両手を頭上に構えた。ボールが降って来て、文香さんは両手の指を押し出しながら上げようとした。が、両手を広げ過ぎていたようだ。手の間をボールはすり抜け、おでこに直撃した。

 

「きゃっ……?」

「な、ナイス!結果オーライよ文香!」

 

 ボールはいい感じに上がり、奏さんがボールを追って相手側のコートにいった。

 ………堪えろ、俺。今すぐにでも救急箱を持って来て、文香さんのおでこに湿布を貼り付けたいが堪えろ………。

 向こうのチームも、ボールをそこそこ上手に返した。で、また文香さんの元へ。

 

「文香、両手を重ねて手首で打ち上げる感じっ」

「……は、はいっ」

 

 言われるがまま、文香さんは両手を構えた。ボールを打ち返そうとしたが、落下点の計測をミスしたのか、おっぱいで打ち返した。それに、全員から「お〜っ」と感嘆の声が上がった。

 

「ふ、文香ナイス!」

「………う、嬉しくないですっ」

 

 両手で胸を隠しながら俺を睨んだ。いやなんで一々俺を睨むんだよ!俺の所為じゃねーよ!

 そのまま、文香さんの可愛い珍プレー且つ好プレーによって、試合は続いた。

 

 ×××

 

 決勝。時間の流れとは早いもんだ。というか、試合が思ったよりサクサク進められた所為だ。そもそも、ルール分からないから取り敢えず9点マッチというのがすでにおかしい。まぁ、俺もルールわからないから仕方ないんだけどね。で、これが一番おかしい。

 決勝に来たのは鷺沢速水チームだということだ。なんで?あのプレーでここまで来たの?

 

「よーっし、じゃあ決勝戦やろうか!」

 

 加蓮さんの台詞で、ようやくの出番の俺は首をコキコキと鳴らしながらコートに立った。

 

「やる気満々じゃん、タカちゃん。そんなにキスして欲しいのー?」

「や、そういうんじゃなくて。………プロデューサーの前で俺の部屋に入られるのは嫌なだけです」

「んふふー、照れてる?照れてるでしょ?」

「照れてないです」

 

 ホントに嫌だ。金は絶対もらわなきゃいけないのに。今月の俺の命がかかってんだから。

 

「では、試合開始っ」

 

 その一言で、向こうのチームからサーブが来た。それを唯さんが拾った。

 

「はい、タカちゃん」

 

 そのタカちゃん呼びやめてくれませんかね。文香さんが俺のこと超睨んでるから。

 心の中で文句を言いつつ、落下点に入ってボールを打ち上げた。それに合わせて唯さんが跳んだ。

 

「とぉおうっ!」

 

 唯さんはスパイクを放ち、綺麗にボールは相手コートに落ちた。スゲェ!乳揺れが!

 

「………どこを見てるんですか」

 

 コートの向こう側から文香さんの声が聞こえた。俺の事をすごい睨んでいる。

 

「……随分と仲良いんですね。唯さんと」

「え、いやよく分かんない、ですけど……」

「………タカちゃん、なんて呼ばれて…鼻の下伸ばして……」

「の、伸ばしてないですよっ」

「………ふんっ」

 

 な、なんでそんなトゲトゲしてるんだ………?怖いんだけど……。

 すると、後ろから唯さんが駆け寄って来た。

 

「タカちゃん、いえーい」

「あ、お、おう」

 

 ハイタッチを決めて、文香さんの表情はさらに悪化した。なんかもう、超サイヤ人になりそうな感じ。それも伝説の。

 唯さんはボールを持ってコートの後ろに行って、サーブを打った。それを文香さんが(胸で)拾い、奏さんがこっちに返そうとした。

 

「あっ、足りないかも……」

 

 ボールはネットギリギリ手前に落ちる。だが、そこに文香さんが走り込んだ。はわわ!乳揺れすごい!

 

「っ?文香っ?」

 

 そのままの勢いで、文香さんはボールを引っ叩こうとする。その時の目が完全に俺をロックオンしていた。

 

「………えっ」

「っ!」

 

 が、空振りし、ボールは地面に落ちる。ちょっと待って、さっきの目は何なの?何で俺を睨んでたの?

 

「……文香、どんまい」

「………奏さん、次もボールもらえますか?」

「えっ?」

「……………」

「わ、わかった……」

 

 嫌な予感がする。来たな、プレッシャー!

 俺はボールを持って、コートの端に行った。今度は俺のサーブだ。ボールを軽く放って、上から軽く叩いて相手のコートに落とした。

 

「お、上手いじゃん♪」

 

 楽しそうに唯さんが声をあげるたびに、文香さんの怒りのパラメータが上がってる気がする。もう嫌だ、誰か助けて。

 それを奏さんが拾い、上がったところに文香さんが跳んだ。ふおお!乳揺れ凄まじい!

 一瞬、胸に気を取られた直後、鷺沢さんのスパイクがボールの正面を捉えた。ボールは猛スピードで俺に向かったが、前のネットに引っ掛かった。

 

「っ………」

「……あの、文……鷺沢さん?そのスパイク、誰狙ってるんですか?」

 

 俺の質問は無視して、試合は続いた。唯さんのサーブが相手のコートに向かった。文香さんがそれを拾い、奏さんが上げる。

 

「文香っ」

「……今度は外さない………っ!」

 

 バナージみたいな事を言いながら、文香さんは跳び上がった。学習しない俺が乳揺れに気を取られた直後、文香さんは上がったボールにすごい勢いで手を振り下ろした。ボールは発射され、ネットの頭を超えて俺に向かって来る。

 

「………えっ」

 

 ボールが俺の顔面に直撃した。ビーチボールなのに、バレーボール並みの威力を持ったボールは、メキリと俺の顔を軋らせた。

 すごく痛い………。俺がそう思った頃には、俺の身体は後ろに倒れ、そのまま意識は飛んで行った。

 

 ×××

 

 目を覚ますと、知らない天井だった。多分、宿の中だろう。どうやら、気絶してしまったようだ。身体を起き上がらせ、ボンヤリしながら携帯を見た。時刻は夜の8時を回っている。もう晩飯も終わってんじゃん。ずいぶん寝てたな。

 

「起きた?」

 

 ベッドの脇から声が聞こえた。そっちを見ると、奏さんが座っていた。

 

「おはようございます……」

「おはよう」

 

 心なしか、少し怒っている。その気迫に押されて、敬語を使ってしまった。

 

「大丈夫?」

「大丈夫……。ダメージはない」

「知ってるわよ。鼻血出ただけだもの」

 

 じゃあなんで聞いたんだよ………。しかし、ビーチバレーで鼻血か……文香さんの馬力は尋常じゃないな……。

 

「一応言うけど、文香は今部屋にいるわ。ありすと一緒に」

「………そうですか。気にしないでって言っといて下さい」

「ん。………ねぇ」

 

 真面目な声で奏さんが聞いてきた。

 

「………なんで文香が怒ったか、分かる?」

「昨日の嘘がバレた、からですかね」

「違うわよ。そんな事じゃないわ」

 

 ………じゃあなんだ?正直、よく分からん。

 

「………じゃあ、あなたの好きなアニメ的に考えてみて?鷹宮くんが他の女の子と仲良くしてて、文香が怒る理由は?」

「………んー、あ、アレですか?オタク趣味を語り合える仲間を取られた的な……」

「違うわよ。小銭握り締めたグーで殴るわよ」

「えっ?」

「そんな捻らないで普通に考えるのよ」

「そう言われても……アニメ的に考えりゃ、文香さんが俺のこと好きだから、でしょうけどまさかそんな………」

「……………」

「………マジ?」

「…………」

 

 奏さんはため息をついて目を閉じた。

 

「本人に確認を取ったわけじゃないから分からないけどね」

「なんだよ」

 

 この野郎、今の一瞬でかなり舞い上がった俺の喜びを返せ。

 

「まぁ、何にしても少し行動や言動を考えなさいよ」

「そう言われてもなぁ、少なくとも撮影中は他のアイドルたちと態度や対応を変えるわけにはいかないし」

「そう頭で理解してても、心はそうはならないのよ。人というのは」

 

 この人、年幾つなんだろう。道徳の先生かよ。

 

「私も出来るだけの事はするけど、あなたも文香にちゃんとフォローしておきなさいよ」

「はい」

「ああ、それと……」

 

 奏さんが、俺の部屋の机にあるカレーをもって、俺に手渡した。

 

「これ」

「?」

「文香が作ったカレー。あなたの分よ」

「マジでか‼︎」

「じゃ、またね」

 

 奏さんは部屋から出て行った。とりあえず、俺は全力でカレーを食べた。

 

 


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