鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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盗み聞き程、人の本性を探るのに適した行為はない。

 夜。晩飯の後の肝試しは雨のおかげで断念。スタッフ全員で今後の予定を決めている中、俺はバイトの身であるため、一人で部屋でボンヤリしていた。なんか、神社の事が頭から離れない。なんだったんだろう、あの時間は。なんというか、すごい凄まじい時間を過ごしていた気がする。気まずくて、心臓に悪くて、いつ胃に穴が開いてもおかしくない時間だった。だけど、悪くないと思える時間だった。

 初めて、俺は今「文香さんは俺のことをどう思っているんだろうか」という疑問が芽生えている。好き嫌い、ではなく、普通にどう思うのか。ただのオタク仲間なのか、それとも少なくとも異性としては見てくれているのか。

 いやいやいやいや、待て待て待て待て。勘違いするな俺。俺の事を異性として見てくれてる奴なんているかよ。きっと、文香さんにとって俺はオタク仲間であり、そっちの道に引きずり込んだ奴、という認識でしかない。期待するような想像はするな。とりあえず、お茶飲んで落ち着け。

 そんな事を考えながら頭を横に振ってると、コンコンとノックの音がした。

 

「はい」

 

 顔を出すと、部屋の前で待機していたのは金髪ショートヘアの方の宮本フレデリカさんだった。

 にっこにっこ微笑んだフレデリカさんは、俺に会うなり小さく手を振った。

 

「鷹宮くん、こんにちは」

「どうも。こんばんは」

「恋バナしよ?」

「はいっ?」

 

 こいつ今何つった?異性だよね俺たち?

 

「ほら、私達の部屋においで?」

「待て待て待て待ってお願い待って。そんな事したら俺、プロデューサーに」

「さっ、レッツゴー♪」

「誰かー、通訳呼んでくれー」

 

 連行された。なんで?つーか、なんなのこの人?この二日間、一番会話成立しなかったんだけど。

 俺の台詞などまるで無視して、俺は誰かの部屋の前に連れて来られた。

 

「入るよ〜♪」

「……えっ?ちょっ、待っ」

 

 中の人の制止を無視して、フレデリカさんは部屋のドアを開けた。中では、奏さんが浴衣に着替えようとしていた。

 

「あっ……」

「っ! た、鷹宮くん……⁉︎」

「あらっ……」

「………ぃっ」

 

 悲鳴が上がりそうだったので、俺はフレデリカさんからドアノブを奪ってドアを閉めた。

 

「………フレデリカさん」

「……やっちゃった☆」

 

 こいつ反省してねーな……。つーかあんた、歳いくつだよ。俺より年上だろ。☆付けんのやめろ。

 

「俺、部屋に戻りますね」

「それはダメ」

 

 逃げられなかったか………。変に抜かりないなこの人。まぁ、とりあえず今の映像を脳内に焼き付けておくか。

 数分経過し、ようやく着替え終わったのか、扉が開いた。中から奏さんが恥ずかしそうに顔を出した。

 

「じゃ、頑張ってねー」

 

 フレデリカさんは部屋の前から消えた。あの野郎、逃げやがったな……。つーか、恋バナって何。なんで呼び出されたの?

 

「………ど、どうぞ」

 

 奏さんは俺を部屋の中に招き入れた。つーか、奏さんが俺に何の用なんだ?二人で恋バナしろってんじゃないだろ?分からないことだらけだ。

 机の前に座ると、奏さんが部屋に備え付けのお茶を淹れて前に置いてくれた。

 

「………はいっ」

「あ、どうも」

 

 すごく俺のこと睨んでる。相当恥ずかしかったんですね、分かります。

 

「………見た?」

 

 顔を赤くして聞いてきた。やっぱり処女ビッチだったか……。

 

「安心して下さい。俺は文香さん以外の裸では欲情しませんから」

「あんたブッ殺すわよ」

「ごめんなさい」

 

 なんとストレートな殺意。思わずビビっちゃったよ。この人は絶対に怒らせてはならないリストに上げておこう。

 

「………まぁ、良いわ。今回はあなたは悪くないし、許してあげる」

「はぁ、どうも」

「それよりも、よ。あなたまた文香と何かあったの?」

「………えっ?」

「あの子と神社で二人きりになったんですって?その事を聞いたから顔を真っ赤にされ………なんであんたも赤くなってんのよ」

「……………」

 

 仕方ないだろ。恥ずかしかったんだから。マジで心臓が四散するかと思ったわ。

 俺の様子を見て、奏さんは呆れたように言った。

 

「あんた達さ、いい加減にしてくれないかしら?今回の撮影でつくづく思ったけど、なんで一々、私を巻き込むの?」

「いや、そんなつもりは………」

「まぁ、もう二ヶ月だしいい加減慣れたけどさ。さっさとあんたらに付き合ってもらうなりなんなりして欲しいのよ。なんでいつもいつもノロケ話聞かされないといけないわけ?」

 

 ………や、ヤバイな。この人、相当きてるぞ。いつもより毒舌だし。確かにかなり負担かけてたかもしれない……。

 いや、待て。でも一個おかしい。

 

「や、ちょっと待った。なんで俺と文香さんが付き合うみたいな話になってんの?」

「はぁ?」

「文香さんは別に俺のこと好きじゃないじゃん」

「あんた本気で言ってんの?」

「え?うん」

 

 奏さんは額に手を当てた。そして、しばらく頭を抑えるようにこめかみに手を当てて、考え込んだ後に聞いてきた。

 

「………じゃあ、あなたは文香のことどうなの?」

「それは一番判断できないところなんだよね……。俺も人を好きになったことがないから分からないのかもしれないけど」

「なら、今から質問するから正直に答えなさいよ?」

「え?うん」

 

 なんだ?何を聞かれるんだ?と、思う間も無く、機関銃の如く奏さんは質問攻めをしてきた。

 

「文香といるとドキドキしたりする?」

「する」

「文香を見てときめいたりは?」

「しょっちゅう」

「文香にお祭り誘われた時、どんな気分だった?」

「ヘブンリーカイトと武器アクションの連行並みに舞い上がった」

「文香に本のレンタルの要請があったらどう?」

「学校早退してでも行きたいくらい」

「今回、しばらく三日間の間会えないって聞いた時はどう思った?」

「魔人ブウにアルティメット悟飯を吸収されたときくらいの絶望感」

「文香の水着を見て?」

「等身大フィギュアが欲しいと思いました」

「大好きじゃない‼︎」

 

 突然、怒鳴られた。え、なにこの人?今なんて言ったの?

 

「えっ………」

「恋どころかストーカーの気質まで兼ね備えてるわよ⁉︎私、少しかなり大幅にドン引きしたんですけどっ?」

「や、言い過ぎじゃね………?」

「あんたらはホンッッットにもう………。それでよく『それは一番判断できないところなんだよね……』なんてナメくさった事言えたわね。バカにしてるの?」

 

 おい待て。それは俺のモノマネのつもりか?死ぬほど似てねえからな?でも可愛かったから許す。

 ………でも、そうか。俺って文香さんのこと好きだったのか。うわ、なんか恥ずかしくなってきた。

 

「……うわあ、俺文香さんのこと好きだったのか………」

「そうよ。とにかく、告白しなさ」

「………いつからだ。いつから好きだったんだ………?」

「そんなのどうでも良いから告白の日程を」

「…………まさか、出会った日からはないよな……?俺、一目惚れするようなタマじゃないし……」

「話聞きなさいよ」

 

 怒られたので、とりあえず告白について考えた。いや、考えるまでもねーな。そんなん、結論は一つだろ。

 

「………でも、告白はできないな」

「は?何ヘタレてんの?殺すわよ?」

「待って。さっきから酷くない?」

 

 どこまでイライラしてんだよ……。俺だって傷つく事くらいあるんだぞ。

 

「だって冷静に考えろよ。相手はアイドルだぞ?向こうはOK出来ない。したとしても、文香さんのあの性格だ。表に出さないのは不可能に近いだろ」

「………じゃあ、このまま行っても文香に支障は出ないと思う?」

「っ、そ、それは………」

 

 確かに。神社では間違いなく文香さんの鼓動が身体を通して伝わって来た。俺の事を好きだなんて言うつもりはないが、意識はしているんだろうな。そんな状態で、文香さんが仕事を続ければ必ずボロが出る。文香さんにはファンだっているだろうし、俺闇討ちとかされたくない。

 

「いっそ、付き合っちゃった方が良いんじゃない?あなた、割と嘘の言葉選びは上手いから、周りにはバレなさそうだし」

「や、だから向こうは俺のこと好きじゃないから」

「あーうんそうねーはいはい。とにかく、この夏休みの間に告白しちゃいなさい。付き合ったら、私が文香の方はフォローするから。良いわね?」

「いや、何も良くないんだけど。つーかなんで付き合える前提?お前バカなの?」

「………告白しないと今からプロデューサーにあなたと文香の関係をチクるわよ?」

「よーし、とりあえず作戦会議でも始めるか」

 

 シチュエーションが大事だよな。俺が顎に手を当てて色々とアニメの告白シーンを脳内検索してると、コンコンとノックの音がした。

 

「はーい?」

「奏か?鷹宮くんどこにいるか知らない?」

「っ⁉︎」

 

 ぷ、プロデューサーの声だ。ヤバイ、今バレたら全部おじゃんだ。俺のバイト代もろとも。この部屋二階だから窓から飛び降りることもできない。

 すると、奏さんは俺に向かって口パクで「何処かに隠れて」と言った。

 ど、どこかと言われても……!お、押入れの中しかないだろ……⁉︎仕方ない、迷ってる時間はない。俺は押入れの中に入ろうと、戸を開けた。しかし、中には、文香さんが顔を赤くして入っていた。

 

「……………はっ?」

「っ………!」

 

 なんでお前いんの?と、素で聞きそうになった。え、待て待て待てお前まさか今の話聞いてた?ぽかんとしてる俺の腕を、文香さんは引っ張って押入れの中に引きずり込んだ。この人、意外と力強いのな。

 戸を閉められる直前、奏さんの顔を見ると、めっちゃ爆笑を堪えてた。テメェ後で覚えとけよ………。

 ………とりあえず、ジャッジを聞いておかないとな……。

 

「………あの、文香さん?まさか話聞いて……」

「………い、今は静かにして下さい」

 

 引っ張る力が強かった割に、言葉に覇気がねぇな……。まぁ良いけど。ていうか、暗くて何も見えないけど、柔らかい感触がすごく当たってるんですけど………。

 その後、狭い押入れの中で、俺の頭では容量オーバーするような出来事や会話が起こったが、とりあえず結論を言おう。

 _________文香さんに、告白する為にデートをする事になりました。

 

 


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