鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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私はデ○ズニーなんて10年近く行ってないので、調べたにわか知識と10年前の記憶だけを頼りに書きました。おかしな所があっても、多少なら目を瞑ってくれると嬉しいです。すみません。


トラウマは簡単に乗り越えられないからトラウマなのである。

 デート当日。俺はみんなに選んでもらった服を着て、駅前で待機していた。かれこれ、もう3時間は待っている(集合時間はAM9時)。今日はいよいよ、鷺沢さんに告白する日である。俺はかなり緊張しているが、それまではせめて楽しもう。

 

「……お待たせ致しました」

 

 声を掛けられた。やって来たのは、鷺沢文香大天使様。私服可愛いなぁ、マジであんた二次元の人なの?

 

「待ってないですよ、全然」

「……あの、目の下にクマが見えますけど、寝てないのですか?」

「ちゃんと寝ましたから。大丈夫です」

「………そうですか?」

「さ、行きましょうか」

「……は、はい」

 

 俺達は駅に入り、改札を通った。行き先はデ○ズニーランド。ありきたりではあるが、やはりここだろうな。行ったことはないが、下調べも完璧だ。コミケの時のようなミスはしない。ただ、一つ問題がある。俺、デ○ズニーのジェットコースター大丈夫かな。ユニバの奴乗ってジュラ○ックで泣きそうになったんだよな。少しチビって、アトラクションが終わると共に、友達にバレないように走って誤魔化しながらパンツを買いに行った過去が………あ、無理。これ、トラウマ。

 トラウマを全力で打ち消しながら、俺は電車に乗った。席は幸いにも空いていたので、二人してそこに腰をかけた。

 

「……鷹宮くん、楽しみですね」

「…………」

「………鷹宮くん?」

「……っ?は、はいっ?」

「………どうかしたんですか?」

「いえ、なんでもないです」

「……あの、眠いなら目的地に着くまで眠っていても構いませんよ?」

「いやいやいや。大丈夫ですからマジで。………ふわぁ」

「………欠伸してるじゃないですか」

「いや違うんですよ。今のは『あくび』という技で、1ターン後に相手を眠りに誘う……」

「…鷹宮くん」

 

 俺の言い訳を遮って、鷺沢さんは真面目な顔で言った。

 

「………デ○ズニーランドを楽しむためにも、今は寝て下さい」

「……や、でも、そしたら鷺沢さん退屈になっちゃいますよ」

「………私は鷹宮くんの寝顔を見ていれば、決して退屈はしませんから」

「…………へっ?」

「…………あっ」

 

 口が滑った、みたいな感じで声を漏らした後に、顔を赤く染める鷺沢さん。おい、それどういう意味だ。

 

「………俺の寝顔ってそんなブスだったか……」

 

 はぁ……イケメンだと思ってたんだけどな………。地味にショックを受けてると、鷺沢さんが俺の事を睨んでいるのに気付いた。

 

「………なんですか?」

「いえ別に」

「…………怒ってます?」

「怒ってません」

「………あの、すみませ」

「いいから早く寝なさい」

 

 この人、怒ってる時はすぐに返事して来るよな。そういうところも可愛いんだけど。

 俺は仕方なく、お言葉に甘えて目を閉じた。

 

 ×××

 

 乗り換えては寝て、乗り換えては寝てを繰り返し、舞浜に到着した。チケットを二人分購入し、いざ入園。

 

「………おお、スッゲ」

 

 中に入ると、割と別世界だった。外国のような街並みを再現したようなお店が広がっていて、日本の要素は皆無だった。

 

「…ふわあ………!」

 

 鷺沢さんも感動しているようで、目を輝かせて辺りを見回している。

 

「……鷹宮さんっ、私あのお店入りたいですっ」

「………分かりました。行きましょうか」

 

 スゲェ、はしゃいでるよ鷺沢さんが。ギャップすごくて可愛過ぎる。何この子、天使か?あ、天使か。

 鷺沢さんの指差す店の中に入ると、まぁ当たり前だけどお土産製品や、よくCMとかで付けられてるミ○キーの耳を剥ぎ取ったカチューシャがたくさん並べられていた。

 鷺沢さんは少年の目をしたまま、店の中を見回った。けど、なんだ?異様に見回るペースが早いな………。

 

「どうしたんですか?」

 

 聞いてみると、鷺沢さんは困ったように呟いた。

 

「…………本が売ってないです」

 

 そりゃそうだよ君。何を期待してんだよ。

 

「や、ここお土産とか、園内で付けたりするものを売ってる場所なんで………ていうか、なんで本が売ってると思ったんですか」

「……だってお店、ですよね?」

「はい」

「………大体のお店なら、せめて漫画本だけでも売ってませんか?普通」

「ごめん、そこちょっと難しいです」

「………本が無いのでしたら、用はありません。あ、でも奏さん達にお土産買いたいので、帰りに寄っても構いませんか?」

「いいですけど………」

 

 この人も大概冷めてんな……。仕方ない。こういう所の楽しみ方を教えてやるか。

 

「鷺沢さん、少し待っててもらえませんか?」

「……何か買うのですか?」

「まぁ、一応」

「………分かりました。私は外で待機しています」

 

 どんだけこの店に興味なくしてんだよ。まぁ、別にどっちでも良いけど。

 なんか少し待たせるのが申し訳なくなり、なるべく早めに買い物を済ませて、外で壁に寄っかかってる鷺沢さんと合流した。

 

「鷺沢さん、お待たせしました」

「………あっ、はい」

 

 こっちに振り向いた直後、俺は鷺沢さんの頭にミ○ーマウスの耳をもぎ取ったカチューシャをはめた。

 

「きゃっ……?」

 

 頭に手を当てて、何が自分の頭部に装着されたのかを確認する鷺沢さんを、俺はスマホで写メ撮った。うわっ、我ながら完璧なチョイスをしたな。可愛過ぎて鼻血出そう。

 で、その写真を鷺沢さんに見せた。

 

「………こうやって、楽しむものらしいですよ。デ○ズニーは」

「………わぁ」

 

 それを見て、鷺沢さんは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに慌てたような表情になった。

 

「……って、ち、ちょっと!勝手に撮らないで下さいっ」

「撮っちゃったもんは仕方ないでしょう。さ、なんか乗りましょう」

「あっ……もうっ……」

 

 不満げな声を漏らした割に、楽しそうな表情で微笑んだ後、鷺沢さんは後ろから俺の手を取った。

 

「っ?」

「……行きましょう」

 

 ………可愛いなぁ、この人。1400円でこの鷺沢さんが見れたなら安いものだ。………しかし本当に俺、今日この人に告白するのか……。なんか緊張して来たな……。

 いかんいかんいかん、その時までは楽しむって決めたろ。アホか俺は。何か乗り物に乗って気を紛らわそう。

 

「…………まず何乗ります?」

「……そう聞かれましても、私はこういう場所には疎いもので……」

「あ、そうですよね」

 

 俺もだが。

 

「とりあえず、有名な奴から乗っていきましょうか」

「……そうですね」

 

 と、いうわけで、俺達は近くの有名な乗り物、ビッグサ○ダーマウンテンを目指して歩き出した。お土産屋の所を抜けると、まず見えたのはシン○レラ城だった。

 

「わぁ………っ!た、鷹宮くん!見てください、お城ですよお城!」

 

 いつになく興奮した様子で、鷺沢さんは小走り気味に城の方へ走った。途中で花畑みたいな場所に当たるため、そこで止まって、身を乗り出して城を眺めた。

 

「……すごいですね……」

「………はい。ちょっと驚いてます」

「………これなら、ジャブローのアトラクションが出来るのも時間の問題かもしれませんね……」

「ごめん、それはちょっと意味わからないです」

 

 どんだけ興奮してるんだよ。

 

「……あの中って入れるんですか?」

「いや、前まではアトラクションだったらしいんですけど、今は運営終了したみたいです」

「………そうでしたか。それは少し残念でしたね」

「や、でも似たようなアトラクションあるんで。そっちなら行けますよ?」

「…ホントですか?」

「後で行きます?」

「はいっ!」

 

 よし、言質は取った。スマホの録音モードをオフにすると、俺は地図の「ホーンテ○ドマンション」の所に丸をつけておいた。

 そんな話をしながら、ビッグサ○ダーマウンテンに向かい、列に並んだ。飲み物もちゃんと用意してあるため、水分の問題はない。

 問題は並び時間の方だが、俺達オタクにとって、話題というのは尽きるものではない。好みのアニメが同じなら尚更だ。

 

「………鷺沢さん」

「……なんですか?」

「ストライク・ザ・ブラッド、見ましたか?」

「……………」

 

 会議の時間が始まった。と、思った直後、鷺沢さんは顔を赤くして俯いた。

 

「…………えっち」

「えっ、なんでっ?」

「………あの小説は1巻まで読めなかったです」

「なんでですか。結構面白かったと思いますけど」

「……だ、だって!主人公がっ、そのっ………姫柊さんの首に噛み付いたり………姫柊さんも、服を脱いで興奮させたり………」

「そうしないといけなかったんだから仕方ないじゃないですか」

「………で、でも、その……恥ずかしくて、頭が真っ白になっちゃって………」

「……………」

 

 まぁ、合うものと合わないものがあるよなぁ、ラノベには。しかしそうなると、少し申し訳なかったかもしれん。話題を変えるか。

 

「じゃあアレは?けいおん!とか」

「……はい、アニメ見ました。とても面白かったですよ。ああいうアニメもあるんだなと思いました」

「ああいうって?」

「………なんと言いますか、ほのぼのした感じの女子高生の生活そのまんまみたいな。でも、三年生の学園祭のライブで皆さんが泣くところは、私も泣いてしまいました」

「あーそこ俺も泣きましたね。たまにああやって感動させて来るのズルいですよね」

「………ちなみに、推しキャラは?」

「唯」

「……あずにゃんですよ!」

「お、おう……」

 

 鷺沢さんが「にゃん」て言うとすごく可愛いな………。

 

「まぁ、鷺沢さんが梓の方が好きならそれで……」

「いいえ、鷹宮くんがあずにゃんの方が可愛いって言うまで許しません」

 

 えぇ………なんで共有したがるんだよ………。別に人にはそれぞれ好きなタイプとかあるんだから良いだろ………。大体な、そこまで開戦の狼煙を焚かれるとさ……。

 ___________唯(推し)の方が可愛いって覆したくなるだろッ‼︎

 

「いや唯のが可愛いです。バカと天才は紙一重をあそこまで表現した可愛い子はいませんから」

「いいえ!でも少しあざといです!ああいう、真面目系歳下の女の子の方が可愛いんです!」

「カムバック!私!って真面目か?」

「まっ、真面目だからこそ出ちゃった言葉です!」

 

 この論争、乗り物に乗る直前まで続いた。

 

 ×××

 

 ビッグサンダーマウンテンを乗り終え、論争は何処かへと消えて行った。現在、ベンチで休みながら、感想を言っていた。

 

「いやー、面白かったですね。意外と」

「………は、はい……」

 

 結構、体力を使ったのか、鷺沢さんはベンチの背もたれにだるーんと寄っ掛かっている。

 

「あ、飲み物いりますか?」

「………すみません、いただきます」

 

 リュックから、凍らせておいたスポドリを取り出し、鷺沢さんの頬に当てた。

 

「ひゃっ?」

「どーぞ」

「も、もうっ!何するんですかっ!」

 

 文句を言った割に、素直に飲み物を受け取り、凍ったスポドリを飲み始めた。

 

「………んっ、ふう。ありがとうございます」

「あ、それあげますよ。あと二本、鞄の中に入ってるんで」

「……じゃあ、いただきます」

 

 鷺沢さんは鞄の中に飲み物をしまった。まぁ、君がぶっ倒れないようにするためのものなんだけどね。流石に3本もあれば大丈夫だろ。ここでも飲み物は買えるし。

 

「もう少し休んでから、次に行きますか?」

「………いえ、時間が勿体無いので、次に行きましょう」

「そ、そうですか。でも、無理しないで下さいよ」

「……大丈夫です」

 

 まぁ、確かにまだ顔色悪くないしな。万が一の時は、どっかの店にでも入って涼めば良いか。

 

「次は何乗ります?」

「……んー………あっ、あれ。あれが良いですっ」

 

 鷺沢さんの指差す先には、スプ○ッシュマウンテン。おい、あれ確か最後の最後で水浸しになる奴じゃ………いや、まぁ夏には持って来いなんだろうけども。

 

「マジですか?」

「……はい♪」

 

 そんな楽しそうに答えんな。行くしかなくなるだろ。

 

「分かりました。行きましょうか」

「あっ……手………」

 

 頷いて二つ目の山に向かおうとした直後、鷺沢さんから切なそうな声が聞こえた。

 

「…………」

「…………」

 

 控えめに俺に差し出された手。俺はゴクリと唾を飲み込むと、その手を取った。

 

「…………これで良いですか」

「…………は、はい」

 

 恥ずかしがるくらいならそんな声上げないでお願い。

 手を繋いで、二人でスプ○ッシュマウンテンに向かった。二連続絶叫系か……。気を引き締めなければ。

 すると、その道中に、リスの着ぐるみの人が立っていた。

 

「あっ………」

「おっ、なんだっけ?どっちだっけあれ」

「………すみません、私もどっちがどっちなのかはイマイチ……」

 

 ジーッとチ○プだかデ○ルだか知らないが、それを見つめる鷺沢さん。

 

「………写真撮ります?」

「……いえ、別に。ただ、暑そうだなーと思って見てただけですので」

 

 この人意外とその辺は冷めてんのかよ……。まぁ、その意見には俺も全面的に同意だが。

 着ぐるみをスルーして、俺と鷺沢さんは目的地に到着した。ここも長蛇の列なので、面白いジ○リ作品について語りながら順番を待った。

 列は室内に入り、少しクーラーが効いて来た。

 

「……面白い内装ですねー」

「まぁ、デ○ズニーなんでね。少しでも世界観に合わせようとしてるんでしょう」

「………鷹宮くんはそういうの嫌いなんですか?」

「大好きですよ?ただ、こういう内装はユニバのハリポタのがすごいですからね。どうしても見劣りするというか」

「………ああ、最近オープンしたあれですか?ニュースで見ました」

「最近でもないんですけどね」

 

 もう二年くらい経ってるか。時の流れとは早いものだ。ハリポタができて、速攻で行ったからなー。中学の時は剣道部に友達いたから、一人で大阪まで行くような寂しいことにならならなかった。懐かしいなぁ、誰一人連絡は取ってないけど。

 すると、ようやく乗り物に乗る順番がやって来た。何を血迷ったのか、俺達は一番先頭。いざ、出発進行。

 ガタンッと動き出し、ゆっくりと洞窟内部を進んで行く。うさぎときつねみたいな奴の人形が置かれていて、それを見かけるたびに鷺沢さんが感情移入してる可愛い。

 にしても、遅いなこの乗り物。乗り物に関しては、ランキングで軽く調べただけだが、これが上位に食い込んでた意味が分からん。

 そんな事を思ってた時だ。グラッと車体が揺れた。何事かと思って前を見ると、ジュラ○ックの時と同じような下りレーンが目の前にあった。

 

「っ⁉︎っ⁉︎ッ⁉︎」

 

 ト ラ ウ マ 再 来 ッ ‼︎

 

『キャアアアアアアアアアア‼︎』

「ギャ丫丫丫丫丫丫丫丫丫丫‼︎」

 

 一人だけ異質な叫び声と共に、俺は急降下した。

 

 


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