鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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彼女が出来ました。
一番タチの悪いバカップルは自分達がバカップルと自覚してないバカップルだ。


 鷺沢さんが俺の彼女になり、はや三日が経過した。俺は毎日のように鷺沢さんの家に足を運び、ゲームをプレイしたりアニメを見たりしている。

 一昨日はなんか様子が変だったが、まぁ俺も恋人になったことで変に意識してしまっていたし、お互い様だったかもしれない。まぁ、今にして思えば、恋人になる前もほとんど恋人とやってる事は変わっていなかったので、あまり気にする必要はなかった。

 だが、一つ別の問題が浮上していた。鷺沢さんが想像以上に甘えて来る。今、現在だって、ソファーの上で俺の肩に頭を置き、そのワガママボディを俺に超押し当てて来る。オッパイが腕に当たってすごい。何がすごいって、なんかもう色々とキャバクラにいる気分。

 

「………あの、鷺沢さん?」

「……むー」

「あっ………ふ、文香さん?」

「……はい。なんですか?」

「なんでそんなくっ付くんですか?」

「………嫌ですか?」

「嫌じゃないですけど………」

「………なら良いじゃないですか。外では本屋以外会えないし、千秋くんの家にも行っちゃダメって言われてるんですから」

「……………」

 

 流石に一度に色々と封じ過ぎたか……。人の縁なんて割と簡単に切れるから周りに怪しまれる事は無いと判断して封じてみたが、鷺……文香さんの方がここまで変わるとは思わなんだ。

 

「でも、その……そんなにくっつかれると……」

 

 色々とヤベェんだよ。いや、でも落ち着け俺。せめて文香さんがアイドルをやめるまでは、不純異性交遊はしないと決めただろ。煩悩を焼き尽くせ、俺。

 そうだ、文香さんが好きなもので気を紛らわせば良い。

 

「文香さん、ゲームしませんか?」

「……ゲーム、ですか?」

「はい。実は俺、懐かしいもん持って来たんですよ」

 

 そう言って俺が立ち上がると、鷺沢さんも俺の腕にしがみついたまま立ち上がった。

 

「…………なんで?」

「……離れたくありません。一緒に行きましょう?」

「志○けんのコントですか。俺のリュックすぐそこですよ?」

「………嫌ですか?」

「……………」

 

 こ、この人面倒臭えええええええ‼︎マジかこの人!マジか⁉︎あれっ、こんな人だったっけ⁉︎バカップルじゃねぇんだよ!

 こっちだって色々くっ付きたいのを我慢してんのにこいつは………‼︎いや、落ち着け。怒るな。こんな時くらい文香さんの好きにしてやれ。彼女の言う通り、文字通り俺の彼女の言う通り会えるのはこの空間だけなんだから。

 リュックの中から○4を取り出し、スマブラのカセットやコントローラーを二つセットした。

 

「………これ、なんですか?」

「俺が幼稚園入る前に親父が買ったゲームです。面白いですよ」

「………へぇ〜、やりたいですっ」

「じゃ、やりますか」

 

 コントローラーを伸ばし、片方を文香さんに手渡した。で、説明書を渡した。

 

「これ、説明書です」

「………教えてくれないんですか?」

「それ読みながら、俺のプレイ見てください。その方がわかりやすいと思いますし」

 

 まぁ、このゲームは説明するの難しいし。何より、応用性の高いゲームだから、説明される方がやりづらいだろ。

 そんな事を思いながら、1Pプレイを始めた。とりあえず、文香さんの分かりやすいようにマ○オを使った。その間にスマッシュや復帰などや、必殺とかを見せた。

 

「………なるほど」

 

 文香さんは飲み込みは早いから操作はマスタ○ハンドまで行けば分かるだろう。一周し終わって、俺は文香さんに聞いた。

 

「分かりました?」

「………はい、一応」

「じゃ、やりましょうか。対戦」

 

 文香さんは頷いてコントローラを握った。とりあえず、やりますか。

 俺は小手調べにマ○オを選んだ。文香さんはリ○クを選んだ。なんつーか、ぽいわ。あの人、剣使うキャラやけに好きだし。

 そんなわけで、スマブラを始めた。

 

 〜1時間後〜

 

「……もっかい、もっかいです!」

「まだやるんですか……」

 

 どハマりした。さっきから俺が25連勝くらいしてるが、諦めてくれない。

 

「あの、リ○ク以外使ったらどうですか?」

「……ダメです!リ○クさんが一番カッコ良いんです」

「…………」

「………特に、ビームソードと二刀流の時とか最高ですね」

 

 どんだけ惚れてんだよ。全ての元凶はキリトなんだよなぁ。特に二刀流が大好きだ。京楽、浮竹、ビスタ、終兄さん、太刀川さん、四乃森蒼紫とか。なんで全部ジャンプなんだよ。や、キリトはジャンプじゃないけど。

 ちなみに、リ○ク使っててビームソードが落ちたら、まず間違いなく拾って、そのまま手離さない。

 

「ならせめて途中で投げて攻撃したりすれば良いじゃないですか」

「………それで二刀流じゃなくなったらどうするんですか」

 

 知らねーよ。

 

「そもそも、リ○クの必殺技は復帰技以外剣使わないじゃないですか。Aボタンとかだとビームソードになるし、ほぼほぼ一刀ですよね」

「…………」

 

 確かに、という顔をする文香さん。

 

「それなら投擲用にして、ダガーと剣の二刀みたいにした方がカッコ良いと思いますよ」

「………確かに。少し試したいです!」

「良いですよ」

 

 と、いうわけで、再開した。とりあえず、俺はいつまでマ○オを使えば良いんだろうか。

 対戦を開始。ステージはハイラル城、鷺沢リ○クはブーメランを飛ばして来た。それをジャンプで躱しながらファイヤーボールを撃った。ガードするリ○ク。

 

「……っ」

 

 ↓Aで回転しながら蹴りを入れると、胸ぐらを掴んで後ろに投げ飛ばし、空中に跳ねながらファイヤーボールを放った。リ○クは緊急回避で躱しながら後ろに下がって、ボムを出すと投げて来た。

 

「とうっ」

 

 口で言っちゃうふみふみかわいい。

 ボムを俺がガードしてる隙に接近され、投げ技を仕掛けて来たので後ろに緊急回避し、スマッシュを放った。

 

「ちょっ……待っ」

 

 吹っ飛ぶリ○クを追撃し、メテオを放とうとしたが、回転斬りでこっちが吹っ飛ばされた。吹っ飛んだマ○オにブーメランを放たれ、さらに後ろに吹っ飛んだ。

 

「よっし………!」

 

 ようやく攻撃が決まったからか、嬉しそうに声をあげながら追ってくるリ○ク。すると、ちょうど良い事に箱が落ちて来た。

 

「来たっ」

 

 その箱をリ○クが嬉々として壊した直後、爆発してリ○クは吹っ飛んだ。死んで残り残機1。

 

「…………」

「……何してるんですか」

「………い、良いんです!ここからです!」

 

 なんで涙目なんだよ。ゲームになると子供っぽくなるな、この人。まぁ、そういうところも可愛いんだが。

 ………まぁ、あまりボコボコにすると嫌われるかもしれないし、そろそろ接待モードに移行するか。リ○クが降りて来て、ブーメランを放って来た。それをジャンプで避けると、さらに空中に飛んで来て斬られた。

 左の方にマ○オが吹っ飛ばされたところにボムを投げて来て、爆発した。まだステージの上だったので、空中で受け身を取りながら、ファイヤーボールを撃ちつつ着地。そのファイヤーボールをジャンプで避けながら接近すると、投げ技でステージの外に投げ出され、回転斬りで追撃を喰らった。リ○クは着地し、マリオで何とか復帰したところ、スマッシュで吹っ飛ばされた。

 

「よっし……!」

 

 文香さんが嬉しそうな声を漏らした。これで、残機は1対1。ここから、うまい具合に勝たせよう。

 マ○オが戻って来て、しばらく攻防を続けた後、アイテム箱が落ちて来た。文香さんはそこに一目散に向かって行った。カプセルを投げて壊し、中からビームソードが出て来た。よし、良い感じだ。

 

「やたっ……!」

 

 嬉しそうに文香さんはビームソードを持つと、俺に向かって来た。いきなりビームソードを投げて先制し、俺を吹っ飛ばすと、投げたビームソードを拾いながら追撃して来た。

 復帰しようとして、ギリギリ左側の屋根の上に着地した所、ビームソードを投げられてまた吹っ飛んだ。

 それでも、ギリギリセーフだったので戻ろうとしたが、回転斬りをされて吹っ飛んだ。よし、良い感じに負けた。ゲームの画面にはリ○クがポーズを取っていて、マ○オが拍手をしている。

 しかし、それとは裏腹に文香さんの表情は不満げだった。アレ、なんで怒ってんの?

 

「………文香、さん?」

「………千秋くん、今手を抜きましたね?」

「えっ?」

「……あんないきなり上手くいくはずないです。………なんで、そんな風に気を使うんですか?」

「………あー」

 

 バレたか……。いや、でも完膚無きまでに叩き潰したら、それはそれで不貞腐れるだろうに………。

 

「………交際を始めてから、ずっと千秋くんはそんな感じです。私とは、そんなに気を使わないとお付き合い出来ませんか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「……それなら、せめて二人で部屋にいる時くらい、私に気を使わないでください」

 

 文香さんは俺の肩に頭を置いた。肩の辺りの服をキュッと掴み、顔を赤くしてボソリと呟いた。

 

「………私は、鷹宮千秋くんとは、気を使わないでいられる関係で…いたい、です………」

「…………」

 

 何それ可愛い。

 

「………いいんですか?二人の時とか、素を出しても」

「………当たり前です。恋人というのは、お互いにそういうものでしょう?」

 

 …………マジでか。なら、遠慮なくいかせてもらうか。俺は肩に頭を置いてる文香さんの肩に手を置いて、自分から引き剥がした。

 

「へっ……?」

 

 地味にショックを受けてる文香さんに、俺は顔を近付けた。それに合わせて、顔を赤く染め、口をパクパクと動かす文香さん。

 

「っ!ちっ、ちあきさん⁉︎にゃっ、なにを………⁉︎」

「………動かないで」

「っ………‼︎」

 

 目を閉じる文香さんの後頭部に手を回し、髪をかきあげて前に回し、俺の顔に近付けた。

 

「………………へっ?」

 

 恐る恐る目を開けて俺を見る文香さんを無視して、俺は髪の匂いを嗅いだ。ああ……シャンプーの匂いがする………。

 

「………な、何をしてるんですか……?」

「いや、一度で良いから文香さんの髪の匂いってのを嗅いでみたかったんですよ。小学生の時に仲良かった女の子の髪の匂い、好きだったんで」

「………………は?」

「文香さんの髪の匂いマジで良いです……。後頭部に顔突っ込んでも良いですか?」

「…………………」

 

 文香さんは軽く息を吸うと、普段からは考えられないくらい口を大きく開けた。

 

 「バカーーーーーーー‼︎」

 

 ………キーンと来た。今、耳がキーンと来たよ。鼓膜破れるかと思った。

 音爆弾を喰らったイャンクックの如くクラクラしてると、文香さんはクッションで俺の頭を押し潰すかの如く押し当てて来た。息が出来なかったので、顔をなんとか横にした。

 

「もうっ!もうもうもう本当にもうっ‼︎あなたと言う人は‼︎」

「なっ、なんですかいきなり⁉︎気を使わなくて良いって言うからすこし素直になったのに……‼︎」

「そういう事じゃありません‼︎わ、私はてっきり………‼︎」

「………てっきり?」

「…………き、キスしていただけるもの、だと……」

「………………」

 

 嫌だこの子可愛いほんと。てか、何?キスしても良いの?いや、ダメだろ。遠慮してるとかじゃなくて、俺はファーストキスだぞ。聞いたところによると、キスには上手い下手があるんだろ?下手くそだもん絶対。

 ………でも、その、なんだ。その言い方をされると、一つ聞いておかなければならないんだが。

 

「……じゃあ、その、何?キスしても、良いってこと……ですか?」

「………今日は絶対ダメです。それより、一つ良いですか?」

「あ、はい」

 

 今日は?という質問をさせないように、文香さんは質問して来た。まあその件は後で聞くとして、まずは質問に答えよう。

 

「………その、小学生の頃に、仲良かった女の子と私の、髪………どちらが良い匂い、でした?」

「……………へっ?」

「っ………」

 

 えっ、何その質問。どういう事?

 

「………で、ですから、小学生の時の女の子と私の髪、どちらが良い匂いだったかって事です………!」

「そりゃあ文香さんですけど」

「………………」

 

 この人、なんで嬉しそうな表情を必死に隠してるんだろう。すると、文香さんから押し付けられてるクッションの力が弱まった。何事かと思って体を起こすと、文香さんは俺に背中を向けていた。

 

「………そ、そうでしたら、その……どうぞ」

「……………へっ?」

「……べ、別に普通に嗅がれる分には構いません。へ、減るものでもないです、し……」

「………………」

 

 マジかよおい。そんなこと言われたら俺、遠慮しないよ。俺は深呼吸してから、文香さんの後頭部に顔を突っ込んだ。

 

「ひゃんっ……!」

「………ああ、やっぱ良い香り……」

「……ち、千秋くん……!そこで喋らないで………い、息が……‼︎」

「………なんだろうな、シャンプー以外にも香ってるこの香り……もしかして、文香さん本人の匂い?」

「じ、実況しないで下さい‼︎は、恥ずかしいですよぅ……‼︎」

「………んっ、ここは首筋か?」

「ッ⁉︎ち、ちょっと!嗅ぐのは髪だけじゃ………‼︎」

「首回りからも良い香りが………やっぱこれ文香さんの体臭かな」

「っ………も、もう勘弁してくださいぃ…………」

 

 なんか気付いたら文香さんが悶えてた。俺が後頭部に顔を突っ込んでる間に何が………いや、考えるのはよそう。

 とりあえず離れると、文香さんが俺の方を睨んだ。

 

「………今度は私の番です」

「あっ?」

 

 文香さんは俺の胸に飛び付いて、押し倒して来た。そのまま、猫のように俺の胸の上で丸まった。

 

「………ふふっ、私、こうやって恋人の上で眠るのとか憧れてたんです」

「そ、そうですか……」

 

 どうでも良いけど、女の子の体超柔らかい。プニプニしとる。何これ、カ○ビィなの?ていうか、なんか色々と変なテンションになって来てない?別に良いけど。

 

「………千秋くん」

「なんですか?」

「………恋人の夏休みって良いですね」

「なんですか急に」

「……だって、その……好きな人と、毎日会える、から…………」

 

 ………ああもうっ、この人は本当に可愛い。何なの?天使なの?フルタカエルなの?いっそのこと求婚しちまおうか。いや、後悔しそうだからやめとこう。

 

「………そうですね」

 

 とりあえず肯定しておきながら、俺は何となくスマホを見た。あと何日でこの夏休みが終わってしまうかを見るためだ。

 

『8/30』

 

「…………えっ?」

「どうしました?」

「…………」

「……千秋くん?」

「………夏休み、あと明日で終わりです」

「……………えっ?」

 

 俺と文香さんの世界が終わる音、確かに聞こえた。

 

 




眠気に耐えながらだったので、またやり直す可能性あります。

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