8月31日、千秋が帰った後、文香は寝巻き(上は半袖シャツ、下は下着。千秋がいるときはちゃんとズボン履いてた)に着替えて、自分の唇に触れた。ここに、さっきまで千秋の唇がくっ付いていた。それどころか、唾液の交換まで行った。
「っ………」
そのまま、ベッドに寝転んだ。ここで、千秋と寝ていた。いや、何もエロいことはしてないけど、朝はお尻を触り、胸前で寝転がり、抱き締められた場所だ。
思い出すだけでも秘部がキュッと締まるのを感じた。気が付けば、手が勝手に脚の間に向かった。その直後だった。
ピンポーン
「わひゃあぁアあ⁉︎」
思わず奇声を上げてしまった。で、慌てて手を引っ込めて起き上がり、インターホンを出た。
「は、はいっ」
『文香?遊びに来たわよ』
スーパーとTSU○AYAの袋を持った奏だった。文香はホッとため息をついて、マンションの自動ドアを開けると、玄関の鍵を開けた。
数分後、奏が入って来た。
「……どっ、どうしたんですか?」
「んー、近くに来たから。あと、最後の夏休みどこまでしたのかなって思って」
「………シたって、何を?」
「ん?不純異性交遊」
「ッ⁉︎」
顔を真っ赤にする文香の横を素通りして、奏は「お邪魔しまーす」と言いながら部屋の中に入った。
「文香ー?ほらおいでよ」
「っ!は、はいっ」
慌てて、文香は奏の後に続いた。二人でソファーに座り、奏の買って来たお菓子と飲み物を机に並べた。そして、最後にBlu-rayを開けて、のんのんびよりをつけた。
「……今日はのんのんですか」
「ええ。さ、女子会を始めましょう?」
まぁ、ほとんど文香の惚気話だけど、と心の中で付け加えた。
「で、どうだったの?最後の夏は。随分と顔が赤いけど、何か良いことでもあった?」
「……えっ、そ、そうですか?そんな事ないと思いますけど……」
「いいえ?何かあったわね。まぁ、誰にも(ありす、凛、加蓮、奈緒、周子、フレデリカ、唯、アーニャ、卯月、未央←newは除く)言わないから」
「………えっと、そのですね……」
文香は俯きながら、頬をぽりぽりと掻いた。
「……ベッドの上で、千秋くんに抱いてもらいました」
「ぶごっ‼︎」
「⁉︎ か、奏さん⁉︎」
奏が飲んでたジンジャエールを鼻から吹き出し、文香は慌ててティッシュを取りに行った。
「……大丈夫ですか?」
「あ、あいじょうぶ……それより文香!」
「は、はいっ?」
「だ、抱いてもらったってどういう事⁉︎場合によっては……‼︎」
鷹宮を殺す、そう思った直後、文香は恥ずかしそうに言った。
「……は、はい。その、一緒に寝てるときに、私の方が先に目を覚ましまして………」
「おお」
「……お、おお?……それで、その……興味本位で、千秋くんの胸前で丸まったんですけど……」
「おお」
「………その時に、抱きしめてもらって……」
「…………はっ?」
「……千秋くん、起きてたのに寝たふりして抱きしめてくれて……!もう、照れ屋さんなんですから♪」
「………抱いてもらったって、そういう意味?」
「…………? 他にどんな意味が……あっ」
カアァッと顔が赤く染まっていく文香。そして、真っ赤な顔で奏をジト目で見た。
「………奏さんの、えっち」
「なっ……あなたに言われたくないわよ!パンイチの癖に!」
「あっ……!み、見ないで下さい!」
「いや、女同士なんだしそんな照れなくても……なんならそのままでも良いのよ」
「……ズボン履きますっ!」
文香は寝室からズボンを取りに行った。すると、目に入ったのは千秋の履いていたジャージのズボン。自分が貸していた奴だ。
「…………」
それを履いてリビングに戻った。奏の隣に座り、のんのんびよりを見ながらお菓子を食べた。
「……まったく、こんな時間からこんなもの食べたら太っちゃいます」
「と、言いながらパクパク食べるのね……。でも、あなたはそういうの気にしたことなかったじゃない」
「……そうですか?」
「やっぱり、彼氏が出来ると人間変わるわねー」
「っ!そ、そんなんじゃないです‼︎」
「いや、別に恥ずかしいことじゃないと思うわよ?私でもそうなるもの」
「………そ、そうでしょうか?」
文香の質問に奏は頷きながら、ポ○キーを咥えた。
「それで、どこまでやったの?」
「………どこまでと言われましても……昨日から泊まりに来ていたのですが、スマブラやって、髪……あ、いやその後は一緒に夜ご飯作って、晩御飯作って、その時に指を……あ、いやなんでもないです。その後はホラー番組見て……」
「ふーん……それで、途中でごまかした二箇所は何があったの?」
「……………」
ニコニコと微笑みながら言われて、文香は黙り込んだ。だけど、言わないとなんか許してくれなさそうな雰囲気だったが、絶対に言いたくなかった。だから、素直にはぐらかした理由を白状した。
「………奏さん、髪の方は言いたくないです」
「あら、どうして?」
「…………その、千秋くんの性癖に関わること、ですので……秘密にしておきたいんです………」
「………………」
「……私以外の女の人に、知られたくない、というか………」
顔を赤くして途切れ途切れにそう言う文香を見て、奏はフッと微笑んだ。
「……そう、聞かないわ」
「………すみません」
「ううん、私もしつこく聞いちゃってごめんね。晩御飯の時の指の件も聞かない方が良い?」
「…はい。聞かない方が良いです」
「よし、聞いちゃおうかな」
「……………」
即答されたので、即バレした。
「………言わなきゃ、ダメですか?」
「ダメ」
「………………」
今度こそ観念したように文香は顔を真っ赤にして話し始めた。
「………その、料理してて、指を切ってしまって……」
「あら、大丈夫だったの?」
「……はい。それで、その時に千秋くんに心配していただいて……」
「いただいて?」
「…………指を咥えられて……」
「それで⁉︎」←元気溌剌興味津々意気揚々
「…………少し、気持ち良くて……私、変な性癖があるみたいで」
「…………」←疲労困憊無味乾燥意気消沈
「………もう一回、噛んで欲しいんですけど…千秋くんに言ったらドン引きされてしまいますよね……」
奏はどう反応したものか悩んだ。というか、自分が口を挟んで良いものなのかも悩んだ。けど、なんか色々と面倒になったので、ぶっちゃける事にした。
「いや、大丈夫じゃない?」
「………そ、そうでしょうか」
「うん。だって、彼の性癖がなんなのかあなたは知っているわけでしょう?」
「……は、はい」
「なら、彼にあなたの性癖を教えると、お互いフェアになった感じで、少し嬉しくないかしら?」
「………確かに」
文香は顎に手を当てて呟いた。
「………そうですね、明日にでも伝えてみようと思います」
「いや、そういうのタイミングを図らないと……というか、明日って彼は学校でしょう?」
「……そうですよ?明日も千秋くんうちに来ますよ?」
「………いや、あなた明日仕事じゃない」
「……ですから夜です」
奏はスルーする事にした。
「それで、昨日はどうしてたんだっけ?」
「………えーっと、ホラー番組見て……それで一緒に寝て……」
「えっ?い、一緒に寝たの?一緒に寝て、何もしなかったの?」
「………千秋くん、ホラー番組に心底ビビってて、それどころじゃなかったんですよ。私の手、絶対離さなかったんですから」
「あら、そうなの……。それで、今日は?」
「今日は………朝、彼と起きて………朝ご飯食べて……そう、聞いてくださいよ。千秋くん、今日まで全然夏休みの課題やってなかったんですよ?」
「じゃあ何?教えてあげたの?」
「いえ、彼が全部一人でやってましたけど……。それで、終わった後………」
そこで文香が思い出したのは、千秋とキスしたこと。直後、またまた顔を赤くした。
「……………」
「何?何かしたの?」
「………その、口付けの方、を……」
それを聞いて、奏はすっごい楽しそうな顔になった。
「何?どんな?どんなキス⁉︎」
「はっ、ハッキリ言わないで下さい!」
「良いじゃない、それでどんなキスしたの?」
「…………その、普通にです」
「普通ってどんなのよ。ハリーとチョウみたいな?」
「………あ、あそこまで激しくしてません‼︎」
「ってことは、そこそこ激しいの?」
「〜〜〜っ!も、もう!奏さん!」
「冗談よ、冗談。ちなみに、どちらから誘ったの?」
「……わたしです」
「………あのヘタレ」
奏は2本目のポ○キーを噛み折った。
「普通そういうのは彼氏からするものでしょう……」
「………ま、まぁ千秋くんですし……。あ、でもキスはこれから、会ったら毎日してくれるみたいですよ?……というか、私の方がキスしないと保ちそうにないです」
「ごめん、そこちょっと何言ってるのかわからない」
「私、恥ずかしながら、もう千秋くんと1日でも会わないと……その日は生きられる気がしなくて……。幸い、明後日は土曜日ですから、泊まっていくこともできます」
「あんた達………そんなんで、本格的に学校始まったらどうする気なのよ。二学期は色々と学校でもイベントがあるものでしょう?」
「……大丈夫です。文化祭も体育祭も、彼はサボって私の家に来るそうですから」
「いやいや、そういうんじゃなくて。てか、あの子どんだけ暗い青春送ってんのよ……」
呆れ気味に呟いてから、奏は自分の伝えようとしたことを言った。
「……彼、高校二年生なんでしょう?修学旅行があるんじゃないの?」
「…………へっ?」
「三日か四日、長い所だと一週間くらいかしら?あなた、その間彼に会えない事になるけど、大丈夫なの?」
「……………」
文香はそのままフリーズした。