翌日。SAOショックとも言える激震から覚め、俺は欠伸をしながら朝、目覚めた。10月8日、文香さんの誕生日まで二週間と五日しかない。それでも、文香さんに渡すストールは決まっていない。そもそも、ストールにしようかも決まっていない。
それ以外にも問題は山積みだ。どこで誕生日パーティをやるか。どうやってプレゼントを渡すか、何も決まってない。そもそも分からない。
どうしようか悩みながら歩いてると、花屋の前を通りかかった。……ふむ、花か。悪くないかも。俺は花なんてもらっても育てるの面倒臭そうで困惑するだけだが、女の子はこういうの好きそうだよな……。
いや、しかし花には花言葉ってもんがあるんだろ?間違って「生まれて来なけりゃ良かったのに」みたいな花言葉の花買ったら最悪だよなぁ。
「……ふーむ」
「何かお探しで……あっ」
「あっ、すいま……あっ」
声を掛けられ、横を見ると渋谷さんが立っていた。久し振りにこの人と会ったなー。
「ど、どうも。………え、アイドルなのにバイトしてんの?」
「や、違うよ。これ実家」
「えっ……じ、実家?」
「うん」
じ、実家か……。なるほどね。文香さんの実家よりも先に突き止めることになるなんてな………。
ポカンとしてると、渋谷さんが聞いて来た。
「何、どうしたの?」
「や、その前に一つ。鷺沢さんとのあれ知ってる人だっけ?」
「付き合ってるんでしょ?知ってるけど?」
「あ、ならいいや。文香さんの誕生日なんだけどさ……」
「何、近いの?」
「うん。10月27日」
「へぇー。何かあげるの?」
「まぁ、色々候補はあるんだけど、それ以前にどこでやるかーとか色々悩んでてさ……。そしたら、花屋があったわけで、何となくここを見てて現在に至る」
「ふーん……。誕生日に花、か……。………学生がやるにはキザ過ぎない?」
「あー……だよね」
「ちょっと待っててよ。私も一緒に考えるから。もう少しで店番終わるし」
「えっ?一緒に考えてくれんの?」
「私も同盟メンバーだからね。駅前のマック分かる?あそこで待っててよ」
「了解」
との事で、俺はマックに向かった。
×××
とりあえず、ポテトとナゲットと飲み物を注文してカウンター席で待ってると、見覚えある顔が三人に増えてやって来た。
「お待たせ」
「やっほー」
「久しぶり」
「………なんで北条さんと神谷さんもいんの?」
「んー、なんか面白そうだったから」
渋谷さんが呼んだらしい。この野郎、人の真剣な悩みをよくも……。
「ていうか、なんでカウンター席に座ってんの?」
「そうだよ。普通、四人席だろ」
「や、お前ら来るなんて知らなかったし」
ていうか、マックを複数人で来ることなんて中学以来なかったから、つい習性でそうしちまったんだよ。
「まぁ良いけど。それで、渋谷さんから聞いてるの?」
「……まぁ、一応」
「文香さんの誕生日で悩んでるんだろ?」
「あーまぁな。でも、神谷さんって俺と同じでオタクでしょ?分かんの?誕生日とか」
「んなっ、わ、分かるよそれくらい!凛や加蓮の誕生日会だってやったんだぞ!」
「あーそう。まぁ、それなら助かるけど」
まぁ、オタクにだって色々種類はあるだろうしな。それに、協力してもらってる側なんだから、失礼な事は言わない方が良いか。
「で、誕生日なんだけど……まずみんな何処でお祝いしてんの?」
「まぁ、色々だよね?自宅に集まったり食べに行ったり」
北条さんが渋谷さんを見て質問すると、渋谷さんも頷き返した。
「そうだね。私は、私の家で祝ってもらったかな」
「やっぱ、そういうのって祝う対象の人によって変えた方が良いのか?」
「いや、そういうんじゃないよ。ただ、その時その時で考えれば良いんじゃないかな」
「……つまり、金銭面がピンチの時は祝う人の自宅って事?」
「………あっ、そういう事だったんだ……。ごめんね、二人ともお金ない中」
「そ、そういうんじゃないよ、凛!」
「変なこと言うなよ鷹宮!」
渋谷さんが謝ると、北条さんと神谷さんは慌てて否定した。で、神谷さんが追加説明をした。
「そういう実用的な話じゃなくてだな……こう、要するに祝う側が祝いたい場所で祝えれば良いんだよ」
「祝いたい場所、ねぇ……」
「あとはー、そうだな。人数にもよるかな」
「あ、そうだね。多いときはお店とか行ったほうが良いかも。カラオケとか」
神谷さんの意見に、北条さんが同意した。ふむ、人数か……。
「………みんな来る?」
「「「遠慮しとく」」」
「えっ、なんで?」
声を揃えられて、思わず聞き返すと三人はジト目で俺を睨んだ。
「彼女の誕生日祝うのに他の女呼ぶ?」
「そこは水入らずで楽しむべきでしょ」
「鷹宮だって他の人に来て欲しくないだろ?」
「いや、でも文香さんに楽しんでもらわないと意味ないから……」
「「「いいから一人で祝え」」」
な、なんか怖いんだけど……。ていうか一人で祝えってすごい台詞だな………。
「これは文香さん苦労しそうだね……」
「そうだね……」
おーい、北条さん?渋谷さん?それどういう意味?
俺の心の中の疑問を他所に、神谷さんが言った。
「まぁ、とりあえず鷹宮くんの家でやるとして……」
「いや、文香さんの家でやるつもりだけど。よくよく考えたら、場所はどちらかの家しかないんですよね。ほら、周りの一般人に見られたらマズイでしょ」
「なら、鷹宮くんの家の方が良いんじゃないの?サプライズとか出来るし」
「や、俺もう祝うって本人に言っちゃったんだよね」
「………なんでサプライズにしなかったんだよ」
「だって誕生日知ったの本人の口からだし」
「ああそう………まぁ良いけど。それなら、文香さんの家でやるとして、どうするんだ?」
「んー……とりあえず、晩飯作って、ケーキはその日に家で焼いたの持ってって……そこまでしか考えてない」
「えっ?た、鷹宮くんって料理もできるのか?」
「えっ?うん」
頷くと、奈緒さんは意外そうなものを見る目で見て来た。
「スッゲー意外じゃない?」
「そうだね……そんな器用なんだ」
「や、だって独り暮らしだし。何回か文香さんに手料理ご馳走してるよ」
「ふーん……。まぁ、そういうのも悪くないかもな」
おお、なんか今日初めて褒められた気がする。いやそれはそれで寂しいけど。
で、北条さんが聞いて来た。
「それで、その後は?」
「そこから先なんだよ、悩んでるの。プレゼントすらも悩んでるんだから」
「ふむ……プレゼントね……。何をあげようと思ってたの?」
「最初はガンプラでもと思ってたんだけど……」
「修正してやる!」
「落ち着いてカミーユ!速水さんに怒られて修正したから!」
「何あげるの?」
「ストール、とか?」
「ふむ、ストール……」
加蓮さんは顎に手を当てた。しかし、ガンプラってほんとにダメなんだな。ワンチャンあると思ってさりげなく提案してみたけど、こんなに怒られるとは。
すると、神谷さんがソワソワしながら聞いて来た。
「ち、ちなみに、なんのガンプラあげようと思ってたの……?」
「ゼータプラスのMG」
「なんでそんなマニアックなのなんだよ!そこはストフリだろ!」
「キラ厨は静かに。ストフリあげるならインジャあげるわ」
「………あたしなら断然ストフリの方が嬉しいけどなー」
「ちょっと、ガンプラ談義は他所でやってくれる?」
渋谷さんに怒られたので、素直に謝って話を進めた。
「で、ストールってどんな柄のストールを考えてるの?」
「んー、ネットとかで色々調べたりしたんだけど……文香さんは大人しい色のストールとか合うかなと思って」
「ふむ、それで?」
「とりあえず、ハロのストールないかなと思っ」
「はいアウト」
バッサリ渋谷さんに断ち切られた。
「なんでキャラものなのよ。ていうか、ハロのストールって存在するの?」
「今のところは見つかってないです」
「バカじゃないの?」
うおっ、なんかすごい罵倒が飛んで来た。バカじゃないのってマジかこの人。
地味に傷ついてると、北条さんがポテトを齧りながら言った。おい、つーかそれ俺の。てか、自分のポテトあんじゃねぇか。
「でも、ストールっていうのは悪くないと思うよ?」
「他にも色々考えてるんですよね。文香さんのヘアバンドとか……ほら、クリスマスにも何かあげないといけないんで、今ストールでクリスマスにヘアバンドを渡すと、グレードダウンした感じがしてダサくないですか?」
「いやいや、そんなの気にすることないと思うよ」
「そう?」
「うん。鷹宮くんがあげたいものあげたら良いと思う。あ、ガンプラじゃないから」
「分かってるよ」
どんだけ信用ねーんだよ、俺は。
「ま、それならプレゼントは解決だね」
「や、でも柄が……」
「それは自分で決めなさい」
何のために集まったねんお前ら。
神谷さんが飲み物を口に含んで聞いて来た。
「他に問題って何があるんだ?」
「当日って何すれば良いのか、とか?あと演出?」
「演出は必要ないだろ。もうバレてるんだし」
あ、そっか。じゃあ当日だな。
「何すりゃ良いの?当日」
「何すりゃって……いつも通りで良いだろ」
「や、だっていつも通りってゲームとアニメ鑑賞だよ?」
「………少し考えるか」
もはや呆れることもされなくなった。すみませんね、駄目男で。いや、でもこればっかりは文香さんにも責任が……ないか。そもそも、文香さんがアニメにハマったのは俺ガイルが原因だし。
「……あれ、そういえば、誕生日会って何すりゃ良いんだ?」
神谷さんが困惑したように呟いた。やはり、彼女もこちら側の人間か。
と、思ったら北条さんも呟いた。
「そう言われると……そうね。私達って誕生日の時何してたっけ?」
「んーっと……なんか話して、プレゼント渡して……ケーキ食べて……」
「そうだよな、そんなもんだよな」
なんだ、結局ケーキとプレゼント以外はいつも通りなのか。
「なら、俺もゲームとアニメ鑑賞で……!」
「ゲームはいいけど、アニメはやめておいたら?」
「えっ、ゲームは良いの?」
少し冗談のつもりだったんだが。
「だって、ゲームなら私達もするし」
「それな。凛がガンダム○S超弱くてさー」
「い、いいでしょ私の話は。大体、奈緒と加蓮が強過ぎるの」
「マジで?じゃあ俺と今度やろうぜ。俺が渋谷さんと組むから、北条さんと神谷さんのチームで……」
「「「絶対嫌」」」
「声を揃えて⁉︎」
なんでだよ!クラスでハブかれてる気分になるからやめろ!
俺の質問が顔に出てたのか、三人は順番に言った。
「だって絶対強いし」
「攻撃とか当たらなさそうだし」
「私、味方としている意味無さそうだし」
ぐっ……!大体合ってる気がするから反論できねぇ……‼︎
「あ、でも文香さんと一緒なら良いよ?」
「ね、文香さんはああいうゲーム弱そうだし」
「いや、渋谷さんが出ないと意味無いだろ」
「? 何言ってんの?鷹宮くんが見学に決まってんじゃん」
「……………」
おい、今のは流石にひどくね?ていうか、勝てると思ってる相手と1番弱い渋谷さんを組ませるとか性格悪すぎだろ。
「待ってよ。それじゃ私達のチームが勝てないじゃん」
俺の思っていたことを渋谷さんが言った。
「それなら、凛と文香さんを別れさせて、私と奈緒が別れれば良くない?」
「確かに……それなら良い勝負になるかも」
なんか、ゲーム談義に花が咲いちゃったよ。まぁ、結局いつも通りで良いって事が分かったし、別に良いけど。
「あ、それなら今からやらない?ゲーム」
「良いね。文香さんも呼んで」
あれ、なんか変な展開に………。
「ねぇ、それって俺も?」
「当たり前じゃん」
「待て待て待て。アイドルのお前らと俺が一緒にゲームして良いのか?」
「大丈夫でしょ」
こいつら気楽だなー。頭の中お花畑かよ。そういう所はやっぱJKらしいわ。
「よし、じゃあ今から奈緒の家ね」
「鷹宮くん、文香さんを呼んでおいてね」
「待て、なんであたしの家なんだよ。まぁ良いけど」
良いのかよ、もう少し頑張って反論しろよ。仕方ないので、食べ終えて席を立つ三人の後を追いながら、俺はスマホを取り出した。
「………あー、もしもし文香さん?今暇?」