翌日、午前中のクラス行動を終え、午後の班行動になった。
美○海水族館に班で向かう。ここは俺が沖縄でアニ○イトの次に興味がある場所だったので、少し楽しみだ。
班員四人でタクシーを捕まえて移動。俺は自ら率先して助手席に乗った。仲良いのは後ろでキャッキャウフフしていたまえ。
「何処から来たんですか?」
わ、運転手さん声掛けてきた。
「東京です」
「へぇ〜、高校生?」
「はい」
「勉強とか大変でしょ」
「いや、赤点取らなきゃ全然平気なんで」
「目標がえらく低いな……」
………なんか運転手さんに呆れられたんですけど。僕、客ですよ?
その後も、向こうは気にせずガンガン話してくるのに、こっちが気を使ってしまい、かなり散文的な会話を続けながらも、美○海水族館に到着した。
中に入り、仲良く歩く三人の後ろを黙ってついて行った。おお……ジンベエザメでっけーなぁ……。これでプランクトンしか食わねーんだからビビるわ。
ゆうゆうと泳ぐジンベエザメを見ながらただボンヤリしてると、クラスメート達が先に行ってしまったので、仕方なく後を追った。もっとゆっくり見たかったんだけどな……。
すると、ずっと後ろにいる俺に気を使ったのか、三村さんが二人から離れて俺の隣に来た。
「すごいね、ジンベエザメ思ってたより全然大きかった」
「え?あ、うん」
「でも、他のお魚とか食べちゃわないのかな?」
「知らんの?ジンベエザメって主食プランクトンだから、あの辺の魚を食ったりはしないんだ」
「へぇー、物知りだね」
「いや常識だと思うが………」
少なくとも俺は小学生の時から知ってた。
「鷹宮くんって、魚好きなの?」
「いや別に普通。ただ、無心になってこういう大きな水槽を眺めるのが昔から楽しくて、小学生の頃にたまに図書室で図鑑借りてたくらいだな」
「へぇー、昔から変な子だったんだね」
「おい待てどういう意味だオイ」
「じゃあ、もう少し見て行く?」
「いや、いい。先行こう」
ここで見ていけば他の人が退屈するし、俺の所為で周りの人に迷惑かかる方が嫌だ。
「あ、でも写真だけ撮っても良い?」
「良いよ」
文香に送る約束しちゃったし。ジンベエザメを何枚か撮ると、先に進んだ。
70種類のサンゴだのふれあいコーナーだの熱帯魚だのを見回り、写真に収め、すぐに見終わってしまった。これだから学生と来るのは嫌だったんだ。
続いて、イルカショーに向かった。全員で椅子に座り、調教されたイルカがピョンピョン跳ねてるのをぼんやり見ながら、スマホを取り出した。文香に写真を送ることにした。
『鷹宮千秋が写真を送信しました。』×20
鷹宮千秋『美○海水族館の写真』既読
………あれ、既読付いたのに珍しく返信来ないな。忙しいのか?別に無理して見なくても良いのに………。
ふみふみ『あの、送ってもらった写真にいくつか不具合があるのですが』
え、不具合?何?てか不具合ってどういうこと?
鷹宮千秋『不具合?』既読
ふみふみ『不具合というか、不可解な点です』
ふみふみ『千秋くんはどこに写っているのですか?』
? 変な事を言う子だな。
鷹宮千秋『そんなもん写ってませんが』既読
ふみふみ『千秋くんを「そんなもん」だなんて冗談でも言わないでください』
お、怒られた………。なんで怒るの。
鷹宮千秋『ごめんなさい』既読
ふみふみ『はい』
ふみふみ『だって思い出残すには自分を写真に写さないとダメじゃないですか』
ああ、さっきの話に戻ったのね。
鷹宮千秋『いやいや、自分の写真がスマホに入ってるのとかなんか恥ずかしいですし』既読
ふみふみ『意味が分かりません』
うん、それは俺も思った。大体、文香との写真は結構入ってるし。
鷹宮千秋『けど、俺と写真撮ってくれる友達なんかいませんし』既読
ふみふみ『昨日、仲良く写真を撮っていた方はダメなのですか?』
鷹宮千秋『え、女の子と写真撮って良いんですか?』既読
ふみふみ『ダメです』
何言ってんのこの人。
ふみふみ『と、言いたいところですが、クラスメートとの思い出ですし、構いませんよ?』
あら、意外。文香って割と余裕ある……いや、最近になって余裕出て来たと言うべきか。
ふみふみ『それに、千秋くんなら浮気はしないでしょう?』
信頼されてんなー。そういうこと言われると、少し嬉しいじゃねぇか。だからこそ、俺も断言することができる。
鷹宮千秋『当たり前です』既読
ふみふみ『浮気したらジ・イクリプスの刑って約束ですし』
え、そんな約束してたっけ?ていうか信頼されてんの?
鷹宮千秋『あの、そんな約束した覚えが無いのですが』既読
ふみふみ『しました』
鷹宮千秋『そうでしたしました』既読
画面越しの気迫に押されました。
すると、隣の三村さんが俺の手を引いた。
「? 何?」
「イルカさんにご飯あげられるみたいだから、行かない?」
えっ、そうなん?ていうか、ご飯って言い方可愛いな。
「いや、俺はいいや。三人で行ってきな」
「ダメ、連れてく」
なんでだよ………。仕方ないので、強制連行された。
×××
水族館の後もいくつか観光地を回った。その途中、うちの班員の二人の友達の班と合流したりして、いつの間にか12人班になっていた。まぁ、その分俺は一人でいられるし、問題はないけどな。
で、最後に来たのはブセナ海中公園。ここはなんか野生の魚を観察できるらしい。
そこに到着し、四人で橋を渡った。他の修学旅行生もここに来る予定の班が多く、若い男女四人組が多く見られる。まぁ、うちの学校は修学旅行は私服OKだし、他の学校もそうである可能性もあるので、他の学校かもしれないが。
海中公園の橋の上を歩いた。しかし、沖縄の海綺麗だなー。なんつーか、東京湾の500倍は綺麗だ。上から魚見えるし。
「あれ、何これ」
うちの班の男子が橋の向こうの自販機を見つけた。魚の餌の自販機らしい。一個100円。
「面白そうじゃん、買おうぜ」
「うん、投げよう」
男子と女子が買った。モナカみたいな生地の中に餌が入っているようで、毟って投げた。ちなみに、モナカも餌らしい。ていうか、これ丸々餌らしい。
それを放っては投げてる二人を見ながら、俺はボンヤリと手摺にもたれかかった。
「………疲れた……」
「もう、疲れるの早いよ?」
隣で同じようにもたれかかった三村さんが声を掛けてきた。
「いやいや……今日ほとんど歩き回ってたし、もう死にそう……」
しかも、俺文香に送る写真撮ってないし……。誰かに写真撮ろうって声掛けるの怖くてなぁ………。俺って割とコミュ障なのかもしれない。
「それはそうだけど……」
「………なんか、悪いな」
「? 何が?」
「随分、気を使わせたみたいで。俺なんかに話し掛けてくれたみたいだし」
「ううん、そんな事ないよ。気なんか使ってない。だって、友達でしょ?」
「……………」
泣きそう。そうか、俺と三村さんって友達だったのか………。初めてアイドル以外の友達が出来た。
「三村さぁん………」
「え、なに?」
「や、何でもないです」
「………う、うん?」
俺の周りの友達はアイドルばっかだからなぁ。いや、こんな悩みを誰かに聞かれたらフクロにされそうだが。
すると、前の男子と女子が餌をあげ終えたのか、海中展望塔に向かった。海から建物が出ていて、そこの階段を下りると地下に窓が付いてるから海中を見ることが出来るってだけだが。
俺と三村さんも中に入り、窓を覗いて海の中を見た。あ、これも写真撮っとくか。もちろん、俺は写さない。
まぁ、これもさすが学生だ。飽きるのが早い。すぐにここから出て行ってしまった。
俺も仕方ないので後に続いた。これで2日目も終わりか。しかし、沖縄も悪くないなぁ。今度来ることがあったら、絶対に一人で来よう。
×××
だが、2日目は終わりではなかった。班員と逸れた。まぁ、途中から人数増えたし、俺一人くらい気付かなくても仕方ないだろう。
「……………」
ここから歩いてホテルに行くのか………。そもそも「ここ」が何処だか分からないが。困ったなぁ。三村さん、多分俺の事心配してるだろうし……。
どうしたものか……。いや、でもまぁ、なんとかなるだろ。そんな楽観的な事を考えてると、目の前で誰かがキョロキョロと辺りを見回してるのが見えた。
「………あっ」
昨日の……茶髪の女の子。俺の「あっ」に気付いたのか、茶髪さんはこっちを見た。直後、パァっと顔を明るくした。
「あっ……き、昨日の!」
「どうも」
何この人、もしかして迷子?なんでそんな嬉しそうにこっちに駆け寄って来んの。
あ、そうだ。ヘッドホン返そう。
「あの、これ」
「あっ、私のっ!あなたが持ってたの?」
「まぁ、床に落ちてたし」
「ありがと」
茶髪さんはヘッドホンを受け取った。受け取ったのに離れようとしない。うん、これもう間違い無いわ。
「もしかして、迷子?」
「っ?ち、違うから!迷子ではないから!」
そんな照れなくても良いでしょう。
「俺も班員と逸れたとこなんだけど」
「そ、そうなの………?なんだ………」
「やっぱ迷子なんじゃん」
「だ、だから違うから!落胆したわけじゃないから!」
「ああそう………」
どうでも良いが。
「で、でも……一緒にいても、良い……?」
こいつ、自分が迷子である事を隠す気あんのか。
「………好きにして」
「ありがとう」
さて、まずは連絡を取りたい所だが……。とりあえず時間を見た。ホテルでの集合時間まであと10分もない。
これは、先にホテルに帰ってもらうしかないか。スマホを取り出して耳に当てた。
「………もしもし、三村さん?」
『……あっ、鷹宮くん⁉︎何処にいるの⁉︎』
「分からん。けど、大丈夫」
『大丈夫じゃないよ!みんな心配……!は、してないけど……!私しか、してないけど………‼︎』
そこは嘘でもしてるって言っとけや。
『い、いや、でもね!気付いたのは私じゃないんだよっ?班の子が気付いたの!「一人いなくね?」って!』
「あの、分かりましたから……」
『で、でもっ……みんな「まぁ平気でしょ」みたいな空気になって、探しに行こうって言っても聞いてくれなくて……!』
「………お願いだから黙ってお願いだから」
『わ、私は心配してるけど、みんなそうでもなくてっ!し、してないから!みんな心配なんてしてないから!私しか心配してないから‼︎』
「…………分かったから」
なんで最後はまくし立ててきたんだよこいつ……。もう俺のライフはゼロよ………!
「じゃあ、三村さんはみんなとホテルに帰ってて。俺もすぐ戻るから」
『ええっ⁉︎だ、大丈夫なの?一人なのに……』
「大丈夫。一人じゃないから」
『?誰かいるの?』
「ああ。別の高校の人」
茶髪さんも、俺が電話してるのを見て、同じように電話をしていた。
「とにかく、先に帰ってて」
『わ、分かったよ……。本当に平気?』
「平気。じゃ」
それだけ挨拶して、電話を切った。
「そうなんだよ、なつきちー!完全に沖縄で迷子になったよー!」
茶髪さん、頼むから現状の報告だけしたらさっさと切って。先に進めない。
そんな事を考えてると、ポツッと何かが鼻の頭に当たった。触ると指が濡れた。アレ、これまさか……いや、まさかでもなく雨だな。
案の定、ザァーッと降ってきた。
「あっ」
「ちょっ、雨⁉︎ごめん、なつきち切るね!」
茶髪さんは電話を切ると、ひゃーっと頭を抱えた。
「ど、どうするっ?」
その間に俺は鞄から折り畳みの傘を取り出した。
「って、傘ぁ⁉︎」
「そら、修学旅行だし傘くらい持って来るでしょ。無いの?」
「………どーせ使わないと思ってスーツケースの中に……」
「……………」
「………何その目」
「いや別に?」
「むー……ほとんど初対面なのにムカつく……」
いや、この非常事態を理解出来てないんだもん。未知の土地で迷子ってヤバいんだからな?
思いっきりバカにした目で茶髪さんを見てると、段々と俺の目は茶髪さんの胸元に吸い寄せられて行った。何故なら、雨で濡れて透けているからだ。
「っ」
慌てて目を逸らすと共に、傘を差し出した。
「?」
「いいよ、使って」
「え?い、いいの?」
「うん。あと、これ」
俺は上着を脱いで、茶髪さんの肩に掛けた。
「………えっ?」
「あーあの……ほら、周りの目とかあるし………」
「……何急に優しくしてるの?ナンパ?」
落ち着け、キレるな、俺。
「いや、羞恥心が無いならそう捉えても良いけど……」
「羞恥心………?」
落ち着いて自分の体を見ると、服が透けている事に気付いた。直後、カアッと顔を赤くした。
「………ご、ごめん……」
「いや別に。それより、屋根のある所を探そう」
………文香には黙っておこう。下着を見たなんてバレたらジ・イクリプスだわ。