あ、ありのまま今起こったことを話すぜ……!
『俺が嘘をつくために彼女役になってもらった女が、嘘をつく対象だった女と知り合いだった挙句、本物の彼女が姿を現した』
な、何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何でこうなったのか分からなかった………。
頭がどうにかなりそうだった……というかどうにかなってる多分。
修羅場とか土壇場とか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねぇ。もっと恐ろしい事が俺の身に降りかかろうとしている。
とりあえず、食欲ないしお腹痛いので僕もう帰ります。そう決めて逃げ出し、文香の横を通り過ぎようとした直後、横から文香の手が伸びて肘を曲げて俺の頭を挟むと、自分の脇腹に力任せに押し寄せた。すごく密着してるのにちっとも嬉しくない。頭割れそう。
「いだだだだ!ちょっ、文っ……なんでっ………⁉︎」
「………いえ、逃げようとしていたので、何かやましいことがあるのでは?と思いまして……」
グッ……!この俺が、判断ミスをしでかすとは………‼︎窓をぶち割って逃げるべきだった!
「ええと……それで、どうしてここにかな子さんと李衣菜さんがいらっしゃるのですか?」
「それはこっちの台詞ですよ。なんで文香さんがここにいるんですか?」
いやっ……なんでお前ら普通に話してんだよ………。少しは俺の心配とかしろよ………。
「………私は、トライアドプリムスの皆さんの撮影のお手伝いについて来ました。北上のフィギュアを生贄に捧げて」
「私は修学旅行です」
「わ、私も修学旅行で………」
「あ、俺も修学旅こ……」
「………それは知ってます」
「グェッ……!に、にぇあい!なぁあああらギヴギヴギヴ………‼︎」
パンパンと文香の手を叩くと、手を離してもらった。ドシャッとその場に崩れ落ちた俺を文香は引きずって、元の椅子に座らされた。その隣に文香が座り、俺の向かいにある晩飯の前に多田さんが座り、文香の前に三村さんが座った。おい、なんだよこれ。家族会議?なんというか、十中八九俺が末っ子な気がするぜ……。
とにかく、ここにいる全員がそれぞれ持ってる情報を整理しろ。場合によっては、まだバレないし話題の運用を考えればいくらでも誤魔化せる。
「……………」
よし、いけるな。考えてみりゃ、現状は何故かアイドルが偶然ここに居合わせただけだ。全員にバレなきゃ良いポイントを頭に置いとけばやれる!
とりあえず、話題を作れ。そこからここの三人の共通の趣味、pso2の話題に持っていければ俺の勝ちだ。
「えっと……悪い、腹減ってんだ。とりあえず、俺と多田さんは飯食ってても良いか?」
「………ダメです」
「いやいや、頼むってマジで。こっちは歩いて1時間の距離を雨の中、歩いて来たんだから」
「そ、そうですよ、文香さん。途中から、私が足濡れないようにおんぶしてくれたんですから!」
「……………おんぶ?」
うん、早速地雷踏んだ。話題をちょっと間違えた。
「………おんぶしてもらったのですか?千秋くんに?」
「うん。………あ、鷹宮。パーカー返すね」
最悪のタイミングで多田さんはパーカーを俺に返却した。それを見て文香から殺気にも似た眼力が飛んで来た。
「うん、そうだね。文香さん、二人ともお腹空いてると思いますし……」
三村さんにもそう言われて、文香は仕方なさそうにため息をついた。
よし、良いぞ。このままならpso2に逃れる作戦は生きてる。文香には後で説明すりゃ良いだろう。今の文香はどう見ても冷静じゃないし。
と、いうわけで、飯を食い始めた。沖縄っぽく刺身とか出て来てとても美味しいです。なんの魚だか知らねーけど。
さて、ここからは話題選びは慎重にいかなくてはならないな。さっきみたいに誤爆したら終わりだ。そのためには、まず文香を冷静にさせなくてはならない。
だが、俺と文香の関係がバレないように文香を冷静にさせるには、文香のなんだかんだで押しに弱いあたりを責めるのは無理だ。
とりあえず、メッセージでも送るとしよう。
鷹宮千秋『後で諸々の事情は話すから怒らないで』既読
………あれ?文香、スマホ見てないのに既読ついたぞ?
ふみふみ『文香さんならスマホ持たずに出てったよ?by加蓮』
なんで持って来てないの⁉︎あと、なんであっさりロック解除されてんの⁉︎いや、ロックすらしてない可能性も………‼︎
だが、ヤバイ。これじゃ文香が落ち着いてくれない………。
「そういえばさ、鷹宮って彼女いるじゃん?」
突然の多田さんからの原爆。すると、三村さんが控えめに手を挙げた。
「あ、それ私だよ」
「「…………はっ?」」
「……………」
原爆じゃなかった。水爆だった。三村さんが誘爆させ、ついでに文香の周りの地雷にも誘爆した。俺を今にも殺しそうな勢いでギロリと睨んだ。うん、作戦変更。真実を全部話します。文香に嫌われたら元も子もない。
「うん、で本当は名前は三村文……」
「待った!もう俺全部話します!話しますから怒らないで嫌わないで‼︎」
立ち上がって三村さんを止めた。
で、説明を始めた。直後、三人は呆れたように額に手を当ててため息をついた。具体的に言うと、文香と付き合ってる事と、それがバレないように三村さんに彼女役と改名をお願いした事。
「………なんていうか、あれだよね。鷹宮って」
「な、なんだよ……」
「自分の首締めるの上手いよね」
「うぐっ………!」
「………そうなんです。夏休みのクローネの撮影の時も、双子の弟とかわけのわからない嘘ついてましたし……」
む、昔の話を掘り返すなよ………!
「私もビックリしました……。いきなり、三村文香に改名して彼女になれ、なんて言われて……」
「………すみません、かな子さん。私の彼氏が……」
「い、いえ。別に迷惑したわけではありませんから……。そもそも、ちゃんと面倒を見ていなかった私が悪いんですし……」
「かな子、気にすることないよ。高校生にもなって逸れる方が悪いから」
「………李衣菜さんの言えた台詞ではありませんけどね」
「うっ……!た、確かに………!」
俺抜きでみんな盛り上がっちゃってまぁ……。俺は一人で黙々と飯を食った。お魚、美味しいナー。
「うぐっ……!そ、そもそも俺も聞いてないぞ!三村さんがアイドルだったなんて………!」
「……知らない方が悪いです」
俺の必死の言い訳も、文香によって断ち切られた。
すると、多田さんが確認するように聞いてきた。
「………それで、さ。文香さんと鷹宮は、付き合ってる、んだよね?」
「ああ、バレたらもう開き直るわ。8月の後半から付き合ってるよ」
「まだ、付き合いたてなんだ……」
「分かってると思うけど、誰にも言うなよ?バレたら文香はアイドル辞めることになるかもしれないんだし……」
「うん、分かってるよ」
「三村さんも頼むわ」
「うん。誰にも言わない」
まぁ、ここはもう信用するしかない。口封じのために殺すわけにもいかないしな………。とりあえず、スマホに録音して言質も取ったし、大丈夫だろう。
すると、多田さんが飲み物を飲みながらニヤニヤして言った。
「でも、文香さんが惚れるのも分かるなー」
「なんで?」
三村さんが聞き返すと、多田さんはニヤついたまま続けた。
「だって、良い人だもん。普通、見ず知らずの人に傘とパーカーを貸して、雨の中おんぶなんてしてくれないよ?」
「……確かに、そうかも」
「でしょ?私、文香さんの彼氏じゃなかったら惚れちゃってたかもな〜」
「り、李衣菜さん………」
「冗談だって。人の彼氏は取らないよ」
ケタケタ笑いながら、また飲み物を飲んだ。
………なんか、一方的に褒められるのは少し照れ臭いな。俺は何とか照れ隠しをするために、頬をかきながらボソッと呟いた。
「………別に、そんな感謝されるようなことしたわけじゃないから」
「……いえ、私も彼女としては鼻が高いです。ちゃんと、女性を見捨てないで助けてあげたのは、偉いと思いますよ」
「……………」
文香にも褒められ、自分でも顔が赤くなったのがわかり、俺は目を逸らした。すると、三村さんまでもがニヤリと微笑んだ。
「あ、照れてる?鷹宮くんがそんな表情するの、珍しいね」
「………照れてない」
「照れてるじゃん。可愛いとこあるんだね」
多田さんにも追撃するように言われ、恥ずかしくなった俺は誤魔化すように頬をかきながら言った。
「いや、別に……そんな感謝される事じゃないって。何度かわざと背中を揺らして小さい胸の感触を味わってたし……」
直後、ふっと停電したように三人の表情が消えた。いや、多田さんだけは顔を赤らめて自分の胸を抱いた。文香と三村さんは、これでもかというほどの無表情で俺を見た。
そこで、ようやく俺は自分の失言を悟り、口を押さえた。控えめに言ってめちゃくちゃ怖い。
「………今の、無しで」
苦し紛れにそう言うと、文香が立ち上がり、俺の首根っこを掴んで椅子を後ろに倒して俺に尻餅を衝かせた。
「おごっ⁉︎ケツが……天衝………‼︎」
「………お話があります。私の部屋に来なさい」
悶える間も無く引き摺られ、俺は食堂から無慈悲にも連れ出された。多田さんはそんな俺にあっかんべーっと舌を出し、三村さんは苦笑いで手を振っていた。
この後、普通に地獄を見た。
×××
翌日、3日目の朝。俺は起き上がると、隣で文香が寝ていた。
「…………えっ?」
え、な、なんで………?今、修学旅行中だよな?慌てて起き上がると、俺のベッドの隣のベッドでは神谷さん、向かいのベッドに寝てるのが渋谷さんで、その隣に北条さんが眠っている。えーっと……何があったんだっけ……?
確か昨日は文香に部屋に連行されて……すごく怒られて……せっかく来たんだからトランプやろうってなって……それで………。
………そのまま寝落ちしたのか……?見た所、ここの部屋ベッド4つしかないから、文香のベッドで寝かせてもらってたのか……?
「…………え、ヤバいやん」
早く自分の部屋に戻らないと………!俺は慌てて部屋を出て行こうとしたが、服を引っ張られて動けない。文香が握っているのだ。
「ちょっ……!文香……離して………!」
「………ちあきくん……結婚、してください………」
「それは良いけど手は離して!」
グッ……!今日は午前中クラス行動だから早く行かなきゃいけないのに………‼︎この人、腕力無駄に強いからな………。
「仕方ない……!」
俺は寝てる文香ごと布団を被って、首筋を噛んだ。直後、文香の体から力が抜け、俺の手を離した。今回ばかりは文香の変態性に助けられた。
部屋を出て、大慌てで自分の部屋に戻った。
クラスメートからは「何こいつ?」みたいな目で見られたが、何とか間に合い、クラス行動に向かった。
×××
「朝からとんだハプニングだったなぁ……」
染み染みとそう思いながら、今帰仁城跡に来ていた。クラス行動は終わり、班行動である。まぁ、班行動と言っても他の班も合同だが。
ここから見える景色はとても良い、と聞いていたが、まぁ確かに良かった。ここから野球ボールを思いっきり遠投してみたい、と思う程度には。
だが、それ以上に不思議な事が起こっている。
「………なんでいんの?」
「えっ?」
多田さんが俺の左隣で並んで歩いていた。
「私達は今日、午後は自由行動なんだ。ちなみに明日も」
「………で、なんでここにいんの?」
「だからついてきた」
「いや、ついてきたじゃなくて」
え、自由過ぎない?フリーダムガンダムだってそんな自由じゃねぇぞ。
いや、でもどうせ理由を聞いても答えてくれないだろうし……。それに、問題はもう一つある。
「で、なんで三村さんも手を握ってんの?」
反対側の右手は三村さんに握られていた。
「昨日、迷子になったばかりだし当然でしょ?」
「いやそんな子供じゃないんだから……」
あの、俺には彼女いるんだけど……。それ、君は知ってんだろ?いや、嬉しくないことはないんだけどさ、流石に文香に申し訳ないというか………。
そんな考えが顔に出ていたのか、三村さんが澄まし顔で言った。
「じゃあ、せめて私の前で歩いて」
「あー……いやでも三村さんだって他の人と話したいんじゃ……」
「大丈夫。李衣菜ちゃんもいるし」
それで良いのか……?いや、もう良いのか。
「さ、それより満喫しよう!このよく分からない城を!」
「おー!」
「分かってないのについて来たのかよ………」
三村さんは俺の手を離して隣を歩いた。とりあえず、文香さんに隠さずに言おう。そう思ってL○NEを送った。
だりーなSSRすごく可愛い。IFやろっかな。