俺や多田さんや三村さんはもうほとんどの沖縄の観光地を回ってしまった。逆に文香や凛、奈緒、加蓮、プロデューサーさんは今まで撮影だったから、海以外何処も見ていないらしい。
そういうわけで、まずは美ら海水族館にやって来た。2回目だというのに元気にはしゃぐ多田さん、三村さんとトライアドプリムスの三人の後ろを、俺と文香とプロデューサーさんは呑気についていった。
「元気ですねー、あの人達」
「まぁ、昨日まで撮影だったからな」
「いや、普通疲れてると思うんですけど………」
「いやいや、もう慣れたんだろ」
慣れたで済ませて良いのか………。
それと、さっきからソワソワそわそわしてる文香。すごい気になるんだよ。さっきからずっとチラチラ前の五人のこと見てる。その様子は非常に可愛いが、別に無理することはない。
「鷺沢さん」
「は、はいっ」
「はしゃぎたいなら前の五人に混ざって来て良いですよ」
「っ?ち、違います。別にはしゃぎたくなんか………!」
「いや、いいから……。大学生ならまだまだこの手の施設ではしゃいでてもおかしくないですし、誰も子供っぽいなんて思いませんよ」
「……………」
すると、文香は少し考え込むように俯いた。あ、これは知ってる。あと一押しで行くパターンだ。
でも、ここは引くべきだろうな。このまま押せば文香が五人と合流するのは知ってるが、今日はプロデューサーさんが隣にいる。文香の扱いを分かってる、と思われるだけでも危険だ。
まぁ、無理にとは言いませんが、と戦うとしたところで、文香が俯きがちに呟いた。
「………いえ、その……女子高生の中に一人だけ大学生が混ざると……その、浮きそうで………」
あー……そういうことか。いや、待て。
「いやいや、高2が2人、中2が1人、小6が1人と普段一緒に歌って踊ってる人達が何言ってるんですか」
「っ!あ、あれは仕事ですから………!」
「とにかく、大丈夫ですよ。三村さんなんてアレとても高校生のサイズじゃ………」
「……………」
「……冗談です」
「おいおい、鷹宮くん。女の子の胸は小さいからこそ輝くのであって……」
「……………」
「……冗談です」
プロデューサーまで黙らせるとか文香パイセン半端ないっす。
「………もう、男の子って本当にえっちなんですから」
ため息をつきながら言う文香に、俺は誤魔化すように言った。
「………と、とにかく別に一緒にいてもおかしくありませんから。ね?プロデューサーさん」
「あ、ああ。そうだぞ、文香。せっかく来たんだ、楽しんで来い」
プロデューサーさんにもそう言われた文香は少し考え込んだ後、渋々といった感じで頷いた。
「………分かりました。では」
楽しそうに文香は前の五人に合流した。その背中をボンヤリ見てると、プロデューサーさんが聞いて来た。
「鷹宮くんって、おっぱい星人なのか?」
「男はみんなそうでしょう」
「それは開戦の狼煙か?おっぱいは小さいからこそだろ」
「いやいや、何言ってんの?そう言いながら男はみんな巨乳に目が行くようになってんだよ」
「いやいやいや、じゃあお前ありすとかのおっぱい見たことある?平かと思いきや、若干膨らみのある胸……そう、それはまるでサハラ砂漠の如く美しいんだ」
「サハラ砂漠って美しいか?」
ていうか、橘さんの胸見たの?それは流石にドン引きなんですが。
「それを言ったらね、巨乳だって素晴らしいんですよ。尻、腰、胸にかけての凹凸、かの有名な永仁の壺の如く美しいライン、そしてトップに存在する乳首と言う名の一輪の花、それはもはや頂上に存在するに相応しい存在感を発揮しているんです」
「永仁の壺に尻はないだろ」
一回だけ文香の胸見たっけなぁ……。あれはすごかった。美乳とはまさにあの事だったんだなぁ。
「そもそもな、男達のそういう巨乳に憧れる視線が世の貧乳を苦しめてる事に気付かないの?巨乳じゃなくても女性の胸は美しいんだよ。変に高望みしようとする男の性癖が負の原因なんだよ」
「だが、それと好みは別問題でしょう。大きいのが好きと言って何が悪い?むしろ、その同情で好まれる方が女性にとっては屈辱的であり、屈辱でなかったにしても向上心の低下に繋がるのでは?」
「しかし、成長には必ず個人差がある。どんなに努力しても大きくならない人もいる。それら全てを包み込む許容も必要ではないのか?」
「そもそも、許容とはなんだ?どこの目線で我々男達は胸を語っている?人というのは中身を見るべきなのであり、外見だけで女性を選ぶなど言語道断だ。失礼にも程がある」
「その通りだな。胸、というのはあくまで女性の外見的ステータスだ。それでその人の全てを否定すること自体がおかしい」
「しかし、だ。人というのは少なからず内心的な事が表に出て来る生き物だ。何かしらの変化はあるんだろう。胸にもそれは影響しているのかもしれません」
「となると、胸の小さい者は控えめな性格なんだな。謙虚で常に周りの事を考えている、凛とかそうだな」
「しかし、巨乳の方も器が大きい方が多いですよ。鷺沢さんとか三村さんとか速水さんとか」
「つまり、両方素晴らしいということだな」
「そうですね」
一つの結論が出て、お互いに握手した。六人の後を追おうと思ってふと周りを見ると、周りの人達がゴミを見る目で俺とプロデューサーさんを見ていた。
「……………」
「……………」
その目線の中には、当然アイドル達も含まれていた。
「………先に車に戻りましょうか、プロデューサーさん」
もうこの施設にはいられない。俺もプロデューサーさんも水族館から出た。
×××
続いて到着したのは国際通りだった。プロデューサーさんはおっぱい談義の罰として車で待機、俺は逆に連行されていた。俺的には女子六人について行く方がダメージでかいので、本当にあいつら俺の扱いを心得ている。
「じゃ、あたし達あっち見て来るから」
「1時間後には車に戻って来るように!」
というわけで全員が立ち去った。残ったのは俺と文香の二人だけ。完全に気を使われたなこれ……。
まぁ、ご厚意に甘えさせてもらおうかな。そう思って声を掛けた。
「………まぁ、そういうわけなんで、一緒に廻りま」
「いやです」
えっ?こ、断られた?意外過ぎてちょっとビビるんだが………。
「………え、な、なんで……?」
「………鷹宮くんは、小さくて大きい女の子が好きなんですか?」
質問したら全く関係ない質問で返された。ていうか、小さくて大きい女の子って何?
「え、な、なんで?」
「………車の中では、小さい女の子が好きと仰られていましよね」
「は、はい……」
「………水族館では、巨乳好きって言っていました」
普段なら「巨乳」の単語で顔を赤くするのに……相当、キテるなこれ………。
「………ですから、ロリ巨乳が好きなんですか?種島さんや刀藤さんみたいな……」
「い、いやいやいや!そんな事ないから!」
「……でも、先ほどまでの話を聞いた感じだと……」
「それはアニメの話で……!いや、リアルでも巨乳は大好きだし文香だって大き」
「道の真ん中でセクハラですか?」
「………すみません」
文句は言われたものの、満更でもなさそうだ。
「や、でも本当誤解だから。俺は現実も二次元も含めて文香が一番だから………」
「…………それなら良いです」
なんとか許してもらえたようで良かった……。さて、改めて何処行くかな。まぁ、文香の行きたい場所に行けば良いかな。
「どこ行くか」
「………そうですね。とりあえず適当に見廻りましょうか」
「アニメイトあるけど」
「……行きましょう」
そんなわけで、ようやく沖縄デートっぽくなって来た。
アニメイトに向かって歩いてると、「あっ」と文香が声を漏らした。店の表にシーサーのTシャツがぶら下がっていた。
「……これ、可愛いですね」
「いや、シーサーって片方口閉じてるものだろ。なんで両方開いてんだよ」
「………そうなんですか?」
ていうからこれ、女の人が着たらちょうどオッパイの箇所に口開いてるシーサーが来るんじゃ………。
文香なら尚更大変な事になる気がする。
「それを買うのはやめよう。多分、卑猥な事になる」
「………卑猥、ですか?」
「とにかく、行こう」
「は、はい……。あ、じゃああっちの店に入っても良いですか?」
今度は雑貨屋を指差して聞いてきた。
「良いですよ」
そう言うと、文香は楽しそうに店に入った。
今更だが、文香はアニメやゲームだけでなく読書家であり、アイドルだ。よくよく考えたら、こういう普通の女子が入りそうな店に入りたくなるのも当然だろう。
………これからは、もう少し別のデートとか考えた方が良いかもなぁ。いや、でも表に出ると周りの人に見られる可能性もあるし、やっぱ引き篭もってアニメとかゲームするしか………。
いや、でもデートするからには文香にも楽しんでもらいたいし……。正直、変装すればバレない気がしないでもないが……。
「………千秋くん。これとかどう思います?」
声を掛けられ、俺はそっちを見た。手に持ってるのは海ぶどうの置物だった。おい、それの需要はなんだよ。
………まぁ、デートのことは今度考えるとするか。そう決めて、文香の隣に歩み寄った。
キーホルダーをよく見ると、緑色のガラス製で出来てて、光に反射して割と綺麗に光っている。
「良いじゃん。なんかキラキラ光ってて」
「………はい。でも、箸置きみたいなんです」
「へぇ、そうだったんだ。何か問題が?」
「………私、昨日海ぶどう食べたんですけど、苦手で………」
なるほど……。嫌いな食べ物の箸置きは確かに嫌だわ。ていうか、800円は高いわ。
他の商品を見回ってると、店内にガチャガチャを見つけた。沖縄の名物キーホルダーガチャという奴だ。ラインナップはソーキそば、サトウキビ、ちんすこう、ゴーヤチャンプル、サーターアンダギー……おい、食い物ばっかじゃねぇか。
で、当然、沖縄の名物で食べ物ばっかなわけだから海ぶどうもある。
「……わっ、かわいい………」
文香も気に入ったようで、財布から300円取り出した。
「やるの?」
「………はい。奏さんとありすちゃんにも買って行きます」
「ふーん……」
律儀だなぁ。まぁ、キーホルダーは個人へのお土産に持ってこいだから分からなくもないが。
………俺にはお土産買って行く友達がいないからな。アイドルが何人かいるけど、向こうは忙しくて会う機会がないし、何人か現地にいるし。
300円を投入し、出て来た緑色のカプセルの中を文香は覗いた。
「……………」
「なんだった?」
「………海ぶどうです」
「……………」
俺はそっと目を逸らした。
「ま、まぁ、あと2回やるんだし、その中から欲しいものを取って余ったのを二人のお土産にすれば良いんじゃないの?」
「………そ、そうですね」
そう言って、文香はガチャガチャを回した。赤と青のカプセルで、中身はソーキそばとゴーヤチャンプルだった。
「お、良かったじゃん。その二つは食えるの?」
「………はい。両方とも大好きです」
そいつは良かった。
「………むむむ、でも逆に悩んでしまいます。どちらを私のにしましょう……」
真剣に悩んでる……。可愛い。そんな事を考えながら、俺も一回やった。
………海ぶどうだ。いや、まぁ俺は別に嫌いじゃないけど。カプセルをポケットにしまって文香の方を見ると、まだ悩んでた。どんだけ美味かったんだよ。
「決まった?」
一応、聞いてみると文香は首を横に振った。で、「そうだ」と呟きながら質問してきた。
「………千秋くんは何出ました?」
「俺?」
「……はい」
「海ぶどうだけど」
答えると、文香は三つのカプセルに目を落とし、緑のカプセルを選んだ。
「…これにします」
は?いや待て待て待て。
「それ海ぶどうじゃ……」
「……そうですよ?だから、それにしたんです」
「………なんで?」
「………千秋くんと、お揃いだからです」
満面の笑みを浮かべてそう言われ、俺は思わず目を逸らした。おい、それは反則だろ……。
赤くなった顔を隠すように手で覆ってると、文香は青と赤のカプセルは鞄にしまい、緑のカプセルは開いてキーホルダーを出すと鞄に付けた。
「………では、行きましょうか。アニメイトへ」
「………うぃっす」
中途半端な返事をしてしまった。