鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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インターバル回という奴です。

 修学旅行が終わった翌日、振替休日で俺は家でダラけていた。だって疲れたもん。死ぬかと思ったわ。

 とにかく、しばらく俺は家から出ない。絶対にだ。そう思って部屋でのんびりしてると、ヴヴッとスマホが震えた。

 

 ふみふみ『いつ一緒にお風呂に入りますか?』

 

 俺は家を飛び出した。

 

 ×××

 

 うちの高校ではないどこかの高校。そこの校門から速水さんが友達と思われる人達と出てくるのを見つけた。

 声掛けづらかったが、それどころのピンチではないので無視して声をかけた。

 

「速水さん」

「えっ、た、鷹宮くん⁉︎」

 

 とりあえず、友達の前なのでさっさと用件を言ってここから立ち去ろうと思い、ズカズカと近付いて肩に手を置いた。

 

「な、何よこんな所で……きゃっ⁉︎」

「…………俺には、君が必要だ」

「………………はっ?」

「「「…………んっ?」」」

 

 周りの友達からも声が漏れた。速水さん自身も何故か顔を赤くしているが、一切気にしないで俺は速水さんの手を引いて走り出した。

 しばらく走ってると、後ろから「ち、ちょっと!」と声が聞こえたので立ち止まった。

 

「なっ、何なのよいきなり!どうしたの⁉︎」

「速水さん!俺には君が必要なんだ!」

「は、はあああ⁉︎意味分かんない!何いきなり言い出してんのよ⁉︎」

「頼む!速水さん以外じゃダメなんだ!」

「ばっ、ババババカじゃないの⁉︎だっだだだだ大体、文香とはどうするのよ⁉︎」

「文香じゃダメなんだ!」

「まっ、まさか別れる気じゃ……!」

「頼む!俺を助けると思って!」

「いいいい意味分からないわよ!文香と別れるのは許さな」

「このままじゃ俺と文香が一線を超えることになるんだ!」

「せ、せめてあなたが文香をまだ好きというのなら二股って事では……はっ?」

 

 一瞬で真顔になる速水さん。

 

「………どういうこと?」

「実は、大きい声じゃ言えないんですけどね、俺と文香が一緒にお風呂入る事になりそうなんスよ」

「…………文香と別れるって話じゃないの?」

「は?なんで別れるの?喧嘩売ってんの?」

「告白して来たのは?」

「誰が告白したの?」

 

 意味のわからない質問を連呼してくる速水さん。なんか夢でも見てたのか?そして、俺が答えるたびに顔を真っ赤にして怒るのはなんでですかね?

 

「………鷹宮くん」

「何?」

「とりあえず、1発殴らせてくれない?」

「なんで⁉︎」

「私、こう見えて結構鍛えてるのよね」

「おい待て。マジかお前。お願いだから待って。待って下さい」

「歯を食いしばりなさい」

「待って!謝る!謝るから待っ」

 

 速水さんの手が鞭のようにしなって、ノーモーションで俺の頬を打った。ヒュビシッッッッッと風を切る音と、俺の頬を引っ叩いた音が混ざった音が響き渡った。

 

 ×××

 

 ブ○ンコビリーとかいう、異様に高いファミレス。そこで俺はなんでも言うことを聞くのと引き換えに速水さんに相談に乗ってもらう事になった。無論、俺の奢りで。

 何故か激おこの速水さんと自分の飲み物を(俺が)持って来て、早速相談をすることになった。

 

「………で?話って?何なの?」

「………あの、なんで怒ってるのでしょうか」

「早く話さないと帰るわよ」

「はい、すみません」

 

 ………なんで怒ってるんだろう。いや、まぁ確かにテンパっていたとは言え、友達と一緒にいたのに勝手に連れ出したのは悪かったと思うけど………。

 

「………いえ、そのですね……」

 

 で、文香と修学旅行中の話をした。少しお土産話や惚気話なんかを含めながら話した。

 とりあえず、話を聞いてから速水さんは言った。

 

「………あの、一つ良い?」

「何?」

「あなた、アイドルを引き寄せる能力者なの?ドルドルの実でも食べたの?」

「え?いや、ろうそく人間じゃないけど……」

「かな子と李衣菜とも仲良くなるなんて……あなたがアイドルに興味あれば心がぴょんぴょんしてたろうに……」

 

 いや、それはまぁ俺も思う。しかも、そのアイドル達がどいつもこいつも一癖も二癖もあるから幻滅することもある。頭にパッと浮かぶだけでオタク文学少女にわかロックオタク巨乳スウィーツオタクキス魔のふりした処女ビッチオタクだからなぁ……。全員がオタクになってるのは俺の所為じゃないよね。

 

「あなた今、失礼な事考えていたでしょう」

「いえ、ナンデモ」

 

 相変わらずニュータイプばりに鋭い人だ。そのうち金縛りして来そう。

 

「ま、まぁ、とにかくですね。一緒にお風呂入ることになりそうなんですよ。何とかならないかと思いまして」

「入れば良いじゃない」

「いやダメでしょ」

「あなたから聞いた話だと、性行為をするのがダメなだけで、それ以外は別に構わないんでしょ?この前だって私の目の前で文香の首筋噛んでたじゃない」

「あ、いやまぁ、そうなんですが」

「何あれ、物語ごっこ?」

「違うから。てかその遊び楽しそうだな。今度誘ってみよ」

「子供か。ごっこ遊びに何を言ってるのよ」

「やる?羽川さん」

「やらない!やるなら撫子ちゃんが良い!」

 

 やらないのに所望すんなよ……。というか、そのキャスティングは無理がある。

 

「ま、まぁとにかく、助けて欲しいんだよ。どうしたら良いかな?」

「いや、だから入るしかないわよ。約束しちゃったんでしょ?」

「その通りなんだが……。でも、理性を抑えられる自信がないわ。好きな女の子が目の前で真っ裸でいるんだぞ?」

「………なら、物語ごっこだと思えば良いじゃない」

「いやいや、どう見ても金髪吸血鬼どころじゃないボディだろアレ。思い込みにも限度があるでしょ」

「まぁ、成長すれば文香超えるし、大丈夫でしょ」

「いや、全然大丈夫じゃないよね。何も解決してねーよ」

 

 ていうか何?さっきからアドバイスがテキトー過ぎるんだけど。まだ怒ってんの?

 すると、注文した料理がやって来た。速水さんのステーキと、俺のライス。俺の金だと白米しか注文出来ないんですよね………。ライス単品で注文した時の店員さんの顔ったらもうね。

 つーか、速水さんも速水さんでこの時間からなんでそんなガッツリ食っとんねん。

 

「もっと真面目に言ってくれ、頼むから」

「真面目に言っていいの?」

「いいよ。むしろ真面目に言ってくれないと困るんだけど。こっちはな、言うことを何でも聞く約束を」

「水着で入れば良いじゃない」

「………………」

 

 全部解決した。そんな簡単なことなら相談に乗って貰う必要なかったじゃねぇか………。

 俺はライスを速攻で食い終わると、財布を取り出した。金を置いて、俺は立ち上がった。

 

「………俺帰るわ」

 

 帰ってタイムアタックのハルコタンやろう。根絶やしにしよう。

 そう思ったのだが、速水さんが俺の腕を引いた。

 

「待ちなさい」

「え、何」

「誰が帰って良いって言ったの?」

 

 え、ダメなの?

 

「それより、今日は私の言うこと聞いてもらうんだから、ダメよまだ帰っちゃ」

「え、今奢ったじゃん」

「誰も一つなんて言ってないでしょ?」

 

 こ、こいつ……!まさかアニメ以外でそのハメを使って来る奴がいるとは………!

 

「とりあえず、待ってなさい」

 

 との事で、完食まで待機した。店を出て、伸びをする速水さんに聞いた。

 

「………で、どこ行くの」

「決まってるじゃない、あなたは今日私の言いなりなんだから。精々、こき使わせてもらうわよ」

「………マジ?」

「マジよ」

 

 ズタボロになるまで振り回される事が確定した。

 とりあえず、最初に連れて来られたのはボーリング場だった。

 

「………なんで?」

「遊ぶからよ。さすがに奢りとは言わないから」

 

 うーむ、やはりか。まぁ平日だし安く済むだろ。

 で、来たのはラウ1。中に入り受付に来ると、見覚えのある髪が揺れているのが見えた。

 

「………あれ、卯月?」

 

 速水さんの視線の先には島村さんと知らない女子が二人いた。

 

「あっ、奏ちゃん」

「と、響子と美穂も一緒なのね」

「こんにちは」

「奏さんは……」

 

 どっちが響子さんでどっちが美穂さんだか知らないが、黒髪の方が俺を見るなり目を輝かせた。

 

「デートですか⁉︎」

「違うわよ」

 

 ありえねーよ。俺、彼女いるし。

 

「この人は鷹宮千秋くん。あなた達には『セルスリット』って言った方が分かりやすいかもしれないわね」

「ああ!pso2の⁉︎」

 

 えっ、分かるの?て事はアイドル?

 

「何故かうちの事務所のどれかしらのパーティに参加している人ですか⁉︎」

「私、一緒にやった事ある!テクターで支援したらお礼言われちゃいました!」

「ああ、私と美穂ちゃんと響子ちゃんで一緒にやってた時だよねっ?バルロドスが4回出て来た時の!」

 

 と、三人がpso2トークで盛り上がっている間、速水さんが俺に耳打ちした。

 

「………卯月、美穂、響子と一緒って事は、その時に文香はいなかったってことよね?」

「…………誘われて、断りきれなかったんです」

「………黙っててあげる」

「………ありがとうございます」

 

 ×××

 

 ボーリングで完封した後、ラウ1のゲーセンに来た。しばらく中を回ってると、クレーンゲームに夢中になっている人影を見つけた。

 

「ねぇ、アーニャちゃん。もうやめておいたほうが」

「美波は黙っていて下さい」

 

 ………あれれー?おかしいぞー?どっかで見たぞー?あの白髪の方。

 白髪の外国人さんは一心不乱にウサ○ッチのぬいぐるみを狙ってクレーンゲームに100円玉を連投していた。

 

「………ねぇ、アレ」

「こんにちは、アーニャちゃん、美波」

 

 声かけんのかよ。片方は誰だか知らないが、もう一人はアーニャだ。まだウサ○ッチ好きだったんだな。

 もう片方のお姉さんは速水さんを見るなり「助かった!」みたいな顔をした。

 

「奏さん!こんにちは」

「美波、静かに」

 

 美波とかいう人を1発で黙らせると、アーニャはクレーンを動かした。ウィーンとクレーンは動き、プー○ンのぬいぐるみを正面から捕らえるが、ヌルッと落ちてしまう。

 

「何してるの?」

「………見ての通りだよ。もう32回目」

 

 偉い人は言いました、UFOキャッチャーは貯金箱だと、という台詞が頭をよぎった。このままじゃアーニャさん破産しかねないなぁ。……仕方ない、一肌脱ごうか。

 

「アーニャさん」

「美波、静かに」

「いや、美波じゃなくて千秋」

「っ? 千秋、久し振りです」

 

 新たに人が来た分かると、流石にプレイを中断した。

 

「アーニャちゃん、知り合いなの?」

「ハイ。千秋です」

「いや千秋です、と言われても……」

「美波、セルスリットよ」

「ああ、あの!」

 

 だからなんで分かるんだよ。俺ってどんな存在なんだよ。

 

「てことは、この人もアイドル?」

「新田美波です、よろしくお願いします」

「あ、ああ。どうも」

 

 頭を下げて、俺はアーニャに声を掛けた。

 

「で、何してんの?」

「これ、取れないです」

「あー、貸してみ」

 

 プレイ残機はまだある。俺はアーニャの前に立つと、クレーンを動かした。アームでタグの所に引っ掛けて取った。

 

「ほれ」

「おお……!ありがとうございます!」

「すごい……pso2以外も上手なのね」

「まぁ、そうだな」

 

 内心、上手くいって良かったーとホッとしてるとは言えなかった。

 

 ×××

 

 ゲーセンを出て、今度はAE○Nに来た。速水さんが新しい服があるというので、仕方ないから本屋に来ていた。いや全然意味わからない。

 

「なんで俺達本屋にいんの?」

「んー、実はさ、ありすちゃんっているでしょ?」

「ああ、あのお子様だろ?」

「あの子だけは唯一、オタク文化にハマらなくてね」

「へぇー」

「本人はアニメにハマるの子供っぽいと思ってるみたいで……」

 

 うわっ、それはキツイ。むしろ浮いてるんじゃないかそれ。

 

「だけど、その所為か話についていけない事も多々あるのよ。だから、オススメのアニメの原作本でも買ってあげれば、読むかなって思うの」

 

 なるほどね、他人に買ってもらったものなら読まないと失礼だしな。つーか、わざわざいい人だなこの人。

 まぁ、アイドルの中には話を合わせるためにアニメ見る人といるだろうし、多少は読んでおいて損はないと思うが。

 

「で、どんなのが良いと思う?」

「あー……まぁ、原作コーナー行ってから決めよう」

「そうね」

 

 そう言って、ラノベコーナーに行くと、見覚えのある奴が本を選んでいた。

 

「………ふむ、どれにすれば良いのでしょうか……」

 

 ………橘さんだ。一心不乱に本を選んでいる。

 

「………むむむ、やはりどれを選べば良いのか……」

 

 俺は速水さんと顔を見合わせた。お互いに頷くと、さりげなく後ろに立った。

 

「……やはり鷹宮さんに文香さんの好きなもの聞くべきか」

「文香はSAOとか好きだよ」

「あーあとナルトとかね」

「そうなんですか?」

「ああ、あとは禁書とかユニコーンとか……あとWORKING!!とか」

「ああ、あとアレね。監獄学園」

「なるほど……勉強になります」

「いやいや、小学生に監獄学園は早いよ。……てかそれ、俺も初耳なんですけど。どこで知ったんですか?」

「へ?なんか事務所で読んでたけど。『私も、千秋くんのエリンギを………』とか言いながら」

「え、何それ怖い」

「まぁ、あの子どっちかというとムッツリだからね〜」

「………そんな話は聞きたくなかった……」

 

 肩を落としてると、いつの間にか橘さんが静かになってるのに気付き、俺と速水さんが見下ろすと、顔を赤くして橘さんは俺達を見上げていた。

 

「あのっ……い、いつからここに………?」

 

 その問いには、俺と速水さんは声を揃えて微笑みながら答えた。

 

「「最初から」」

 

 ▽ たちばな は 逃げ出した。

 

 ×××

 

 そんなこんなで速水さんを家まで送ってから俺も帰宅を始めた。なんかアイドルとよく会う日だったなぁ、と思ってると、スーパーの前で買い物を終えた文香と出会った。

 

「あっ」

「……あ、千秋くん」

 

 俺はさりげなく文香と合流し、文香が持ってる袋を持つと言った。

 

「帰るか」

「………はい」

 

 文香の家に帰宅した。

 

 


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