鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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ラノベ仲間ができた。
ムッツリはエロを回避した後に後悔する。


 二次元は三次元と違う、と大体の人は言うだろう。それは当然だ、二次元とはあくまで人によって作られた物だからだ。何故、その二次元作品が出来たのかは、作者によって違う。読者に読ませたいものがあるから、作者の言いたい事が含まれているから、こんな世界があったら面白そう、金になるから、作者自身の願望、色々とあるだろう。が、それはあくまで作者の様々な思いを乗せたものであって、三次元に大きく影響したりする事はない。

 だから、我々読者もそこら辺を弁えなければならない。この世には学園都市も学戦都市もアルザーノ帝国魔術学院も国立魔法大学付属第一高校もナーヴギアもニューロリンカーもなければ、死後の異世界転生の特典をくれる駄女神も天才ゲーマーを異世界に引き摺り込む唯一神もこんなに可愛いわけない妹もエロマンガ先生な妹もいない。

 また、主人公の思考回路がすごく自分と似ているからって、その主人公が自分であるわけでもない。目が腐った捻くれボッチでも、宇宙人や未来人や超能力者に囲まれてる人でも、吸血鬼に襲われてとんでも再生能力を持った人でもない。

 その辺を弁えなければ、とても恥ずかしい思いをする事になる。……最近知り合い、俺が二週間ほど本を貸し続けている本屋の店員さんのように。

 

「………じゃ、じゃおう、しんがんはっ……さ、さいきょう………」

 

 何故か右目に眼帯をした鷺沢さんは、全力で恥ずかしがりながら、途切れ途切れに呟いた。眼帯逆だよそれ。

 まぁ、眼帯以外にも色々とツッコム所はあるが、その直後に俺の口からぽろーんと自転車の鍵のように落ちた言葉は一つだった。

 

「………痛ぇ」

「ッ⁉︎ッ⁉︎っ⁉︎」

 

 思わず出た本音に、かなりショックを受けたのか、ガビーン!という効果音が出そうなほどに体を震わせた鷺沢さんは、目尻に大粒の涙を溜めた。あっ、ヤバイ。

 

「い、いや冗談です!いや、本音だけど………!か、可愛かったですよ⁉︎そ、その……照れてる辺りが。あっ、いや可愛いってのも別にナンパ目的じゃなくて………!」

「……い、痛い、ですか………?」

「あ、それは…………はい」

 

 こういう事は本人にちゃんと伝えた方が良いだろう。じゃないと、恥をかくのは本人だ。やはり、厨二病でも恋がしたい、はまだ早かったか………。

 まぁ、でも落ち込ませてしまった以上は元気付けてあげないとな。何か励ませるような言葉を考えてると、眼帯を取り、目についてるカラコンも取りながら、鷺沢さんはポツリポツリと呟いた。カラコンまでするか普通………?

 

「………おかしいとは思っていたんです。お客さんからは不思議なものを見る目で見られるし……常連さんからは、『目、怪我したの?大丈夫?』って心配されるし」

 

 俺は「頭大丈夫?」って心配になったけどな。その常連さんも酷いことするなぁ。厨二病は素で返されると本気で死にたくなるんだぞ。

 

「………それで、なんて答えたんですか」

「け、結膜炎って………」

 

 素で返しちゃったのかよ………。まぁ、普通に妥当だが、キャラを捨てるくらいならそんな真似すんなや。そして、よくそこで恥ずかしい思いをしたのに俺に台詞付きでトライしたな。

 

「………鷺沢さん」

「…………はい」

「恥ずかしいと思えてる間は大丈夫です。そういうのはやめた方が良いです。二次元に共感はしても同一化はしちゃダメです」

「……………はい」

 

 まぁ、身に染みて反省したようだし、これ以上は言わないでおくが。

 しかし、鷺沢さんはなんというか、割と天然さんなのかもしれない。あと、影響されやすい。だから、こんな風になっちゃったんだろうなぁ。本当に可愛い人だ。

 

「ま、まぁ、それはそれとして、どうですか?なんか気に入った作品とかジャンルはありますか?」

「………そうですね。あまり、異能バトルというのはよく分からないです。いえ、理解は出来るんですが……どちらかというと、普通の……現実世界?というか……そう、俺ガイルみたいなのが好きです」

「なるほど………」

 

 それで、邪王真眼か………。まぁ、確かにそういうのが好きそうだよなぁ。と、なると次からは貸す本を考えないとな………。

 

「………あ、でも異能バトル系や異世界転生も好きですよ?ただ、主人公一人が強いというのは余り………」

 

 まぁ、それも分かる。それで主人公が女にモテまくるのは尚、腹立つんだよね。あーでも、異世界転生で主人公最強系ではなく、女性キャラにもモテまくってるわけじゃない主人公がいたな。………ただ、その……何。男に変な偏見を持たれそうなんだよなぁ。

 

「………教えて下さい」

「えっ?」

「……今、良いラノベを教えてくれる直前の顔してました」

「どんな顔だよ………」

 

 俺の事に関して詳しくなり過ぎでしょ………。うちの親よりも俺のこと詳しいまである。

 

「……や、でも俺まだそのラノベ買ってないんですよ。先にアニメ見ちゃったんで。アニメのBlu-rayならありますけど……」

 

 たまたま夜遅くまで起きてて、ふとテレビ見たらやってたんだよな。面白くてBlu-ray全部買った。

 

「……じゃあ、アニメでお願いします」

「え、でもアニメは………」

 

 ヤバイだろ……。特に9話とか。

 

「………何ですか?」

 

 キョトンと可愛らしく首を捻る鷺沢さん。その顔を見て、思わず俺の中に悪戯心が芽生えた。

 

「……よし、じゃあ見ましょうか。今日、これから見ますか?」

「………はい。もう少しで勤務時間終わりですし」

「じゃあ、その間に家からBlu-ray持って来ますね」

「……分かりました。ここで待ってますね」

「はい」

 

 俺は本屋を出て原チャリを走らせた。

 禁書を貸してから一週間ほど経過した。なんか最近、鷺沢さんの部屋にお邪魔することが多くなった。

 と、いうのも、鷺沢さんが勤務時間外の時に、何処でラノベやアニメの感想を語り合うかを決める事になった。で、最初はどっかの喫茶店とかで良いんじゃね?って話だったのだが「カップルに見られたら困ります!」とか言われ軽く心を傷つけられ、何処にしようか迷った挙句、鷺沢さんの部屋になった。なんか小声で「バレたら奏さんやありすちゃんに怒られる……」とか言ってたけど、知らない人だし俺には関係ないから、気にしない事にした。

 まぁ、そんなわけで俺は家までBlu-rayと念の為、プレ4を取りに行った。「この素晴らしい世界に祝福を!」のBlu-rayを。

 

 ×××

 

 鷺沢さんの部屋に入るのも、もう慣れたものだ。最初はドキドキして胸の鼓動が収まらなかったというのに。俺もリア充の仲間入りした、ということか?うん、それはないな。

 

「お邪魔します」

「………は、はい」

 

 部屋の奥に進み、俺はテレビにプレ4を繋げ、中にディスクを入れて、ソファーの上に座った。

 

「……あ、あの、お茶どうぞ」

「あ、どうも」

 

 麦茶が机の上に置き、鷺沢さんは俺の隣に座った。肩と肩がくっ付き、俺は内心どきっとした。なんでそんな近くに来るの……肩、柔らかい……。

 気を紛らわすように、お茶に手を伸ばし、一口飲んだ。……ん、甘い?麦茶に砂糖を入れたのか……?いや、ちょうど良いし、普通に美味いけど。ふと横を見ると、鷺沢さんが俺の方を見ていた。

 

「……………」

「……………」

「………あ、美味しいですよ。砂糖入れたんですか?」

「…ほ、ほんとですかっ?」

 

 パァッと一面に向日葵が咲きそうな程の嬉しそうな顔をする鷺沢さん。ああ、可愛いなぁ……。こういう笑顔、無邪気過ぎてとても歳上とは思えない。うちのクラスの下品な笑い方をする女子達にも見習ってほしい。

 すると、このすばの一話が始まった。カズマが夜中に出掛け、初回限定版の何らかのゲームを買いに行った所だ。

 

「……ゲームといえば、鷹宮さんが教えてくれたゲーム、やってますよ」

「どこまで行きました?」

「………えっと、北方海域?までです」

「あー、あそこ駆逐艦六隻編成の海域あるから、気を付けてくださいね」

「……大丈夫です。朝潮ちゃんはうちのエースですから」

「…………ロリコンなんですか?」

「……ち、違います!ただ、その……お友達に似てるので……雰囲気が」

 

 え、二次元キャラに似てるって厨二病って事?いや、まぁ朝潮ならまだ平気だと思うが………。でも、クソ真面目って事だろ?会うことはないだろうけど、俺とは会わないほうがよさそうだ。

 そうこうしてるうちに、カズマがショック死(笑)した。で、アクアが登場。異世界転生について解説してる辺りで、横からツンツンと肩を突かれた。振り向くと、ヒソヒソ話をするように手を口元にかざした鷺沢さんが、頬を赤く染めたまま聞いて来た。二人しかいないのになんで耳貸さないといけないんですかね。

 

「なんすか?」

「……あの女神さん、もしかして、その………」

「?」

「…………は、穿いてません、よね……?」

 

 カアァッと顔を赤くして、若干俯いて聞いて来た。………これは、何と答えるべきなのか。でも、その、なんだ。そんな顔見せられると、すごくからかいたくなって来るんだよな。

 

「うえぇ?そうなんですか?……あ、本当だ!気付きませんでした。俺、何度も見てるのに。よく一回目で気付きましたね!」

「………ッ!」

 

 俺の言ってる意味が分かったのか、さらに頬を染める鷺沢さん。まぁ、ムッツリですねって言ってるわけだ。ちなみに、俺は一目見た時から気付いてました。でも、調べると原作はパンツ履いてるらしいんだよな。不思議。

 

「……う、うるさいです!少し気になっただけなんですから!」

「はいはい。じゃ、続き見ましょうねー」

「……あ、後で覚えてて下さいね……!」

 

 え、お仕置きしてくれるの?ありがとうございます!鷺沢さんのお仕置きなら何回でもいけます。

 俺は、その「後で」に期待しつつ、アニメの視聴を続けた。

 

 ×××

 

 時刻は18時30分。14時30分くらいから見始めてるので、すでに4時間程経過した。俺も鷺沢さんも、時折感想を挟みながら視聴し、一期は残り2話となった。で、問題の9話である。

 

「じゃ、9話流しますね」

「………は、はい」

「……どうかしました?」

「………いえ、その……アニメのキャラはすごいなぁ、と思いまして」

「何故?」

「……もし、近くにカズマさんみたいな人がいたら、私多分軽蔑すると思うんです……。だけど、アニメで見てると、別に不快感はないなぁ、と思いまして」

「あー……まぁ、それがアニメの良い所でもありますから」

 

 夜神月とか絶対友達になりたくないもん。でも、別に嫌いなキャラではない。要はそういう事だろう。

 でも、その、なんだ……。カズマの真骨頂は次の9話なんだけどな……。俺が若干不安になってる間に、9話は始まった。

 オープニングが終わり、物語は進む。屋敷を手に入れたカズマ達が屋敷でダラダラし、カズマが表に出掛ける。知り合いの冒険者達と路地裏の店へ………。

 ………ああ、ここからだ……。メチャクチャエロい格好のサキュバスのお姉さんが接客し始めた。

 

「っ⁉︎」

 

 案の定、鷺沢さんが顔を真っ赤にしている。うん、知ってた。

 

「………っ⁉︎ッ⁉︎」

 

 赤くなった顔を両手で覆って、チラチラと俺を見ている。俺はそれに全く気付かないふりをして、真顔でアニメを見続けた。

 

「………あ、あのっ、鷹宮さん……?」

「? なんですか?」

「っ……。………な、なんでも…ない、です………」

 

 ああ、可愛い……。とても現実の女の子とは思えない………。こんなピュアな人間性を持つ人がこの世に存在するなんて………。この人はどうやって育って来たんだろうか。きっと、悪意も何も存在しない夢の世界に違いない。

 サキュバスの説明を聞いて、鷺沢さんはさらに顔を赤くしていった。ちなみに、この店が実在したら俺は一回は行くね。

 

「………あ、あのっ」

「はい」

 

 鷺沢さんがまたまた声をかけて来た。今度は何だい?

 

「…………た、鷹宮さんもっ、こういうお店は……き、きょっ、興味ある、んですか……」

 

 え、それはなんて答えたら良いの?正直に答えれば引かれそうだし、カッコつけて「ありませんよ?」と答えれば、それはそれでホモ扱いされるかもしれない。

 ………ここは、当たり障りのない回答をすべきだな。

 

「………ま、まぁ、無いとは言い切れませんけど、でもお金払ってまでは………」

「……そ、そうですよねっ。良かったぁ………」

 

 それは、何に対しての「よかった」なのか。いや、考えても無駄だろうしやめておこう。

 さて、カズマが契約してサキュバスの店を出た。ダクネスの実家のカニを食べるシーン。そのシーンで鷺沢さんは何とか落ち着いたのか、頬の赤みが引いて来た。

 しかし、これで終わりじゃないんだよなぁ。むしろ、ここからなまである。カズマが眠れなくて風呂に向かった。ここから、ダクネスが来るんだよな。はてさて、鷺沢さんはどんな反応をするのか、ワクワク。

 

「ッ⁉︎」

「え、今っ?」

 

 カズマの入浴シーンで、既に顔を赤くしていた。あーそういえば鷺沢さん女子だし、確かに男の裸とか照れるかもなぁ。まぁ、ここから先はさらに酷いんだけどね。

 とうとう、ダクネスが入って来た。

 

「ひょあっ⁉︎」

 

 隣から可愛らしいけどよう分からん悲鳴が聞こえた。

 

「っ⁉︎ い、異性で一緒にお風呂なんて………⁉︎ふ、不純異性交遊は犯罪です!」

「は、犯罪⁉︎」

 

 とんでもないことを言い出したぞこいつ⁉︎

 さらに、カズマはダクネスに背中を流してもらい始めた。それを見て「は、はわわわ……」と暁型四番艦のような声を漏らす鷺沢さん。すると、テレビの中のカズマがいい笑顔で言った。

 

『さ、次はタオルを使わずに……』

「ーッ⁉︎」

 

 直後、鷺沢さんはテレビを消した。

 

「え、ちょっ」

「……わ、私にこれはまだ早いです!もう飛ばしましょう!」

 

 と、顔を真っ赤にして言われたので、俺は心底ほっこりしながらも従っておいた。可愛いところはたくさん見れたし、何より嫌われたくないしな。

 リモコンを操作して、10話に入った。最終話である。

 

 ×××

 

 一期が終わり、続いて二期の視聴を始めた。………のだが、

 

「……すぅ、すぅ………」

「……………」

 

 鷺沢さんがいつの間にか、俺の肩に頭を乗せて眠ってしまっていた。

 

 


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