鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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我慢すればするほど、解放した時の爽快感は格別。

 学校見学という名の潜入捜査を終えた翌日、今度は別の人物に会いに行った。場所は文香とは別の大学、さらにそこのラクロスサークルだ。勿論、学校見学という大義名分の元にやって来た。

 ………で、今回はラクロスサークルの部室を探しに行って迷子になるなんてことがないように、アーニャについて来てもらっている。

 

「こっちです」

「いやー、悪いね急に」

「いえ、私も美波に会いに行けますから」

 

 それは一体全体どういう意味なのん?リアルな百合とか本当にいるのだろうか………。いや、いないだろ。アーニャは外国人だから、表現が少しストレートなだけだ。

 ………しかし、百合か。文香だったらやっぱ速水さんかな……。普段なら速水さんが文香を引っ張ってそうな気がするけど、文香の方が性欲強そうだよな………。

 

『………奏さんは普段、誰かとキスしたがっていますが……欲求不満なのですか?』

『へっ?ど、どうしたの文香急に?』

『………もし、そうなのでしたら……私が、奏さんの欲求を満たして差し上げましょう……』

『まっ、待って文香!顔近づけて来ないで⁉︎文香落ち着いて⁉︎』

『奏さん………』

『ふみっ……んっ』

 

 ………悪くないな。絵でも練習しようかな。

 

「アーニャ、絵が上手い人ってアイドルにいない?」

「? 絵、ですか?」

「そう。絵」

「それでしたら、蘭子が絵上手かったと思いますよ?」

 

 ………神崎さんか。人語で話させればアリだな。今度、カッコ良いフレーズと引き換えに教えてもらおう。

 

「着きました」

 

 いつの間にか到着していたようで、ラクロスサークルの部室の前に来た。

 ………今更だけど、アーニャならともかく俺が入ったら他の部員に「え、何あの男?」みたいに思われないかな………。

 

「………あの、やっぱり呼んできてくれない?」

「何故ですか?」

「いや、まぁ、その、何。色々入りづらいから」

「???」

「行ってきてくれたら後で取ってやるウサ○ッチのぬいぐるみ二つに増やしてやる」

「分かりました」

 

 部室をノックし、中に入るアーニャ。しばらく待ってると、新田さんを連れて来てくれた。

 

「あ、やっと来た」

「お久しぶりです、新田さん」

「どうして部室に来ないの?」

「いえ、誰かいると気まずいですし……」

「いないから大丈夫だよ」

「へっ?」

「いない時間をちゃんと見てここにしたから」

「………わざわざすみません」

「ううん。さ、入って」

 

 言われて部室にお邪魔した。中はやはりというかなんというか汚い。まぁ、部活やサークルの部室なんてそんなもんだろうな、なんか知らんけどテレビと64あるし。

 俺と新田さんとアーニャは椅子に座り、新田さんの淹れてくれたお茶を飲んだ。

 

「で、何?聞きたいことって」

「ああ、それなんですけどね。大学生が飲みに行く時って、どんな店をチョイスするんですか?」

「へっ?」

「いや、ほら。やっぱそういうチョイスとかあるのかと思って」

「………何かあるの?」

「まぁ、少しね………」

 

 これで文香達が行きそうな飲み屋を割り出す。いや、割り出すとまでは行かなくても傾向がわかればそれで良い。

 

「………んー、そう聞かれても……安いところかなぁ」

「そうなんですか?酒を飲めるようになって間もないアホな男子大学生なら、見栄を張って高い所とか行きそうですけど………」

「ひ、酷い言い様だね………」

「千秋は、大学生に恨みでもあるのですか?」

「………大学生だけじゃないさ。ワーワーギャーギャー騒いでりゃとりあえず面白いと思ってる頭のおかしいラリラリラーな学生全員この世から一片のDNAも残さず消滅すれば良いと思ってる」

「ら、らり………?」

「鷹宮くん、アーニャちゃんに変な日本語教えないでくれる?」

「………すみません」

 

 今、新田さんの目、笑ってなかった。

 

「うーん………私のサークルがよく行く居酒屋の傾向なら教えても良いけど………」

「お願いします」

「でも、理由を聞かせてくれる?」

「えっ」

「誰かと飲みに行くとかなら少し見過ごせないかなって。鷹宮くん、17歳だったよね?文香ちゃんもいるのに法律違反は許せないかなーって」

 

 ぐっ………やはりそうなるか。どうしよう、本当の事を言うべきか?いや、言うべきだな。嘘は大事なところだけつくべきだ。それ以外の嘘はなるべく言うべきではない。

 

「あー……実は、文香が成人式の日に飲みに行くんだよ」

「………なるほど、そういうことね」

 

 うん、察しが良くて助かる。みなまで言いたくないし。

 

「? どういうことですか?」

 

 アーニャは全然理解してなかった。まぁ、外国人だし仕方ないね。

 

「つまり、鷹宮くんは文香ちゃんが心配なんだよ。他の男の子と一緒だったら嫌だなーって。だから、こっそり付いて行きたいんだって」

「つまり、千秋のヤキモチ?」

「そうよ」

 

 そうよ、じゃねぇよ、と思ったが、そこを否定すると文香の酒の弱さも言わなければならなくなるので黙っておいた。

 

「千秋、思ったより可愛いところもあるのですね」

「うるせ」

「ふふふ、照れなくても良いのに」

 

 畜生、大人っぽくてもこういう所はまだまだ大学生か………。いや、まぁなんでも良いが。

 

「もちろん、ただで教えてなんて言いませんよ。アーニャにはウサ○ッチのぬいぐるみを約束してます。新田さんも何か欲しいものあったら言ってください」

「いや、いいよそんな。ただ教えるだけだし」

「いえ、一人だけ何もなしというわけにはいきませんから」

「えっ、一人だけって………?」

「既にアーニャ以外に三人ほど協力をいただきました」

「……………」

 

 あ、少し引かれてる。でも仕方ないじゃん、心配なんだもん。男に連れて行かれないとしても、仮に飲んで酔ったら周りに何をするか分からん。

 

「まぁ、教えるだけなら良いけど………。私はコーヒーで良いからね」

「そんなんで良いんですか?」

「良いよ、別に。そんな大したこと教えるわけじゃないけど」

 

 俺にとってはでかいんだけどな………。まぁ、良いか。それよりも教えてもらおう。

 

「あくまで私達が行く居酒屋だけどね、なるべく安い所に行くよ」

「安いとこ?」

「うん。大学生の飲み会はただ食事しに行くんじゃなくて、みんなで遊んだりゲームしたりする事が目的だから、あまり高い所は避けるかなー」

「なるほど………」

「例えば、鳥○族とか○休とか。あと大人数の場合は、多少大声出しても平気なように少し広いところ使ったりするかな」

 

 ふむ……なるほどな。

 

「ゲームというのは?スマブラとか?」

「いやいや、そういうんじゃなくて、王様ゲームとか山手線ゲームとかだよ」

「………なんですか?それ」

 

 アーニャが口を挟んだ。あー、まぁ知らないよね。日本の頭の悪いゲームだよ。

 

「………アーニャは知らない方が良い」

「えー、なんでですか千秋。教えて下さい。私も王様になりたいです」

「日本の暗部とも言える遊びだから」

「いやいや、鷹宮くん。そんな変なことしないよ」

「え、そうなの?負けたら脱衣とかしないの?」

「しないから。アーニャちゃん、王様ゲームっていうのはね、くじを引いて王様になった人がなんでも命令できるっていうゲームだよ」

「山手線ゲーム、というのは?」

「お題に決めて、リズムに合わせて答えて、答えられなかった人が負けっていうゲーム」

「どちらも面白そうですね。やりましょう!」

「えっ、三人で?」

 

 三人で王様ゲームってそれ固定じゃん………。何番と何番を選んでも選ばれるから。

 

「うーん……王様ゲームは無理かなー。山手線ゲームならなんとか」

「じゃあそれやりましょう!」

「私は良いけど………」

「俺も良いよ」

「罰ゲームはどうするですか?」

「じゃあ、文香ちゃんのスカートを一回捲る」

「「OK!」」

 

 そういうわけで、なんか流れで山手線ゲームをやることになった。まぁ、アーニャはやったことないらしいし、負けることはないだろう。

 

「お題はどうしますか?」

「んー、そうだね。じゃあ天王星の衛星の名前で」

「えっ」

 

 何言ってんのこの大学生。

 

「良いですね」

「待って、そんなのわかる奴いなっ……」

「せーのっ」

 

 負けた。

 

 ×××

 

 アーニャを駅まで送って、続いて文香の大学の近くの飲み屋を探した。安いところと言っていたので、おそらくチェーン店だろう。今日は外食で良いか。ついでに中の雰囲気や大学生のいそうな場所を把握しておこう。

 とりあえず、大学から一番近い店に入ろうとした。

 

「………千秋くん?」

「へっ?」

 

 後ろから声をかけられ、振り返ると文香が立っていた。目が合った直後、攻撃的な視線になった。

 

「………なんで居酒屋に入ろうとしてるんですか」

「え?あ、いや………」

 

 飲み会の近辺調査とは言えない………。目を逸らしてタラタラと冷や汗を流してると、やましい事があると踏んだ文香は俺の腕を掴んだ。

 

「………飲もうとしていましたね」

「い、いやいや違う違う!飲まないって別に!」

「………じゃあ、何故居酒屋に入ろうとしていたのですか?」

「……………」

 

 ………いっそ、飲もうとしていたことにした方が良いか……?

 

「とにかく、家でお説教します」

「えっ、いや待っ………」

「来なさい」

 

 文香の部屋に連行された。

 到着するなり、正座させられてお説教。1時間ほど続いてようやく解放された。

 

「分かりましたね?そういうのに興味が出るのも分かりますが、ちゃんと法律は守って下さい。それだけ一緒に居られる時間が短くなってしまうんですから」

「……………」

「分かりましたか?」

「……………」

「聞いてますかっ?」

「………わかったよ」

 

 にしても、なんかあれだな。文香に正座させられて怒られると思うと少し気持ち良い。

 

「ねぇ、文香」

「………なんですか?」

「もう1時間くらい怒ってくれない?」

「………バカにしてるんですか?」

「いや、冗談です………」

 

 これ以上怒られるのは後が怖いので黙ることにした。文香はふんっと鼻息を鳴らすと、俺の頭を撫でた。

 

「………少し、怒りすぎましたね。さ、ご飯にしましょう。今日は、千秋くんの好きなものを作ってあげます」

「か、母ちゃん………」

「………どうせなら、嫁さんと呼んでください……」

 

 何それ可愛い。言ったことが恥ずかしかったのか、文香は赤くなった顔を隠しながら台所に戻った。

 ていうか、当たり前のようにここで飯食うんだな。せっかくだし、俺も飯作るの手伝うかな。

 

「文香、俺も手伝うよ」

「………ふふ、なんだか久しぶりな感じがしますね、千秋くんとご飯作るの」

「それな。何作んの?」

「………千秋くんの大好きな唐揚げです」

「俺が大好きなのは文香の首筋だから」

「っ……!も、もう、バカなんですから………。じゃあ、その……食べます、か………?」

 

 言いながら、文香は髪をかきあげて首筋を出した。いや、正直ツッコミ入れて欲しかったんだけどな………。

 まぁ、そこまで言うなら噛むか。文香の首筋に口を近づけようとした所で、顔が止まる。てか、俺達さ………。

 

「おかしくね?」

「はうっ……す、寸止めなんて………」

 

 いや、聞けよ話。

 

「………何がですか?」

「いや、普通に噛もうとしてるけどさ、考えてみりゃこれ異常だよな………。なんで噛もうとしてんだ俺………?」

「………千秋くんから言い出したんじゃないですか」

「いや、そういう事じゃなくてさ。こういう行為ってさ、もう……その、何?………えっちなこと……した後で、普通のプレイが終わった後のカップルがする事だよね」

「えっ………⁉︎」

「なんつーか………その、何。これも充分、不純異性交遊だよね」

 

 前は問題ないと思ってだけど、むしろ問題だよね。性交よりヤバイよねある意味。

 

「………千秋くんは、その……シたいのですか………?」

「ぶっちゃけ」

「っ!じ、じゃあ………!」

「でも、やはり文香がアイドルやってる間は、その……あまりそういう事シない方が良いと思ってるから」

「………そう、ですが……」

「で、ここからが問題。俺達のこの噛んだりする行為もマズイ気がするんだよな………」

「……………」

 

 もちろん、俺の意図的に匂いを嗅ぐ行為も。いや、たまたま嗅いだり、寝てる文香の匂いをこっそり嗅ぐのは俺だけの問題で済むが、文香も受け入れてると別問題になる。

 

「…………千秋くん」

「え、何?」

 

 真面目な文香の声が聞こえてきた。

 

「………確かに、その通りかもしれません」

「あ、ああ。じゃあ………」

「でも、私も千秋くんと同じです」

「?」

「…………私も、その………千秋くんと、シたいんです………」

「………ほぁ?」

 

 いきなりなんのカミングアウト?え、何この流れ……ヤバいんじゃないのちょっと………。

 

「………でも、私も、その……その行為をするのはまずいのは理解しています………」

「うん、だよね良かった」

「…………ですから……その、あの噛んだりする行為まで我慢となると………千秋くんと一緒に、寝るときに………何するか、分からない、ですので………」

 

 え、それ何ってナニするんですかね。

 

「………だから、我慢は、その……勘弁して、欲しいです………」

 

 ………まぁ、その……まさかそこまで話してくれるとは思わなかった。女の子だから自らの性欲を隠す事を知らない満載の男よりも恥ずかしいだろうに………。

 そこまで言われたら、俺も断るわけにはいかない。

 

「………わかったよ。変な話して悪かったな」

「…………いえ。それよりも千秋くん」

「? 何?」

「……………恥ずかしくて死にそうなので、晩御飯お願いします」

「えっ、文香は?」

「………布団の中で悶えます……」

「はっ?」

 

 恐ろしいほどの早歩きで文香は寝室に潜り「ああああぁぁ………」と小声なのにやけに響く声が聞こえてきた。

 うん、その、なんだ。唐揚げじゃなくて文香の好きなものを作ろう。

 

 


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