鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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我慢しようと思った日に限って誘惑が来る。

 その日の夜。結局、なんやかんやで文香の家で泊まる事になり、とりあえず食事を終えた。

 まぁ、なんか文香が随分と恥ずかしがってて会話が一つもなかったんだけどね。現在、文香は多分寝室で悶えてて、俺は居間でダラけていた。

 …………なんか、意識しちゃうなー。あの人の事。なんで俺とシても良いとか言うのかな。嬉しいけど俺の理性が一段階弱まった気がする。いやいやいや、ダメだってば。文香の処女は絶対に俺がもらうが、それは文香がアイドルを引退するまで待機だ。

 …………ちゃんと堪えないとなぁ。キッツイ任務だが、アイドルと付き合うのはそれだけの事だということなんだろう。

 

「………風呂入るか」

 

 多分、文香が復帰することなんて無さそうだし、俺は風呂入って寝よう。そう決めて、欠伸しながら洗面所に向かった。一応、風呂場をノックし、返事がないため突入した。

 さっさと全裸になって風呂場に入った。身体と頭をさっさと洗い風呂に入った。ふぅ、暖かい……。やはり、真冬の風呂は最高だな。しばらく温まってよう。

 最近は毎日のように文香といるが、もはやそれが当たり前になってきた。むしろ会わない日というのがあり得ない程だ。まぁ、正月休みであり、向こうが大学生であり、さらに家が近いと言うこともあるからそうなってるだけで、俺も学校が始まればそうもいかない。

 そう考えると、成人式が学校始まる前でラッキーだよな。学校始まってからじゃこうもいかなかっただろうし。お陰で、余裕で調べられるし、文香にも怪しまれることは無い。

 勿論、演劇部の男達が良い人そうなら調べたりなどはしなかった。だが、明らかに良い人ではない。下心を上手く隠しているように感じた。これはもう心配でしょ。彼氏がいる事を文香は隠してるはずだし、向こうは文香を狙うのに躊躇などない。いや、アイドルだから多少の躊躇はあるかもしれんが。

 向こうの出方次第だが、最悪の場合は殴り合いにもなるかもしれない。そうなったら、俺と文香はどちらにせよ、しばらく会わないほうが良いよな。芸能人の周りの人間に暴力沙汰なんてなったら、間違いなく問題だ。設定としては、たまたま通り掛かった少年の定で助け、そのまましばらく距離を置く流れにするしかない。そうなれば、お互いに辛いけど、こればっかりは仕方ないだろうなぁ。

 ………ま、こんなことは万が一の可能性だ。あまり今は考えない方が良い。そうならない為の方法を限界まで考えよう。あくまで暴力は最終手段、冷静に平和的に解決しなければ。

 その方法を全力で模索してる時だ。

 

「………へあっ⁉︎ちっ、千秋くんっ⁉︎」

 

 そんな声が聞こえた。だが、俺は見向きもしなかった。これからの文香の飲み会の時の戦略のが大事だ。

 戦略としては、なだめる→願う→脅す→脅す→脅す→殴る、といった所か。最初は何とか穏便に行って、それでもダメなら下手に出る。それでもダメなら社会的に、次に学生的に、そして最後に警察的に脅そう。詳しく言うと大学の友達にバラす、次に学校に有る事無い事言う、それでもダメなら警察沙汰にする。これでいける。これでダメなら相当な馬鹿だ。

 

「千秋くん!」

 

 大声で叫ばれ、声が風呂場に反響して流石に横を見た。文香が風呂場にタオル一枚で立っていた。

 

「………文香?なんでいるの?」

「………す、すみません。誰もいないと思ってて……。それよりも、何か難しい顔をしていましたが……何かあったのですか?」

「………いや、俺がいるのに気付いたなら裸でそこにいるなよ……。風邪引くぞ」

「………そんな事よりも、千秋くんの様子がおかしくて気になったので………」

 

 くっ、風呂には誰も入って来ないと思って迂闊だった………!まぁ良いや、とりあえずてきとーなことを言っておこう。

 

「そろそろ学校始まるなーって思うと憂鬱でさ………」

「………そんなに学校つまらないのですか?」

「いや、普通に会話してないでマジ風邪引くから出て行って服着なよ」

 

 一応、目を両手で覆ってはいるが、この理性バリアが滅びるのも時間の問題だ。早く出て行ってもらわないと困る。

 だが、今のは失言だったようだ。目を隠してる俺の耳にはシャワーを流す音が聞こえてきた。

 

「………あの、文香?まさか、シャワー浴びてる?」

「はい」

「何してんの⁉︎」

「………千秋くんに、私の身体を興味ないみたいに言われたので」

「いやいやいやダメでしょ!」

「………それに、千秋くんが本当に気が滅入っていたようでしたので。私でよろしければお話を聞こうかと、思いまして」

 

 …………風呂で?それに気持ちはありがたいけど文香には絶対話せない内容で悩んでるんだよなぁ……。

 

「………いや、ダメだってば」

「………先程のお話では18歳未満には禁止されてるようなえっちな事をするのはダメなんですよね?一緒にお風呂に入るのは18歳未満禁止されていません。アニメでもよくそういうシーンありますし」

「……………」

 

 仰る通りで。とりあえず、頭の中で歴代ガンダムの主人公と主人公機と主人公の仲間と中ボスとラスボスを思い浮かべて心頭滅却しようとした。

 ………ああ畜生、ダメだ。「命拾いの、良いお湯だったのに……」が全てを阻害しやがる………!

 なら、クロスオーバーだ。それで妄想しろ。例えばだ、ISの主人公がウッソならどうなる?基本的に何もしなくてもモテるあの世界なら、トリッキー過ぎて主人公最強してお姉様方に囲まれてハーレムを築き上げるウッソが目に見える。………なんかあんま面白くなさそうだわ。ていうか、シャルロットに風呂で抱きつかれて鼻血で出血多量で死ぬんじゃ………。

 あーバカバカやめろ!風呂場の出て来るアニメはよせ!どんなことでも連想されちまう!

 なら、SAOと銀魂だ。銀ちゃんがSAOに参加したら………小説版ならキリトの家でアスナがお風呂借りてましたね………。いやアニメなら飛ばされるし何とかなる。アスナと銀ちゃん、超喧嘩しそう。圏内事件頭とかで銀ちゃんが寝転がってて文句言って来るアスナに「ギャーギャーやかましいんだよ、発情期ですかコノヤロー」って平気で言っちゃう未来が見える。

 ………ちょっとやってみようかしら。文香だって相変わらずオリ主とキリトのBL小説を(俺に隠して)やってるし、俺もやってみても良いかもしれない。

 そんな事を考えてると、チャプッと前に誰か入ってきたのを察した。………文香が入ってきたか。目を閉じてるから分からないが、恐らく当たりだろう。

 もしそうだった時のために、体育座りをして股間を隠した。だってなんか恥ずかしいもの。

 

「………それで、千秋くん」

 

 ほら当たり。

 

「っ、な、何?」

「………そんなに学校が嫌なのですか?」

「ま、まぁ。それはね」

「………何故ですか?」

「まぁ、行っても暇なだけだからね。三村さんとかは話したりすることもあるけど基本的に向こうも女子の友達がいるわけだし、俺と話すことは少ないんだよ」

「………そう、ですか。楽しいこととかないんですか?」

「ない。学校行事もないし、あっても楽しくないから。まぁ、俺の高校生活は勉強と文香に捧げるよ」

「……………」

 

 あれ、返事がないな。照れてるのかな。と、思ったら俺の手が誰かに、というか文香に握られた。

 

「………私と一緒にいてくれるのは嬉しいですけど……でも、せっかくの高校三年間なんですから………」

「修学旅行もそれなりに楽しんだし、もう別に良くね?」

「………まぁ、千秋くんがそう言うなら」

 

 ………さて、そろそろ限界かな。理性?違う違う、理性ならあと5分は保つ。じゃあ何かって?逆上せてきた。

 

「……あれっ?千秋くん、何だかお顔が赤くなって………」

「…………ぐほっ」

「ちょっ、千秋くん⁉︎千秋くーん!」

 

 俺の意識はお風呂の熱の中に消えていった。ぐふっ。

 

 ×××

 

 目を覚ますと、ベッドの上だった。額には濡れたタオルが置かれている。とりあえず起き上がり、ふと見ると文香が顔を赤くして俺の上に馬乗りになっていた。

 

「………何してんの?」

「………いえ、その……余りにも、寝顔が可愛かったので……キス、しようと思って乗ったら……起きちゃって………」

 

 ………可愛いのはお前の方だ。てか、なんで?何があったんだっけ?

 

「………そ、そっか……」

 

 なんか俺まで恥ずかしくなって曖昧な返事を返した。

 

「………それより、これ何があったん?」

「………千秋くんが、お風呂で逆上せてしまったので、私が運んで来たんです」

「お、おう………」

「………それよりも、その……」

「?」

「………早く、服は着た方が……」

「へっ?」

 

 ふと自分の体を見ると、上半身裸だった。布団に隠れた下半身も何も履いていない。

 

「………もっ、申し訳、ありません……。なるべく、見ないようにしたので、その……服は、着させられなくて……。ジャージや下着は、用意しておいたので………」

「さ、先に言えよ………」

 

 なんかすごい恥ずかしい思いをしてしまったぜ………!

 とりあえず着替えよう。そう思ったのだが、文香が部屋から出て行ってくれない。それどころか、じっと見られてる気がする。

 

「………あの、着替えたいんだけど」

「っ!そ、そうですよねっ。すみません、今出ますっ……!」

 

 顔を赤くしながら寝室を出た。なんなんだ一体。

 とりあえず着替え終わり、部屋の前で待機してる文香に声をかけた。

 

「お待たせ」

「は、はい………」

「悪かったな、手間をかけさせて」

「いっ、いえっ……。私は、千秋くんの……あられのない姿を見れたので………」

「…………」

 

 そういう事を本人の前で言うな。いや、もはや何も言うまい。文香がムッツリである事は知ってたし。

 

「寝ようか」

「………はい」

 

 二人でベッドに入った。なんか、お互い恥ずかしくて背中を向けあった。

 …………なんだこの空気。もう何度も一緒に寝てるのに何この感じ?今更、とても恥ずかしくなってきた。色んな話をしてしまったからか?それとも風呂に入ったからか?

 いや、なんでも良い。とにかく意識するなよ。眠れねーぞこのままだと。

 

「………千秋くん」

「っ、な、何っ?」

「………眠れないのですが……」

「………俺もだよ」

 

 なんだよこれ。なんでこんな眠れないの。呪われてんのか?

 その直後だ。文香が後ろから俺の背中に抱きついてきた。ブラのつけてない胸が服越しに当たり、背中に胸の感触がダイレクトアタックされる。

 

「ふっ、文香っ?」

 

 なっ、何の真似だよいきなり⁉︎

 

「………申し訳ありません。こうしてれば………眠れる、気がして……」

 

 こ、この女っ………!そういう言い方されたら断れねーだろうが!

 

「………おやすみ、なさい……」

 

 文香はそう言うと、おそらく目を閉じた。

 ………ホント、この人の胸は柔らかいなー……。って、いかんいかんいかん!落ち着け俺!アホか、死ぬぞ俺!眠るどころか襲いそうだ!

 落ち着け、俺………。このまま流れと性欲に身を流して襲うと文香の足を引っ張ることになるぞ!落ち着け、とにかく落ち着け。煩悩を、焼き尽くせ!明日はまた文香の大学の情報収集なんだぞ!

 とにかく、そのまま朝まで眠れなかった。

 

 


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