鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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前回の話、修正しました。てか最後の部分を消しました。しぶりんの奴にハマりすぎて展開忘れたので。ごめんなさい。


どんなイベントでも前日はワクワクする。

 成人の日の前日。今日も俺は潜入捜査を終えて帰宅していた。大学からの帰り道、今日も手伝ってもらっていた奏が声をかけて来た。

 

「ねぇ、鷹宮くん」

「? 何?」

「明日は居酒屋に行くの?」

「そりゃ行くよ」

 

 そのために今まで貴重な休みを潰して来たんだ。

 

「まぁ、それは良いけど、あまり文香に迷惑かけないようにね?」

「分かってる」

「それと、ちゃんと文香に相談するように」

「え、それは無理」

 

 だって、相談するって事は俺が今まで何をして来たか、とか文香の周りの連中を探ってたとか、そういうのを全部バラすって事でしょ?そんなこと、文香には知られたくない。

 

「ダメよ、言った方が良いわ」

「なんでだよ」

「あなた、前々からちゃんと文香に相談するようにって約束してたわよね?」

 

 うっ、それを言われるとそうなんだが………。

 

「誕生日の時だったかしら?恋人である以上はしっかりとお互いに相談し合う事、これをすっかり忘れていないかしら?」

「いや、でも今回のこれは………」

「言い訳しない」

 

 ………まぁ、そうなんだが。

 

「そもそも、今回の事は何にしても文香に話すべきよ」

「なんで」

「飲み会の席に行けば、文香は必ず飲まされそうになるわ。あなたがいないと、どうしたって『千秋くんがいないなら少しくらい……』と思ってしまうわ。誕生日の時の惨状を文香には結局、詳しく伝えていないのだし、何が起こるのか本人は分かっていないのだから」

「………なるほど。俺がいると知ればそれも防げる、と言うことか……」

 

 確かに、文香を信頼してないわけではないが、誰だって周りに「飲め飲め」と言われれば飲もうと思ってしまうかもしれない。だが「飲むな」と言った本人が近くにいればそれは別だ。意地でも飲まないだろうし、しつこい様なら俺が止められる。

 

「………でも、それなら黙ってて俺が現場に行っても最悪のケースにおいての結果は同じなんじゃ」

「そうね、結果的にはね。でも、文香自身で止められるならそれがベストでしょう?あなたが出て来なければあなたとの関係はバレなくなるんだから」

 

 確かに、まずは俺との関係をバラさないことが重要だ。最悪の場合の結果は同じだが、文香自身の意思によって飲む事を止められる可能性は事前に話した上で俺が居酒屋に行った方が高い。

 

「…………でも、今までコソコソ動き回ってたのがバレたら嫌われるんじゃ」

「私は大丈夫だと思うけどね。あの子、そんな事で嫌うような惚れ方してないもの」

「そうではあっても、それなりに傷付けることになるかもしれないだろ」

「それは仕方ないわ。そもそも、動くのならこうして潜入捜査をする前に文香に話しておくべきなんだから」

 

 それはそうかもしれない。ていうか、その方が情報は効率良く手に入ったはずだ。何せ、演劇部の連中と一番長く付き合ってるのは、他でもない文香だ。そこから出て来る情報が一番正確だと言えるだろう。

 ………でも、一緒に飲み会に行くということは、文香もそれなりにその人達の事を信頼しているはずだ。文香にとって「友達」くらいのラインに立っている人達を悪く捉え、コソコソ調べていたなんて知ったら文香は俺の事をどう思うだろうか。

 

「ま、さっきは『話しなさい』と命令したけど、話すか話さないか、それを決めるのはあなただからね。ただ、私は話した方が良いと思う」

「………………」

 

 そんな事を話してる間に駅に到着した。速水さんは駅の方に歩きながら「またね」と小さく手を振った。

 ………どうするべきか、か。そんなもの決まってる。確かに、散々文香には嘘をついて来たからな。ていうか、俺の嘘は文香には必ず回り回ってバレるようになっている。それなら一層………。

 結論が出た俺は、文香の家に向かった。

 

 ×××

 

 文香の家に到着し、全部話した。潜入捜査してたこと、その途中で男達を見た時の俺の印象、全部。

 すると、文香はキョトンとした顔で首を捻った。

 

「………知ってましたよ?全部」

「…………はっ?」

「……いえ、全部ではありませんが、千秋くんが何かコソコソ動いてたのは分かっていました」

「…………マジ?」

「………はい」

 

 ………諜報部員を気取って隠密作戦の指揮官を気取ってた自分が恥ずかしい………。全部バレてんじゃん。

 赤くなった顔を両手で覆って後悔してる俺に、文香は追撃するように言った。

 

「………流石に演劇部の皆さんの印象などは分かる余地がありませんでしたが、私に隠れて何かしてるのは分かっていましたし、アイドルの皆さんに迷惑をかけてるのも分かっていました」

「…………えっ」

「………最初の捜査は私の大学に来た時でしょうか?多分、私を奏さんと千秋くんが抑えて、その隙に他の誰かが演劇部を調べていたのでしょう?」

「………そ、そこまでバレてるんですか………?」

「………その次に美波さんの所にも行ったそうですね」

「えっ、なんで知って………」

「………本人から聞きました」

 

 あの野郎…………!気が付けば、文香は少し怒ってるようで、若干を頬を膨らませていた。

 ………やっぱ怒ってるよなぁ。文香にとっては友達とも言える人達を疑い、自分に内緒で調べられていたんだから。

 怒られるのを覚悟で目を閉じてると、文香は俺をジト目で睨みながら言った。

 

「………千秋くん。私がなんで怒ってるか分かりますか?」

「…………文香の友達と言える人を、勝手に疑って調べてたから、ですよね……」

「はいハズレ」

「えっ、は、ハズレ………?」

 

 違うのん?てか、それ以外に何が………。

 

「………私が怒ってるのは、そういう事をコソコソと隠れて情報収集していた事です。それも、色んな人に迷惑をかけて」

「…………」

 

 ああ、確かにそっちもあったわ。………文香、こういうのには本当にうるさいから、これはかなり怒られるかも………。そう思って、若干怯えつつ文香の顔を見上げると、思いの外微笑んでいた。

 

「………でも、ちゃんと話してくれたのでそれ程怒ってなかったりもします」

「…………ふみふみ」

「………その呼び方やめて下さい」

 

 はい、ごめんなさい。

 

「………それ程、怒ってはいませんが、やはり私に相談せずに他の方に迷惑を掛けるのは良くありません。私は私の周りの演劇部の方を悪く言われても気にしませんから、これからはちゃんと事前に相談して下さいね」

「………わかりました」

 

 …………そっか、まぁそうかもしれないな。とにかく、喧嘩になったり怒られたりしないで良かった。

 

「…………それで、どうなのですか?」

「何が?」

「……明日は、来るのですか?」

 

 ああ、そういうね。

 

「行くよ」

「………居酒屋に?」

「ああ。勿論飲まないから」

 

 そもそも奴らが変な動きをしないか見張りに行くのに飲んでる暇なんかない。

 

「………そうですか。演劇部の皆さんは……」

「まぁ、あくまで俺から見たら、だ。大体、高校の時に彼女がいなかった奴は大学で夢を見るし、高校の時にいたとしても別れたなら彼女は欲しがる、男なんてそんなもんだ。だから、文香にガッつくのもある意味では当然の話だから。あんま気にするなよ」

「………はい。確かに演劇の時に『衣装作りに必要で知っておきたいから』という理由でスリーサイズを聞いて来たりしましたが」

「おい待てその話は初耳学」

 

 バッキバキのど変態どもじゃねぇか。潜入しておいて良かった。

 

「で、教えたの?」

「………はい。衣装係の方にだけ仕方なく。申し訳ありません」

「いや、仕方ないから良いけど………」

 

 まぁ、そればっかりはな。それに、あまり束縛する彼氏にはなりたくない。

 

「ま、この話はこれで終わりだ。とにかく明日、何かあったら武力介入しに行くから、俺の事は気にしないで楽しんできな」

「………はい。あの、今日は」

「泊まっていくよ。実は文香も緊張してるでしょ、明日の飲み会」

「………バレてましたか?」

「まぁね」

 

 そりゃ初めての飲み会だ。一緒に食事に行く機会も少なかっただろうに。それもアイドル以外の人達であり、異性がいる中でだ。前に自分で何があったか分からない酒も出てくる。そりゃ緊張するだろう。

 

「ま、そういうわけだから。明日、緊張しなくなるようにゲームしまくろう」

「………そこは千秋くんの手でほぐして欲しかったのですが……」

「今日はどこ行く?」

「………たまにはバスタークエストなんてどうでしょうか?」

「良いね。二人で」

 

 と、いうわけで、バスタークエストに向かった。

 

 ×××

 

 バスタークエストの周回を終えて、俺は文香と寝ることにした。ベッドに入り、二人で手を繋いだ。

 ………明日はいよいよ、成人の日か。

 

「そういえばさー」

「? なんですか?」

 

 ふと思ったことがあったので聞いてみた。

 

「明日、成人の日だけど、文香は成人式には出ないの?」

 

 今日、現時点でここにいるということは、実家の長野には帰らないという事だ。文香はそれで良いのか気になったので聞いてみた。

 すると、文香は微笑みながら頷いた。

 

「………はい。仕事もありますし、それに千秋くんとの時間の方が大事ですから」

「いや、でもさ。成人式って人生に一回しかないし………」

「………それを言ったら、今の一日一日すべて人生に一回しかないものですよ?」

「まぁ、そうだが………」

「………それに、私はアイドルを始める前は本に夢中で友人と呼べる方はいませんでしたから」

 

 ………そうか、そう考えると俺も成人式には行かないかもしれないな。

 

「そっか」

「そうです」

 

 俺は文香の手をキュッと握り締めた。本当に柔らかいな、女の人の体は。どこもかしこも、指先に至るまで。

 

「………千秋くん?」

「………なんでもない」

「………千秋くんはやっぱり甘えん坊ですね」

「うるせ」

 

 なんか全然眠くないな。眠れる気がしない。俺は起き上がって、ベッドから降りた。

 

「? 千秋くん?」

「なんか眠くない。寝れる気がしない」

「………実は、私も眠れなくて……。一緒に起きていても良いですか?」

「どうぞ。コーヒー飲む?」

「………そんなの飲んだら余計に眠れなくなりそうですが……」

「じゃあ飲まない?」

「……飲みます」

 

 やっぱり。台所でインスタントコーヒーを淹れた。………あっ、コーヒーで思い出したわ。

 

「文香」

「………なんですか?」

「………ブレンド・S。全部見た?」

「……………」

 

 討 論 開 始!

 

「見ました!この前、録画した分をようやく全部見終わりました!」

「いや、やっぱ面白いよなきらら!きらファンも面白いしマジで最高だわ!」

「千秋くんはどの子が一番好きですか?」

「女の子なら主人公。男なら比企谷八幡」

「いやいや、秋月紅葉さんですから!」

「どう見てもヒッキーでしょ!中身は大分違うけど」

「でもやっぱり千秋くんはヒロインでしたかー」

「文香は?」

「妹」

「あー分かる!妹可愛いよな!大学生だけど!」

「特に登場シーンが良かったです。ギャップで死ぬかと思いました」

「あー一緒だわ。世の中で最強の萌えはギャップだわ」

「………千秋くんが一番好きなのはアホの子でしょう?」

「好きなものと萌えるものは違うでしょ。大体、文香だってキリトみたいな正統派なヒーローが好きなくせに」

「き、キリトさんはあのメンタルの弱さと戦闘中にギャップが生まれるんです!」

 

 アニメ談義でいつのまにかソファーで寝落ちした。

 

 


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