佐藤=男、幹事、文香狙い
田中=女、中田の彼女
加藤=男、文香狙い
山本=男、文香狙い
中田=男、田中の彼氏
名前がテキトー?二度と出さないんだから問題ないです。
翌日の夕方。演劇部との飲み会の時間になった。文香は千秋の調査した通りの居酒屋に入り、予約しておいた席に向かう。一通り辺りを見回したけど、千秋くんの姿は無かった。まぁ、遠くから私のことを守ってくれると仰っていたし、いつか来てくれるでしょう。
しかし、今日は一段と演劇部の皆さんは騒がしい気がします。テンションが高いみたい。もしかしたら、成人式とは理由もなく舞い上がる日でもあるのでしょうか。
ならば、私も少しはテンションを……いえ、慣れないことはするものではありませんよね。
ただでさえ、居酒屋なんて私にはあまり縁が無い場所でしたのに……そんな事を考えながら辺りを見回していると、一席で、どこか見覚えのある方二人がサングラスにニット帽を被っているのが見えた。
「………?」
気になって凝視するとサッと顔を隠すお二人。ていうかあれ……美波さんとアナスタシアさん?こんな所で何を………。
「文香、何してんの?行くよ」
演劇部の方に声をかけていただいたので、気にせずに奥に進んだ。歩いてる途中、ふと横を通り掛かったを見ると何処かで見たことあるモコモコそうな茶髪、落ち着いた黒髪、二つのチョココロネの三つの髪型が見えた。
「…………」
その三つの髪型を持つ三人はそれぞれ伊達眼鏡、マスク、ブシドーのお面を被っている。ていうか、最後ので大体誰が誰なのか分かってしまいました。
何となく怪しく思えて来たので別の席を見ると、銀色の髪にゴスロリなのにタキシード仮面のグラサン、さっかくセルティのヘルメットを被ってるのに下から紫色のエクステがはみ出てる女の子がいたりと、何処かで見たアイドル達が変装をして、店中で待機していた。
これ絶対千秋くんの仕業ですよね………。アイドルの皆さん、わざわざご協力ありがとうございます。そして千秋くん、他の人に迷惑をかけるのはやめてくださいと何度言えば………。
「はぁ………」
「どうしたの?文香」
「……いえ、何でもありません」
演劇部の田中さんが声をかけて下さいました。まぁ、他人に言えるわけないから言わないけれど。ていうか、変装してもお店にサイン書いて飾らせていたら意味ないでしょうに………。ホント、千秋くんはいつも肝心な所が雑なんですから。
「こちらのお席でよろしいですか?」
店員さんが6人用で隅っこの座敷を案内してくれた、楓さんと美優さんの隣の。………あれ?店員さんのこの声、少し無理してるけどひょっとして………。
そう思って顔を上げると、そもそも千秋くんが店員さんをしていた。えっ、この子何してるんですか?流石に戸惑いが隠せないのですが………。
そんな私の気も知らずに、店員千秋くんは伝票とペンを取り出した。
「ご注文はどうなさいますか?」
「とりあえず生六つで良いか?」
その問いに、幹事の佐藤さんが私達全員に聞き返した。他の方達は了承の返事を返していましたが、私はそうもいかない。千秋くんの手前なら尚更です。
「………あの、私はジンジャーエールで……」
「え、文香飲まないの?」
千秋くんの目の前で仕事関係以外の男性の方に下の名前で呼ばれるのは抵抗があったがこの際無視した。
「……申し訳ありません。私、お酒はあまり飲めないので………」
「大丈夫でしょ。今日くらい」
うっ、千秋くんの言った通り飲ませようとして来ますね………。でも、千秋くんの手前で、いや手前じゃなくても飲むわけには行かない。
「………いえ、本当に弱いので。月詠さん並みなので本当に」
「へっ?月詠って銀魂の?文香って漫画読むんだ?」
「…………」
しまった、食いつかれてしまった。いや、話が逸れた今がチャンスと見るべきでしょう。
「…と、とにかく、私はジンジャーエールで」
「畏まりました。ビール五つにジンジャーエールですね。少々お待ちください」
私の心中を察してか、千秋くんは注文を取ると足早に店の奥に戻りました。
ホッと一息つくと、佐藤さんが声を掛けてきた。
「えっ、文香って漫画読むの?」
「………えぇ、まぁ少し」
とりあえず頷いておいた。私は嘘が下手なようですし、何より千秋くんに嘘をつくなと言っておきながら自分が嘘をつくのは嫌だった。
すると、私の他に唯一の女性の田中さんが声を興味を持ったように質問してきた。
「へぇー、どんな漫画?」
「………どんな、と言われましても……」
確か、千秋くんがオタクっぽく見られない漫画を教えてくれました。それらを言いましょう。
「ワンピースと」
「おお、まぁ王道だな」
「ナルト……」
「終わった時は泣いたわ」
「銀魂とヒロアカと……最近だとDr.ストーンや約束のネバーランドですね」
一通り王道のものを言うと、皆さんは段々と普通の顔になる。千秋くんの読み通り、彼らはオタクのようだ。そして、それと共に大学で彼女を作ろうと考えている方々らしい。
今の反応は、おそらく同族を見つけたと思ったらにわかだった、みたいな反応でしょう。本来なら言い返したい所ですが、ここは我慢するべきですね。
「ジャンプ以外では読んでないのか?」
佐藤さんとは反対側に座ってる加藤さんが質問して来ました。ジャンプ以外、ですか………。そういえば、あの映画この前実写化してましたよね。アレもセーフでしょう。
「……ジャンプ以外でしたら、亜人でしょうか?」
直後、田中さんと山本さん以外の男子全員の目が光った気がした。あれ、何か地雷踏んだのでしょうか………?
「深夜番組のアニメじゃん!」
「マジでか!文香って意外とオタクの気があるかも……!」
「アイドルでもやっぱそういうの好きなんだなー」
しまった………。余計なことを言ってしまった………。それと、アイドルとか店内で大声で叫ばないでいただきたいのですが。いえ、アイドルしか店内にいないので、今は別に良いのですが。
「でも亜人ってのは意外だよなー」
「なんで亜人読もうと思ったん?」
………理由ですか……。どうしましょう、彼氏に薦められて、とは言えませんし………。いや、先程の思考をトレースすれば………。
「………実写映画化する、との事でしたので気になりまして」
「あーそれは分かるわ。有名になると気になるよな」
「………私個人的な意見ですが、永井さんと中野さんのコンビが好きですね。性格は正反対に見えて、実はそれなりの信頼関係はできている、みたいな」
「分かる。なんやかんやあの二人良いコンビだよな」
「私も分かるなー。絶対永井の方が受けだよね」
「田中黙れ」
などと亜人トークで盛り上がり始めた。ていうか、田中さん腐女子だったんですね。
まぁ、私のオタク趣味はなんとか隠せたし、話も盛り上がって来たから結果オーライかもしれない。でも、これからは気をつけないといけませんね。
みんなで亜人の名シーンを語ってると、店員千秋くんがやって来た。
「お待たせしました、生五つとジンジャーエールです」
「おお、きたきた」
「ありがとうございます」
意外にも、店員さんにお礼を言った。やっぱり、この人達は別に千秋くんが言うほど悪い人ではないのかもしれません。
チラッと気になって千秋くんを見上げると、少し不愉快そうな顔をしていた。もしかすると、嫉妬でしょうか?後で構ってあげるので、今は我慢して下さい。
心の中で謝りつつ、とりあえず成人の日のお祝いを楽しんだ。
×××
2時間が経過した。亜人トークからアニメトークに移り変わり、現在はみんなでSAOトークをしている。
SAOは演劇でやったものなので、私も原作を読んだ事にしてあるので、そこからヲタバレする事はなかった。
「やっぱさー、彼女欲しいよな。てかただのコミュ障ゲーマーの癖にリア充かとかキリトずりーよな」
佐藤さんがケタケタ笑いながら、若干赤くなった顔で言った。酔ってきてるのか、徐々に本音を話すようになってきた。私も田中さんと中田さんと千秋くんの助けがあって、何とかお酒は飲まずに会話を続けた。
「いやいや、それ言ったらオタクカップルが近くにいますけど」
「それな。マジ爆死しろよお前ら」
「うるせぇ。大体、俺達別にお前らが思ってるほどイチャついてねぇからな」
「………そうですか?一緒に釣りに行ったり、湖のほとりで別荘を買ったり、森の中で幼女を拾ったりしてないんですか?」
「するわけないでしょ文香」
まぁ、そうですよね。
「大体、私達まだエッチもしてないんだからね。お付き合いすっ飛ばしていきなり結婚してエッチしてる大人のエレベーターカップルと一緒にしないで」
おおっと?田中さんも酔ってるみたいですね。そんなカミングアウトをするなんて珍しい。
「えっ?お前らそうなん?」
「エロ同人みたいなことしてないん?」
「してねーよ。大体、こんな貧乳に欲情なんかしないっつの」
「は?あんたちょっとそれどういう意味?」
「冗談です怒らないで下さい」
「ふん、おっぱい星人」
良かった、一瞬喧嘩になるかと思いました。まぁ、酔ってるとはいえあんな失礼なこと言われても謝れば許してあげる辺り、二人はやっぱり仲良いんでしょう。
しかし、このお二人もまだエッチはしてないんですね。そう考えると、私も別に千秋くんとのお付き合いはそんなに焦ることはないのでしょうか………。いえ、にしても千秋くんはもう少し手を出してくれても良いのに。
少しムッとしてる時だ。隣の佐藤さんが私を横目で見ながらボソッと呟いた。
「………おっぱい星人といえば」
「……………」
えっ、な、なんですかみんなして。タラリと冷や汗をかいてると、気が付けば加藤さん、山本さんも私を見ていた。いや、正確に言えば私の胸でしょうか。
その視線がなんとなく怖くて何も言えなくなってると、田中さんが小声で呟いた。
「………文香ってさ、大きいよね。ムカつくほど」
「………は、はい?」
「ちょっと揉ませて」
直後、正面の田中さんから手が伸びてきて胸を揉んできた。
「ひゃうっ⁉︎ちょっ、たっ、田中さ………!」
「………やっぱり大きい」
「っ……。たっ、田中さん……!やめっ………!」
っていうか、他の人達も止めてくださいよ!何をジロジロと見てるんですか⁉︎
い、いや待った。それとも、成人の日ではこういうノリが当たり前なのでしょうか………?まぁ、女性が相手ですし、普段から奏さんとかによく揉まれてますし、女性同士のスキンシップと思えば……。
と、思った直後、中田さんが田中さんの両手を掴んだ。
「バカ、やめろ。飲みすぎだ」
「ちぇーっ、ご利益ありそうだったのに」
その行為に、私はホッと胸を撫で下ろした。助かりました、あのまま揉まれるのは流石に嫌でしたから。恥ずかしいですし。
「よし、じゃあそろそろゲームやるか」
中田さんがそのままの流れで話を変えた。ポケットから割り箸を取り出した。王道の王様ゲームという奴でしょうか?
「王様ゲーム」
「メールの方の?」
「いや違うから。怖いわ」
確かにあんなゲームは死んでもやりたくないですね。まぁ、読んだことはないのですが。あの手の漫画って、作者さんはなにが楽しくて描いてるのでしょうか?正直、あまり好きなジャンルではないですね。
「ルールはわかるな?」
その問いに、私含めて全員が頷いた。みんなでくじを引き、王様が番号でみんなに命令を下すゲームですよね。問題ありません。やった事はありませんが、ルールだけは知っています。
「よし、じゃあやるか」
「将軍様ゲームにしない?」
「それでも良いけど開幕で殴り掛かってきたら容赦無くやり返すからな」
「何でもないです………」
そんなわけで、中田さんが割り箸を握って全員の前に差し出した。
「よし、引け!」
言われて、皆さん全員でくじを引いた。私の割り箸に赤い印はない。
すると、田中さんが手を挙げた。
「はーい!私、王様!」
「ちっ、田中かよ」
「今舌打ちした奴、後でぶっ飛ばすから」
田中さんは顎に手を当てた。命令を考えてるんだろう。まぁ、田中さんは割と常識人だし、この中で少ない女性なので変な命令をしてくることは………。
「じゃあ……2番が3番の胸を揉む!」
「………は?」
誰かから冷たい声が漏れた。そうでしたね、彼女は腐った女子でしたね………。男率の高い中で男同士で胸を揉んでたら、笑いも起きるし面白いかもしれない………。
そう思って、念の為わたしの番号を確認した。
「………あっ」
さっ、3番………。マズい、どうしよう。普通に考えて揉ませるわけにはいかないし、私自身嫌だ。
「2番は?」
「佐藤」
「3番は?」
うっ、よりにもよって一番エッチな目をしてくる佐藤さん………。どうしたら良いのか分からず、頭の中で策を考えるも何も浮かばない。
その間に「3番誰?」「俺じゃない」みたいな確認作業が行われていた。で、消去法で3番の持ち主に辿り着いてしまった。
「っ、え、マジ?」
中田さんが声を漏らした直後、酔ってるのか佐藤さんが本気のガッツポーズをした。
「っしゃあああああ!まさかの完全勝利Sうううううう‼︎」
「はああああ⁉︎てめっ、ふざけんなそこ変われ!」
「絶対断る。いくら積まれても譲らない」
しかも、すでに盛り上がり始めていた。拒否したいけど、特に男子三人が大はしゃぎでビールを一気飲みまでし始めた。どうしよう、絶対に揉ませちゃダメですよね。ある意味、お酒を飲むよりもダメな事だ。何とかやめせないと……!
「あっ、あのっ、流石にそれは……!」
「おい、流石にダメだろそれは」
中田さんが間に入って下さった。流石に彼女がいるだけあって、私の事情とか考えてくれているみたいだ。
しかし、酔っ払った男3人は止まらない。
「はぁ?いやいや、これは罰ゲームだから」
「席は端の方だしバレないって」
「1秒くらいならなんとか行けるから」
「い、いやでもなぁ………!」
「加藤、中田抑えろ」
「ラジャ」
「あっ、おい!」
中田さんの説得も阻まれ、佐藤さんは私の方に体を向けた。どうしよう、逃げたいのに身体が動かない。ゲームの一環なら我慢するしかないのでしょうか?いや、そんなはずはない。
しかし、私の意思はまるで無視されて、佐藤さんの両手は私の体に近付いてきた。何とか後ずさるけど、壁に追い込まれてしまった。
「っ………!」
キュッと目を瞑った時だ。「お客様?」と声が聞こえた。全員そっちに目を向けると、千秋くんが驚くほど真顔で立っていた。
「当店でそのようなことはお控え下さい」
ゲッ、と目の前の佐藤さんは正気に戻ったのか、ハッとした顔になった。気が付けば、周りのお客さん(アイドル達)はみんなゴミを見る目で私達の座敷を見ていた。アイドルだと分からなくても、女性陣に見られていれば誰だって気まずくなるでしょう。
未だにバクバク言ってる心臓を何とか抑えようとしてると、千秋くんが私に手を差し出してきた。
「お客様、お連れ様がお見えのようですが」
「へっ………?」
お連れ様?そんなのいるはずがない、と頭の中では分かっていても、私の手は自然と動いた。気が付けば、勝手に千秋くんの手を取って席から立ち上がっていた。
「ち、ちょっと待てよ!」
当然、佐藤さん達は食いかかってきた。
「お連れ様って、俺達と一緒に飲んでるんだけど?」
「しかし、あちらの方が『鷺沢文香様に御用』と仰られていましたが」
そういう千秋くんの視線の先には、奏さんとありすちゃんが変装無しで、さらにプロデューサーさんまで立っていた。一発でアイドルだと気付いた佐藤さんは「どういうこと?」みたいな感じで私を見てきたが、何がどうなっているのか私も分からないので説明出来ない。
そんなのが顔に出ていたのか、奏さんとありすちゃん、そしてプロデューサーさんは微笑みながら言った。
「文香、仕事だって」
「車を表に止めておりますので急いで下さい」
「事務所まで行くぞー」
「へっ………?あ、そ、そうですか……?」
えっ、なんでプロデューサーが………?ほ、ほんとに仕事なのでしょうか………?
戸惑いながらも、本当に仕事だった時のために、とりあえず挨拶だけして三人についていった。
最後に千秋くんが演劇部の皆さんに頭を下げた。
「では、失礼いたしました」
そういうと、千秋くんは私達とは別れて店の奥に消えて行った。もしかして、助けられた………?いや、でも仕事だって言って、プロデューサーまで来てくれてるし………。
困惑しながら店を出ると、本当に目の前に事務所の車が止めてあった。
「文香、乗って」
プロデューサーさんに言われ、車に乗り込んだ。中には千秋くんがいた。って、千秋くん⁉︎なんでここに………!
未だ何も分からずに、とりあえず千秋くんの隣に座ると、プロデューサーさんは助手席に乗り込んだ。
「じゃ、後は任せたわね」
「分かってる。二人とも気をつけて帰れよ。店の中のみんなにも伝えてくれ」
「分かりました」
奏さん、プロデューサーさん、ありすちゃんは挨拶すると、車は動き始めた。
で、伸びをしながらプロデューサーさんはつぶやいた。
「いやー、危なかったな。文香がもう少しで傷物にされるところだった」
「本当ですよねー。いやー危なかった」
「黙れ、お前が言うな泥棒猫」
「怒らないで下さいよ………。346事務所バイト枠とハルヒのBlu-ray全部売り払ったんですから………」
「まぁ、なんとなく修学旅行の辺りから気付いてたんだけどな」
「気付いてたんですか⁉︎」
「ち、ちょっと!何が起きてるのか説明を下さい!」
二人が何か話し始めたので、とりあえず説明を求めた。いくらなんでもわけがわかりません。
すると、プロデューサーさんが語り始めた。
「バカ宮から連絡があったんだよ。文香が危ないかもしれないから手を貸してくれって。で、その件に関して二人が付き合ってること全部バラしてくれた」
「バカ宮言うな」
「えっ………?ば、バラしてんですか………?」
「そうだよ。どの道、文香がアイドル引退まで隠し切れるかは分からないし、バレるならバラした方が良いとも思ってたからな」
「な、何故そんなことを………?」
「文香を傷物にされるわけにはいかないからな。飲まされなくとも、胸とか揉まれたりするだけでもアレだから」
「そのために、わざわざ店で日雇いのバイトを始めてアイドルの貸し出しまで強請られたよ」
「……………」
千秋くんが………?
「いえ、でもなんでわざわざプロデューサーにバラす必要があったのですかっ?」
「店から連れ出した後、あいつらが付いてきたらどうすんだよ。事務所の車なら仕事の話も本当っぽくできるだろ」
「な、なるほど………?」
「だけど、流石に事務所の車はプロデューサーなしじゃ動かさないからな」
「わざわざそんなことのためにハルヒのBlu-rayも事務所の信頼も全部放り投げたんだよ、アホ宮は」
「アホ宮もやめろ」
わ、わざわざそんなことしてまで………。ありがたい、そして嬉しく思う反面、不安な事もあった。
「………それはつまり、私と千秋くんは別れなければならないのですか………?」
プロデューサーさんに関係がバレた、それはそういうことに繋がる。そうだとしたら、とても残念だ。しばらくはショックで眠れないかもしれない。
だが、プロデューサーさんは「いいや?」と首を横に振った。
「そもそも、うちに恋愛禁止とかそんなルール無いし」
「へっ………?」
「常務からもそんな話聞いたことないからな。いや、まぁそりゃ表でガッツリいちゃつかれるわけにはいかないけどな?」
「じ、じゃあ………」
「好きにいちゃついて良いぞ、まだまだ」
そう言われると共に、車は止まった。場所は私のマンションだった。
「じゃ、文香。また今度、仕事でな」
「あ、はい」
「それと鷹宮くん」
「なんですか?」
「くたばれリア充」
「あんた本当に大人か?」
そういうわけで、私と千秋くんを降ろして車は走り去った。さっきまでの騒がしさが嘘のように、今は静かさが残っていた。
私も千秋くんもボンヤリと立ち尽くしていたが、やがて私から千秋くんの手を取った。
「………行きましょうか」
「………んっ」
私の部屋に帰った。
無言で自動ドアをくぐり、エレベーターに乗って部屋の中に入った。
「………今日泊まっていきます?」
「泊まる」
「………では、お風呂沸かしますね」
「おう」
お風呂のスイッチを入れて、コートを脱いでハンガーに掛けた。リビングのソファーで、千秋くんはのんびりし始め、私はその隣に座った。
で、千秋くんの肩の上に頭を置いた。
「………千秋くん、ありがとうございます」
「いいよ、彼女を彼氏が守るのは当然だから」
「………でも、やり過ぎです。わざわざプロデューサーまで巻き込んで」
「それはマジで危ない橋を渡ったよ。別れさせられたら元も子もないからな。でも、文香の身の方が大事だったから」
「……もしかしたら別れなきゃいけないかもしれない、となった時、少し不安だったんですからね」
「悪かったよ。まぁ、そうなっても表面上だけ別れてたってだけだ。連絡先とか消されても、お互いメールアドレス暗記してるしな」
「………そうですね」
しかも、その結果プロデューサー公認でお付き合いが認められた。それはつまり、もうこれから先何をしても問題ないというわけだ。
そう思った直後、心臓がドクドクと鳴り響き始めた。そう、ナニをしても問題ない、ということだ。
「……………」
「……………」
お互いに無言のまま、私は身体ごと千秋くんに寄り掛かった。胸が肘に当たるように。
すると、千秋くんは私の肩を抱き寄せてくれた。お互いに顔を見合わせると、無言で顔を近づけてキスをした。
絡め合うように舌と舌が混ざり合い、長い時間を掛けてようやくキスを終えた。やがて、千秋くんから声をかけてきた。
「………文香、明日休み?」
「………はい」
「………じゃ、徹夜しても平気だな?」
「………はい」
「………やっぱ今日はやめとく?」
「………そこで引くのは情けないですよ」
「………だよね。じゃ、ベッド行こうか」
そう言って、風情もへったくれもなく、私達は寝室に向かった。けど、結局私達らしいのはこれなのかもしれない。
ラノベによって知り合い、お互いに本を薦め合い、自分で自分の気持ちに気づくことさえ出来ず、グダグダしたまま色んな人の力を借りながらお付き合いして来た。私達が手助けなしで、これから交際を進めることはできないかもしれない。
でも、それでも、私達は私達のペースで、私達の恋愛を堪能しようと思う。
本編終了です。途中で書いてた下書きが消えたり、頭の中で考えてた構想を忘れたりととてもグダグダになったかもしれませんが、一応プロデューサーへの隠し事も解消させてみました。ていうか最終回って難しいですね。
これらの反省はしぶりんに活かして頑張ろうと思います。読んでくれた方はありがとうございました。
ここから先、ふみふみとオリ主のグダグダ恋愛を番外編として流すかもしれないので、そっちも読んでくれると嬉しいです。
番外編でシリアスな事は100%やりません。