鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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番外編が本編になる可能性も捨てきれない。
自撮り(1)


 三学期になった。成人の日は無事に終わり、大体二週間ぶりの学校である。教室では、クラスの面子は「久しぶりー」「初詣行った?」「いや、行ってないわ」などと、新年トークが始まっていたが、まぁ俺には縁のない話である。友達なんてクラスには一人しかいないからな。

 その一人も、つい最近まで一緒に潜入捜査をしたりしていたので、久しぶりでも無ければ、初詣に行ったかくらいの雑談は済ませてある。pso2を介してなら毎日顔を合わせてるしね。

 そんなわけで、俺はさっさと席に着いてFGOを始めた。福袋で手に入れた沖田さんは俺の嫁である。

 

「鷹宮くん」

「?」

 

 声をかけられ、振り向くと三村さんが小さく手を振っていた。

 

「おはよ」

「どうも」

「何してるの?」

「FGO。そっちで流行ってない?」

 

 そっち、というのは事務所の事だ。それは見事に通じたようで三村さんはスマホをいじると、画面を見せて来た。

 

「これのこと?」

「やってるんだ、意外」

「うん。お気に入りはこの子」

 

 ………ジャックザリッパー……。あっ、そういう趣味なの?

 

「可愛いでしょ?」

 

 あ、解体フェチとかじゃないんだ。少しホッとした。流石に三村さんがそういう趣味だったら立ち直れないわ。

 

「おう、俺ジャックになら解体されても良いわ」

「そ、それはないかな………」

 

 ドン引きされてしまった。まぁ、今のは俺でも引くわ、うん。

 すると、教室の隅から「おーい」と手を振ってるのが見えた。勿論、俺にじゃなくて三村さんにだ。

 

「あ、みんな呼んでる。じゃあまたね、鷹宮くん」

「おー」

 

 携帯をしまって、友達の方に走っていった。さて、俺もFGOに戻りますか。

 

 ×××

 

 学校が終わり、帰宅の準備を始めた。今日は文香は仕事だし、一人で家でゲームかな。

 そう思って教室を出たとき、スマホが震えた。文香からL○NEだ。

 

 ふみふみ『奏さんと遅めのお昼です』

『ふみふみ が写真を送信しました。』

 

 写されてるのは文香と速水さんのツーショットだった。場所はどっかの公園のようで、文香は俺の作った弁当、速水さんはハンバーガーを持っている。速水さんの腕が伸びて来ているところを見ると、多分速水さんが撮ったのだろう。ていうか、文香って自撮り出来なさそうだし。

 にしても、昼飯遅くね?今日は随分と忙しかったみたいだな。家帰ったら晩飯作っといてあげよう。昼飯遅かったんだし、量は多くなくて良いだろう。

 

 セルスリット『遅くね?』

 ふみふみ『奏さんの撮影が長引いてしまいまして』

 セルスリット『じゃあ、弁当冷めちゃってたでしょ』

 

 一応、保温可能な弁当にしたんだけどな。銀色の奴。あんま意味なかったかもしれない。

 

 ふみふみ『いえ、美味しいですよ』

 ふみふみ『確かに冷めてしまってますが』

 セルスリット『じゃあ、今日の晩飯はあったかいもんにしてやる』

 ふみふみ『楽しみにしていますね』

 

 そこでL○NEを切った。向こうは友達と一緒だし、いつまでも俺とメールしてたら速水さんに気を使わせてしまうだろう。

 学校を出てスーパーでテキトーに晩飯を買いに行った。暖かいものか、簡単に鍋でも良いか。長ネギ、人参、肉、エノキ、エリンギ、豆腐……あとはなんだ?こんなもんか?こんなもんだな。

 スーパーで買い物を済ませた後は、文香の家に直行した。ポストの中のものを回収して机の上に置くと手洗いうがい。続いて買って来たものを冷蔵庫にしまい、干してある洗濯物と布団を回収して畳み、必要なものはアイロンを掛けてタンスやクローゼットにしまった。布団はベッドの上に戻した。

 床やソファーの上に散らばってるものを元の場所に戻したあと、簡単に掃除機をかけ、窓を開けて数分程換気。その間に風呂場の掃除をして湯炊きし、窓を閉めて暖房をつけた。

 時計を見ると、いつも文香が帰ってくる時間まで30分を切っていた。再び手洗いうがいをすると米を炊いて、野菜を刻み始めた。食戟のソーマを見てからアレより速く野菜を刻めるように練習しています。

 すると、ガチャっと扉の開く音がした。予想より帰ってくるのが早いな。

 

「……た、ただいまー」

「おかえり。お疲れ」

「はい……。もうクタクタです……」

 

 玄関まで出迎えると、文香だけでなく速水さんも一緒だった。

 

「あれ、速水さんじゃん。なんでいんの?」

「……私がお誘いしたんです。一緒にどうですか?って。ご迷惑でしたか?」

「いやいや、全然?」

「文香と二人きりの所を邪魔して悪かったわね」

「いや別に全然ガッカリしてねーから。駅まで送ろうか?」

「追い返す気満々じゃない」

「冗談だよ。コート寄越せ」

「へっ?」

「……はい、千秋くん」

 

 素直に手渡す文香と、何のつもり?みたいな感じで手渡して来る速水さん。それを一切気にせずにコートをハンガーに掛けた。

 文香と速水さんが手洗いうがいをしてるうちに、ハンガーを窓際のに干して料理を再開した。食材を刻んで鍋にぶち込んで火を通してる間に、おたまとお椀と箸をコタツの上に運びに行った。

 コタツでは、文香と速水さんがゲームを始めていた。やってるゲームはドラクエ。アイドルファンの皆さん、本当にすみませんでした。

 俺が食器をコタツの上に置いたのに気付くと、文香は画面を止めて立ち上がった。

 

「あ、手伝いますよ」

「そう?じゃあ飲み物と米頼むわ」

「じゃあ私も………」

「速水さんはいいよ。お客さんだし」

「……そうですね。奏さんは待ってて下さい」

「えっ、そ、そう………?」

「何飲む?ほろ○い?」

「も、もうっ。飲みませんし、そもそもありませんっ」

 

 拗ねたように文香は冷蔵庫の中の牛乳を3人分淹れて運んだ。今更だけど、鍋の時ってうどん入れるよな。白米いるのか?いや、まぁもう炊いじゃったし、ウチじゃ食べてたから平気だと思うけど。

 戻って来た文香が炊飯ジャーを開けてご飯を盛って、再びコタツに運んだ。よし、そろそろ鍋も良いかな。鍋つかみを装着し、コタツの上に着陸させた。

 

「……美味しそうですね………」

「まぁ、俺が作ったからな」

「……はいはい、そうですね」

 

 文香は呆れながら投げやりな返事を返すと、コントローラを置いた。で、3人で手を合わせた。

 

「「「いただきます」」」

 

 と、声を掛けて、俺は速水さんのお椀を取った。

 

「なんか食べる?一通りなんでも入ってるけど」

「え?あ、わ、悪いわね。任せるわ」

 

 との事で、とりあえず肉と野菜と豆腐をバランスよく入れて速水さんの前に置いた。

 

「ありがと」

「……私もお任せでお願いします」

 

 文香にお椀を手渡され、同じようによそって文香の前に置いた。最後に自分の分も入れて食べ始めた。

 

「どうする?速水さん今日泊まってく?」

「へっ?」

「あ、いや自分の家みたいに言っちゃったけど」

「いや、明日は学校だからいいわよ」

「じゃあ後で送ってくよ」

「わ、悪いわね本当に」

「いやいや、時間も時間だし」

「でも、文香は………」

「……いえ、私は気にしませんよ。後で構ってもらえれば十分ですから」

「構ってもらうのね………」

 

 そりゃな。俺の三倍くらい文香はカマちょだからな。まぁ、俺は俺で結構重いって言われるけど。

 

「文香、風呂沸いてるからその間に入っちゃって良いからね」

「……ありがとうございます。では、私は先にいただきますね」

 

 で、話を変えることにした。

 

「今日は仕事忙しかったのか?」

「……はい。写真撮影だったのですが、カメラマンの方が変な方でして………」

「わかるわ。特に私を見る目がヤバかったわね」

「え、そういうのって分かるもんなの?」

「分かるわよ。特に、胸と足への視線わね」

「ふーん……。………えっ、じゃあ文香もしかして会ったばかりの時とか俺の視線分かってた?」

「…………」

 

 すると、文香は目を逸らした。いや、わざとじゃないんだよ。夏場とか薄着になると特に吸い寄せられるんだよ。だから速水さん、そのゴミを見る目はやめてください。

 

「でっ、でもっ、ちゃんとその度に目を逸らしていただいたのも分かっていましたよ!」

「いや、フォローはいらねぇから………」

「そ、それより、その変なカメラマンの方のお陰でお昼も遅くなってしまったんですから」

 

 強引に話を逸らしてくれた。俺も乗るしかないなこれは。ていうか後で弁当箱もらわなきゃ。

 

「そういや、あの写真なんだったの?」

「……食事の時間が遅れてしまったと言いたかっただけです」

「ああ、いやそういうんじゃなくて。文香のスマホから来たのに速水さんが自撮りしてたから」

「………それは、その……」

「文香ってば、自撮りかなり下手なんだもの」

「っ、か、奏さんっ!」

「ほら見てこれ」

「ちょっ、す、スマホ返して下さいっ!」

 

 速水さんはソファーに置いてある文香のスマホを取ると、開いて俺に見せて来た。慌てて飛びかかる文香だったが、速水さんはその文香を抑え込んでいる。

 その間に、俺はのんびりと文香の写真の所を見始めた。……確かに文香の顔が見切れてたり、速水さんの顔が上半分写ってなかったりしてるな。

 

「文香……。仮にも女学生が自撮りも出来ないで………」

「う、うるさいです!ていうかスマホ返して下さい!」

「………あっ」

「な、なんですか………?」

「………キリトと、クラインが……」

「ーっ!」

 

 ………そういやそうだったな。文香、腐ってたな。文香を腐らせた奈緒は絶対に許さないリスト筆頭だ。

 直後、顔を真っ赤にした文香がコタツの中から飛び出して来た。

 

「うおっ⁉︎」

「かっ、返しなさい!」

 

 コタツの中から俺の真上に乗っかって来た。俺の上に体を重ね、胸が俺の胸に当たってるのも気にせずに俺の手からスマホを奪った。

 

「ちょっと、いちゃついてないで早く食べなさいよ」

「お前が言うな!誰の所為だ誰の⁉︎」

 

 スマホを奪った文香は、慌てて自分の座っていた場所に戻った。その羞恥は大胆な事をしてしまった事からなのか、それともスマホを見られたことによるものなのかは知らないが、間違いなく怒りが混ざってるのはよく分かった。

 これは後で拗ねそうだなぁ、と思ってると、速水さんが一人落ち着きながら半ば呆れた様子で言った。

 

「大体、文香の女子力の低下は鷹宮くんの所為でもあるのよ」

「え、俺?」

 

 なんでだよ。関係無くね?

 

「今日、ここに来てから思ったけど、あんた達普通逆でしょ」

「何が?」

「まぁ、そういう家庭は少なくないとも思うけど……。でも多数ではないわね」

「か、家庭って………」

 

 文香、一々照れるな、可愛いから。

 

「ぶっちゃけたことを言うと、まるで鷹宮くんが主夫で文香が養ってるみたいだったわよ」

「「へっ?」」

「だってそうじゃない。文香が仕事を終えて帰って来たら、家事を済ませて鷹宮くんが出迎えてるんだもの。料理やお風呂の準備、あと多分掃除も終えて。しかも学校終わった放課後の短い時間で。完全に主婦スキルレベルマックスじゃない」

「なにそれちょっとうれしい」

「喜ばないの」

 

 だよね知ってた。弁当まで俺が作ってたし。

 ふと文香の方を見ると、俺以上に問題を抱えているような顔をしてブツブツと何かを呟いていた。

 

「………確かにそうかも……このままでは専業主夫家庭に……?いやでも私は今のままで十分幸せな……しかし、女性としてそれは流石に……でもアイドルはやめたくありませんし………」

 

 おおう、鷺沢さんったら深刻ぅー。まぁ、何にせよ俺が学生の間は専業主夫をしてるしかないんだし、焦るような事ではない。

 それより、焦らなきゃならないこともあるし。

 

「いや、でもそれと文香の女子力の低下は関係ないでしょ。こう言っちゃなんだけど、文香って元々女子力低いからね?」

 

 化粧も出来ない、服も拘りない。家事は一通り出来るのだけが唯一の女子力かな。まぁ、俺と付き合ってからはそれなりにオシャレはするようになってたけど。

 

「いやいや、だからそれがおかしいんだってば。普通ね、彼氏が出来たらそれなりに女子力は上がるものよ?自撮りにしても、二人で出かけた時の思い出に写真なんか撮ったりするでしょ普通」

「そう言われてもなぁ……。そもそも二人で出かけることが少ないし」

「………そうですね。出掛けたら宇宙規模になりますから」

「は?あなた達普段どこにデートとか行くのよ」

「惑星ナベリウス」

「惑星アムドゥスキア」

「惑星リリーパ」

「惑星ウォパル」

「待って、次にハルコタンって言ったら叩くから」

「東京」

「ラスベガス」

 

 直後、文香に手刀、俺に拳が飛んで来た。

 

「………す、すみません……」

「なんか俺の方本気じゃなかったか………?」

 

 解せぬ。

 

「でも、真面目な話すると少し前まで俺と文香の関係は隠さなきゃいけないと思ってたから、普通に出掛けたいのは山々でも仕方なかったんだよ」

「まぁ、そう言われるとそうなのかもしれないけど。お出かけ解禁になったんだから、今度の土日に出かけて来たら?」

 

 言われて、俺と文香は顔を見合わせた。そういえば、まともなデートなんて初詣以来か?アレも用終わったらすぐ帰ってゲームしてたからな。

 ………アレ、なんだろう。急に恥ずかしくなって来たぞ。もう性行為までしてるのに。文香も同じようで、頬を赤らめて目をそらした。そんな僕達に呆れたように速水さんは言った。

 

「あんた達ねぇ……何を今更恥ずかしがってるのよ」

「「すみません………」」

 

 だって、あんまり慣れないことだし。

 

「まぁ、とにかく今度普通にデートでも行って来なさい」

 

 結論を出すように速水さんに言われた。そんなわけで、今更になって普通のデートである。

 

 


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